ロイターがティム・ケリーおよびジュミン・パークの解説を記事にしており、それによると日本で政権を握る自民党が防衛費を現行のGDP1%相当から2%に増額する案を練っているとある。実現すれば、1,000億ドル相当になる。第二次大戦後の日本は非公式に防衛費上限を設けることで日本が再び軍事大国になるとの周辺国の懸念をおさえてきた。
戦後直後には上限に意味があった。まだ戦時中の記憶が生々しかったからだ。だが、今日の日本は実績で悪名を償った。さらに中国の台頭で領土保全や天然資源の帰属が危うくなっており、中国は既存体制の変更を狙いながら、日本の軍事力整備をけん制している。
そこで自民党内に大胆な動きが出てきたのは、従来の平和主義へ大きな抵抗となる。日本は海洋大国となる素質があり、自民党は公約としてこの実現を主張している。また自衛隊(JSDF)強化への世論支持を図っている。
米国との長きにわたる安全保障面の同盟関係のバランスを再調整すれば同盟各国や域内に健全な結果を生む。日本は中国と力のバランスも図ろうとするだろう。
防衛費1,000億ドルの日本軍事力はどんな姿になるか
自民党構想が現実となれば日本は巨額予算をどう使うだろうか。まず、既存部隊向けに調達装備品を追加するはずで、ステルス戦闘機や水上艦艇が対象だ。筆者としては日本に戦略を意識した動きを期待したい。政界トップはまず域内や世界で果たすべき日本の役割を考え、その実現につながる戦力整備を目指すべきだ。
その結果生まれる戦力は現行の自衛隊を拡大した姿とは大きく異なるはずだ。まず、日本や同盟国の戦略に呼応した形で領土、水路、空域へのアクセスを守る、あるいは否定する戦力となる。新編成の自衛隊はこの任務をどう実現するだろうか。以下の原則を守る必要がある。
1,000億ドル予算の自衛隊に必要な原則4点とは
まず、日本部隊は機動性、適応力を発揮し、島しょ間を移動したり、尖閣諸島・琉球諸島のような地点を防備する能力が求められる。自衛隊の人員・装備品は問題地点へ急派され、中国の攻撃に耐えこれを死守する。軽武装部隊輸送手段が必要だ。戦術防衛策が最強の戦闘形態になる。
日本の防衛方針では島しょ部を侵攻勢力に占拠されたのちに奪回するシナリオが主流だ。敗北主義ではいけない。日本は地理的優位性を生かし、領土を保持する部隊を配備すべきだ。
二番目に、自衛隊増強は米海軍が「分散型」部隊と呼ぶ流れに呼応すべきだ。部隊を広範な地域に分散配備することを意味する。分散作戦の裏にある考えは単刀直入だ。中国の航空兵力やミサイル部隊は本国から第一列島線まで十分に到達できる。人民解放軍は緒戦で戦闘効果を上げるだろう。これに対し同盟国側には装備品の数が足りず、しかも高価な装備となっている。ひとつでも喪失すれば、総合戦力が失われる。
だが、そもそも大部隊を細かく小規模に再編成すれば、装備品の集中度を減らせる。艦艇一隻や航空機一機を喪失しても全体戦力に影響は少ない。これが現在の作戦戦略構想だ。日本も小さく、安く、さらに適応力豊かに考えていく必要がある。
三番目に、日本の戦略立案部門は日本周辺の水域・空域のアクセス制限を基本に考えるべきだ。自衛隊はPLAの封じ込めを実施する一助となり、中国の侵攻部隊を第一列島線に止めることで、同盟国側の作戦実施を必要以上に複雑にするのを避けられる。そうなると、第一列島線で敵の航行・飛行への攻撃手段がカギを握る。島しょ上で分散する部隊の防衛力が優れれば良い結果を生む。有人無人の潜水艦、航空機、哨戒艇がその他合同部隊と連携し効果を発揮し、島しょ部に残る海兵隊部隊がPLAにミサイルを発射する。各部隊はこうして西太平洋や日本本土へのアクセスを阻止できる。再び、小さく考えるべきだ。
そして四番目に、予算が潤沢となっても自衛隊には回復力が必要だ。分散作戦がここで威力を発揮する。また基地のインフラも列島線上で大きく変化する。PLAロケット軍や空軍部隊が横須賀、佐世保、嘉手納といった主要基地を攻撃するのが開戦直後の状況となる。同盟軍は基地の防御力を引き上げつつ、機能を分散させる対策も迫られる。基地機能の一部を地下化するとか、あるいは対空対ミサイル防衛体制を強化する必要もある。第二陣となる基地群の整備も必要だ。被害が深刻な場合に前線基地の装備、機能を一時的に展開する先とする。
そうなると日本の防衛費増大は必ずしも派手さをかもしださなくてもよいことになる。航空基地や建屋のひとつひとつもイージス駆逐艦果ては空母と同様に重要となる。日本政府は国力の象徴を目立たせるだけの装備品調達の道は選ぶべきではない。
第一列島線へのアクセスを制することで日本の国土は防衛でき、中国に抑止効果をあたえつつ、必要なら中国を敗退させる。日本政府はノーススター戦略、つまり目指すべき姿を明確にしこの実現を目指しつつ、適正な予算手当と調達を進めるべきだ。
急ぐべきだ。■
DR. JAMES HOLMES: THE NAVAL DIPLOMAT
What Should A $100 Billion Japanese Military Look Like?
James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and a Nonresident Fellow at the Brute Krulak Center for Innovation & Future Warfighting, Marine Corps University. The views voiced here are his alone.
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