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エナジー供給のリスク低減を図る米空軍が大気中のCO2変換による燃料確保技術に注目している。実現すれば効果は大きい。民生需要への対応も可能か。

 

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USAF

 

空軍でのジェット燃料の年間購入は数十億ガロン規模で数十億ドルを支出している。緊急展開となれば燃料消費量がさらに増える。

 

その空軍から大気から燃料を合成する化学工程開発で大きな進展が生まれたとの発表が出た。実現すれば補給活動の負担が減るとともに環境負荷も削減される。

 

空軍作戦エナジー局による本日の発表ではエナジー企業Twelveが今回実用に耐える燃料作成に成功したとあり、同燃料E-Jetを二酸化炭素から8月に合成したという。空軍は同社の進展に注目し、同時に水及び差異性エナジーも使うが、実戦部隊が事実上どこでも合成燃料を入手できる可能性に期待している。

 

「歴史を見れば、補給線が真っ先に敵に狙われている」と空軍次官補ロベルト・ゲレロ(エナジー運用担当)が解説している。「わが方に匹敵する実力を有する敵側の脅威が高まる中で、燃料補給活動への依存度を減らせばリスクも下がり、戦闘に勝利できる」

 

「炭素転換技術で航空燃料を原油サプライチェーンから解放できる」とTwelve共同創設者にしてCEOのニコラス・フランダースも述べている。「空軍は当社による航空燃料の新しい供給源確保を強く支援してくれた」

 

Twelve社の炭素転換工程の裏付けとなる技術は実は前からあるものだ。1920年代にドイツのフランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュが現在フィッシャー・トロプシュ(FT)合成法として知られる技術を発明した。この工程はその後改良を受け現在も使用されており、米軍の燃料消費削減の一助になっている。

 

F-T法による合成燃料作成の行程概念図

National Energy Technology Laboratory

 

「フィッシャー・トロプシュ方式による合成燃料は特定機種向けに認証されている。まず民間で採用され、その後米軍が採用した」と空軍は説明している。「最大50/50の混合比率でFT合成燃料を石油系燃料に混ぜている」

 

ただし、「合成燃料の大部分は一酸化炭素とシンガスと呼ばれる水素の混合でバイオマス、石炭、天然ガスの燃焼で生成されている」との空軍説明で化石燃料が依然として必要だとわかる。「Twelve技術では化石燃料が不要となり、シンガスは大気から採取したCO2をリサイクルして確保する。その際に水と再生可能エナジーでCO2を転換する」

 

カーボンニュートラルの合成燃料が簡単に入手できれば費用対効果の面で大きな効果が生まれるだけでなく環境面でも朗報となる。

 

2019年にDefense Newsの論説でゲレロ次官補は空軍の年間ソーティ回数は80万回程度で燃料消費量は20億ガロンに達すると述べていた。ただし、年間消費量はその時点の作戦行動により大きく変動する。

 

ただし、いずれにせよ数十億ドル相当の出費となる点は同じだ。2022年度予算要求で空軍は燃料購入費として82億ドルを計上していた。空軍が消費する20億ガロンでガロン当たり5セントを節約するだけで1億ドルの節約がすぐ生まれる。

 

効果は燃料購入費用のみにとどまらない。空軍は戦闘地帯への燃料補給を必要としているが、燃料搬送に大きなリスクが潜んでいる。

 

「空軍はトラック、航空機、船舶で燃料を現地に補給している。だが作戦地の多くは通常の輸送手段では簡単に到達できず、戦闘中ではなおさらだ」「アフガニスタンで戦闘が激化した中で燃料・水補給部隊が特に狙われ、死傷者の3割を占めていた」(空軍説明)

 

Twelveの炭素転換技術に関連するインフラは合成燃料の大量生産が可能でかつ現地展開可能な内容だと空軍は説明している。そうなると燃料の大量輸送が不要となり、補給網の運用経費も削減可能となる。

 

Twelveの炭素転換技術が規模拡大可能であれば、空軍の作戦運用を一変させそうだ。空軍以外でも同技術への関心が示されるはずだ。TwelveではE-jet燃料の民生需要にも期待している。

 

米軍全体の燃料需要は増える一方で、戦線近くでの運用に危険をはらんでいる。補給線へのリスクは大国間戦闘で高くなる。空軍もこのリスクを認識しており、現地での発電機能の実現を模索しており、手段としては水素燃料電池から小型原子炉、さらにマイクロ波による遠距離電力搬送も検討に上っている。

 

空軍は炭素転換技術には解決すべき課題があることを認めている。中でも現地で燃料製造に必要な電力の確保が最大の課題だ。Twelveの製造工程では水供給も必要条件となり、将来の戦場での水の確保も課題となる。

 

Twelveでは水も空気から回収できると主張し、水だけを別個に運搬する必要はないとする。空気からの水回収は飲用にも使え、遠隔地や未整備地の作戦でも有益だ。ただし、大気中の水分量が少ない地点では環境面でも課題になる。

 

空軍は化石燃料依存を減らしたいとするが、Twelveの製造工程で生まれるのは炭化水素燃料であることに変わりない。ただし同社は環境負荷の低い燃料だと主張している。

 

「天候条件の悪化から過酷な気象現象が生まれており、インフラ施設やサプライチェーン以外に、作戦運用や即応体制にも影響が出ている。また世界規模で災害や不安定さが増えている」と国防長官ロイド・オースティンが地球大の気候変動に関する声明文を発表している。「気候変動から戦略面でも影響が生まれている。戦略環境や物理的な変化が発生する中でも戦闘継続できる側が勝利を収める日がやってくる」

 

数億ドル単位での経費節減、補給面の心配を緩和する可能性を秘める今回の技術を空軍が実証するのは当然といえる。プロジェクトの第一段階は12月に完了し、その後、規模を拡大し実証プラントで燃料合成を進める。

 

Twelveと空軍が同プロジェクトをどこに進めるのかに大きな関心が寄せられている。■

 

The Air Force Has A Plan To Make Jet Fuel Out Of Thin Air

A new carbon transformation process could be game-changing for the Air Force, which spends billions annually to buy fuel and ship it around the world.

BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 23, 2021


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