2018年1月26日金曜日

★F-16はまだまだ需要あり、生産ライン閉鎖は先送り

Lockheed keeps F-16 production line going with Bahrain deal

バーレイン向け販売成約でF-16生産ラインの維持が決まった


An F-16 Fighting Falcon prepares to receive fuel from a KC-135 Stratotanker over Afghanistan Nov. 19. (Staff Sgt. Sean Martin/Air Force)

By: Chirine Mouchantaf    
ーレインが中東で初めてロッキードF-16ブロック70機材を運用する。これでファルコン生産ラインは勢いがついた。
昨年、マイク・ペンス副大統領から同国向けF-16合計16機23億ドル販売がまとまったと発表があり「米国内雇用と安全保障双方で大きな貢献」としていた。「バーレイン王国と米国政府はF-16ブロック70販売で合意ができた」とロッキード・マーティンエアロノーティクスの国際営業開発担当副社長リック・グローシュRick Groeschが述べていた。
ファイティングファルコン最新型のF-16ブロック70は以前のブロック50/52に比べAN-APG-83アクティブ電子スキャンアレイレーダーの搭載が目新しい。エイビオニクス構成や機体構造も改修され機体寿命は50%伸びた。
機体販売総数は19機原案から節約で16機になったが、今回の販売で「F-16生産ライン縮小を回避できる」と軍事筋が見ている。
同筋によればバーレイン向け販売で「ロッキードの生産ラインはあと3年から5年維持できる」「ウィンウィンになる。バーレインはF-16が必要だし、F-16にはバーレインが必要だ」
グローシュは今後のF-16拡販の可能性について「中欧、地中海、東南アジア、南アジア全部で200機の可能性があると見ている」と述べている。
昨年6月にロッキードとTata Advanced Systems Limited (TASL) がF-16ブロック70のインド国内生産をで合意した。これもF-16生産ラインの維持すにつながる。
バーレインが中東初のF-16運用国となる。バーレイン軍関係者は今回の決定でユーロファイター・タイフーン調達は断念すると明らかにした。タイフーンが有力と見られていた。「王立バーレイン空軍はタイフーンを運用しない。新型F-16が16機新規調達され、ブロック40のF-16も20機をV型に改装するので空軍は機種はこれ以上不要だ」
サウジアラビア、オマーン、クウェートがエアバスBAEシステムズレオナルドの共同事業体によるユーロファイター・タイフーンを運用中だ。
ユーロファイター広報は受注状況からタイフーンは2024年までに納入を完了すると述べている。「当社は引き続き世界各地で新規受注を目指しタイフーンの販売数はまだ伸びるとみています」
軍事専門家ナジ・マレーブNaji Malaebは他の湾岸諸国に比べバーレインの軍事支出が少ない点を指摘する。ただし今回の購入で「バーレインもイランの地域内介入に対応する各国に加わる姿勢を示した」と評している。
ストックホルム国際平和研究所は昨年2月発表の研究報告でアラブ諸国並びにバーレイン除く湾岸諸国の軍事装備輸入が2007年から2016年にかけ一貫して伸びたと指摘。イランとの関係がぎくしゃくするバーレインだけ輸入額が119パーセント減っていた。

「バーレインが16機のファルコン戦闘機を発注したのは空軍力増強に賭ける同国の狙いの一環だ」とマレーブは指摘している。■
まだまだF-16はじめ第四世代戦闘機は使い勝手の良い、よい買い物になるのですね。

2018年1月25日木曜日

インドネシア空軍向け戦闘機調達の最新動向

ロシア製機材が米国製機材と混じるのはインドネシア、マレーシアに共通ですが、運用上は大変でしょうね。しかし、ロシアへの購入条件提示を見ているとこういう国とは商売したくなるなるのでは。経済急成長中と言われるインドネシアですが国家財政は貧弱なのですね。


Aerospace Daily & Defense ReportIndonesia Shopping For Western Fighters

 インドネシアが西側戦闘機導入を検討中


Typhoon: Eurofighter


Jan 23, 2018 Marhalim Abas | Aerospace Daily & Defense Report


ンドネシアが西側メーカー数社と戦闘機調達を商談中で、候補はユーロファイター・タイフーンとロッキード・マーティンF-16Vが有望だと同国業界筋二名から判明した。
 Saabグリペンとダッソー・ラファールも候補で両社はジャカルタに事務所を置く。調達規模は不明だが、インドネシア空軍の戦闘機飛行隊定数の16機の倍数となるのは確実だ。
 内部筋の一人目は商談は昨年に始まり、タイフーンが有力とみている。
 空軍がF-16を推すのは同型機を運用中のためと別の内部筋が語る。両名とも軍部とのつながりが強い。
 ロッキード・マーティンはF-16Vにプラット&ホイットニーF100-PW-229エンジンを搭載し提案中だという。インドネシア空軍は同エンジンを搭載した32機を運用中だ。ロッキード案で訓練費用、補給費用が下がりそうだ。
 ロッキード・マーティンのインドネシア政府・空軍向けプレゼンでは現行の新規生産F-16C/D23機、およびF-16A/B9機をV規格にアップグレードし、レーダーやエイビオニクスを新型に換装するとある。
 ミサイル、爆弾、照準ポッドなど購入済み装備はそのまま使えるので調達コストが節約できると同社はインドネシア側に訴える。
 インドネシア空軍は2024年までに戦闘機180機体制をめざしていたが目標達成は険しい。現在は48機供用中で、スホイSu-35を11機発注中。
 西側戦闘機を発注してもSu-35発注に影響はないと見られる。ロシアとは契約書調印一歩手前にある。
 同国は米国製武器の禁輸措置を20年前に受けた経緯があり、Su-35調達は利点があり、非西側の供給を受けるほうが良いとの主張もある。
 Su-35選定は2015年のことでF-5Eタイガーの後継機としてであるが、その後も西側メーカー数社がインドネシアに戦闘機売り込みを図ってきた。
 2017年7月にインドネシアはSu-35導入を総額11.4億ドルと発表している。うち、5.7億ドルはロシア向け各種輸出で清算し、残る35%を相殺支払いするとしていたが、いまだ契約書が発効していない。

 F-16以外に空軍には旧型フランカーSu-27とSu-30がある。1月18日にF-16C/D改修型の最終号機が現地到着した。F-5Eは用途廃止済みだ。■

米軍は北朝鮮には戦術核兵器投入で対処するのか

US stealth bombers in Guam appear to be readying for a tactical nuclear strike on North Korea

グアム配備のステルス爆撃機は北朝鮮の戦術核攻撃に備えている

B 2
A US Air Force B-2 Spirit takes off at Andersen Air Force Base, in Guam, in August 2016.U.S. Air Force/Tech Sgt Richard P. Ebensberger
  • 金正恩抹殺に最適な戦術核兵器を投下できる爆撃機が配備されている
  • 迅速な戦術核攻撃なら被害最小限で北朝鮮の核戦力を無効化できるとの主張がある
  • トランプ大統領が北朝鮮攻撃を検討中と言われるが戦術核攻撃は悲惨な結果に終わるとの見方が専門家政界にある


 米国が太平洋で戦力を静かに増強中だ。配備中の装備から見て戦術核攻撃を実施する可能性がある。
 B-2ステルス爆撃機がグアムに派遣されB-1、B-52部隊に合流している。B-2、B-52は米軍の核三本柱の一角で空中発射核弾道付き巡航ミサイルや小型核兵器を運用可能で特に後者が改修を受けており、北朝鮮攻撃に投入されそうだ。

改修された戦術核で状況は一変するのか

B 61 nuclear bombs on rack
B61自由落下爆弾を前面から見る。United States Department of Defense SSGT Phil Schmitten
 B-2でB61戦術核爆弾16発を搭載できる。最近の改修で命中精度を上げており、地下施設にも有効だが、最新型は未配備だ。
 金正恩が隠れそうな地下壕の破壊に有効なだけでなく威力が調整調整可能で放射性降下物の散布を抑えられる。
 米軍は北朝鮮攻撃用に核兵器多数を保有するが、中国やロシアと言った大国攻撃用の大型が中心だ。
 MIT国際安全保障研究所が近年の誘導方式と核兵器の改良により米国は北朝鮮国内の核施設すべ手を破壊しながら死亡者は100名程度に抑えられるとの論文が出た。これは核兵器を使用しなかった場合の想定死亡2百万ないし3百万と大きな対照となる。
 ただしジェイムズ・マーティン非拡散センターの主任研究員メリッサ・ハンハムMelissa Hanhamは論文に誤りがあるという。
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This is a terrible map.
 ハンハムは論文の前提がわずか五か所を北朝鮮核施設全体とすることを疑問視する。
 北朝鮮は核・非核攻撃を受ける前提で核施設を分散させている。その所在は秘密で、米情報機関も誤った地点で把握していたと元国務省関係者が証言している。
トランプは戦術核攻撃案に前向き?

 戦術核兵器だけで北朝鮮問題の泥沼が解決できないのは明白だが、トランプ政権は小型核兵器に大きく期待している。
政権発表の核戦力整備案では小型核兵器増産を推奨し、小型化で戦場投入が容易になる。
 B61はヨーロッパで広く配備されているが、大型爆撃機での運用は少ない。The Aviationistは昨年10月にカンザス州で民間人が携帯無線スキャナーでB-2、B-52倍ロットの交信を傍受したが内容は北朝鮮VIP攻撃想定だったと伝えている。
 またトランプが「血まみれ」攻撃を北朝鮮対象に検討中との報道も出ており、金正恩がミサイル発射あるいは核実験に踏み切れば限定攻撃を実施するということだ。
 ただし専門家や政界には核攻撃は不安定を生むだけで単純に正気の沙汰ではないとの見方が多い。ジョン・ガラメンディ下院議員(民、カリフォーニア)は軍事委員会で疑問を語っている。「北朝鮮は米国が一筋縄でいかない相手と見ている。米国が血まみれ攻撃を実施すれば北朝鮮がどんな反応をするかを考えておく必要がある。その後どうなるだろうか」■

Update: This article has been updated to reflect that the modified B-61 is not yet deployed.

ベルギー向けF-35売却を同国決定に先立って米国務省が承認

U.S. State Department clears potential (and likely) sale of F-35s to Belgium 米国務省がF-35のベルギー向け販売を承認

A Norwegian F-35 taxis in after landing on the runway June 29, 2017, at Luke Air Force Base, Ariz. (Airman 1st Class Alexander Cook/U.S. Air Force)

米国務省は1月19日にF-35のベルギー向け販売を事前承認し、同国が選定すれば同機売却が実現する。
販売案では総額65.3億ドルでロッキード・マーティンF-35A通常離着陸型34機とF135エンジン(プラットアンドホイットニー)38基を対象とする。
対象に電子戦装備、通信装備、ミッション訓練装置、ロッキードのALIS(自律型補給支援情報システム)、その他を含むと国防安全保障庁が述べている。
国務省が武器販売を対象国の決定以前に承認するのはまれだが、前例がないわけでもない。最近ではボーイングF/A-18E/Fスーパーホーネット18機のカナダ向け販売を9月に承認した事例がある。この場合は米加間の貿易問題で最終合意が成立していない。
F-35はベルギーでは有望な選択肢と見られている。ベルギーは現行のF-16部隊54機の代替機種を求め、F-35を正式選定すれば最終的な販売価格は交渉時提示価格と変わる可能性があると国防安全保障庁も認めている。
競合相手はフランス政府が強く推すダッソー・ラファール、ユーロファイター・タイフーンだった。
そこにボーイングが2017年早々にスーパーホーネットを持ち込み、スウェーデンのSaabもグリペンEを提案してきため競合が激しくなった。
ただし4月にボーイングが提案を退けたのはF-35が優遇され公正な競争ができないと判断したためだ。
さらに7月にはスウェーデン政府がベルギーの作戦支援要求内容に答えられないとしてSaab選定の芽をなくした。
Saab撤退を受けてF-35の採用は確実と述べたのは投資コンサルタント業キャピタルアルファパートナーズのバイロン・キャランByron Callanだ。
「F-16導入した四か国のうち、ベルギーだけが選定していなかった。デンマーク、オランダ、ノルウェイはすでにロッキード・マーティンF-35を選定済み」とニュースレターで伝えている。■

横並びではないですが、各国の運用規模を考えると機種統一で合理的な運用をした方が費用対効果や相互運用が楽になりますね。ただしこれはF-35が宣伝通りの実力を発揮した場合で、ソフトウェア開発などまだ全部解決したわけではありません。

2018年1月24日水曜日

ステルス性能さらに引き上げる画期的な技術をBAEシステムズが実証


New Drone Has No Moving Control Surfaces

制御面がまったくない新型無人機

BAE Systems' MAGMA could lead to much stealthier warplanes

BAEシステムズのMAGMAは高性能ステルス機の先駆けになるか

New Drone Has No Moving Control Surfaces
January 11, 2018 David Axe

BAEシステムズはマンチェスター大学と共同で無人実験機の初飛行に成功した。同機には可動式制御面が皆無だ。BAEシステムズが2017年12月発表した。
全幅12フィートのジェット推進無人機はMAGMAの名称でBAEが今後開発する高性能ステルス機につながる。制御面を廃止したことで機体のレーダー探知性が大幅に減る。
ラダー、エルロン他通常の制御面を廃したMAGMAは機体制御に二つの新技術を使う。一つが主翼への排気循環で「機体エンジンの排気を主翼後縁に吹きつけ操縦制御する」とBAEシステムズは説明。
もうひとつが流動推力偏向 fluidic thrust vectoring で「空気を吹き付け偏向させて飛行方向を変える」
「こうした試行は今後の機体につながる」とMAGMA開発をマンチェスター大学でまとめたビル・クロウザーがBAEシステムズの報道資料で述べている。「目指しているのは真の意味で画期的な機体」
初飛行したMAGMAは小型垂直フィン二枚で機体を安定させている。だがフィンでレーダー探知される可能性が大で、暫定的につけているだけだ。「今後の飛行実験で全く新しい飛行制御技術を試し究極の狙いはフィンもなく可動制御面が皆無の機体として飛行させること」とBAEシステムズは説明している。
MAGMAはBAEシステムズが目指す可動制御表面がまったくないUAVとしては二番目の機体だ。2010年に同社はクランフィールド大とデーモン小型無人機を製造している。これも排気を吹き付ける機体制御を目指した。MAGMAはこの流れをくむ次の機体だ。
航空宇宙業界では機体から可動式制御面の廃止が目標で、レーダー断面積RCS縮小に加え、制御面の重量、機構の複雑さ、製造コストを省く効果が期待される。
ボーイングの研究員ジョン・ケリーが可動式制御面がステルス機開発で障害だと発見したのは1975年だった。「制御面の廃止が低RCS設計の課題だ」とケリーが社内論文で書いていた。
ケリーは表面を滑らかにした機体と可動式制御面を有する機体を比較した。表面が滑らかな機体のRCSは0.1平方フィートだったが、可動式制御面付きの機体は5平方フィートだった。

現在のステルス軍用機であるB-2、F-22、F-35は低探知性モードで制御面を管理しレーダー反射を最小限に抑える。MAGMAでBAEシステムズは制御面が少ない、さらに全くない機体の実現を目指し、ステルス効果はさらに増える。■
MAGMA初飛行の様子

グアム島付近に海中センサーを設置した中国の狙いはもっと大きい戦略の一環であることを見逃してはならない

China Reveals It Has Two Underwater Listening Devices Within Range of Guam 

グアム近辺に水中聴音機二基を設置したと中国が明かす

The sensors are officially for scientific purposes, but they could just as easily monitor submarine movements and gather other intelligence. 

公式説明はが学術目的だが、潜水艦の動向他情報収集に転用できる



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 BY JOSEPH TREVITHICKJANUARY 23, 2018
国政府が水中センサー二基を米領グアム島と南シナ海の中間に設置したと発表。公式には学術用としながら海中聴音装置は同時に米国他の潜水艦の動向を監視するのにも使われそうで同時に通信傍受の可能性も出る。
 中国科学院から聴音センサー二基を設置したとの発表が2018年1月に出たが、実は2016年以来稼働中とサウスチャイナモーニングポストが伝えている。うち一基はマリアナ海溝の南端チャレンジャー海淵に設置され、もう一基はマイクロネシア連邦ヤップ島近くに設置された。ともに有効探知距離は620マイルとグアムや米軍のアプラハーバー基地をカバーする。
 サウスチャイナモーニングポスト記事では中国科学院の深海調査通信部門トップが「深度が大きければそれだけ静寂になり捉えたい信号に専念できる」と述べている。
 公式にはそうした信号とは海底地震、台風他自然現象や海中生物のものとされている。海中地震は津波を発生するためこうしたセンサー設置は早期警戒体制の強化という観点から大きな意味がある。
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The PRC gov. has placed powerful acoustic sensors in the Challenger Deep of the Mariana Trench, as well as near the island of Yap, ostensibly for scientific research, but more likely to spy on US sub.s & to intercept US underwater military signals to Guam.https://sc.mp/2DwTv4z
 同時に同じセンサーでは潜水艦の航行もとらえてしまう。グアム近辺と言う戦略的な位置関係から米海軍の潜水艦、水上艦の動向をとらえるのに最適で軍事面でも早期警戒や情報収集に有効に活用できる。
 グアム起点の潜水艦の動向を監視できれば大きな意味が生まれる。潜水艦は探知されないことで抑止力が生まれ、突然の攻撃を実施したり情報収集に効果を発揮する。
USN
ロサンジェルス級攻撃型潜水艦USSキーウェストがグアムに入港している。同艦は4か月の哨戒を追えたばかりだ。
 さらに中国の水中聴音装置は海中通信回線のやり取りを盗聴できるのではないか。サウスチャイナモーニングポスト記事ではグアム島周辺には水中マイクロフォンのネットワークがあるといわれ、潜水艦は潜航したまま米海軍司令部と連絡できる。
 盗聴も可能だろう。2008年に米海軍がレイセオンを選定しDeep Sirenと呼ぶシステム開発を始めた。これは小型ブイで衛星信号を音波に代えて潜航中の潜水艦で長距離通信ネットワークを利用可能としようとするものだ。
 こうした伝達方法で機微情報は当然暗号化されるはずだが、それでも中国側に大量の情報を提供することになる。大量のやり取りから標準行動のパターンが解明されるかもしれない。また有事の際に通信が脆弱にさらされるかもしれない。
 この発想は前からある。冷戦中に米国は広範な海中監視網を構築しソ連潜水艦の動向を監視した。これは音響監視システム(SOSUS)と呼ばれる。これ以外に水上艦のえい航式ソナーアレイや情報員の情報も併せて統合海中監視システム(IUSS)と呼ばれ、今日でも稼働中だ。
 中国が自前で同様の能力を整備したことが重要で、南シナ海の広大な海域で外国軍の動きにたがをはめようとしていることに注目すべきだ。国際仲裁裁判所で中国政府の主張が毎回斥けられても中国は事実上の占拠を続けており、人工島の上に軍事施設数か所を設置している。
DOD
南シナ海での中国他諸国の拠点を示す地図
 米国は同地域で航行の自由作戦FONOPSとして艦船航空機を送りこんでおり、国際水域での作戦行動は自由だと主張する。2018年1月にもアーレイ・バーク級駆逐艦USSホッパーがスカボロ礁近辺を通航し中国から自国領土を防衛するためいかなる手段でも取るとの警告が出たばかりだ。
 中国は南シナ海で統合防空沿岸防衛体制を整備中で接近阻止・領域拒否をめざすが、潜水艦の航行だけは手が打てなかった。
 一方で中国海軍(PLAN)の潜水艦部隊が近代化中とはいえ、水上艦部隊の進展と比べると精彩を欠いている。また運用も沿海部に比重を置き、長距離展開はまだ少ないのが現状だ
QIAO TIANFU/COLOR CHINA PHOTO/AP
中国の091型漢級原子力攻撃型潜水艦
 そこで中国は別の方法で外国潜水艦が同地域を自由に航行するのを制する手に出た。2017年2月に中国は海上通行安全規則の改正を発表し潜水艦は浮上航行するものとし国旗を表示して南シナ海での通航を求めるとした。中国は南シナ海を自国領海と見ており、同時に関係当局に航行の届け出を求めている。国際海洋法から見てこの措置の根拠には怪しいものがあり、中国官憲も新規則の実施の乗り出す兆候はない。
 新規設置の聴音装置で力のバランスが容易に変わってもおかしくない。実際に中国はその方向を目指しており、2016年に国有企業中国国家造船が「水中の万里の長城プロジェクト」を発表し南シナ海でのPLANを支援するとしていた。
 2017年5月には別の中国調査機関から南シナ海・東シナ海に水中センサー網を構築するとの発表が出た。後者では日本との領土問題がある。ここでも表向きは学術データ収集だが、当局も「国家防衛」能力も組み込んであると認めている。
CCTV
中国国営テレビが2017年5月に放映した際のスクリーンキャプチャーで南シナ海・東シナ海に設置する水中センサー試作機が写っている。


 全部実現すると相当の規模となり前出の調査網だけでも20億元(3億ドル)と相当な規模になり中国政府は意図的に低めの評価をしているようだ。
「水中の万里の長城」の別の側面は安上がりになりそうもない。だが水中監視網で状況を一変させ戦略的優位性を太平洋で確立できるのであれば正当化できる範囲だ。

回のグアム近くでのセンサー設置の報道は改めて中国が西太平洋で兵力投射を強化する姿勢を崩しておらず、外国の軍に対抗する力の整備に向かうことを強く裏付ける。特に米国を意識しており、自国領土だと解釈する地域周辺で米国がわがもの顔で航行することに我慢がならないのだろう。■