2021年11月13日土曜日

オーストラリア:原子力潜水艦調達でインド太平洋での兵力投射効果拡大を期待。一方で東南アジアにAUKUSへの懸念も残る。では日本はどう関与するべきか。

 

 

Royal Australian Navy submarine HMAS Rankin

王立オーストラリア海軍のコリンズ級潜水艦HMASランキン。ダーウィン北方海域で行われた演習にて。

Royal Australian Navy/POIS Yuri Ramsey

  • AUKUS加盟国には課題として域内問題の解決はまったなしだ。

  • その中でオーストラリアは英米協力のもと建造する潜水艦の運用海域を想定している


英米三か国の安全保障同盟関係で潜水艦が中心になっているが、オーストラリアは運用想定を明確に認識している。


AUKUS同盟が9月に公表され、防衛技術面での協力が深化するが中でも8隻調達するオーストラリア向け原子力潜水艦で英米両国の支援が注目される。


関係者が同盟関係は特定国に向けたものではないと繰り返し説明しているものの、駐米オーストラリア大使アーサー・シノディノスArthur Sinodinosは域内安全保障環境の変化に呼応するものと強調しており、その大きな要因が中国である。


「相手側の軍事力、行動半径、物量が大切な要因だ」と大使は潜水艦取得に言及した。「防衛思想として戦略状況が悪化しても兵力投射効果を今後増強した。自国防衛に防衛力すべてを振り向けてはだめだ」


SSK and SSN time on station in Western Pacific

オーストラリアの原子力攻撃型潜水艦が展開を目指す重要地点を示した図。Center for Strategic and Budgetary Assessments


「これはわが国がどのように兵力投射を実施してその結果として安全保障環境をインド太平洋に構築していくかという課題だ」とシノディノス大使はハドソン研究所で講演した。


オーストラリアはディーゼル電気推進式コリンズ級潜水艦を6隻供用中で、各艦は1996年から2003年にかけ就役している。


バッテリー潜航の潜水艦は原子力潜水艦より静粛度で優れるものの、原子力推進により高速かつ長距離展開が可能となり、兵装搭載量も増え、長時間潜航を維持できる。インド太平洋の広さ、第一列島線の広がりを考えると重要な要素だ。


域内各国に潜水艦調達の流れがここにきて活発化しており、運用能力の向上も進んできた。特に中国が劇的な戦力拡大を図り、近隣海域の調査も進めている。とくに台湾周辺やインドネシア=オーストラリア間で活動が目立つ。


三国は潜水艦案の検討作業を開始しており、12-18月かけ完成させるが、このままだと一号艦の就役は2030年代末になる。


シノディノス大使はスコット・モリソン首相が新規設計で「もてあそぶ」より「既存設計をもとに建造」をするほうが重要と「極めて明確に」述べていると発言した。


大使は合わせて暫定的な既存艦のリースあるいは購入案を除外しているようで、コリンズ級は供用期間延長を受け、AUKUSは「英米艦を使いまわす、あるいは建造中の艦を融通することはない」と述べた。


「南オーストラリアで建造する方針で、既存設計案をもとにわが国の事情及び対応対象の複雑な事情に合わせる」(シノディノス大使)


大使はAUKUSとは新たな同盟関係というよりは「戦力協定」であり、潜水艦はその一部に過ぎないと強調した。


「他にも重要なのが人工知能、機械学習、サイバー、量子コンピューティング、水中戦能力で、各種能力で首相は英米両国とのシナジー効果を期待している」


AUKUSで導入をめざすものに「長距離打撃戦力」があり、トマホークミサイルを駆逐艦に、また射程延長型対艦ミサイの戦闘機への搭載を目指す。


今年初めにオーストラリアは2,000億ドル超を今後10年に投入して新型装備導入を図ると発表し、米国支援で製造する誘導ミサイル、新型艦艇、F-35など戦闘航空機でオーストラリア軍の作戦をより密接に米軍と展開して効果を上げるねらいがある。


「国防予算は増額しGDP2.5%をめざしており、従来よりも前広に域内環境の形成を達成したいと考えているからだ」(大使)


「わが国周辺の戦略状況の変化を注視している」とし、オーストラリアは事態の進展に対応し、抑止効果を発揮し、「協力国と対応すべく調整する」とシノディノス大使は述べた。


だが協力国候補国には今回の協定への懸念も残る。中国が否定的反応を示したのは想定通りだが、フランスがオーストラリアが締結済み潜水艦建造をキャンセルしたことで反発しているのだ。


一方で中国に大きく懸念を占めているベトナムなどは国内では静観する態度があっても協定を歓迎しそうだ。インドネシア、マレーシアでは域内軍拡を心配しつつ、東南アジア連合の弱体化につながるとの懸念もある。


こうした懸念の解消には対話が必要だが、それでもとくにインドネシア・マレーシアで見解の不一致は残り、「域内情勢の見方が深部で異なっている」とシドニー大米国研究センターの主任研究員スザンナ・パットンが解説している。


とはいえそうした各国の反応は米豪両国が「利害を共有し、中国の役割が増大する地域でどのように共同行動するのか」様子見としているのだとパットンは説明している。■



Australia's new nuclear-powered subs are decades away, but it's already hinting about where it will use them

Christopher Woody 43 minutes ago

https://www.businessinsider.com/australia-aukus-nuclear-powered-subs-in-pacific-amid-china-tensions-2021-11

 

2021年11月12日金曜日

歴史に残る機体(32)ボーイング・バードオブプレイは実証機の域を脱しなかったが、低価格でも十分なステルス性を実現し、ボーイングに多大の貢献をした異様な形状の機体だ。


歴史に残る機体(32)ボーイング・バードオブプレイ


1990年代を通じ、マクダネル・ダグラスのファントムワークスがユニークなステルス戦闘機をエリア51で秘密理にに開発・テストしていた。この機体はBird of Prey猛禽として知られる。同機は「YF-118G」の名称で開発されたものの、元から運用を想定したものでなかったが、同機で得た設計面製造面の知見は今も政府の機密事業に活用されている。


中でも最も貢献度が高い要素がコストだ。ステルス機は押しなべて高額なことで知られるが、同機は今日のF-35一機分の予算で設計から製造まで実現している。


ステルス機の革命


1983年10月にロッキードF-117ナイトホークが秘密裡に米空軍で供用開始し、世界初の実用ステルス機が登場した。同機には戦闘機の「F」の記号がつき、ステルス戦闘機と呼ばれるが、実は戦闘機ではなかった。レーダーも機銃も搭載せず、ペイロードも2千ポンド爆弾二発に限定されたF-117は戦闘機のふりをした攻撃機であった。ただ誤解を避けると、当時のいかなる機体とも異なる存在であった。


敵防空網突破のため高速で高高度飛行性能を追求する時代が続いたが、ナイトホークは航空技術および航空戦の考え方の転換点となった。同機はF-15やF-16より低速で取扱いも面倒な機体だったが、レーダー断面積が82平方フィートと米軍機で最小となり、敵レーダーで姿が見えない存在となった。


それから10年たらずでロッキードのYF-22とノースロップYF-23が空軍の高度戦術戦闘機への採用を巡り競合し、世界初の真のステルス戦闘機が生まれようとしていた。マクダネル・ダグラスもファントムワークスに独自のステルス戦闘機構想があり、実現のため人材を配置していた。


ステルス航空機の秘密の開拓者

Boeing Bird of Prey in flight (Boeing)


ロッキード、ノースロップの高性能ステルス戦闘機に国費が投入されたがマクダネル・ダグラスは自社資金で新型機開発を進めた。資金の有効活用を図るべく、同社はアラン・ウィークマンAlan Wiechmanをプロジェクトのトップに据えた。


ウィークマンはロッキードのスカンクワークスでHave Blue開発に従事し、後継機となったF-117ナイトホークの実現にも貢献し、シーシャドウつまりステルス海軍艦艇の開発にもあたった。マクダネル・ダグラスの高度戦術戦闘機提案が選定から漏れると、同社が招き入れその知見をファントムワークスで生かすことになった。


航空史でウィークマンの名前は伝説的技術者のクラレンス・「ケリー」・ジョンソンほど目立たない。Aviation Week はウィークマンのことを「もっとも存在感のない」技術者で「ステルス航空機の秘密開拓者」に位置付けているほどだ。だが認知度と実績は必ずしも一致しない。ウィークマンのステルス技術への貢献は多様で、国防産業協会(NDIA)が表彰したことが機密解除されている。


「ウィークマンの業績により米国は15年分の優位性を確保し、本人の設計作業・完成品の効果は戦闘場面で実証ずみ」と表彰文に記述がある。


1992年に無難に聞こえるYF-118Gとして作業は開始され、ファントムワークスのウィークマンチームは予算に配慮しつつ独自のステルス機設計に取り掛かった。当時としては画期的な迅速試作技法を投入した。ファントムワークスではコンピューターで設計、性能を再現し、当時の演算性能として最高水準を駆使した。試作機用の部品を完成機に近い形で実現し、従来の方法では実現できない水準へ引き上げた。


YF-118Gチームは機体製造にも創造性を発揮した。当時最先端の単品生産複合剤構造を採用し、ボディパネル接合を不要にしステルス性能を犠牲にしなかった。完成機体には継ぎ目がなく、ボディパネルの空隙もなくなりステルス機製造で最大の課題を克服した。一部では今日でもロシアがこの課題に苦しんでいるという。


だがウィークマンのチームはすべてを一から設計したわけではなく、既成品を多用してコストを下げながら設計業務を短時間で達成した。搭載したプラット&ホイットニーJT15D-5Cターボファンエンジンは推力わずか3,190ポンドでセスナのビジネスジェットに使われていた。射出座席はAV-8Bハリヤーから流用し、操縦桿・スロットルはF/A-18ホーネットのものを使った。操縦ペダルはA-4スカイホークから借用した。


空軍テストパイロットのダグ・ベンジャミン大佐は「時計はウォルマート売り場から、空調制御はヘアドライヤーのものだった」とジョークをとばしていたほどだ。


ボーイング・バードオブプレイに搭乗したダグ・ベンジャミン大佐



開始後4年たった1996年に飛行可能な試作機が完成した。単発単座の技術実証機は全長47フィートでF-16よりわずかに長く、角度をつけたガル状主翼は他機と全く異なる様相で23フィートと、F-16より10フィートも短かった。だがなんといっても目立つのは従来の戦闘機の形状を脱却した主翼一体型の機体で尾翼がない姿だった。


設計にはステルスを全方位で考慮し、レーダー・赤外線・視認上の探知性に加え音紋も排するべく機体形状、隙間を徹底的埋める設計とし、エンジンを機体内部に埋め、曲線を付けた空気取り入れ口、赤外線・音響上の探知性を混乱させる排出口を採用した。


完成した同機の異様な形状と攻撃的な構えからスタートレックの好戦的種族クリンゴンを連想させ、劇中に登場するクリンゴン宇宙船のBird of Preyの名称がついた。



バードオブプレイの飛行ぶり

1996年9月11日、同機はグルームレイク(別名エリア51)で初飛行し、空軍大佐ダグ・ベンジャミンが操縦した。スタートレックのBird of Preyには不可視化装置がついていたが、ボーイング事業となった同機は高性能とはいえないもののステルス性能を駆使した。


Boeing


その後三年でチームは一機しかないバードオブプレイ試作機を37回飛行させた。操縦にはベンジャミンの他、ボーイングのテストパイロット、ルディ・ハウグとジョセフ・W・フェロックIIIがあたった。


無尾翼でガル翼設計の同機の最終飛行は1999年だった。


巡航速度はわずか300マイルの同機はC-130ハーキュリーズより低速で、上昇限度は20千フィートと第二次大戦時のP-51マスタングの半分程度だったが、F-117ナイトホークと同様にウィークマンは同機で当時の戦闘機を超える性能をねらわず、別の目標があった。


Boeing Bird of Prey in flight (Boeing)


ファントムワークスもステルス戦闘機製造が可能と実証した以外に、事業経費を67百万ドル未満に抑えた。インフレを考慮するとウィークマンのファントムワークスは設計、製造、飛行を一から始めて111百万ドルで実現したことになり、今日のF-35B一機分より低い。


「技術実証の早期投資となったバードオブプレイによりボーイングは業界が変身する中で地位を確立した」と2002年にボーイング統合防衛システムズの社長兼CEOだったジム・アルボーが評した。「当社は設計製造の姿を変えてしまった」


バードオブプレイの遺産

1999年に同機は飛行終了したが、物語はまだ続いた。同機から得られた知見から別の機体が生まれ、バードオブプレイの存在が公表された直前に初飛行にこぎつけた。これがX-45A無人戦闘航空機体である。


X-45Aもファントムワークスが手掛けたが、自律飛行の設計だった。X-45A設計にはバードオブプレイの影響が多くみられる。レーダー探知を逃れる角ばった形状や機体上部につけた空気取り入れ口などだ。ボーイングは同時にX-32にもBird of Preyの特徴を活用したものの、ロッキード・マーティンのX-35に敗れ共用打撃戦闘機の受注を逃した。


Bird of Prey in flight (Boeing)


今日ではアラン・ウィークマンが手掛けたバードオブプレイの系譜を引きつぐ機体はなく、冷戦末期からの米ステルス機開発レースで話題に上ることも少ない。だが1990年代にファントムワークスは予算を無尽蔵に使うことなく、二十年の遅延も発生させることなくステルス戦闘機の実現が可能だと実証していたのであり、これこそ米国が長年かけても実現できていない命題だ。


バードオブプレイ実機はライト‐パターソン空軍基地の米空軍博物館の近代飛行ギャラリーでF-22展示機の上に陳列されている。■


Bird of Prey: Boeing's lost budget-busting stealth fighter


Alex Hollings | November 10, 2021

 

遠心力(だけでないが)で小型衛星の軌道打ち上げを目指す新興企業に国防総省も注目。こうした新技術に資金提供する米国の投資機関の姿がうらやましい。

 Spin

SPINLAUNCH

 

運動エナジーだけで小型衛星を安く迅速に打ち上げ可能とする新興企業SpinLaunchにペンタゴンも関心を寄せている。

 

 

米国の新興企業が運動エネルギーによる宇宙機の軌道打ち上げシステムを公開した。SpinLaunch社の構想では真空密閉した遠心機を回転させ、音速の数倍まで加速してから上方に放出し、大気圏上層部に到達させるものっで、究極的には地球周回軌道に乗せる。同社はカリフォーニア州ロングビーチにあり、従来からのロケットによるペイロード宇宙打ち上げ方式に真っ向から挑戦する構えだ。

 

試作型の初飛行はニューメキシコの宇宙港アメリカで10月22日に実施されたが、同社は昨日になりやっとこれを発表した。

 

同社システムでは真空容器を使い、内部に回転部分があり、対象を超高速に加速し、抗力を打ち消す。その後「1ミリ秒以内に」扉を解放し空中に放出する。バランスを取るため錘が反対方向に回転する。真空密閉は打ち上げ対象が発射管上部の膜を破るまで維持する。

 

SPINLAUNCH.

準周回軌道を目指す発射体が加速器から飛び出した瞬間を捉えた写真

 

 

コンセプトは至極簡単に聞こえるが、作動させるためには課題が多く、しかも連続して作動させるのが最大の難関だったという。

 

「画期的な加速方法で発射体や打ち上げ機を超音速に加速させるため地上システムを作った」とSpinLaunchのCEOジョナサン・イエニーJonathan YaneyがCNBCに述べている。

 

ヤンリーは同社を2014年に創業したが、これまで同社は目立たない存在で同CEOによればこれが効果を上げて

「大胆かつ尋常でない」宇宙打ち上げ方式の開発に功を奏したという。

 

 

準周回軌道を目指す加速器がSpinLaunchの初回テストで使われたが、最終的なハードウェアは全高300フィートとなる見込みでこの3分の1の縮小版だとイエニーは述べた。

 

初回テストに使った準周回軌道用の発射体は全長10フィートで「時速数千マイル」まで加速されたが、加速器の能力の約20%を使っただけだという。

 

同社によれば10月のテストは基本コンセプトの正しさを証明することが主眼で航空力学と放出機構を確認したという。まだテストとしては開始段階のため、発射体は「数万フィート」に放出されたに過ぎない。

 

SPINLAUNCH

加速器の全体像

 

 

発射体はその後回収されたといわれる。再利用可能な構造がSpinLaunch社のコンセプトの重要部分だ。だが、発射シークエンスでは発射体をどうやって回収するのか明らかにしていない。とくに打ち上げ時の解説ビデオでは発射体が2つに分離する様子が見られる。回収システムを加えれば重量がかさみ機構が複雑になるが、超高速かつ摩擦熱に耐える素材の価格を考えると回収する価値があるのだろう。

 

同社の今後の予定ではロケットモーターを発射体につけて軌道飛行を実現するとある。その場合はロケットブースターが発射体と打ち上げ体の分離直後に点火する。以前の報道では発射体は無動力で約1分間移動してからロケットが点火で高度200,000フィートに到達するとあった。

 

ロケットは軌道に乗せるため不可欠ではないと同社は説明している。「運動エナジーで打ち上げた衛星は大ロケットなしで気圏脱出が可能で、SpinLaunchは衛星多数ほか宇宙ペイロードを排出ガスゼロで大気圏に悪影響を与えずに打ち上げる」

 

同社の説明によればこうした飛行は今すぐにも実行可能で、今後六カ月から八カ月で合計30回程度の準周回軌道テスト飛行を行う。その後、同社は軌道打ち上げに挑む。

 

現時点で同社によれば実寸大システムのリスク低減策を90%まで実施済みで最終設計に向かっているという。

 

同社の構想はたしかに「大胆かつ尋常でない」が、成熟化すれば従来の宇宙打ち上げ方法を一変させる可能性を秘めている。今日のロケットによるペイロード運搬では大量の燃料が必要でペイロードのサイズを小さくしている。

 

これに対しSpaceLaunchでははるかに小型ロケットを使い、燃料搭載量が少なくなるものの比較上は大きなペイロードを運搬できる。同社はペイロード400ポンド程度までの打ち上げが将来実現すると見ている。

 

SPINLAUNCH

加速器につながる発射管を上から見たところ。高さは300フィートに達する。

 

 

軌道打ち上げ体が完成すれば宇宙港アメリカを離れ、海岸沿いに打ち上げ施設を確保し、「一日数十回」の打ち上げを可能にするとイエニーは述べている。大型で複雑なロケットが不要のためここまで迅速に打ち上げが実施できれば、打ち上げ費用の低下が実現する。加速器で実現する速度により軌道打ち上げ用燃料は四分の一、コストは十分の一に下がるという。

 

これと同じ発想の打ち上げ方法がGreen Launch 社の構想で、地上に「インパルス打ち上げ機」を置き、従来のロケット一段目の代わりとする別のアプローチを採用している。今夏に同社は米陸軍のユマ試験場(アリゾナ)で1960年代の高高度研究プロジェクト(HARP)の残り物も使い、実証実験を行った。

 

SpinLaunchはこれまで110百万ドルを投資機関から集めており、商用運航を目指しているが、技術が本当に成熟化すれば軍用にも使えそうだ。すでにペンタゴンが同社に関心を寄せており、国防イノベーション部が2019年に同社と契約を結んでいる。

 

SPINLAUNCH

.SpinLaunchは沿岸部に施設を確保し、軌道打ち上げを恒常的に行なう

とする

 

 

同システムで運用可能な重量に制限があることからSpinLaunchは大型ペイロードの打ち上げには限度がある。従来型のロケット打ち上げがトン単位の打ち上げを可能にしている。にもかかわらずSpinLaunchは米空軍の要望に多く答えられそうだし、宇宙軍やミサイル防衛庁も同様で、従来より小型化した衛星の宇宙打ち上げがここにきて必要になっているからだ。

 

加えて、短時間に多くの打ち上げが可能となれば軍にとって魅力的となる。大型衛星が各種脅威にさらされ脆弱になっているためで、超大国同士の武力衝突となればSpinLaunchの構想は小型でそこまで複雑でない衛星を迅速に軌道打ち上げするのに理想的な選択肢となる。供用中の衛星多数が機能不全になったり破壊される事態が想定されている。また数千機もの小型衛星で地球全体を網の目のように覆うのがDoDの考えるこれからの衛星運用の姿に合致する。同じことは民生用の宇宙利用にもあてはまる。

 

DIA

国防情報局の公開資料で衛星が一回の運動エナジー攻撃で使用不能あるいは破壊される各種場合が示されている

 

また同社コンセプトには別の軍用用途が考えられる。超長距離砲撃や攻撃任務で遠距離から短時間で標的に命中させる必要が米軍の優先事項トップになっている。この実現に同社技術が利用できることは容易に想像できる。弾頭部分を長距離移動させることだ。SpinLaunchがこの用途をそのまま構想しているかは定かではないが、武器に転用できることは非常に魅力的に映るはずだ。

 

国防総省内関心が高まり軍事装備を軌道へ送り込む画期的な方法として可能性を検分しているが、SpinLaunch意外にも新規企業が存在する。たとえばエーヴァムがオンラインでロールアウト式典を行ったレイヴンX自律打ち上げ機がある。これは再利用可能無人機で衛星など小型ペイロードを軌道上に運ぶ構想だ。

 

だがS;inLaunch、エーヴァム両社のコンセプトはともに簡易、安価かつ柔軟度において従来型ロケット打ち上げより優れると両社は主張している。あきらかに両社は空中打ち上げ方式のノースロップ・グラマンのスターゲイザーやヴァージンオービットのローンチャーワンよりも打ち上げ費用が安くなる。空中発射式では改装旅客機が母機で小型衛星の打ち上げを目指す。ペンタゴンはスターゲイザーをすでに利用しており、実験用あるいは極秘のペイロードを打ち上げている。もちろんSpinLaunchでは打ち上げ施設が地上にある点で、従来型の打ち上げ施設と変わらないが、空中発射式の機動性や柔軟度にはかなわない。SppinLaunchによれば初の顧客向け発射実施を2024年末に行うとある。

 

突然出現し、あたかもSFの世界のような技術コンセプトを持ちだしたSpinLaunchの実行力には疑念も残るが、同社は画期的コンセプトを用いて小型衛星を低コストで軌道に乗せようとしている。

 

果たして同社の巨大な円盤状施設がこれからの宇宙移動手段の中心になるのか近くわかりそうだ。■

 

Space Launch Start-Up Just Used A Giant Centrifuge To Fling A Projectile Into The Upper Atmosphere

BY THOMAS NEWDICK AND TYLER ROGOWAY NOVEMBER 10, 2021

Contact the author: thomas@thedrive.com


2021年11月11日木曜日

グアム防衛にイージスアショアのかわりに退役巡洋艦タイコンデロガのイージスシステムが使えないか。意外に費用対効果が高い解決案になる? 日本でもイージス艦退役後の用途に参考にならないか。

 

USN

 

退役タイコンデロガ級巡洋艦をグアム周辺に配備すれば効率よくグアムのミサイル防衛の傘を拡げる効果が生まれるのではないか。

陸軍がイスラエル製アイアンドーム装備をグアムに配備し始めているが、数ある脅威の中でも巡航ミサイル相手に同装備が使えるかが焦点だ。同時に米軍にとってはさらに広範かつ多層構造のミサイル防衛の盾を戦略上重要なグアム島に展開することが課題だ。しかも迅速かつ安価に。そこでこの難題の解決策としてタイコンデロガ級巡洋艦を再活用できないか。米海軍は同級を退役させたいとしている。

現時点でグアムに展開中のミサイル防衛装備には陸軍のTHAADもあり、弾道ミサイルを最終段階で迎撃する。また前述のアイアンドームもある。陸軍は今回のアイアンドーム展開は短期間に限定し、実弾発射の予定もないとしている。

グアムに固定式イージスアショア施設を構築する案が昨年浮上してきた。米海軍はルーマニアで同様の施設を運用中だ。提案の背景には中国の航空部隊やミサイルの脅威がハイエンド戦にいったん発展すれば現実のものとなることもあり悠長なことは言ってられない事情がある。ただし、今年三月にミサイル防衛庁長官ジョン・ヒル海軍中将は地上配備装備では対航空機、ミサイル防衛の必要に対応できないと発言し、分散型防衛システムを提案し、地下施設や移動式装備の採用を提言した。

10月にMDAは議会に極秘扱いの報告書を送付し、グアム防衛システムの選択肢を提示した。本稿執筆時点で公になっているのは「装備構造研究」の部分のみで、かつ内容はごく少ないものの、機密解除版は非公開のままだ。

「追加研究の提言として、移動式装備に限った要求内容の検討があり、国際日付線以西の脅威に前方配備マルチドメイン指揮統制機能が対応する際の複雑性と緊急性はあえて無視している」とフィリップ・デイヴィッドソン海軍大将(インド太平洋軍INDOPACOM)司令官が退役前の3月に議会にて発言していた。デイヴィッドソンはイージスアショアのグアム配備を強く主張し、2026年以前に展開を完了し、太平洋での中国の動きを抑止すべきと口に衣着せず発言していた。

そこでタイコンデロガ級巡洋艦がからんでくる。現在同級は21隻が海軍にあるが、2022年度予算要求案では最古参の7隻を退役させるとある。各艦にはイージス戦闘システムが搭載され、強力な AN/SPY-1A/B多機能レーダーとMk 41垂直発射システム(VLS)122セルで各種ミサイルに対応する。SM-2、SM-6の対空ミサイル、SM-3弾道ミサイル迎撃ミサイルなどだ。このうちSM-2、SM-6は水上艦艇も二次攻撃対象とする。海軍はSM-6の大型派生型の開発も進めており、Mk41VLSで運用可能となり、MDAは対極超音速兵器の迎撃手段としてテストしたいとしている。

現在の標準型イージスアショア施設に同様の装備品が使われており、フライトIIAアーレイ・バーク級駆逐艦並みの機能を陸上に展開している。アーレイ・バーク級のイージス戦闘システムにはAN/SPY-1Dが採用されMk 41VLSは96セルになっている。

MDA

MDAの説明資料ではフライトIIA仕様のアーレイバーク級駆逐艦と陸上配備のイージスアショアの共通点を示している。

 

であれば、退役タイコンデロガ級巡洋艦を固定停泊させればイージスアショアと同様の有効範囲と性能が実現するはずだ。二隻以上定置させればさらに大きな防衛力が低コストで実現しそうだ。

今年八月にはヘリテージ財団がワシントンDCで海軍戦と高度技術が専門の主任研究員ブレント・サドラーがまとめた白書を公開し、まさしく同じ構想を展開した。サドラーは海軍が退役しようとするタイコンデロガ級7隻のうち3隻、すなわちUSSシャイロー、USSエリー、USSポートロイヤルにはイージス弾道ミサイル防衛装備が搭載されており、SM-3迎撃ミサイル他との組み合わせICBM含む大型ミサイル対応が可能と主張し、中間飛翔段階の大気圏外で迎撃できるとある。

「BMD対応の巡洋艦を退役させようという海軍の根拠は外洋運航するとこれまで保守管理をあとまわしにしてきたため高コストとなるからというものだ。とくに燃料タンクで漏れが発生している」(サドラー)「グアムには係留地が数か所ありBMD対応巡洋艦が短時間で場所を移動できるし、外洋では曳航移動も可能だろう。そのため艦の推進機関への高度対応体制は不要となり、乗組員削減も可能だ」

サドラーは自力移動力を限定しても曳航して移動でき、各艦の乗組員は最小限に絞ったまま、域内を移動しながら各種兵器を発射できると主張。

HERITAGE FOUNDATION

 

ヘリテージ財団による地図ではタイコンデロガ級巡洋艦三隻をグアムや米領サイパン付近や独立国パラオに配備した場合のミサイル防衛範囲を示している。

さらにグアムには戦略上重要な航空基地海軍施設があり、太平洋における米国の軍事力投射の中心地とされるので、同島への脅威を受け、近隣のティニアン島でも施設拡張の作業が必要となっている。また島しょ国のパラオとは防衛安全保障面での協力の仕組みづくりが進んでいる。退役後のタイコンデロガ級はこうした島しょ部の防衛にも役立つ。

ただし実施には費用とともに困難なハードルが立ちふさがる。「一部艦にはSPY-1Aレーダーが搭載されているが、アナログ装備だ」と海軍作戦部長マイケル・ギルディ大将が7月の海軍連盟イベントで述べており、「その他艦のレーダーも初期型SPY-1Bだ」と指摘した。

U.S. NAVY

タイコンデロガ級巡洋艦USSチャンセラーヴィルが2016年グアムに寄港した。

「こうした装備品は老朽化しており、敵ミサイルの速力に対応できず探知できなくなる事態が想定される」「巡洋艦自体の近代化改修は数千万ドルと当初想定を上回る額になっており、とくに供用開始後三十年が経過した艦体補修が大きな要素だ」(ギルディー作戦部長)

海軍では各種艦艇向けに新型かつミサイル防衛対応レーダーの導入を進めており、イージス戦闘システムも新しいバージョンに発展している。イージスのメーカーはロッキード・マーティンでAN/SPY-7(V)1長距離識別レーダー(LRDR) をタイコンデロガ級の AN/SPY-1 の後継装備として提案している。

係留状態のタイコンデロガ級ではかつての運用要求は不要となり、艦内センサーだけに依存しなくても脅威に対応できる。洋上展開する他艦や地上、空中、宇宙とネットワーク接続すればよい。ペンタゴンはすでにLRDRをハワイに設置する企画に取り組んでおり、戦術複合ミッション用水平線越えレーダーを独立国パラオに設置し、空中及びミサイルの脅威の探知能力向上をめざしている。これと別にグアムにも設置の話がある。衛星ベースのレーダー探知網を太平洋に実現する構想もある。

このからみでタイコンデロガ級が武装バージとしてVLSを活用し多層構造のミサイル防衛の一部になりうる。艦を不定期に移動すれば敵軍は位置把握に苦労するだろう。

「レーダーと兵装類の一体化の解除は前からある考え方だ」とMDAのヒル長官は3月にグアム防衛手段としてイージスアショア以外の可能性に触れていた。「リモート交戦」や「リモート発射」のコンセプトがミサイル防衛にあり、追尾照準データは外部から迎撃ミサイル発射装備に伝えられる。この考え方は確立済みだ。またネットワーク化センサー構造により標的の捕捉追尾が迅速になり、迎撃手段を確実に脅威に振り向けられる。

艦のレーダー他ミッション支援装備、主エンジンなど重整備が必要となる装備システムは除去するか廃棄する。指揮統制機能や主要センサー類は遠隔から行う。これで各艦を島しょ部防衛に投入しながら費用面で大きな訴求力が生まれる。

このような形でタイコンデロガ級を使用する承認を議会が出すかも落とし穴だ。議員連はいかなる理由にせよ巡洋艦退役に今後も反対し、各艦の能力とともに当面代替となる艦の出現が見えないのを理由とするはずだ。下院軍事委員会シーパワー及び兵力投射小委員会は今年始めにこうした反対意見が勢いを失いつつある兆候があるとしたが、下院上院ともに巡洋艦退役で生まれる穴を埋める海軍の案に懐疑的だ。

下院歳出委員会では別個に今後のグアム防衛システム予算を2022年度国防予算案から削除する動議を出している。ペンタゴンが正確な支出規模を伝えられないためとする。10月のMDA報告書では1.183億ドルでグアム向け新型防空ミサイル防衛体制の開発を開始するとあるが議員連が同じ要求を出していた。

老朽化してきたタイコンデロガ級巡洋艦群を再使用すれば、海軍としては装備品の整理にもなり、係留したまま防空ミサイル防衛拠点となりグアム周辺の防衛の傘を大きく広げる効果が生まれ、新しい解決策として関係者全員に魅力に映るはずなのだが。■

Decommissioned Navy Cruisers Could Be The Answer To Guam's Missile Defense Needs

BY JOSEPH TREVITHICK NOVEMBER 10, 2021