2022年5月22日日曜日

バイデン大統領初の東アジア歴訪の真の意味。東西2方面への同時対応は可能と同盟国へ伝える。

 

CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

 

 

初の太平洋横断公式訪問は、中国への焦点は合わせたままだと各国指導者に理解させるのが目的だ。

 

 

ワイトハウス関係者は、バイデン政権は歩きながらガムを噛むことができる、とよく口にしている。ジョー・バイデン大統領のアジア歴訪が証明のチャンスとなる。

 

 

 バイデンの東京とソウル公式訪問は火曜日まで、ロシアのウクライナ戦を背景に行われる。ホワイトハウスは、米国が中国の長期的な戦略的挑戦に立ち向かいながら、ロシアの侵攻に対して世界を結集できることを、同盟国や敵対勢力を前に証明しようとするものと説明している。

 このバランス感覚は、アジア歴訪の前から始まっていた。木曜日、バイデンは、大統領として初のアジア歴訪のためにエアフォースワンに搭乗する1時間前、ホワイトハウスでフィンランドとスウェーデン両国の指導者と会談し、両国のNATO加盟申請を協議した。上院がウクライナ向け400億ドル援助を可決し、署名のため大統領に送ったとき、大統領はソウルに移動途中だった。

 ジェイク・サリバンJake Sullivan国家安全保障補佐官は水曜日に、「米国は、ロシアのウクライナ戦争への対応で自由世界をリードすると同時に、21世紀の未来の多くを定義する地域で、効果的で原則的な米国のリーダーシップと関与への道筋も示せることを明確に示す」と述べた。

 バイデン大統領は先週就任したばかりの韓国のユン・ソクヨル大統領と会談した後、昨年10月に就任した岸田文雄首相と会談する。また、日本、インド、オーストラリアの指導者との「クワッド」会合にも参加する。

 アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパーZack Cooper上級研究員は、「ホワイトハウスの立場からすれば、使命は相手と知り合うこと、ウクライナの進展があっても、アジアへの注目を減らすことはないと示すことだろう」と述べた。

 バイデン政権は「2022年国家防衛戦略」を3月に発表し、欧州の地域危機に対処する一方で、中国を米国の安全保障上の主要課題として残した。その後、米国は数十億ドルの武器支援を約束し、欧州での軍事プレゼンスを10万人規模に拡大し、軍事立案部門は戦いが数カ月から数年にわたり続くと予想している。

 木曜日、国防総省高官は、大統領歴訪は米国が両方の戦線を維持できると「証明する」と述べた。

 「ウクライナに注目が集まっているのは理解できる。だからといってインド太平洋の同盟国やパートナーとの協力、インド太平洋での航空・海軍活動をやめたわけでもない」(同高官)。

 米国は対空ミサイルのスティンガーと対戦車ミサイルのジャベリンをウクライナに送り、国防総省は装備の補充について防衛産業と会談したが、インド太平洋地域の兵器販売には影響しない、と同高官は述べている。

 バイデンは世界を活気づけ、ロシア侵攻への対応で、世界規模での制裁措置を推進し、武器輸送を促進し、NATOをキーウ支援で一致団結させた。中国が侵攻すればウクライナと同じ運命になると懸念する台湾を含むアジア諸国にとって、今回の結集を生んだ力は重要だ。

 戦略国際問題研究所のチャールズ・イーデルCharles Edel上級顧問は、木曜日に行われた下院外交委員会公聴会で、ウクライナ紛争がインド太平洋地域にどう影響をしているかについて語った。ウクライナをめぐり世界規模の連携を実現したことが「テンプレート」となり、今後の台湾危機にも応用できそうだという。

 一部専門家は、今回の歴訪でウクライナ戦争と同時にアジアで紛争が発生しても、同様に世界を巻き込むとバイデンが同盟国に明言すると予測している。

 戦略国際問題研究所のアジア担当上級副所長マイケル・グリーンMichael Greenは、今回の公式訪問を前にし、「特に台湾と日本が、米国が重大事態2つに同時対処できるか神経質になっている」「ウクライナとあわせ、突如台湾が危機に陥れば、同時対処できるのか。ヨーロッパとアジアにおける重大事態に同時に対処する能力について不安を呼ぶような大統領の発言が見られる」と指摘した。

 国家安全保障会議のような政府機関では短期的にはウクライナ紛争がインド太平洋から注目を集める可能性はある。しかし、戦後、ロシアが弱体化し、アメリカの関心が薄まれば、インド太平洋がより注目される、とクーパーは言う。

 「ロシアが弱体化し、NATOが強化されれば、米国はアジアにもっと目を向けられる」「アジアの観点からみれば長期的に有益だろう」。■

 

Biden's Asia Trip is 'Proof' That US Can Focus On Two Fronts At Once, Officials Argue - Defense One

By JACQUELINE FELDSCHER and TARA COPP

MAY 19, 2022

CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

 


Su-57フェロンがウクライナ戦に投入されたとのロシア報道の真偽を考えると理解に苦しむ点が見えてくる。

  

 

 

Su-57フェロンはシリアで試験投入されたが、ウクライナにも作戦投入されているとの記事が出てきた。

 

シアのメディアによると、新世代戦闘機Su-57フェロンが、ウクライナ戦争(現在86日目)で投入されたとある。Su-57事業は相当の問題に見舞われ、まだ完全運用されていないが、フェロンは以前もシリアで限定的ながら戦闘評価を受けたことがあり、実戦にさらにさらされたとしても驚くにはあたらない。

 

 

 「ウクライナでのSu-57使用は、特別作戦開始後2~3週間に始まった」と、匿名の「防衛産業筋」が国営タス通信に語った。「同機は、敵の防空システムの活動圏外で、ミサイルで作戦を行っている」という。

 

生産前仕様のスホーイSu-57フェロン新世代戦闘機。Vladislav06112019/Wikimedia Commons

 

 タス通信は「この件に関する公式情報はない」としており、現時点では上の発言は未確認と見るのが妥当だ。同戦闘機がウクライナ防空圏外で活動しているとすれば、その姿を確認できる画像が出てくる可能性はかなり低い。また、Su-57がどこで活動したのか、いつから任務を遂行しているのか、今も戦闘に参加しているのか、など詳細も不明。

 3月には、ウクライナ上空を飛行するSu-57を撮影した未検証映像がネット上に公開された。しかし、映像は画質が悪く、判断ができない。また、同映像は実際には、翼を可変翼攻撃機Su-24フェンサー、あるいはスホイ・フランカーとの指摘もある。

 フェロンがウクライナ防空圏外で飛行中との主張は興味深い。ロシア軍機への地上防空網の脅威と、ロシア軍がウクライナ空軍に対して部分的な制空権しか獲得できていないことを物語っている。

 一方、こうした戦術は、これまでロシア航空宇宙軍(VKS)の制空戦闘機で判明していることにも一致する。ウクライナ空軍によると、ロシア戦闘機は数的優位に立たない限り空中戦を避けるだけでなく、国境付近で活動することが多い。

 ウクライナ側の防空体制で同機を喪失すれば、すでに大損失を受けているVKSにさらなる痛手となり、またウクライナ側には重要なプロパガンダの勝利となる。このことを考えると、ロシアはSu-57のウクライナ領空内への投入を特にためらうのだろう。損失となれば、ウクライナへの大きなPR効果以上に、フェロンのステルス特性が再び疑問視される。

 しかし、Su-57の場合、ウクライナ国境外での運用は大きな障害にはならない。ウクライナ戦争でSu-35Sフランカー戦闘機が搭載した基本的な空対空ミサイルR-77-1(AA-12 Adder)は、射程距離は68マイルと報告されている。改良型K-77MがSu-57でテスト中であることが知られており、射程はR-77の約2倍になると考えられている。

 そして、R-37M(AA-13 Axehead)の発展形で、Su-57の武器庫に内蔵できるよう改良された超長距離ミサイル、イズデリエizdeliye 810がある。フェロンでテストしている可能性がある。メーカーのデータによると、基本型R-37Mは、最大124マイルの射程で空中目標を撃破できるとある。

 

R-37Mミサイルを発射するSu-35S。ロシア国防省のスクリーンショット

 

 また、Su-57がウクライナ上空で空対地任務に使用されている可能性もある。であればVKSはフェロン用に開発された新兵器の戦闘試験ができる。Kh-69(別名Kh-59MK2)巡航ミサイルがその一つで、180マイル以上先の強化目標の破壊を目的としている。

 また、Su-57兵装庫に入るKh-58UShK対レーダーミサイルや、セミアクティブ・レーザー、イメージング赤外線、アクティブ・レーダーの代替シーカーを装着できる「モジュラー」Kh-38M空対地ミサイルもある。これらの兵器は、ウクライナ国境外からの発射でウクライナ戦に投入可能だ。

 空対地ミサイル含む各種精密兵器が不足中との報道が繰り返されているが、備蓄が尽きているため、Su-57をスタンドオフレンジから特注弾薬で使用している可能性もある。

 しかし、Su-57は制空戦闘機として設計され、現在VKSで最高級の戦闘機だ。つまり、Su-57はウクライナで戦闘機やソビエト時代の防空システムを破壊し、本来の役割を果たすのに理想的な空戦機材だ。Su-57はウクライナの防空バブルの中心部に入り込み、大混乱を引き起こせるはずなのに、まったく異なる戦術が用いられる理由がわからない。

 ウクライナでのフェロンの試験投入は、Su-57と新兵器やセンサーの能力を実際の戦闘環境でテストする機会以外に、輸出を後押しする目的もあるようだ。インドとSu-57派生機を共同生産する計画は、プロジェクトの進捗状況や機体性能に対する懸念から破綻した。

 

2011年8月に開催されたMAKS航空ショーで、コンプレッサーのストールに見舞われたSu-57の試作機。Su-57のいわゆる2段目エンジンの開発は、大幅な遅れが生じている。著者 Rulexip/Wikimedia Commons

 

 ウクライナでSu-57を戦闘にさらす姿が公開されれば戦闘機の評価を高めることになる。シリアではフェロンが戦闘試験のため配備されたとの報道がでてから、ロシア国防省は事実を確認し、詳細な情報を提供していた。

 クレムリンが発注したSu-57の量産機材はわずか76機で、引き渡しずみは今年2月の2機含め計4機のみだ。各機は第929飛行試験センターに配属され、国家認証試験に投入されている。同基地には、T-50の呼称の量産前の機体や試作機もある。

 ロシアは新しい航空機やその他の軍事装備を戦闘状態でのテストや輸出の見通しを立てるために、短期間だけ投入することがある。

 シリアのフメイミム空軍基地に配備されたフェロン2機は、試作機T-50-9とT-50-11で、ロシア国防省は「10回以上の飛行」を行ったとある。その後公開された公式映像で、Su-57は新型戦術空対地ミサイルKh-59MK2を少なくとも1発発射している。

 また、Su-57がウクライナ紛争に投入されているのは、既存機材が予想以上に消耗していることに対応し、VKSの地位を強める狙いもあるのだろう。最近、ウクライナでロシア軍がT-90M戦車や対ドローン用レーザー兵器の配備など、従来よりハイエンドな装備を投入しているのは偶然ではない。■

 

Let's Talk About The Rumors That Russia's Su-57 Is Participating In The War In Ukraine

BY

THOMAS NEWDICK

MAY 20, 2022 1:24 PM

THE WAR ZONE


2022年5月21日土曜日

中国、台湾はウクライナ戦から何を学んでいるのか

 

 

クライナ侵攻の様子に固唾を飲んでいるのが台湾だ。米台両国は中国がウクライナ侵攻をどう捉えているのか理解し、影響力を行使する必要がある。

ヨーロッパから5,000マイル離れた台湾で最も深刻にロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け止められている。台湾は次は自分の番ではと心配している。心配は当然だ。ウクライナと台湾は、戦略的には極めてよく似た苦境に直面している。

プーチン大統領がロシアとウクライナの「歴史的一体化」の回復を精神的使命としているのと同様に、習近平主席は中国本土と失われた台湾を再会させることが、自分の地位を確立するのに役立つと考えている。習近平は、プーチンがウクライナについて語るのと同じように、台湾について語り、血のつながりを強調し、中国と台湾は一つの家族だと主張している。習近平は前任者と同様に台湾の主権を全面的に否定している。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻で、中国が台湾統一を急ぐと考えるのは誤りだろう。基本的に、中国指導者の台湾への武力行使は政治的な判断であり、モスクワの行動の影響は受けない。また、この時点で台湾を攻撃すれば、北京とモスクワが権威主義の軸を形成し、協調して行動し始めたと西側が懸念を高め、米国と同盟国が直接介入する可能性が高まることを中国当局は十分に認識している。

しかし、習近平と人民解放軍指導部はウクライナ情勢を注視し、台湾紛争に使える教訓を見出そうとしている。ロシアの戦いぶりは、台湾を支配下に置く中国の決意を揺るがすものではない。北京からすれば、ロシアのウクライナ戦争は、中国が戦争に踏み切った場合の犠牲を現実で予見したものに過ぎない。中国指導部はロシアの失敗を検証し、同じ失敗をしないように作戦計画を修正するはずだ。

台湾や米国も同様に、ウクライナ戦を中国当局者の視点で精査するべきだ。そうすることで、中国側が既に懸念している事実やパターン、抑止力を強化するため台湾が採用すべき能力などが見えてくるかもしれない。モスクワの行動が北京の意思決定に直接影響を及ぼすと考えるのは間違いとはいえ、プーチンのウクライナ攻撃の決断が戦略的失敗であったと中国を説得できる証拠を特定すれば、米台の戦略家が中国による壊滅的な台湾攻撃を阻止するのにも役立つはずだ。 

世界は不穏になった

ロシアのウクライナ侵攻は、より危険な時代に突入し、戦争の可能性が高まることに備えるべきと考える中国の指導者の裏付けとなった。習近平は開戦後のバイデン米大統領との電話会談で、「平和と発展の優勢な流れは深刻な挑戦に直面している」、「世界は平穏でも安定でもない」と指摘した。習近平の言葉は、中国が今後も国防予算を増やし続けることを強く示唆し、台湾征服に必要な能力の開発に重点を置いている。

米国が世界トップクラスの経済大国による諸国連合でロシアに厳しい制裁を加える姿を、中国は米国の影響力が低下している証拠と捉えている。北京からすれば、連合に亀裂があれば心強いニュースとなり、米国の緊密なパートナー国の中には、ロシアの戦争犯罪の疑いが報道された後も、ロシアを制裁せず、ウクライナ侵攻を強力に非難しているインドのような国もある。中国は、台湾と外交関係を結んでいる国が少なく、非公式な関係すら希薄な国が多いことから、台湾に対する世界の支援はウクライナ支援よりも控えめになると考えている節がある。また、ロシアは一部国との経済的な結びつきを利用して、対象国を傍観させることに成功しており、中国は、ロシアがはるかに大きな経済力を有しているため、多くの国が台湾を支援することはないと安心しているのだろう。

中国がウクライナ戦争から学んだ最重要点は、米国が核武装した相手には直接介入しないことだ。

また、中国はロシア制裁を研究し、同様の行為に対する自国の脆弱性を減らす措置をとるだろう。第一は、輸出を促進すると同時に内需拡大する「二重循環」戦略を加速させ、中国への経済的依存度を高めながら、他国への依存度を低下することだ。この戦略は、中国経済を制裁から守り、欧米諸国が台湾侵攻を抑止・処罰するために北京に加える制裁が、欧米諸国を傷つけるようにするこ2つの目的を同時に実現する。また、半導体のような重要技術の国産化、米国の金融システムとドルへの依存度の低減、ドルをベースとした国際決済システムSWIFTに代わる決済システムも試みていくはずだ。中国がこの面でどれだけ前進しようとも、中国が世界のサプライチェーンの中心であることを考えれば、米国の同盟国は中国に広範な制裁を課すことをためらうはずと、中国の指導者は確信しているのだろう。

中国がウクライナ戦争から学んだ最も重要な教訓は、米国が核武装した相手国に直接軍事介入することをためらうということであろう。ロシアがウクライナに侵攻する前、米国は「NATOとロシアの直接対決は第三次世界大戦だ」とバイデンが警告し、直接軍事介入の選択肢を外した。中国のアナリストや政策立案者は、ロシアの核兵器が米国の介入を抑止し、核兵器が通常作戦に余地を生み出すと結論付けた。中国の戦略家は、10年以内に少なくとも1000個の核弾頭に達すると推定した核兵器増強に多額の投資を行う中国の決定を正当化すると考えているようだ。また、プーチンの核兵器発言の乱射を目の当たりにした中国は、紛争初期に核警告レベルを引き上げたり、核実験の挙行で、米国による台湾への介入を抑止できると判断する可能性もある。

ロシアの軍事的失策は、中国共産党によるより良い計画に繋がり、台湾制圧の可能性を高めることにつながる。ロシアはウクライナで制空権を確保できず、自軍に燃料、食糧、軍需物資を供給し続けられず、統合軍作戦を効果的に実施できなかった。中国共産党指導部は、豊富な作戦経験を持つロシア軍が決定的な勝利を収められなかったことに衝撃を受けただろう。PLAにとって、これは2015年に始めた軍事改革の正当性を示すもので、統合作戦と兵站に焦点を当て、米国が複雑な統合作戦を行うのを見ながら学んだ教訓を取り入れるものである。同時に、PLAは相当量のロシア軍装備を投入し、ロシアの軍事改革の要素を統合しようとしてきたため、ロシアの苦戦はPLAに台湾との戦いに必要な作戦を実施する準備態勢に疑問を抱かせた可能性がある。また米国はウクライナと同じ兵器を台湾に売却しており、ウクライナはその兵器を大いに活用している。

ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領のウクライナ国民と国際世論を結集する能力は、中国指導者に、紛争初期に台湾の政治・軍事指導部を排除し、台湾人の抵抗の決意を打ち砕くことの重要性を示した。実際には、最低でも台湾の指導者を暗殺し、民衆の士気を低下させ、指揮統制を阻害し、結集する人物の出現を阻止することが必要である。しかし、中国は攻撃に先立って、台湾社会の分裂を煽り、偽情報を流し、台湾と外部との通信を遮断するなど、より広範な作戦を展開すると思われる。中国はすでにメディアへの投資や情報機関の採用を通じて、台湾で親中派を広めるための重要な基盤を確立している。今後もこの非機動戦の要素に磨きをかけていくに違いない。

台湾はどう備えたらよいのか

中国は、ロシアのウクライナ戦争を契機に、台湾紛争への備えを強化しようとしており、台湾も同様に備えるべきだ。明るい兆しもある。ウクライナがロシアとの戦いの初期段階で成功したことを、台湾人多数が街頭に出て祝福し、活動家や評論家は、ウクライナが軍事的に優れた敵を撃退したことで、台湾人も同じことができると信じるようになったのだと論じた。台湾の国防相は、ウクライナの戦術を研究するワーキンググループを設立し、義務兵役延長の可能性を提起しており、世論調査で4分の3以上の支持を集めている。

しかし、これだけでは十分ではない。台湾は非対称防衛戦略を早く採用すべきだ。台湾はウクライナ同様に、携帯型防空システム、無人機(台湾はすでにロシアの侵攻を受けており、優先順位を上げている)、対戦車ミサイルなど、ウクライナで大きな効果を上げた能力の整備に力を入れるべきである。また、対艦ミサイルや機雷の製造も強化する必要がある。台湾軍部隊は、指揮統制を分散化し、小規模部隊でめまぐるしく変化する現地状況を分析し、適応できるシステムの開発が急務だ。

また、よく訓練された予備軍を創設し、領土防衛軍を新設し、広範に社会全体を動員する計画を立てる必要がある。ウクライナの一般市民が砲撃に耐え、多くが武器を手にしたことは、台湾が中国の攻撃に耐えるために必要な回復力の姿を示したといえる。中国が台湾を攻撃した場合、目的は2400万人を永久に支配することであり、それを不可能にするのが台湾国民だ。

台湾が対処すべき決定的な弱点は、紛争時の国民と軍への補給が困難さだ。ウクライナはNATO加盟国と国境を接するため、ロシアの侵攻後も武器や人道物資の供給が可能だが、封鎖の可能性はともかく、侵攻された場合の台湾への供給は極めて困難となりかねない。食糧や医薬品など基本的な物資でさえ、民間船や航空機が乗組員の命を危険にさらして物資を送り続けるとは期待できないため、供給は困難となる。特に米国が台湾に介入してきた場合、台湾軍への供給は限りなく困難になる。

中国は、ウクライナが戦火の中でも欧米諸国からの補給に頼っていることを指摘しており、紛争時には一刻も早く台湾を切り離すことを優先してくる可能性が高い。台湾はそれを見越して、軍需品や石油、食料など重要物資を備蓄し、台湾全土に分散する準備を今から実施する必要がある。つまり、台湾が中国共産党と持続的に戦い、国民が抵抗できるように食糧と健康を維持するため必要な物資は、紛争開始時に台湾になければならない。

米国の抑止力の役割を果たせる

米国は、中国による台湾攻撃を抑止し、中国の侵略に対応するためプレイブックも磨いておかなければならない。制裁の威嚇だけでは、習近平の計算は変えられない。米国は、プーチンがウクライナに侵攻すれば莫大な経済的影響を受けると公式に警告していたが、プーチンは侵攻を実行した。また、中国が世界経済の中心であることを考えれば、中国に広範な制裁を加えるのは容易ではない。

米国は平時から同盟国やパートナー国と制裁パッケージを調整し、中国への経済的依存を減らす方法を検討する必要がある。ロシアに対する制裁の最大の弱点は、ロシアのエナジーに対するカーブアウトである。ヨーロッパの石油・ガスへの依存度を考えれば、(少なくとも紛争の最初の2ヶ月間は)必要だと考えられる。米国は、世界が供給をほとんど中国に依存しているレアアースのような材料の代替品を開発するため、各国と協調して努力する必要がある。

ウクライナ紛争から中国が得た教訓の一つは、米国が台湾に軍事介入することを回避する危険性だ。従って、米国は台湾防衛に直接乗り出すことを明示する戦略的かつ明確化された政策の導入が必要だ。信頼できる軍事的オプションは不可欠であり、これは台湾を国防総省のペースメーカーと見なし、資金を供給し続けることを意味する。米国はまた、台湾との協力を緊密にし、台湾の自衛能力を強化するため、強固な二国間訓練プログラムの確立が必要だ。また、台湾が非対称防衛戦略を策定し、台湾向け武器供与に優先順位をつける支援が必要だ。

ウクライナ危機で、米国の情報機関はプーチンの動きを事前に察知し、情報を同盟国と共有することで、プーチンから戦略的な奇襲の機会を奪い、強力な制裁と軍事支援を中心とする連合体の結束を促した。米国は、中国の計画に関する情報を収集し、先手を打って共有への準備も整えるべきだ。米国は、中国が台湾への攻撃を準備していることを示す初期の兆候を確実に把握するために今から行動し、情報をパートナーと共有し、開戦前から統一対応を準備しなければならない。

ロシアと中国が連携を強めていることから、米国は、台湾をめぐる紛争時にロシアが武器、エネルギー、食糧、情報など、中国に多大な支援を中国に提供する可能性を排除できない。また、ロシアは中国との戦いから目をそらすために、サイバー攻撃や欧州の不安定化を狙ってくることも想定の必要がある。中露両国は2月4日の注目すべき共同声明で「無制限」の友好関係を確立し、「核心的利益を守るため強力な相互支援」を再確認し、ロシアは「台湾は中国の不可分の一部である」ことに同意している。ウクライナ戦争でロシアを全面的に支援した中国は、台湾紛争で恩返しを期待するだろう。

米国と台北が抑止力強化のために取るべき行動は、回避したい紛争を不用意に引き起こさないよう、慎重に行う必要がある。まず、台湾との連携を強化する場合、公の場には出さず、静かに行うべきだ。米国と台湾は、台湾の戦闘能力をいかに向上させるかに焦点を当て、象徴主義を排するべきである。米国は内々に、これらの動きが米国の一つの中国政策に合致し、中国の軍備増強によって台湾海峡のパワーバランスが損なわれていることへの対応であることを中国に強調すべきだ。米国は台湾独立を支持せず、台湾海峡の現状維持が最大の関心事であると公の場で強調すべきだ。

ウクライナ戦争は、中国、台湾、米国各国に重要な教訓を与えている。どちらがより巧く適応するか次第で、抑止力が通用するか、世界を根底から変えかねない紛争になるかが決まる。■

What Is China Learning From Russia's War in Ukraine? | Foreign Affairs

America and Taiwan Need to Grasp—and Influence—Chinese Views of the Conflict

By David Sacks

May 16, 2022

 


ウクライナ戦におけるインテリジェンス 第二部 ウクライナ、ロシアそれぞれの実態

  

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クライナ戦は、ウクライナ政府とその同盟国が作戦情報の収集と分析に成功したこと、収集、分析、意思決定における集団的弱点がロシアにあるという二律背反の窓を提供している。高度な情報共有、クラウドソーシングによるオープンソースインテリジェンスの活用、シャープかつ柔軟な戦略立案は、これまでのところウクライナ側に有利な要素となっている。これに対し、戦場におけるロシアの弱点はあきらかで、ウクライナの能力と士気を評価する際の先入観という自らの制約にある。

 

ウクライナの政府と軍は、ロシアの情報面の失態の利用に長けており、自国の情報面の専門性を活用していることが証明されている。これはドンバスでの8年間の経験と、最近のNATO標準での訓練によるもので、高度に統合され技術的に進んだ情報収集・監視・偵察(ISR)がドクトリンで中心的な役割を担っている。また、戦略情報とあわせ、オープンソース情報の規模と能力が爆発的に向上したため、分散型、グローバル化、さらには「民主化」された事業へと変貌を遂げている。ロシアは、グローバルなオープンソース情報革命からますます切り離され、21世紀型の情報環境の戦争への備えがまったくないまま、ウクライナ攻撃を開始した。

最初から失敗していた見積もり、 インテリジェンスと作戦計画

インテリジェンスは作戦レベルの軍事行動を全面的に支援するが、「作戦計画に対するインテリジェンス支援」と「計画された作戦の実行に対するインテリジェンス支援」の2つの段階がある。その違いは漠然としているが、計画段階では分析が強くなる傾向があり、作戦への支援では情報収集が中心となる。情報分析の基礎は計画段階で行われる。NATO軍では「環境の情報準備」と呼び、これがないと、作戦が失敗する可能性が高くなるだけでなく、情報収集が誤った初期想定に基づくため、失敗からの回復が困難となる。ロシアのウクライナ戦は、拙い初期情報準備により、こうした誤りや誤った想定からの回復に非常に時間がかかっているようだ。

ロシア参謀本部は NATO の参謀本部とは異なるが、軍事的な意思決定プロセスはすべて、 任務の理解、情報の準備、行動方針の策定、評価、方針の選択、最終的な命令の策定と いうステップは類似している。ここではロシア専門家であるレスター・グラウLester Grauとチャールズ・バートルズCharles Bartlesが定義するロシアの軍事的意思決定プロセスの第2段階を見ることにする。情報整備はそれ自体、複数のステップによるプロセスだ。大雑把に言えば、参謀は地形、敵の能力とドクトリン、そして敵の意図を評価し、統合して可能性の高い敵の行動方針を決定する。これらは、指揮官の意図に従い、参謀が自らの計画を策定する際の基礎となる。情報収集は作戦計画策定の基本であり、有能な将校が厳格に行うべきだ。また、敵に関する確かな情報に基づき、客観的な分析がなされなければならない。敵の意図や兵士の士気を評価するのは容易ではないが、正直に行うことができるし、そうすべきだ。

しかし、ロシア軍幕僚は、この手順を慎重に行うより、迅速な意思決定サイクルを好む。指揮官の指示は正しいとされ、参謀は指示をどう実行するかの戦術を決定するだけだ。NATO軍が行うような情報準備に基づく計画はない。その代わり、より限定的な(しかしはるかに数学的な)戦力と手段の相関分析を行う。この分析から参謀は限られた選択肢のうちで、どの戦術オプションで命令を実行するかを選ぶ。

プーチン大統領は、この形の分析に揺さぶりをかけているようだ。ロシアの諜報機関は最近、ウクライナの政治的感情や態度を分析し、結果をシンクタンクのRoyal United Services Instituteが報告書にまとめている。プーチンはこれを、ロシアの介入によって変わる「時間のスナップショット」として見るのではなく、自分の既成概念を裏付けるものとして読んだようである。実際、モスクワは、ウクライナ東部のロシア語圏でキーウに反発すれば、すぐ勝利できると考え開戦した。プーチンの側近ウラジスラフ・スルコフVladislav Surkovは、2020年のインタビューで、「ウクライナなど存在しない。あるのはウクライナらしさだ。つまり、心の障害だ」と述べていた。プーチンは侵攻直前の演説で、「ウクライナは自分自身の本物の国家性を持ったことがない」と繰り返した。この路線への異論は、ロシアのオープンソース・レポートには見受けられない。

プーチンは、ウクライナはロシア、あるいはロシアであるべきだと考え、この考え方が、ロシア軍の重要な計画検討に影響を与えたのは確かだ。ロシア軍は、ウクライナ政府を構成する「麻薬中毒者とネオナチの一団」を追い出す作戦であり、ウクライナ国民から歓迎すると聞かされていたようだ。パレードを想定して、制服まで用意していた。

ロシアの諜報機関は、プーチンがウクライナを吸収されるべき国家として見ていたのに影響されたと推察される。ベリングキャットのクリスト・グロゼフ Christo Grozevによれば、プーチンは4月初旬、連邦保安庁第5局長のセルゲイ・ベセダ元帥Gen. Sergei Besedaを含む150人以上のロシア情報機関関係者を「ウクライナに関する信頼できない、過度に楽観的な情報を報告した」ためクビにした。これは、不正確または明らかに欺瞞的な情報を提供する軍事・政治文化があるのを示唆している。この動きが事実ならば、プーチンは今回の戦争について誤ったイメージを抱いていたという仮説が裏付けられる。

この証拠は、侵攻前のロシア国家安全保障会議でテレビ放映された。プーチンは、ロシア対外諜報局長のセルゲイ・ナリシキン Sergey Naryshkinを公然と辱め、ロシアが分離独立したドンバスの2共和国を正式承認するのは良い考えであり、戦争への道を歩み始めることだと同意させた。諜報機関の指導者たちは、自分たちや主要な顧客に対して知的な意味で正直でなかった。正直であれば、屈辱、投獄、あるいは死をもって報われると広く理解されていた。デビッド・ジオーとヒュー・ディランDavid Gioe and Huw Dylanがワシントン・ポストで論じたように、「(プーチンは)国家安全保障と情報機関の顧問団の助言を無視したか、あるいは、以前の強権指導者と同様に、自分の聞きたいことだけを部下が話す状況を作り出した」。戦時指導者としてのプーチンの能力に疑問がついている。

こうした前提での結果は、侵攻第一週に表れた。ロシア軍はウクライナの空軍や防空システムを破壊できず、ホストメル空港の強襲に失敗した。ウクライナの統合防空システムが稼動し、ウクライナ軍の反撃が激しいにもかかわらず、攻撃を強化し続けたため、ロシア軍の空挺部隊は壊滅的な死傷者を出した。また、ロシアは4日間を超える作戦で後方支援が十分できず、市民インフラへの被害を防ぐため、支援攻撃(砲撃、航空、ミサイル攻撃)が制限された。しかし、ロシアの悲惨な侵攻計画の多くには、初期見積もりの甘さ(あるいは、より一般的な知的不誠実さ)が背景にある。

プーチンとそのアナリストが行ったと思われる見積もりでは西側諸国はウクライナを支持しないと、見ていた。2008年のジョージア侵攻や2014年のクリミア侵攻に西側、特にヨーロッパは反応しなかった、今になって反応するだろうか。ジョージアが西側諸国の関心領域の外側にあり、クリミアではプーチンが驚くべき成果を達成したという事実で説明できるかもしれない。今回はそのどちらも当てはまらない。とはいえ、欧州が侵略にここまで強力に反応したことが、多くのオブザーバーを驚かせた。現在、ほとんどの国から武器が流入しており、支援策への国民の支持はほぼすべての国で非常に高い。2月下旬には、これはあり得なかった。

ロシア軍のオペレーションインテリジェンスの失敗

ロシア連邦軍の失敗で注目されているのは、「新体制改革」(2012年より)で導入された大隊戦術群だ。戦術群、さらにロシア軍全般の失敗は明らかであり、欧米やロシアのアナリストでさえ、以前から明らかにしていた。情報面では、大隊戦術群は小規模な司令部となり、大規模な編隊司令部が持つような戦術レベルの情報業務に必要な力を欠くことが問題だ。また情報収集の範囲も、小規模な本部と低い組織力により損なわれている。米軍の報告書によると、情報分野では、戦闘部隊は狭い視野の戦術システムしか持たず、「全般をカバーすることはほとんどない 」という。戦術的無人機を調整するために、大隊戦術グループの指揮統制は、「作戦中隊と情報・監視・偵察要員を戦術的集合地域に併置する必要があり、ハイペイオフのターゲットとなる」と述べている。ウクライナ側がこのことに気がつかなかったはずがない。

通信手段の確保も、短期決戦を期待したロシア側の犠牲になっていたようだ。初期の報告では、ロシアの通信インフラは戦場で性能が低く、特に最先端の暗号化無線が不調であったとされている。その結果、ロシア軍は携帯電話や暗号化されていない高周波無線を使う間に合わせの現場解決策に大きく依存し、ウクライナ軍のみならず無線愛好家でも簡単に傍受できた。ロシア製のエラ電話システムは携帯電話網に依存するが、ロシア軍の攻撃でウクライナ国内で携帯電話タワーが破壊されたため、ロシア軍は安全な電話を使えず、オープン通信システムに頼らざるを得なかった。これがウクライナ側に情報面でのメリットを生んだ。

3月には、ウクライナ国防省の情報部門が、第41軍の参謀長ヴィタリー・ゲラシモフ少将Maj. Gen. Vitaly Gerasimov含む将校数名の死について、FSB 将校 2 名の通話の傍受内容を発表した。後にBellingcatがこれを検証した。英シンクタンクRUSIの報告書によれば、「ウクライナ軍は戦場で数的に劣っても、ロシアの劣悪な通信環境がウクライナに信号情報の優位性を与えている」とある。「RuAF(ロシア軍)の無線通信を探知し発信源を突き止めることで、ウクライナ軍は敵を発見し、特定し、動力学的・電子的に交戦できる」。

この問題をさらに悪化させたのは、ロシアが初歩的な安全保障措置すら怠ってきたことだ。ISRは、敵が自分たちに向け展開している能力を指揮官に認識させるべきものだ。これにより作戦行動の自由を確保し、優れた情報を持つ相手による迎撃や先制攻撃を回避する作戦上の安全対策や欺瞞対策が可能になる。ロシアも外部も、否定と欺瞞の面でロシアの優位性を長い間認識してきた。ロシア語で「マスチロフカ」maskirovkaと呼んでいる。ロシアが唯一成功した欺瞞は、自作自演のようで、「力と手段の相関関係」の分析がうまくいかなかった反映である。その結果、本稿執筆時点で将官9名と30人以上の大佐含む指揮官多数が死亡している。参謀・指揮機能の劣化は、ロシアの作戦における問題を倍加させ、長期的な課題となっていることは確かだ。

ロシア軍の作戦情報計画には、敗北や失敗に直面した場合に戦術的アプローチを変更できない、という側面がある。優れたインテリジェンスの準備とは、敵で最も可能性の高い行動方針と最も危険な行動を推定することにある。主に前者について計画を立てても、敵の行動が後者により適合する可能性にも目を配る。そのような場合、指揮官に警告する指標や警告システムを導入し、部隊は不測の事態に備えた計画に移行できる。ロシア軍は、最初の取り組みが失敗した場合の計画変更に、作戦情報能力を使用していないようだ。あるウクライナ特殊部隊の隊員は、ロシア軍が失敗しても作戦に固執し、無防備な場所に無造作に砲撃を加え続けたことに触れ、「ロシア人がクソバカでラッキーだ」とまで言った。

この愚かさで、ロシアの情報管理能力の低さとあわえ、戦術的な情報管理でのウクライナの優位性に対抗した。力のぶつかり合いの結果、特にキーウの北部戦域で顕著なように、ロシア軍を待ち伏せし大きな消耗を引き起こすウクライナの優位性が生まれた。ウクライナ軍はロシア軍の接近を察知し、頻繁に広範囲に待ち伏せ、「シュート&スクート」を計画できたが、ロシア軍はウクライナ軍がいつどこで行動するか判断できなかった。ウクライナ側が主導権を握り、局所的な優位性が生まれた。

注意しなければならない。これまでウクライナ軍がロシア軍から受けた損失は不明だ。ウクライナ側は情報作戦を巧みに駆使し、死傷者の正確な状況は公表していないばかりか、議論すらしていない。ほとんどの情報がそうでないことを示唆しているが、ロシア軍の諜報活動が正確な情報を提供し、ウクライナの陣形を効果的に狙っているのかもしれない。例えば、ウクライナの大型防空システムに深刻な犠牲者が出ていることが分かっている。ロシア軍の作戦情報能力を効果的に評価するには、時間がかかるし、データも不足している。

ウクライナはインテリジェンスで賢く戦っている

ウクライナが情報面で優位に立てた大きな要因として、西側同盟国が示した情報共有への姿勢、オープンソース・インテリジェンスのパワーと可能性が高まったことの2点がある。宇宙打ち上げコストの急速な低下により、10年前の非常に高価な国営「スパイ衛星」システムに匹敵する民間の高解像度地球観測システムが普及してきた。商業システムは、雲探知レーダーを含むマルチスペクトルおよびハイパースペクトル画像を、ほぼ連続で提供する。国家の地理空間情報機関が民生衛星を利用することで、そのカバー範囲と効率が向上した証明だけでなく、画像情報分析を公開または低レベル分類で提示することが可能になった。

また、ウクライナもこの商業衛星画像を利用している。第1回で紹介したように、Maxar TechnologiesやBlackskyといった企業は、オープンソース画像をニュースメディアに提供し、パブリックドメインとして発信している。2月24日から紛争が激化すると、ウクライナ政府はMaxarなどと協議し、作戦情報用に画像の確保に乗り出した。一方、カナダ企業は米国の民間画像解析会社と提携し、RADARSAT-2のレーダー画像をウクライナと共有することにした。さらに公式情報源の情報もある。

情報連絡の機密性のため、不明な点も多いが、米政府関係者はウクライナ政府への情報提供が活発になっていることへコメントしている。ホワイトハウスのジェン・サキJen Psaki報道官は3月上旬、米国はウクライナの防衛態勢を支援するため、「ロシアの侵攻に対する軍事的対応に情報を与え、発展させる」リアルタイム情報を共有していると述べた。情報筋がCNNに語ったところによると、情報交換には「ロシア軍の動きや位置」、「軍事計画に関する通信の傍受」などが含まれ、米国が入手してから30分から1時間以内に共有しているという。ウクライナ軍がロシアの巡洋艦モスクワを撃沈するのを外国の情報機関が手助けしたとの見方もある。5月、匿名の米政府関係者がニューヨーク・タイムズ紙に、米情報機関が「ウクライナのロシア将兵殺害を手助けした」と語ったが、国家安全保障会議のエイドリアン・ワトソンAdrienne Watson報道官はこの主張を否定している。「記事の見出しは誤解を招くものであり、その組み立て方は無責任だ」「ロシアの将軍の殺害をねらい情報を提供しているわけではない」 と述べた。

しかし、外国の情報連絡には、注意が必要だ。海外情報をただ受け取るだけでは役に立たない。統合して一つの情報像にする分析能力が軍似必要だ。ウクライナ軍が外国からの情報と自国の情報収集・分析を両立させているのは、ウクライナ軍参謀本部とヴァレリー・ザルジニGen. Valerii Zaluzhnyi総司令官の優秀さを示している。米国情報機関を過大評価することは問題である。元CIA職員のジョン・サイファーJohn Sipherは「ウクライナに失礼だと思う」と言う。「現場で情報を活用し、自分たちで情報を集め、日夜戦う人たちから遠ざかっている」。

ウクライナのオープンソース・インテリジェンス

ウクライナの情報収集と友好国政府からの情報提供は、ロシアとその国民が持つ一般的な「ホームグラウンド」の優位性を補完し、ロシアの惨状をさらに深刻なものにしている。ウクライナの軍事情報は、ロシアの通信セキュリティの低さ、無線・電話通信の安全性の低さを利用している。情報というものは傷みやすいため、ウクライナの軍事情報部が情報を素早く処理したのは当然であり、戦術情報の成功の多くはウクライナ側の部隊によるものであった。

しかし、ロシア軍の情報を提供する「センサー」としてのウクライナ国民の存在がいかに大きいかも明らかとなった。ロシア軍は住民に歓迎されると判断していたこともあり、地元ウクライナ人を確保する行動をほとんどとらなかった。しかし、市民の携帯電話は、あっという間に巨大な分散型オープンソースセンサーネットワークに変貌した。ウクライナのデジタル変革担当大臣であるミハイロ・フェドロフMykhailo Fedorovは、ワシントン・ポストのインタビューで、ウクライナ政府の公共サービスアプリ「Diia」で、市民がロシア軍の動きについてジオタグ付き写真やビデオを投稿できるほど、クラウドソースによるオープンソース情報が自国に重要であると述べている。同アプリは「戦時下において、電子文書や検問所での市民の身分証明書だけではなく、敵部隊やハードウェアの動きを報告する機会になった......それはまた、自分がバイラクターのオペレーターであると想像する可能性でもある」。フェドロフは、毎日何万件もの報告を受け、「非常に、非常に有用」と述べている。

オープンソースインテリジェンスは万能ではないし、信号、電子、画像情報などの長年にわたる情報収集手法や、主権的な収集システム(ウクライナ側が2014年から構築してきたもの)に置き換えるものでもない。しかし、強固な分析能力と結び付き、その他情報収集の流れと融合することで、重要な貢献となる。個々の市民は、ある車両を「戦車」としか認識できないかもしれない。しかし、戦車の写真が情報融合センターに届けば、型式を特定できる。その戦車は特定の部隊にしか所属していない可能性があり、分析官にはここが敵の主戦場であり、他の場所でのフェイントは無視する指示が出るかもしれない。主権者の技術システムも情報を収集できるが、常に需要が高く、同時にどこにでもいることはできない。携帯電話を持つ一般市民は、大規模な戦闘中でさえ、処理能力と分析能力の裏付けがあれば、情報収集の網をより広範に提供できる。

司令部と部隊間の交信だけでなく、ロシア兵は個人所有の携帯電話や略奪した携帯電話を使って家に電話をかけている。これは、ロシア軍の状況(しばしば貧しく、士気も低い)を示唆するものであり、ロシアの戦争犯罪の証拠にもなっている。ブチャでの出来事について、ロシア軍将校が故郷の妻と交わした電話を傍受したオープンソースが一例である。ロシア侵略関連の戦争犯罪裁判でも、間違いなく重要な証拠になるだろう。

結論

ウクライナがオープンソース含むインテリジェンスを軍事作戦に統合したことは、近年の改革と欧米の援助が成功したことの証左だ。これがどのように機能しているかについての詳細はほとんどなく、ロシアのさまざまな機能不全について入手できるデータよりはるかに少ない。これも実力の証明だ。侵略軍と対照的に、ウクライナ軍は通信手段を確保し、最も可能性の高い行動と最も危険な行動の双方を計画する能力を持っていると考えてよい。指揮官は情報収集能力を十分備えているように見える。推測の域を出ないが、ホストメル防衛とその後の反撃がこれを最もよく証明しているのではないだろうか。空挺作戦が破壊されたため、ロシアは迅速な勝利と政権交代という政治的目標を達成する可能性がなくなった。ウクライナは航空戦力と対空砲火を選択的に使用し、戦術レベルおよびオープンソースの情報・偵察の広範な統合が、劣勢にもかかわらず侵攻軍を阻止する鍵になった。ウクライナの防衛は、ロシアの失敗と対比される成功例として、情報史に刻まれることは間違いないだろう。欧米の情報機関関係者はウクライナを訪れ、学ぶことが必要になる。■

 

Intelligence and the War in Ukraine: Part 2

NEVEEN SHAABAN ABDALLA, PHILIP H. J. DAVIES, KRISTIAN GUSTAFSON, DAN LOMAS, AND STEVEN WAGNER

MAY 19, 2022

COMMENTARY

 

Dr. Neveen Shaaban Abdalla is a lecturer in international relations (defense and intelligence) at Brunel University London. Dr. Abdalla specializes in terrorism and counterterrorism and security in the Middle East and North Africa.

Prof. Philip H.J. Davies is the director of the Brunel University Centre for Intelligence and Security Studies. Professor Davies has written extensively on U.K. and U.S. intelligence, joint intelligence doctrine, and counterintelligence.

Dr. Kristian Gustafson is a reader in Intelligence & War. Dr. Gustafson is deputy director of the Brunel Centre for Intelligence & Security Studies and has conducted consultancy and advisory work for the MOD’s Development, Concepts and Doctrine Centre, including an integral role in developing U.K. Joint Intelligence Doctrine.

Dr. Dan Lomas is a lecturer in Intelligence and Security Studies at Brunel University London. He specializes in contemporary U.K. intelligence and is currently co-editing a history of U.K. intelligence reviews for Edinburgh University Press.

Dr. Steven Wagner is a senior lecturer in international security at Brunel University London. Dr. Wagner is a historian of intelligence, security, empire, and the modern Middle East.

Image: CC-BY-NC 2.0, Flickr user manhhai


5月14日-20日 日本周辺の海での中露米海軍の動き

 


 

統合幕僚監部が発表した東調級情報収集艦の画像と動向

 

 

国とロシアの監視艦がそれぞれ日本の周囲を今週航行した。

 

 

 中国艦は木曜日に大隅海峡を、ロシア艦は水曜日にラペルーズ海峡(宗谷海峡)を航行した。また防衛省の発表によると、人民解放軍海軍の第41中国海軍護衛機動部隊は、アデン湾に向かう途中、宮古海峡を木曜日に航行した。

 統合幕僚監部(JSO)は水曜日の報道発表で、ロシアの監視船RFSプリバルティカ Pribaltica(80)が午前5時に宗谷岬の西120kmを東に航行しているのを目撃し、その後ラ・ペルーズ海峡を東に航行したと発表した。

 海上自衛隊の高速ミサイル艇「わかたか」(PG-825)と海上自衛隊八戸航空基地(青森県)に所属する第2航空群のP-3Cオリオン海上哨戒機(MPA)がロシア艦を監視した。

 金曜日に、海上保安庁から2つ発表があった。PLANの東調級監視艦(船体番号795)が、木曜日午前9時に種子島の東約100キロメートル西方で目撃され、その後、大隅海峡を東シナ海に向け西進した。鹿児島県の鹿屋基地に所属する第一航空群のP-1哨戒機と補給艦JSはまな(AOE-424)が、PLAN艦を監視していた。

 JSOによると、木曜日午前8時、PLANの駆逐艦、フリゲート、補給艦の3隻が宮古島の北150kmで目撃され、その後、沖縄と宮古島の間を南東に進み、太平洋に出た。中国海軍第41護衛機動部隊のCNS 蘇州(132)、フリゲート艦CNS 南通(533)、CNS巢湖(890)である。

 

PLANのJ-15艦載機が遼寧 (16)から発艦した  May 20, 2022. Japanese MoD Photo

 

 新華社によれば、PLAN は 2008 年 12 月から、アデン湾を航行する中国船舶を保護するため、海賊対処部隊を派遣しており、第41任務部隊は水曜日午前に中国を出航した。支援艦、JSあまくさ(AMS-4303)が、PLAN部隊を監視していた、と 統合幕僚監部が伝えた。

 これと別に、CNS遼寧空母打撃群(CSG)は現在、フィリピン海の日本の排他的経済水域の外で活動しているようで、統合幕僚監部は月曜日以来、同CSGの活動に関しては発表がない。最後の発表では、遼寧は052D型駆逐艦2隻を伴い、日曜日午前9時に沖大東島の南350kmで目撃され、午前9時から午後9時まで、搭載するJ-15戦闘機とZ-18ヘリコプターで飛行作戦を実施した。

 統合幕僚監部発表によると、駆逐艦「すずつき」(DD-117)が艦船を監視し、航空自衛隊戦闘機がJ-15の発進に対応してスクランブルをかけた。遼寧は、055 型駆逐艦 CNS南昌(101)、052D 型駆逐艦 CNS 西宁(117)、CNS ウルムチ(118)、CNS 成都(120)、052C型駆逐艦 CNS 鄭州(151)と共に展開している。054A型フリゲートCNS湘潭(531)、901型高速戦闘支援艦CNS 呼倫湖(901)は、5月2日に宮古海峡から太平洋に進出し、4日から太平洋からフィリピン海で空母飛行作戦を実施していた。

 5月4日、人民解放軍空軍(PLAAF)H-6爆撃機2機が東シナ海から飛行し、沖縄と宮古島の間を通過して太平洋に達し、その後太平洋上を旋回して再び沖縄と宮古島の間から東シナ海に向かった、と統合幕僚監部は水曜日の報道発表で発表した。航空自衛隊の戦闘機が2機を追尾した。

 一方、米空母USSロナルド・レーガン(CVN-72)は、2022年春のパトロールで横須賀を金曜日に出発したと、米第7艦隊はニュースリリースで発表した。

 駆逐艦部隊15の駆逐艦と巡洋艦USSチャンセラーズビル(CG-62)、USSアンティータム(CG-54)がロナルド・レーガン空母打撃群を構成する。

横須賀市の公式ウェブサイトは、レーガンが出発する間、USSエイブラハム・リンカン(CVN-72)が土曜日に横須賀に寄港するとニュースリリースで発表した。外務省が金曜日に横須賀市役所に空母寄港を通知していた。

 強襲揚陸艦「トリポリ」(LHA-7)は、金曜日に岩国海兵隊航空基地に入港した。トリポリは、5月2日に西太平洋に展開するため、カリフォーニア州サンディエゴ海軍基地を出港していた。■

 

 

Chinese, Russian Navies Remain Active Near Japan; Carrier USS Ronald Reagan Begins Spring Patrol - USNI News

By: Dzirhan Mahadzir

May 20, 2022 3:36 PM



コメント 統合幕僚監部の報道発表https://www.mod.go.jp/js/Press/press2022.htm

では逐一中国、ロシアの日本周辺での動きを発表していますが、日本のメディアは無視した形ですね。報道の価値がないというのでしょうか。安全保障ではこうした小さな動きが重なって大きな事態に発展していくのが常ですが、事件性がないから報道しないというのでしょうか。あるいは波風を立てたくないというのでしょうか。