2017年11月1日水曜日

戦闘機パイロット養成の民営化に向かう米空軍の事情


なるほど米空軍も背に腹は代えられないほど追い詰められてきたわけですか。今回の民間委託対象は高度空戦訓練だけでないようですが、どうせやるならもっと大幅なアウトソーシングはできないのですかね。第四世代機の中古なら日本のF-4という手もあるでしょう。国有財産の処分手続きがこの度変わったのでまんざら可能性がないわけでもないでしょう。民間業者の狙いは中小国の訓練業務の一括業務受注ではないでしょうか。

 

The Air Force is getting ready to privatize a big part of its training program

米空軍は訓練民営化にむけ準備中
pilots flight line air militaryUS Air Force
Foreign PolicyPaul McLeary, Foreign Policy
  1. 米空軍エリック・「ドック」・シュルツ中佐がネヴァダ州での訓練飛行中に9月初め死亡したが、米空軍が事故の事実を認めたのは三日後だった。空軍は中佐の乗機機種で論評を拒んだ。
  2. 空軍が新型極秘機材の存在を明らかにしたくないのではとの観測が生まれた。F-35墜落の事実を軍が隠そうとしているとの観測もあったがこれは軍が後日否定している。
  3. その後、シュルツが外国製機材の飛行評価にあたる空軍部隊に所属しロシア製Su-27で空戦訓練中に死んだとの報道が出ると観測が一気に静まった。
  4. 航空機愛好家がSu-27がネリス空軍基地上空を飛行する様子をとらえることが以前からあり、同基地にロシア戦術を採用した訓練飛行隊があることが知られている。ただし冷戦中と比較すると今のロシア機材の利用は控えめなものに過ぎない。
  5. 1970年代80年代にかけ米空軍は極秘飛行隊通称レッドイーグルズでソ連製機材を飛ばしパイロットに敵対戦に備えた訓練を行っていた。だが同隊は1990年解隊され残存機はテスト飛行隊に移管された。シュルツ中佐が所属したのがはその一つだった。
  6. レッドイーグルズは残存しないが、海外機材をアグレッサー部隊で運用するニーズは残ったままだ。近年のロシア機材の性能向上やウクライナ侵攻(2014年)を受けてニーズはソ連解体以後最高水準になっている。
  7. その結果、米空軍航空戦闘軍団(ACC)は民間企業所有機材を訓練に利用する「敵部隊」“adversary air”の活用を検討している。
  8. 空軍から正式「事前要請書」が今週発出され、業界に正式な競争提案を求めようとしている。契約規模は数十億ドル相当とうまみのある内容ですでに海外機材の買い付けに動く数社があらわれた。
  9. 米空軍の基本業務の一部を民間企業に委託することになり過去からの決別を意味する。
  10. ACC司令官ジェイムズ・ホームズ大将Gen. James Holmesは今回の外部委託の主な理由にパイロット不足の悪化を挙げている。
  11. ISIS相手の航空戦が続く中でパイロットを通常任務から外すのはアフガニスタン情勢の悪化、イラン・北朝鮮との緊張増大の中では考えにくい。「実戦戦闘機部隊のほうがアグレッサー飛行隊より重要だ」とホームズは述べ、20機から24機とパイロットがアグレッサーに取られることに言及している。
AP_041118014814旧ソ連国旗を掲げるのは第64アグレッサー飛行隊のF-16ファイティングファルコンだ。ネリス空軍基地にて。 November 16, 2004. Associated Press
  1. アグレッサー飛行隊は冷戦の産物で国防総省はコンスタントペッグの名称でソ連機材をひそかに集めていた。レッドイーグルズはここから生まれ、MiG-17、MiG-21、MiG-23を運用した。解隊後も空軍はソ連機材をテスト評価用に調達していた。
  2. 各種筋によれば空軍にはMiG-29数機がモルドバ経由で在籍しており、Su-27二機もあり、シュルツ中佐の命を奪ったのがこの一機と見られる。
  3. ロシア機材の取得はソ連崩壊後に容易になったと内部事情筋が述べるが、機材を飛行可能に維持するのは大変だという。スペアパーツ取得が困難だった。
  4. 非ロシア製機材にロシア機のふりをさせることで空軍はこの問題に対処中だ。「政治的判断でソ連製以外の機材に向かっているのでは」とロシア機を取り扱う民間業者のオーナーが述べている。空軍は「大企業により保守点検され運用可能になっている」のが望ましいと考えているという。
  5. だが機体価格だけが契約を推進するのはではない。軍用パイロットが手に入るかも要素だ。米空軍のパイロットで訓練ミッションに回せる余裕が急速に縮まっている。
  6. パイロット不足1,500名になっており、訓練専門飛行隊を維持する余裕がなくなっている。今後のパイロットには新機種を相手に模擬空戦する余裕が減っていることを意味する。
  7. 可能な限り多数のパイロットを飛行させるため契約業者に「最短時間で準備させ費用対効果が最も優れる型」を期待するとACCで航空作戦顧問を務めるスティーブン・ブラネンは述べる。その試算では契約は年間5億ドル相当になる。「あくまでも戦闘機パイロット不足による措置」だという。
  8. 数十億ドル規模の商機を狙い二社が外国機材調達して受注を狙うほか数社も参画を狙っている。
  9. 食指を動かす対象は非ロシア機だけだ。ヴァージニア州に本拠をおく航空戦術優位性企業Airborne Tactical Advantage Company (ATAC) はフランスでミラージュ戦闘機63機購入しており、ドラケンインターナショナルDraken Internationalはスペインから用途廃止ミラージュ20機を導入した。
  10. 民間企業に旧式機でロシアや中国の第五世代機を真似させるのは大胆だがリスクもある。とはいえ空軍が必要と認識しているのはパイロット不足とF-35の大量購入や新型ステルス爆撃機の導入で予算も不足気味だからだ。
  11. 空軍は年間6万時間の訓練のうち約3.7万時間を民間委託に回す案を検討中で、民間企業には150機ないし200機が必要との試算がある。一社で賄いきれない規模で、受注は数社でわけあうかたちになりそうだ。前述のATACとドラケンが業界最大手だ。
  12. ドラケンは80機ほどを所有しており、ネリス空軍基地で運用中だ。一方、業界最大手のATACは90機を持ち、海軍の空母打撃群が長期間配置に向かう前に飛行訓練の相手をしている。
  13. だが各社保有機では最新の中国やロシア機の性能に匹敵しない。アグレッサー飛行隊はF-16やF-15を飛ばしている。
  14. 業者は第二世代、第三世代機を飛ばすことが多いが、軍は第四世代機を望んでおり、実戦の雰囲気をパイロットに味合わせたいとする。ミラージュは不合格だがエイビオニクス改良で第四世代機を真似させようという動きがある。
  15. ATACのCEOジェフリー・パーカーJeffrey ParkerがForeign Policyに「フランス空軍のほぼ全機」のミラージュを予備部品6百万点ともに購入し、空軍海軍の契約を見越し機体改修中と述べており、米国以外にも民間企業による訓練実施のニーズに期待している。
  16. パーカー他は海軍が第四世代練習機を求める要求を急ぎ出してきたのは空軍要求内容が漏れたためと指摘している。空軍が海軍と限られた第四世代機材の争奪戦の様相を示す中でATACやドラケンがフランス、スペインから機材手当てしたことが一層の供給不足につながっている。
  17. だが業界ウォッチャーは空軍の要求内容に業界が答えられるのは数年先と見ており、空軍は当面は妥協を迫られるはずと見ている。「需要が供給を上回っている」とパーカーは言い「中古軍用機の引き合いが増えている」のは新型高性能機材の単価が中小国の負担可能範囲を超えているからだ。
  18. 価格以外にも旧式機と契約パイロットで高性能機の真似ができるのか、さらに高度訓練を受けた空軍アグレッサー部隊の代わりを務められるのかという疑問も残る。「実際の戦闘同様に訓練が必要だ」と元戦闘機パイロットのローレンス・スタツリエム米空軍退役少将 Maj. Gen. Lawrence Stutzriemは述べている。
  19. スタッツリエムは冷戦真っ盛りの時期にロシア戦術を採用した空軍の同僚相手に長年飛んでおり、今何が足りないかを認識している。当時は「最高のパイロットにアグレッサーの任務が与えられたものだ」と言い、ロシアの教義や戦術を懸命に勉強していたことで空軍は「通常より優れたパイロットだと認定していた」という。
  20. 航空戦闘軍団司令のホームズ大将は民間委託企業を募るのは望ましいことではないが予算人員両面で不足に直面する空軍に実施可能な唯一の方策だという。「臨時措置で様子を見たい」とし、「いつかは空軍による実施に戻す」と述べた。
  21. 米パイロットは同等の実力がある敵を想定した訓練を受けてきたが、受託業者が旧式機を飛ばせば「現在以下の水準になるのは明らか」とも述べいる。
  22. だが現時点では予算もパイロットも十分でなく実施案のめどもつかない。少なくともここ数年は空軍内部で実施していた中核業務は受託業者にまかせるしかない。「内部実施に戻すまで数年かかるだろう」とホームズも認めている。■
* Sharon Weinberger contributed reporting to this article.
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★★日本の「空母」の次に続く艦は?



こうしてみると技術実用化に段階を追って対応する日本の特徴が見えますね。中国はこの観点が欠落しており、技術は買えばよい、というもので例がスクラップとして購入してきたロシア空母を堂々と就役させたことであす。どちらがいいのかは実戦にならずとも今後の供用で明らかになるでしょう。では日本が空母を建造する動きに出るのかが各国の注目でしょうが当面はなさそうですが、現在の四隻も次に備えた動きととらえればその先はわかりますね。

Japan's Non-Aircraft Carrier Is Also a Secret Weapon

日本の「空母」は秘密兵器だ
October 31, 2017

  1. 日本が運用中の艦船は注目に値する。日本は再び全通型飛行甲板付き航空母艦を運用するに至った。ただし海軍や航空母艦の名称は使っていない。
  2. 「ヘリコプター護衛艦」四隻が就航中で各艦は空母と外観こそ似ているが、政治面及び技術的な観点で空母に分類されず今後もその予定はない。だが日本は必要があれば本格空母運用に走れる。
  3. 第二位大戦後の日本は戦争を国家政策手段として放棄した。政府は自衛隊を発足させ厳しく防衛任務に限定してきた。名前こそ海上自衛隊(MSDF)だが実質は海軍とはいえ制約条件が付く。政府は攻撃的な装備の保有を禁じ空母もここに含まれる。
  4. にもかかわらずMSDFは航空戦力の復活を長年目指してきた。MSDFの主任務は海上交通路防衛でこのために英海軍インヴィンシブル級軽空母含む空母型艦が望ましいとされた。この実現にむけ海上自衛隊は長期間戦略を立てた。
  5. 1960年代末に二隻のヘリコプター護衛艦がはるな級として建造された。はるな、ひえいの二隻は後部をすべてヘリコプター甲板と格納庫にあてた。対潜戦の海上基地とするのが目的とされた。その後同様仕様のしらね級二隻が続いた。
  6. はるな・しらね級各艦は空母とかけ離れた存在だったが海軍航空力の「海上試験台」となり、その後おおすみ級戦車揚陸艦が生まれた。日本国内島しょ部への部隊輸送の想定だったが、全通型飛行甲板をそなえていた。ただし格納庫はないが、外観は空母に酷似していた。
  7. 2009年は大きな一歩となり、JSひゅうがが誕生した。ひゅうが、いせの二艦は全長676フィート満排水量19,500トンでHMSインビンシブルより大きい。対潜ヘリ4機を通常搭載し、最大11機まで運用可能だ。2013年にはさらに大型のJSいずもが進水。全長は816フィート、排水量27千トンのいずもとかがは通常9機のヘリコプターを搭載し、最大14機を運用できる。各艦を護衛艦隊の中枢とし船団護衛をする構想だ。
  8. 各艦は全通型甲板、航空機用昇降機、アイランド型艦橋による航空運用、たっぷりとした格納庫があるが、固定翼機運用はできない。理論的にはF-35BV/STOL機が運用できるが、スキージャンプ式発艦装備はなく、後付けすれば工期一年以上の大改装になる。昇降機は二個ずつ装備するが、F-35BやMV-22オスプレイに使える大型はうち一基のみだ。
  9. 両級とも航空燃料や弾薬を搭載するが固定翼機を収納すればこれだけでは足りない。その場合格納庫の一部を犠牲にすることになる。各艦を空母に転用するのは難易度高く、時間を要する作業で費用もかさむ。
  10. だがこの先に何が来るのか。日本の航空運用艦は大型化高性能化を続けており、いずもは対潜艦としては大きすぎる。日本は知見を得ながら大型艦を建造してきたのでこの先に本格的空母建造に向かうのか。
  11. 日本が固定翼機運用空母を建造するとしたら用途はなんだろうか。一番可能性があるのが琉球、尖閣諸島への航空力追加投入だ。現在は沖縄本島の自衛隊基地・民間空港兼用の一か所が航空兵力の唯一の本拠地だ。ただし中国本土に近いことから空母投入するのであれば数隻の航空力がないと人民解放軍空軍等の圧倒的な航空兵力に対抗できない。.
  12. だが日本が真の空母保有に耐えられるだろうか。日本の政府部門負債は経済規模全体の二倍にまで膨れ上がっている。防衛予算はGDP1パーセント上限としているがGDP自体の成長が低く予算規模も増えにくい。それでも安全保障上の深刻な危機が発生すれば空母の必要が痛感されるはずだ。対中関係が悪化し続ければ日本政府は赤字でも空母建造に踏み切るだろう。
  13. 日本は曲がり角に来ていると言える。空母建造の技術力はあるし、米国のおかげで世界最高性能の空母技術も手に入る。また米海軍の知見を得て空母部隊の再編も可能だ。一方で整備に必要な戦略的な推進要因がない。すべては中国次第だろう。■
Kyle Mizokami is a defense and national security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
This first appeared last September.
Image Credit: Wikipedia


初飛行から20年、ラプターは今も世界最強の戦闘機の座を守る



なるほどハイスペックで設計要求を出し、丹念に作り上げたラプターはスーパーホーネットなどとは別の次元の機体強度がありそうですね。しかし200機弱しかない「虎の子」のラプターを2060年代まで使い続けることが本当に賢い選択なのかわかりません。戦闘機の概念自体が変われば、無人機がはるかに高機動飛行を自律的に行えるようになれば、...現在の延長線に未来がないのは確かなようです。そう思えば欲しくても変えなかった日本も我慢できるのではないでしょうか。


20 Years of the Mighty F-22 Raptor Stealth Fighter

初飛行から20年たったF-22ラプター
October 30, 2017


  1. 米空軍はロッキード・マーティンF-22Aラプターの初飛行20周年を今月初めに祝った。
  2. 式典はエドワーズ空軍基地で10月19日に開かれた。ラプターの初飛行は1997年9月7日でジョージア州マリエッタのドビンズ空軍基地でロッキード・マーティンの主任テストパイロット、ポール・メッツがテイルナンバーAF91-401の技術製造開発一号機を飛ばした。
  3. メッツの初飛行は一時間弱で高度20千フィート未満を守った。これが同機の長期間にわたる、時には困難に直面したフライトテストのはじまりとなった。最終的に当時の航空戦闘軍団(ACC)司令官ロナルド・キーズ大将がラプターの初期作戦能力獲得を2005年12月15日に宣言した。
  4. 10年以上前に実戦化したラプターは今日でも世界最強の制空戦闘機の地位を守っている。エドワーズAFBではF-22合同テスト部隊が2060年以降の供用を視野に改修策テストを続けている。
  5. 空軍はラプターの機体構造は強靭で構造強化策なしで飛行可能とみている。そこまで強固な機体になったのは空軍の要求水準が高かったためだ。設計上は8,000時間が上限のラプターだがローエンドなら12千時間まで改修不要で、ハイエンドでは15千時間まで飛行可能とみられる。
  6. 「80年代90年代初期当時にF-22を設計した当時はデザインミッション10通りを想定して機体構造を作成しています」とACCのトム・マキンタイヤがThe National Interestに今年初めに述べている。「EMD(技術製造開発)段階でフルスケールテストを各ミッションに対し行っています。実際の運用ではそこまで過酷な飛行はしていませんので構造強化策なくても2060年ごろまでは十分飛行できるはずです」
  7. ラプターは新型エイビオニクスやソフトウェアの改修を受けているが、コンピューター関係は大規模改修が必要となる。「2025年から2030年ごろに機内システム一部でそのまま使用が可能か真剣に検討する必要が生まれるでしょう。すでに検討の初期段階に入っています」(マキンタイヤ)
  8. だが2030年までにラプターは世界最高の戦闘機の座をおりることになりそうだ。潜在的敵国のロシアや中国が追いつこうとラプター対抗策の準備に入っている。
  9. ではラプターが第六世代侵攻型制空戦闘機(PCA)と組んで運用するようになったらどうなるか。今日の第四世代と第五世代ペアの様相とな時になるのではないか。ラプターがF-15Cの役となりPCAが上位となる。「PCAの供用が始まれば、F-22やF-35と共同運用されるはずです。2030年、2040年あるいは2050年になればF-22は現在の第四世代戦闘機の立場になるでしょう」(マキンタイヤ)
  10. だがPCAが実戦配備されるまでラプターは世界最強戦闘機として孤高な存在であり続けるだろう。■
Dave Majumdar is the defense editor for The National Interest. You can follow him on Twitter: @davemajumdar.


2017年10月31日火曜日

マッハ3無人スパイ機D-21の母機を務めたB-52



B-52 At Edwards AFB Sports Nose Art That Commemorates Its Past As “Mothership” In Top Secret D-21 Drone Test Program

エドワーズAFBのB-52についたノーズアートでトップシークレットD-21無人機テスト事業の母機であった履歴を誇示
Oct 27 2017

 

  1. 第419フライトテスト飛行隊のB-52にこのたび新しいノーズアートが付き、同機がトップシークレットのテスト事業に関与してきたことを表している。
  2. エドワーズ空軍基地で活動する第412試験飛行隊のB-52 #60-0036 の新しいノーズアートは有名な航空画家マイク・マチャットによるもので同機がトップシークレットの「タグボード」に50年前に関係してきたことを示している。
  3. ソ連上空の有人機飛行はフランシス・ゲイリー・パウワーズのU-2が撃墜された1960年5月1日の事件を受けて、ドワイト・アイゼンハウアー大統領が全面禁止した。当時は衛星による情報収集がまだ実用化されておらず中央情報局は無人機で衛星実用化までの空白を埋める決定をした。
  4. タグボードではD-21ラムジェット推進偵察無人機を使い、マッハ3飛行を目指した。D-21は空中発射方式で母機が必要だった。
  5. 当初はM-21(SR-71改装機)をD-21無人機を機体上部に乗せて使われた。スパイ飛行の後無人機は機体ハッチを開け写真装備一式を空中で(パラシュートで減速してJC-130Bで)あるいは地上で回収する構想だった。
  6. ただし公式発表では「四回目の飛行テストではD-21はM-21の飛行軌跡の中で『非対称型非起動』になり、母機にピッチが加わりマッハ3.25でD-21がM-21が衝突した。乗員ビル・パークとレイ・トリックはM-21から射出脱出したがトリックの飛行服が破れ着水後に死亡した」とある。
  7. この際の様子は随行したブラックバードが撮影している。この下を見てほしい。https://www.youtube.com/watch?v=GMyC2urCl_4
  8. この事故でM-21発進は見直され、ロッキード・マーティンはB-52Hから発進することにした。その機体が#0036だ。D-21プロジェクトにはシニアボウルのコードネームがついた。
パームデール(カリフォーニア州)の米空軍第42プラントにあるブラックバードエアパークに陳列してあるD-21無人偵察機。D-21はマッハ3のラムジェット推進方式で母機から発射した。(Courtesy photo by Danny Bazzell/Flight Test Historical Foundation)

  1. 「最初のB-52からのD-21発進は1968年6月16日に成功した。無人機は高度9万フィートで3千マイル飛行した。その後数回の飛行テスト後にCIAと空軍は四回の発射を実施したが、すべて失敗した。二回は成功したが、画像はD-21から回収に失敗した。別の二回は一回は高度防空地で喪失しもう一回は発射後に行方不明となった」
  2. D-21は1971年7月15日に中止され、試験用B-52母機は空軍の一般任務に復帰した。
  3. その機体#60-0036は2001年以降エドワーズで第419飛行試験飛行隊に配属され、テストベッドを務めている。
第419フライトテスト飛行隊がエドワーズ空軍基地のフライトラインに休んでいる。10月16日撮影。同機# 60-0036はタグボードの名称で始まった極秘テストに使用されていた。これにはD-21ラムジェット推進偵察無人機が使われマッハ3飛行を目指した。D-21は母機の主翼下から発進する想定だった。 (U.S. Air Force photo by Kenji Thuloweit)

  1. D-21無人機のマッハ3飛行がM-21あるいはB-52で50年前に行われていたが現在はどんな秘密テストが実施されているのだろうか。■

 

この記事を読んで急いで自分のとった写真ファイルを探しました。ありました中国航空博物館(北京市)に陳列されていたD-21の残がいの写真が下の通りです。文中にある高度防空地とは中国のことだったのですね。ちょっとピントが甘い写真ですがご容赦ください。





★★米海軍が通常型潜水艦建造に向かう可能性



この記事では通常型潜水艦の優位性がいまいち明確にとらえられていないと思うのですが、まず原子力潜水艦ありきの米海軍が考え方を変えたとしても通常型潜水艦建造の技術基盤がない米国が日本に協力を持ち掛けてくるはずなので潜水艦事業に大きな変化をもたらすのは必至でしょう。
そうりゅう級(あるいは後継艦)を米海軍が採用すれば日本の防衛産業にとっては画期的な事態となりますね。ただしこれは東アジアでの安全保障を見直したいという米国の一部の流れとは逆に日本との協力関係の強化になってしまうので、日本には好都合と言えるのですが、米国本流のの考え方にはなじまないでしょう。日本の地理的優位性を精一杯活用すべきでしょうね。

 


Is It Time for the U.S. Navy to Start Building Non-Nuclear Stealth Submarines?

米海軍は通常型潜水艦建造に踏み切るべき時に来たのか
October 29, 2017

  1. 米議会とトランプ政権がウォールストリートジャーナルのロシア海軍潜水艦の記事を読めば、米国も真剣に通常型潜水艦調達を検討すべきと言い出すのではないか。
  2. ジュリアン・E・バーンズ記者の記事ではロシアの通常型潜水艦とNATOの間で追跡劇が3か月続いたと暴露している。バーンズは「ロシアの攻撃型潜水艦クラスノダールKrasnodar,は5月末にリビア沿岸を離れ地中海を東に向かい、その後潜航し、シリアに巡航ミサイル数発を発射した」と伝えている。
  3. バーンズ記者はNATO部隊が同艦を一貫して追跡していたと明らかにした。まずオランダが北海で同艦を捕捉し英仏海峡まで追尾した。ジブラルタルからは米巡洋艦がP-8の支援で地中海で追尾した。
  4. モスクワは同艦がリビアに向かい演習参加すると発表していた。実際には到着する前に浮上し5月末にシリアに向け巡航ミサイルを発射している。問題は米空母打撃群が6月はじめに同じ地域に向かっており、対ISIS作戦の実施を始めようとしていたことだ。このためロシア潜水艦の位置確認は特に重要になった。米関係者は「潜水艦一隻でも空母のような主力艦に脅威になる」ためと説明している。
  5. バーンズは詳細に触れており、米海軍や同盟国が潜水艦を追尾する方法各種や潜水艦が追尾から逃れる戦術も書いている。ただし記事からは西側海軍部隊がロシア潜水艦追尾にどこまで成功したか不明だ。米海軍関係者は同艦の二回目ミサイル斉射の様子はフランス海軍フリゲートが把握し、米海軍も空中監視していたと述べている。NATOがこのロシア潜水艦の追尾に苦労したのなら、中国やロシアが米潜水艦の追尾はできないことは明らかだ。
  6. 記事から明らかなのは米国や同盟国は相当の努力を投入してクラスノダールを追尾したことだ。これは相当困難な仕事だ。米国は世界最高の対潜戦能力を有すると自負しており、同艦追尾に必要な前方配備基地や同盟諸国を有していることが重要だ。もし米およびNATOが潜水艦追尾可能ならロシアや中国では西側潜水艦の追尾は不可能となるはずだ。
  7. クラスノダールがとくに高性能通常型潜水艦でない点が要注意である。同艦はプロジェクト636.3ヴァルシャヴャンカVarshavyanka級潜水艦だ。ロシアは世界で最も静粛な潜水艦と自慢する636.3型はキロ級を改良し低価格が特徴だ。2009年にはヴィエトナムに同型艦6隻をわずか20億ドルで供給する契約に調印している。(価格には乗員訓練および予備部品を含む)対照的に米国は原子力潜水艦一隻で27億ドルを支払う。通常型で最大かつ最高性能と言われる日本のそうりゅう級は単価5億ドル超といわれる。つまり原子力潜水艦一隻の単価でディーゼル電気推進型潜水艦が5隻ないし7隻建造できる。
  8. 355隻艦隊を整備しようとする米国 には通常型潜水艦調達を真剣に検討し原子力潜水艦の補完機能を実現する必要がある。これは大きな変化となる。米海軍の最後の通常型潜水艦建造は1950年代で、1990年以降は運用していない。ここにきてディーゼル電気推進式潜水艦建造構想に勢いがついてきた。今年初めには議会の求めに応じ2030年代の海軍艦船構成を検討したMITREコーポレーションが通常型潜水艦の配備を求めた。
  9. 米海軍側がこの要望をはねつけ、通常型潜水艦では海中環境、補給面、性能面で制約があると反論したのは自然な反応といえる。だがこれに対しいずれも制約条件ではないとの主張が出てきた。ジェイムズ・ホームズJames Holmesが海中環境は潜水艦を米国配備した際にのみ制約となると主張。日本への前方配備なら米本土配備の原子力潜水艦に対して有利だと述べている。同様にホームズの指摘では補給面でも日本を利用すれば克服可能という。ディーゼル電気推進式潜水艦だけでなく海軍の他の艦艇にもメリットが生まれるという。
  10. 性能面で高性能ディーゼル電気推進式潜水艦は特に脆弱なわけではない。ホームズは日本のそうりゅう級は二週間に一度浮上するだけでいいという。原子力潜水艦並みの潜航期間は無理だが、ヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦一隻の値段でそうりゅう級5隻を導入できると主張。単艦の性能で原子力潜水艦にかなわなくても数の威力でカバーできるとした。
  11. たしかに大洋なら原子力潜水艦の性能が活用でき、長期間展開能力、潜航深度で他の追随を許さない。一方で浅深度海域や閉鎖系海域のペルシア湾や南シナ海では大気非依存型推進(AIP)搭載の潜水艦が望ましい選択になる。この事から議会、トランプ政権に対し原子力潜水艦のみの調達方針を再考すべきと求めたい。■
Zachary Keck (@ZacharyKeck) is a former managing editor of the National Interest.
Image: A Russian made Iranian navy Kilo class submarine takes part in Iranian naval exercises in the Persian Gulf November 2, 2000. Iranian navy maneuvers on both sides of the strategic strait of Hormuz will continue until November 6, 2000.

中国第一線戦闘航空機の現況


今のところは質的に優れているとはいいがたい中国の空軍力ですが、数の力にものを言わせ消耗戦で勝てるとの指導原理なのでしょうか。パイロットなど人的資源に限界がないのも中国の強みですが、ご覧のように国産技術に頼らない=外国技術を導入するため手段を選ばないのも中国の技術発展の特徴で、その分西側はセキュリティを強めないと技術が流出してしまいます。ここが中国技術の弱点ともいえるのですが、今後どんな非常識な戦力が搭乗しないとも限りません。今後も注視の必要が大いにありますね。



China's Air Force: 1,700 Combat Aircraft Ready for War

中国空軍力の現況 1,700機が作戦投入可能
October 28, 2017

中国人民解放軍空軍(PLAAF)は姉妹部隊の海軍航空隊(PLANAF)とともに戦闘用機材約1,700機を運用する。ここでは戦闘機、爆撃機、攻撃機を戦闘機材と定義した。この規模を上回るのは3,400機を擁する米軍のみだ。さらに中国は西側が把握していない機種も多数運用している。中国機多数はロシアやアメリカの機種を真似たあるいはコピーしたものであり、実力は把握できない。

[J-6/Q-5] ソ連と中国は1950年代に最も親密だった。ソ連は技術多数を供与し、そのひとつにJ-6があり、超音速MiG-19のクローンだった。数千機が生産されたが大部分退役している。ただし空気取り入れ口を改装した南昌Q-5の150機はまだ現役で精密誘導爆弾搭載用に改装されている。
[J-7] だが中ソ友好関係は1960年代に醜い結末を迎える。1962年にソ連は新型MiG-21を和解の一部として供与した。中国は和解は斥けつつ機体は確保しリバースエンジニアリングで頑丈だが重量の増えた成都J-7にした。生産は文化大革命のため遅れたが、1978年から2013年にかけ各型合わせ数千機を生産し今も400機近くがPLAAFとPLANAFに残る。
J-7は1950年代の新鋭機で操縦性と速度を実現した。マッハ2とF-16と同等ながら燃料、武装ともに搭載量が少ないし、小さなノーズコーン内のレーダーは能力不足だ。それでも中国はJ-7の性能強化を続けた。J-7Gは2004年導入でイスラエル製ドップラーレーダー(探知距離37マイル)と改良型ミサイルを視界外距離で運用できる。またデジタル式の「グラスコックピット」も備える。
この機体では探知能力に優れた敵の第四世代機に苦戦するはずだが、理論的には数で敵を圧倒する可能性はある。J-7で中国は大量のパイロットを養成し新型機の登場までパイロットを維持できる。
[H-6] もう一つソ連のクローン機が西安H-6双発戦略爆撃機で原型は1950年代のTu-16バジャーだ。B-52と比較すれば低性能だが、空中給油対応のH-6Kが戦力となっており、大型長距離巡航ミサイルで艦船あるいは地上目標を中国本土から最高4千マイル地点で攻撃できる。H-6は核爆弾投下を想定していたがPLAAFはこの任務に関心はないようだ。西安は新型H-20戦略爆撃機を開発中といわれるが詳細は不明だ。
[J-8] 中国は1960年代中頃から国産戦闘ジェット機開発に乗り出し、瀋陽J-8が1979年に登場した。大型双発ターボジェット超音速迎撃機としてマッハ2.2を出すが近代的エイビオニクスと整備性が欠如している。ただしJ-8II(約150機供用中)はイスラエル製レーダー搭載で改良しF-4ファントムに匹敵する重装備になった。
[JH-7] 200機ほどが供用中の西安JH-7飛豹は1992年に供用開始した複座対艦戦闘攻撃機で20千ポンドの兵装を搭載し、最高速度はマッハ1.75だ。対空格闘戦には不向きだが長距離対艦ミサイル発射が主任務だ。
[J-10] 成都J-10猛龍は中国版のF-16ファイティングファルコンで高度の操縦性を誇る軽量多用途戦闘機でフライバイワイヤ方式エイビオニクスで空力学的に不安定な機体を制御する。ロシア製AL-31Fターボファンエンジンを搭載し、J-10B型が21世紀型エイビオニクスで赤外線捜索追跡装備やアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーの搭載で大きく改良された。AESAはF-16でも全機装備されていない。ただし、250機あるJ-10で深刻な事故数件が発生しており、フライバイワイヤ系の問題が原因と思われる。
[J-11/J-15/J-16]ソ連崩壊後のロシアは現金に飢えイデオロギー対立の暇はなく当時最新鋭のスホイSu-27戦闘機を求めてきた中国に応じてしまった。双発でF-15と比較される同機は航続距離とペイロードが優れる。この決断が運命を左右した。今日の中国戦闘機部隊ではSu-27を元にした機体が幅を利かせている。
Su-27で中国は国内生産ライセンス権を購入し瀋陽J-11を製造したが、その後高性能のJ-11BおよびDの生産に発展しロシアを動揺させた。
モスクワはそれでも改良型の対地対艦攻撃用のフランカーSu-30MKK、Su-30MK2を合計76機売却した。F-15Eストライクイーグルに匹敵する機体だ。中国はSu-30から瀋陽J-16紅鷹を生んだ。瀋陽J-15飛蛇は空母運用型で原型はロシアSu-33をウクライナから取得した。空母遼寧で20機が運用中だ。J-16Dはジャミングポッドを搭載した電子戦機で米海軍EA-18グラウラーに相当する。
中国製スホイ機は理論上は第四世代戦闘機のF-15やF-16に相当するが、国産WS-10ターボファンエンジンが制約で保守点検性が劣り推力も不足気味だ。エンジンが中国製軍用機の足かせで、2016年にSu-35を24機購入したのもAL-41Fターボファンエンジンが目当てと見られる。
[J-20/J-31]極めて短期間で中国はステルス戦闘機二型式を開発した。成都J-20が20機2017年にPLAAFで供用開始した。F-22ラプターは究極の制空戦闘機を目指したが、J-20は大型双発機で速力、航続距離、重武装に特化し操縦性は二の次にした点が違う。
J-20の主目的は対地対艦の奇襲攻撃だろう。レーダー断面積が大きいのは問題なので敵戦闘機と交戦を避けつつ脆弱な支援機材やAWACSレーダー機を撃破するのかもしれない。任務を限定したステルス戦闘機なら技術難易度が高いステルス機運用経験が浅い同国にはぴったりだろう。
小型自社開発の瀋陽J-31鶻鷹(別名FC-31)はF-35ライトニングそっくりで、ロッキード社コンピュータをハッキングした可能性がある。中国は空力特性を追求し垂直離着陸性能を省略したが、ライトニングのセンサーとデータ融合機能はないようだ。
J-31は今後就航する002型空母での供用を目指すようで、輸出向けには破格価格のF-35代替策となる。試作機のエンジンはロシア製だが国産WS-13ターボファンエンジンの生産が安定しないと機体生産は始まらないだろう。
[今後の展望]
PLAAFおよびPLANAFの機材のうち三分の一は旧式機で戦闘能力は敵側より劣るので大量の機数で攻撃を図るのだろう。28パーセントに戦略爆撃機と第三世代機が含まれる。残る38パーセントが第四世代機で理論上はF-15やF-16に匹敵する。ステルス機は1パーセント相当だ
ただし、機体性能がすべてではない。重要なのは訓練、組織運用原理や支援機であり、衛星偵察能力や空中給油機材、地上レーダーや空中指揮機材も重要だ。
例えば中国には空母を捜索する情報機材として航空機があり、攻撃用のミサイルもある。ただし、各要素をつなぎ合わせてキルチェーンを構成するのは容易ではない。2016年のRAND報告書では中国は現実を想定した訓練の不足に取り組み、地上部隊や海軍部隊tの共同運用の経験づくりに取り組んでいるとする。
ともかく中国は旧式機を新型機に全部更改することを急いでいないようだ。第四世代機やステルス機の問題を解決してから大々的に新型機を導入する構えのようだ。■
Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
Image: A "Guying" stealth fighter participates in a test flight in Shenyang, Liaoning province, October 31, 2012. China's second stealth fighter jet that was unveiled this week is part of a programme to transform China into the top regional military power, an expert on Asian security said on Friday. The fighter, the J-31, made its maiden flight on Wednesday in the northeast province of Liaoning at a facility of the Shenyang Aircraft Corp which built it, according to Chinese media. Picture taken October 31, 2012. REUTERS/Stringer

2017年10月30日月曜日

日本が防衛装備輸出に成功していない理由


注 記事は2年前のものでそうりゅう案件などまだ進行中のものですが、本質的に変化はないと判断しお目にかけることとします。その後も大きな成約が出てこないのは根本的な問題があるからでしょう。販売は苦労していますが、共同開発は英米両国と進んできたのは平和法案の通過も大きな推進力になったのでしょうか。当面日本製航空機が海外で採用される期待が薄いとしても官民挙げて努力をつづけてもらいたいものです。さらに外交政策にもこうした分野を反映してもらいたいものです。

 

The Trouble With Japan's Defense Exports

日本の防衛装備品輸出は何が問題なのか

Opening Japan’s defense industry to the international market is a significant step, but it won’t happen overnight.
日本の防衛産業で輸出解禁は大きな一歩だが成果は一夜にしてえられない。
The Trouble With Japan's Defense Exports
Visitors look at a model of JMSDF US-2 search-and-rescue amphibian plane during the MAST Asia 2015 defense exhibition and conference.
Image Credit: REUTERS/Toru Hanai

October 02, 2015


  1. 2014年4月1日、安倍晋三首相は日本の武器輸出自粛を撤廃し、「防衛装備品技術移転の三原則」を打ち出し、厳しい審査を経たのちに武器輸出を認め国際的な平和の実現と日本の安全保障に資することを条件とした。この動きは大きな関心を呼ばなかったが、日本の防衛政策上で大きな一歩であったと言える。
  2. 一年半後に防衛省(MOD)は1,800名態勢で防衛装備庁Acquisition, Technology, and Logistics Agency (ATLA)を発足させ、50名が輸出促進にあたっている。
  3. この歴史的と言える動きで新方針の背後の要素を考察し、今後の日本政府および防衛産業の方向性を見てみよう。日本政府は産業面とともに戦略面で期待するが、実際の運用に不明な点が多く日本製防衛装備に対する国際需要も高くないことから実現の難易度は高い。インド、オーストラリア向けでUS-2捜索救難飛行艇と潜水艦の大型案件があるが、これはともに特異例で今後の日本は小型装備品の輸出実現に向け努力を集中するだろう。
  4. では安倍首相に輸出禁止措置を解除させた原因としてジェフリー・ホーナンJeffrey Hornung笹川平和財団USA主任研究員によれば日本は①国産調達価格を下げる ②米国との協力強化 ③現状維持で利害を共通にする国に対して一層強い安全保障上のパートナーとなるの三点を目指しているという。
  5. 原価低減が重要なのは国産調達防衛装備の価格がとんでもなく高いためだ。研究開発費用が高いため、単価を下げるには大量販売する必要が生まれる。そうりゅう級潜水艦が好例でオーストラリア向け販売で日本が受注に成功するには単価を下げる必要があったが、そうりゅうの研究開発費は固定費でありすでに支出ずみだった。
  6. 禁輸措置の解除により価格面の変化がすぐに期待できるのだろうか。現実を見れば値下げの実現には10年単位といかずとも数年かかるのであり、一方で国際市場で日本製装備品にどこまで競争力があるのかという疑問も残る。
  7. Avascent International社長スティーブン・T・ガンヤードStephen T. Ganyardは日本製装備への需要が欠落しているため日本政府の思惑は実現困難だと指摘する。需要がないのは性能が理解されず、国際的に通用する装備が限られ、高価格のせいだと説明する。これまで日本の防衛産業の顧客は日本政府のみで業界に市場原理が欠落していた。日本の防衛産業は「世界に通用しないルールが大手を振る独自の世界」だという。
  8. 日本製防衛装備の値段を決めるのは日本政府であり、国際市場ではないため、効率を追求するメカニズムが不在とガンヤードは指摘。最大の皮肉はマレーシア、ヴィエトナム、インドネシア、フィリピン、タイ国など日本製装備を欲しい国は多いのに購入できる価格でない点だという。資金に余裕がある国は最良の選択ができる。例えばシンガポールだが、装備は米国から調達しており、日本製装備は優れているとは映らず、ましてや実戦の洗礼もない。そうなると短期では輸出解禁の効果は疑わしくなる。
  9. 日本の防衛産業に市場原理の導入が必要だろう。性能重視の姿勢を証明しつつである。武器輸出と共同生産は国内バランスを実現し国産産業基盤を強めつつ米国依存を減らし、次世代装備の研究開発費用を確保することになる。対外バランスの問題もある。
  10. 提案中の潜水艦技術に関する日本オーストラリア間の協力案件が古典的な例で日本が「負担共有」を米側に見せる効果がある。ここでは外部バランス(米国を日本の安全保障に関与させる)が内部バランス(日本独自の安全保障力を整備する)と組み合わさっている。
  11. 輸出は国内防衛産業の業務改善の刺激策になる。成果は日本だけで享受せず日本の同盟国協力国にも恩恵となる。米国が予算制約に苦しむ中で日本は防衛の価値がある同盟国であると自ら証明する必要があるのだ。この「証明」は地域の平和と安定の確保に尽力する米国を意識して日本が真剣さを示す両方向の努力となる。
  12. 大きな難関が残ったままだ。日本には防衛装備輸出を外交政策の一部とする経験が事実上存在せず、政治上のガイドラインは改訂したものの成文化も制度化も未着手だ。企業はあいまいさが残るうちは事業に飛びつかない。法制化は微妙な仕事で特にこの分野では想定外使用と第三者移譲が問題となる。
  13. 使用時の確認が頭の痛い問題になる可能性がある。ガンヤードが指摘するように日本の防衛産業が日本にとって「望ましくない」国家や非国家勢力に装備品を売却すれば大問題となる。ガンヤードはさらに「日本が求めているのは試験的な販売事例でこの方法が定着するかを見たいはずだ」という。ガイドラインの明確化以外に防衛生産増強のリスクを負担する覚悟も日本政府に必要だ。購入国に低金利貸付を提供するとか研究開発の交付金がある。
  14. ガーンヤードは日本企業へのコメントとして「強固な産業基盤の実現には企業合併が唯一の手段だ。日本が世界に通用する国防部門の競争力を実現するには合併、企業買収、国防関連の知財の購入しかない」と述べている。しかしここでも企業には動機が必要だ。防衛と関連がない海外企業を買収するのか(この場合はルールが明確にある)、あるいは防衛関連企業(将来は明確に予測できない)の選択を日本企業は迫られよう。国際的に活躍する防衛企業は資金投入の価値は十分ある。
  15. ビジネス上のリスクは財務関係だけでなく、企業の風評もある。日本の大企業は「死の商人」と呼ばれるのを嫌う。横浜の防衛産業展示会MASTは日本で初の防衛技術展示会で大事な一歩となった。ただし、日本企業ブースに銃器、ミサイル、その他の「あからさまに脅威を与える」装備は全く姿がなかったのが日本企業の考え方を物語っている。定評作りには大変大きな負担が必要なため日本政府はUS-2の販売促進で国内向けにはこれは非軍事装備の案件だと強調している。
  16. 日本はどこをめざすのか。ホーナンはUS-2のインド向け提案とそうりゅう潜水艦のオーストラリア向け提案はともに「例外」案件で、将来は小型かつすき間技術が輸出の中心と見ている。ミサイル追跡センサーが例だ。ATLAが輸出を促進すべく輸出や共同開発の架け橋になり、オーストラリアで三菱重工や川崎重工が展開した広報活動を上回る効果を上げることが期待される。
  17. 各種改革がどれだけ早く実行されるかは政治意思次第でさらに「武力を見せつける」中国や北朝鮮に依存する。日本の防衛産業の難題は変革の速度が遅く慎重すぎることだろう。■