2022年6月25日土曜日

ウクライナ戦の最新状況(現地時間6月24日現在) 開戦120日目に突入

 

The situation in and around Severodonetsk. (ISW)


シアのウクライナ侵攻が始まり120日目となった。木曜日、ドンバスの戦闘は続き、ロシア軍はセベロドネツクの完全占領に近づいている。


ロシア軍のタイムテーブル

先週、ウクライナ軍は、ドンバスのロシア軍司令官が、今週末までにセベロドネツクを占領する期限をモスクワから与えられていることを示唆した。この主張は、西側情報機関により検証されていないが(少なくとも公には)、セベロドネツクへの新たな攻撃から、それが信頼できるものであることを示唆している。




ロシア軍はセベロドネツクへの正面攻撃に失敗し、現在は側面、特に南側から同市の切り崩しを図っている。

しかし、ロシア軍は、必要な複合武器と機動戦の能力を欠いているため、迅速な効果をまだあげていない。

「ロシア軍はリシチャンスクの南方で引き続き優勢であり、今後数日でリシチャンスクに到達すると思われるが、セベロドネツク-リシチャンスク地域を迅速に占領することはできないだろう。ロシア軍は、リシチャンスクに向かうロシアの作戦を支援するため、バクムート-リシチャンスク高速道路T1302沿いのウクライナの通信路を妨害する努力を強化した」と戦争研究所は評価している。

一方、ウクライナ南部の状況はほとんど変わっていない。ウクライナ側はロシア側の防御を突破しようとしているが、必要な火力が不足している。実際、ケルソンやザポリジャー周辺の状況は、セベロドネツク周辺の状況と似ているが、逆転している。 


ロシア軍の損失

ウクライナ軍は連日、ロシア人犠牲者の数を更新している。これらの数字は公式の数字であり、個別に検証されたものではない。

しかし、欧米の情報機関による評価や独立した報告書は、ウクライナの主張する犠牲者数をある程度裏付けている。例えば、オープンソースの情報調査ページ「オリックス」は、約800台のロシア戦車を破壊または拿捕したことを目視で確認しており、この評価は英国国防省によって確認されている。


その他ウクライナ側の主張のほとんどについても、同じような独立した検証が存在する。つい最近、米国防総省は、ロシア軍が1,000両以上の戦車、数十機の戦闘機やヘリコプターを含むあらゆる種類の戦闘車両数千台を失ったことを認めた。


さらに、西側情報機関の関係者を引用した最近の報道では、ロシア軍はこれまでの戦争で最大2万人の死者を出したという。


実際の数字を確認するのは、現地にいないと非常に難しい。しかし、戦争の霧やその他の要因を調整した後、西側の公式数字はウクライナの主張とかなり近いという。

木曜日の時点で、ウクライナ国防省は以下のロシア軍損害を主張している。

  • 戦死34,430(負傷、捕虜は約3倍)

  • 装甲兵員輸送車3,632

  • 車両および燃料タンク 2,548

  • 戦車1,504

  • 大砲756

  • 戦術的無人航空機システム 620

  • 戦闘機、攻撃機、輸送機 216

  • 多連装ロケット(MLRS) 240

  • 攻撃・輸送用ヘリコプター183

  • ウクライナ防空隊が撃墜した巡航ミサイル137

  • 対空砲台99

  • 架橋装置などの特殊装備60

  • ボートおよびカッター 14

  • 移動式イスカンダル弾道ミサイル4


この数週間、ドンバスで継続的な圧力と攻撃作戦にもかかわらず、ロシアの死傷者の割合は大幅に減速している。このことは2つのことを示唆している。1つは、ロシア軍の指揮官が攻撃作戦に慎重になっており、目的を達成するために複合兵器を十分に活用していること、もう1つは、ウクライナ軍が戦闘力や弾薬を使い果たしつつあること、これは3カ月以上にわたってロシア軍と戦っていれば予想されることである。最近の現地からの報告によると、この2つの要因はいずれも事実であり、戦いの疲労が双方に追いついてきているようだ。


先月の大半は、スロビャンスク、クリビヤリ、ザポリジャー周辺でロシア軍の死傷者が最も多く、激しい戦闘が行われていたことを反映している。日が経つにつれ、激しい戦闘はスロビャンスクの南東にあるバフムト方面、ウクライナの重要な町セベロドネツク、ライマン周辺に多く移行していった。


その後、欧州最大級の原子力発電所があるケルソン、ザポリジヤ周辺でのウクライナ軍の反攻により、最も犠牲者の多い場所は再び西に移動した。


木曜日、ウクライナ軍は、ロシア軍が進攻しセベロドネツクを後方から切り離そうとしているバフムト付近で最も大きな犠牲を出した。


ロシア軍は、東部での新たな攻勢について、親ロシア派のドネツクとルハンスクの離脱地域を完全に支配し、これらの地域と占領下のクリミアとの間に陸上回廊を形成し維持することを目標としている。■


Your daily tactical update on Ukraine (June 23) - Sandboxx

Stavros Atlamazoglou | June 23, 2022


2022年6月24日金曜日

トルコ海軍の新鋭揚陸無人機空母TCGアナドルが海上公試を開始。今年中にトルコ海軍に就役する予定。

なるほど、無人機専用にすれば、ドック型揚陸艦でも十分に「空母」になるということですか。トルコの無人機の性能は今回のウクライナ戦で世界の注目を集めましたね。なお、当ブログではドローンの用語を極力使わないようにしています。

TCG Anadolu starts official sea trials海上公試中のTCGアナドル (Credit: Selim Bugdanoglu -Sedef Shipyard)


トルコ海軍が導入をめざす揚陸ヘリコプタードック艦(LHD)「TCGアナドルAnadolu(L-400」が、2022年6月20日に海上で目撃された。関係者は、同艦の海上公試開始を確認した。

 


ルコ海軍の将来の旗艦、TCGアナドル(L-400)が2022年6月20日にマルマラ海で目撃され、海上公試が開始された。新造LHDは2022年2月にも出港していたが、海上公試の前段階だった。スペインの造船会社ナバンティアNavantiaと共同で「アナドル」を建造してきたセデフ造船所Sedef Shipyardの関係者は、Linkedinで海上公試を開始したと発表した。


TCG Anadolu starts official sea trials


3月4日、トルコ海軍は新造LHDにトルコ国旗を掲揚し、トルコ国防省は2022年3月10日、TCGアナドルが最初の「技術航海」を終了したと発表した。技術航海の後、港湾受入試験(HAT)の開始について公式発表はなく、Naval Newsは、海上公試の開始はHAT完了を意味すると推測している。


TCGアナドルは2022年10月にトルコ海軍に引き渡される予定で、TB-3無人機発艦着艦システムのアップグレードは年内に開始される。


TCGアナドル開発の最近の進展

TCG Anadolu starts official sea trialsTCGアナドル (Sedef Shipyard photo)


米国がトルコとのF-35 JSFプロジェクト提携を解消した後、TCG Anadoluは無人機空母へ変更されると伝えられてきた。その結果、トルコの無人機メーカー、バイカルBaykarは2021年初頭、戦闘実績のあるTB2を折りたたみ翼にしたTB-3UCAVを開発し、TCGアナドルに搭載すると発表していた。


バイカルはアナドル専用にTB3無人機を製造する。最近の報道によると、LHDは無人機発艦用のローラー機構を搭載し、着艦機を固定するためセキュリティネットが使用される。SSBは、LHDへの無人機運用システムの統合は2022年開始される予定と示唆している。


MIUS UAV aboard TCG AnadoluMIUS UAVをLHD アナドルに搭載した際の想像図. Baykar Defense image.



2025年のTCG「アナドル」運用開始後、TB-3と並び航空戦力の第2選択肢がMIUSだ。バイカルによると、MIUSは軽攻撃機としてアナドルに搭載し、戦略的攻勢、近接航空支援(CAS)、ミサイル攻撃、敵防空鎮圧(SEAD)、敵防空破壊(DEAD)など多用な軍事行動を行う予想がある。


他方でTCGアナドルの揚陸装備が運用開始間近に迫ってきた。トルコ主導の多国籍合同水陸両用演習「EFES-2022」で、「ZAHA」(Zirhli Amfibi Hücum Araci)と略される装甲水陸両用艦艇(MAV)が発表された。ZAHAの製造元FNSSは、2021年12月に同装備の弾道試験と耐雷試験を完了したと発表し、大規模演習への参加は納入が間近であることを示している。


ZAHA揚陸装備 (FNSS photo)



また、セデフ造船は2週間前に、TCGアナドルが搭載する小型水陸両用船(LCM - Landing Craft Mechanised)の海上公試を造船所付近で行っていると発表していた。LCIMは、TCGアナドルの就役業開始までに完成する。


TCG Anadolu starts official sea trialsTCG アナドルが搭載するLCMの海上公試 (Sedef Shipyard photo)



セデフ造船は「LCMはアナドル用に国産開発し、将来のALTAY主戦闘戦車を搭載するために建造た」と説明している。■



Turkiye's Drone Carrier TCG Anadolu Starts Official Sea Trials - Naval News

Tayfun Ozberk  23 Jun 2022

 

AUTHORS

Posted by : Tayfun Ozberk

Tayfun Ozberk is a former naval officer who is expert in Above Water Warfare especially in Littoral Waters. He has a Bachelor Degree in Computer Science. After serving the Turkish Navy for 16 years, he started writing articles for several media. Tayfun also offers analysis services on global naval strategies. He's based in Mersin, Turkey.

 

制裁を牽制し、ISSの軌道飛行維持を脅かすロシアの主張は真実かファクトチェックしてみた

 

 

 

NASA

   

 

シアが国際宇宙ステーション(ISS)を地球に衝突させると脅しているとの主張は、正当なものとはいえない。ロシア宇宙機関のトップは、ISSが軌道から落ちる可能性があるとツイートしたが、専門家はその可能性は極めて低いと考えている。

 

 

一部のソーシャルメディアユーザーは、米国がロシアとの戦争でウクライナを支援することが裏目に出ると心配している。ツイートには、アメリカがウクライナを支援し続けるなら、ISSを落下させるかもしれないとロシアが発言したとある。このツイートでは、ロシア版NASAであるロスコスモスのトップが、アメリカがウクライナを支持し続ければ、国際宇宙ステーションがアメリカ、ヨーロッパ、インド、中国に落下することを示唆したと主張している。

 これらの主張には真実があるのだろうか?そして、我々は今すぐパニックになるべきなのだろうか?事実確認を行った。

 まず、背景を少し説明する。ロシアとアメリカが長年にわたり政治的に対立してきたことは周知の事実だが、宇宙では友好的な関係を保っている。Axiosの記事によると、宇宙ステーションは米露が協力している数少ない分野の一つだ。NASAの国際協力のページによると、ISSは1998年に打ち上げられ、アメリカ、ロシア、カナダ、日本、欧州宇宙機関が参加した。

 

キーワード検索してみる

このツイートでは、このニュースはロスコスモスのトップから直接来たということだが、このような脅しが本当にあったのかキーワード検索してみた。「head of roscosmos says ISS could fall out of sky because of sanctions」というキーワードで検索すると、Newsweek記事がヒットした。

 Newsweekによると、ロシアの宇宙機関のトップであるドミトリー・ロゴジンDmitry Rogozinは、Twitterで、ISSが軌道から落ちるかもしれないと警告していた。

 記事によると、ロゴジンは2月24日に「もし我々との協力を妨害したら、制御不能な軌道離脱と米国や欧州への落下から誰がISSを救うのか」とツイートしている。「インドや中国に500トン級の構造物を落とす選択肢もある。そんな見通しで彼らを脅すのか?」とある。

 確かにロスコスモスのトップは、アメリカの対ロシア制裁でISSが空から落ちるかもしれないと警告していたので、少なくとも出所は分かった。しかし、ロゴジンの主張に真実味があるのだろうか?

 

複数ソースを確認すると

Timeの記事によると、ロゴジンが本気で荒唐無稽な脅しをツイートしたのは今回が初めてではない。2014年に至っては、米国はトランポリンで国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を送るべきだとまで書き込んでいる。

 ロゴジンが「米国は宇宙へ飛ぶためにほうきを使わなければならないだろう」とつぶやいた後、元宇宙ステーション司令官のテリー・ヴァーツはTimeに、「本人のこれまでの言動から、驚きはしなかったよ。予想していたことだ。一方では目を丸くして反応し、他方では『宇宙ステーションのパートナーシップにダメージを与えたな』と思いました」と語っている。

 これに対するNASAの反応は?基本的には、「ふーん」という感じだ。

 AP通信によると、NASAのビル・ネルソンBill Nelson長官は、「あれがドミトリー・ロゴジンだ」と述べた。「彼は時々暴言を吐く。しかし、結局のところ、彼は我々と一緒に仕事をしてきた。ロシアの民間宇宙計画で働く他の人たちは、プロフェッショナルなんだ」。

 The Verge記事によると、ISSが軌道飛行を維持するためロシアが必要なのは事実だが、ロシアがテーブルから離れても、ISSがすぐに空から落ちてくることはない。

 

評価

ほとんど正当ではない。ロスコスモス長官がツイッターで、国際宇宙ステーションが地球に落ちてくると脅したが、その可能性は極めて低いことで専門家は一致している。さらに、ロシアがISSから離脱しても、ISSが即座に軌道を外れることはないだろう。■


Is Russia threatening to let the International Space Station crash into Earth? - Poynter

By: Pride David

June 22, 2022


ウクライナ戦の最新状況(現地時間6月23日)開栓後120目となった

 

The situation in and around Severodonetsk. (ISW)


シアのウクライナ侵攻開始から120日となった。木曜日、ドンバスでの戦闘は続き、ロシア軍はセベロドネツクの完全攻略に近づいてきた。


モスクワのタイムテーブル

先週、ウクライナ軍は、ドンバスのロシア軍司令官が、今週末までにセベロドネツク占領で期限をモスクワから与えられていると示唆した。この主張は、西側情報機関によって検証されていないが(少なくとも公には)、セベロドネツクに対する新たな攻撃は、それが信頼できるものであることを示唆している。

 ロシア軍はセベロドネツクへの正面攻撃に失敗し、現在は側面、特に南側から同市を切り崩そうとしている。

 しかし、ロシア軍は、必要な複合武器と機動戦能力を欠いているため、迅速な利益も達成できていない。

 ロシア軍はリシチャンスク南方で引き続き優勢であり、今後数日でリシチャンスクに到達すると思われるが、セベロドネツク-リシチャンスク地域を迅速に占領できないだろう。ロシア軍は、リシチャンスクに向かう作戦を支援するため、バクムート-リシチャンスク高速道路T1302沿いのウクライナの交通通信路の妨害を強化したと戦争研究所は評価している。

 一方、ウクライナ南部の状況はほとんど変わっていない。ウクライナ側はロシア防御を突破しようとしているが、迅速な成果を上げるには火力が足りない。ケルソンやザポリジャー周辺の状況は、セベロドネツク周辺の状況と似ているが、逆転している。


ロシア軍の損失


 ウクライナ軍は連日、ロシア人犠牲者の数を更新している。これらの数字は公式の数字であり、個別に検証されたものではない。

しかし、欧米の情報機関による評価や独立した報告書は、ウクライナの主張する犠牲者数をある程度裏付けている。例えば、オープンソースの情報調査ページ「オリックス」は、約800台のロシア戦車を破壊または拿捕したことを目視で確認しており、この評価は英国国防省によって確認されている。

 他のウクライナ側の主張のほとんどについても、同じような独立した検証が存在する。つい最近、米国防総省は、ロシア軍が1,000両以上の戦車、数十機の戦闘機やヘリコプターを含むあらゆる種類の戦闘車両数千台を失ったことを認めた。

 さらに、西側情報機関の関係者を引用した最近の報道では、ロシア軍はこれまでの戦争で最大2万人の死者を出したという。

 実際の数字を確認するのは、現地にいない限り非常に困難である。しかし、戦争の霧やその他の要因を調整した後、西側の公式数字はウクライナの主張とかなり近いという。

木曜日の時点で、ウクライナ国防省は以下のロシア人犠牲者を主張している。


  • 戦死34,430(負傷、捕虜は約3倍)

  • 装甲兵員輸送車3,632

  • 車両および燃料タンク 2,548

  • 戦車1,504

  • 大砲756

  • 戦術的無人航空機 620

  • 戦闘機、攻撃機、輸送機 216

  • 多連装ロケットシステム(MLRS)240

  • 攻撃・輸送用ヘリコプター183

  • 撃墜した巡航ミサイル137

  • 対空砲台99

  • 架橋装置などの特殊装備60

  • ボートおよびカッター 14

  • 移動式イスカンダル弾道ミサイル4


 この数週間、ドンバスで継続的な圧力と攻撃作戦にもかかわらず、ロシアの死傷者の割合は大幅に減速している。このことは2つのことを示唆している。1つは、ロシア軍の指揮官が攻撃作戦に慎重になっており、目的を達成するために複合兵器を十分に活用していること、もう1つは、ウクライナ軍が戦闘力や弾薬を使い果たしつつあること、これは3カ月以上にわたってロシア軍と戦っていれば予想されることである。最近の現地からの報告によると、この2つの要因はいずれも事実であり、戦いの疲労が双方に追いついてきているようだ。

 先月の大半は、スロビャンスク、クリビヤリ、ザポリジャー周辺でロシア軍の死傷者が最も多く、激しい戦闘が行われていたことを反映している。日が経つにつれ、激しい戦闘はスロビャンスクの南東にあるバフムト方面、ウクライナの重要な町セベロドネツク、ライマン周辺に多く移行していった。

 その後、欧州最大級の原子力発電所があるケルソン、ザポリジヤ周辺でのウクライナ軍の反攻により、最も犠牲者の多い場所は再び西に移動した。

 木曜日、ウクライナ軍は、ロシア軍が進攻しセベロドネツクを後方から切り離そうとしてバフムト付近で最も大きな犠牲を出した。

 ロシア軍は、東部での新たな攻勢について、親ロシア派のドネツクとルハンスクの離脱地域を完全に支配し、これらの地域と占領下のクリミアとの間に陸上回廊を形成し維持することを目標としている。■


Your daily tactical update on Ukraine (June 23) - Sandboxx

Stavros Atlamazoglou | June 23, 2022


ウクライナ戦からこれからの空軍のあるべき姿を考察したエッセイをご紹介。

  

 

RuCrash

 

著者の一人は現役の米空軍大佐です。ウクライナ戦からこれからの空軍像を提唱していますので、このブログ読者にも参考になると思います。

 

クライナの空中戦の成功は、西側諸国で航空戦力のパラダイムを覆し、制空権より領空侵犯を重視する代替ビジョンを提供する。ロシアは世界最大かつ技術的に洗練された空軍を保有しているにもかかわらず、ウクライナで制空権を確立できなかった。西側諸国のアナリストは驚き、困惑した。しかし、困惑するのは軍事的近視眼の表れだ。


西側諸国の空軍は、イタリアのジュリオ・ドゥーエ元帥、米陸軍航空隊のビリー・ミッチェル准将、英空軍のヒュー・トレンチャード空軍大将らが示した道を今も踏襲している。航空兵力理論の創始者たちは、"command of the air"、今日のドクトリンでは "air supremacy "を獲得し、維持することを唱えた。ドゥーエは、「制空権を握るのは、自らが飛ぶ能力を保持しながら、敵の飛行を阻止すること」と提唱した。これは、アルフレッド・セイヤー・マハンAlfred Thayer Mahanの「海上の指揮(command of the sea)」を熟読しての理解で、決戦で敵艦隊を探し出し破壊することが目標だった。

 

 

一世紀経た今も、このビジョンは西側空軍のドクトリンと倫理観にしっかり根付いている。しかし、ウクライナでの空戦では、いずれの側も空を支配していないことから、制空権を獲得するより、制空権を否定する方が賢明な作戦目標となるのを示唆している。米空軍の指導層や国防アナリストは、米国が制空権を当然視することはできなくなっていると今日認識している。ウクライナ戦は、空軍が航空拒否をもっと活用すべきことを示している。

 

コーベットに航空戦力理論家として再注目

アメリカの航空戦力へのアプローチを再考する上で、識者はマハンと同時代のイギリスの海軍理論家ジュリアン・コーベット卿Sir Julian Corbettに注目すべきだ。コーベットは、海の完全支配を懐疑的にとらえ、「海戦でよくある状況は、どちらの側にも支配権がないこと」だと主張した。彼は海上指揮について絶対的ではなく相対的な解釈を主張し、時間または空間で区切られた「作業指揮」、今日の言葉で言えば「制海権」を要求した。同様に、ドゥーエ流の空の絶対的支配は望ましいものの、空軍は限定された制空権、あるいは一時的、 局地的な制空権で対応するかもしれない。

 

コーベットにとって、制海権の帰結は制海権だ。海軍が海を支配するほど強力でなくても、海を利用する相手側の能力を制限したり、否定するのは可能と主張した。コーベットはこの概念を "disputing command "と呼び、"fleet in being "と "minor counterattacks "という2つの主要方法を提示した。小規模な海軍が戦闘を回避しながらも、活動的かつ機動的であることにより、「在るがままの艦隊」として脅威を与え続ける能動的防衛を構想した。「敵の注意を絶えず引きつけることにより、敵が優勢でも支配力を行使できなくさせる」。 さらに、劣勢な海軍は、無防備な艦船を行動不能にするため、小規模な反撃やヒットアンドラン攻撃を行えるとした。

 

ウクライナ上空におけるコーベット理論の特別授業

コーベットの海軍領域における拒否戦略は、空域にも当てはまる。ウクライナは機動性と分散性を活かして、「存在する力」として防空体制を維持している。冷戦時代のソ連製移動式地対空ミサイルシステムを各種運用し、ウクライナの地上防衛軍はロシア軍機を寄せ付けず、脅威を与えてきた。長距離型のS-300ファミリー、中距離型のSA-11、短距離型のSA-8 Geckoシステムを使っている。コーベットのアドバイス通り、ウクライナの防空部隊は分散性と機動性を生かし、ミサイルを発射してすぐ発射地点から離れる「Shoot and Scoot」戦術をとっている。ある国防総省高官は、「ウクライナ軍は、短距離長距離双方の防空手段を非常に軽快に使い続けている」と結論づけた。

 

ウクライナの地対空ミサイルシステムは、無軌道車両に搭載され、一瞬で標的を捕捉できる。ウクライナ上空を飛行する危険性を考慮し、ロシアはレーダーターゲットを見つけるためスタンドオフセンサーに大きく依存し、ウクライナの機動装備を交戦する時間が長くなっている。射撃後、防衛側はレーダーを切り、荷物をまとめ森や建物など地上の散乱物に隠れるように走り去る。1991年の湾岸戦争では、米連合がイラクの移動型スカッドミサイルを狩ったが、制空権を握っていたにもかかわらず、1発も撃破できなかった。ウクライナ上空では、ロシア機が狩る側であり同時に狩られる側でもあり、発見と破壊のタスクをさらに複雑にしている。

 

その結果、ロシア軍機とウクライナ軍防空網の間で、命がけの「追いかけっこ」が展開されている。オープンソースの情報サイト「オリックス」によれば、開戦以来、ロシア軍96機が破壊され、うち少なくとも9機がスホイ Su-34、1機がSu-35(アメリカのF-15に相当)だった。ウクライナは合計250基のS-300発射装置で戦争を始めたが、11週間たっても、ロシアは少なくともオリックスが写真とビデオで確認した限りでは、24基しか破壊できていない。ウクライナ当局が損失に関する情報を慎重に管理しているのを考えると、限られた情報から結論を導き出すには注意が必要だ。しかし、最も良い証拠は、ロシアの行動そのものだろう。国防総省のある高官は、「ウクライナの防空が機能していることが分かる理由の一つは、ロシア軍がウクライナ領空に入ることを警戒し、入っても長居はしていないことがある」と述べている。

 

ロシアのジェット機や爆撃機がウクライナ領空に飛来するのは稀だが、レーダー探知を逃れるため低空飛行が一般的だ。しかし、この戦術をとると、ウクライナの対空砲や、アメリカが供与したスティンガーなど肩撃ちの携帯型防空システム数千基の射程範囲に入ることになり、別の問題が発生する。ウクライナ防衛隊は、ホームフィールドの優位性、特に地元の地形に関する深い知識を利用している。「我々は見慣れた土地に隠れているが、相手は見慣れない土地で露出している」、「私たちは罠を仕掛け、相手が最も危険な状態に反撃して、驚かせています」。

 

こうした言葉がウクライナの防空戦略を表現している。ロシア機をウクライナの防空トラップに誘い込むのだ。ウクライナ空軍報道官ユーリ・イフナットは、「ウクライナは自国の土地で活動しているため、空で効果的である」と述べている。ウクライナ空軍のユーリ・イナトYuri Ihnat報道官は、「ウクライナ空域に飛来する敵は、我々の防空システムのゾーンに飛び込んでいる」と述べている。ウクライナは制空権を確保できなくても、ロシアに制空権を渡していない。ウクライナが防空体制を維持する限り、ロシアの注意を引き続けられる。標的を定めて攻撃する脅威だけで、ロシア航空機の領空上空の活動を否定するのに十分だ。

 

 

航空戦の新時代

この点で、ウクライナの空戦は今後のルールになる可能性が高い。大国はもちろん、中堅国も米軍はじめ西側諸国の空軍が領空を支配・拒否する傾向が強まる、航空戦の将来像の一端を垣間見ているのだ。

 

高度で高機動の長距離地対空ミサイル、携帯型防空システム、滞空弾の世界的な普及に加え、ネットワーク化された無人システム、軍民両用ロボット、センサー、先端材料の進歩により、制空権争いに必要な能力がより多くの敵の手中に入るようになった。例えばイランは、戦闘用無人機、陸上攻撃用巡航ミサイル、精密誘導式短距離弾道ミサイルを、シリアのISIL、サウジの石油施設、イラクの米軍基地に投入し、成功を収めている。同様に、ナゴルノ・カラバフ紛争で、アゼルバイジャンは戦闘用ドローンに滞空弾を搭載し精密誘導砲の組み合わせでアルメニア軍を妨害し、イスラエル製のLORA弾道ミサイルを使用してアルメニアとカラバフを結ぶ橋を標的にした。このような事態を目の当たりにした中小国家は注目し、自らも同じ能力の獲得をめざすだろう。そして、従来型の有人戦闘機より低コストで効果的な精密攻撃能力を持つ空軍のロボット化の時代が到来する。

 

かつて空軍の開発と運用は、財政、組織、技術、科学のハードルによって、大国に限定されていた。しかし今日、コンピュータ・パワーのコスト低下とインターネットの世界的普及、の既存および新規技術の両用化により、安価かつ効果的なロボット航空戦力が、多数の国家に利用可能になってきた。

 

残念ながら、西側諸国は、敵の防衛力を深く攻撃するため、次世代戦闘機やステルス爆撃機など、高価で精巧な能力に固執しており、コスト曲線の間違った側にいる状況だ。ドゥーエ流の「弓矢を射る」戦略は、時間の経過で維持できなくなっている。歴代のアメリカ製戦闘機は、平均して前の機体より2.5倍以上の価格になっている。F-22ラプターは1機約250百万ドルで、65百万ドルだったF15イーグルよりほぼ400%増となった。

 

その結果、アメリカの戦闘機は高性能になったが、機数は減っている。40年近く前、元陸軍次官のノーマン・オーガスティンは、こう皮肉った。「2054年になると、国防予算で1機しか購入できなくなる。この航空機は、空軍と海軍が週3日半ずつ共有するが、閏年には海兵隊が1日余分に使えるようになる」。大国間紛争では、米国は長期間の消耗戦に勝つための優れた航空機の数を欠くことになる。

 

新しいパラダイムの模索

トーマス・クーンThomas Kuhnがその代表作『科学革命の構造』で述べたように、世界が変化すると、確立されていたパラダイム(基盤となる信念の集合)が、現実と一致しなくなる。この場合、パラダイムそのものに疑問が生じ、代替パラダイムを構築し、受け入れなければならない。有人機による制空権確保を絶対条件とする欧米の航空戦力のパラダイムが、通用しないことが多くなってきた。米空軍は、このパラダイムシフトに早急に対応しなければならない。

 

確かに、米空軍の上級幹部は何年も前から、米国が優位だった時代に享受してきた空の支配が終焉を迎えつつあると警告している。戦略・統合・要求担当副参謀長のS・クリントン・ハイノート中将 Lt. Gen. S. Clinton Hinoteは「完全かつ永続的な空の覇権という考えには大いに問題がある」と述べた。「その確立が実行可能と思えない。空軍は、ハイエンド戦で航空優勢が達成できないことを認め、代わりに「一時的な優勢な窓」、つまりコーベットの一時的かつ局所的な海の支配に相当する航空優勢を目指している。

 

これを達成するため、空軍は次世代航空優勢戦闘機プログラム(有人航空機、ドローン、その他の高度な機能の統合システム)へ投資を加速しようとしており、有人の第6世代航空機1機あたりのコストは数億ドルになると予想されている。目標は、高度な敵防空網に侵入し、敵地深くの空と地上目標を攻撃することで、制空権を獲得し、地上部隊へ近接航空支援を提供することだ。もちろん、コーベットは、敵の優れた質量に対抗する方法として、少数で、高価で、精巧な艦隊の投入は勧めていない。つまり、空軍はコーベットの教えを十分に理解していないのだ。

 

同様に、空軍の既存の作戦コンセプトや取得優先順位は、制空権の補完として、航空阻止の機能を見落としている。ハイノート中将は、空軍の課題を「いかにして紛争地域に侵入し、制空権効果を生み出すか」と定義している。しかし、紛争空域に侵入するのは課題の一部に過ぎず、最重要の課題ではないかもしれない。もう1つは、同様の優位性を敵に与えないようにすることだ。ハリー・ハレムとアイク・フライマンHarry Halem and Eyck Freymannは、「制空権がなければ、中国は台湾にほぼすべての軍事計画を実行できなくなる」と論じている。

 

空軍は、敵の A2/AD の「バブル」を破ろうと近視眼的に努力するのではなく、空における防御側の優位性を利用する方がよいだろう。空軍は、航空阻止戦略を採用することで、中国やロシアが迅速に領土を奪取し、既成事実とするのを困難かつ高価にしようとしている。これは、アメリカの航空兵力の考え方でパラダイムシフトを求めるものである。

 

速く変化しなければ敗退となる

米空軍は、2つの方法でこのパラダイム変化に対応する必要がある。まず、航空戦力の戦略とドクトリンの「開口部を開く」ことで、ロボット化した空軍と精密打撃能力の成長と普及を認識し、それに対応する。ここで空軍は、航空阻止を航空優勢任務と対等の立場に置かなければならない。そのため、無人化・自律化システムと、安価な小型無人機数千機を用いた大群戦術への移行をもっと迅速に行う必要がある。これは空軍が好む少数精鋭のハイエンド戦闘機や爆撃機からの移行を意味する。このため、戦闘機パイロットの文化や、空軍作戦は有人機が中心であるべきとする古い信念にいまだしがみついている空軍にとって、航空阻止戦略でより大きな変化が必要になる。

 

少数の大型で高価、かつ代替困難な有人機材ではなく、有人機と小型安価な無人機やミサイル多数を混合することが、航空阻止戦略に必要だ。この戦略で、敵の空爆やミサイル攻撃を受けても生き残り、空域を維持できるようにする。無人システムの価格が有人航空機の数分の一であり、高度な製造技術によってコストと生産速度がさらに削減できれば大量生産が可能となる。フランク・ケンドール空軍長官もこの現実を認め、「手頃な規模の空軍を持つには、低コストプラットフォームを導入しなければならない」と述べている。長官は、低コスト無人プラットフォームと、高価な有人飛行機を組み合わせ、一人のパイロットで無人機複数をコントロールする提案をしている。米空軍はさらに踏み込んで、無人システムに、忠実なウィングマン以上の役割を与える必要がある。

 

最後に、新しいパラダイムを受け入れるには、空軍の役割と任務に関するキーウェスト協定の見直しが必要だ。特に、ペイトリオットミサイルや高高度防衛ミサイルのようなシステムの所有権と同様に、どの軍が防空に責任を持つべきかを再考すべきだ。空軍が航空優勢と攻撃任務を優先し続ける理由の1つは、官僚的な政治で、他軍が航空防衛で主要な責任を負っていることだ。航空管制の将来における防空と拒否の中心性を考えると、空軍は領空拒否ではなく、地上部隊の防御に焦点を当てるべきだ。その代わり、空軍はコストと効果の計算の変化に無頓着なまま、長距離侵入任務を遂行するため少数かつ精巧な能力の機材を導入し続けることになる。ドゥーエのパラダイムに固執したい衝動は強いかもしれないが、航空戦の未来は領空拒否にある。■


In Denial About Denial: Why Ukraine's Air Success Should Worry the West - War on the Rocks

MAXIMILIAN K. BREMER AND KELLY A. GRIECO

JUNE 15, 2022

 

Maximilian K. Bremer is a U.S. Air Force colonel and the director of the Special Programs Division at Air Mobility Command. The opinions expressed here are his own and do not reflect the views of the Department of Defense and/or the U.S. Air Force.

Kelly A. Grieco (@ka_grieco) is a resident senior fellow with the New American Engagement Initiative at the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security.