英アステュート級原子力潜水艦Image: Creative Commons.
AUKUS取り決めは核拡散にどんな影響を与えるだろうか。答えは今回の結果がオーストラリア外でどう展開するかにかかる。またそれ以外の主要海軍国がどこまでのリスクを甘受するかにより変動する。
核兵器拡散への懸念は理解できるが、管理も十分可能だ。オーストラリアは核燃料サイクル問題で懸念の対象国から除外しても問題なく、信頼度高い核使用国である。むしろアジア太平洋ひいては世界各地に原子力潜水艦が普及することのほうが懸念される。
ディーゼル電気推進式のほうがより大型の原子力推進潜水艦より好まれる背景が存在する。通常型艦は建造費が安くSSNsより静粛性が高い。原子炉運転に必要な人員の高い教育訓練も不要だし、核燃料取り扱い核事故予防でも同様だ。だが太平洋は広大なため原子力潜水艦が有利なのは明らかだ。
今回の原子力潜水艦選定でフランスが動揺している。伝えられるところではフランスは原子力推進式への変更をオーストラリアに提案していたが、その時点でオーストラリアは実行見込みに疑念を抱いていた。そのため同国が米国のほうがしっかりしており、長期間にわたる協力関係でフランスをしのぐと結論づけたのは理解に難くない。だがフランスの視点で最大の問題点は建造する予定だった各艦が必ずしも優れた艦とは見られていなかったことだ。
潜水艦部隊整備で難しい課題に直面する国は多い。ブラジルはフランス支援で実際に原子力艦の建造を始めている。これもオーストラリアの決定に影響した可能性がある。南朝鮮、日本、カナダは将来の潜水艦調達で難題を突き付けられている。A.B.エイブラムズの分析では南朝鮮、日本の場合はオーストラリアと異なり、SSNsは最終的に不要と結論づけている。南朝鮮、日本には「距離の暴力」はオーストラリアほどに感じられていないのも事実とはいうものの、SSNでしか実現できない性能を享受する事態を長期的にいずれかの国が選択する可能性がないわけではない。
カナダが興味深い事例だ。同国は三つの大洋にアクセスし、原子力艦の航続距離を活用できる立場にある。カナダも1950年代に原子力潜水艦保有を目指したものの、通常型に落ち着いた。1980年代に入り再びSSNs取得を目指し、フランスまたは英国との提携を模索した。ただし、米国が反対し、一つには北極海の衝突回避もあったが、英国あるいはフランスの関与の余地を認めたくなかったためだ。
ただし、カナダの政治文化はオーストラリアと異なり、原子力技術の取得はもっと困難となっている。他方で、カナダは中国と中国市民の収監をめぐり対立しており、カナダ国民はカナダ艦がオーストラリアやアメリカ艦艇と西太平洋で活動できる状況を受け入れやすくなっている。さらに米国がオーストラリアを支援してSSNs調達が実現すれば、カナダに同様の提案が生まれてもおかしくない。
もちろんこの通り進まない可能性もある。今回の調達事業の頓挫の原因の多くがフランス側にあるのだが、一部はオーストラリア自身に原因がある。オーストラリア国内で潜水艦用部品を製造すると大幅な予算超過となり、実現は不可能になる。
今後生まれるオーストラリア政権が中国の圧力に直面し、取り決めを中止する決断をする可能性もある。これが現実になれば、核兵器非保有国が原子力潜水艦を保有する夢は消える。逆に今回の取り決めがうまく機能すれば、王立オーストラリア海軍は西太平洋で有力勢力となる。この動向をソウル、東京、オタワの各政府が注視する。■
Australia’s Nuclear Submarine Deal: Could More Nations Go SSN?
Now a 1945 Contributing Editor, Dr. Robert Farley is a Senior Lecturer at the Patterson School at the University of Kentucky. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), and Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020).