2017年6月2日金曜日

★どうなるA-10の行方、大幅改修か、新型機投入か



米空軍は近い将来は第二次大戦後一貫して米空軍が享受してきた航空優勢は確保できない想定のようです。しかしCAS機材に航空優勢任務まで期待できないので、結局任務に特化した機材を複数準備するしかないのですね。この点で単一機能しか果たせない機種は整理するとした以前の空軍の考え方は根本的に間違っていることになります。(ただしA-10退役案は本心ではなかったと今頃になって弁明しているようですが) A-29などターボプロップ機はOA-Xという別のCAS構想なのでA-10とそのまま比較するのが間違っています。そうなると既存A-10の供用期間延長を図るか、新たに生産するしかないと思うのですが。F-35がCAS任務でA-10に匹敵する性能を出せないと空軍もあきらめているのでしょうかね。



Air Force Advances Future Plans for the A-10

A-10の今後の活用案の検討が進む

Visit Warrior Kris Osborn, SCOUT WARRIOR
Yesterday at 11:15 AM

http://www.scout.com/military/warrior/story/1661272-air-force-to-build-new-a-10-attack-aircraft


米空軍の進めるA-10後継機戦略からは新型機が生まれる可能性、既存機種の改修、さらにA-10改修の可能性も生まれそうだ。
  1. 空軍は「A-10」相当の機体に必要となる速度、威力、耐久性等の性能検討を開始し、米軍地上部隊に効果的な近接航空支援を提供する手段を引き続き実現しようとしている。
  2. 空軍は「要求性能原案」を作成中で、エイビオニクス、技術、兵装、装甲、技術冗長性がどこまで必要かを検討しているとScout Warriorに伝えている。
  3. A-10の中核技術や戦闘能力の多くはそのままとし、さらに伸ばすものもあると関係者は述べる。
  4. A-10ウォートホグはISIS相手にすぐれた攻撃性能を示しており、空軍が同機の退役を先延ばししたこともあり、空軍は長期視点からA-10と同様の機体の実現に本腰を入れている。
  5. ペンタゴン上層部から最短でも2022年までA-10を供用すると発表があったことを受け、空軍とDoDはA-10は当初想定より長期にわたり実戦投入可能とみている。
  6. グローバルな脅威内容を意識し、空軍がA-10を温存するのは理にかなっている。ISIS攻撃では原油輸送車列他の攻撃に威力を発揮しているが、それ以外に多彩な兵装を運用でき、レーザー誘導爆弾や精密兵器も含まれる。
  7. 30mm機関砲、チタン製装甲板、近接航空支援用に冗長性をもたせたA-10は機械化部隊の撃退にも有効だ。A-10には広範な種類のシナリオで他機でまねができないすきま任務をこなす能力がある。戦闘員鎮圧から地上部隊支援、大規模戦での火力提供、防護、地上部隊支援までだ。
  8. 空軍関係者はScount Warriorに対して現時点で三つのアプローチを明らかにした。一つが現行A-10の大規模性能改修と供用期間延長で、その他既存機種を調達する、全く新規の機体を近接航空支援用に開発することだという。
  9. 「要求性能原案をまとめているところです。完成すれば現状と比較し、A-10を継続使用した場合との比較、別機材で交替させた場合の比較、と検討を進めていきます」とジェイムズ・ホームズ中将(空軍参謀次長、戦略構想機体性能とりまとめ責任者)が昨年に報道陣に語っていた。
  10. ホームズ中将は空軍全体として長期間ハイエンド戦闘の際に「航空優勢」を確立、維持、保持する方策を模索していると述べている。近接航空支援用の後継機でもこの課題は無視できないという。
  11. そのため、空軍は近接航空支援機の「適正度」を図るため既存機種と新規開発機との間の違いも含め多方面からの検討を重視するはずだ。
  12. ホームズ中将は選定では機体価格と並び維持費用が極めて大きな要素になると述べている。
  13. 既存機種で検討対象に入っているのはレイセオンのT-XやエンブラエルA-29スーパーツカーノなどがある。
  14. 予算手当できれば空軍には大きな意味が生まれる。前空軍参謀総長のマーク・ウェルシュ大将はA-10退役案があったが空軍は実はそのまま退役させることは望んでいなかったと述べている。A-10退役案は純粋に予算が理由だったと空軍上層部は一貫して説明していた。ウェルシュ大将は「退役させたくない機種だ」と昨年3月に議会で発言していた。
  15. 空軍上層部からは多用途F-35が近接航空支援任務を引き継げるはずと述べていた。センサー技術と25mm銃と操縦性を武器にF-35が任務を実施できないはずはない。だが同時にA-10が他に比類のない戦場での実績を示しているからこそ何十年にわたり温存されているとの見方は全員が一致したところだ。■

米海軍:中国は次回リムパックも招へい対象


中国が来年どうなっているかもわかりませんが、招へいには素直に応じるでしょう。ただし、その際は前回、海上自衛隊にあからさまな無礼を働いたことを再発させないようシーマンシップを発揮してもらいたいものです。それができなければやはり中国は異質な存在のままになるでしょう。

China among invitees to major US exercise 

米大規模海軍演習に中国も招へい対象

 By: Christopher P. Cavas, May 29, 2017 (Photo Credit: MC3 David Cox/U.S. Navy)

WASHINGTON — 米国が来年主催する環太平洋合同演習(リムパック)に中国が再度招へいされると米海軍が5月29日認めた。
  1. 「リムパック2016の参加26カ国はすべてリムパック2018に招かれる」と米第三艦隊(サンディエゴ)の広報官ライアン・ぺリー中佐は述べている。
  2. ペンタゴンは6月にサンディエゴで開かれる準備会合に中国も招くとライアン中佐は確認し、議会が定めた軍組織間、海軍間の中国との付き合い方のガイドラインを遵守していると述べている。準備会合はその後も二回予定され、中国招へいは都度承認が必要になるとライアン中佐は付け加えた。
  3. リムパックは隔年開催の世界最大の海軍演習の触れ込みでハワイ真珠湾を中心に展開される。米太平洋艦隊が主催し第三艦隊がホストとなり会期は数週間にわたり、海上での各種シナリオ演習の前に社交、競技イベントもある。
  4. 2016年に参加したのはオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、コロンビア、デンマーク、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、中国、ペルー、韓国、フィリピン、シンガポール、タイ、トンガ、英国の各国が米国に加わっている。第三艦隊によれば水上艦45隻、潜水艦5隻、航空機200、25千名が参加した。
  5. 中国が招へいに応じれば2018年は中国人民解放軍海軍(PLAN)がリムパックに三回連続参加することになる。2016年にはPLAN艦艇5隻が参加した。駆逐艦、フリゲート艦、潜水艦救難艦、測量艦、病院艦各一だ。2014年には参加した4隻とは別に情報収集艦が演習に付きまとっていたが同艦はリムパックに正式に参加した艦ではなかった。
  6. ロシアはリムパック参加は2012年の一回にとどまっている。ロシアはその後招へい対象から外されており、情報収集艦と駆逐艦が2014年、2016年それぞれ演習を監視していた。
  7. 2018年演習の正式日程は今後の準備会合で決まるとペリー中佐は説明。
  8. 2018年演習ではチリが脚光を集めるとペリー中佐は解説。チリが各国混成群の指揮官を初めて務めるためだという。
  9. 米中関係はここにきて一歩前進一歩後退の様相を呈しているが米国は北朝鮮の核ミサイル脅威の抑え込みで米国が中国の支援に期待している。5月24日には米駆逐艦デューイが南シナ海ミスチーフ礁付近を航行し中国の神経を逆なでしている。その後、中国機が米哨戒偵察機に危険なほど接近する事案が少なくとも二回発生している。■

2017年6月1日木曜日

★民間コンソーシアム、ストラトローンチの巨大打ち上げ母機がロールアウト!




これはすごい。宇宙打ち上げビジネスが一変しそうな構想が現実になりつつあります。今回はロールアウトですが、初飛行の姿を見たいものです。コンセプトをどんどん発展させていったのですね。これだけの偉容を実現させたのが民間というのもアメリカの強みですね。おそらく途中で挫折しかねない事態が何度もあったはずですが、乗り切ったのは強い意志とリーダーシップの産物ですね。完成したら使おうとする軍やほかの民間企業はその意味で起業家精神は希薄ですね。(この記事はターミナル1-2共通です)

Stratolaunch rollout

Stratolaunch's Massive Mothership Rolls Out Of Its Nest For The First Time

ストラトローンチの巨大母機がロールアウトし初公開

This is the largest aircraft ever built in terms of wingspan, even larger than the "Spruce Goose."

翼端幅で世界最大の機体に

 BY TYLER ROGOWAYMAY 31, 2017

  1. 10年の開発を経て、ストラトローンチStratolaunchの巨大な母機がモハーベ航空宇宙港の格納庫で公開された。予想通り、同機の大きさと形状は圧倒的だ。翼幅385フィートは世界最大で、これまで最大だったヒューズH-4飛行艇別名「スプルース・グース」をしのぐ。最大搭載時に機体重量はなんと1.3百万ポンドになる。動力はプラット&ホイットニーPW4056六基で747-400のエンジンと同じだが推力合計340千ポンドに及ぶ。
  2. ストラトローンチが驚異の技術を誕生させたのは疑う余地がない。
STRATOLAUNCH

  1. 同社は同機の性能を以下説明している。
ストラトローンチの再利用可能で空中発射を可能とする解決策により空港から離陸して宇宙打ち上げが可能となります。ストラトローンチ機は通常の滑走路から離陸し、悪天候を避け、航空機で混雑する空域や海上交通路を回避できます。ストラトローンチの空中発射方式で高費用になる打ち上げ順延や中止はなくなります。
STRATOLAUNCH
  1. X-プライズ受賞をきっかけにマイクロソフト共同創設者で宇宙事業の構想を持つポール・アレン、航空宇宙設計で名高いバート・ルータンがコンソーシアムを組み低地球周回軌道の利用方法が革命的に変わろうとしている。そこにスケイルド・コンポジット社が加わり、かつてルータンが所有していた同社は航空宇宙の設計製造で革新的な企業だ。(現在はノースロップグラマン傘下)さらにイーロン・マスクのスペースX、および元NASA長官マイク・グリフェンも加わり夢の構想が実際に飛行することになった。スペースXのように一度加わったもののその後離反するものもあらわれたが、ポール・アレンがしっかりと方針を貫き、各社を率いてきた。
STRATOLAUNCH
  1. ストラトローンチ母機の右側胴体にコックピットがあり、左胴体にはフライトデータシステム各種とペイロード制御を収める。同機は大型第二段目ロケット一基あるいは小型二段目複数を運用可能で後者は一回に複数の宇宙機を異なる軌道に送ることができる。世界各地の滑走路が利用でき、輸送コストを大幅に下げることでロケット費用も下がり、打ち上げ手順が大幅に早まる。
  2. ストラトローンチの強みは母機と子機の組み合わせコンセプトで航空機自体を従来の第一段目ロケットの役割とし、二段目とペイロードを運んで軌道に送る点だ。概念自体は以前からあり軍民双方でこの考え方を検討していた。オービタル・サイエンシズはL1011機にスターゲイザーの名称を付けペガサスロケット打ち上げを実施している。ストラトローンチとの違いは母機とペイロードの規模で、オービタルサイエンシズは豊富な知見を持ちコンソーシアムに2012年加入している。
D. MILLER/WIKICOMMONS
ヴァージン・ギャラクティックのホワイトナイトIIもスケイルド・コンポジットの母機設計の一環だ。
  1. ストラトローンチの外観からホワイトナイトを思い起こす向きもあろう。同機はX-プライズ受賞につながり後継のホワイトナイトIIがヴァージンギャラクティックのスペースシップ・トゥーを抱えて離陸している。実は両方ともスケイルド・コンポジットが設計しており、ルーツはルータンの設計案にある。両機とも宇宙飛行の実施方法のコンセプトを共有しており、母機で重い打ち上げ対象を抱えて離陸してからロケット点火で宇宙機を発進させる。

NASA
ペガサスロケットを搭載して離陸するスターゲイザー
  1. この構想は軍事利用にも道を開きそうだ。ペンタゴンは二段式ロケット機で小型ペイロードを軌道運用する案やその他機密のシステム複数を検討しており、航空機を第一段ロケットの代わりに運用する構想を開発中だ。中国がAN-225ムリヤを取得したのも同様の構想を進めているためとみられる。
  2. ストラトローンチが成功すればまずペンタゴンが顧客になりそうだ。費用が下がり、打ち上げリスクが減れば偵察通信衛星運用に朗報となる。さらに衛星多数を異なる軌道に迅速に打ち上げできれば敵の対衛星攻撃に対する抗じん性が増す。また母機から米国の対衛星兵器を運用することも可能で、敵衛星を軌道上でジャミング、目くらまし、乗っ取り、あるいは破壊も可能となる。
STRATOLAUNCH
  1. 米空軍がストラトローンチを調達して専用に使うのも可能だ。空軍は迅速かつ安価に低地球周回軌道に打ち上げする能力を求めている。今日では攻撃に時間が大きな要素になっている。世界各地を分単位で攻撃する能力だ。ストラトローンチに準軌道ミサイルを搭載し世界を飛行させ、迅速な敵攻撃の構想もある。ストラトローンチのような既成装備を調達すればペンタゴンも開発費用数十億ドル、開発期間を節約できる。
  2. ストラトローンチの初飛行は今年後半でアレンたちは2010年代末までにストラトローンチは運用可能になるとみている。■

KC-46開発がここまで遅れている理由と米空軍の対応


なぜKC-46開発は遅れに遅れているのでしょうか。今後どう解決していくのでしょうか。KC-Xとして始まった同機の調達は米空軍の目指す空中給油機体系の一手段にすぎないようです。

Will the KC-46 face another schedule delay? The Air Force will find out in June KC-46は追加遅延を乗り越えられるのか。米空軍は6月に実態を調査する

By: Valerie Insinna, May 30, 2017 (Photo Credit: The Boeing Co.)

WASHINGTON — 米空軍は6月にKC-46空中給油機開発が再度遅延するか見極めると議会に伝えている。
  1. メーカーのボーイングは日程遅延のリスク評価中で、空軍の調達業務トップの ダーリーン・コステロ、アーノルド・バンチ中将両名に六月第一週に内容を開示すると同社が伝えてきたとバンチ中将は下院軍事小委員会に紹介した。
  2. バンチ中将から報道陣に日程上の遅れを生みそうなリスクへの懸念が表明されており、2018年10月までに必要な機数がそろうのかもそのひとつだという。ボーイングはその時期までに第一陣18機を納入する義務があり、空中給油用ポッドも同時に引き渡す。日程上では一年ほど遅延している。今年8月に予定されていたFAA認証も2018年末に先送りされた。
  3. 「ボーイング製のサブシステム各種やハードウェア生産はFAA(連邦航空局)承認がまだおりずフライトテストの遅れにつながっている」とバンチ中将は議会証言した。「テスト日程が予定通り進んでいない原因にはテスト機材が設計変更で改修をうけていることもある。ボーイングは数か月相当も予定から遅れており、生産型一号機の引渡しは2017年9月12日以降になる」
  4. 今年3月に政府会計検査院(GAO)が同機事業がさらに遅れる危険に注意喚起し、テスト日程に全く余裕がなく、テストで不具合が見つかっても再実施できないことを理由に挙げた。
  5. 今年9月にはボーイングは毎月3機を納入する必要が生まれるが、現在の本格生産でもこれは無理なペースだとGAOは指摘。GAO報告書の発表時点で12機の進捗は7割程度だったが、厳しいテストの実施が控えている。
  6. GAOによれば9月納入を実現するため毎月テスト項目を1,713点ずつ実施する必要があるが、平均で毎月800点達成にとどまっているのが2016年3月から2017年1月の実績からわかる。2016年10月だけ2,240点を達成している。
  7. ここまで日程を守るのが困難になっているが、空軍は引き続き同事業に力を入れており、予定通りKC-46Aを179機を2028会計年度までに調達する予定。2018年度予算要求では93.8百万ドルで技術生産開発(EMD)フェーズを続け、26億ドルを2018年1月に15機用に計上している。
  8. バンチ証言ではKC-46Aの179機はKC-10、KC-135部隊の半分と交代するだけと認めた。そこでKC-135の改修をさらに進め、KC-46に続く後継機二機種KC-YおよびKC-Z開発に「十分な予算手当」があれば空軍の要求にこたえられると述べている。■
とここまでなのですが、開発を遅らせている原因はこの記事では触れていませんので、やはりDefense Newsの3月の記事 「一年以上遅れているKC46-A開発さらに遅れる可能性」
Two major challenges stand in the way. First, Boeing may not be able to conduct an electromagnetic effects test scheduled for May 2017. The test, which is held at a specialized facility, will evaluate whether the KC-46 creates any electromagnetic interference. However, because the Federal Aviation Administration has yet to approve the aircraft’s aerial refueling pod design, the Air Force will have to decide whether to test the aircraft and pods separately or risk pushing the test to a later date.
ひとつが電磁障害に耐えられるかのテストでもうひとつが空中給油用ポッドで、これもFAAの認可を得るために必要なのですね。ポッドは空軍以外の機材への給油用なのでしょう。システムがややこしくなりそれだけ性能の実証が大変なのでしょう。そもそもエアバスを原型にしたKC-30案がそのまま採択されていればここまでの遅延はなかったかもしれません。(これは仮定で誰にもわからないのですが)



米GMDがミサイル迎撃に成功した意味、MDAの中長期ミサイル防衛構想


技術はどんどん進んでいきます。北朝鮮が飛翔制御変更なミサイルを開発したと自称していますが、米側と同等のセンサー網を運用していないため、制御の有効性は疑問です。しかし米側も今後真剣な対応を迫られるのは間違いありませんが、技術が必ず解決策を出してくるはずです。今は北朝鮮ですが中国やロシアのミサイルへの対応もそのうち道が開けるでしょう。

Army photo

アラスカのミサイルサイロに搬入される地上配備迎撃ミサイル。

 

GMD Missile Defense Hits ICBM Target, Finally

GMDミサイル防衛が迎撃実験についに成功

 By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on May 30, 2017 at 5:45 PM

WASHINGTON: 北朝鮮の最新のミサイル発射から二日目に米国が本土ミサイル防衛の効果を初めて確認することに成功した。コードネームFTG-15とされた本日のテストではこれも初めて「ICBM級」の標的が投入されたとミサイル防衛庁(MDA)が発表した。地上配備中間段階防衛構想(GMD)には会計検査院(GAO)調べで2002年以来1,230億ドルの巨費が投じられており、今回で1999年以来の迎撃テストは18回中9回成功とちょうど50パーセントとなった。
  1. 「本日の成功で命中=撃破方式の本土ミサイル迎撃に懐疑的な向きも反論が難しくなりました」と戦略国際研究所のミサイル防衛部門長トーマス・カレイコが指摘する「本土ミサイル防衛体制に重要な日となり金正恩には悪い日になりました」
  2. どこまで悪い意味があったのだろうか。命中率50パーセントを現実の作戦で考えると、批判派の憂慮する科学者連盟がテストが非現実的で簡単なものだったと指摘するが、現在36基運用中の地上配備迎撃ミサイル(GBI)のうち18発が敵ICBMを迎撃することになる。少なくとも近未来で北朝鮮やイランには十分だと言える。ただし米政府はこの「限定的」ミサイル防衛体制ではミサイル多数を発射してくる中国やロシア相手には不十分だと認めている。
  3. MDAは今年末までにGBIを44基に増設するが、「二発発射して一発命中」では割りが悪い。このためMDAは複数目標撃破迎撃体Multi-Object Kill Vehicle (MOKV)の開発を急いでおり、迎撃ミサイルをいわば精密発射弾に変え、一発のGBIから複数弾頭を発射し目標多数に対応させる。供用開始を2030年目標だったが、MOKVは2025年に運用開始できそうだ。予算要求は2018年度に259百万ドルで、MDA総予算79億ドルの一部となっている。
MDA Photo
空中発射レーザー母機は2012年にモスボール保存となった。
  1. 長期展望ではMDAはレーザーに注目しており、2018年度予算要求で54百万ドルでR&Dを進める。半導体レーザーは電気だけを使い電源があれば何回も発射できる。軍の一部ではレーザーを実地試験しているが射程は短距離で想定は無人機やロケット弾の撃破だ。MDAはもっと難しい標的をはるかに遠距離から狙う構想で、開発中止となった空中発射レーザー構想を復活させようとしている。前回は改装747機に毒性の強い化学レーザーを満載していたが、今回は半導体レーザーを無人機に搭載する。敵発射地点近くに無人機を周回飛行させミサイルが発射されれば即座に撃破する。このいわゆる「発射直後迎撃」構想では敵ミサイルを一番脆弱な段階で攻撃し、弾頭を発射直後の上昇段階のミサイルものとも迎撃する。
  2. これに対して本日テストされたGMDは大気圏外攻撃弾Exoatmospheric Kill Vehicle (EKV) を飛んでくる弾頭部に宇宙で衝突させる方式だ。精密に衝突させ爆発物は使用しない。衝突すれば相手は粉砕される。だが目標に命中させるため地球規模の高性能センサー群の海上配備Xバンドレーダー(SBX)などからデータを指揮統制戦闘管理通信Command, Control, Battle Management and Communication (C2BMC)システムに投入し迎撃体へ指示を出す。
  3. この「命中=破壊」方式の迎撃は技術上は大きな課題でアイゼンハワー大統領が「弾丸を弾丸で撃ち落とす」と評したのは有名だが、現在では低高度はペイトリオットで、中高度はTHAADがあり、さらに高高度にGBIと当たり前に装備されている。本日のテストは満点ではなかったが、この技術の有効性を支持する向きには有利な結果を生んだ。■

2017年5月31日水曜日

もし戦わば(14)26億人の戦争:インド対中国



もし戦わばシリーズも11回目になりました。インドが中国を攻撃するとは考えにくく、中国がインド国境を越えて進軍したらどうなるかという想定です。周辺国にストレスを与える中国の存在は中国に近いパキスタンという宿敵を持つインドには特に面倒な存在でしょう。

 

If 2.6 Billion People Go To War: India vs. China 26億人の戦争になったらどうなるか:インド対中国


The National InterestKyle Mizokami May 27, 2017


  1. 仮にインドと中国が交戦すればアジア最大規模の破壊絵図が繰り広げられるだろう。さらにインド太平洋地区全体が動揺をうけ両国の世界経済も影響を免れない。地理と人口構成が大きな要素となり、戦役の範囲とともに戦勝条件が制約を受ける。
  2. 中印国境で以下の地点が注目だ。インド北方のアクサイチンAksai Chinおよび北東部のアルナチャルプラデシュ州Arunachal Pradeshである。中国はともに自国領土と主張しており、それぞれ新疆省および中国が占拠するチベットの一部だとする。中国は1962年に両地点を侵攻し、両軍は一か月交戦し、中国がわずかに領土を確保する結果になった。
  3. 両国とも核兵器の「非先制使用」を是としており、核戦争への発展は極めて可能性が低い。両国ともそれぞれ13憶人ほどと膨大な人口を擁し、実質的に占領は不可能だ。近代戦の例にもれず、インド中国が戦争に入れば陸海空が舞台となるはずだ。地理条件のため陸戦の範囲は限定されるが、空での戦いが両国で最大の損害を生むはずだ。ただし海戦ではインドの位置が優位性を生み、中国経済への影響がどうなるかが予想が難しい。
  4. 次回両国が武力衝突すれば1962年と異なり、双方が大規模な航空作戦を展開するだろう。両国とも戦術航空部隊は大規模に保有し人民解放軍空軍は蘭州軍区からアクサイチンに出撃し、成都軍区からアルナチャルプラデシュを狙うはずだ。蘭州軍区にはJ-11、J-11B戦闘機部隊があり、H-6戦略爆撃機二個連隊も配備されている。新疆に前方基地がないため蘭州軍区からの北インド航空作戦支援は限定的になる。成都軍区には高性能J-11AおよびJ-10戦闘機部隊が配備されているが、インドに近いチベットに航空基地は皆無に等しい。
  5. 中国のインド攻撃には戦術航空機部隊が必ずしも必要ではない。航空攻撃力の不足を弾道ミサイルで補えばいいので、人民解放軍ロケット部隊PLARFが重要だ。PLARFは核、非核両方の弾道ミサイルを扱い短距離、中距離弾道ミサイルはDF-11、DF-15、DF-21の各種を発射できる。ミサイルでインドの地上目標を戦略的に電撃攻撃するはずだが、その間南シナ海、東シナ海の緊急事態に対応できなくなる。
  6. それに対しインドの空軍部隊は空では中国より有利だ。戦闘の舞台は中国領と言えども人工希薄な地帯だが、ニューデリーはチベット国境からわずか213マイルしか離れておらず、インドのSu-30Mk1フランカー230機、MiG-29の69機さらにミラージュ2000部隊は中国機材と互角あるいは上を行くはずだ。少なくともJ-20戦闘機が投入されるまでこれは変わらない。インドはパキスタンを仮想敵とし、二正面作戦も想定して十分な数の機材を整備している。航空基地や重要施設の防衛にはアカーシュAkash中距離対空ミサイルの配備が進んでいる。
  7. インドは空軍力による戦争抑止効果に自信を持つが、中国の弾道ミサイル攻勢は少なくとも近い将来まで食い止める手段がない。中国ミサイルが新疆やチベットから発射されればインドの北側内の目標各地が大損害を受ける。インドには弾道ミサイルの迎撃手段がなく、ミサイル発射地点を探知して攻撃する手段もない。インドの弾道ミサイルは核運用のみで、通常戦に投入できない。
  8. 一方でインド、中国の地上戦が決定的な意味があるように見えるが、実はその反対である。アクサイチン=新疆戦線とアルナチャイプラデーシュ=チベット戦線の両方とも岩だらけの過酷な場所で輸送用インフラは皆無に近く機械化部隊の派遣は困難だ。攻撃部隊は渓谷通路を移動せざるを得ず砲兵隊の格好の目標となる。両国とも膨大な規模の陸軍部隊を擁するが(インド120万名、中国220万名)地上戦は被害も少ないが得るものも少ない手詰まり状態に入るはずだ。
  9. 海上戦が両国の優劣を決するはずだ。インドはインド洋にまたがり中国の急所を押える格好だ。インド海軍の潜水艦、空母INSビクラマディチャVikramaditya、水上艦部隊は簡単に中国の通商を遮断できる。中国海軍が封鎖を破る部隊を編成し派遣するには数週間かかるはずだが、広大なインド洋で封鎖解除は容易ではない。
  10. そうなると中国発着の航路は西太平洋を大きく迂回する必要があるが、今度はオーストラリア、日本、米国の海軍作戦が障害となる。中国の原油需要の87パーセントは輸入に依存し、中東、アフリカからの輸送が重要だ。中国も戦略石油備蓄を整備中で2020年代に完成すれば77日分の需要に対応できるが、それ以上に戦闘が長引けば北京は終戦を真剣に考えざるを得なくなる。
  11. 海上戦の二次効果がインド最大の武器になる。戦闘による緊張、世界経済への影響、さらにインド側につく日米はじめ各国の経済制裁で中国の輸出が減退し、国内で数百万単位の失業者が生まれる。国内の騒乱状態に経済不況が火に油を注ぐ格好となり、中国共産党の支配に悪影響が生まれる。中国の選択肢はインドより少なく、ニューデリー等大都市に非核弾頭のミサイルを撃ち込むしかなくなる。
  12. インドー中国間の戦闘は短期に終わるが、後味の悪い相当の破壊が生まれる。また世界経済にも広範囲の影響を残す。力の均衡と地理上の制約条件のため簡単に決着がつく戦闘にならないはずだ。両国ともこの点は理解しており50年にわたり戦闘がないのはこのためだろう。このまま今後も推移するのを祈るばかりだ。■
Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
Image: French Air Force Mirage 2000D at Kandahar Airfield. Wikimedia Commons/SAC Tim Laurence/MOD


中国戦闘機編隊がP-3に海南島付近で危険な挑発飛行を示す


A P-3C Orion aircraft in 2016. US Navy Photo

バルト海、黒海でもロシアが非常識な行為に走っていますが、こちら側でも中国の軍事拠点海南島を巡って神経が高ぶっているのかまたもや危険な飛行が目撃されました。当然中国は正当化しているようですが、そもそも国際空域、公海の概念が理解できず、全部自分の領土と考える異常な思考の国ですので何をするかわかりません。米軍も相当に注意しているでしょう。

 

Official: Pair of Chinese Fighters Unsafely Intercept U.S. Navy Aircraft Over South China Sea 中国戦闘機二機が米海軍機に南品海上空で危険な挑発行為

May 26, 2017 3:03 PM



  1. 中国戦闘機2機が米海軍P-3Cオライオン対潜哨戒機に対して南シナ海上空で危険な飛行行為をしかけてきたと米国防関係筋が26日USNI Newsに伝えてきた。
  2. 当該P-3C機は海南島から150マイルほどの地点を飛行中に成都J-10二機に5月24日現地時間7:30 A.M. と遭遇した。
  3. 中国の一機がオライオン右主翼から800ヤード地点につき、もう一機はP-3前方200ヤードを飛行しゆっくりと旋回した。P-3乗員は20分間におよぶ中国機の行動を「危険」と判断せざるを得なかったと国防関係筋がUSNI Newに語った。
  4. これまでも海南島付近で中国戦闘機が米軍機に接近することはよくあった。海南島は人民解放軍海軍の潜水艦運用の中心地だ。
  5. 2016年5月には米海軍EP-3Eがやはり海南島付近で瀋陽J-11の二機編隊により危険な飛行をしかけられたと米軍から苦情が申し立てられた。2014年にはP-8AポセイドンにJ-11一機が海南島付近で危険な迎撃を受け、J-11はポセイドンの前方を横切り、搭載兵装をみせびらかした。
  6. 同地区では2001年にEP-3が人民解放軍海軍の瀋陽J-8フィンバックに迎撃され、フィンバックは墜落しパイロットが死亡、EP-3は海南島に緊急着陸を迫られた事例が発生している。■

B-21大量調達に期待する米空軍・北朝鮮攻撃に必要な爆撃機は何機か


北朝鮮攻撃に戦略爆撃機60機必要なら中国はどうなのでしょう。
実際には巡航ミサイルやサイバー攻撃もあり、有人爆撃機だけを投入するわけではありませんが。(B-21も最初から無人運用も想定している言われますが。)トランプ政権になり、ヒラリー等が提唱したソフトパワーは否定されており、軍にとってはまず予算上限の制限をとり、次に本当に必要な装備を遠慮なく要求できる環境づくりが可能になりつつあるようですね。一方、KC-46はさらに苦労しそうです。コンパスコールでも空軍が批判をうけていますが、裏にボーイングがあるといはいえ、議会には優秀なスタッフがついていますので相当の勉強をして議員が取り上げるわけです。ここは政権の脚を引っ張るため次から次に醜悪な話題を「でっち上げてもいい」と考える政党がはびこる日本との違いですね。
B-21 artist renderingB-21 の想像図

B-21 Bomber Boost? General Touts 165; KC-46 Still Late B-21爆撃機調達数は上方修正されるのか KC-46開発は依然遅れ気味

May 25, 2017 at 3:11 PM
WASHINGTON: B-21爆撃機は何機必要なのか。80機、100機、165機なのか。予算の制約と別に議会の予算配分もあり、米空軍調達部門トップはこの質問に慎重に答弁したが、空軍内から意外なヒントが出た。
Lt. Gen. Arnold Bunchアーノルド・バンチ中将
  1. 機数は「最低100機」と高度機密事項の戦争実施案の検討内容を背景に、訓練、整備能力も考慮して答弁したのはアーノルド・バンチ中将で下院軍事委員会シーパワー・兵力投射小委員会でのことだ。
  2. 100機とこれまでも空軍が表明していた。B-21レイダー爆撃機は80機から100機必要という説明が先行していた。その時点でも機数は最低100機との説明だったが、本日、ジェリー・ハリス中将(戦略作戦立案担当参謀次長)がマイク・ギャラガー議員(共、ウィスコンシン)に「おそらく必要になるのは」165機だと戦争実施構想すべてを総合した結果として伝えている。
  3. ギャラガー議員は中将クラスを招いたパネル討論でミッチェル研究所の研究報告書(”US Bomber Force: Sized to Sustain an Asymmetric Advantage for America” )に触れ、ロシア戦では258機、イラン戦では103機、北朝鮮向けに60機が必要との試算内容を尋ねている。各機数は該当国内の攻撃目標数と投下爆弾数から割り出しており、作戦期間と必要なソーティー数から求めた。
  4. ハリス中将からは報告書の試算は「不正確ではない」とし、「165機をおそらく整備すべき」と述べ、トランプ政権の新軍事戦略の内容より先行するつもりはないと加えた。(統合参謀本部議長ジョー・ダンフォード大将がオバマ政権下で次の戦略構想は極秘としていたことを想起すると現政権がこれを覆す可能性は低いと思われる)
  5. そうなると早晩新型爆撃機の必要機数が引き上げられそうだが、すぐに予算手当がつくことにはならない。2018年度予算案ではB-21には20億ドルが計上されている。
  6. 一方で「低リスク」給油機ソリューションのKC-46で想定外のリスクが増えている。空軍からはボーイング製給油機の就役が遅れると再度発表している。バンチ中将もジョン・ガラメンディ議員の質問に答えて、空軍はボーイングと共同でリスク評価を来週実施すると述べている。テスト項目の実施は予定より遅れているのは明らかで、バンチ中将はボーイングは予定通り実施可能と見ているが、「空軍は遅れるとの評価だ」と述べている。
  7. この問題に連邦航空局がからんでいる。同局は10年以上かけて次世代航空管制システムの実現を目指し、ガラメンディ議員はバンチ中将にFAAが問題なのか問いただし、中将は以下驚くべき答弁をしている。「FAAが問題だと断言できる立場にありません」 ガラメンディ議員は空軍関係者の表情からFAAが問題だと空軍が見ているのは明らかと述べた。
EC-130 Compass Call electronic warfare aircraft, used for an experimental cyber attackEC-130 コンパスコール電子戦機がサイバー攻撃実験を行った。
  1. 次にバンチ中将は先に出た報道内容を確認しボーイングからEC-130Hコンパスコール契約を空軍がL3に交付したことに対して異議申し立てがあったと認めた。L3が高度機密電子戦機材の作業で美味しい部分を得た形だ。空軍は同社に機体改修をさせるのが一番工期が短く、安価かつうまく実施することにつながると判断した。
  2. 空軍はコンパスコール機材を昨年退役させようとし、新型機材としてガルフストリームのG550ビジネスジェット機にBAEシステムズ製EW装備を搭載するとしていた。
  3. 「L3はシステム統合機能の実施で実績があり、ミッション装備での知見がも豊かです」とバンチ中将は小委員会で発言。「ミッション装備は高度の機密事項ですが、電子戦の実施に投入するための機材を求めています。同社は必要な設備をすべて保有しており、知見と活かしモデリング他必要な情報を有しています」
  4. L3がシステム統合機能で中心的システム統合企業(lead system integrator, LSI)なのかで議論が交わされた。バンチ中将がL3を中心企業と誤って発言する場面があり、以前のやりとりに詳しい向きは次世代戦闘システムや沿岸警備隊のDeepwater事業でLSIを使用しており、政府が契約企業側に従来は政府が行ってきた決定内容を任せている。両事業とも批判にさらされ、前者は中止され、後者は実質的に内容を改定している。バンチ中将はL3はLSIと称したくない理由がそこにあったのだ。■

2017年5月30日火曜日

不気味な中国公的債務の増加はグローバル経済にも深刻な問題


航空宇宙テーマなのになぜ金融問題なのか。読者の中に訝しく思われる向きがあるかもしれません。要は巨大になった中国の動向に世界が振り回されており、中国経済が破たんするような事態(これを望む勢力もあるわけですが)が本当に来るのか。安全保障上にどんな影響が出る(出ない)のかが関心の的だからです。金融経済政策を司るエリート層が導入中の各種政策手段を以下エッセイでは好意的に受け止めていますが、その結果がいつ、どう出てくるかで巨大な軍事力整備の動向も変わってくると思います。そろそろ中国単独での経済金融動向=地政学専門のターミナル5を増設すべきでしょうか。読者の皆さんのご意見を頂戴したいと思います。

The Next Global Financial Crisis: A Chinese Sovereign Debt Default? 次の世界金融危機で中国の公的債務はデフォルトになるのか


May 28, 2017

  1. ムーディズが中国国債を格下げし金融市場と政府中枢に波紋が広がっている。ただし格付け変更の例にもれずリスク要因の今後を占うより遅れて現状を追認する指標の観がある。中国には深刻な赤字問題があるが、近年の政策方向から中国の公的債務リスクは軽減しそうだが他の部門で高まりそうだ。
  2. 中国の債務問題でよく引用される指標が広義のマネーサプライ(M2、現金と銀行預金の合計)で、中国ではGDP比率(2016年末で208パーセント)が世界有数の水準になっている。国際比較では中国のM2/GDP比率は170パーセントとなるべきところが70ポイント高い。セクター別の借り入れ比率を見ると政府、家計両部門がとくに高いわけでない。だが金融除く企業部門の借入総額はGDPの170パーセントに達しており、世界最高水準だ。
  3. 中国で借入比率が全般的に高い背景には要因が三つある。
  4. まず、銀行中心の中国の金融では銀行預金と貸出しがほぼ全ての業務形態だ。米国では金融市場が発達しており、M2のGDP比率が80パーセントにしかなっていない。だが日本では銀行が中心で240パーセントになっている。
  5. 二番目に中国の貯蓄比率は異例なほど高いGDPの50パーセント以上の状態が数十年続いている。貯蓄の多くは銀行預金。
  6. 三番目に中国の通貨政策を加速する仕組みがある。マネーサプライは好況時に拡大し経済活動の活況を円滑化するが、不況時でも拡大させ経済、市場を安定化させる。
  7. 中国は大規模な金融危機を経験していないが、金融市場にリスクや不効率な要因が多々残っている。この原因は主に二つあり、高度経済成長が続いたことと銀行業界、国営企業への政府保証だ。例えばアジア金融危機で不良債権が30-40パーセントまで増えたが、銀行預金の保証があったため銀行破たんは出なかった。
  8. もちろんこの手法は永遠に続けられない。GDP成長率は2010年と2016年の比較で4ポイント近く低下した。ここから深刻な問題が生まれているのが企業のキャッシュフローとバランスシートで、ゾンビ企業が続々と生まれている。また中国経済は国際決済銀行が「三重のリスク」と呼ぶ負債比率上昇、生産性低下、政策選択幅の減少に直面しており、金融リスクが上昇すると政府の保証効果は減少する。
  9. ここ数年で金融リスクが各所に波及する兆候が見られ、株式市場から金融仲介業(シャドーバンキング)へ、債権取引から不動産へ、デジタル金融から外国為替市場へ移っている。投資流動性が高すぎる一方で投資対象が少なすぎる。
  10. M2のGDP比率が長く高止まりしているが、中国の預金者はこれまでは安全な銀行貯蓄に満足していた。だが二年前に狭義のマネーサプライ(M1つまり流通中の現金)がM2を上回る事態が突如発生し、以後両者の差が広がっている。預金金利の低さに我慢できない預金者が投資に走る様子がうかがえる。しかし投資機会は限られ、新規流入資金がバブルを形成して望ましくない整理統合が生まれる。
  11. 2016年末から中国は全般的金融リスクの危険度を発表しはじめ、政策パッケージで対応中だ。
  12. ただし政府の包括的保証きな問題が大きな問題そのものだ。金融商品の焦げ付きとゾンビ企業の倒産が最近始まっているが金融安定のため必要だ。財務省は地方政府の借り入れに明確な方針を最近設定している。また地方政府の短期銀行借り入れを政府発行長期債券にスワップする仕組みも導入し、バランスシート上で満期日が合わなくなる問題を軽減しようとしている。
  13. 2015年初頭に中央銀行が預金保険制度を商業銀行に導入した。2016年に債務株式スワップを導入し、政府が企業部門の債務軽減に本腰を入れ始めた。2017年に入り、金融規制当局が透明性の低いシャドウーバンキング部門を中心に金融部門から資金引き上げを開始した。当局は国営企業改革に手を付けるはずで、国営企業の日常業務を阻害せず投資利益にメスを入れることになろう。
  14. 債務問題解決で中国政府は正しい方向に向かっているようだ。
  15. もちろんムーディーズが指摘しているように、この段階で各改革策の成功を宣告するのは時期尚早である。中国が金融危機を回避できる保証もない。たとえば預金保険制度の導入で銀行破たんが増えても国債含むその他の金融危機の発生の可能性は下がる。そもそも倒産や破たんは回避できない。リスクのプレッシャーを軽減し、全般的な金融安定度を維持する方法である。とはいえ政府借り入れがGDP50%相当の中国には近い将来の国債不安を緩和する余地あり、とくに莫大な国有財産、比較的閉鎖的な資本勘定を考慮する必要がある。
  16. ムーディーズ格下げはその意味で今後のリスクを占うかわりにこれまでの問題へ警戒の目を向けさせる効果を生む。■
Yiping Huang is Professor of Economics at the National School of Development, Director of the Institute of Digital Finance, Peking University and Visiting Professor in the Crawford School of Public Policy at The Australian National University.
This first appeared in East Asia Forum here.
Image Credit: Creative Commons.


LM-100Jは十分軍用に転用できるC-130Jの民生用新型機


なるほど複雑で高価格の軍用仕様でなくても十分とする途上国需要をあてこんでいるわけですか。確かに民生用貨物輸送機需要はマーケット規模が限られているのでロッキードの狙いは面白いと思います。日本もC-130Hの後継機で検討してはいかがでしょう。え、先進国のプライドが許さないですか?

Lockheed Martin marks maiden flight of LM-100J

Gareth Jennings, London - IHS Jane's Defence Weekly
26 May 2017

ロッキード・マーティンの新型輸送機LM-100Jハーキュリーズが5月25日初飛行した。
軍用C-130Jの民生仕様機でジョージア州マリエッタ工場から離陸した。機体は2月にロールアウトしており飛行テストが始まり、FAA型式証明取得を目指す。
ロッキード・マーティンはC-130Jの拡販を狙うが、各国の国防予算が縮小気味でとくにペンタゴン予算の落ち込みが痛いところだ。
ハーキュリーズでは以前も民生用L-100が1964年から1992年にかけて115機が生産されたが、LM-100Jでは大型貨物輸送、石油ガス採掘業務、鉱業用補給活動、空中消火、貨物搬送、救急救命、人道救難、捜索救難等を過酷な飛行施設でも行えることをうたう。
民生用とはいうもののLM-100Jは官公庁、軍用用途も狙い、とくに高性能つまり高価格となるC-130Jまでは必要ない層を狙う。民生版では秘匿通信装置、電子戦装備、配線、ラック類はすべて外されており、ロッキードはLM-100J機体価格を60ないし70百万ドルとし、C-130Jの1億ドルより安価だ。また機体重量が軽くなり、燃料経費や整備費用が節約できる。このため同社は同機を軍用用途にも売り込む方針で途上国向けに訴求力があるとみている。
なお、旧型のL-100はアルゼンチン、エクアドル、インドネシア、リビア、ペルー、フィリピン、サウジアラビア、アラブ首長国連合の各国で軍が運用していた。■