2019年4月7日日曜日

F-15X導入方針に疑義をぶつける上院議員に米空軍はどんな説明をしたのか

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US Air Force defends F-15X buy to skeptical Inhofe, Reed

懐疑的な有力上院議員に対しF-15X導入方針の弁護に必死の米空軍


By: Joe Gould

米空軍のF-15Cイーグル。不朽の決意作戦の航空支援に投入された。 Feb. 11, 2019. (Staff Sgt. Clayton Cupit/U.S. Air Force)

空軍は第4世代機ボーイングF-15Xの調達を再開してもロッキード・マーティンF-35の導入に変わりはないと方針の正当性を強調した。
空軍の2020年度予算要求を検討する上院軍事委員会で空軍トップがF-15X8機の調達は短期つなぎだと述べた。またF-15C退役の穴を埋める方法としては費用対効果が最大の選択とし、ハンガー、機材、整備要員がそのまま使えるとした。
「F-35事業は軌道に乗っており、変更はない。F-35から一銭たりと予算流用はしない」と参謀総長デイヴィド・ゴールドフェイン大将がF-35を「統合侵攻部隊の主力」と述べた。
ゴールドフェイン大将はロッキードF-22ラプター調達中止の二の舞にならないと議員に保証した。また2040年代までに第5世代機を8割の機材構成にする方針には変更ないとした。
委員長ジム・インホフェ上院議員(共、オクラホマ)と有力議員ジャック・リード上院議員(民、ロードアイランド)から今回の空軍方針に疑問の声が出ていた。これまで長くF-15やF-16向け予算を要求していなかったのに突如2020年に11億ドルをF-15X用に求めてきたもので、2020年度予算要求ではF-35は48機、F-15は今後5年で80機を79億ドルで調達するとある。
「これまで第4世代機は消える存在と思っていたが調達再開のようだ」とインフォフェ議員は述べ、「F-22事例を忘れていないか、当初750機調達のはずが187機に終わったしわ寄せが今も残っている。こんな大失策は繰り返してはならない」
公聴会終了後にインフォフェ議員は空軍関係者は自ら納得していない方針を擁護していると報道陣に感想を述べた。「空軍も不本意なのではないか。それは当方も同じだ。第5世代機が第4世代機に逆戻りとなる、ということではないか」
リード議員は公聴会の席上でA-10、コンパスコール、U-2、グローバルホークで空軍が方向を急に変更したこととF-15Xを関連付け「これで正しい調達といえるのか」と問題提起した。
機材老朽化が進む中でミッション実施のため空軍は年間72機調達を必要とするとゴールドフェイン大将は議員に説明した。四機種ある第4世代戦闘機のうち三機種は2030年代まで稼働可能だが、F-15Cはここに含まれないという。
F-15派生型は第4世代機の供用継続で費用対効果が最大の機種と認められており、最近ではサウジアラビアとカタールが導入している。
さらにもうひとり懐疑的なタミー・ダックワース上院議員(民、イリノイ)からの質問に対しゴールドフェイン参謀総長はF-15Xは2万時間稼働が可能としつつ、F-35への影響は皆無と自信を見せた。
「F-15取得でF-35を犠牲にするのでは悪い選択になります」「F-15はF-35とは違いますし、絶対にF-35になれません」.
公聴会場を出たダックワース議員は国防予算が今後削減されればF-35よりF-15導入が魅力的になるのではと危惧していると記者団に語った。「今回の决定は過去二年間の予算動向を念頭にしているのではと危惧している。「数年先を考えると現実乖離の决定ではないか」(同議員)■

このブログの読者でもF-15の調達再開を疑問視する声が強いのですが、空軍内部の反対を押し切ったペンタゴンの考え方が正しかったという結論があと数年すれば出てくるのではないかと思います。ステルスは戦闘機サイズでは限界もあり、F-35に至っては戦力化した段階で使い出が限られる機体になってしまう危惧もあります。意見が別れるのはあまりにも第5世代と言う言葉に振り回されているからと思います。これもロッキードが売り込んだコンセプトなのですが。それよりも別記事にて紹介しますが、B-21の性能に期待が募ります。それにしてもさすが上院議員ですね。優秀なスタッフに支えられているのでしょうが、事実をもとにした見識を制服組に堂々とぶつけています。回答する側も真剣になり、言語による応酬が知的にくりひろげられているようです。

米海軍のレイルガン開発は難航している模様、かわりにHVP砲弾が脚光を浴びそう

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Railgun Derailed: The U.S. Navy's Ultimate Weapon Is in Trouble

Will it happen?
March 31, 2019  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNavy

海軍が電磁レイルガンに「本格的予算投入」すると宣言して一年足らず、ジョン・リチャードソン海軍作戦部長は500百万ドルを投じたスーパーガン開発がトラブル続きで複雑な気持ちだろう。
大西洋協議会でリチャードソン大将は10年にわたる同兵器の研究開発がいまだに艦船搭載実証もできず行き詰まっている状態を「事例研究としてみなさんなら『このイノベーションは実現しないかも』と言うのでは」と表現。
「電磁エネルギーの利用で爆発作用を使わない兵器にするのは技術的に難題です」と同大将が語ったとされる。「そのため今後も継続して開発、テストしていきたい」
2018年3月の議会公聴会で見せた本人の自信はどこに言ったのか。2017年12月に Task & Purpose はレイルガンは研究開発段階から先に進めない、艦艇搭載が困難なだけでなくペンタゴンの戦略能力開発室(SCO)が優先順位を変更したからだと伝えていた。
「レイルガンに本格的に予算投入する。テスト実施のためこれを続ける」とリチャードソンは議会で当時確約していた。「仕様より遅い間隔で発射を....短距離で実施した。今度は定格通りの発射で射程80から100マイルを狙う」と述べていたとMilitary.comが伝えていた。
Task & Purpose ではそれに先立ちSCOが超高速発射弾(HVP)に中心を移し、レイルガン用に想定されたこの砲弾を通常火砲から発射させようとしていると報じた。海軍はHVPをUSSデューイのMk 45 5インチ砲から2018年8月のRIMPAC演習で実際に発射した。
リチャードソンも優先順位付けの変更を認めている。「高速度発射弾は現行砲すべてで運用可能だ。レイルガンと別に各艦艇に迅速に供用可能。このためこれを最優先している。レイルガンについては作業を加速化したい」
一年前のリチャードソン大将は議会メンバーの前で「レイルガン開発が行き詰まっているというのは言い過ぎ」とまで述べていたとMilitary.comが伝えている。■
This article by Jared Keller originally appeared at Task & Purpose. Follow Task & Purpose on Twitter. This article first appeared in 2019

想定通りの進展を示していないのはハードウェア、ソフトウェアいずれでしょうか。あるいは両方が絡む問題なのでしょうか。常識を破る新兵器ですから一筋縄には進まないと覚悟もしていましたが。レイルガンが当面あらわれなくてもHVP砲弾が実用化され既存の火砲の威力が増すのであればそれはそれでいいのですが。

2019年4月6日土曜日

中国はガタルカナル戦史を研究し何をめざすのか



Why Is China's Navy Studying the Battle of Guadalcanal? 

なぜ中国海軍がガタルカナル戦を研究するのか

We have a few ideas.
April 1, 2019  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: ChinaNavyMilitaryTechnologyWarStrategy


国軍に実戦経験が欠落する事実は軍上層部も深刻な問題として認識している。戦闘ノウハウ不足を認めること自体は賞賛に値する。大規模軍事作戦をこの40年間行っていない中国軍では獲得できない知識だ。逆に40年間も軍事力を行使しない自制心が軍事大国にある事自体すごいと思うのだが。
対照的に米軍は2001年以来ほぼ一貫して戦闘状態にあり、1990年代にも小規模戦数件があった。だが近年の米国による戦闘に見られるイノベーションについては小規模かつ戦闘員相手の治安維持戦で得たものは少なく、今後大国間で戦闘状態の幕が切られればその真価を余すところなく見せてくれるはずだ。
人民解放軍(PLA)は実戦経験の欠如をおぎなうべく戦史研究を続けており、太平洋戦争の血なまぐさい記録もその対象だ。南太平洋の8月は熱いが1942年の同月始まったガタルカナル戦は地獄だった。太平洋の運命を決定づけた作戦であった。ミッドウェイの奇跡がとかく耳目を集めがちだが、その数カ月後始まったガタルカナル消耗戦は太平洋の『ヴェルダン』とも呼ばれ、転回点となった。艦船38隻と航空機700機を失った日本だが米側もほぼ同じ損失を被った。だが米国は損失分を早期に補うことができた点が異なる。
2017年12月、中国海軍の公式雑誌「今日の海軍」 [当代海军]にガタルカナル戦の詳しい分析記事が掲載された。結論は「日本が兵装開発で冒した過ちが損失を増やす結果につながった」とし、日本側の戦略思考の根本的欠陥にも触れている。この中国による日本の作戦失敗の分析は戦略判断の間違いと作戦戦術面の間違いを区別し、同時に兵器開発の過ちも指摘している。
中国海軍による分析では大戦略レベルではガタルカナル戦での日本の失敗の根源にミッドウェイ敗北の意味を理解できていなかったことがあるとする。日本は南太平洋で攻勢をかけたが米国の膨大な工業力を正しく認識していなかった。また决定層がミッドウェイ惨敗の真実を知らされないまま威勢のよい攻勢の音頭に押されてしまった。米側がヘンダーソン飛行場を奪取した意義に注目する中国論文は日本軍パイロットが遠隔地のラバウルからの飛行を迫られ同島に残る地上部隊支援に回らざるを得なくなった点を指摘。日本の空母部隊はガタルカナル島接近を試みず、陸軍と海軍の作戦調整がないまま完全に「状況は理解不能」に陥ってしまった。
また日本軍の戦闘方式がガタルカナルの敗北につながったと指摘している。当時の日本軍は夜戦で接近戦にもちこむことを誇りとしていた。これを「武士道」由来としている。ただし同島内でこの戦術を使うと迫撃砲などに頼ることとなり、海軍艦船の火砲や航空機支援を期待できない。この「火力限定」が効果を産まなかった。さらに日本軍の突撃攻撃はステルスでも奇襲でもなかったと指摘。また充分な部隊を集中できず戦力の小出しで攻撃を始め、その後増援部隊が到着したのは米側の防御陣地が強化されたあとだった。もう一つの根本的な間違いは兵站補給面だった。日本軍は十分な補給を受けることなく、米側の補給処攻撃も失敗している。
兵装(及びセンサー)では中国海軍の指摘は日本海軍が目視捕捉を重視するあまり戦艦の艦橋がさらに伸びたほどだ。これが効果を生んだ事例もあるが日本はレーダー開発に遅れをとり、一方で米軍はその利用に長けていた。米軍が戦車数両を巧みに使ったが、日本は一貫して地上部隊の支援ができていない。戦車投入で米地上部隊の自信を強めつつ日本側の攻撃を斥ける効果が生まれた。分析の最後の点は日本の戦略思考は「攻撃第一」で海軍艦艇では「防御軽視、対潜戦能力も低い」ものだったとする。日本海軍にもソナーがあったが性能は低く、作戦上の制約となったのはその例だとする。
以上は実際に戦闘した両国より中国海軍がガタルカナル作戦の意義を深く理解していることを意味する。ただし中国海軍の解釈に誤りも見られる。日本が攻撃重視でリスク覚悟の教義に動かされたと批判してもはじまらない。また空母部隊の投入をためらったのも同様だ。それでも中国の軍事教育で当時の戦闘を参考にするのは間違いではなかろう。戦史から中国の海軍揚陸戦教義で情報収集、センサー開発、火力集中、水陸両用戦車ならびに艦船防御力とくに対潜能力を重視している可能性がある。同記事の読者は軍組織に等しく影響するいわゆる「構成の罠」にPLAが陥ることはないと安心するのではないか。■
Lyle J. Goldstein is a research professor in the China Maritime Studies Institute (CMSI) at the United States Naval War College in Newport, RI. In addition to Chinese, he also speaks Russian and he is also an affiliate of the new Russia Maritime Studies Institute (RMSI) at Naval War College. You can reach him at goldstel@usnwc.edu. The opinions in his columns are entirely his own and do not reflect the official assessments of the U.S. Navy or any other agency of the U.S. government.

2019年4月5日金曜日

コブラボールの沖縄飛来は北朝鮮ミサイル発射の動きに呼応したものなのか

 Missile-tracking aircraft arrives on Okinawa amid fears N. Korea may

 lift testing moratorium

北朝鮮がミサイル発射に向かうとの観測の中、ミサイル監視機材が沖縄に飛来


RC-135Sコブラボール、ネブラスカ州オファット空軍基地にて。空軍はコブラボール三機を運用中。
JOSH PLUEGER/U.S. AIR FORCE

By MATTHEW M. BURKE AND AYA ICHIHASHI | STARS AND STRIPESPublished: April 2, 2019


道ミサイル監視専用機材が沖縄に到着した。あたかも北朝鮮がミサイルテスト再開の動きを示している。

空軍のRC-135Sコブラボールは嘉手納航空基地に3月30日到着したと現地にて米軍機の動きをモニターする市民Satoru Kubaがフジテレビに伝えてきた。同機はハンガーに収容され、4月2日時点でも沖縄にとどまっている。

北朝鮮はSohaeのミサイル発射施設を再整備したことが衛星写真で判明している。ただしコブラボールの配備はオファット空軍基地が洪水被害をうけたためかもしれない。

コブラボール各機は55航空団の第45偵察飛行隊、第97情報飛行隊が運用している。

同機の動きを伝えてきたKubaによれば同機は欧州、中東、ディエゴ・ガルシア、インドシナを経由して日本に到達し、残りの55航空団機材はフロリダ州マックディル空軍基地にあるという。

嘉手納基地では安全上の理由から同機の配備についてコメントを避けている。18航空団広報によればコブラボールは第82偵察飛行隊も運営するとし、同隊は嘉手納基地駐留だ。

沖縄防衛局の広報官Masashi KatsurenはStars and Stripesに同機の飛来は通告がなかったという。

コブラボールは統合参謀本部の指示で運用され「高性能光学及び電子センサー、記録装置、通信装備」を搭載すると空軍ウェブサイトにある。

「RC-135Sは他に例のない機材でほかでは得られない重要情報を国防部門に提供してくれる」とある。「こうした情報は軍備簡易条約の検証以外に米戦略防衛体制、域内ミサイル防衛体制の点検にも重要」

コブラボールの乗員はパイロット二名、航法士一名、機内ミッションスペシャリスト二名が最小構成とある。同機は1961年初飛行のC-135の直系だが現在の仕様で初飛行したのは1972年3月だった。■

2020年度米国防予算を読み解く:各軍の傾向と対策から見える今後の米軍の戦力構造

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CSIS AMTI graphic
南シナ海における中国航空機、ミサイル、レーダーの有効範囲(戦略国際研究センター作成)

2020 Budget: One Half Step Towards A Great Power Strategy

2020年度国防予算は大規模戦戦略へ半歩前進

The Trump defense budget takes significant steps to move from a focus on regional conflicts and counter-insurgency to a focus on great power conflicts. But the Army, Navy Air Force and Marines clearly are struggling with this balance.

トランプ政権の国防予算は地域紛争、対戦闘員作戦重視を離れ、大国間戦重視に切り替え。四軍は執行面でバランス調整に苦慮

By MARK CANCIANon March 25, 2019 at 7:01 AM


ャナハン国防長官代行はペンタゴンの2020年度予算は2018年の国家防衛戦略構想を完全実施する「傑作」になると予告していた。傑作と呼んでいいか疑問もあるが、これまでの地域紛争や戦闘員対応から大国間衝突へ中心を移す大きな一歩を国防総省が切ったのは間違いない。
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とはいえ四軍は新方向とのバランス調整に苦労している。戦略構想が戦力整備を重視しているのは明確だが各軍は現実世界に生きているのであり、危機的状況に対応し、同盟国を安心させ、人道援助を提供しながら戦闘員他脅威に対する作戦を日夜実施している。以下今回の予算案のハイライトを各軍別に見る。

陸軍
米陸軍のFY2020戦力構成案では兵力削減目標が上位に来る。
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州軍、予備役でも兵力削減が続く。

FY 2020 goal in FY 2019 budget
FY 2020 goal in FY 2020 budget
Change
Army National Guard
343,500
336,000
-7,500
Army reserve
199,500
189,500
-10,000

削減しても戦闘部隊数は変わらず、正規軍でBCT(旅団戦闘群)は31個、州軍は27個のままだが陸軍予算書では「砲兵隊、防空、情報、工兵を増加した戦力構造」を求めている。人員減の一方で部隊数が増えると配属人員を減らした部隊の出現を意味し、陸軍が目指す充分な人員配置と逆だ。新戦略に合わせた新規部隊創設は困難で予算上も治安部隊支援用の旅団5個編成との初期構想以上の余裕はない。
陸軍の兵員削減は新戦略構想が元だ。陸軍の削減で装備近代化を実現する提案がある。オバマ政権は正規軍を450千名に削減する提案をしたが、420千名までの削減も検討していた。
ただし入隊希望者が確保できないことで削減しているのが現状だ。2018年度は定員から7,500名不足し、補充できなかった。陸軍参謀総長マーク・ミリー大将は世界規模の任務遂行に人員増が必要と主張しており、予算書でも陸軍の現状は多忙とし、179千名が140カ国に派遣されている事実をあげる。目標は500千名のままだが、実現不可能とされる。そのため必要とされる能力と現実の乖離は陸軍で当面続く。つまるところ予算と募集難で解決となるだろう。
長期的には陸軍の戦力構造は国家防衛戦略により変化していく。その一環で年間50億ドルを新装備開発に回すが、実現は2023年ないし2024年だろう。

海軍
FY2020予算では海軍は戦力構成二案の中を移行する。2016年案と現在実施中で2019年までに完成する案がある。海軍は空母中心から分散型戦力や無人装備へ重点を移すと見られ、予算はこの移行を裏付けている。
Navy photo
USS Harry Truman

2016年評価はトランプ当選直後にでてオバマ政権構想の308隻から355隻に増やし、海軍の戦力目標を350隻規模と訴えた大統領選挙当選者に合わせた。内訳は空母12隻、大型水上艦104隻(駆逐艦、巡洋艦)、揚陸艦38隻、攻撃型潜水艦66隻とした。無人艦艇は含まない。
その後二年間の分析で355隻目標達成は大幅予算増がないと困難と判明し、そのため最新の30年間建造予定では既存艦艇の供用期間延長とくにDDG-51駆逐艦を図り、建艦予算を大幅増加して実現を図るとある。これで2030年代に355隻体制が実現し、これを維持する。
2018年、2019年と続けて海軍は既存設計の艦艇建造数を増やしており、駆逐艦、潜水艦を特に増やした。将来稼動する艦艇は既存設計の改良艦となる。新型フリゲート艦を期待はずれのLCS各艦の代わりとする提案があり、強襲揚陸用のLSDは既存のサンアントニオ級LPDを発展させる。また新型巡洋艦も将来登場しそうだ。
2020年予算でこの構想に反する動きが見られる。中でも論議となっているのがUSSハリー・S・トルーマン(CVN-75)の早期退役決定だ。空母は高費用でありながら長距離精密攻撃手段に脆弱との批判が寄せられていた。中国は空母を狙い撃ちする装備DF-21長距離ミサイルを開発した。空母航空戦力のF-18、F-35の戦闘半径はF-15やA-6の半分程度しかないため脆弱性がさらに高まったと言える。
早期退役に反対するのは従来型思考の面々でその主張は空母こそ海軍戦力の中心とし、産業界も現状の仕組みを維持したいとする。今後は議会が海軍の空母構想に抵抗する動きを見せるはずだ。
艦艇建造ではいろいろな様相が見え隠れする。
  • 2020年に無人水上艦二隻を調達し、以後毎年二隻建造を続けるのは大きな変化で無人水上艦の充実になる。各艦は試験的性格もあるのでRDT&E枠で予算を確保した。30年建艦案では実地評価の対象とし無人艦艇が現実の環境で機能するか確認の上、有人艦の代替手段にするか決めるとある。
  • 2020年度予算で以前計画があったLSD後継艦LXRあるいはLPD フライトIIは消え、このため一号艦建造は2024年以降となる。単純に予算配分のためなのか不明だが、かわりに潜水艦一隻を調達しており、揚陸戦装備の整備方針が変わったことを示しているのか、高性能ながら高価格の小規模建造よりも性能は劣っても分散型威力を発揮出来る艦船の大規模建造に切り替わったのか不明だ。
  • 新型巡洋艦は予算案に盛り込まれず、先送りのようだが海軍作戦部長によれば大型水上戦闘艦の必要性に変わりない。旧式タイコンデロガ級巡洋艦は今年も海軍は改修せず退役させるとしている。
戦闘艦艇の隻数は増加し、2020年に301隻、2024年度に314隻になるのはこれ以前の年度で予算化された艦が就役するからだ。人員規模は5,100名増え340,500名(現役隊員)とし、FY2020案は354千名に増やす。海軍は艦隊規模拡大に合わせ人員拡充にも懸命に努力している。
航空機近代化も続け、以前の構想から大きな変更はない。F-35各型合計30機、F-18は24機調達し、第4第5世代機混合の戦力構造を続ける。E-2Dホークアイ6機、P-8Aポセイドン6機、CH-53K大型ヘリコプター6機、CMV-22オスプレイ空母輸送機10機を導入する。無人機には中途半端な関心のままで、MQ-4Cトライトン2機、海兵隊向けMQ-9Aプレデター3機の5機のみ調達する。ただしMQ-25はボーイングに契約交付したことで前にすすみ、試作機製作のあと本生産が続く。

海兵隊
海兵隊は部隊規模を拡大しないと数年前に決定しているが、190千名ないし200千名まで拡大する提案がある。2020年度予算では186,200名体制が186,400名になる可能性もあるのは昨年同様だ。特殊部隊が若干の人員増となるが関心は即応体制と装備近代化にある。

空軍
海軍同様に空軍も色々なメッセージを出している。数年前の戦略は明白だった。第5世代機を導入し、第四世代旧型機は増やさない、たとえ部隊規模が縮小しても、というものだった。だが問題がふたつ発生した。空軍力維持で各種の要望に答える必要が生まれたこととF-35で問題が解決しないままになっていることだ。今年はバランスの取れた解決方法に向かうようだ。
その一つが人員増の継続で4,400名増やし511千名体制にする。人員増は5年めに入り、これまで人員削減に走ったあまり即応体制に悪影響が出た反動だ。また人員削減で装備近代化を実現する方針も撤回された。空軍予算書では386飛行隊体制の実現を引き続き求めているが、予算上は反映されていない。この実現を最も強く求めたヘザー・ウィルソン長官がまもなく退任する。
バランス感覚は調達で顕著だ。F-35は年間48機に抑えるが、議会は空軍の要望に応え2019年に56機分の予算を認めていた。年間60機調達の目標に達しない。代わりにF-15EX8機を調達する。この選択で航空分野で議論が生じており、一歩後退との批判がある。だがこれは海軍同様の選択を空軍で実現するもので、第4+世代機と第5世代機の混合運用により旧型機をそのまま運用し機材不足を招く事態を回避する。F-15EXとF-35のシナジー効果もあり、F-35のみの構成にして全体戦力がマヒする事態も回避できる。
空軍は軽攻撃機構想を放棄しておらず、関心を示すものの調達には向かっていない。
MQ-9リーパー調達を12機のみとする予算は大国間戦闘では同機の性能が不足することを反映し、ブラックの世界でUAV/PRV新型機の調達が期待される。空軍は一貫し無人機運用で先導的立場にあり、今後もその地位を守る必要がある。
核兵器近代化も続ける。その内容は大部分がオバマ政権時代に立案されている。極秘B-21開発に30億ドル、地上配備戦略抑止力装備はFY2019の414百万ドルから2020年度は570百万ドルに増やす。ただし核兵器近代化には下院民主党議員が疑問を呈しており、オバマ政権で想定のなかった長距離スタンドオフ兵器に713百万ドルを計上したが先行きが不安だ。こうした装備調達の決定から戦力構造の変化に影響が出そうだ。

文民
DOD文民では人員増が大きなニュースで、「連邦政府官僚制度」に疑念を呈する政権としては異例と言える。2020年の目標は757,800名で、2019年から5,200名増となる。ペンタゴンは人員増は2020年のみではなくここ数年連続しており、文民体制の充実は即応力につながると説明する。実際に文民多数は現場で部隊を支援しており、装備保全にも従事し、ペンタゴン周辺に集まっているわけではない。一つ悪いニュースは2020年は文民給与の凍結で退官者が増えそうなことだ。

先を見通す

2020年度は前年度比4.9パーセント増となり各軍で戦力構造強化と装備近代化が可能となる。ただし民主党に根強い懐疑的態度のためこのまま持続できないかもしれない。国防体制はすでにピークに達した可能性もある。その場合、米軍の戦力構造では低成長・中程度成長の間でのトレードオフはありえず、むしろ安定を取るか縮小に向かうかの選択を迫られそうだ。■
こうやって見ると陸軍がこれから大きく変化しそうですね。むしろ縮小しつつミサイル運用などに性格が変わるのでしょう。また予算の拠出先として利用されそうです。海軍、空軍の充実は既定路線ですが、それぞれ路線変更がこれから目立ちそうですね。とくに空母中心主義がどこまで抵抗しつつ現実を受け入れるのかが注目されます。空軍では現行の無人機では中露との戦いに性能不足とし新世代機の登場が期待されます。戦力の鍵をにぎるのはずばりB-21でしょう。予算規模ではさすがにこの水準は維持できなくなってきたと感じざるを得なくなってきたのでしょうね。中国が経済減速でも国防費を伸ばしているので今後米国にとって目の上のたんこぶということで非難されるでしょうね。

2019年4月4日木曜日

改装いずも級空母は防衛装備の性格を堅持、日本の安全保障への意味を理解しましょう

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 JS Izumo transits the South China Sea while doing maritime operations with a U.S. surface action group.
海上自衛隊のJSいずもが米水上行動群とともに南シナ海を航行中U.S. NAVY (BYRON C. LINDER)

Japan’s Refitted Izumo-class Ship Is Still a Defensive Platform

改装してもいずも級は防御装備であることに変わりない

By Admiral Dennis C. Blair and Captain Christopher Rodeman, U.S. Navy (Retired)
March 2019
Proceedings
Vol. 145/3/1,393
ARTICLE


しい日本の防衛大綱(NDPG)では宇宙、サイバー、電磁スペクトラムの新分野に注意喚起した。ただし新規NDPGへの反応ではいずも級ヘリコプター「駆逐艦」の多用途航空母艦改装で短距離離陸垂直着陸(SVOVL)を運用する方針に集中している。NDPGではロッキード・マーティンF-35BSTOVL機を計42機導入するとしており、各艦にF-35Bを搭載すれば「攻撃型空母」になり専守防衛という日本の安全保障政策から脱却となると批判する向きがある。

日本がめざす安全保障戦略の「目的」と中期防で掲げる「手段」を繋ぐ役目をもつNDPGで「方法」を明示している。2013年制定のNDPGは10年間有効のはずだったが途中変更となったのはそれだけ安全保障環境が厳しさを増しているとの政府見解の反映だろう。

岩屋毅防衛相の昨年12月18日記者会見で質問は半分近くがいずも関連で「攻撃型空母」の定義だった。日本国内各紙の報道基調や社説は軍事力強化への強い違和感を示していた。

ただしF-35Bを搭載したいずも級各艦を攻撃主体の兵器体系とし、専守防衛を旨とした戦後日本の防衛政策からの離脱と見るのは誤解だ。いずも級をSTOVL機運用に改装すると目的と手段の関係で有効だとする日本政府の国防戦略は正しく、攻撃装備にならず同時に他国の領土主権にも何ら脅威とならない。

日本防衛とは制海のこと


資源に乏しい島しょ国家の日本は海洋アクセスに依存する。日本は米国の支援のもと潜在敵対勢力の海洋利用を抑止・予防する必要があり、海洋通商活動ならびに遠隔島しょ部の防御は必須だ。戦後の日本は憲法解釈で国家存続がかかる際に自衛権を認めてきた。

いずも改装は憲法違反の攻撃型装備と批判する向きは戦術と戦略を混同している。攻撃、防御の能力整備は選挙で選ばれた政治指導層が戦略的レベルで判断すべきものだ。攻撃戦術が必要となるのは防衛戦略が機能する場合でのことだ。海軍戦闘の古典的教科書というべきFleet Tacticsでウェィン・ヒューズ退役大佐は「全ての艦隊行動が防衛戦術(防衛部隊ではない)に基礎を置くと理論的に不十分となる。防衛的海軍戦略の機能には部隊を集中投入し戦術攻撃で成功する必要がある」と述べている。

防御中心の軍事作戦で日本を防衛し海洋利用を図ると複雑かつ多くの要素がからむ。「日米防衛協力ガイドライン」が示すように「自衛隊が日本の主要港湾、海峡部の防衛を主担当すると同時に日本周辺海域の船舶艦船も日本が担当し関連作戦も実施する。このため自衛隊に必要となるのは沿岸防御、対水上艦戦、対潜戦、機雷戦、対空戦、航空制圧でありこれのみに限られない」 尖閣諸島を中国特殊作戦部隊から奪還する作戦でも同様の各作戦実施を可能とする戦力が必要だ。


防御的制海戦略を支える戦術とは

いずも級各艦はSTOVL機を10ないし20機運用し海上自衛隊の能力を防衛協力ガイドラインが想定する三分野で強化する。対水上艦戦、対空戦、航空制圧である。いずも級は海自潜水艦や水上艦と共同運用し、陸上自衛隊のミサイルが主要海域を中国海軍のミサイル、航空機から防御する。そこでF-35Bをいずも級各艦から展開すれば海自は監視偵察機能と防御装備の有効範囲を数百マイル伸ばせる。

海上自衛隊艦船を航空機発射の巡航ミサイルから防御するためいずも級がF-35BSTOVL機を運用する必要がある。平均的な対艦ミサイルの有効射程が数百マイルなのに対し対空ミサイルやミサイル迎撃ミサイルの射程は百マイルしかないためだ。同様に水上艦やパトロール艇が巡航ミサイルを発射すると海自に脅威となる。そこでミサイル発射前に攻撃を仕掛ける艦船や航空機を探知撃破することが海自艦艇の防御上最善の策となる。いずも級各艦がSTOVL機を運用すればこの一環となる。

F-35Bを運用するいずも級各艦は制海任務でも大きな役割を演じる。F-35Bが短距離対艦ミサイルを搭載すればパトロール艇や海上民兵の「大量動員戦術」に対し有効だ。「島しょ奪回」シナリオではF-35Bによる局地制空の確立が日本の水陸両用部隊による奪回で必須となる。


防御的制海戦略の効果を上げるには


海自艦隊に戦術航空戦力が生まれると短期以外の効果も生まれる。長期的に改編がまったなしの防衛方針、戦術、実証で米軍との協力体制の向上につながる。

防衛方針 海軍作戦部長によればこのたび発表となった「海洋優勢維持の全体構想2.0」で米海軍は高度戦力を有する敵対勢力を制圧する方針だ。ここでは有人無人装備をネットワークで結び分散独立型で高度な戦術効果を有する部隊を調整統合して運用する。日本の制海戦略はこれと異なるが、技術の進歩で同様の構想を取り入れていくはずだ。STOVL機と対潜ヘリコプターを運用するいずも級各艦が日本の今後の海洋戦略の鍵をにぎる。

戦術 F-35Bは有能な機材だ。だが戦闘で重要なのはペイロードである。つまり搭載兵装やセンサーが戦闘を左右する。さらに兵装システム技術は急進化しており、自律性能、極超音速技術、最終誘導技術から各装備を継続かつ急速に評価する必要がある。また戦術も効果を生む形に整備する必要がある。米海軍と海自は軍事力増強中の潜在敵対勢力に対する抑止・撃破という課題を共有する。日本が共用打撃ミサイル、共用空対艦スタンドオフミサイル、長距離対艦ミサイルを導入するのは正しい発展方向でより効果のある戦術を整備し各装備を有効活用する必要がある。

実証 F-35Bをいずも級に搭載し海自に海上で戦術航空戦力を運用する貴重な経験が生まれる。海自ではこれを米軍部隊とともに新しい戦闘構想の整備機会ととらえ、戦術、機材運用でも進化を期待する。いずも級は無人航空機(UAV)に各種ミッション装備を搭載しての実証に理想的である。さらにV-22オスプレイも日本が導入しつつあり、在日米軍で供用中だがこれも実証対象として有望だ。開発中の有人機でも海軍への転用が可能な機材があり、米陸軍が進める共用多用途技術実証機事業ではベルV-280ヴァラーティルトローター機とシコースキーボーイングSB>1デファイアント複合ヘリコプターがある。既存技術も含め、こうした有人無人機にも早期警戒任務、電子攻撃任務、洋上偵察や空中給油任務を行わせる構想がある。分散・ネットワーク化海軍部隊を戦力増強ならびに弾性確保の手段にいずも級やその他航空運用可能な海自や米海軍艦船から運用する各機を使えるだろう。

中国による高性能兵器開発、海軍空軍部隊の整備、さらに強圧的なグレイゾーン行動や好戦的国家主義により北東アジアの安全保障環境は一変した。日本は防衛力近代化を加速しないと、この脅威に追随できなくなる。中国は軍事優位性を盾にさらに大胆かつ強硬な動きを示すだろう。
日本は憲法解釈で国家存亡に必要な防衛力整備は許されている。海洋国家としての日本の生存と繁栄は海と表裏一体だ。中国が海洋面で強硬な動きに出ていることが日本の今後に不安の影を落としており、遠隔島しょ部主権でも脅威となっている。そこで自衛隊の対中抑止力、制圧力の改善に防衛的制海戦略を行使することは合理的かつ重要な一歩となる。

短期で見れば海自艦隊が航空自衛隊、陸上自衛隊、米軍と協調の上実施する防衛的制海戦略で求められる攻撃的戦術能力でいずも級改装によるSTOVL戦術機運用能力付与は効果的手段となる。長期で見ればこの能力により戦術、構想、実証がさらに広がる。このように日本の軍事抑止力が整備されるが、抑止に失敗しても領海を防御する能力、海洋コモンズへのアクセスの確保、遠隔島しょ部への侵攻を排除する効果が生まれる。■


「空母」=攻撃手段としか見ていない人はことばに踊らされて本質を理解していない人なのでしょう。また安全保障環境でもまったくちがう世界を想定している人なのでしょう。こうした人達による「口撃」に応対する政府や自衛隊も大変ですが、理路整然と事実を示しながら一つ一つ話を進めるしかないと思います。それだけいまの忙しい社会で本質を理解することなく上滑りな言葉尻で動いている人が多いということなのでしょうか。某国の思惑を「忖度」して「代理人」のように立ち回る「国会議員」や自らを国民の代表と錯覚する「メディア」に至ってはなにをか言わん、でしょうね。文民統制はもちろんですが、上に立つ人は専門家の知見を活用し、時間かけても耳を傾けてもらいたいものです。