2021年12月7日火曜日

真珠湾攻撃から80年、ホームズ教授が帝国海軍による攻撃は失敗だったと言い切る三つの理由。

  

 

本帝国海軍が航空攻撃で米戦艦群を真珠湾で沈め80年になる。作戦は救いがたい失策だった。


 

矛盾して聞こえるだろうか。そんなことはない。日本の機動部隊は空母中心の打撃部隊で遠距離移動し、荒天をものともせず、450機を搭載し、その他戦艦、巡洋艦、駆逐艦、補助艦が空母部隊を護衛し補給支援を行った。

 

日本近海からハワイ沖までこれだけの部隊を移動させるのは大変な任務だった。艦隊は広い海面に広がったが任務は戦術的には完遂した。艦載機二波にわかれ1941年12月7日朝にハワイへ来襲し、フランクリン・ロウズヴェルト大統領は「不名誉の日」と名付けた。米海軍では94名の戦死者が生まれたが、日本軍の攻撃の優先順位は湾内中央部フォード島に係留した戦艦8隻だった。

 

サミュエル・エリオット・モリソンがハーヴァード大歴史学教授としてまとめた第二次大戦時の米海軍戦闘記録で書き残した。「戦闘開始30分でアリゾナは燃えさかり、オクラホマは転覆、ウェストヴァージニアは沈没し、カリフォーニアは沈みつつあった。戦艦は乾ドックにいたペンシルヴァニアを除き、大損傷を受けた」(幸いにも米空母部隊は航空機輸送用に使われ12月7日は海上にあった)

 

8:25までに第一波攻撃は終わった。その時点でモリソンは「日本軍はおよそ9割の目標の攻撃を終え、太平洋艦隊の戦艦部隊が壊滅した」と記述した。また日本軍機はオアフ島内の戦闘航空機をほぼ全数破壊した。

 

10:00に戦闘は終了した。モリソンは以下述べている。「緒戦でここまで決定的な勝利を収めて始まった戦争は近代史になかった」 

 

ただ筆者は真珠湾攻撃が日本帝国にとって大惨事になった理由を以下三点あげたい。まず、機動部隊は本国からはるか遠隔地まで遠征したため、戦略原則である「継続性」を実行できなかった。軍事大家カール・フォン・クラウゼビッツも敵の「重心点」つまり敵の軍事、社会双方の集合地点を把握すべしと指揮官に説いていた。これが見つかれば、効果的に攻撃し、「攻撃に次ぐ攻撃を同じ方向に向け」敵の抵抗が下火になる、もう抵抗できなくなるまで続けるべしとした。

 

ボクシングも同じだ。相手ボクサーをふらつかせる一撃を加えたら、連打を加え相手をノックアウトさせるまで手を緩めてはいけない。

 

筆者は太平洋艦隊を米海軍力の重心ととらえた帝国海軍の判断に合意する。日本の補給線は伸びきっており、機動部隊はオアフ島付近に留まれず、連続攻撃がままならなくなっていた。また機動部隊に残る燃料が少なく洋上の米空母を索敵攻撃する余裕もなかった。

 

日本は12月にワンツーパンチを叩いたが、ノックアウトは取れなかった。米戦艦部隊は損傷を受け、修理不能となった艦もあった。米空母戦力は残ったが、当面は攻撃を恐れ逃げ回っていた。

 

そこで真珠湾攻撃が失敗だったという二番目の理由だ。チェスター・ニミッツ海軍大将が12月末にハワイに赴任し太平洋艦隊の指揮を執ったが、モリソンは日本の攻撃目標を間違えたとした。「戦艦部隊と航空部隊は大きく損傷させたが、真珠湾の恒久施設は無視した。修理施設では早速損傷度の低い艦艇の修理作業が始まっていた」。(当日に損傷を受けた戦艦の大部分がその後現役復帰し、1944年には復讐とばかりにスリガオ海峡海戦で活躍している)また、日本軍は発電所や燃料施設にも攻撃を加えなかった。また実際の死傷者も予想より少なくなった。日曜日早朝とあり、艦艇乗組員の多くが上陸して自由時間を楽しんでいたためで、日本側の想定は外れた。

 

乾ドック、修理施設、燃料、電気供給がなければ艦隊は機能しない。ブラドリー・フィスク少将が一世紀前に基地機能の重要性に気づいていた。またトーマス・C・ハート海軍大将が真珠湾攻撃後に指摘したように、基地施設が破壊されていたら太平洋での米軍活動は長期化していただろう。

 

となると日本側の標的設定に誤りがあったことになる。米海軍の重心点は艦隊としても、海軍基地がなければ艦隊行動は維持できなくなる。

 

三番目に真珠湾攻撃が与えた政治面の影響がある。映画トラ・トラ・トラ!(1970年)、さらにミッドウェイ(2019年)でハリウッド版の連合艦隊司令長官山本五十六大将が真珠湾攻撃で「眠れる巨人を起こしてしまい、恐るべき決意を与えてしまった」と悲しく語るシーンがある。史実の山本はここまで詩的表現で発言していないが、著作で同じ意味を述べている。映画製作者は記憶に残る表現にしたかったのだろう。

 

真意を考えてみよう。米国は当時海外の戦争に巻き込まれたくない姿勢だったが、膨大な天然資源と産業力を有する巨人で、軍事大国になる潜在力も秘めていた。潜在力を実際の軍事力にするのは決意だ。米経済力は日本の9倍10倍の規模だった。圧倒的な軍事優位性を秘めた相手を挑発したいとは思わないはずだ。それでも日本は真珠湾を攻撃した。これにより米国民が動員され社会も同調し本当に軍事大国になってしまった。米国民の怒りは太平洋の向こうにある帝国に向けられた。

 

戦時中の感情は1945年終戦後にも長く残った。筆者の家族は軍人の系譜で第二次大戦中は海軍一家だった。祖父両名は下士官でうち一人の乗った護衛空母は沈没したが幸い本人は生き残った。1987年に筆者が初めての自分の車、真紅のホンダで祖父宅を訪問した際は気まずい場面になったのを想像してもらいたい。

 

日本が真珠湾で犯したまちがいの主な理由は筋肉隆々の敵を相手にしたことだ。日本は代りに何をすべきだったのか。日本は別の標的を攻撃できたはずだ。そうであれば、史実より相当長い期間にわたり、軍事優位性を発揮できたはずだ。

 

あるいは戦前の軍事演習の想定どおりにしていたらどうなるか。山本が真珠湾攻撃を主張したのは1941年のことだった。それまで帝国海軍の戦略構想は何十年を費やし磨いたもので、まず米領だったフィリピン攻略の後出動する米太平洋艦隊を待ち、これを撃破するものだった。潜水艦、軍用機を太平洋内の島しょから出撃させ米艦隊が西方に移動するのを反復攻撃し、戦力を消耗させたのちに日本艦隊が交戦し西太平洋で撃破するシナリオだった。これは健全な戦略だった。

 

反対に日本軍指導層はモリソンが「知的愚鈍」と呼ぶ主張に同意してしまった。戦術面では日本は輝かしい戦果をあげても、上層部の戦略無教養の埋め合わせにならなかった。

 

これが日本による真珠湾攻撃は失敗だったと言い切る理由だ。■

 

 

Japan’s Attack on Pearl Harbor Was a Colossal Mistake

ByJames Holmes

 

Dr. James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the US Naval War College and a Nonresident Fellow at the Brute Krulak Center, Marine Corps University. He is slated to present these remarks on board the battleship Massachusetts, Fall River, Massachusetts, this December 7. The views voiced here are his alone.

In this article:featured, History, Imperial Japan, Japan, Pearl Harbor, Pearl Harbor Anniversary, World War II

 


2021年12月6日月曜日

第5マイナス世代機に注目が集まる理由。いくら優秀な性能を有する機体でも、ハイエンド戦以外に投入するのでは宝の持ち腐れ。根本的な問題はやはりF-35運用コストの高水準。

 



年2月、米空軍が世界各地の見出しを飾った。「第五世代マイナス」が空軍の運行経費問題で解決策になると示したのだ。これまでF-35共用打撃戦闘機こそ将来の空軍力の柱だと主張してきた中で、この発表が出て、見出しにはF-35は失敗作との語句があふれた。同機にこの言い方は公平とはいえないものの、はからずも当初の想定と異なり低性能で高価格になっているJSFの現状を浮き彫りにした。


実際に空軍は2018年にF-35発注を減らし、運用の高コストと相殺すると脅かしたものの、F-35を一気に用途廃止する動きは今も見せていない。前回同様に今回もF-35が高性能を有しているのかが論点ではなく、実際に同機を操縦したパイロットからは同機が実戦に供された際の効果に疑問の余地はないとの評価が出ている。問題はあくまでも金銭だ。


F-35は高性能だが高価な機材だ。


ここ十年間でF-35の調達コストは一貫して下がっており、現在の機体単価は第四世代機F-15EXより低くなっている。ただし、ここに重要な誤解の元が潜んでいる。


最新のF-35A機体価格は77.9百万ドルで、空軍は世界最高峰のステルス性能に最高のデータ融合機能を付けた戦闘機を調達できる....はずだが、飛行時間はわずか8,000時間に留まる。さらに貴重な一時間ごとに空軍は44千ドルを負担することになる。


これに対しF-15EXの数字はやや大きい。機体単価80百万ドルでステルス性能はないものの、機体寿命はなんと20千時間に及ぶ。さらに時間当たりの運行コストは29千ドルだ。もちろんF-15EXはF-35の代わりにならない。両機は全く異なる役割の想定だ。


F-35は多任務機ながら最高速機でもなければ、敏捷性もトップでなく、火力も大量に展開できないが、敵に捕捉されにくく、さらに最も重要なのは搭載コンピュータで各種センサーの情報を処理し、他機種では不可能なデータ融合ストリーミングが実現する。F-35が一機付近にあれば第四世代僚機のの威力を増大できる。F-35パイロットは単価400千ドルのヘルメットでデータストリーミングへアクセスする。


「F-35以上の状況認知機能はこれまでなかった。戦闘時の状況把握は金塊と同じ価値がある」とF-35パイロットの空軍予備役ジャスティン・「ハサード」・リー少佐Major Justin “Hasard” Leeが語っている。


空軍参謀総長チャールズ・Q・ブラウンJr大将General Charles Q. Brown, Jrがこの点に触れて一大騒動となった。


「毎日の通勤にフェラーリは不要だ。日曜日に乗ればいい車だ」「これが我々が言う『ハイエンド』機で、ローエンド戦闘に投入しないようにしていく」


予算に制約がなければ、空軍はF-16は全機ピカピカのF-35に交代されていた。だがF-35で各種問題が発生し本格生産ができない状態が長年続き、空軍はF-35の大規模運用ができなくなった。また、予算が問題でなかったら、F-22の生産再開を実現し、制空任務を任せたはずだ。だが、F-22を再生産しても新型機開発より高くなってしまうと判明した。F-22のサプライチェーンや支援施設は大部分がF-35に流用しており、ここでも予算が大きな意味を示している。


第六世代機が優秀になる保証はない


第六世代戦闘機の想像図 (U.S. Air Force)



では航空優勢が確立した戦術作戦に投入した場合にF-35が費用対効果で劣ることを理解したうえで、「第六世代」戦闘機を開発すべきと主張する向きがあろう。空軍はすでに実機を飛行済みと説明している。だが、このやり方でF-35のコスト問題の解決にはならない。むしろ高性能機体で問題は悪化してもおかしくない。


F-35の高価格水準は前例のない性能要求とまずい調達方針が原因だ。JSF事業が始まり、ロッキード・マーティンのX-35とボーイングのX-32が高い技術要求と広範な運用能力の実証を試みた。当時の業界にはペンタゴンが想定する機能すべてを同じ機体でこなせるのか疑問に思う向きがあった。


「2000年時点に戻り、『ステルスで垂直離着陸できて超音速飛行も可能な機体を実現できる』と言えば、業界から不可能との回答が大部分だっただろう」と2000年から2013年までロッキードで同事業を統括したトム・バーベッジ Tom Burbag eがニューヨークタイムズに語っている。「一つの機体にすべて盛り込むのは当時の業界の想定を超えていた」


だがそれこそがF-35の目標であり、並列生産によりロッキード・マーティンは機体テストの完了前に納入開始し、国防予算の管理部門を満足させるはずだった。また調達過程でも結果的に改善が見られた。「第六世代」戦闘機でも同じ課題に直面するだろう。


戦闘機の世代ごとの名称に一貫した軍の基準も政府の方針もない。同様の性能を有する機体をひとまとめにした業界用語にすぎない。現時点で「第六世代」機の要求性能は確立されていない。供用中のF-35やF-22より飛躍的な性能向上が求められるはずだが、新技術が既存技術より安価になることはない。


そのため、次世代機は確かに有用な性能を実現できても、パッケージとして既存ステルス機より高額になっておかしくない。だが短期的には想定性能をすべて盛り込むことで絞り込んだ場合よりも財務的に厳しい結果を生みそうだ。


第四世代機が解決の一部になる



第四世代機のF-15EXやブロックIII仕様のF/A-18スーパーホーネットの調達に予算を投入すると必ず同じ質問が出てくる。「F-35、F-22、Su-57やJ-20の時代に旧型非ステルス戦闘機の調達が必要なのか」


答えは極めて簡単だ。ステルス機をシリア、アフガニスタン、イラクやアフリカに投入すれば不必要なほど高額な運用となる。米軍はこうした場所で対テロ戦を展開しているのであり、一時間運用に44千ドルも負担しなくても、A-10の19千ドルで同じ仕事がこなせるのだ。


ここに米国の既存機種の強みがある。互角の戦力を有する中国のような相手の脅威を想定する戦闘作戦で予算を使いつくさず、バランスを確保するためには今後の脅威内容に合った適正な機体の調達をめざす必要がある。


ここ数週間に現れた見出しに踊らされてはいけない。ペンタゴンでF-35を失敗作とみる向きは少ない。また政治的な理由によりF-35生産の分担は全米50州に広がり、生産中止を求める議員も皆無といってよい。F-35は残る。米国には同機を支援する別の高性能機材が必要だ。


ブラウン大将は「F-35は屋台骨だ。F-35は現在、将来にわたり活用していく」「新しく立ち上げた検討はF-35を補完する機体の可能性を模索するため」と述べている。


第五世代「マイナス」戦闘機が予算の理由で生まれるのか



ブラウン大将の上記発言を見ると、「完全新型」戦闘機で第五世代機の技術を盛り込みつつ、F-15EXのような第四世代機の費用節減効果を想定しているのがわかる。そこから生まれるのはF-35ほどの高性能はないものの、非ステルス第四世代機より高性能の機体だ。このコンセプトはすでに南朝鮮とインドネシアが共同開発中の戦闘機事業KAIのKF-Xで見られ、第五世代「マイナス」機といわれる。


ただ問題は戦闘の実相は変化していくものであり、技術面も同様なことだ。防空装備の更新を目指し開発が進めば、旧型装備は導入しやすくなる。今後の米国で中東事例より過酷な条件で戦闘を余儀なくされる事態が生まれるとしても、中国やロシアの防空体制の充実ぶりより低い戦闘場面もあろう。


F-117が非ステルス機より先に砂漠の嵐作戦でバグダッド空爆に投入されたように、F-35やB-21レイダーが将来の戦闘で最初に敵領空を切り込む事態が生まれてもおかしくない。最高のステルス性能を有する機体でまず敵地を弱体化させてから残る各機が進入する構想で、B-21が対艦ミサイルで敵空母を標的としてから空母からF-35が制空任務に就く想定も考えらえる。


その後、非ステルス機が攻撃する。航空優勢が確立できれば、非ステルスのミサイルや大量の武装を搭載したF/A-18スーパーホーネットなどの出番だ。


ステルス機能を採用しつつも、維持に手間がかかるレーダー吸収剤塗料を使わない機体でF-16より生存性が高く、F-35より安価な機体が第五世代「マイナス」機で、経済性を実現できれば、航空優勢の確保が困難な空域でなければ第四世代機との交代も可能となる。同様にデータ融合機能もF-35並みといかなくてもパイロットに状況認識能力を提供できれば生存性が高まり、攻撃効果も高くなる。


「こうした性能を想定する際は現在の脅威水準を条件にするが、今後登場する脅威も考慮する必要がある」「今回の新型機構想が重要となるのはこのためで、脅威内容を考慮せずに検討しても無駄だし、戦闘機戦力として総合的に検討する必要がある。F-35かNGADかの択一問題ではない」(ブラウン大将)


世界が完璧なら戦闘機など無用の存在になる。だが、やや完璧さに欠ける世界では、全機がF-35のようなステルス機となり、F-22のように制空任務をこなす。だが現実はそのどちらでもない。米国が次の戦いに勝利を収めるためには予算上の妥協が必須となる。第五世代「マイナス」戦闘機はその妥協になる。■



Why 5th Generation 'Minus' fighters are the future

WHY 5TH GENERATION ‘MINUS’ FIGHTERS ARE THE FUTURE

Alex Hollings | November 23, 2021


This article was originally published 3/5/2021

Feature image courtesy of Korea Aerospace Industries

 

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


主張 日豪印の三か国に加え、米英両国も加わりインド太平洋の戦略環境を三角形構造で考えると今後どうなるか。

 

 

ーストラリア、インド、日本の三か国がここ数年にわたり連携を静かに深めてきた。米国・英国もアジア太平洋での関係強化を進めている。

 

ヘンリー・キッシンジャーは三角形で考え、米、ソ連、中国の関係を構想した。今日の戦略三角形はインド太平洋にある。頂点にキャンベラがあり、そこから北西にニューデリーがあり、もう一方は南北に走り東京とキャンベラを結ぶ。さらに重要な線が二本あり、それぞれワシントンDCとロンドンをつないでいる。

 

2007年に中国の主張の強まりを受けてこの関係がゆっくりと進化を開始した。ある意味でバラク・オバマ大統領のシリアでの「レッドライン」撤回、ドナルド・トランプ大統領の同盟関係への取引感覚導入から米政策の動きが予測不能となったのを反映したものといえる。同時に日本、オーストラリア、インドが安全保障面での役割強化をそれぞれ認識してきたことの反映でもある。

 

インド太平洋の安全保障構造の進化は冷戦時の「ハブ&スポーク」モデルがネットワーク型の総合構造へ変わったものであり、オーストラリア、インド、日本の安全保障上の関係強化をもたらした。新たな構造では戦略提携関係がインドネシア、シンガポール、ヴィエトナムにも広がっている。他方で、オーストラリア、インド、日本の各国は二国間同盟関係を米国と保持しつつ、域外の勢力とも安全保障上のつながりを強化している。そのあらわれがAUKUSの潜水艦調達事業として実現した。

 

インド太平洋の三角形

 

三角形協力に向かう動きではオーストラリア=インド艦の戦略取り決めがめだつ。オーストラリアの2017年版外交白書ではインドを中核的安全保障の相手国としてとらえており、域内秩序を支えるとしている。AUSINDEX演習が2015年に始まり、直近は2021年9月にダーウィンで開催されている。

 

2020年のリモート型式によるサミットでスコット・モリソン、ナレンドラ・モディ両首相は2009年の戦略パートナーシップを総合的戦略パートナーシップに格上げし、「開かれた自由で法の支配下のインド太平洋のビジョン」を共有し、海洋部での協力強化を謳った。両首相は相互補給支援でも合意し、両国軍事基地の相互利用を決めた。サミット後にインドはオーストラリアを印米日の共同海軍演習マラバールに招待し、クアッド各国が初めて一堂に会する演習となった。2021年9月10日から12日にかけ初の2+2大臣級会合で総合的戦略パートナーシップ協議がニューデリーで開かれ、インド、オーストラリア両国は外相、国防相を参加させた。

 

インドと日本の関係は6世紀の仏教伝来までさかのぼるが、21世紀に特別な戦略グローバルパートナーシップに深化した。モディ、安部晋三両首相が中心になり両国関係が変化した。安部は自由で開かれたインド太平洋構想の原型を2007年のインド国会演説で初めて公表した。「両大洋の合流」と海洋国家の両国に触れ、インドと日本には「シーレーンの確保で死活的国益がある」と述べた。安部は両国の外交防衛担当部門に対し将来の安全保障上の協力を「共同検討」するよう求めた。

 

日本はマラバール演習に2015年から常任演習実施国として参加している。日印間のJIMEXは2016年にベンガル湾で始まり、毎年開催されている。2020年9月、両国は安全保障の関係強化を狙い物品役務相互提供協定を締結した。2021年6月、両国は合同演習をインド洋で展開し自由で開かれたインド太平洋の実現の一助とした。2+2大臣級会談が毎年開かれ、両国間の意思疎通を図っている。

 

21世紀の日本=オーストラリア間の協力の原型となったのが2007年の安全保障協力の共同宣言で、「アジア太平洋さらに域外で共通の戦略権益を協議する」とし、防衛関係者の交流、共同演習、2+2メカニズムの創設を目指した。2013年に両国は物品役務相互提供協定を結び防衛協力をさらに進めた。キャンベラ、東京はともに二国間関係を特別な戦略パートナーシップに格上げしている。

 

オーストラリアの2017年版外交白書では日本の防衛改革努力並びに防衛力整備を歓迎しつつ日本が「一層積極的な役割を域内安全保障で演じるよう支援する」とした。日本は米豪間のタリスマンセイバー演習に2019年初めて参加し、ヘリコプター空母いせと自衛官500名を派遣した。両国間の防衛関係強化を受けて、2020年に両国政府は相互アクセス協定を結び、菅義偉首相は両国間の「意思と能力を共有し、域内の平和安定に資する」と評価し、モリソン首相も「画期的な防衛条約」として日豪の「特別の戦略パートナーシップ」を強化すると称賛した。2021年6月の2+2会合に先立ち、茂木敏充外相が両国の安全保障関係を「次のレベル」に引き上げたいと発言したとロイターが伝えた。

 

自由で開かれたインド太平洋

 

三角形はここ十年で深化し、日本、オーストラリア、インドは米国とのつながりをさらに強め、強硬な態度を強める中国という課題に対応し、力を合わせ自由で開かれたインド太平洋の維持を図っている。

 

2019年の日米安全保障協議会の共同声明文は両国の安全保障政策の方向性を一致させることに触れ、「力による国際法規範や仕組みの変更は自由で開かれたアジア太平洋で共有する価値観、同盟関係への挑戦である」とし、同盟関係国が東南アジア諸国連合、インド、日本、大韓民国と一緒に「ネットワーク構造の同盟関係、協力関係を強化することで安全、繁栄、包括的かつ法の支配が働く広域圏を維持する」ことに全力を尽くすとした。

 

2020年にトランプ大統領はインドを訪問し、包括的グローバル戦略パートナーシップで合意した。同年10月に米印2+2会合で両国政府は物品役務相互提供協定、通信互換性保安合意、軍事情報包括保護協定でそれぞれ合意を形成した。同時に自由で開かれたインド太平洋の維持を再確認した。

 

そこにインド太平洋三角形のもう一つの線が出てきた。ロンドンからである。HMSクイーン・エリザベス空母打撃群をインド太平洋に展開させ、哨戒艇二隻を同地区に常駐させる決定、さらにAUKUS枠組みでの原子力潜水艦建造がロンドンのめざす意図を物語っている。英国防相ペニー・モーダントが2019年のシャングリラ対話で使った表現では域内プレゼンスを「粘り強く」維持するとあった。

 

現時点のオーストラリア-インド-日本の三角形に米国がクアッドで加わり自由で開かれたインド太平洋の価値観を各国が共有する形が生まれた。各国は法規則に基づく秩序、紛争の平和的解決、力による既成事実の変更の拒絶で共通する。では各国間に対中国姿勢で違いは存在しないのだろうか。実はある。各国とも地理や経済の違いのため国益は一様ではない。だが、インド太平洋に関する限り、各国は相互に補強しあう。さらにこの先を見るとワシントン、東京、キャンベラ、ニューニューデリーの政治トップの次の課題は各国の相違点を縮める努力にあわせ、共通のビジョンの方向に国内政治を収束させていく仕事だ。■

 

Can the Australia-India-Japan Strategic Triangle Counter China?

by James Przystup

October 21, 2021  Topic: Quadrilateral Security Dialogue  Region: Indo-Pacific  Tags: Quadrilateral Security DialogueIndiaJapanAustraliaAUKUSAlliancesChina

 

James Przystup is a Senior Fellow at the Institute for National Strategic Studies. Previously, he has served as Deputy Director of the Presidential Commission on U.S.-Japan Relations 1993-1995, the Senior Member for Asia on the State Department’s Policy Planning Staff 1987-1991, Director of Regional Security Strategies in the Office of the Secretary of Defense 1991-1993 and Director of The Asian Studies Center at The Heritage Foundation 1993-98. The views expressed are the authors’ own and do not reflect those of the National Defense University or the Department of Defense.

Image: Reuters.


 

2021年12月5日日曜日

中国が極超長波用巨大アンテナを建設した模様。潜水艦通信のほか断層調査にも使えるとの説明だが、実態は?

中国の潜水艦 China Daily/Reuters


中国が設置した巨大アンテナは地球自体を使い信号を数千キロ先の潜水艦に伝える機能があると、InsiderがChina Morning Post記事から紹介しています。米国が以前研究したものの実用化できなかった技術を今の中国が実現に成功したと伝える例が増えていますが、本当なのか吟味が必要ですね。



界最大級のアンテナが中国中央部にあり、潜水艦向け長距離通信のほか民生用途にも利用される。


アンテナの正確な位置は不明だが、湖北、安徽、河南の各省にまたがる大別山Dabie Mountains付近とされる。


宇宙から見ると同施設は100キロ長の巨大十字形の姿で見えるはずで、各種ケーブル、支柱から送電網に見える。送電線の末端は分厚い大理石の中に固定され、地中に強力な送信機二基が、非常時に備え冗長性を持たせて配置され、1メガワット電流で地球全体が強力な無線局になる。


先月の中国艦船研究論文集のペーパーによれば、受信機は海抜200メートル下に設置され、1,300キロ先の信号を難なくとらえるとある。この距離は朝鮮半島、日本、台湾、南シナ海を収める。


プロジェクト主管Zha Mingのチームは武漢海洋通信研究院に所属し、ねらいは3,000キロにおよぶ水中通信の実現でグアムも範囲に入る。


極超長波 (ELF) 施設として電磁波を0.1ヘルツから300ヘルツまで生成でき、水中のみならず地中でも長距離にわたり伝わる。


ただし、長波信号は自然にもあり、人工信号との判別が課題だったという。


中国はロシアとの共同実験で信号が地中をどれだけの距離到達できるかを試した。ロシア局は7,000キロ離れた発信を捉えたが、長距離通信には不利な点もある。通信は一方通行となり、暗号化テキストメッセージのみに対応する。


中国の軍事研究部門は潜水艦や水中無人機に命令を伝える、あるいは標的情報を伝える用途を想定している。


ELF信号の生成が困難とされるのは信号波の幅が大陸より広くなるためだ。通常の無線塔なら高さ1,000キロになってしまう。


そこで地球自体を活用した超長波アンテナの構想が生まれ、1960年代から研究が進んでいた。米海軍ではプロジェクト・サングィンでウィスコンシン州の4割に相当する長さのアンテナで全世界に展開する潜水艦への指令を伝えようとした。70キロ長のアンテナ二基を交差させる施設が建造され、1980年代末から76Hz周波数で信号を生成した。


同プロジェクトは2005年に終了したのは期待通りの成果が得られなかったためだ。このため米国は大気圏にレーザーを発射して長波を生むなど別の技術手段を模索した。


中国のZhaはELFアンテナ建造で変わり続ける現実の応用事例に適合させるのが課題と指摘している。


例えば強力な電流で磁界が生まれ、ケーブルの電導力が落ちることがある。


遠隔地で受信して読めるようにするため、無線波は高性能電子装備多数で微調整する必要がある。だが送信機の規模が大きく、発生する磁界により送信の安定性が損なわれることがある。


中国の研究チームはこうした問題を解決し、テスト結果から同施設の効果は研究の狙いを超えるものがあったとしている。


ペーパーでは施設の場所を明示していないが、中国主要としてからの距離を示しており、北京から1,000キロ、北西部の敦煌Dunhuangから2,000キロ、南西部四川省綿陽Mianyangの東部1,000キロとあり、大別山のどこかと推察される。


研究チームは今回の施設は世界初の大規模ELF施設で民生用途にも開放するとしている。


鉱物資源や化石燃料の埋蔵状況の調査に使えば、地方から数千メートル下の状況が分かり、これまでは不可能だった探査が可能となる。また、活断層の位置を調べ、中国主要都市の地震リスクを調査できるという。


ELF信号波の健康へのリスクは長年議論の的となっている。一部研究で高電圧送電線近くに暮らす住民にガン発生リスクが高いとする一方で、これと異なる結論を導いた研究もある。


実験結果では長波無線の影響下で暮らす動物の内臓に損傷が出るとの証拠が報告されている。


上海交通大学Shanghai Jiao Tong Universityの医学部研究では今年8月に50Hz電磁場に全日露出すると一部遺伝子情報が変化され、神経線維の生成に影響が出たのを把握している。■


China antenna turns Earth into giant radio station, with signals reaching Guam

Stephen Chen , South China Morning Post 

 

台湾防衛で攻撃型潜水艦への期待が高まる。技術と威力が着実に向上している。同盟国所属艦も含めPLAN揚陸部隊の阻止は可能。潜水艦が台湾防衛の最後の砦になるのか。

ヴァージニア級攻撃型潜水艦

GDEB

 

技術の進展により米海軍の潜水艦は探知されにくくなり、他方で従来より高い精密攻撃を可能とする装備の展開が始まっている。

 

上艦艇は敵に視認され、航空機や無人装備も探知されやすい。陸上配備のミサイル発射装置や迎撃ミサイルも衛星の前に姿を隠すことができない。

 

つまり、前方配備装備で中国の台湾侵攻を食い止めようとしても人民解放軍にその位置が把握されてしまうことになる。

 


攻撃型潜水艦への期待


では潜水艦はどうか。中国の台湾侵攻を食い止める手段として米国や同盟各国が潜水艦を投入すれば合理的な選択となる。

 

中国は奇襲攻撃を選択するはずで、米空母等の視認目標が台湾近辺にない時をねらうだろう。このため、潜水艦や水中無人装備の出番となる。

 

新たな静粛化技術に水中無人装備の迅速調達が加わり、魚雷の改良と相まって海中からの攻撃の成功確率が高くなってきた。

 

潜水艦、無人水中装備が台湾付近に十分な数で展開できれば、探知されにくい中で中国揚陸部隊を攻撃し撃退するのは可能だろう。

 

兵装と技術の向上

 

さらに米海軍では攻撃型潜水艦の技術改良が加わり、探知を難しくするだけにとどまらず、長距離かつ精密な攻撃を可能とする兵装システムが利用可能となってきた。

 

例としてトマホークがあり、発射後に飛翔経路を変更可能となり、移動中の水上艦を狙える装備になった。

 

また、海軍は超軽量魚雷の開発も進めており、実用化となれば攻撃の選択肢が拡大される。


超軽量魚雷 Northrop Grumman

 

 

ブロックII以降のヴァージニア級、さらに今後登場する攻撃型潜水艦は新型水中アンテナや通信装置を装備し、エンジンの静粛化、特殊表面塗料で探知をこれまでより困難にする。

 

保安上の理由のため詳細は不明だが、海軍上層部はUSSサウスダコタがヴァージニア級ブロックIII仕様艦のプロトタイプとして登場した際に改良点を話題にしていた。今やサウスダコタ以降の各艦が現在作戦投入可能となっている。そのため攻撃型潜水艦の作戦実施能力の拡大に期待が集まっている。

 

ブロックIIIヴァージニア級では「フライバイワイヤ」自動航行制御機能、光ファイバー配線に加え、高性能の大型開口ソナーが艦首についた。攻撃型潜水艦と無人水中装備は高リスク水域や沿岸付近で極秘偵察任務に投入され、水上艦や無人航空機より探知が困難という利点を生かす。

 

米海軍ではさらに小型中型大型の無人水中装備の開発が急速に進んでいる。各装備は長時間活動でき、水中に数週間潜みつつ敵水上艦艇や潜水艦さらに機雷の位置を探る。

 

今後は無人装備を武装化する可能性も出てくるはずで、水中指揮命令技術の進展により人員は武力行使に関し指示する側に留まる可能性が出てくる。水中無人装備は今でも機雷の探知爆破を「自律的に」実施できるが、魚雷等の運制御は人員が行うというのがペンタゴン方針だ。

 

戦力構造の観点で米海軍は新型潜水艦の大量導入を迅速に展開する必要を痛感している。

 

攻撃型潜水艦の「不足」への懸念は今に始まったことではなく、議会と海軍はヴァージニア級攻撃型潜水艦の年間三隻建造を計画し、現行の2隻より増やそうとしている。

 

だが現行の潜水艦部隊で課題に対応できないのだろうか。Global Firepowerによれば中国の潜水艦は79隻と米国の69隻を上回る。このため米国内では潜水艦建造調達の加速化を求める声が多い。

 

米同盟国にも潜水艦があり、Global Firepowerでは南朝鮮に22隻、日本に20隻の潜水艦があるとある。こうした同盟国所属の艦は米海軍攻撃型潜水艦とともに中国海軍の動きを止めるべく配備され、ステルス性能と攻撃力を発揮するだろう。■

 

 

Attack Submarines Could Save Taiwan

DEC 1, 2021

KRIS OSBORN, WARRIOR MAVEN

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Master’s Degree in Comparative Literature from Columbia University.