2022年5月30日月曜日

ウクライナ戦に見るインテリジェンス、オープンインテリジェンス優勢に見えるが、秘密はどこまで守れるのか。

  

NASA FIRMS fires in Ukraine osint

 

多分不人気のインテリジェンス論です。先に2回掲載した記事を補強する内容ですので、必要なら前の記事もご参照ください。

 

クライナ戦争前に情報機関が驚くほど目立っていた。アメリカとイギリスはロシアの意図について評価を下し、政策立案者はロシア侵攻に反対する支持を集めるため情報を利用した。また、戦争の口実を作ろうとした疑惑について具体的な詳細を発表し、ロシアの虚構の主張への「前哨戦」としてインテリジェンスを利用した。開戦後も公開情報は続き、毎日要約が発表され、スパイ機関が注目を浴びた。スポットライトを浴びることを受け入れ、陰で働く伝統を捨てたように見える。秘密の世界はもはや秘密でないようだ。

 

 

 オープンソース情報は、戦争の描写や、一般的な議論でも大きな役割を果たしている。商業衛星画像は、戦場の風景を毎日提供している。ソーシャルメディアは、軍事作戦や戦時中の残忍な行為をクローズアップするプラットフォームになった。オープンソースのアナリストは、画像や映像を文脈から分析している。学術界、シンクタンク、民間情報企業は、戦術と戦略、資源とコスト、敵と味方、勝利と敗北など、戦争に関連するあらゆることについて詳細な評価を行っている。

 ほとんどのオブザーバーが、この傾向に価値を見いだしている。指導層が公開情報を有効活用し、秘密の共有に拍手を送っている。情報機関がオープンソースを評価に取り入れたことが、戦前の明確な勝利につながり、情報機関の警告は正しかったと判明した。政策立案者が公の場で情報を活用することで、ロシアに対抗する強固かつ持続的な連合体を構築できた。ロシアのエナジー輸出に依存し、失うものが大きい同盟国もいることを考えれば、これは並大抵のことではない。このような国も取り込み、モチベーションを維持するため、情報の共有が不可欠だった。

 ウクライナの経験の意味は明らかだ。パブリック・インテリジェンスは、外交官に限らず将軍の手にも渡る重要なツールだ。情報機関がオープンソースにオープンマインドであればインテリジェンスが機能する。後戻りはできない。秘密主義が王道で、国家が個人情報を保有することが戦略的成功の鍵であった時代は終わった。インテリジェンスに詳しい学者グループは「歴史的にみて、諜報活動の成功は秘密主義と背中合わせだった」「過去50年間のどの出来事よりも、ロシアのウクライナ侵攻は、もはやそれが真実でないと如実に示している」と著している。同じ著者は別の記事で、われわれは今、「グローバルなオープンソース情報革命」の真っ只中にいると論じている。戦争から得た圧倒的な証拠に直面し、この革命を受け入れないと、戦前・戦中の情報機関のパフォーマンスが低下する危険性がある。秘密を最高とする時代遅れのスパイ活動に頑固にこだわれば、大惨事を招く危険性がある。

 そうかもしれない。技術の進歩により、情報の量と質は飛躍的に向上した。リアルタイムのデータも豊富で、秘密は重要でないように思われ、秘密主義は無意味になった。しかし、ロシアがウクライナに侵攻する前や侵攻中に秘密が重要な役割を果たしたと考えてよい理由はある。そして、戦争を終わらせるため秘密が不可欠になるかもしれない。

 

オープンソースに関する公開質問

ロシアは2月の開戦に先立ち、数カ月かけて大規模な侵攻部隊を編成した。その軍事的な動きは隠されていなかったが、何を意味するのかについて合意が得られなかった。大規模侵攻を確信したものがあり、限定的な侵攻を予想したものもあった。また、戦争への前哨戦ではなく、西側に譲歩を強いるための動きと考える人もいた。結局のところ、戦争はコストがかかり、ロシアの安全保障上の利益には逆効果になる。プーチン大統領は、大きな代償を払うことなくライバルを緊張させ、過剰反応して不条理に見せようと鍋をかき回していたのかもしれない。

 米国の同盟国も分裂していた。前出の著者が指摘するように、疑念を抱き続ける者もいた。米英が公然と侵攻を予測する一方で、フランスやドイツの高官は、ロシアは別の道を選ぶと考えていたようだ。NATOの情報提供が考えを変えるのに役立ったとされるが、開戦前夜になってからだ。フランスのティエリー・ブルカールThierry Burkhard国防参謀総長は、3月に次のコメントを残している。「アメリカは、ロシアが攻めてくると言っていた。ウクライナを征服するには途方もない犠牲が必要であり、ロシアには他の選択肢があると考えていた」。

 いずれも愚かな考えであった。膨大なコストとリスクを考えれば、ロシアが戦争前に自制心を示すと主張するのは妥当だった。しかし、ロシアの動員規模やプーチンのウクライナへの姿勢を考えると、開戦を推理するのも合理的だった。重要なのは、自由に入手できる情報は、明白な結論をひとつだけ指し示ていないことだ。同じデータから、アナリストは正反対の、もっともに聞こえる推論を行った。だが事実は自己解釈できない。

 では、懐疑的だった欧州の関係者が、ロシアで考えを改めたのはなぜなのか。NATO関係者はどのような情報を内部で共有していたのか。ロシア動員の大枠は既知だったから、情報でロシアの計画について詳細かつ説得力ある洞察が得られたのだろう。米国の報道官がロシアの虚偽の可能性をすでに知っていた事実は、情報機関がロシアの通信に異常なまで接近していたことを示唆しており、すべてが公の場に出たわけではないことも示唆している。人的・技術的な情報源を組み合わせて、オープンソース画像を超える形でプーチンの計画がわかる窓ができていたのかもしれない。

 ウォー・オン・ザ・ロック記事の執筆者は、インテリジェンスは政策立案者が聞く態度がある場合にのみ重要となる、と正しく指摘している。今回の事案では、アメリカの指導者たちはロシアの軍事行動に関する警告を受け入れたが、パブリック・インテリジェンスがその理由だったのかは不明だ。なにしろジョー・バイデン大統領は、戦争の1年前からプーチンを「殺人者」と断じ、ロシアの意図について皮肉を言っていた。パブリック・インテリジェンスが既成概念をせいぜい補強した程度だ。政策立案者の信念や期待を裏切る情報であれば、より良いテストになるのだが、今回はそうではなかった。

 

ロシアの不幸の根源はどこにあるのか

戦争の帰趨は定かでないものの、3カ月でロシア軍は大きく痛手を負った。ウクライナは、各種推定によれば、ロシアの数千人を殺傷し、装甲車両、航空戦力、海軍戦力を破壊した。ロシアの作戦は、圧倒的な物的優位があるように見えたにもかかわらず、見事に失敗した。その後、ロシアは南部と東部で成果を上げているが、これにも相当の犠牲を払っている。これは、2月にクレムリンが「特別軍事作戦」を発表した際に示唆した限定的紛争ではない。

 この失敗を説明するものは何だろうか。モスクワからの報道が限られていることを考えれば、判断は時期尚早だ。しかし、この戦争がロシア情報機関の大失敗であった兆候がある。ロシアは、ウクライナの意志、防衛能力、国際的な対応などについて、恐ろしいほど誤った推測に基づいて行動した。ロシアの諜報機関が思い込みを助長し、政策立案者の攻撃性を高めたのだろう。情報機関の粛清に関する報道は、少なくともロシアの指導者たちがパフォーマンスに失望していることを示唆している。

 War on the Rocks記事の執筆者は、我々はまだ初期段階にあり、ロシアの意思決定について知らないことが多数あると正しく指摘している。しかし、ロシア情報機関については予備的判断は厳しい。「ロシアは、グローバルなオープンソース情報革命からますます切り離されて、21世紀の情報環境で戦争する準備がまったくない状態で、ウクライナへの攻撃を開始した」。ウクライナの革新的な指導層は、オープンソースを活用し、大きなライバルに優位に立つため利用できる新しいテクノロジーを模索していた。これに対しロシアの指導者たちは、時代遅れのインテリジェンス・モデルに固執した。もし、ロシア指導者たちが、自由に入手できる情報に賢明で、新しい方法に投資していたならば、戦争の初期段階はもっと慎重だったはずだ。侵略しない選択をしていたかもしれない。

 これらは真実かもしれない。しかし、問題は、ロシアの失敗は、軍の組織やドクトリンよりも、プーチンに大きく関係していることだ。プーチンは権威主義的な権力者で、国内統治は非常に効果的だが、海外での権力行使は非常に下手だ。プーチンがロシアを支配し続けるため使うのと同じ手段が、情報と政策の関係の質を低下させている可能性がある。 プーチン政権は反対意見を受け付けない。政敵は刑務所に入れられたり、死ぬ。これでは情報当局との健全な交流ができる環境とはいえない。悪い知らせの運び屋になるよりも、結論を甘く見て、喜ばせる情報を提供するインセンティブがあるのは明らかだ。プーチンが戦前に、情報部のチーフを公然と辱めたことで、このメッセージが強くなった。

 このような状況下で、ロシアの情報機関がどのような手を打っていれば結果が変わったのか、想像もつかない。ロシアの泥沼化は、プーチンのウクライナへの執着、戦略的な無策、冷酷さが招いた。たとえ情報当局がオープンソースなど斬新なアプローチにもっと投資していても、プーチンが冷静で慎重な見積もりを受け入れていたと信じる根拠はない。

 さらに興味深いのは、プーチンの非情なアプローチが戦術的なインテリジェンスにトリクルダウン効果を及ぼしたことだ。ある意味で、ロシアの軍事組織はプーチンの権威主義的本能を反映している。「指揮官の指示は正しいとされ、幕僚は命令をどう実行するかという具体的な戦術を決定するだけである」とある執筆者が書いている。これでは熟慮の余地はなく、情報報告は二の次であるのを暗示している。すべては指揮官の判断にかかっている。情報部の任務は、結果を正直に評価するよりも、司令官を成功に導くことであるため、作戦開始後に情報部の問題が深刻化する可能性が高い。ここで情報将校は、悪い知らせを伝えているオープンソースを無視したり、軽視する。戦術的な情報収集が充実していれば、もっとオープンな気持ちで取り組めるはずだ。

 しかし、秘密情報源に頼る情報将校にも、同じような問題が起こりうる。例えばベトナム戦争では、反乱軍の規模と回復力の推定をめぐり秘密の世界で論争が起きた。米軍は消耗戦に勝とうとしており、一部将校は、敵の人員補充より多くを殺害していると確信していた。しかし、CIAアナリストは、捕虜の尋問や捕獲した文書から、別の結論を導き出した。結局、ホワイトハウスが介入し、CIAを引きずり下ろした。政策立案者は、楽観的な軍部の予測を好み、それがベトナム戦争における政権側の戦略を支持することになった。

 CIAの問題は、情報源の選択でも分析方法でもなかった。問題は、ジョンソン政権に悲観的な評価に警戒心を抱かせた国内政治にあった。モスクワの現状についてはよくわからないが、プーチンはウクライナの戦闘力の強さと回復力に関する戦前の評価にアレルギーを感じていたと考えてよい。ロシア情報機関の問題は、国内政治が諜報機関と政策との生産的な関係を促進するかどうかにある。

 

秘密主義と戦略の関係

ウクライナ戦をめぐる議論が、パブリック・インテリジェンスにより形成されたことは否定できない。戦前のロシア軍増強の商業画像は、迫り来る紛争に注意を促した。侵攻後、ソーシャルメディア上に溢れた生の声は、ロシア軍を不道徳かつ無能な存在として描き出した。このことは、ウクライナへの同情とともに猛攻に耐えることができる期待を抱かせた。ウクライナへの国際的な広範な支援は、膨大な量の軍事装備品を提供する圧力となり、NATO加盟国はウクライナが非加盟なのにもかかわらず、実行に移した。この戦争は、新しい情報環境が国際政治に与える影響、秘密主義が相対的に重要性を失っているのを示す事例と考えてよい。

 しかし、結論を出すのは早計である。この戦争から得られた証拠は、情報機関にとっておなじみの課題を示唆している。リチャード・ベッツが言うように、諜報活動は国家に「図書館機能」を提供し、公的・私的情報を意思決定者にとって有用な形にまとめ上げるという点で最も優れている。現在の課題は、多様化する情報源の情報量にいかに対応するかだ。ウクライナ当局によると、ロシア軍の動向について、市民から政府アプリを通じ毎日数千件の報告を受けている。こうした情報は、他の情報源の情報と組み合わせれば、ウクライナ軍を迅速に対応させるかもしれない。しかし、組織的な問題が水面下に潜む。iPhoneを持つ市民からの戦術報告の信憑性を判断し、適切なタイミングで適切な部隊にそれを届けることは、複雑な作業となる。オープンソース情報は、過去の戦争で指揮官に有用であったが、それは効果的な配布方法を学んだからにほかならない。

 関連する問題として、情報の過多がある。情報機関は、敵に関係するあらゆる事柄に関し、詳細情報を好み、自分たちの情報システムは誤った報告を排除できると自信を持っているかもしれない。しかし、最近の経験では、高度なまで洗練された軍部でも、各種情報源からの膨大なデータの処理に苦労している。曖昧さを断ち切るため、一層多くの情報を収集しなければならないのに、結局は自分たちの情報システムに「戦争の霧を移す」ことになってしまう。軍事情報は常に、徹底的な収集と効率的な情報活用との間のトレードオフと格闘してきた。ウクライナ側は新しい情報収集法に熱心だ。しかし、このトレードオフをうまくコントロールできるかどうかにかかってくる。

 また、継続の兆しは他にもある。過去の戦争では、共通の敵に対して同盟国をまとめ、戦後も同盟国を維持するため、秘密情報の共有が重要だと証明された。対ロシア連合が成立したのも、主要同盟国の懐疑的な見方を克服するだけの秘密情報が提供されたからだろう。米情報機関は、ロシアの意図を戦略的に警告し、侵攻のタイミングと場所を警告し、ロシアが戦争を正当化する方法を示していた。こうした秘密を共有することで、一致団結して対応する土台を築くことができた。

 また、戦時下でも秘密工作が不可欠であることがわかる。バイデン政権は、ウクライナ軍がロシア地上軍や軍艦を狙う情報の共有を増やしてきた。一部では、ロシア将官をターゲットにした情報を提供したとの報道もあるが、米政府関係者は否定している。また、米国が提供した情報は、ウクライナ軍がロシア軍の動きを予測し、ロシアの士気を評価するのに役立ったかもしれないが、推測に過ぎない。

 最後に、秘密情報がウクライナのサイバー防衛に役立ったか考えてみたい。米サイバー軍司令部は戦前、ウクライナを「ハント・フォワード」任務で支援していた。このミッションでは、海外パートナーが自国ネットワークの防御の強化で米国の支援を要請し、また悪意あるサイバースペース・アクターに関する情報の向上について調整を行う。これにより、外国の脅威に対して、発生地点にできるだけ近いところで対処できる期待が生まれている。サイバースペースの脅威を先制するには、外国の情報機関とその非国家的な代理勢力の不透明な世界を明確に見通すことが必要である。オープンソースの分析は、特にサイバー空間での活動を事後的に特定する場合には有用だが、事前の阻止が目的ならば、秘密裏の情報収集に代わるものはない。サイバースペースでロシアに関する情報を得る努力によりロシアのサイバースペース作戦が有効でないのかもしれない。

 戦争終結のためには、秘密諜報機関が重要だと判明するかもしれない。ウクライナと米国の国内関係者は、譲歩を含む和解策を嫌うかもしれない。しかし、ウクライナがロシア軍を国土から追い出し、2014年以前の国境線を永久に守るとロシアに約束させ、完全勝利しない限り、何らかの譲歩が必要になるはずだ。これは国を挙げてロシアの侵略に反対してきたウクライナ指導者にも、プーチンを戦争犯罪人と呼んだバイデンにも、政治的に困難なことだろう。

 諜報機関は、政治的な争いから切り離された地下の外交チャンネルを開くのに有効かもしれない。静かな会談は、平和がいつ実現し、どのような条件で行われるかを見極めるのに役立つかもしれない。こうした対話は政治的に非常にデリケートで、また、表立った和平工作は凍結されているため、秘密裏に働きかけることが重要となる。諜報部員は秘密保持が仕事のため、この取り組みを進めるのに有利だ。

 戦争はいつか終わる。すべての戦争は終わらなければならない。しかし、今回の紛争は根が深いため、和平は微妙なものになるだろう。ロシアが真の平和ではなく、傷を癒すための小休止を求めているとウクライナは心配するだろう。一方、ロシア側は、拡大し続けるNATOにウクライナが接近するのを懸念するだろう。脆弱な和平を情報面で監視するには、秘密裡の情報収集と慎重な分析が必要だ。今回の紛争からオープンソースやパブリック・インテリジェンスも重要とわかるが、それだけでは十分ではない。■

 

 

 

Intelligence and War: Does Secrecy Still Matter?

JOSHUA ROVNER

MAY 23, 2022

SPECIAL SERIES - THE BRUSH PASS

Joshua Rovner is an associate professor in the School of International Service at American University.

Image: NASA fires mapping


ハイテク装備の兵士への電源確保で米陸軍が民間企業と知恵を絞る。熱電能技術が最有力か。

 

 

iStock, Defense Dept. photo-illustration

 

陸軍では、兵士の体熱や、燃料など、各種ソースからエナジーを確保し、移動中の兵士に電力供給する新技術を検討中だ。

 

 

 将来の兵士はハイテク機器をさらに多く携帯すると陸軍は想定している。

 同時に、陸軍は大規模物流拠点から、分散編成への移行を進めている。将来戦司令部Army Futures Commandがまとめた陸軍の作戦エナジー戦略のディレクター、ジョン・ヴィラセナー中佐Lt. Col. Jon Villasenorは、次のように述べている。

「潜在的なライバルが開発中の戦力を考え、陸軍は大規模集団を解体し、破壊されやすい大型装備は非固定化する必要がある」「分解すると、近代化が必要な事項がたくさん出てくる」

 兵士への電力供給は、2022年末に発表される予定の作戦エナジー戦略で扱われ、効率的で多様かつ持続可能な電源で軍の電力利用を最適化する追加行動とともに発表すると中佐は述べた。

 一方、産業界では、次世代のエナジーハーベストと発電方法で前進が続いている。企業は国防総省と協力し、技術を成熟させ、最前線で有用な製品に仕上げようとている。

 今年4月にテキサス州オースティンで開催された陸軍の VERTEX Energy カンファレンスに産業界が集まり、兵士の電力確保に取り組む軍のリーダーと革新的技術を話し合った。

 陸軍にとって潜在的な機会の1つが熱電能thermoelectric powerだ。シリコンバレーに拠点を置くメイトリックスインダストリーズMATRIX Industriesの最高技術責任者ダグラス・タムDouglas Thamは、以下説明した。

 「熱電能は2点間の温度差を電気に変換するもの。M1エイブラムス戦車のエンジンや兵士の皮膚など、温かいものの上に発電機を置くと、電子がデバイスの高温側から低温側へ移動し電流が発生します」。

 同社は、微小な温度差を利用して熱エナジーとパワーエレクトロニクスの技術を開発してきた。

 「当社の目標は、最新かつ最高のセンサー技術と低消費電力のアルゴリズムで、微小なエナジーハーベスティングでも維持できるまで消費電力を下げることです」。

 この技術は、電源として使用されるバッテリーの寿命を向上させたい陸軍の取り組みを後押しする。ヴィラセナー中佐は、「兵士は平均して、任務中にバッテリー5〜8種類を携帯している」と述べている。

 「長時間作戦のため冗長性で、大量のバッテリーを持ち運ぶので、重量も相当のものになります」と、中佐が付け加えた。陸軍プレスリリースによれば、72時間任務の場合、兵士はバッテリー20ポンドを携帯する。

 しかし、陸軍が熱電能を使用し兵士の体温のような連続的な熱源からエナジーを採取できれば、「電池を廃止するか、電池を小さくし実質的にコンデンサとして、消費量上昇を抑えることが可能になります」(タム)。

 この技術は商用化済みで、同社は陸海空軍と協力し、戦闘員にも使えるようにしたいと、とタムは述べた。

 しかし、戦場での実用化には、越えるべきハードルがまだあると、テキサス州オースティンのナノーミクスNanohmicsの上級科学者ジリ・ジョシGiri Joshiは言う。

「課題は、体温と外気温に大きなギャップですが、皮膚は導電性ではないのです」とジョシは説明。そのため、ウェアラブルデバイスで、十分な電力を生み出す温度差はほぼ実現しないという。

 もうひとつの問題は、ウェアラブル熱電能の効率だ。将来の作戦環境では、兵士は、通信システム、暗視装置、武器、状況認識用のNett Warriorシステム、次期Integrated Visual Augmentation Systemなど、継続的に電源が必要な電子機器に依存する可能性が高い。

 「現在の兵士の消費電力は5ワット未満です」とテキサス州オースティンに本社を置くパラサンティParasantiの最高技術責任者ジョシュ・シーグローブスJosh Seagrovesは、「これでも数百のセンサーで洞察を引き出せます」と述べた。また次世代デバイスの消費電力の削減も進んできたと指摘する。

 ウェアラブルデバイスの効率を最大化すれば、兵士1人で約100ワット収穫できる。しかし、まだそこまで達していない、とジョシは述べた。

 タムもジョシの見解に賛同し、効率が100ワットに近づくことはないと指摘した。

 そこでメイトリックスでは、エナジーハーベスティングに使用するセンサーシステムをマイクロワットやミリワットの消費電力に凝縮したという。

 ジョシは、熱電能をウェアラブル電源にするには、システムレベルのエンジニアリングにとどまらず、より多くの研究が必要と述べた。

 「熱電技術は成熟技術です。唯一、研究されていないのは、ベストなシステム設計方法です」。

 テキサス州オースチンのハイブリッドエナジー供給会社ステルス・パワーStealth Powerの最高執行責任者シャノン・センテルShannon Sentellは、ナノスコピックレベルでデバイスのエンジニアリング材料に取り組めば、熱電能の効率が向上すると語った。

 「今後飛躍できるのはそこだろう」「2つの材料間の温度差を改善できれば、装置間から引き出せる熱流の量が増える」。

 メイトリックスは、エナジーハーベスティング技術を利用し、表土の昼夜の温度変化の検出も行う。温度差で生成される電力は、侵入者や動物、車両の振動を検知する無人遠隔監視システム用電源に利用できる、とタムは述べた。

 ウェアラブルと同様に、熱電能発電機を使えば、監視システムの電力をまかなうことができ、兵士が移動しバッテリーを交換する必要がなくなると、付け加えた。

 ジョシは、熱電デバイスは局所的な自律型センサー電源にも使用できるが、温度勾配の変動を補正するためバッテリーがやはり必要かもしれないと付け加えた。それでも、電池寿命はずっと延びるだろう、と付け加えた。

 ウェアラブルサーモエレクトリック技術が成熟する一方で、他の産業界では、陸軍物流チェーンにある燃料源を使用して、部隊に電力を提供することに注力している。

 マサチューセッツ州に拠点を置くメソダインMesodyneの最高経営責任者ヴェロニカ・ステルマクVeronika Stelmakhによれば、陸軍は兵士向け電力を拡大するソリューションを検討してきたという。

 メソダインでは、光が放出する熱を電気に変換する熱光起電力技術を活用し、ライトセルLightCellと称する小型の携帯発電機を開発した。

 ライトセルは、あらゆる種類の燃料を使い、材料を加熱し、発光させる。そして、発せられる光を電気変換する。

 兵士の携帯装備や無人飛行機、水上船舶などの小型システムに使う標準バッテリーの10倍以上のエナジー密度が得られると言う。

 非常に軽量で水筒ほどの大きさのライトセルは、兵士の負担を軽減するとステルマクは述べた。

 また、ライトセルは、米軍で広く使われるJP8燃料を含む、あらゆる燃料を使いエナジー変換プロセスを開始できる。ステルマクは、戦場にある燃料を使用できることは大きな利点だと語った。

 同社は陸軍から資金援助を受け、さらに研究開発のために空軍、国防高等研究計画局、エナジー省、国立科学財団から500万ドル以上の助成金を受け取っている。

 ステルマクによると、大手防衛関連企業と提携し、ライトセルを戦闘員に実用装備にする作業を続けている。最大の関心事は、変換プロセスが発生する熱を減らすことだ。

 同様に、モダンエレクトロニクスModern Electronicsでは、熱電子変換器と呼ぶデバイスを開発している。この装置も燃料を使い発電するが、光でなく熱で発電する、と最高技術責任者マックス・マンキンMax Mankinは言う。

 「この熱電変換デバイスは、高温であれば燃料ならなんでも熱を受け取り、小さな箱に入れて持ち運び、バッテリー充電や遠隔地の機器用電源に使用するなど、何でもできると考えています」と、マンキンは述べた。

 同社は、作動温度を下げ、電力密度と効率を上げようと取り組んでいる。

 しかし、防衛分野参入を目指すモダンエレクトリックにとって、コンバーターの主要材料の供給制限が大きな課題だとマンキンは述べた。

 「バッテリー製造インフラと鉱物処理インフラの大部分は米国外にあります」「部品のほとんどは、コスト効率よく作ろうとすれば加工作業を海外で展開しなければならないのです」。

 タムは、サプライチェーン問題が開発に深刻な問題を引き起こす可能性、また、主要な供給拠点が中国である以上、海外サプライヤーに代わる対策を考え出すのは難しいと同意した。

 解決策の1つは、主要材料の海外生産は継続しつつ、製品の最終組立を米国に移すことだという。

 「最終組立を国内に持ってくれば、コントロールが可能になります」。

 エナジーハーベスティング技術と発電をすぐにでも陸軍が利用できるわけではないが、タムは、現在の電池の限界と陸軍が将来望む水準について、業界とオープンな対話を続けるよう陸軍に勧めた。

 「産業界が陸軍の目となり耳となり、業界の商業的な道筋と陸軍の長期的な目標とに関連性や重複を見出す手助けをさせてほしい」「民生技術の体系と陸軍の技術体系を結びつける道筋が見つかれば、Win-Winになると思います」。■

 

Army Exploring New Tech to Charge Up Troops on the Go

5/27/2022

By Mikayla Easley

 

 

Topics: Energy, Army News



コメント:新興企業でも弱小企業でも光るものを持っている相手にはへだてなく接する米軍の姿勢が見える気がします。翻って日本では過去の不正のため、入札にこだわり、門を狭めていませんか。また、技術への評価という点でも文系、理系とわけてしまっていることが不利ではないでしょうか。もっといえば、防衛費増額は結構なことですが、研究開発助成金はどこまで拡充されるのでしょう。軍事研究はお断りと公言する学術会議に見られる軍事アレルギーがある限りは難しいのでしょうか。国際情勢の変化にあわせ、国民の意識が変化しつつある今、「平和の砦」の観念に囚われた勢力が障害になりそうです。


ウクライナ戦の最新状況 5月28日現在、南部戦線でウ軍反攻開始。ロシアSu-35を撃墜? リトアニアでTB-2購入の募金活動など。

 Ukraine Situation Report: Southern Counterattack Against Russian Forces Underway

 

 

ロシアのSu-35を自国のMiG-29で撃墜したとウクライナが主張。

 

クライナ軍は、ロシアの南方部隊の弱体化をねらい、ケルソン北東部で反攻を開始したと伝えられている。

 

 

 ウクライナ南部のミコライフとケルソンの間の前線は、両軍による激しい砲撃と空爆にもかかわらず、数週間にわたり比較的安定した状態にある。土曜日の新たな攻勢では、ウクライナ軍がインフレート川を越え、ケルソンの北東約30〜40マイルのビロヒルカ村の近くにまで達したとされる。

 

 

 同地での進展は、ドニエプル川下流のノヴァ・カホフカ・ダムとケルソンの東側にあるアントノフスキー橋にあるロシア軍保有地の横断を脅かす可能性が考えられる。

 ウクライナ空軍は、この作戦で、ケルソン州の標的を攻撃中のウクライナ軍Su-25を護衛する間に、ウクライナMiG-29が、ロシアのSu-35Sを撃墜したと主張している。

 2月24日の戦闘開始以来、空対空戦闘の主張はまれであり、検証はさらにまれだ。しかし、テレグラムでは、ウクライナ南部上空の作戦中にSu-35Sが撃墜され、燃える様子を撮影した画像や動画が出回っているという。

 Su-35SはウクライナのMiG-29に対して、目視外距離で優れた能力を持ち、ドッグファイトでも優位に立つ。実際、Su-35は3次元推力制御により、低速域で最も機動性の高い作戦戦闘機である。しかし、技術的、性能的な優位性は空対空戦闘の2つの側面に過ぎない。状況認識、センサー能力、パイロットの専門知識、地形、大気の状態、運など、さまざまな要素が絡み合って、シナリオは変わってくる。

 しかし、40年前の冷戦時代に設計された戦闘機が、ロシア最新のマルチロール戦闘機を撃墜したのが事実なら、痛快なことこのうえない。ロシアがウクライナ上空で優位にたっていないことを示す、最も明確な例となるだろう。

 

最新情報

 英国国防省の最新の評価では、ロシア軍はドネツ川に架かる主要な鉄道の分岐点であるライマンを占領した可能性が高い。

 ロシア軍の前進が続けば、ドネツ川を渡る新たな試みが行われることになるが、これまでは、ロシア軍にとって悲惨なものであった。

 ロシア軍が3月末に放棄したキエフ北部の紛争地域では後片付けが続いており、作業員がホストメル空港のAn-225ミーリヤの残骸を引き出した。

 同空港では数週間にわたって激戦が繰り広げられ、伝説のAn-225含む空港の大部分と駐機中の機材が廃墟と化した。

 ウクライナ装備品で非常に珍しいものといえば、東部戦線で戦うウクライナ製T-84戦車がある。

 ソ連のT-80を発展させたウクライナのT-84は、ディーゼルエンジンのT-80UDをベースに作られ、時速40マイルを超える世界最速の戦車だ。この戦車はT-84MオプロットM型と呼ばれるもので、オリジナルのT-84オプロットから、溶接砲塔、乗員・弾薬室の分離、高度な装甲、電子対策などアップグレードが施されているようだ。

 ロシア侵攻に対抗して動員されたウクライナ軍が、少数とはいえ同戦車を使用していることは驚くにはあたらない。

 ドネツク州の最前線ではオーストラリアから最近寄贈されたブッシュマスターMRAPで初の損失が確認された。

 また、東部戦線のウクライナ軍による映像では、ドンバスでの戦闘が野原や丘陵の恐ろしく開けた場所で展開されている様子がよくわかる。

 

リトアニアでは、TB-2ベイラクター・ドローンをウクライナ軍へ購入する募金運動が、わずか3日間で500万ユーロの調達に成功した。

 ウクライナ空軍の戦闘機をクラウドファンディングで購入する試みは以前にもあったが、これほど短期間にこれだけの資金を集めたことは、驚きとしか言いようがない。第二次世界大戦時の戦時国債運動から、世界は確実に進歩している。■

 

Ukraine Situation Report: Southern Counterattack Against Russian Forces Underway

 

BY

STETSON PAYNE

MAY 28, 2022 6:53 PM

THE WAR ZONE


キッシンジャー発言「ウクライナは領土割譲すべき」の真意を考える。

 


NY Times



イス・ダボスで開催された経済フォーラムで、キッシンジャーは重要な発言2点をした。一つは、平和条約を結ぶには、ウクライナはロシアに領土譲渡を覚悟すべきで、プーチン大統領の地位の維持が不可欠とキッシンジャーは述べた。また、「台湾を米中間の大きな問題にしてはならない」との発言は、米国が台湾を問題視しているのを示唆しており、筆者の推測だが、中国が台湾を奪取しても米国は対応すべきではないとキッシンジャーは考えているようだ。



 いずれも、敵対国に便宜を図ることがワシントンの利益になるとの考えだ。アメリカの最大の関心事は世界の安定であり、そのためには地域のパワーバランスを変えようとする国の利害を調整する必要があるとの主張だ。つまり、プーチンの政治的存続を含む旧ソ連の安定が、地域を安定させ、さらに、世界の安定を高めるというのだ。同様に、台湾を中国に譲り渡すことで西太平洋が安定し、世界の安定が高まるという考えだ。

 キッシンジャーは、リチャード・ニクソン大統領やジェラルド・フォード大統領への助言で、このような考えだった。ベトナム戦争では、戦争に勝つことではなく、中国やソ連との対立を避けることが目的とし、キッシンジャーは戦争に勝てないと正しく考えていた。そのために、勝ち目のない戦争でも米軍をベトナムに駐留させ、モスクワと北京にアメリカの決意の固さを感じさせ、同時に北を激爆撃し、アメリカに攻撃的な戦争をする意志があると示した。最終目標は、北ベトナムと同盟国に、アメリカがベトナムから撤退できる合意をさせ、それによりソ連との関係を安定させることにあった。柔軟性を保ちつつ、アメリカの意地を見せる。このようにして、戦争は延長され、敗戦もしたが、ロシアとのデタントという根本目標は達成できた。

 1970年代初頭の中国訪問には戦略的な見返りがあった。ソ連と中国は、ウスリー川沿いで戦闘を繰り広げた。ロシアは中国のロプノール核施設へ攻撃をねらい、中国は共産主義世界のリーダーの座をめぐりロシアに挑戦していた。キッシンジャーは、米中間の理解を求めるため中国に接近した。米国の戦略的懸念は、ソ連の西ヨーロッパ攻撃にあった。中国と手を組めば、二正面戦争の可能性がある。キッシンジャーは戦争に興味はなかったが、脅威はロシアに受け入れがたいリスクを生むことで危険を減らすことができ、逆説的だが共存合意に達し、戦争のリスクを減らし、グローバルシステムを安定させることができた。これが、現代中国の出現の下地にもなった。

 キッシンジャーの思考は複雑で、時には最終目標から遠ざかるように見えるが、彼はソ連の脅威、ひいては世界秩序への脅威という一点に焦点を絞っていた。ソ連はヨーロッパを脅かし、中国を脅かし、さらに核保有国だった。グローバル・システムに対する脅威はソ連だけと見なし、どんな代償を払ってもいいと考えていた。

 ソ連は、核戦争のリスクを受け入れる姿勢をとっていた。この姿勢をマントにして、ソ連を興奮させ、利害の薄い事柄にエネルギーを使わせたのだと思う。キッシンジャーは、繊細なだけに、目指す目的は非常に単純だった。ソ連との直接戦争を避け、ソ連に主導権を持たせることで、米国が対応し、それによってモスクワに自らの意志を示させることだった。キッシンジャーはソ連にこだわっていたので、ソ連がラテンアメリカを支援し始めると、アメリカはそれに応えた。ソ連は自分たちがキッシンジャーが考えるほど強力とは思っていなかったが、チリ、シリア、アンゴラで扇動した。

 ロシアのウクライナ攻撃へのキッシンジャーの対応も、これと同じ論理だ。彼は、イラクとシリアの紛争で、米国の意図についてロシア人を怯えさせられると見ている。ブレジネフ同様に、プーチンを柔軟性が欠けた人物で危険の少ない安定勢力と見ている。その意味で、ウクライナを防衛すれば、事態を悪化させるだけかもしれない。

 中国については、これと別の力学が働いた。キッシンジャーの最大の功績は、中国を開国させ、同盟国にしたことだ。キッシンジャーの頭の中では、これは融和により達成できたことになっているが、実際は中国が米国への恐怖心を失わなかったからだ。朝鮮戦争で米国が中国軍に大量の死傷者を出した後、毛沢東は米国を強力な国と見なし、米国は中国を同盟国と見なし、それぞれが取引に安堵して去って行ったのである。


 敵を過大評価し、最悪の事態に備えることは良い。しかし、誤算も過大となればチャンスを逃し、相手の動きに翻弄されてしまう。キッシンジャーは、英仏がドイツの強大さを理解できなかったことで犯したのと同じ過ちの繰り返しを恐れたのだろう。この考えが、ロシアや中国に領土を譲り渡す主張につながる。弱い立場の者こそ賢くなければならないし、当たり前のことには細心の注意で取り組まなければならない。世界の安定がかかっているのだ。筆者の考えでは、ロシアと中国は衰退する大国であり、米国は躍進する大国だ。ここで、敵に釘を刺せばよい。

 1970年代、ロシアへの筆者の恐怖は人一倍強かったと告白しておく。しかし、時とともに、彼らの軍隊を研究し、同国人と話すうちに、筆者はロシアを違う角度から見るようになった。かなり前のことだ。尊敬する人物を批判する権利は筆者にはない。しかし、キッシンジャーを間違っていると批判することは、無謀さとは違う。本人は、自分がしなければならないと思うゲームをしてきた。今もそれは変わらない。■


Why I Disagree With Henry Kissinger

Thoughts in and around geopolitics.

By George Friedman -May 27, 2022

https://geopoliticalfutures.com/why-i-disagree-with-henry-kissinger/?tpa=NmE3MWM3ODA4ZmRiMmU1MjU1YTFiMDE2NTQ3ODg5MjU5OTFkNDc



George Friedman

https://geopoliticalfutures.com/author/gfriedman


George Friedman is an internationally recognized geopolitical forecaster and strategist on international affairs and the founder and chairman of Geopolitical Futures.



2022年5月29日日曜日

クアッドの課題はインドとの相互運用能力だ。中国のグレーゾーン戦略に対抗すべく、海洋領域でのISR能力整備がカギとなる。

 

 

 

極安全保障対話(Quad)の各国首脳が東京に先週集結した。その後、ホワイトハウスは、日本、オーストラリア、インド、米国の4カ国が、インド洋太平洋を合わせた広大な地域で「海洋領域の認識」を強化する協力の意向と発表した。ホワイトハウスによれば、インド太平洋パートナーシップは、「太平洋諸島、東南アジア、インド洋地域のパートナーが自国の沿岸海域を完全監視する能力を変革し、ひいては自由で開かれたインド太平洋を維持する」ものとある。

 海洋領域認識とは、海に関する偵察、監視、諜報を意味する不格好な言葉だ。2005年、ジョージ・W・ブッシュ政権下の国土安全保障省は、「米国の安全保障、安全、経済、環境に影響を与える可能性のある、グローバルな海洋領域に関連するあらゆるものを効果的に理解すること」と定義した。これは「積極的かつ深層的な海上防衛の重要要素」であり、「実用的な情報とあわせ情報を収集、融合、分析、表示し、作戦指揮官に伝達する能力を向上させる」ことで強化される。

 クアッド構想は、情報機関が目前の問題を解決するため収集すべき情報を計画し、技術的・人的資源から生データを集め、データを処理・分析し有用な洞察を引き出し、結果を正しい利用者に伝え、戦略や作戦の立案・実行を支援する「情報サイクル」の海洋多国間版だ。そして、利用者は計画プロセスにフィードバックを提供し、次の段階を形成する。インテリジェンス・サイクルに終わりはない。

 海外パートナーを情報サイクルに活用することには意味がある。現在は緊迫した平和の時代であり、中国やロシアのような悪党が、武器を使わずに地政学的な利益をねらう時代だ。特に中国は「グレーゾーン作戦」が得意で、劣勢な周辺国をいじめ、不法行為を容認させる。南シナ海は中国のグレーゾーン戦略が最も顕著な場所になっており、沿岸国の排他的経済水域を含む海域の大部分を中国の領海としようとしている。中国共産党の大物が言うところの「青い国土」だ。しかし、中国共産党は陸上でも同じアプローチを展開し、クアッドパートナーのインドに被害を与えている。例えば、ここ数カ月、インド国境沿いの係争地に軍事・民生インフラを建設し、インド指導部に戦争の危険を冒して中国兵をその地から追い出す姿勢を迫った。現地で事実を作り上げ、他国を挑発する。中国のライバルが武力衝突の可能性にひるめば、中国の勝ちとなる。

 これは対抗が難しい戦略だ。しかし、クワッドの情報作戦は、侵略者による不法行為の抑止に役立ちそうだ。行為を探知し、国際的な非難を浴びせることで、北京やモスクワなど犯罪国家では得ることのない影響力を増幅させることができよう。また、海洋領域の認識により、クアッドは海上での不正行為に対してより強力に対応できる。結局のところ、現場がどこで、何が起きているのかがわからなければ、資産を現場に直行させられない。海軍の戦術家である故ウェイン・ヒューズ大佐Captain Wayne Hughesが、指揮統制や兵器の射程距離と並び、戦術的有効性を決定する3大要素の1つとして「スカウティング」(実質的には偵察と監視)を挙げているのも不思議ではない。目標を探知し、追跡し、把握する能力は極めて重要だ。

 ヒューズ大佐は有事の海戦について書いているが、同じ論理が平時の戦略的競争にも適用される。強気の海上外交は、平和的外交で事態を解決できない場合に、潜在的な軍事的オプションを各方面に認識させ、重要地点で優れた戦闘力を発揮する能力次第で効果が変わる。ヒューズの偵察・指揮統制の機能に情報サイクルを加えれば、インド太平洋の海空の抑止や強制機能に、クアッド加盟国が海軍や軍事力という大きな棒を振り回したり、クアッド非加盟のインド太平洋諸国へ自国の権利のため立ち上がれと鼓舞したりでき、質感も増す。そしてもちろん、海域領域認識の論理は、戦時作戦にも当てはまる。平時から有事まで、海洋領域で行うすべての基礎となる。

 だが、リソースと労力をプールするのは大変だ。海上でのクワッド情報作戦での最大の課題は相互運用で、それぞれ異なる軍隊や情報機関が調和して協力する能力を意味する。東京、キャンベラ、デリー、そしてワシントンの意思決定者がまず注目するのは、間違いなくハードウェアだろう。そして、互換性あるセンサーと指揮統制技術の重要性には疑う余地がない。米国、日本、オーストラリアは長年の同盟国で、共同運用に慣れているため、装備の相違を回避できる。しかし、インドの情報機関、軍、法執行機関は、国内外の異なるサプライヤーからハードウェアを調達してきたため、インドとの協力は難易度が高くなりそうだ。インド自体の国家安全保障機関間でも相互運用性に課題があり、ましてや海外との連携は難しい。この格差を克服できれば、大きな成果を生むだろうが、その過程で問題が生じるのは間違いない。

 また、海洋領域認識での共同作業では、共通の利益のため各パートナーの制度的慣行を調整することが求められる。つまり、技術面だけでなく、人間的な側面もある。クワッドのパートナーはそれぞれ異なる社会であり、異なる遺産と文化的特質を持つだけでなく、情報機関や軍部には独自の官僚的文化や世界観がある。そのため、もう一つ複雑な要素となる。海洋領域の認識、ひいては侵略に対する共通の政策と戦略という目標に向かって、各国を連携させることは、関係者の頭痛の種となるだろう。要は、海洋領域の認識には小道具より重要なことがある。それは、協力し合うことを日々の習慣にすることだ。これが官僚の頭痛の種を和らげる最良の方法となる。

 これが海洋外交の複雑な背景事情だ。しっかり対応していこう。■

 

How the Quad Can Take on China in the 'Gray-Zone' - 19FortyFive

ByJames Holmes

 

A 1945 Contributing Editor, Dr. James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs. A former U.S. Navy surface warfare officer, he was the last gunnery officer in history to fire a battleship’s big guns in anger, during the first Gulf War in 1991. He earned the Naval War College Foundation Award in 1994, signifying the top graduate in his class. His books include Red Star over the Pacific, an Atlantic Monthly Best Book of 2010 and a fixture on the Navy Professional Reading List. General James Mattis deems him “troublesome.” The views voiced here are his alone. Holmes also blogs at the Naval Diplomat

In this article:China, featured, India, Japan, Quad, Quadrilateral Security Dialogue

WRITTEN BYJames Holmes