2022年1月7日金曜日

主張:北朝鮮ミサイル発射に過剰反応するべからず。以下6点の戦略方針で対応すべきだ。

  

North Korea Ballistic Missile Test. Image Credit: North Korean State Media.

 

鮮労働党中央委員会の第四回総会閉幕で18,400語におよぶ声明文が発表されたが、そこには同国による敵対政策、米韓同盟による敵対政策についての言及はいずれもなかった。

 

全体基調は国内問題に当てられ、経済、食料不足、COVID-19予防をイデオロギー面で行い、朝鮮人民が直面する困難な状況を乗り切るとしていた。安全保障及び外交政策関連では一文のみあった。「不安定さを増す朝鮮半島の軍事環境及び国際政治から国防整備には一寸の遅れも許されない」

 

1月5日に金正恩は軍事力整備計画を「力強く前に進め」るべく、日本海に弾道ミサイルを発射した。だが、これは金正恩のメッセージだったようだ。終戦宣言をめぐる動きへの反対意思表明だ。米韓同盟が国内問題に集中する北政権を放置することへの反対意思だ。金正恩は米国、中国、ROK、日本の戦略競合関係をかきまわそうとしているようだ。可能性が高いのは70年に及ぶ金一族による政権が新たな挑発を始めたことだ。制裁緩和の見返りに非核化交渉への復帰を持ち掛けるような譲歩を米国に信じこませようとするのかもしれない。いつもの脅迫外交だ。

 

政策決定層は金一族による政権での政治闘争戦略がこの脅迫外交に強く依存している点を心に刻むべきだ。緊張を著しく高め、脅威、挑発で政治経済面の効果を手に入れようとする。情報工作、影響力強化の戦略の一部に北朝鮮による挑発は米国韓国の北朝鮮政策が失敗しているとの批判に対応することがある。

 

ROK及び米国は報道、識者、一般大衆がともにこうした動きが北朝鮮の戦略の基本部分であることを理解し、同国が特定の目的のため挑発行為を働いている点を理解すべきだ。これは政策の失敗のためではない。逆に金正恩が引き続き政治闘争戦略を続けていることのあらわれだ。したがって対応では以下の枠組みを考慮すべきである。

 

1. 過剰反応しない。だが軍事演習の終了を推奨するような声に屈してはならない。金正恩の戦略に対しては孫子の助言を思い出すべきだ。「戦役での最大の重要点は敵戦略を攻撃することにある。次善の策として敵の同盟を崩すことがある」 国際社会、報道機関、ROK及び米国の一般大衆ならびにエリート層さらに北に暮らす住民に金正恩が何をしているのか伝えるべきだ。

 

 

2. 北朝鮮関連で緊張が増大、脅迫、挑発があっても絶対に引き下がってはならない。

 

3. 同盟間の対応を調整する。良き警官悪い犯人という構図が当てはまる場合がある。米韓両国の国内での政治批判は抑えるべきだ。批判勢力により政治行動に否定的な影響が及ばないようにすべきだ。

 

4. 北朝鮮の弱点をつく。金正恩への国内圧力をエリート層・軍部に作る。党、エリート、軍部に抵抗勢力を作る努力を続ける。ただし、各層は相互に絡み合っており連関する構造なのでこれは難題だ。

 

5. 力と決意を示せ。軍事力の誇示を恐れてはいけない。北のプロパガンダを誤解するべきでもない。北朝鮮がめざすのは米韓両軍の即応体制の低下であり、共同演習の縮小など北の要求を呑んではいけない。北は脅威を理由に演習の終了を望んでいるわけではない。目指すのは米韓同盟の弱体化であり、在韓米軍の撤収だ。

 

6.挑発の性質によっては決定的な対応の準備が必要だ。その際は外交、軍事、経済、情報なびに影響工作、サイバーなどを組み合わせ行使する。

 

北朝鮮問題への決定策はない。したがって、長期にわたる安全保障と半島の繁栄を図る解決策が必要だ。これにはROK/米国の政治闘争戦略が求められる。何よりも北朝鮮問題の解決に集中すべきだ。例として「半島分断は不合理」(1953年休戦合意時のパラグラフ60)がある。この問題の解決ならびに核問題の解決や人権蹂躙問題の解決さらに人道上の犯罪の解決をめざす。

 

この先の道には統合抑止戦略があり、広範な戦略競合の一部として域内に実現すべきだ。北朝鮮に関し「プランB」ではROK/米国の防衛力を組み合わせ、政治闘争、強硬な外交、制裁、サイバー戦、情報影響力活動を組み合わせ、目標となる非核化により「北朝鮮問題」の究極の解決をめざす。南北統一も一つの例だ。その際には北の非核化が実現するためには朝鮮問題が解決され、朝鮮合同共和国United Republic of Korea (UROK)の発足で初めて可能となると理解すべきだ。■

 

North Korea's Ballistic Missile Test: A 6 Step Strategy to Respond - 19FortyFive

HERMIT KINGDOM

ByDavid Maxwell

 

David Maxwell, a 1945 Contributing Editor, is a retired US Army Special Forces Colonel who has spent more than 20 years in Asia and specializes in North Korea and East Asia Security Affairs and irregular, unconventional, and political warfare. He is the editor of Small Wars Journal and a senior fellow at the Foundation for Defense of Democracies (FDD). FDD is a Washington, DC-based, nonpartisan research institute focusing on national security and foreign policy.

 


2022年1月6日木曜日

ご紹介する戦争映画5本は戦争の実相を描く埋もれた傑作だ。

映画 激戦地 より

 

 

を超えた疑問がある。国のため、大義のため戦う理由とは何だろうか。黄金期のハリウッドがこの疑問に真正面から答える作品を第二次大戦後に製作していた。

 

戦時中のハリウッドは戦勝を助ける作品を量産したが、戦後は戦争を真正面から取り上げる作品を制作した。

 

数百万人が大戦に従事し、各家庭で感じるところは大きい。映画館に復員軍人が集まった。映画館にはガタルカナル、バルジの戦い、大西洋でのUボート攻撃、ドイツ空爆の実体験を有する観客が自分の体験を映画で見たいと入場料を払った。戦時中の作品には満足できなかった。

 

現在は忘却されている作品5本を集めた。その背景は理解できる。白黒映画の粗い画像は『プライベートライアン』Saving Private Ryan (1998)や『1917 命をかけた伝令』1917(2019)のような近年の作品の比ではない。とはいえ、戦後製作の作品には生の体験を描く努力が垣間見られる。

 

公開当時はこうした内省的作品は「反戦」映画のレッテルを張られた。だが実は違う。参戦した兵士の観点で戦闘を描こうとしてまずい結果を生むこともあった。

 

こうした作品を男っぽさを野蛮に描いていると一蹴する傾向がポストモダン派にあり、現代の愛国作品と呼べるアメリカン・スナイパーAmerican Sniper (2015)も忌避する狂信者もいるが、的外れな評価といわざるを得ない。こうした作品が描こうとしたのは国のため危険な任務につく勇気を持った普通のアメリカ国民である。

 

批評はやめよう。以下埋もれた名作を列挙する。

 

1) 『激戦地』A Walk in the Sun (1945): 

大戦末期の製作で原作は1943年に出版された。ここにあげたのは戦時中のハリウッド調の特徴と戦後製作の振り返り作品のつなぎとなったためだ。

 

小隊長、軍曹を共に失った隊が敵地で強力な敵陣地となった農家を奪う任務を進める。本作品には英雄もメッセージもない。GIたちの優柔不断さ、先が見通せない不安、前線での退屈さ、恐怖を淡々と描いている。「1940年代の第二次大戦作品でもっとも過小評価された作品」と評した映画評論家がいる。

 

2) 『攻撃』 Attack (1956): 「もっとも偉大な世代」の中には愛国者や英雄の一方で臆病者や無能なものもいた。本作品は「戦争をシニカルで暗いものと描いている」といわれ、第二次大戦を十字軍の再来と捉えていた時代には製作されない作品だった。大戦末期に臆病でいながら経験の足りない大尉が戦闘で鍛えられた小隊長と衝突する。公開当時は戦場でのリーダーシップについて画期的な研究材料ととらえられ、同じテーマは『突撃』Paths of Glory (1957)で第一次大戦の塹壕戦で取り上げられた。

 

3) 『深く静かに潜航せよ』 Run Silent, Run Deep (1958): 

海軍戦では潜水艦以上に悲惨な場面はない。生存と死亡の中間は皆無に近いからだ。『潜航決戦隊』 Crash Dive (1943)が第二次大戦の潜水艦戦では初期の作品で、愛国的音楽もあり、いかにも戦時中の作品となっている。『深く静かに潜航せよ』は対極で戦闘のプレッシャーと合わせ深海のプレッシャーが艦長、乗組員に立ちふさがっている。

 

4) 『突撃隊 Hell is For Heroes (1962)

真冬に、孤立し人手不足の疲弊したアメリカ軍部隊が、ドイツ軍の激しい反撃にさらされながらも戦線の維持を迫られる。第二次世界大戦中の映画『ガダルカナル日記』(1943年)では、テックス、ブルックリン出身のタクシー運転手ポッツィ、ニューメキシコ出身のアルベルスなど、民族的地理的に多様な「オールアメリカン」部隊が登場する。しかし、本作品では、アンチヒーローや変わり者など、アメリカ軍で実際に従事した兵士たちを登場させ、この図式を覆した。

 

5) 『戦う翼 The War Lover (1962): 

本作は英国で撮影されており、ハリウッド作品ではないが米軍の爆撃機乗員が主役で、「良い戦争」神話を否定する戦後の戦争映画らしさを残している。航空戦の悲惨な体験を多くのアメリカ国民は『メンフィス・ベル』(1944年)のような戦時中ドキュメンタリー作品を通じ知っていた。戦後は、戦火の中を飛行する男たちの心理的葛藤を明らかにする作品が生まれた。

 

中でも印象に残るのは、高評価を受けた『頭上の敵機』(1949年)である。これに対し『戦う翼』は、一途な爆撃機パイロットの視点でヒーローとサイコパスの間を行き来しながら、戦争を取り上げている。■

You Need to Watch These 5 Top War Movies | The National Interest

 

January 3, 2022  Topic: Entertainment  Region: Global  Blog Brand: The Reboot  Tags: WarWar MoviesFilmCinemaHollywood

You Need to Watch These 5 Top War Movies

by James Jay Carafano

James Jay Carafano is Vice President for Foreign and Defense Policy at the Heritage Foundation.

This piece first appeared earlier and is being reprinted due to reader interest.

Image: Flickr


スティーブ・マックイーン作品が二本も入ってますね。ホットリンクでYouTubeで予告編や本編が見られるのでのぞいてみてはいかがでしょうか。

 

2022年1月5日水曜日

(再出)F-15Jの近代化改修事業にGO。ボーイングが契約交付受け、2028年までに約100機をセントルイスで改修する。F-3登場までのつなぎか。

 


 

 

Photo by Curt Beach

 

ーイングは米空軍ライフサイクルマネジメントセンターより471.3百万ドル相当の契約を交付され、「日本向けスーパーインターセプター」の実現を始める。

 

 

 

2021年12月30日付国防総省の契約公示に、「日本向けスーパーインターセプター」(JSI)仕様改修契約の記載があり、航空自衛隊保有のF-15MJ約100機改修に必要な設計業務、開発業務を進め、あわせてウェポンシステムズ練習装備4機の開発、試験、納入を図る」とある。本事業はミズーリ州セントルイスで有償海外援助のみで実施し、2028年12月31日を期限とする。

 

 

 

 

2020年11月、日本が現有機材のコックピットを一新し高性能ミッションコンピュータ、レーダー、電子戦装備を更新し、さらに国内調達でデータリンクを米製データ共有装備と互換性を持たせた形で導入するとの記事がForbesに出ていた。

 

ただし、詳しい筋によればF-15Jの機体構造に大きく手を加えず、エンジン換装もなく、フライバイワイヤも搭載されない。航続距離を延長することはなく、EXなど高性能版イーグルなみのペイロード増加も行わない。

 

Boeing nabs $471M for Japanese Super Interceptor program

NEWS

AVIATION

ByDaisuke Sato

Jan 3, 2022

 

About this Author

Daisuke Sato

Daisuke Sato is defense reporter, covering the Asia-Pacific defense industrial base, defense markets and all related issues.


ROKAF所属のF-35Aが緊急事態で胴体着陸を迫られた。

 

 

 

朝鮮空軍のF-35が緊急「胴体着陸」に迫られる事態が1月4日に発生したが、パイロットは無傷で脱出した。

 

南朝鮮空軍は「エイビオニクス問題」により着陸装置の誤動作で、パイロットは着陸装置を格納したまま着陸を迫られたと説明している。

 

着陸前に消防隊が滑走路に消火用泡を散布したため、機体に大きな損傷が生じなかったと同空軍関係者は説明している。ただ、機体損傷の詳細な情報は開示されていない。

 

緊急着陸は現地時間午後1時ごろオサン航空基地から70キロ離れたソサン航空基地で発生した。F-35の各国向け販売の開始後で胴体着陸はこれが初めてだ。

 

南朝鮮関係者は緊急着陸の原因調査終了までF-35全機(30機)の飛行を停止中と述べた。同盟国等でF-35のインシデントが発生しており、航空自衛隊では緊急着陸少なくとも7回が発生と日経が伝えている。また、2019年4月に夜間飛行中に一機が海面に墜落し、航空自衛隊パイロット一名が死亡した。

 

最近では英国のF-35Bが空母発艦直後に地中海に墜落する事故が2021年11月発生している。

 

米空軍でも同機関連の問題に直面している。2020年5月にはエグリン空軍基地(フロリダ州)で一機墜落した他、速力超過、飛行制御ロジックで問題、ヘルメット搭載ディスプレイ、酸素供給システム、シミュレーター訓練の不十分さがこれまで指摘されている。また、F-35Aの着陸装置が折れる事故がヒル空軍基地(ユタ州)で発生している。

 

インド太平洋では南朝鮮、日本のほか、オーストリリアもF-35Aを運用しており、シンガポールは2026年から機体を受領する予定だ。■


South Korean F-35 Conducts Emergency 'Belly Landing' - Air Force Magazine

SHARE ARTICLE

Jan. 4, 2022 | By Greg Hadley






2022年1月4日火曜日

F-15Jの近代化改修事業にGO。ボーイングが契約交付受け、2028年までに約100機をセントルイスで改修する。F-3登場までのつなぎか。


 

 

Photo by Curt Beach

 

ーイングは米空軍ライフサイクルマネジメントセンターより471.3百万ドル相当の契約を交付され、「日本向けスーパーインターセプター」の実現を始める。

 

 

 

2021年12月30日付国防総省の契約公示に、「日本向けスーパーインターセプター」(JSI)仕様改修契約の記載があり、航空自衛隊保有のF-15MJ約100機改修に必要な設計業務、開発業務を進め、あわせてウェポンシステムズ練習装備4機の開発、試験、納入を図る」とある。本事業はミズーリ州セントルイスで有償海外援助のみで実施し、2028年12月31日を期限とする。

 

 

 

 

2020年11月、日本が現有機材のコックピットを一新し高性能ミッションコンピュータ、レーダー、電子戦装備を更新し、さらに国内調達でデータリンクを米製データ共有装備と互換性を持たせた形で導入するとの記事がForbesに出ていた。

 

ただし、詳しい筋によればF-15Jの機体構造に大きく手を加えず、エンジン換装もなく、フライバイワイヤも搭載されない。航続距離を延長することはなく、EXなど高性能版イーグルなみのペイロード増加も行わない。

 

Boeing nabs $471M for Japanese Super Interceptor program

NEWS

AVIATION

ByDaisuke Sato

Jan 3, 2022

 

About this Author

Daisuke Sato

Daisuke Sato is defense reporter, covering the Asia-Pacific defense industrial base, defense markets and all related issues.

 

 


2022年1月3日月曜日

冷戦時代の遺物Tu-160ブラックジャックの本当の戦力は? 時代に取り残されつつある巨大機をロシアが今後も維持できるのか注目

  

Russian Tu-160 Bomber. Image Credit: Creative Commons.

 

衛アナリストが苦労するのは敵側の装備品の能力と限界の把握だ。推測や仮定を相手国の装備品に当てはめるのはさして難しくないのだが、相手国装備品が秘密のベールに覆われていたり、宣伝工作が強いと性能や効果を実際以上に評価しがちだ。

ロシア軍事産業専門誌にTu-160「ブラックジャック」戦略核爆撃機に関し興味深い記事が出た。ロシア流の視点で戦略核抑止航空兵力が直面する課題をまとめている。

著者はアンドレ・ゴルバチェフスキAndrey Gorbachevskiyで記事への批判にこたえ続編も発表している。レーダー専門家で1980年代から防空技術開発に携わっている。

今回の記事からロシアの核抑止力の優先順位について異論があるのがわかり、かつロシアから見て北米の防空体制がどう映っているかもわかる。

Tu-160 ブラックジャックは絶滅を待つ恐竜なのか

ツボレフTu-160(NATOコードネーム「ブラックジャック」は大型可変翼爆撃機でマッハ2飛行が可能で亜音速巡航で長距離飛行が可能だ。ブラックジャックが供用開始したのは冷戦末期で、ロシアは同型機の生産再開に巨額予算を投じ、現在16機ないし17機が飛行可能となっている。

Tu-160の主任務は長距離核巡航ミサイルを発射し米国内の重要標的を攻撃することで、ロシアの地上配備核兵力が敵の先制攻撃で破壊された場合に世界規模での「第二波攻撃」を実施することにある。さらにTu-160には米海軍空母打撃群撃破の任務もある。

ゴルバチェフスキの記事は21億ドル相当を投じ近代化改修したTu-160M2爆撃機を10機追加生産するとのロシア政府発表を受け出たものだ。これは常軌を逸しているとし、特に供用期間を通じ高運用コストを指摘している。

レーダー断面積が10から15平方メートルに及ぶことから「電子戦装備があるといってもTu-160のように大きな存在を隠せない」と言い切っている。

Tu-160M2は新鋭電子戦装備を搭載しているが、ゴルバチェフスキは今日のアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーに対抗するには搭載する1980年代製バイカル・ジャマーの出力は10倍以上に強化する必要があると試算している。そのためには機内発電容量を増やし、当然重量増に対応することになる。

ゴルバチェフスキはTu-160は小型の米B-1Bに劣ると主張し、ソ連時代の設計のTu-160は超音速ダッシュ飛行が可能だが、B-1BのRCSはずっと小さいと指摘。

Tu-160 Bomber. This file comes from http://vitalykuzmin.net

Tu-160. Image: Creative Commons.

 

「大部分の飛行を亜音速とする戦略爆撃機が高度10千メートルで飛ぶ場合、Tu-160が最高速度マッハ2.05を使うのは全行程の1%未満だろう。最高速度モードを使うのは敵戦闘機の追尾を振り切るときだけのはずだ」

北極越え攻撃も楽ではない

ではロシアはTu-160の核攻撃ミッションをどんな想定なのか。ゴルバチェフスキは大西洋上空を西方へ向かうのは非実用的とする。NATOの監視体制や米沿岸をカバーするレーダー網のためだ。太平洋方面に飛ばせば、運用基地の選択の幅が狭いが、同時に出発地点近くに米軍基地が多数ある。

ヨーロッパでの通常兵器爆撃ミッションはどうか。これも実行不能とゴルバチェフスキは見る。「NATOレーダー網と迎撃戦闘機が充実しておりTu-160で侵入可能となるのは自軍戦闘機多数が援護する場合に限られ、かつ長距離防空体制が未整備の地点に限られる」

そうなると最も成功の可能性が高いのは北極圏越えルートだ。ただし、アラスカからカナダへ2,300マイルの中距離レーダー網がある。ゴルバチェフスキ記事ではDEWライン(遠距離早期警戒の意味)とあるが現在はNWS(北方警戒しシステム)に改称されている。

北方警戒システム

 

NWSを構成するのは強力なAN/FPS-117フェイズドアレイレーダー15か所(有効範囲287マイル、高度100千フィート)で、その他AN/FPS-124レーダー(39か所、70マイル、49千フィート)がAN/FPS-117の隙間を補完している。

ゴルバチェフスキはこう述べている。「Tu-160でこの警戒網を探知されずに突破するのは高高度でも低高度でも不可能だ。DEWラインのレーダー数か所を破壊しその隙間から侵入しても、防衛側は迎撃戦闘機を即座に発進させる。同様に電子戦装備で各レーダーを制圧しても同じだ。そのため、Tu-160は巡航ミサイルをDEWライン手前100から400マイルで発射して、探知されずに基地に戻るだろう」

ワシントンDCはNWSから4,000キロ離れている。Kh-102巡航ミサイルの有効射程5,000キロでTu-160の探知問題を回避できるのだろうか。

ゴルバチェフスキはそううまくいかないとする。たしかにKh-102超低空巡航ミサイルのレーダー断面積は1平方メートルにすぎず、20-40キロに接近して初めて探知可能となる。だがこれだけでは十分ではない。

「地形を利用して巡航ミサイルがDEWラインをすり抜けたとしよう。ミサイル一本二本程度でもAWACS機が離陸し、戦闘機を誘導すれば残りのミサイルも見つかってしまう。さらに巡航ミサイルには中央、南方にも早期警戒レーダー網が待ち構える」

E-3セントリーAWACSは低空飛行する巡航ミサイルの探知も100キロ離れていても可能だとゴルバチェフスキは指摘する。

さらにE-3が誘導する米防空機材にはF-16C/Dがあろ。APG-83SABRレーダーを搭載し巡航ミサイル探知能力を強化している。またF-15C/F-15EXにはさらに強力なAPG-63(V)3 AESAレーダーがつき、400キロ先で爆撃機を探知できる。ゴルバチェフスキはカナダ北方の防衛にはF-15C二機編隊5あれば十分」とみている。

そこでゴルバチェフスキは「米国領土に接近すれば、さらにAWACSが離陸し、北方防空ラインを突破した巡航ミサイルも迎撃される。このため標的に到達するミサイルは数本に減る。ということで巡航ミサイルによる核攻撃には期待できない。多数が目標到達できず撃破されるだろう」

そこでICBMがロシアの核攻撃手段として優れている。米国のミサイル防衛能力は限定的で5ないし6発の迎撃しかできないとゴルバチェフスキは試算している。

とはいえ、米国筋は巡航ミサイルをここまでうまく迎撃できるか自信が持てない。米空軍はステルス性能が劣るB-52でAGM-86B核搭載巡航ミサイルを運用し、射程が「わずか」2,400キロしかなくても十分と自信を示しており、スタンドオフ攻撃は有効に実施できると見ている点を指摘しておこう。しかもロシアの防空体制に対空ミサイル多数と超高速MiG-31迎撃機が展開する中での話だ。

地理条件と性能が自信の裏付けだ。まずNWSレーダーがアラスカからカナダに広がり、米本土攻撃にバッファーとなっている。ロシア爆撃機は春か遠方で攻撃兵器発射を迫られる。さらに米空軍は航空優勢の確保は可能で、非ステルス爆撃機の攻撃は排除できると考えている。さらに米国も核搭載ステルス巡航ミサイルLRSOを開発中でロシア防空体制突破を狙っている。

米空母を狙えるか

Tu-160の二次的任務にKh-15対艦弾道ミサイル(射程187マイル、マッハ5)を最大24発搭載し長距離洋上攻撃がある。だが、ゴルバチェフスキはKh-15でなく、低速低空対艦巡航ミサイルの使用を想定している。

ここでもTu-160では米空母任務群の攻撃が成功する可能性は高くないと見ている。防空体制が多層構造になっており、スーパーホーネット戦闘機、E-2Dホークアイ早期警戒機さらに護衛に当たるアーレイ・バーク級駆逐艦が対空ミサイルを発射し、強力なレーダーで接近を拒むためだ。

ホークアイを前方に配備すれば、Tu-160は500マイル先で探知されるとゴルバチェフスキは試算し、一方でTu-160が空母を探知可能となるのは250マイル地点でこれはスーパーホーネット戦闘機の戦闘航空哨戒半径(CAP)内に入る。

CAPがない場合でも護衛艦艇の電子攻撃のためTu-160はもっと前進しないと標的のロックができず、空母がミサイルシーカーの「キルボックス」外へ出てしまう可能性もある。

ゴルバチェフスキは改修してもTu-160M2の生存性は大きく変わっておらず、ステルス性能を大きく変えておらず、エンジン空気取り入れ口にも手を加えておらず、レーダー波吸収剤を施してもレーダー断面積は大きく減っていないと見る。

さらにその後出た反論記事でゴルバチェフスキはロシアはステルス爆撃機(PAK-DA)を開発する、あるいは既存戦略爆撃機の廃止を主張している。新造のTu-160については「第三次世界大戦に参戦可能な機体は平時や局地戦で有効な機体と異なるはずだ」と述べている。■

Russia's Tu-160 Bomber: Can It Strike America or Sink an Aircraft Carrier? - 19FortyFive

BySebastian RoblinPublished2 days ago

WRITTEN BYSebastian Roblin

Sébastien Roblin writes on the technical, historical, and political aspects of international security and conflict for publications including the 19FortyFive, The National Interest, NBC News, Forbes.com, and War is Boring. He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China.