2020年6月17日水曜日

北朝鮮のケソン連絡事務所爆破は自暴自棄な心理の反映に過ぎない



朝鮮が6月16日に南北連絡事務所を爆破し、ソウルと連絡を断つ姿勢を強烈に示した。南朝鮮国防相は北が南に軍事行動を実施しても、配下の軍部隊は「強力な対応」の準備が整っていると強調。ただし北による今回の行動は侵攻を狙ったものではなく、自らが感じている恐怖と弱点を顕にした格好だ。

米政府は北の教条的態度に直接反応し「軍事オプション」を口にすべきではない。なんといってもこちら側陣営の通常兵力、核兵力は圧倒的に強力であり、北への抑止力になっている。

6月に入り、北朝鮮は挑発的な脅かしを繰り返している。南朝鮮との連絡を断絶したのは最新の動きだ。理由は明白だ。制裁が北朝鮮に苦痛を与えており、経済面で救援策を必死に求めている。南朝鮮の文在寅大統領は米韓両国の軍事力が圧倒的に強力で抑止力となり北による侵攻を食い止めていることがよくわかっている。

北のほうこそこの事実を承知しているはずで、金正恩は米韓同盟を相手に開戦するリスクを絶対に負いたくないはずだ。自身の生命があやうくなるためだ。といってワシントンの専門家は北朝鮮に関し警句の声をあげるのをやめるわけにいかない。北を警戒するのが米国の通常の態度だ。

2004年7月の上院公聴会でジェイムズ・ケリー東アジア太平洋問題担当国務次官補はこう発言していた。クリントン政権での「合意された枠組み」合意は北朝鮮の核兵器開発開始を止められなかった。ブッシュ政権で目標は検証可能かつ不可逆的な北朝鮮核開発の停止以外になかった。

ブッシュの政策は失敗に終わった。わずか二年後に北朝鮮が初の核兵器実験を行ったためだ。2016年9月には第5回目の核実験実施に踏み切り、「米国は北朝鮮を核兵器保有国家として絶対に認めない」とオバマ政権が出した声明文でも平壌を止めることができず、そのわずか一年後に第六回目で最大規模の実験が実施された。

トランプ大統領は2017年に初の国連演説でクリントン、ブッシュ、オバマの歴代大統領と同様の圧力を北朝鮮にかけ「非核化が唯一受け入れられる将来の姿」と述べるとともに、「必要に迫られたら」「北朝鮮を完全に破壊する」とした。その警告から3年が経つが、ワシントンは同じ目標を追い求めている。北朝鮮の完全非核化だ。

トランプは金正恩との首脳会談2回と非武装地帯でのミニサミット会談をこなしたものの、米北朝鮮関係に改善の兆しは生まれなかった。理由はブッシュ、オバマの前政権と同じくトランプも北朝鮮の完全な非核化を第一に求めているためだ。

したがって米国のもっと大きな目的は現実に目を向け、今も将来も不必要な開戦を避けることだ。北朝鮮に対する通常・核兵力の優位性を維持することでこれが可能となり、文大統領と密接に調整しつつ緊張緩和を図ることだ。

平和とともに北朝鮮との関係を正常化するため、さらに南北朝鮮の経済関係を強化することで開戦リスクが着実に減る。結果として朝鮮半島で非核化の実現が目標であることに変わりないが、実現はさらに先となる覚悟が必要だ。

「予防的戦争」というひどい道を選択すればすべて無駄になる。今ある通常兵力・核兵力をあてにすれば、たとえ長時間かかっても平和が実現できるはずである。■


この記事は以下を再構成したものです。


June 16, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: Korea Watch  Tags: North KoreaSouth KoreaKaesongMilitaryTechnology


Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who retired in 2015 after 21 years, including four combat deployments. Follow him @DanielLDavis1.

重武装機構想を巡り意見がまとまらない米空軍




palletized munitions exiting aircraft今年1月にユタ試験場でMC-130JからのCleaver弾薬投下実験は成功した。Credit: U.S. Air Force



空軍の短期優先事項として「重武装機」が急浮上しているが、機材選定で結論がまとまらず、このままだと指揮命令系統やノースロップ・グラマンB-21事業にも影響が出てくる恐れがある。

  • 空軍研究本部が新型Cleaver弾薬の実証実験に成功
  • 「重武装機」試作作業の予算を検討中

ロッキードC-130、ボーイングC-17の母機から新型長距離弾を発射する案を空軍戦闘統合能力実現事業 (AFWIC) 室が短期解決策として提示している。

一方、空軍グローバル打撃軍団 (AFGSC)はミッションに最適化させた新型機の開発を主張している。

空軍協会のシンクタンク、ミッチェル研究所はともに支持しない。このたびAviation Weekは公表前の同研究所による資料を入手した。次期航空宇宙コンセプト性能評価部長のマーク・ガンジンガー退役大佐が編纂し、費用対効果が一番高いのはB-21の調達増と主張している。

B-21の最低100機調達では長距離打撃手段が不足するとの見解で関係部署すべてが一致している。B-21はノースロップB-2(20機)とロックウェルB-1B(62機)と交代し、ボーイングB-52(75機)と併用する。

「爆撃機部隊の規模をどこまで拡大しても、統合軍が必要する規模に達しないことはわかっている」とクリントン・ハイノート少将(AFWIC
副司令)は述べている。

空軍最新の爆撃機必要機数は最低220機の推定とAFGSC司令官ティモシー・レイ大将は4月に報道陣に語っていた。

ミッチェル研究所による分析では空軍の爆撃機数はB-2とB-1B退役に伴い、2032年に120機程度まで縮小となる。

元爆撃機パイロットのガンジンガーはB-21の発注規模は2040年までに120機と予測。75機のB-52とあわせても空軍が求める最小規模に30機不足する。この差を埋める策として現行輸送機に長距離弾を搭載する、新型機を開発する、あるいはB-21を追加発注するの各案があり、意見がまとまらないまま内部議論が続いている。

根底に費用対効果と能力のふたつがある。ステルス爆撃機のB-21Aは重武装機より高価格だが、敵目標に接近できるので攻撃には安価な無動力兵器が使える。反面、B-21Aは開発初期段階にあり、ノースロップがまとまった機数の納入に10年以上かかる恐れもある。

重武装機構想は1970年代以降、各種が検討されてきた。ジミー・カーター政権時代にロックウェルB-1Aが候補となり、国防総省は巡航ミサイル母機としてボーイング747改装案を検討した。

同構想が30年後に再浮上した。2006年に議会予算局がボーイングC-17に超音速巡航ミサイルを搭載する案を検討したが、敵地侵攻が可能な爆撃機より低効果の上、C-17の追加発注で35億ドルが必要とわかった。

その四年後にB-21Aの要求水準が定まると、空軍はRand社に研究委託し、侵攻型爆撃機と重武装機構想の費用比較を行った。侵攻型爆撃機導入のほうが重武装機へ予算投入するより安上がりになるという結論だった。

空軍がノースロップにB-21Aの開発契約を交付したのは2015年10月だったが、議論は未決着だ。ウィル・ローパーは国防長官付き戦略戦力開発室長として2016年2月に重武装機構想を発表し、ロッキードC-130に似た機体がパレットに載せた弾薬を展開する様子を示していた。

翌年ローパーは調達・技術・兵站担当の空軍次官補に就任し、重武装機構想は空軍研究本部(AFRL)に渡された。1月に、AFRLはパレット化した弾薬の投下試験をMC-130Jで初めて実施した。拡大距離貨物投下消耗扱い空中装備Cargo Launch Expendable Air Vehicles with Extended Range (Cleaver)としてパレット6枚に異なる弾薬を乗せた。その後のテストでC-17からの投下が試された。

MC-130J air-drop test2006年のテストでC-17から重量50千ポンドのロケットを投下する能力が実証された。このロケットは極超音速滑空体の空中発射に使われる。Credit: Steve Zapka/U.S. Air Force

Cleaverテストの結果からAFRLはC-130、C-17ともに投入可能と結論づけ、C-17でロケット空中発射も実証した。2006年にC-17から極超音速加速滑空体用のミサイルも空中投下した。同機はミサイル防衛庁でも中距離弾道ミサイル想定の標的投下に使われ、ミサイル迎撃テストで役目を果たした。

AFWICはC-130やC-17へ長距離兵器を搭載するのが望ましいとしており、その理由に攻撃性能を飛躍的に伸ばせるからとする。
「性能がすべてであり、長距離攻撃能力に実効性を持たせるよう配慮が必要だ。輸送機の活用で攻撃力の強化が実現できると確信している」(ハイノート)

この考え方に全員が賛同しているわけではない。レイ大将は爆撃機部隊総司令官としてC-17を攻撃用それとも輸送用に選択する場面を司令官に与えたくないと報道陣に述べた。

「輸送機をここで使えば輸送任務と競合になる。重武装機は完全新設計で経済合理性をもたせ開発して爆撃機不足を解消する方がよい」(レイ)

ハイノート、レイの両名で既存機、新型機で意見が割れるが、ステルス性能がない機材は不適だと主張する向きもある。

長距離ミサイル導入を進めるよりB-21なら標的に接近でき、短距離射程で直接攻撃手段を使える。その場合の攻撃弾には推進用の燃料も機構も不要なので小型化できる。

「サイズが重要だ。出撃規模が縮小しており運べる兵器の数も減っている」とガンジンガーはミッチェル研究所報告書で指摘。

ガンジンガーは重武装機で搭載する長距離弾と爆撃機で運用するより安価かつ精密誘導可能な爆弾の比較もしている。中国やロシアと開戦となれば標的リストは長大となる。

「一発百万ドル超の長距離スタンドオフミサイルを何万発も発射する負担に耐えきれない」とガンジンガーは報告書で指摘している。■

この記事は以下を再構成したものです。


Steve Trimble June 02, 2020

2020年6月16日火曜日

F/A-18スーパーホーネットの新型ブロックIIIが初飛行

Boeing
ーイングはF/A-18スーパーホーネットの新型ブロックIIIの初飛行を実施した。


ボーイングはYoutubueの自社チャンネルに映像を公開し、複座のF/A-18F (F287)の初飛行を示した。

飛行テスト用二機が米海軍に近日中に引き渡される。パイロットがブロックIIIに習熟したあとで空母運用テストがはじまる。実戦用機材は2021年から引き渡し開始となる。

ブロックIIIの初飛行と入れ違いにF/A-18E/FブロックII仕様の最終引き渡しが4月にあった。

ブロックIIIの改良点に機体構造、センサー能力向上、データスループットの拡張、新型赤外線探索追跡センサー、一体型燃料タンクがあり、後者は飛行距離を拡大するがF287機体には未装着だ。

2019年3月にボーイングはブロックIII仕様のスーパーホーネット78機の製造契約を40億ドルで交付された。作業は米海軍のブロックII機材をブロックIIIに改装するもので、耐用期間を6千時間から1万時間に延長する。作業は三年で完了する。

オーストラリアでもスーパーホーネットブロックII24機が供用中だが、ブロックIII性能改修は未決だ。

ボーイングはクウェイト向けスーパーホーネット28機の製造契約を4月に受注した。ドイツはF/A-18E/Fを30機調達し、核兵器を搭載させる。ドイツは同機の電子戦用途機材EA-18Gグラウラーも15機導入する。

スーパーホーネットはカナダ、フィンランド、インドでも戦闘機選定の候補に残っている。■

この記事は以下を再構成したものです。

Block III Super Hornet conducts maiden sortie

By Greg Waldron11 June 2020


2020年6月15日月曜日

歴史に残らなかった機体17 ノースロップF-89は核武装の全天候迎撃機だった

Wikimedia Commons



天候双発機のノースロップF-89スコーピオンは航空防衛軍団専用に設計された初のジェット迎撃機だった。▶直線翼で複座の同機にはレーダー操作員がパイロットを誘導し、昼夜問わず敵機を捕捉撃破する構想だった。▶アリソンJ35エンジン(推力8千ポンド)にアフターバーナーを付けた。巡航速度は465mphでアフターバーナーを作動させ630mphを出し、航続距離は1千マイル、実用上昇限度は45千フィートだった。▶
F-89の初飛行は1948年8月で米空軍向け納入は1950年7月に始まった。▶合計1,050機が製造され、1960年代末まで現役だった。▶迎撃機としてソ連の核爆撃機が米国本土に侵入する前に撃墜する役目だった。
▶F-89には当時最先端の兵装が搭載され、はじめて機関銃を全廃した戦闘機となり、ヒューズ製ファルコン空対空誘導ミサイルを採用した。▶ミサイルは敵機にレーダー照準を合わせると自動発射する仕様だった。

F-89Jでさらに威力を高め空対空核兵器を初めて搭載した機体となった。▶これがジーニーロケットで、1957年7月にネヴァダ試験場上空で核弾頭付きジーニーを試射している。▶MB-1ジーニーはその後AIR-2Aに改称され、「ディンドン」の愛称がつき、全長3メートルの本体に1.5キロトンのW25を弾頭に付けた。▶ジーニーはその後、対地攻撃用通常兵器に改装された。▶ただし、改装作業が完了した時点でF-4ファントムはじめ新鋭機がF-89スコーピオンにかわり供用開始していた。▶それでも1960年代初頭にスコーピオンはジーニーとの組み合わせで供用中だった。

F-89Jは350機がそろい、航空防衛軍団で初の核装備迎撃機となった。▶1950年代末から州軍へ移譲が始まり、核兵器は撤去され、最後の機体の退役は1969年7月だった。■

この記事は以下を再構成したものです。


June 13, 2020  Topic: Security  Region: Americas  

2020年6月14日日曜日

地球温暖化でアラスカの地政学的意義に注目

ラスカがニュースに出る頻度が増えている。ほぼ毎日のように北米空域に向かうロシア爆撃機に米空軍戦闘機がスクランブル出撃している。太平洋地区で初のF-35共用打撃戦闘機飛行隊はアラスカのイールソン空軍基地で今春運用開始した。サウスダコタからB-1Bランサーがベーリング海ヘ飛びカムチャツカ半島をかすめる経路をとり、日本領空まで超長距離飛行した。その他事例もあり、実ににぎやかな状態だ。

空軍は一連の動きをペンタゴンの目指す「動的戦力展開」“dynamic force employment” モデルの一環とし、通常は本国近くにある部隊を予想を超えた頻度で遠隔地に派遣する構想で、米軍が大規模戦力を遠隔地点へ展開する能力を有するのを敵想定国に示す意味がある。平時の戦略競合は他のドメインでも展開している。情報、サイバー、経済の各分野だ。

戦略競合関係とは軍事力で相対的な強み弱みを会話するようなものだ。双方が戦略的に優位だと示し、有事には勝てないと他方に信じ込ませようとする。パンデミックが一段落し競合が復活する中、戦略競合は相手を動揺させる言葉の応酬に似ている。

アラスカは太平洋と北極海の交わる一等地であり、超大国間の言葉の応酬の舞台となっている。その手段が空軍力と海軍力である。そのためこの地区の重要性が増している。

地政学者ニコラス・スピクマンが指摘するのは地政学上の地域区分が地理上の区分けと異なることだ。地理はほぼ固定しているが地政学では時に応じ変化し、競合国の衰亡に左右される。北極海方面では物理面政治面で同時進行で変化している点で他と異なる。地球物理上で文字通り姿を変えつつある。米海軍の海洋学予測では温暖化で毎年数週間だけ新しい海上航路が生まれその後再び氷結すると見ていた。北方水路はロシア沿岸に2025年まで毎年6週間にわたり通航可能となるというのが海軍の予測だ。北西通路がカナダ北方からアラスカ沿岸に伸び、通行可能となるのは間欠的だ。驚くべき変化は年間二三週間だけだが北極点を通る北極横断通路があらわれることだ。

海上交通で新しい可能性が生まれると経済面軍事面で意味がある。気温上昇の経済効果はすぐ現れる。北極海を経由すれば東アジアと西欧で所要日数が4割短くなる。海上移動の費用が減ればサプライチェーン全体に朗報だ。ロシアにとってこの意味は大きい。北極を中心に部隊移動が容易になればたとえ年間数週間だけとはいえロシア海軍は歓迎するはずだ。大西洋、インド洋、太平洋を経由する長期間の部隊移動が気候変動で不要となる。ロシアの視点では状況が有利になる。ニューノーマルの活用をロシアが急ぐのは無理もない。

温暖化はアラスカ周辺で地政学的変化を生んでいる。まず、アラスカはベーリング海峡をはさみシベリアに隣接し、太平洋と北極海が交差している。大西洋から東方へはアクセス地点が多数ある。ベーリング海峡は北極への西からのアクセスとして唯一の存在なので重要度が高い。また両大国がそれぞれの領土を防護しており、通航可能な海路は狭い。 

地政学ではアジアの「第一列島線」は日本北部から台湾を通り、フィリピン、インドネシアまでとしている。東アジアや東南アジア問題というと南に目が向きがちで、最北部は地政学で注目を浴びてこなかった。

アリューシャン列島はアラスカ州の一部で最北部の列島線を構成しており、北米本土とカムチャツカ半島を結ぶ位置にある。アリューシャン列島線は南からベーリング海峡をつなぎ、米軍は同地を通過する海上交通ににらみをきかすことができる。日本帝国海軍は第二次大戦中にアリューシャンの地政学的重要性に注目した。山本五十六海軍大将はアリューシャンを左側面と位置づけ、ミッドウェイを南方の戦場とした。側面防御のため山本はアッツ島、キスカ島の占領を命じた。

次に、シベリアと同様にアラスカからもベーリング海峡の通航が監視できる。NATOは北極海全体での動きに警戒を強めている。半ば閉鎖された海域で大国間の競合が生まれるのは異例だ。地中海で大国が覇権を争ってきた。ペロポネス戦争でアテネとスパルタがエーゲ海で、ポエニ戦争でローマとカルタゴが、16世紀にはオットマン帝国と西方各国が対抗した事実がある。地域勢力だった米国はカリブ海、メキシコ湾で隣国を圧倒した。中国は南シナ海で対立を深めている。北極海とアラスカの地政学を歴史や海洋地理に照らし合わせると次に発生する事態とその対処方法が見えてくる。

そうなると新しい世界が北方に生まれつつある事態にわが国指導層はアラスカとどんな準備をすべきか。戦略専門家の意見で2つの見方がある。まずアルフレッド・セイヤー・マハンは海上権力の構成要素を三点とした。各国を海に向かわせる原動力は交易だ。交易が生む富が海上交易路を守る海軍力の整備につながる。商船と軍艦がモノと兵力を各海域を移動させる。積み荷の荷降ろしや補給のため港湾施設が本国以外にも必要となる。海洋国家にはマハンが呼ぶ「海上権力の連鎖」が必要となり、つながりが強固なほどよい。政界、経済界の指導層はこの連鎖を強固に保つべきであり無視は許されない。
二番目にマハンの跡をついで海軍大学校で教鞭をとったJ.C.ワイリーだ。軍事戦略の究極目標を「武力を備えた人員を現場に配置しておくこと」とした。任意の地点で任意の対象を優秀な火力で制圧することを意味する。ヒトは陸上で生活するので戦争は陸上で雌雄を決する。海軍、空軍は地上部隊の勝利を支える存在だ。だが、ワイリーも海軍士官であり兵力を海上に移すことをよしとしていた。戦いの舞台となる海域や空域を制圧するため十分な規模の火力を投入し敵を圧倒する必要がある。火砲やミサイルを操作する水兵や搭乗員をワイリーの方程式に投入すると北極海戦略が見えてくる。防衛体制の強化が必須だ。

こうした高い知見からアラスカをめぐる方針決定で行動指針が見えてくる。まず海上輸送だ。米国には北極海での運用可能な船舶が必要だ。砕氷艦は北極海水路の利用可能性を広げる。米沿岸警備隊の砕氷艦は数隻のみだが寒冷地運用に長けている。同時に予算規模があまりにも低く懸念される。トランプ政権で砕氷艦の新規建造案があり、原子力推進となると思われるが、これは出発点にすぎない。もっと大きな点がある。現行の巡視艇でこれから出現する北方海域を監視するのではなく、議会・政権は沿岸警備隊の艦艇数を増やすことに尽力し、戦略的優先順位に予算を割り当てるべきだ。、目標は北氷洋でロシア、中国に対抗できる部隊の編成だ。

基地は別の話だ。ここ数年のロシアは北方沿岸沿いに施設構築を活発に行ない、艦船航空機による北極海監視体制を高めようとしている。マハン流の考え方が背景にある。民間と軍の艦船は修理補給のため北方に基地が必要だ。海軍沿岸警備隊ともに監視地点に無期限に艦船を貼り付けられず兵站補給地点が必要だ。重要海域を補給や装填のため離れれば勝利は収められない。そのため新規の港湾施設で支援する必要がある。

最後に同盟国だ。NATO戦略では欧州同盟各国はロシアを警戒し東方に目を向けている。北米では大西洋でヨーロッパからロシアに抜ける緊急事態へ注意を払っている。温暖化でNATOも垂直方向の戦略が必要となり、北極海に面する同盟各国は北方海域での国益防衛を迫られる。アラスカでいうと米国カナダの各レベル指導層と協力協調して海洋戦略の調整を図るべきだ。ワシントン、カリフォーニア、ヴァージニアからジュノーの指導層も地政学の現状で学ぶものは多い。州政府レベルにも海洋権力の影響が入ってくるのである。■

この記事は以下を再構成したものです。


June 13, 2020  
Topic: Security  

James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and the author, most recently, of A Brief Guide to Maritime Strategy. The views voiced here are his alone.

2020年6月13日土曜日

NGADとデジタルセンチュリーシリーズ、画期的な機体開発を目指す米空軍の新しい動向


 

ボーイングが発表した空軍向け次世代戦闘機の構想図。 (Boeing)

空軍は次世代戦闘機開発事業の仕様を今夏に決定する。空軍調達トップが明らかにした。結果次第で事業の推進あるいは中止が決まる。
空軍は次世代戦闘機開発を大幅に方向転換する。次世代制空機(NGAD)と知られる同機は、空軍調達を統括するウィル・ローパーが「デジタルセンチュリーシリーズ」と呼んでいる。
昨年9月、ローパーは事業の最優先事項は調達戦略にあり、デジタルセンチュリーシリーズを技術的に実施可能なのかを実証することだとDefense Newsに対し説明。従来型開発手法より安価に実施できる構造の確保も必要と述べていた。
企画はほぼ完成したと、ローパーは今週火曜日にミッチェル航空宇宙研究所主催のイベントで述べた。
「NGADをデジタルセンチュリーシリーズに組み込んだ調達案が今夏に完成する。ここで大日程等は詳しく語れないが前例のない動きとなるのは確実だ」
デジタルセンチュリーシリーズは空軍が当初想定した第6世代戦闘機構想の侵攻制空機材(PCA)と大きく異なり、ネットワークでつないだ各種システムの一部として、無人機、センサー類、他機材を10年かけて試作化する構想だ。
デジタルセンチュリーシリーズの事業モデルでは新技術を応用した新型戦闘機を防衛産業複数社に数年で完成させる。空軍は契約企業を絞り込み、少数生産させ再び同じ工程を開始する。各社には新型機の設計製造の機会が常時保証される。全て実施しても5年とかからないとローパーは述べた。
昨年10月にはデイル・ホワイト大佐が高性能機材開発室長に任命され、NGADとあわせデジタルセンチュリーシリーズ調達構想を統括することんあった。同室は今年6月に戦闘機・高性能機材事業推進室に改組され、ホワイトは准将昇進が内定している。
空軍は2021年度予算に10億ドル要求し、NGAD事業を進める。前年の予算実績は9.05億ドルだった。だが、今後予算は増加の気配がある。
ローパーはデジタルセンチュリーシリーズで同機開発を進めた場合は既存手法より経費増を予想している。複数企業が同時並行で設計、試作機製作を短時間ですすめるためだ。ただし、機材の維持経費や回収経費は低く抑えられると見ている。.
調達効果が理論通りに実証されれば、議会も予算計上を認めるはずだ。
「機材の供用期間が重要な変数だ。何年だったらいいのか。数年ではないのは明らかだが30年でもいいのか。まずそこを検討している。同時に性能改修の規模も検討中だ。費用がどこまでかかるか、デジタル手法で簡素化できないか。その後、強力な戦闘機の年間経費を総合して算出し、デジタルセンチュリーシリーズが既存機種より経済的になるか見定める」
「そのとおりになら、大きな効果が出る。データを示し、『中国対抗機材』として単に優れているだけでなく、産業界の視点でも良い結果を出すからだ。従来型と同等あるいは安くなれば、同事業を強力に推進する」とローパーは述べた。■
この記事は以下を再構成したものです。

This summer could be a make or break moment for US Air Force’s next fighter program

By: Valerie Insinna   


2020年6月12日金曜日

次期空軍参謀総長ブラウン大将はどんな人物? インド太平洋の知見が豊かで対中国戦略に最適



Gen. Charles Brown

空軍参謀総長チャールズ・ブラウン大将は太平洋地区で経験を積んでおり、これが空軍のみならず国防長官周辺にも貴重な財産となるはずだ。国防総省は仮想敵国をこれまでのロシアから中国へ変更しているといわれる。


「中国が脅威だと改めて伝えている」と内部筋はブラウンが太平洋空軍司令だったことに触れている。上院はブラウン人事を98対0で承認した。▶「戦士であり指導者として深い知見をインド太平洋地区で有している。歴史上重要なこの時期に空軍参謀総長に就任したのは完璧な人事だ」とミッチェル研究所で空軍戦力の専門家であるマーク・ガンジンガーが評した。


ブラウンは空軍入隊は1984年で戦闘機パイロットとして受勲した。2018年にPACAFトップに就任したが当時から中国を「確実に増強している脅威」と評していた。▶共同作戦の意義を深く理解しており、空軍を共同運用に適応させてきたと別の評がある。▶「共同作戦の意義をどの司令官より深く理解していると思う。空軍組織内を変革し、効率と効果を重視した形で共同作戦に適合させていくだろう」と同上筋は評す。


初の黒人参謀総長を迎える空軍だが、ブラウン人事が上院で全会一致で承認されたことも強いメッセージを送ったと見ている。時あたかも人種間で騒擾状態が広がっている。今回の騒動は5月25日にジョージ・フロイドがミネアポリス警察の手で死亡したのがきっかけだ。▶興味を惹かれるのはブラウンの父はヴィエトナム戦に若輩士官として参戦しており、その時期にも社会は人種対立をめぐり不安定となっていた。▶ブラウンはツイッターに感動的な映像を掲載し、フロイドの死と自身の人種偏見について語っている。「人種問題を考えると自分自身の経験では単純に自由と平等を祝えない」という。▶米軍は全体としては全国平均より遥かに人種的に多様な構成になっている。国勢調査では人口の13%がアフリカ系国民だが、DoD統計の2018年版では現役隊員の17%が黒人である。ただし将校は9%に過ぎない。


複数筋からブラウンは多数が尊敬する人物との声がある。「本人に背景説明したことがある者...によれば好奇心豊かで知性的で質問を返してくるが威圧的な態度はない」▶「空軍、宇宙軍のみならず各軍の諸氏とともにブラウン大将、シャリーン夫人に祝辞を送りたい」と空軍長官バーバラ・バレットは声明文を発表。「ゴールドフェイン大将並びにドーン夫人が任期中の4年で示した輝かしい業績の伝統を守っていくブラウン大将の卓越した指導力、作戦経験、世界規模の知見は空軍の近代化とともに今後の国家安全保障上の課題に対応しわが国の防衛に不可欠だと自ら証明するだろう」


ブラウンは前任者と同様の最上位の優先事項に取り組むものと見られる。つまり全ドメイン指揮統制機能の開発で各センサーと各発射装置を各軍全体で接続し5つのドメイン全部でこれを実現することだ。陸、海、空、宇宙、サイバー空間だ。▶ゴールドフェインは全ドメイン指揮統制機能を強く主張し、高性能戦闘管理システムの開発を進めていた。
▶ただし、上院審問会に先立ち、ブラウン大将はこの問題をめぐり空軍の役割を検討する機能の立ち上げにゴールドフェインよりも前向きであると述べていた。ブラウンは宇宙軍創設に触れ、各軍で長距離打撃戦力や基地防衛能力の整備で重複があり、役割検討は有益だと述べた。
「ブラウン大将は画期的な指導力を発揮し今日複雑さを増している戦略環境を明確に理解できる人物だ」と宇宙作戦部長ジェイ・レイモンド大将Chief of Space Operations, Gen. Jay Raymondが空軍省で声明を発表した。「本人は各ドメインを通じた指導力の発揮の重要さをはっきりと理解しており、戦闘場面となる宇宙でとくにこの意義は大きい。ブラウン大将の任命承認にわくわくしている。これ以上のチームメイトはいない」


ブラウンは8月6日式典で正式にゴールドフェインの後任として就任する。▶「ブラウン大将は真っ正直な人物....経験、能力、熱情があり、偉大な空軍参謀総長になれる。正しい時期に正しい人事となった」とミッチェル研究所長デイヴィッド・デプチュラも感想を述べている。■


この記事は以下を再構成したものです。

CQ Brown Brings Pacific Focus; Keen Interest In Joint Ops

Gen. Brown co-wrote an article in Air and Space Power Journal pressing for better integration of Air Components into Combatant Command operations.


on June 10, 2020 at 4:01 AM