2021年12月4日土曜日

ロシア軍のウクライナ侵攻が迫っているとの観測の根拠。NATOはロシアに反発しているが、バイデン政権では効果的な対応ができない心配。

もし軍事侵攻となれば、世界経済への影響が心配されます。原油高、インフレが一気に現れかねませんが、ロシアではCOVIDの流行に歯止めが利かず、国内の不安を一気に隣国ウクライナや西側への怒りにすり替えようとしているのかもしれませんね。本件、あまり日本では真剣に取り扱われていないようなのでThe War Zone記事からご紹介します。








情報活動でロシア軍がウクライナ国境沿いに燃料他の補給線を確保し、医療部隊も展開中と明らかになったとCNNが伝えている。重装甲部隊、砲兵隊、長距離ミサイル部隊の集結で注目が集まっていたが、兵たん部隊さらに医療部隊はウクライナへの大規模侵攻作戦に必須の存在だ。

 

 

ロシアがウクライナ侵攻の準備に入っており、1月にも実行に移すとの観測がここ数週間あるが、ウクライナは非加盟だがNATOはロシア大統領ウラジミール・プーチンが「レッドライン」発言を繰り返していることに反発しており、NATOが危機を作っているとの大統領発言を否定している。ロシアとウクライナは2014年から対立したままで、同年にクリミア半島を併合し、その後、ウクライナ中央政府に反抗する「分離主義勢力」を支援すべく兵力を展開している。

 

CNNは「現在の配備状況は第一線部隊の作戦を7日ないし10日間維持できる規模と事情に詳しい筋が見ている」と伝え、ジョー・バイデン政権の高官も米政府が「ロシア軍増強がここ数日国境地帯で続いているのを確認している」とも伝えたが詳細には触れていない。

 

「ロシア軍は現代版電撃戦の実施が可能だ」と下院情報委員会のマイク・クイグレイ議員(イリノイ、民主)がCNNで語り、さらにロシアは「好きな時に」ウクライナ侵攻ができる位置に展開していると付け加えた。

 

今週に入り機密情報の説明が米下院議員対象に少なくとも一回行われている。「先週から対ロシア姿勢に変更はない」とCNNのケイティ・ボーリリスは出席した議員からの感触でツイート投稿した。新たに兵たん部隊医療部隊が加わったのが説明会の後なのかは不明だ。

 

支援部隊が国境付近に加わったのは大きな変化だ。公表されている現在の内容と今年はじめのロシア軍の大量配備の状況とは大きなちがいがある。前回の展開でクレムリンが大規模軍事行動を隣国に向け開始するとの懸念が高まっていた。

 

「ペンタゴン関係者によれば直近情報では地上部隊に攻勢を数日以内に開始する兆候はなく、補給兵たん活動、予備部品、燃料、医療支援の展開が見られないためとしていた」とCNNは今年4月に報じていた。その時点でも緊張が急増していた。「だがロシア軍が展開を減らし緊張緩和の姿勢が見られない中で懸念は残ったままだ。また地上の展開が急変することもあり得ると関係者は警戒しており、情報評価は事態の発生の数日前にしか状況を把握できないことがあるとしている」

 

今春は結局武力衝突は発生しなかったが、ロシア軍は相当量の装甲車両や重装備を現地に残し多ママとし、現地展開した部隊も原隊に復帰しないものが見られた。今月に入り、ウクライナ大統領ヴォロジミール・ゼレンスキーVolodymyr Zelenskiy は国境地帯にロシア軍10万近くが展開中と発言した。

 

ウクライナ政府は米政府等同様にウクライナでロシア軍事行動展開の明白な証は見られないと強調している。同時に米政府はNATOとクレムリンに大っぴらに警告を与えており、反発は避けられない。

 

「プーチン氏に心配される事態を簡単に実行に移せなくするよう最大限に包括的かつ実効性のある行動をとる」とバイデン大統領は本日発言した。ただし、内容に触れなかったが、米政府はウクライナ侵攻の場合さらに厳しい制裁を科すと警告したとの報道がある。

 

バイデン=プーチン会談が来週早々にもありそうとの観測も出ている。

 

「ロシアによる大規模情報操作にもかかわらず、ウクライナはロシアにとって脅威でも何でもない」と米国長官アントニー・ブリンケンが昨日の欧州安全保障協力機構(OSCE)の第28回大臣級会合で述べている。「ロシアがウクライナ侵攻の姿勢を示していることこそ脅威だ」

 

これまでロシア側はウクライナさらにNATOが緊張の発生源との説を広めようとして来た自らへの批判をかわすための。クレムリンの常套手段であり、国際社会が軍事行動他を懸念する中で計算した動きなのだろう。

 

ブリンケン長官はロシア外相セルゲイ・ラヴロフとOSCEで会談し、ウクライナ情勢に触れたものの意味のある結果は出ていない。

 

「クレムリンに断固たる対応を取ると明確に伝えており、これまで行使してこなかった高い効果の経済措置も含まれる」とブリンケンはラトビアでのNATO外交団会合の席上で述べている。またNATOは「ロシアのウクライナ侵攻には手痛い代償を与える準備ができている」とし、「東部戦線の防衛体制強化の準備もしている」と付け加えた。

 

これはすべてプーチンがロシアの考えるウクライナでの最新のレッドラインと関連しており、NATO部隊のウクライナ展開に釘を刺したことで発生している。NATO事務局長イエンス・ストルテンベルグはロシア発言を拒絶しているが、NATO加盟国にはウクライナ国内に軍事プレゼンスを展開する検討の兆候はない。

 

NATO加盟国特に米国がウクライナ軍支援で別の形を検討しているとの報道が出ている。武器弾薬類等の供与がその一つだ。米国は沿岸警備隊で供用を終えた監視艇二隻をウクライナ海軍に届けたところで、弾薬類の補給も既存合意の枠内で続けている。

 

「米国は対戦車兵器のジェベリンミサイルの追加送付も検討している」とCNNが本日伝えている。ウクライナ国内には同ミサイルの在庫があるが、ウクライナ関係者はロシア支援を受ける東部分離勢力を相手に同ミサイルを使用し始めていると語っている。ジェベリンは高性能誘導方式の対戦車兵器でソシアがウクライナ侵攻に動けば真価を発揮するといわれてきた。

 

ただし、米国は「地対空ミサイルなどの供与には及び腰」で、スティンガーミサイルはロシアから見て挑発的と受け止めれるとCNNは伝えている。ウクライナの防空ミサイル防衛体制は限定的であることが知られており、今後ロシアとの対戦となれば弱点を露呈しかねない。米国内にもウクライナ軍に新型地対空ミサイル装備を供与して弱点の補強をすべきとの声が出ている。

 

軍事援助の強化、制裁の脅かし、その他の動きで抑止効果が生まれるのか注目される。抑止を狙う動きと関係なくクレムリンは何らかの動きに出る兆候が濃くなってきたと考えるべきだ。

 

ロシアには非軍事オプションもあり、ウクライナ政府を揺さぶり、現政権を打倒し親ロシア姿勢の新政権を樹立しようとするだろう。侵攻の脅威は現実だが、実行されない場合もあり、ウクライナ当局への圧力以外に国際社会へも脅しをかけてくるはずだ。軍事行動を連続実施することで、侵攻が迫っていると見せても、実行に移さないことで警戒感を鈍くさせる効果も生まれる。

 

ワシントンポスト紙は米情報活動のつかんだところでロシアが大規模ウクライナ侵攻のため少なくとも175千名を展開していると伝えており、また国境地帯には70千名が位置についているとし、ウクライナ政府発表より小規模になっている。ただしクレムリンはあえて不安定さを作るため部隊規模を不明瞭にしているおそれがあるという。

 

「ロシアの作戦案では軍事攻勢を早ければ2022年初頭に実行し、今春の軍事演習の規模の二倍の兵力を動員する」とバイデン政権関係者がワシントンポストに語っている。「100個連隊を動員する総勢175千名が展開し、装甲車両砲兵その他が投入される」

 

今年初めに「ロシア軍は国境付近で突撃部隊を編成し、動員をかけ、兵たん支援を展開した」とウクライナ政府関係者がワシントンポストに述べている。「さらに先月に入りわが方の情報によればロシアの代理勢力やメディアがウクライナやNATOを名指しで非難しはじめ、ウクライナ情勢の悪化でロシア軍の増強が必要になったと喧伝した」

 

「最近の情報でもロシア側はウクライナ向けのロシア情報活動を調整し、ウクライナ現政権は西側の画策で発足し、『ロシア世界』への敵意をあおり、ウクライナ国民の利益に逆行する行動をとっていると宣伝している」

 

とはいえ米国はウクライナ関係者とともにロシア大統領ウラジミール・プーチンが作戦実施に踏み切る意向なのかはっきりしないと公けの場で発言している。クレムリンが侵攻に踏み切る意向なら、さらに100千名程度の追加が必要になると米政府は推計している。ロシアでは予備役の招集が始まったとの報道もある。ロシアが本気で侵攻するなら175千名では足りないはずだ。

 

プーチンの構想が何であれ、政策目標が何であれ、展開中の動きは大規模軍事行動の選択肢が有効であり、実行可能であることを示している。明白になってきたのは補給部隊医療班がウクライナ国境付近に加わったことでクレムリンが侵攻作戦の実施もオプションに加えたことだ。■

 

Russia Bolsters Supply Lines, Deploys Medical Units Near Ukraine As Invasion Fears Grow: Report

 

Logistical and medical capabilities would be critical for Russia to sustain any future major operation in Ukraine that could last weeks or more.

BY JOSEPH TREVITHICK DECEMBER 3, 2021


 

夢に終わった装備 XF-85ゴブリンなど寄生戦闘機はなぜ実現に至らなかったが、長期にわたり空軍関係者が抱いた構想だった

 

夢に終わった装備 XF-85など空中母機からの戦闘機運用構想にこだわった米空軍

 

 

 

ゴブリンは興味を引く構想だったが急速に陳腐化してしまった。

 

 

「ゴブリン」(小鬼)の名称は卵に似た外形の同機にぴったりだった。マクダネルXF-85は与圧コックピットを涙滴型J34ターボジェットの上に乗せ、折りたたみ式小型後退翼をつけた格好だった。尾部に小型安定板三枚、腹部にシャークフィンも三枚つけ、大型フックが機首から伸びる構造だった。

 

異様な外観のゴブリンには降着装置はなく、緊急用には格納式鋼鉄製スキッドで対応した。XF-85は「寄生戦闘機」だった。大型原爆爆撃機に格納し、空中発進し母機を敵機から防御する構想だったためだ。任務が完了すれば、ゴブリンはフックで母機内の搭載場所に戻る。

 

XF-85はB-35全翼機、B-36ピースメイカーの両戦略爆撃機の原爆攻撃ミッションの援護機となる想定だった。各機の爆弾倉はゴブリンが十分入るほど大きかった。

 

まるでSF漫画の世界のように聞こえるが、寄生戦闘機構想には長い歴史がある。まず、英軍が複葉機を飛行船につないだのが第一次大戦時のことで、1930年代に米海軍は全長239メートルのヘリウム充填硬式飛行船アクロン、メイコンにF9Cスパローホーク複葉機を搭載し、飛行船から降ろした空中ブランコにフックでひっかけた。だが、飛行船、複葉機はともに墜落してしまった。1935年のことだ。

 

第二次大戦中にはソ連がI-16戦闘機をTB-3爆撃機に搭載し、航空攻撃を1941年に実施し、日本はロケット推進式桜花特攻機をG4M爆撃機(一式陸攻)から発進させた。

 

米陸軍航空軍も1944年1月に独自の寄生戦闘機構想を正式に立ち上げ、当時長距離爆撃機がドイツ戦闘機に重大な損失を被っていた対抗策とした。だがP-47、P-51戦闘機に落下式燃料タンクがつき、爆撃機の援護行が可能となった。

 

とはいえジェット戦闘機の登場が迫っており、ピストン機の性能を上回るものの燃料消費が激しいことがわかっていた。このため爆撃機に寄生戦闘機を搭載し、敵領空内で運用することで航続距離不足を解消する構想が生まれた。

 

1945年3月の提案要求にマクダネルが対応した。同年10月にXP-85試作機(後にXF-85となる)二機が発注され、B-36の改修が構想された。XF-85搭載の機体は爆弾を搭載しないとされた。

 

完成したゴブリンは機体制御が優秀で理論上は時速650マイルとされた。武装は.50口径機関銃四丁と比較的軽武装だった。

 

B-35は実用化ならず、B-36は依然開発中だったが1948年にゴブリンは特殊改装したEB-28B爆撃機「モンストロ」の機体下部に搭載され、伸展式空中ブランコに装着された。アクロン級飛行船で使用したのと同じ装備だった。ただし、ゴブリンの機体下部は母機の外に露出していた。

 

機体番号#46-523のゴブリンは風洞試験で損傷し、 #46-524機が試験飛行に供された。

 

ゴブリンは母機から発進位置に降ろされ、8月23日マクダネルのテストパイロット、エドウィン・ショーチがXF-85を発進させた。なお、ショーチは海軍でヘルダイバーを操縦しレイテ海戦で日本戦艦に命中弾を与え叙勲されていた。

 

だが、ショーチは母機フックにゆっくりと移動する際にモンストロのエアクッション効果による乱気流に見舞われた。

 

10分にわたりフックにひっかけようとしたものの、XF-85のキャノピーがフックに激突し、ガラスが飛散し、ショーチのヘルメット、酸素マスクをはぎとった。ゴブリンは落下したが、ショーチは制御を取り戻し、南カリフォーニアのミューロック乾湖にスキッド着陸させた。

 

これにめげず、ショーチはテスト再開を志願し、修理が終わったゴブリンは10月14日、15日と主翼をたたんだままで微細な機体制御を試した。

 

三回にわたりゴブリンはEB-29にフック回収できたが、最後にフックが分解してしまい、ショーチはXF-85を強行着陸させるを得なくなった。XF-85 46-523も翌年4月に一回のみ飛行テストに供されたが、フック回収に失敗した。

 

マクダネルは回収装置の変更を模索したものの、XF-85の取り扱いが難航した上、予算縮小が加わり、空軍は1949年10月にプロジェクト終了を決定し、ショーチはゴブリンを計7回操縦した唯一のパイロットとなった。

 

ペンタゴンが同機に関心を失った背景に新規案件の進捗があった。ソ連のMiG-15の優秀性が判明し、XF-85では太刀打ちできないことが明らかになった。空軍では翼端に燃料タンクを付けた長距離援護戦闘機構想がXF-88、XF-90試作機として実現していた。また空中給油技術の進展で戦闘機の行動半径が伸びつつあった。

 

ただ、空軍は寄生戦闘機構想を完全に断念しておらず、戦闘機運搬事業(FICON)としてF-84差mmダージェット戦闘爆撃機をB-36へ搭載しようとした。

 

プロジェクトティップ・トーとして改修型EF-84D二機をEB-29の両翼端から曳航したが、乱気流と爆撃機主翼への負荷のため難航した。結局墜落してプロジェクトは終了となった。

 

B-29でF-84二機を翼端につけ移動させた

 

プロジェクトトム・トムでは特殊改装したGRB-36ピースメイカーとRF-84Fサンダージェット二機(こちらは後退翼型の偵察仕様)を投入する構想だったが、機体取り外しが失敗に終わった。

 

そこでゴブリン同様に機体下部にジェット機を伸展式フックで運用する構想が再び試され、F-84はGRB-36と無事に運用できたが、サンダージェットはピースメイカーの機内に収まりきらなかった。

 

だが構想はうまくいき、GRB-36(10機)、RF-84Kサンダーフラッシュ(25機)が1955年から56年にかけ運用され、その後U-2スパイ機に交代した。

戦略航空軍宇宙博物館で展示されているXF-85

 

さて、ゴブリンはこっそりと用途廃止され、現在は米空軍博物館のあるオハイオ州デイトン、戦略航空軍宇宙博物館のあるネブラスカ州アッシュランドでそれぞれ展示されている。■

 

Meet the XF-85 Goblin: This Cold War Mini-Jet Protected America’s Nuclear Bombers

by Sebastien Roblin

December 3, 2021  Topic: Jets  Region: Americas  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNuclearJetsCold WarHistory

 

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States.

This article first appeared in 2019.

Image: NASA / Wikimedia Commons

 

2021年12月3日金曜日

新型練習機T-7Aレッドテイルの運用が始まらないのに,米空軍が新型練習機の企画を始めたのはなぜか。ヒント F-35の時間当たり飛行経費は35千ドル程度。

  

空軍は第五世代機パイロット養成のためT-7Aレッドホークに期待を寄せているが、航空戦闘軍団は高性能戦術練習機構想の検討を始めている。 (Boeing)

 

空軍が新型練習機の検討に入っている。第四世代機第五世代機の特性を再現し、新米パイロットを鍛える機体だ。

 

 

これはT-7Aレッドホークのことではない。別の機体だ。おそらく。空軍が10月12日に公表した情報開示請求では高性能戦術練習機(Advanced Tactical Trainer, ATT)と位置付けている。だがT-7の一号機納入が2023年に予定される中、空軍は早くも別の、あるいは類似した練習機へ関心を寄せているという、外部には理解に苦しむ事態となっている。

 

政府監視団体Project on Government Oversightのダン・グレイジアDan Grazierによれば空軍が別機種の練習機を模索していることから戦略方針と優先順位付けに問題があること、T-7自体に問題があるのだろうと見ている。

 

グレイジアは11月29日本誌取材で答えた。「今回の動きの裏に空軍が伝えたくない内容があると見ています」

 

2018年に空軍から92億ドル契約がボーイングに交付され、次世代練習機T-7Aレッドホーク351機の調達が決まった。デジタルエンジニアリングを駆使し、オープンアーキテクチャを採用したほか、各種の画期的な設計技術で同機は期待を集め、迅速かつ高効率の機体開発の新モデルになるとされた。

 

ボーイングは航空戦闘軍団が求める高等練習機の実現に向かい、T-7は各種ニーズにこたえるべく進化するとの声明文を出している。

 

「デジタルを出発点にT-7は今後の成長を盛り込んだ設計になっています」「今後のT-7の成長への道は航空戦闘軍団が求めるATTの方向性に合致しています」

 

T-7はT-38練習機の後継機種となり、1960年代供用開始したT-38では最近墜落事故がよく発生している。ただし、新鋭F-22、F-35両戦闘機はT-38で想定する性能をはるかに超えている。

 

「T-38には高性能のエイビオニクス、探知機能、処理機能をもつ新鋭機と乖離が大きくなっており、溝を埋めるのが大変だ」とACC司令マーク・ケリー大将も10月25日のミッチェル研究所主催イベントで発言していた。

 

ケリー大将によればT-7は空軍教育訓練軍団で最若年パイロットに飛行の基本を教える任務に投入する。

 

「ACCパイロット候補生には1964年製のT-38と2021年製のF-35のへだたりの大きさを感じさせない機体が必要だ」

 

ケリー大将もT-7ならACCの各種ニーズにこたえられ、導入機数を増やすべきとみている。だが同時にT-7の増産以外の新型機の実現も可能性があるとした。

 

ACCの戦闘機パイロット訓練に必要な追加機能が欲しいとし、T-7の要求内容にないものだという。

 

ケリー大将はさらにその内容としてセンサー活用の拡大、ミッション時間延長のため燃料消費効率の向上、アフターバーナー使用時間の延長が例だという。また兵装運用の基本計算能力やシミュレーション再現能力により脅威対象への対応ぶりをパイロットに教える機能も必要とする。

 

「こうした機能は当初のT-7要求内容にはなかった」とし、「このためT-7を批判しているのではない。要望通りの機体に仕上げてくれた。だが戦闘機乗りの養成ニーズに合わなくなる事態があり得る」

 

戦闘航空軍団はDefense Newsの取材申し込みを拒否したが、文書による回答で提案されている練習機の要求内容はT-7と異なり、ACCの求める戦闘機パイロット養成を最高度の効率効果で実現するものと伝えてきた。

 

「ATTの目標は実機を再現した訓練機会をパイロット候補生に与え、実戦部隊での活躍を可能とすることで、作戦機材による訓練時間を削減すること」とACCは11月23日にメールで伝えてきた。

 

ATTによりパイロットは「学んだ技量を伝えるられる」用になりミッション訓練に費やす時間を短縮化しつつ実戦に備えることが可能となるというのがACCの言いぶりだ。

 

願望とニーズのせめぎあい

 

空軍はまず10月12日に高性能戦術訓練機の情報開示(RFI)を求める公告を発表し、航空戦闘軍団の求める戦術訓練に供することをめざした。RFIでは敵勢力の航空支援に触れ、演習で敵側を演じる、また既存また今後登場する機体の役を演じることに触れている。

 

11月9日には質疑応答が掲載され、ACCが望む練習機の詳細情報がわかる。兵装は訓練用途のみだが、実際の投下は想定していない。また第四第五世代機の性能を再現する性能を求めており、遷音速加速を想定しているようだ。

 

ACCはこの質疑応答で実機の代わりに今回提案の練習機を投入することで一人前のパイロット養成の所要時間を12-18カ月削減する効果を期待しているとある。

 

ただ今後の国防予算が厳しくなる観測の中で、九軍関係者から厳しい予算選択を覚悟する発言が続いており、機材の取捨選択は避けられないとし、グレイジアは別の練習機を調達する余地が少ないことを認める。

 

「ニーズというより願望に聞こえる」(グレイジア)

 

戦略国際研究所の航空宇宙安全保障部門長トッド・ハリソンTodd HarrisonはRFIを見ると「すでに調達事業が動き出している中で空軍に新たな機体を入手する余裕があるのだろうかと悩ましくなる」と述べている。

 

T-7の改修に向かうのか


空軍の情報開示請求で別の練習機を想定しているからといって全く別の機体を今から作ろうとしているとは限らないとハリソンは見ている。

 

逆にボーイングT-7Aを改良するアイディアを集め、F-35の飛行時間を節約するためT-7Aの投入を増やそうとしているのではないかというのだ。

 

「ボーイングにはプレッシャーとなります。T-7Aで新たな要求内容を実現することになりますから」とハリソンは述べ、「ボーイングとしては別の練習機が登場しせっかく確保してもらった予算が取り合いとなるのは見たくないはずです」

 

T-7はもともと簡単にアップグレードできる想定で、必要に応じて新たな任務に適応できるとハリソンは指摘。また空軍が調達機数を増やせば、ボーイングにはATT要求内容に呼応した改良にはずみがつくはずという。

 

だがもしT-7でACCの要求水準が実現できなれば、空軍は逆に同機事業にブレーキをかける可能性が出るとグレイジアは見ている。

 

「つまり、T-7Aでは要求通りの実現が不可能だとわかった場合です。その場合でも引き続きT-7Aを続けるわけにはいかなくなるのでは」(グレイジア)

 

ヘリテージ財団で国防政策を専門とするジョン・ベナブルJohn Venableは戦闘機パイロットの経歴を有し、こう言っている。別機種の練習機の実現をめざすのは「意味がない」とし、空軍が練習機の必要な条件として想定内容とT-7の実際にギャップがある証拠だろう。

 

「ボーイングがT-7で想定したRFIの性能をすべて実現しているのなら、同機を改良すればいいだけの話です」(ベナブル)

 

空軍が第一線配備の戦闘機を使わずに戦闘機パイロットを訓練したいと考えるのは自然な流れだ。とくにF-35の運行経費が予想以上に高くなっていることを考慮すれば。ハリソンはこう述べている。「戦闘機の消耗、疲労を抑えたいと考えているのだろう」

 

ACCもATTが複座機で新米パイロットが後部座席の経験者からいろいろ教わる効果を期待しているはずとハリソンは見ている。第五世代機のF-22やF-35はそれぞれ単座機だ。

 

また、ケリー大将もACCにはF-35より低コストで運用できる訓練機材が必要とみている。F-35の時間当たり運航経費は34千から36千ドルになっている。

 

「時間あたり20千ドルの機体ではなく、2千ドル3千ドル程度の経費でかつ最新エイビオニクスに近い装備を備えた機体が欲しい」

 

だがこの問題は空軍が保有する戦闘機機材構成に行き当たるとグレイジアは指摘する。

 

「別の練習機の調達を目指せば現行戦闘機各種の機体構造が浮上します。完全新型の練習機を目指せば、予算上で調達は困難となるはずです」■

 

 

With T-7 on the way, why is ACC eyeing a new trainer?

By Stephen Losey

 Dec 1, 11:00 PM


ありがとうございます。800万PV突破!

 


ターミナル2をご覧になった回数が12月3日、延べ800万PVを超えました。

2008年にもともとのブログを立ち上げて13年目の達成となりました。

読者の皆様のご期待に応えるべく今後も厳選した記事を掲載してまいります。

ターミナル1民間航空宇宙開発、ターミナル3英文版、ターミナル4航空事故ならびにクロームブック専門もよろしくお願いします。
















2021年12月2日木曜日

英海軍 クイーンエリザベス発艦に失敗したF-35Bは人為ミスでの喪失か、事故の様子を伝えるビデオが流出。一方、海中の機体を回収するのは米海軍。

 

1117日に英軍のF-35共用打撃戦闘機が英旗艦空母HMSクイーンエリザベスから発艦直後に海面へ墜落したが、その後ネットに上がった映像では同機は完全に発艦しないまま太平洋に墜落していたのがわかる。

[事故時のビデオは下をクリック]

https://twitter.com/i/status/1465351592018956295

同機は空母のランプ最先端に接近したものの、最悪のタイミングで減速したようだ。ランプ最上部に到達した段階で前方へ進む勢いがほぼ全部失われており、パイロットは機体が海に飲み込まれる前に射出脱出している。

今回の映像はスマートフォンで同艦の艦内カメラ映像を撮影したもののようで、今回の事故の原因となった飛行前に除去すべき空気取り入れ口のカバーがついたままであったことを示している。映像は本物のようで報じられる失態を裏付けるもののようだが、英海軍は本記事執筆の時点で真偽を確認していない。

パイロットは無事脱出できたが、英国保有のF-3524機のうち一機を喪失したのは英海軍にとって痛い結果となった。ときあたかも英国では今後のF-35発注を減らそうとしており、同機の運行経費が高水準なのを理由としている。

英国政府検査院による分析では今回喪失したF-35Bは機体価格134百万ドルとF-35ファミリーで最も高価な機体とある。

The Sunの報道では(真偽は疑う必要があるが)匿名筋の情報として今回の事故で機体がランプを移動する段階で誰が見ても何かおかしいと思ったとある。

「発艦前にエンジンカバーとブランクを外しておくことになっている。これは厳格に地上要員が行っている。パイロットも機体周りを点検する」と匿名筋は説明している。

ところが同筋によれば今回のF-35墜落は「人的ミス」だという。未確認だが、なんらかの不具合があれば英軍のその他のF-35のみならず世界各地の同型機の運行を止めていたはずだが、これは発生していない。また事故直後に英空母で運用は再開されている。

F-35にも空気取り入れ口のカバーに加え安全ピンがつき、稼働していない間のエンジン他敏感な部品を異物混入や天候条件から保護する。安全ピンは常時正しい位置にあり、「飛行前に取り外せ」との赤色タグがつく。

「海兵隊機材のフライトラインでは『レッドギア』と呼ばれ、視認性が高く、空気取り入れ口をふさぐぐらい大きな発泡剤製ピローになっているので地上要員が吸い込まれることはない」と海兵隊での経験が長いSandboxx News編集のトロイ・リッチが解説してくれた。リッチはF-35Bの前身マクダネルダグラスAV-8BハリアーII整備を担当していた。

飛行前作業としてこうしたカバーやピンをすべて取り外し、さらに重要なのは全部取り外したかをチェックすることだ。最終的にパイロットが機体周囲を歩きフライト前点検を行う。

「レッドギアが飛行中に吸い込まれたらと思うと動揺する。空気取り入れ口カバーが吸い込まれたら、これも想像するだに恐ろしいが、フライトでこれが発生したことはない」とリッチが回想した。「FOD(異物)に整備陣は気を遣う。この予防をたたきこまれている。偏執狂のようにこの原則に忠実に動く」

防雨カバーなどがそのままで空気取り入れ口に残っていたとしたら今回の墜落の説明がつく。カバーを吸い込んでしまったら、エンジン内部で深刻な損傷が発生し、単発の同機は推力を十分得られず、離陸に支障をきたす。同様に大型リフトファンが作動しなければF-35は高度を稼げなくなる。

「フライトラインでFODをチェックするのは行動の前提となる。チェックは何度も行い、事故の発生がないことを確実にする。そう言われても信じられないと思うが」(リッチ)

残念ながら、F-35一機の喪失だけで英海軍の苦境は終わらない。今回の墜落を受けてF-35事業全体への影響を最小限にしたいという。

ランプ前方からそのまま落下したため、空母艦首に損傷が発生した可能性がある。排水量65千トンのHMSクイーンエリザベスにすぐ危害が及ぶわけではないが、修理には多額の経費がかかる。

「機体が艦首すぐそばに落下したため、また発艦時の艦の速力を考慮すると、水面下で艦首に当たった可能性が排除できない」と英海軍にいたトム・シャープ中佐がSky Newsに語っている。

「軍艦の艦体は実は厚くなく、機体と艦の重量が大きく異なるが、艦首付近の区画は直ちに点検すべきだと思う。その後、艦体を潜水調査して安全を確認すべきだろう」

英海軍は艦体に損傷は発生していないと見ているが、現在の展開が終了次第、完全点検を行うとしている。

これと別の懸念材料はロシア潜水艦が海中の機体の位置を突き止め回収し、リバースエンジニアリングや戦術評価されることだ。公表されていが米国中心で回収作業が展開しており、英海軍には回収手段がない。

ロシアも同様に回収作業に踏み切るだろうか。断言できない。またロシアが正確な位置をつきとめたとしても海中の機体回収を実施する能力があるかも不明だが、可能性は消えていない。

What leaked footage tells us about the British F-35 crash

Alex Hollings | November 30, 2021