2021年12月20日月曜日

常識破りの長射程、精密射撃で飛躍的に伸びた中距離ミサイル装備で、米陸軍は敵侵攻を食い止める抑止効果も狙う。統合武器作戦構想の一環となる。この実現を可能にしたのがロシアのINF破りという皮肉な事実。



ロッキード・マーチン(NYSE: LMT)は、陸軍の精密打撃ミサイル(PrSM)となる次世代長距離ミサイルの試射にニューメキシコ州ホワイトサンズ・ミサイル発射場で成功した。

Lockheed Martin

 

 

 

 

「米陸軍ミサイルの長期目標は海上、陸上を問わず全ドメインでの攻撃能力の実現であり、PrSMがその答えだ」

 

陸軍は、アリゾナ砂漠で行われた戦闘ネットワーク実験「プロジェクト・コンバージェンス21」で新型精密打撃ミサイルPrecision Strike Missile (PrSM)を試射し、マルチドメイン対応可能兵器の確立への取り組みを進めた。今年初めの実験で射程の新記録を樹立したPrSMは、陸上・海上の目標を破壊できる長距離精密攻撃兵器として構想されたものであり、アリゾナ州ユマ試験場での実験ではこの機能が評価された。

 

精密打撃ミサイル(PrSM) 

PrSMは、バンデンバーグ宇宙空軍基地(カリフォルニア州)での試射で新記録を更新した。同ミサイルは、敵の地上施設、防空施設、指揮統制機能、さらに移動目標へ新たな有効範囲と精度をもたらして地上戦のパラダイムを一変させる効果をねらう。

 

当初は、敵を「アウトレンジ」し、前例のない距離で敵を破壊する陸上攻撃兵器として構想されたが、PrSMは、陸上発射で敵水上艦艇への海上攻撃システムとしても重要となってきた。

 

「陸軍の長期的なミサイル・ソリューションは、海上陸上を含むすべての領域を攻撃することであり、PrSMはそのためのもの」(陸軍将来コマンド、長距離精密火力機能横断チームのジョン・ラファティ准将Brig. Gen. John Rafferty

 

PrSMメーカーのロッキード・マーチンは、バンデンバーグでの試射で400km以上と従来の射程距離を超えたとの声明をThe National Interestに伝えてきた。現在同兵器は2023年の配備に向け試験・開発段階にある。

 

「将来的には、発射装置をさらに多く導入し、拡大したい。そして、ネットワークをどこまで広げられるか。発射装置をどこまで増やせるか?センサーをどこまで増やせるか?いずれ上限が見えてくるとしても上限はどこにあるのか?そして、紛争が絶えない環境下で機能するのか」と米陸軍未来コマンドのジョン・マーレイ大将Gen. John Murrayは、Warrior誌に語っている。

 

マルチドメインネットワーク技術の向上と強化が進めば、ロシアのINF条約違反で誕生したPrSMに新たな用途と標的対象の可能性を、陸軍が見つけていくだろう。

 

中距離ミサイルを制限していたINF条約にロシアが違反したのを受け、米軍は長射程攻撃可能な地上発射型兵器の試験・開発を重ねてきた。

 

 

PrSMは、ロシアの違反行為により中距離核戦力条約(INF条約)が破棄されたことを受け、従来の射程制限を超える取り組みとマレー大将は指摘する。約500キロ射程の兵器は中距離攻撃用で、米同盟国多数が存在するヨーロッパ大陸などで特に重要な意味を持つ。敵の攻撃や反撃のリスクを抑えつつ、敵の接近を抑止することが、同ミサイルの戦略的意図だ。

 

陸軍の長距離精密射撃技術は戦闘戦術や戦略に変化をもたらしており、新世代の大国の脅威に対応するべく新しい統合武器作戦Combined Arms Maneuverの構築が急がれている。

 

前例を超える射程と進化 

精密打撃ミサイル(PrSM)は、前例のない射程距離を達成し、新しい精密誘導シーカー技術によって、障壁を打ち破っている。攻撃範囲における画期的なデモンストレーションに新たな誘導方式と精密照準が加わることで、敵の防空施設、施設、さらには移動標的への長距離攻撃でパラダイムの変化が実現する。

 

今年初め、陸軍副参謀長ジョセフ・マーティン大将Gen. Joseph Martinは、陸軍がPrSM用の新しい「シーカー」技術を開発していると述べており、陸軍はジェネラル・アトミックス・エレクトロマグネティック・システムズ(GA-EMS)にデジタル誘導ミサイルDigital Guided Missile(DGM)システムのコンセプトプロトタイプの設計、製造、試験を委託している。

 

同コンセプトは、陸軍のノンライン・オブ・サイトNon-Line-of-Sight (NLOS)機能のミサイルで新次元の標的捕捉能力を実現するもので、PrSMが射程の新記録を達成したことを考えると、非常に大きな意味がある。新しいレンジダイナミクスとNLOSターゲティング技術を組み合わせることで、陸軍地上部隊の標的捕捉と攻撃オプションにまったく新しい領域が生まれる。GA-EMS の DGM は、より多くの子弾を発射することで、「コストパーキル」を大幅に最適化可能となり、このコスト面での利点は、標的の自動認識能力により、殺傷力が大幅に改善され強化される。子弾は、「リフトボディに翼をつけ、さらに滑空させる」ことで、PrSMの射程を超える機動性をめざす設計と、開発者は説明している。

 

将来型垂直上昇機と次世代戦闘機

デジタル誘導弾システムの最初の用途はPrSMの改良だが、陸軍と業界では、陸軍がめざす将来型垂直上昇機および次世代戦闘機プログラムでの使用など、さらなる用途の可能性を想定している。

 

GA-EMS社は、デジタル誘導弾システムを、プラットフォーム間で容易に移行でき、必要に応じてアップグレード可能とする技術標準で構築しているようだ。理由の1つとして、GA-EMSが自社資金で研究開発とデジタルエンジニアリングミサイルの設計をすすめていることがある。

 

GA-EMS社長スコット・フォーニーScott Forneyは、同社声明文で以下述べている。「当社には10年以上にわたる各軍向け極超音速兵器技術の開発、発展の実績があります。当社は、検証済みモデリングとシミュレーションのインフラストラクチャに基づくデジタルモデルでミサイルを開発しています」

 

PrSMはGPSと慣性計測技術を利用しているが、照準精度、誘導、データリンク通信、"ハードニング "に関する各種革新的技術が裏にあることは確実だ。このため、陸軍がGA-EMSの技術に注目し誘導ネットワークのハード化を図り、さらにGPSを使わず妨害を受けにくい標的捕捉技術を模索していても不思議ではない。

 

今年初めに行われたPrSMに関する議論で、ラフェティ准将は、長距離攻撃兵器は実際に、統合武器作戦の高度化に役立つとWarriorに説明している。

 

「長距離射撃で、敵の統合防空網を制圧・無力化し、統合兵器の機動力を発揮できる。統合武器体系は、敵に接近し破壊することを可能にできる。そのためには、装甲車、歩兵、戦闘航空隊が同期して協力することが必要となる。同期できないと、攻撃効果ははるかに少なくなってしまう。敵に大射程距離があれば、こちらの複合武器チームが分断される。敵はわが方を見て、戦い方を学んできた。彼らは我々の優位性を相殺できる分野に投資してきた」とラファティ准将は語っている。■

 

 

New Army Precision Strike Missile to Attack Enemy Ships at Sea, Achieves Breakthrough Range - Warrior Maven: Military and defense news

UPDATED:DEC 16, 2021ORIGINAL:DEC 16, 2021

KRIS OSBORN, WARRIOR MAVEN


 

 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest and President of Warrior Maven -the Center for Military Modernization. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Masters Degree in Comparative Literature from Columbia University.


 

2021年12月19日日曜日

イスラエルのKC-46前倒し調達要望が米政府に却下された。背景に空中給油能力不足のまま、長距離攻撃のイラン空爆作戦立案を迫られるイスラエルの焦り。

 

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ISRAELI MINISTRY OF DEFENSE

 

政府はイスラエルが求めてきたKC-46Aペガサス空中給油機の同国向け引き渡し前倒し要望を却下し、技術問題品質問題が理由でメーカーの納入遅れが発生していることを理由にしたといわれる。記事によればイスラエル政府が同機の早期取得を強く希望しているのはイラン核施設への空爆の可能性が強まっているためだという。

 

 

ニューヨークタイムズ記事ではKC-46A納入日程についての米イ当局間協議の席上でイスラエル側が早期引き渡しを強く希望してきたとある。これに先立ち、イスラエル国内紙Yedioth Ahronothの記事が出ており、ナフタリ・ベネットNaftali Bennett首相率いるイスラエル政府がイラン核施設空爆作戦を復活させようとしており、イスラエル国防軍が訓練を強化中とある。ときあたかも米国はイランとの核交渉が挫折しつつある。

 

米政府は当初KC-46A計8機に付属品併せた一式として24億ドルでイスラエル向け売却を2020年3月に承認していた。今年2月になりイスラエル国防省の発表で最初の二機導入が遅れ、受領時期は不明とされた。昨日のニューヨークタイムズ記事では2024年以降とある。

 

昨年の報道では製造中の米空軍向け機体2機ををイスラエルが入手する検討をしているとあった。ただし、今回の動きとの関連は不明。

 

最大の問題はボーイングが米空軍向け機体納入で遅延を発生させていることで、原因に機体の技術面の問題が解決できていないこと、製造上の品質問題があるとされる。今年9月にもペガサス完成期の納入がほぼ一カ月停止されたのは機内燃料ラインで詰まりが見つかった機体があったためで、同機はシーモア・ジョンソン空軍基地(ノースカロライナ)へ到着後に問題が見つかったという経緯がある。米空軍は以前にも同機受領を停止したのは、FODつまり異物デブリが機内で見つかり安全上の懸念が浮上したためだった。

 

とはいえ、製造ラインの問題が解決されても、KC-46Aで長く残ったままの遠隔視覚装備(RVS)の問題解決をめざし再設計作業に入っている。RVSは機内操作員が給油時に使うが、従来の給油機では操作員が機体後部で苦しい体位で給油を操作していたが、ペガサスでは機体前方ですわったままカメラ多数を見ながらRVSを操作する。RVSは2D3Dのハイブリッドシステムで操作員は特殊メガネを装着し操作する。空軍はRVSの正常な運用は2023年から2024年まで待つ必要があるとみており、同機の空中給油機能が制約をうけたままだ。

 

USAF

KC-46A機内で遠隔視覚装置を操作するブーム操作員が特殊メガネを装着している

 

このためイスラエルが前倒しで機材を受領しても、やはり2024年までは重要機能が制約されたままの機体となる。そもそもイスラエル政府が給油機取得を早期に必要とする背景にイラン空爆の支援が必要と判断していることがあるため、これは重要だ。イラン空爆作戦は複雑かつ高リスクになるとみられる。イスラエル空軍にはボーイング707を改装した給油機が7機あったが、3機は廃止済みで、4機で給油任務をこなしている。KC-46Aで問題がすべて解決すればイスラエルに新鋭給油機が登場し、従来より大量の空中給油が可能となる。

 

IAF

イスラエルはボーイング707改装の空中給油機を運用中。

 

 

「KC-46新造機が加わればイスラエルは攻撃範囲、攻撃力の増強が可能となる。KC-46は攻撃機戦闘機への給油に加え、自機も空中給油を受けられるからだ」「給油能力は重要で、イスラエルは旧式機を使いまわしつつ、アラブ首長国連邦やサウジアラビアに途中着陸せざるを得ない。この両国ともイランに競合しているとはいえ、攻撃に加担したと非難を受けたくないはずだ」とニューヨークタイムズは指摘している。

 

あわせてイスラエル軍には複雑な形での長距離攻撃実行の経験が豊かで、今も能力整備を続けている。なかでもF-15イーグルを特別改装している。タンカーを追加配備すれば航空作戦の拡大につながる。さらにステルス戦闘機F-35Iアディールが大きな効果を上げる。F-35Iはイラン防空体制を突破し無力化しつつ、その後に続く非ステルス機による空爆の成否を握ると期待されているが、機外燃料タンク装着で航続距離延長ができない。

 

 

KC-46A受領の遅れで別機材導入をイスラエル政府が検討している兆候はないが、エアバスのA330多用途給油輸送機(MRTT)の採用が他国に多く、このたびロッキード・マーティンも米空軍向けに同機をペガサスの競合機種として採用働きかけを開始している。イスラエル航空宇宙工業傘下のベデクエイビエーショングループが中古767を給油機に改装する動きをボーイングが阻止したいとしているが、現実にブラジル、コロンビア両国向け改装機の販売が成立している。KC-46Aも原型は767だ。

 

イランも考えられる脅威を認識し、核ミサイル施設を地下深くに移設している。通常型の空中発射兵器でこうした強化目標を撃破するにはバンカーバスター型兵器が必要となる。

 

懸念の爆撃目標にフォルドの地下核施設含む地下深くの標的への攻撃手段を有するのは米国のみで、GBU-57/B大型貫通爆弾の出番となり、米空軍ではB-2スピリットステルス爆撃機がこれを搭載する。そうなると、イスラエルがイラン核計画を完全破壊しようとすれば米国の直接支援が必要となる。

 

イスラエルには米国が供給したGBU-28/Bレーザー誘導5,000ポンド級バンカーバスター爆弾があるが、旧式装備で信頼性に疑問が生まれている。米空軍では同じ5,000ポンド級バンカーバスター爆弾の新型を開発中とされる。未確認報道ながらイスラエルがこの新型装備の情報提供を求めているらしいが、十分な数量確保は当面不可能だろう。

 

イスラエル空軍には小型バンカーバスター兵器があり、強化度が低い標的への攻撃に投入でき、その他関連施設で防護措置が軽いものへは標準型誘導爆弾ないしスタンドオフミサイルで対応できる。

 

イラン空爆作戦では同国のイスラエル向け報復攻撃能力を無力化するのが狙いであるのは疑う余地はない。ここでもミサイル関連施設の多くが地下に構築されており、イスラエル側には対応が必要な施設が多数ある。イランの弾道ミサイルが地下施設にあり、これを現有のバンカーバスターで攻撃するのがイスラエルの作戦となる。

 

地下施設へのアクセスを止めるべく入口をふさぐ攻撃もイスラエル空軍の課題となる。これに成功すればイランは施設機能の再開に多大な労力と時間を投入せざるを得なくなる。

 

地下深くに構築された施設への攻撃として、特殊部隊で弾道ミサイル基地を襲撃する作戦も大規模空爆と並行して実施されるはずだ。施設を汚染して使えなくする作戦もあり得る。イスラエルは暗殺工作や妨害工作を広く展開していると見られており、サイバー攻撃もその手段で、米国も支援することがあり、イランの核開発の野望を食い止めようとしてきた。イスラエルがイラン核兵器開発の阻止に直接軍事行動を取れば、こうした作戦も大規模に展開されるはずだ。

 

いずれにせよ、現時点でイスラエルは何らかの軍事行動による抑止効果をイランに示す選択肢を真剣に検討しているようだ。その結果として空爆にかわりに間接的に目的を達成するその他作戦もあり得、イラン政権の重要人物を狙うかもしれない。

 

イスラエル軍には「イランによる作戦級行動への備え」を命じたと国防相ベニー・ガンツBenny Gantzが発言しており、「国際社会から政治外交、経済、軍事でイランへの圧力が続いており、核開発の幻想に歯止めをかけようとしている」と評した。

 

「絶えず米国と連携していきたいが、結局わが国の運命は自分で責任を持たざるを得ず、自国市民の安全を確保するのも自国の責任範囲だ」とイスラエル国防軍エイアル・ザミール少将Maj. Gen. Eyal Zamirが語っている。同少将はIDF参謀総長就任の予定だ。「とはいえ、米国と調整なしにこれだけ大規模の作戦を実行するのは難しい」

 

その中で米政府関係者は引き続きイランとの交渉への悲観的見解を大っぴらに述べており、核開発をめぐり新たな合意が生まれる余地が少ないことがわかる。ドナルド・トランプ大統領が2018年に多国間合意から米国を脱退させてから、イラン政府は合意の主要分野で違反を重ねている。なかでもウラン濃縮を強化し核兵器の実現に近づいていることがイスラエルはじめ各国の憂慮の的だ。ただし米情報機関の見解ではイラン政府が核兵器製造の決定を下した兆候はない。

 

米イ両国では「プランB」の選択肢を検討中といわれ、新たな経済制裁、サイバー攻撃、あるいは間接軍事行動を中東のイラン代理勢力に展開することがあるという。これはイランとの交渉がつぶれた際の選択肢だ。

 

KC-46Aがないまま、あるいはその他戦力がないままでイスラエル軍が単独でイランへの攻撃を開始するのか、イスラエル政府が自国権益の保護で必要と判断したら行動を実施に移すのかはまだわからない。■

 

Israel's Request To Speed Delivery Of KC-46 Tankers Critical For Striking Iran Denied

The KC-46As would go a long way to bolstering Israel's already small and dwindling tanker fleet.

BY JOSEPH TREVITHICK DECEMBER 14, 2021


2021年12月18日土曜日

(再掲載)1956年のSAC核攻撃作戦案はソ連の完全破壊を狙い、2000か所に原水爆を投下し、民間人死傷者も発生もいとわない構想だった。

 

 

 

タンリー・クーブリック監督の冷戦時作品「博士の異常な愛情」で、大規模核攻撃が進行中と知りマーキン・マフリー大統領が逆上し、あわててこれを止めようとするシーンがあった。ピーター・セラーズ演じるマフリー大統領は米空軍将官が独断で爆撃機編隊をソ連に送り核攻撃すると知り、どう対処すべきか決断を迫られた。

 

「貴殿が口にしているのは大量虐殺であり、戦争ではない」と大統領はタージドソン将軍(演ジョージ・C・スコット)に話す。同将軍がこれから始まる攻撃が効果を上げると述べたためだ。タージドソンは「大統領、こちらはぐちゃぐちゃにならナイトや申しておりません」と答えた。

 

核の全面戦争の危機が高まっていた1964年に封切られた同作でクーブリックは現実と虚構が実際にどこまで似通っていたかを知る由もなかった。その8年前に米空軍はソ連、中国その他同盟国を完全に破壊する作戦構想をまとめていた。

 

ジョージ・ワシントン大の国家安全保障アーカイブはその文書を機密解除文書公開制度を使い入手し、2015年12月12日にオンライン公開した。

 

空軍文書には1956年原子兵器要求研究との退屈な題名がついており、第三次世界大戦で標的となる対象を網羅し、原爆等の必要数量を列挙している。全800ページにわたり、情報解析からソ連等の2,000か所超が投下地点に指定され、軍事基地にあわせ都市が含まれていた。

 

「SACによる検討は背筋が寒くなるほど詳細にわたっていた」と安全保障アーカイブの核研究者ウィリアム・バーが解説している。「文書作成者は優先攻撃対象や核爆撃戦術で付近の一般市民のみならず『友軍部隊や国民』も高レベル放射能降下物にさらされるとある」

 

1956年には米国による核の独占状態はもはや存在しないものの、米国は核軍拡レースで優位に立っていた。ソ連はその7年前に初の原爆実験に成功していたが、ペンタゴンはさらに強力な熱核兵器(水爆)の配備を開始していた。

 

当時は長距離弾道ミサイルは開発段階で、空軍は大型爆撃機と戦闘機を実戦に投入する構想だった。重力落下型爆弾あるいは初期の巡航ミサイルとして欠陥の多かったスナークを発射するとしていた。

 

1945年に登場した初の実用原子爆弾にはリトルボーイのニックネームがつき、広島市上空で爆発し、TNT換算15千トンの出力だった。マーク36水爆はその250倍の威力となり、巨大なB-52に各17千ポンドの同爆弾二発を搭載した。

 

検討内容では小型のB-47爆撃機編隊とF-101戦闘機編隊に小型原爆水爆を搭載して攻撃するとあった。空軍は合計2千機と同数の巡航ミサイルを動員する構想だった。また、欧州とトルコに配備の中距離弾道ミサイル180発も投入するとしていた。

 

ソ連はTu-16爆撃機等の航空戦力で反撃する,あるいは後続の米軍機を撃破する動きに出れば、米空軍はソ連圏内の航空基地全部を排除することに中心を切り替えることになっていた。その後、米軍機は二次標的を狙うことにしていた。

 

「ソ連圏空軍力と関係ない標的はシステマティックな破壊対象になる」と文書では説明している。

 

水爆は重要軍事標的用に温存する。その他標的には原爆を投下する。

 

一部標的には複数の爆弾を投下し、完全破壊を図るはずだった。「各軍司令官間で重要地点には重複攻撃を認める合意ができている」と同文書にある。

 

文書は分類別に5ページの要点を掲載し、ワルシャワ条約加盟の8か国の各種施設を示すカントリーコードをつけ、中国、北朝鮮、北ベトナムさらに帝政復帰前のイランには三桁コードが見られる。

 

個別標的には8桁コードがつき、爆撃百科事典の様相があった。まず最初の4桁が大まかな場所を示し、残る四桁で個別施設を表示した。

 

この方式だと最高9,999箇所の標的に対応できる。

 

作成者はあきらかに戦闘行為に関係する全施設の攻撃を念頭にしており、切削工具工場、タイヤ工場から抗生物質ストレプトマイシンまで標的にしていた。中でも目を引くのはコード275で「一般住民」を意味していた。

 

「作成者はソ連ブロックの都市部産業基盤のシステマティックな破壊を立案し、とくに全都市の「住民」も攻撃対象にした」とバーは解説し、「意図的に民間市民を標的とするのは国際規範で当時も禁止されていた」

 

しかし、同時代の他の資料では、国防総省が戦争行為に関係するあらゆる人物を軍事目標とみなしていたことがよくわかる。現在は機密解除されている1952年の米海軍の化学・生物兵器に関するフィルムには、「敵軍とそれを直接支援する人々の一部を無力化すること」が目標として明記されている。同様の考えで、米陸軍は放射線戦争を研究し、強力なダーティーボムを製造した。

 

ペンタゴンと空軍がこの結論に自然にったわけではない。ワシントンは、広島や長崎の破壊よりもはるかに致命的な焼夷弾を何千発も使って、想像を絶する破壊を日本にもたらした。表向きは、日本軍を支える家内工業等の活動を止める作戦だった。

 

第二次世界大戦中、連合国はダム、農場、発電所、地雷など、軍民両用施設を爆破していた。ベトナム戦争では、空軍機が同様の目標を爆撃した他、除草剤多数を散布し、ゲリラの食料となる作物を故意に破壊した。とはいえ、空軍研究が想定した核戦争は、もっと悲惨なものになっていただろう。当時、モスクワだけでも400万人以上の住民がいた。

 

現実になっていれば、『博士の異常な愛情』での見積もりを数桁上回る犠牲者が容易にうまれていたはずだ。さらに、放射性降下物による永続的な影響も考慮に入れていない。放射性降下物は、さらに多くの人々を殺し、農作地や地下水を汚染し、居住不可能な地域を生んでいただろう。

 

空軍は必要な爆弾数を最小限にするため全力を尽くしたしたと述べているが、その数字は今も機密扱いである。報告書は、爆弾を地表近くで爆発させれば、放射性降下物が減ると示唆している。

 

「匿名の編者は科学者でなかったかもしれない」とバーは言う。「しかし、放射性物質を世界中にまき散らした1954年のキャッスルブラボー実験があったので、もっとよく理解すべきだった」

 

しかし、空軍はこのような心配への余裕はないと説明していた。「放射性降下物が友軍や国民に影響を与える可能性は考慮するが、航空戦の勝利が他のすべての考慮事項に優先する」と文書は堂々と書いている。「航空戦に勝てないと友好国への影響はもっと悲惨なものになる」。

 

この仮説を検証する必要がなかったのが救いだ。■

 

Inside America's 1956 Nuclear War Plan against the USSR | The National Interest

December 13, 2021  Topic: Cold War  Region: Global  Blog Brand: The Reboot  Tags: RussiaChinaMilitaryTechnologyCold WarB-1Nuclear Weapons

by Robert Beckhusen

 

Robert Beckhusen is Managing Editor of WarIsBoring.

This first appeared earlier and is being reposted due to reader interest.

Image: Reuters.


米海兵隊がAAVの洋上運用を停止中。水陸両用作戦のカギを握る装備品だけに心配なニュースが入ってきました

 海兵隊が揚陸作戦に頼りにするAAVが水上運用に耐えられないとして現在陸上運用に限定していると聞くと、日本も同型を58両導入しており大丈夫なのかと心配になりませんか。装備品としては長く使いすぎたとはいえ、どうしてそうなっているんでしょうか。USNI Newsの記事をまず見てましょう。


ノルウェーのブラティンダンで強襲水陸両用車(AAV)を使った実戦演習を欧州・アフリカ海兵回転部隊21.1(MRF-E)の海兵隊員たちが展開した。 March 16, 2021. US Marine Corps Photo

 

海兵隊は長年供用開始してい水陸両用強襲車両AAVsを緊急時除き、水上運用しないことにした。海兵隊が12月15日発表した。

 

 

 

この措置でAAVsは今後水面で利用できなくなる。1970年代に生まれた古参装備となったAAVは2020年の事故でカリフォーニア沿岸沖合の演習時に海兵隊員8名と海軍水兵1名の生命を奪い、その後調査が行われていた。

 

「海兵隊は、2020年夏以来ののAAVのトラブルに関する複数調査で得た提言を支持しており、提言の実施と持続により、AAVは水陸両用作戦において安全かつ有効な車両となる」との声明が海兵隊から出た。

 

「とはいえ、水陸両用車の現状を踏まえ、海兵隊総監は、AAVを定期的配備や軍事演習中の水中訓練に参加させないことを決定した。AAVは、危機対応に必要な場合にのみ水中活動に運用する。この決定は、水陸両用車整備の長期的な健全性と将来の能力実現のために下された。AAVは今後も陸上運用を続け、実際に任務の76%は陸上で行われている。必要性が生じた場合にこの決定を覆す能力を留保している」

 

海兵隊は1970年代からAAVを使用しており、世界中で広く採用されています。海兵隊は2010年に遠征戦闘車Expeditionary Fighting Vehicle開発を中止しており、水陸両用戦闘車Amphibious Combat Vehicle (ACV)の導入をめざしている。

 

ACVは水上運用で独自の制約を受けている。

「海兵隊は、現在の殺傷能力を継続しつつ、水陸両用戦闘車の配備に引き続き尽力する」と声明を発表している。

「ACVは、牽引機構で見つかった問題の解決に取り組むため、外洋での水上作戦を一時的に停止した。その問題は間もなく解決され、新年早々にACVが水上復帰するものと思われる」

 

海兵隊は9月上旬、牽引機構に問題が見つかり、ACVの水上運用を一時停止すると発表していた。

ACVでは、海兵隊員が実車を試し、改善点をフィードバックする初期運用試験・評価段階(IOT&E)を経て、昨年末に本格的な生産に入っている。

 

海兵隊員が試験中に経験した問題の例に、車両タイヤのパンクがありるが、海兵隊員はジャッキを使用できなかったため、この問題に迅速に対処できなかったといわれる。国防総省の兵器試験官トップは、この問題に対処するため、海兵隊にスペアタイヤ搭載を提案した。

 

海兵隊は、人員輸送車、回収車、指揮統制車、30ミリ砲搭載車の4種類のACVを購入する予定。ACVの製造元BAE Systems社は、海兵隊がIOT&Eで試験したACVの人員輸送車から始め、2月には最初の指揮統制用ACVを提供したと発表している。■

 

BREAKING: Marines Keeping AAVs Out of the Water Permanently - USNI News

By: Sam LaGrone

December 15, 2021 3:14 PM • Updated: December 15, 2021 4:50 PM

 

 

いまいちよくわからないのでNational Interest記事を見てみましょう

 

Image: Reuters

 

海兵隊総監はAAVsは水上運用で安全ではないと結論を出している。

海兵隊の報道発表によると、冷戦時代の水陸両用強襲戦闘車両は水上運用を停止し、陸上のみの活動に限定している。

 

昨年夏、カリフォルニア州沖で行われた定期訓練中にAAVが沈没し、9名が死亡した。原因調査のから沈没の主原因は、訓練不足、整備ミス、過労とされた。

 

海兵隊の水陸両用強襲車両は、海兵隊装備の中でも最も古く、半世紀近く使用されている。水上運航はしないものの引き続き陸上で活動する予定です。

 

水陸両用戦闘車(Amphibious Combat Vehicle 

米海兵隊は2018年にAAVの後継機として「水陸両用戦闘車」を選定した。ACVは旧型AAVと異なり4x4輪駆動を選択した。新型ACVはAAVに対し特に陸上でスピード増を提供するものの、水上移動は旧型AAVに近いスピードで批判を受けている。

 

50年近く活躍してきた水陸両用車(Amphibious Assault Vehicle)が、静かに引退の時を迎えていることは、驚くにはあたらない。またAAVの最近のトラブルを考えれば、早すぎるということはない。■

 

Why Amphibious Assault Vehicles are Banned from Swimming | The National Interest

by Caleb Larson 

December 17, 2021  Topic: U.S. Marines  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: U.S. Marine CorpsAmphibious Assault VehiclesSwimmingRetirementMilitary

Caleb Larson is a multimedia journalist and defense writer with the National Interest. A graduate of UCLA, he also holds a Master of Public Policy and lives in Berlin. He covers the intersection of conflict, security, and technology, focusing on American foreign policy, European security, and German society for both print and radio. Follow him on Twitter @calebmlarson