2022年1月10日月曜日

ディストピア中国の監視対象は海外にも拡大。ソーシャルメディアはじめ、データマイニングの世論誘導工作を西側各国は警戒すべき。

 

ワシントンポストが中国のメディア監視体制について長文記事を発表していますのでご紹介します。よく調べてありますね。西側の自由な体制をいいことに驚くべき監視体制がソーシャルメディアにも及んでいることに驚くばかりですが、そもそもこうした記事が日本メディアに出てこないのはなぜでしょうか。支局特派員の取り決めで中国当局から自由な報道を制限されているからでしょうか。であれば、そんな取り決めは破棄するのが正しいメディアの姿勢では。こんな記事は日本の各紙では100年たっても出てこない気がするのですが。当ブログも監視対象になっているかもしれませんね。

A Chinese flag hangs near a security camera outside of a shop in Beijing on Oct. 8, 2019. (Mark Schiefelbein/AP)


 

シントンポストが中国の入札文書、契約書、企業提出書類数百点を調査したところ、中国はインターネットデータ監視ネットワークの大部分を外部に向け、FacebookやTwitterなどの西側ソーシャルメディアをマイニングしており、政府機関、軍、警察向けに外国のターゲット情報を提供していることが分かった。

 

中国は、過去10年間に開発された世論分析ソフトウェアと呼ばれる政府データ監視サービスの全国ネットワークを維持しており、オンライン上で政治的に微妙な情報を当局者に通報することに使用している。

 

このソフトウェアは主に中国国内のインターネットユーザーとメディアを対象だが、2020年初頭以降の中国政府プロジェクト300以上の入札書類と契約書をポストが調査したところ、Twitter、Facebook、その他の欧米のソーシャルメディア情報源から海外のターゲットに関するデータを収集するためのソフトウェアの発注が含まれていることがわかった。

 

 

 

国内政府の入札プラットフォームを通じて一般公開されている文書から、国営メディア、宣伝部門、警察、軍、サイバー規制当局などの各機関が、データ収集のため新規システムや高度システムを購入している実態もわかる。

 

ツイッターやフェイスブックを調査し外国人ジャーナリストや学者のデータベースを作成する32万ドルの中国国営メディア・ソフトウェア・プログラム、香港や台湾における西側外国人の会話を分析する21万6000ドルの北京警察情報プログラム、ウイグル族が多く住む新彊のサイバーセンターがイスラム教徒少数民族の海外言語コンテンツを目録化したものなどがその例だ。

 

中国の中央宣伝部に報告する部署に勤める北京在住のアナリストは、「これで反中国の地下ネットワークをよりよく理解できるようになった」と述べた。この人物は、匿名を条件に、北京の上級指導者に関連するネガティブなコンテンツがTwitterでどう拡散されているか、学者や政治家、ジャーナリスト個人のプロファイルを含むデータレポートを作成するよう命じられたことがあるという。

 

こうした監視網は、ビッグデータと人工知能を通じ対外宣伝活動に磨きをかけようとする北京の幅広い取り組みの一部だ。

 

また、中国の利益を損なう動きに対してリアルタイムでアラームを鳴らすよう設計された警告システムのネットワークもある。

 

ジャーマン・マーシャル基金のシニアフェローで、中国の国内世論ネットワークについて幅広い研究を行うマレイケ・オールバーグMareike Ohlberg氏は、「中国側は今、努力の一部を外に向け直している。中国国内で起きている膨大な数と規模を見れば、率直に言って恐ろしいことだ」と述べた。

 

「これは、海外で中国を守り、海外で世論戦を戦うことが自分たちの責任と感じていることを如実に示しています」(オールバーグ)

 

中国政府の予算には、警察や宣伝部門に海外のソーシャルメディアのアカウントを購入し、維持する予算も含まれている。また、海外における北京の国営メディア報道を洗練させるために、特定の目的を持たせた分析を行うとの説明もある。

 

購入規模は、自動設定の少額から、英語話者や外交政策専門家を含むチームが24時間体制で担当する数十万ドルのプロジェクトまで、さまざまだ。

、各ソーシャルメディアユーザーからリアルタイムでソーシャルメディアデータを収集できる、高度にカスタマイズ可能なプログラムについての記述が文書にみられる。また、米国の選挙を含む問題について広範な傾向の追跡についても記述がある。

 

本紙は、システムの収集データを確認できなかったが、北京を拠点に政府の世論分析に直接携わる4人に話を聞いたところ、FacebookとTwitterのデータを自動収集し中国国内サーバーにリアルタイムで保存し、分析するソフトウェアシステムがあることがわかった。

 

ツイッターとフェイスブックはともに、事前許可なく自社のサービス上でデータを自動収集することを禁じている。Twitterのポリシーでは、開発者がユーザーの政治的所属や民族・人種的出身を推測するためのデータを収集することも明示的に禁止している。

 

「当社のAPIは公共データとツイートへのリアルタイムアクセスのみ提供し、個人情報は提供しません」とTwitterの広報担当ケイティ・ロスボローKatie Rosboroughは、開発者がプラットフォームから公開データを取得することなどを可能にする同社のアプリケーションプログラミングインターフェース(API)について、「当社の開発者ポリシーと規約に従って、監視目的で当社のAPIを使用することを禁止しています」と述べている。

 

フェイスブックには、監視を認識しているかどうか、また、ソフトウェアの供給元として挙げられている複数の企業、大学、国営メディア企業が同社のプラットフォームでデータを収集することを許可されているかどうかについてのコメントを求めたが、回答は得られなかった。また、中国外務省にコメントを求めたが返答はなかった。

 

「世論誘導」

 

中国のネット世論を分析するシステムは、中国のプロパガンダ装置を近代化し、インターネットを管理する習近平国家主席の政策で強力な柱だが、その存在は見えない。

 

膨大なデータの収集と監視の努力は、公選や独立したメディアを許可していない中国で当局に課題となる世論の理解力を与えている。

 

また、各サービスは、中国の検閲機関による技術的な監視を高度化している。また、ほとんどのシステムには、当局や警察にネガティブなコンテンツをリアルタイムで警告するアラーム機能が搭載されている。

 

こうした運用は、北京が「世論誘導工作」と呼ぶ、ターゲットを絞ったプロパガンダや検閲により国民感情を政府に有利になるように形成する政策で重要な機能である。

 

この用語は、1989年の天安門事件後に政策決定で注目を集めた。当時、共産党の権力に対する民衆の挑戦を先制する新しい方法を政府が模索し始め、それ以来、中国のインターネットの基本アーキテクチャで不可欠な存在となっている。

 

中国政府の世論監視産業の正確な範囲は不明だが、中国の国営メディアにその規模を示すものがある。2014年、国営新聞「チャイナ・デイリー」は、200万人以上が世論分析官として働いていると述べた。2018年、同じく国営機関紙の人民日報は、政府のネット世論分析産業は「数百億元」、数十億ドルに相当し、年50%で成長していると述べた。

 

中国の監視網システムは海外のソーシャルメディアにまで拡大しつつある。

 

昨年6月のピューリサーチ調査によると、米国の貿易戦争、新疆ウイグル自治区の人権問題、香港、コロナウイルスの大流行の影響で、先進17カ国の中国への認識は2年連続で歴史的最低水準に近いところまで落ち込んでいることがわかった。

 

2021年5月、習近平は高官に対し、海外での中国のイメージを「信頼でき、愛すべき、頼りになる」ものに変えるよう呼びかけ、「国際世論誘導の効果的な展開 」を提唱した。

 

習近平発言は、海外での中国のイメージをコントロールしなくてはとの、北京の不安の高まりを反映している。

 

「中米貿易協議と香港暴動事件を背景に、世論報道戦争が困難で必要であることが日に日に明らかになっている」と、チャイナ・デイリーは2020年7月、30万ドルの 「海外人材分析プラットフォーム 」入札文書記事で述べている。

 

入札案内には、Twitter、Facebook、YouTubeをマイニングして、「有名な欧米メディアのジャーナリスト」や 「政界、財界、メディア界の主要人物」のデータを収集するプログラムの仕様が記されている。

 

「米国や欧米のメディアと競う、発言権の争奪戦が始まった」とある。

 

仕様書によると、ソフトウェアは24時間稼働し、対象者の人間関係をマッピングし、担当者間の「派閥」を明らかにし、「中国傾向度」を測定し、「中国に関する誤った発言や報道」を自動的にフラグするアラームシステムを構築する必要があるという。

チャイナ・デイリー紙の文書に記載された警報システムが、技術仕様の記載がある入札案件の90%以上に記載されていることが、The Postの文書調査により判明した。

 

北京の政府機関から委託された世論分析ユニットでアナリストとして働く2人は、「敏感な」コンテンツの検出があるとと、SMS、電子メール、専用コンピューターモニターで自動アラームを受け取るとポスト紙に語った。両名は、外国メディアに話す権限がないため、匿名条件で話した。

 

「監視の)責任を負うのは、大きなプレッシャーだ」と、1人は語った。「もし私たちの仕事がうまくいかなければ、悪影響が発生します」

 

ネット上の機密性の高いバイラル・トレンドが、中国の検閲機構の監督機関中国サイバーセキュリティ管理局(CAC)が管理する24時間ホットラインに報告されるとのだと、所属するユニットについて語った。

 

同関係者は、アラームは大多数が国内のソーシャルメディアに関するものだが、2019年半ばからは海外のソーシャルメディアも監視対象に加わっていると付け加えた。

 

この人の説明は、CACへの直接のホットラインについて言及がある、別のシステムの入札書類4件で裏付けが取れた。

 

「重要な世論案件が発生した場合、CACの当直スタッフに直接電話連絡し、各種コミュニケーションツールを通じ通知が行われるようにする」と、中国東部の福州市の市宣伝部門が購入した、国内のソーシャルメディアとあわせFacebookやTwitterを監視する23万6000ドルのシステムに関する2020年12月付の入札書に記載がある。

 

CACへの報告では、各ソーシャルメディア利用者の詳細も含めると明記がある。

 

国家メディア主導でデータマイニングを行う

システムの供給元はさまざまだ。チャイナ・デイリーが契約を結んだのは北京通信大学で、同大は世論分析技術開発の部署を立ち上げた中国の6大学の1つである。

 

しかし、最も盛んに行われている世論監視サービスとして国営メディア自身が警察や政府機関に提供している。

 

様々な文書を見ると、海外に事務所とサーバーを持つ中国の主要国営メディアが行う海外のソーシャルメディアデータ収集の範囲と、高度なデータマイニング分析に基づく宣伝指導を北京に提供する重要な役割がうかびあがってくる。

 

国営メディアを筆頭に、海外で中国の宣伝活動の影響力が強まっていることには、米国政府も警鐘を鳴らしている。

 

2020年、国務省は中国トップの国営メディアの米国拠点を外国公館に再分類し、報告義務を強化し、ビザ割り当てを制限し、北京を怒らせた。

 

国営新聞「人民日報」の傘下で、国内最大級の世論分析サービスを請け負う「人民日報オンライン」は、警察、司法当局、共産党組織などの顧客向けに海外のソーシャルメディアデータ収集サービスを含む数十のプロジェクトを獲得している。

 

2020年に2018年比50%増の営業利益3億3000万ドルを記録した同部門によると、政府機関200以上にサービスを提供中だが、どれだけの機関が海外ソーシャルメディアのデータを依頼しているかは明らかではない。

 

人民日報オンラインが落札したある入札案件では、北京警察情報司令部が、海外のソーシャルメディアを調べ、不特定の 「重要人物・組織」に関するレポートを作成し、「基本状況、背景、関係」に関する情報を収集するサービスを30570ドルで購入しているのがわかる。

 

また、香港、台湾、米国との関係についても報告を毎週求めている。2020年の米大統領選の結果が1月6日に確定される直前に発行された案件では、選挙関連の「ネットユーザーの主要意見」について「特別報告」も要求している。

 

「国際的なパワーバランスは大きく変わっている」と入札依頼書に書かれている。「公開インターネット情報の収集を通じ、我々は国際社会を注視し、敏感な部分やホットスポットを分析し、中国社会の安定維持に資するものとする」

 

2020年4月の記事で、人民日報オンライン世論データセンターの主任分析官、Liao Canliangは、世論分析の究極の目標を以下示した。

 

「分析と予測の究極の目的は、世論を誘導し、介入することだ 」「・・・SNSユーザーの公開データで、ユーザーの特性や嗜好を分析し、ターゲットを絞り誘導が可能となる」

 

 

記事でLiaoは、ソーシャルメディアに世論形成能力がある証拠として、ケンブリッジ・アナリティカが2016年の米国選挙に与えた影響を指摘している。

 

 

「欧米はビッグデータで世論を分析、調査、判断し、政治活動に影響を与えている。... 状況を正しく把握する限り、世論も誘導・干渉可能だ」と記した。

 

人民日報傘下の環球時報は、中国批判を痛烈に報道することで知られる過激な論調だが、中国外交部や北京市外事弁公室など政府機関のため海外のソーシャルメディアデータを収集する部署も擁している。

 

2019年末、環球時報オンラインは53万1000ドル相当の3年契約を獲得し、中国外務省に代わり海外のソーシャルメディアを監視し、包括的な定期報告書を作成するとともに、「緊急事態」には特別報告書を作成する「中国関連の海外メディアとジャーナリストの意見監視システム」を提供することになった。

 

同プロジェクトの付随文書によると、環球時報監視ユニットのスタッフの40%近くは同紙の上級記者であり、同紙は大規模な海外ソーシャルメディア監視プラットフォームを維持しているとある。

 

環球時報の世論調査センターのウェブサイトの説明によると、同部門は「海外監視と海外調査サービス」を行い、政府や民間のクライアントに「包括的な対応計画」を提供するとある。

 

人民日報と環球時報の両社は、それぞれ米国では外国使節団に指定された出版社である。

 

中国によるソーシャルメディア上の海外世論監視の増加は、北京がTwitterなど米国のソーシャルメディアプラットフォームへ影響力を高める動きと重なる。

 

2020年6月、ツイッターは、中国共産党につながり、香港の民主化デモを弱体化させるプロパガンダを密かに広めていると2万3000のアカウントを停止した。今月、Twitterはさらに2,048のアカウントを削除し、北京に関連し、新疆ウイグル自治区での権利侵害の非難を弱める協調的なコンテンツを制作していると発表した。

 

専門家によると、対象となったアカウントは、海外のソーシャルメディアにおける親中メッセージを後押しする中国の取り組みの一部に過ぎないという。

 

究極の消極化効果

 

本紙が調査した世論分析システムの3分の1弱は、中国の警察が調達したものだった。

 

分析システム14通りには、ウイグル人など中国の少数民族に関する「敏感な」コンテンツに自動的にフラグを立てる、警察の要求が含まれていた。また、分析システム12通りには、コンテンツ作成者個人を長期的に監視する警察が要求の機能が含まれていた。

 

福州市警が10月に発表した入札案内では、FacebookとTwitterを対象とする要件が挙げられている。

 

中国各地の地方警察による海外ソーシャルメディアの監視は、国内外の中国人の捜査や、国内の反対意見をかき立てる動向の把握に活用される可能性があると、専門家は指摘する。

 

「公安の監視は、人を追跡して身元を突き止めるという治安維持で非常に重要であり、海外のソーシャルメディアを監視するときは、中国国内で問題を引き起こす可能性のあるニュースの監視をも視野に入れることが多い」と、ジャーマン・マーシャル基金のオウルバーグが述べた。

 

海外世論監視を警察に提供する企業には、人民日報オンラインをはじめ、民間企業や国有企業が混在している。

 

2020年以降に締結された警察の契約書6件には、人民日報による海外データ収集の技術力を基準に監視するとして選定されたと記されている。

 

「海外サーバーを配備しているのは業界唯一で、8000以上の海外メディアを監視・収集できる世論サービス機関であること」と、広東省警察庁が2020年7月に掲載した2万6200ドルの契約オファーで述べている。これは、人民日報の部隊が中国のグレート・ファイアウォールの外側で海外のデータを収集する能力を指す。グレート・ファイアウォールは、中国国内のほとんどの外国の報道機関やソーシャルメディアへのアクセスを遮断する大規模な法的・技術的インフラの名称である。

 

専門家によると、中国の警察が利用できる高度なソーシャルメディア監視技術は、中国政府への批判者に標的型嫌がらせを悪化させる可能性があるという。

 

シンクタンクFreedom Houseのテクノロジーと民主主義のディレクターであるエイドリアン・シャーバスAdrian Shahbazは、「中国政府は、国外の個人を標的にしており、最悪の犯罪者の1例」と述べている。

 

「中国国外にいる中国人がソーシャルメディア・ツールを使うのが、極めて消極的になる影響を及ぼしています。故郷に帰れば、自分の情報が中国当局に非常に簡単に監視されると知っているからです」(シャーバス)。

 

中国の公安局は、記事についてコメントの要請に応じなかった。

 

中国南部の南平市の警察局は、4万2000ドルのシステムを購入しており、「....収集、発見、警告機能をサポートする」という。2020年7月公表の入札書類では、「各種分類やキーワード群、海外の情報リストに従って、TwitterやFacebookのソーシャルメディアデータを収集、発見、警告する機能をサポートする」システムとある。

 

世論サービスに関するその他調達案件では、中国の警察や新疆ウイグル自治区政府機関が、海外の「敏感な」民族語コンテンツを追跡するため購入したプログラムの概要が紹介されている。(中国のイスラム教徒ウイグル人は、新疆ウイグル自治区に集中している)。

 

契約書によると、中国中央部湘南県の警察が購入した4万3000ドルのシステムには、ウイグル人とチベット人のスタッフの翻訳を依頼する「外国の機密情報」収集システムが含まれていた。

 

軍事調達の文書はその他文書よりさらに詳細が不明で、外国人データ収集の目的を詳しく説明していないが、「重要人物」を含むデータのカテゴリーを漠然と示唆している。

 

人民解放軍が発行した2020年6月の大幅編集ずみの契約書では、海外サイトを調べ上げ、所属、地理、国に基づいてデータを分類するシステムの記述があった。

 

落札した上海の企業、ソース・データ・テクノロジーは、「高度なビッグデータマイニングと人工知能分析技術」を用いて、米国、欧州、中国の近隣諸国のソーシャルメディアの90%以上をカバーしているとウェブサイトに書いている。■

 

 

 

China harvests masses of data on Western targets, documents show - The Washington Post

By Cate Cadell

December 31, 2021 at 5:13 p.m. EST

 


中国の攻撃ヘリコプターZ-10は先端技術を盛り込んだ手ごわい攻撃手段だ

注目の機体



Z-10は対戦車ミサイル16発、7発バレル式ロケット発射装置4、あるいは32発バレル式ロケット発射基2を搭載できる。

 

中国政府をバックに持つ新聞が人民解放軍の攻撃ヘリコプターZ-10の最新型について伝えている。同機は戦車艦船双方を撃破可能なヘリコプターとされている。

 

同機の外観は米陸軍のアパッチ攻撃ヘリコプターと現在製作中といわれるステルス攻撃偵察ヘリコプターを合わせた格好に見える。

 

 

Z-10 攻撃ヘリの兵装


Z-10について詳しく伝えているのは環球時報で対戦車ミサイルなら16発、7発バレル式発射装置4、32発バレル式ロケット発射基を搭載するとある。環球時報はZ-10パイロットが同機は各種ミッションに投入可能と発言しているのを伝えている。

 

「ミサイルは装甲車両や戦車向けに、ロケット弾と機関銃は歩兵相手に使う」と記事にあり、「敵戦車隊を相手にすればZ-10は空対地ミサイル8発を通常搭載し、ロケット弾発射装置も2基ある。ミサイルの精度は85パーセントで一回に敵戦車6両を撃破できる」

 

Z-10

Chinese Ministry of Defense

 

 

航続距離は1,120キロで空虚重量は5,100キログラムだ。外部に四か所のハードポイントがあり、空対地、空対空ミサイルやロケット弾を搭載し、さらに23mm回転銃があるとCCTV番組は紹介している。

 

対戦車兵器以外にTY-90空対空兵器(50キログラム級)も発射可能だ。

 

「標準編成のZ-10の四機編隊で対戦車ミサイル32発、57mmロケット弾発射基8、機関銃4門がそろい、これだけで戦車3個中隊を一掃できる」と環球時報記事にある。

 

Z-10攻撃ヘリのヘルメットバイザー機能


同機の威力をさらに強めるのはF-35と似たパイロットのヘルメットにつけたバイザーで眼球の動きを追い、標的捕捉が瞬時に可能となった。

 

「Z-10パイロットは特別製ヘルメットを使い、重要データや戦場の動きを直接バイザーに投影できる。パイロットはヘルメットを向ければ、その後パイロットが別の方向を見ても兵器が標的に収める」(環球時報)

 

Z-10パイロット用ヘルメットの機能はF-35のものと同じようだが、眼球の動きと連動させて新たな脅威になりそうだ。

 

性能向上型Z-10はベル360インヴィクタスに外観が似ているが、昨年の環球時報記事ではアナリストがZ-10二もステルス性能があると見ているのは驚くにあたらない。

 

「演習に登場したZ-10攻撃ヘリのうち、一機は改修型で排気口が上を向いており、赤外線特徴を消し、標的捕捉されにくくなっていた」(環球時報)

 

興味深いことにZ-10の写真から米へリコプター二型式のハイブリッドではないかとの疑問が出てきた。Z-10はアパッチとベルが製作中のステルス機インヴィクタス将来型攻撃偵察機と酷似している。

 

Z-10の排気口や側面構造は一体型となっており丸みをもたせているのがわかるが、ステルス性能を高める工夫の一つだ。排気は上向きというより水平に流れると記事にある。■

 

China's Z-10 "Tank & Ship Killer" Helicopter Modernized With Rockets, Missiles & More - Warrior Maven: Military and defense news

KRIS OSBORN, WARRIOR MAVEN

DEC 24, 2021


Video Above: China Intends to Overrun Taiwan 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Master’s Degree in Comparative Literature from Columbia University.


2022年1月9日日曜日

PLANの2021年主要就役艦を見る。055型、052DL型など。17万トンを一気に就役させたPLANは東アジア海軍軍拡をスタートさせてしまった。今後は揚陸艦整備に中心を移すのか

 

055型DDG、052D型DDGが空母遼寧に随行したPLANのCSGがUNREPでAORが三隻に同時に燃料補給している。

 

民解放軍海軍(PLAN)の2021年は実り多い年となった。誘導ミサイル駆逐艦少なくとも8隻、強襲揚陸艦(LHD)2隻、原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)1隻が新たに加わった。

 

東海艦隊に編入された水上艦では皆無だった。同艦隊は台湾海峡を専門とする。かわりに南海、北海艦隊(朝鮮、日本、南シナ海)に新型艦が配備されPLANは外洋での戦闘能力を増強した。

 

055型駆逐艦 

055型駆逐艦ラサ(102)、南昌(101)

 

 

VLS112セルを搭載し、NATOでは巡洋艦の分類を受ける(レンハイ級CG)055型は中国艦隊最強の戦力を誇る水上戦闘艦である。一号艦南昌が2020年末に就役し、計四隻が2021年までに配備された。

 

055型駆逐艦は建造中艦艇で世界最大だ。全長180メートル、全幅20メートル、満載排水量は13千トンで、比較すると米海軍タイコンデロガ級巡洋艦及びフライトIII仕様のアーレイ・バーク級駆逐艦は9,800トン、英海軍45型は8,500トンだ。PLANの制式名称は「10千トン級駆逐艦」となっている。米国防総省は2017年以来一貫して「巡洋艦」と呼んでいる。

 

055型の兵装

 

  •  130 mm H/PJ-38 主砲x1

  • VLS 112セル

  • H/PJ-11 CIWS x1毎分 10,000 発発射

  • HQ-10 短距離ミサイル

  • デコイ発射装置

  • 魚雷

 

VLSセルは64が前方、48が後方に配備されている。052D型駆逐艦搭載のと同じで、ミサイルはホット、コールド両用の発射方式に対応する。これは集中キャニスター発射装置Concentric Canister Launcher (CCL)を採用したことで可能となった。

 

中国ミサイルはすべて全長が9メートル、直径0.85メートル未満に統一されており、VLSセル運用が可能だ。

 

PLANは055型一号艦にHQ-9B対空ミサイルを搭載し、射程200Kmとした。YJ-18A対艦ミサイル、YJ-18派生型の新型中距離対空ミサイルも052D型駆逐艦で導入済みだ。また新型対潜ミサイルYu-8Aも運用可能だ。

 

052DL型駆逐艦

052DL型駆逐艦開封Kaifeng (124) が実弾発射を北海艦隊の演習で行った。2021年秋。開封は全長を延長したDL型では6号艦、052型では19号艦となる。

 

 

055型は建造費が高いが、やや小型ながら経済性の高い052DL型も昨年PLANに5隻就役している。中国初の多用途駆逐艦としてPLANで重要な位置づけとなっている。

 

  • 苏州Suzhou (132)

  • 淮南Huainan (123)

  • 南寧Nanning (162)

  • 開封Kaifeng (124)

  • 桂林Guilin (164)

  • 湛江Zhanjiang (165) *未確認*

 

052D型昆明Kunming級(NATO制式名称ルーヤンIII型)は中国海軍で最新の誘導ミサイル駆逐艦(DDG)で、先に出た052C型DDGと艦体は共通だが、052D型ではセンサーと兵装で改良点が多い。各艦は米イージス駆逐艦に相当する存在とされる。

 

 

同級の建造は上海、大連の造船所二カ所で続いており、一号艦昆明(172)は2014年3月就役している。

 

排水量7,500トン、全長157メートル、全幅17メートルで280名が乗り組む。

 

052D型は外洋運用を主眼とし、052C型とほぼ同じ艦容だが戦闘システムを向上し、中国海軍のめざす「小幅改良で迅速発展させる」方針を体現する存在だ。

 

VLSで対空、対潜、戦術巡航ミサイルを運用する。三連装魚雷発射管も搭載している。

 

14号艦淄博Zibo(156)から052DL型となり、全長を4メートル延長した。ヘリコプター格納庫と飛行甲板がこの恩恵を受ける。Z-20新型ヘリコプター搭載を想定と思われ、ハンガーは同ヘリ2機を格納できる。517B型レーダーが052D型に搭載されたが、有効距離を延長した新型レーダーに変更されており、低電力消費ながらステルス機探知が可能といわれる。

 

075型 LHD

075型 LHD海南 (31)の艦上に昌河Changhe Z-18ヘリコプター多数がみられる

 

「攻撃用艦艇」に加え、2021年にヘリコプター空母二隻がPLAN艦隊に加わった。075型強襲揚陸艦海南Hainan(31)と広西Guangzi(32)だ。これで中国もLHD運用国に加わった。噂のあるカタパルト発艦無人機空母076型の登場も今後予想されるが、071型LPD8隻の建造も進み、大型水上戦闘艦で整備が一段落するとPLANは揚陸艦建造に中心を移すとみられる。台湾海峡の緊張が高まる中、建艦部門は東海艦隊に焦点をあてそうだ。

 

中国海軍は075型開発を2011年開始した。ヘリコプター空母で排水量30千トン超を想定し、狙いは「垂直」強襲揚陸能力の整備で台湾東部の山岳地帯を念頭においているようだ。

 

性能諸元では公開情報では「排水量36千トン」「ヘリコプター28機運用」「ディーゼルエンジンは12,000 kWの16PC2-6B」「CIWSx4、HQ-10x2、H/P-11x2」とある。

 

075型は米海軍LHAよりやや小ぶりに見えるが、フランス、スペイン、オーストラリア各国のLHDより大型である。イタリアが計画中のトリエステ級LHDにかなり近い艦容だ。

 

075型初号艦は記録破りの短期間で建造され、中国の艦艇建造は極端なまで早いペースで行われており、他国が追随できない。PLANはLHD8隻を発注といわれ、さらに大型艦076型の計画で噂がある。

 

075型LHDはPLANの揚陸作戦能力を従来の071型LPDから高次元に引き上げるだろう。

 

094型 SSBN

094 型SSBN 長征18

 

 

094型(NATO名称晋級)原子力推進弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の少なくとも一隻が2021年4月に就役している。

 

長征Chanzheng18は094型6号艦あるいは7号艦で艦番号421がついた。初号艦は2007年就役している。

 

094型はJL-2型SLBM12発を搭載し、推定射程は7,400 km (4,600 mi)とされる。艦の全長は135メートルだ。

 

総評

 

これだけの規模の建造を進めた2021年のPLANだが駆逐艦部隊だけ見てもVLS合計768セルが追加されたことになる。これ以外に小型054A型フリゲート艦、056Aコルベット艦もある。結局、2021年にPLANに就役した艦艇は総合計170千トンと、太平洋で他の追随を許さない。日本が海軍力整備に本腰を入れ、南朝鮮も外洋海軍整備に乗り出す中で、同地域は100年前の再現のような海軍軍拡レースに入ろうとしている。■

 

 

PLAN in motion: Chinese Navy's Massive Ship Commissionings in 2021 - Naval News

Naval News Staff  06 Jan 2022

 

About the author:

Lia Wong is a student and aspiring polyglot passionate about OSINT. With experience in translating live media on political movements in Asia, she prides herself on her print and social media gathering/analysis talents. Young and eager, she focuses particularly on Western Pacific forces and the geopolitical impact of their interactions. Her Twitter handle is @LiaWongOSINT.


 

2022年1月8日土曜日

無害な輸送機が恐るべきガンシップに進化した。AC-130のこれまでの推移、実戦経験と中国ロシア相手の将来の戦闘場面での役割について。

 




間の近接航空支援で米軍特殊部隊の最高の友、敵にとっては最悪の相手はAC-130ガンシップ以外にない。


60年近くにわたりAC-130の多様な型式が特殊作戦、通常部隊をほぼあらゆる戦場で支援してきた。


空軍が中国、ロシアとの将来の対決を想定して現実を重視する中、AC-130への関心がまた高まっている。


インドシナのジャングルからすべてはじまった


AC-130のルーツはヴィエトナム、カンボジア、ラオスのジャングルにさかのぼる。そこに最初のAC-130EスペクターがAC-47「マジックドラゴン・パフ」とともに初の実戦を体験し、地上部隊を支援した。


AC-47のヴィエトナム上空での活躍からニックネームが生まれた (YouTube).


その後、夜間性能が向上し、地上部隊が北ヴィエトナム軍やヴィエトコン部隊により壊滅されそうな場合を救う場面が増えた。ヴィエトナム戦争中にガンシップにより敵車両10千台を撃破している。


ヴィエトナム戦が終わったが、AC-130の供用は続き、他では得難い夜間近接航空支援の威力を発揮した。これまで6型式が生まれた。AC-130A、AC-130E、AC-130H、AC-130U、AC-130Jである。


特殊作戦で大活躍  


AC-130には三通りの主ミッションが設定されている。航空制圧、武装偵察、近接航空支援で、さらに二次的ミッションとして戦闘捜索救難、前線航空管制、情報収集監視偵察任務がある。


端的に言ってAC-130は空飛ぶ砲兵陣地となり、「パイロンターン」操縦で目標上空を大きな輪を描いて飛ぶ。これにより大量の砲火を標的に浴びせる。この方法だと機体に危険が及び、夜間運用にも制約が生まれるのは容易に地上から攻撃の的になってしまうからだ。


搭載する火力とセンサーが強力なためAC-130は火力の雨を降らせ、同時に貴重な情報を地上部隊に伝えるといった活躍ぶりを発揮する。AC-130Jゴーストライダーが最新型ガンシップで30mm、105mm砲を搭載し、スマート弾としてGBU-39小口径爆弾、GBU-69小型滑空弾、AGM-114ヘルファイヤミサイル、AGM-176グリフィンミサイルを発射する。


これだけ多様な兵装類を機内に収めると、一つ選ぶのが大変だ。通常は作戦の必要に応じ選択している。


「AC-130U時代の経験だが、25mmGAU、40mmボフォース砲、105mmりゅう弾砲を使う醍醐味を感じていた」とかつてAC-130で砲手を務めた元隊員が匿名で取材に応じてくれた。「その後の新型では新装備が開発されているね。だがなんといっても105mm砲が今も使用されている。105mm砲では使う砲弾により地上部隊支援の効果が違うが、敵に最大の被害を与えることが可能だ。物理的損害とともに心理的な効果も大きい。最も重要なのは、機内で砲弾を装てんし、ロックし、射撃し、次の装填へ移る作業の楽しかったことだね」


AC-130機内の強力なセンサー装備で有益な情報収集監視偵察機能が実現する。 (Wikimedia.org).


最新のAC-130の最高時速は415マイルで行動半径は3,000マイルでさらに空中給油を受けられる。


近接航空支援では現地上空での滞空時間が長いほど望ましい結果が生まれる。このため共用現地航空統制機Joint Terminal Air Controllers (JTACs) がAC-130ガンシップを誘導し、空中給油によりさらに滞空時間を延長できる機能を活用している。F-16では火力が少ないことに加え現地上空で滞空時間は30分しか期待できない。


第四特殊作戦飛行隊のAC-130Uガンシップ。AC-130U「スプーキー」はH型の改良型で機体側面から25mm、40mm、105mm火砲を運用する


AC-130の存在意義は地上戦闘部隊の支援につきる。正確、ときには接近し航空支援を提供することだ。AC-130乗員にとって米軍エリート特殊部隊への支援は特別な体験となる。「電子メールでは実際の体験だをとても伝えられない。昼間に起床してフライトスーツを着用し、装備をつかみ、搭乗すると離陸だ。一時間後にはストレスいっぱいの任務が待っている」と上記匿名の元乗組員が語る。


「ことにTIC(連絡先部隊)に対応し、こちらが現地に到着するまで米軍や同盟国軍部隊が抹殺されかねない状態だった」

AC-130の火砲に装てんする乗員(Wikimedia.org).


「現地に到着するや敵へ向かい、一時間かそこらで105mmを100発、40mmを256発発射すると、バグラム基地に帰投する。アドレナリンが大量に出る体験となった。味方を助けたものの、全員が無事帰還できることにならないんだ」「結局こんな感じだ。爽快感、やりがい感とともに罪の意識だね」


AC-130の今後の供用で大きな懸念が一つある。米軍や同盟軍が制空権を確保できない環境で同機が生き残り活躍できるのか。米軍はここ20年にわたり航空優勢があるのが当たり前の環境に浸ってきた。


「空の支配を敵と分け合うような状態になってもAC-130は有効な兵器となると信じている」「高速の敵機との交戦となればAC-130に勝ち目がないので、高速機編隊を低速爆撃機の援護にあたらせたWW2の再現となる」


空軍特殊作戦軍団(AFSOC)では特殊作戦用機材の限界を理解したうえで、敵が高性能機材や優秀な対空装備を展開する状況を想定し、AC-130の弱点を覆す装備品の開発が進行中だ。


一例としてAFSOCはAC-130で運用する巡航ミサイルの開発に取り組んでおり、ガンシップの輸送型MC-130コマンドーIIでも運用を想定する。巡航ミサイルが実用化されれば、AC-130の攻撃距離が大きく伸び、敵の対空戦範囲外からの攻撃に道が開く。これによりAC-130の生存性が高まる。


地上に連絡相手となる部隊が展開し、夜闇の中で圧倒的優位な敵を前に勝ち目がないと思われるとき、AC-130ほど頼りになる機材は他になく、105mm砲を機体から突き出した姿がすべてを物語る。■


AC-130: The cargo plane that became an arsenal in the sky - Sandboxx

Stavros Atlamazoglou | January 4, 2022


Stavros Atlamazoglou

Greek Army veteran (National service with 575th Marines Battalion and Army HQ). Johns Hopkins University. You will usually find him on the top of a mountain admiring the view and wondering how he got there.


【2022年世界の動きを読み取る】カザフスタン危機の飛び火するをプーチンは恐れる。ウクライナ侵攻どころではなくなる事態も想定しているのか。

 


アルマトイ市内の抗議集会。ロシア自体の危機に発展するのか。January 5, 2022, (ABDUAZIZ MADYAROV/AFP via Getty Images)


ロシア軍のカザフスタン展開が始まった。展開する部隊規模によってはプーチンのウクライナ方面作戦にも影響が出そうだ。Breaking Defense からのご紹介です。


2021年12月はウクライナ国境付近でのロシア軍増強に世界が注目した月となり、ウラジミール・プーチン大統領がウクライナ全面侵攻を命じるのか、いつ発動となるのかに注目していた。


ところが新たな波乱要因が加わった。ロシアはウクライナ侵攻を断念してまでカザフスタンでの危機に対応する必要に迫られている。


燃料価格上昇をきっかけとした抗議運動が公然たる街頭反乱活動に発展して二週間になる。保安部隊との衝突でデモ側に死者数十名が発生し、1月5日にカザフ大統領カッシム-ジョマル・トカイエフKassym-Jomart Tokayevはロシアに治安維持のため援助を求め、自らの権力の座を守ろうとしている。


トカイエフ大統領は抗議勢力を非合法とし、「平和的手段による要求の声にはすべて耳を傾けた」としたうえで、街頭に出ているのは「2万名の蛮族」だと決めつけた。抗議運動との対話を求める声に対して「ばかげている。犯罪者集団とどんな交渉ができるというのか。武装して準備万端の蛮族は地元民と外国人が構成している。蛮族、テロリスト集団で撲滅せねばならない。即座に実行する」と堂々と語っている。


1月7日朝になり、トカイエフ政権に自暴自棄の印が現れた。大統領が治安部隊、軍部隊に抗議の群れには警告なしで「実弾発射」してよいと直接下命した。大統領はデモ隊を依然として「蛮族、テロリスト集団」と弾劾している。


プーチンの悪夢


カザフスタンの抗議活動はプーチン政権にとって最悪の悪夢といえる。「カラー革命」の再発となり、親ロシア政権が崩壊したジョージア、ウクライナを想起させ、クリミアへのロシア侵攻、ドンバスでいまも活動する「リトルグリーンメン」、さらに現在のウクライナ国境への部隊増強につながっている。


2014年の再来をロシアはどう見ているのか。昨年に実施されたザパッド-2021ロシア-ベラルシ合同演習ではロシアはロスグヴァルディア(重武装警備隊)と連邦保安庁(FSB)の特殊作戦部隊が加わっていた。抗議運動が内乱となり広がる前に制圧することを主眼とした演習で、まさしくこの状況が今カザフスタンに発生している。


カザフスタンは30年ちかくにわたり2019年に退位するまで旧共産党のボス、ヌルスルタン・ナザルバイエフが大統領として支配してきた。ただし、本人は重要な安全保障協議会に残っている。抗議運動を制圧しようと、トカイエフは強硬派としてナザルバイエフ自身が後継者に選んだのだが、1月5日にナザルバイエフを解任している。前大統領親族も同日に重要ポストを解任されている。ただし、あまりにも遅く、小規模な措置であった。


カザフスタンをめぐりプーチンの杞憂は多方面にわたる。まず、なんといっても抗議運動の広がりがここまで早く大規模になったことだ。かつてカザフスタンは安定し信頼に足る隣国とみられていた。ベラルーシも2020年に革命が発生するまでは同様だった。プーチン政権はカザフスタン国内の騒擾の火種が別方面に広がることを恐れ、ロシア国内も例外ではない。


「親ソビエト国家二国に生まれた同じような独裁政権が不安定になってきたことでロシアはいかなる犠牲を払っても国内に影響を拡げないよう動くはずだ」とロシア問題に詳しいアンドレ・グルコフAndrey Gurkovがドイツのドイチェヴェレの論説で解説している。


「カザフ国民多数が不満に駆られ怒りの矛先を向けていることはクレムリンにとって警告となる。米・NATOに向けた軍事力による脅かしが国内にどんな影響を及ぼしているかをロシアは考慮せざるを得なくなる。


財政上の懸念もある。まず、カザフスタンはロシアにとって信頼に足る防衛産業上の同盟国で、カザフ国軍はロシアからの高性能武器装備品供給に頼っている。


さらに原油ガス埋蔵量が大量で、OPEC+加盟国でもあるカザフスタンは世界ウラニウム生産でも40%を占める。供給先は多様で米国、中華人民共和国(PRC)、さらにロシアも含む。カザフスタンには6-7カ月相当のウラニウムが貯蔵されているといわれ、これまで価格の急騰を防いできた。しかし、抗議活動が続くとこの構図も一変しかねない。


さらにバイコヌール宇宙基地があり、ここはソ連時代から主要宇宙打ち上げ拠点となっている。ロシアは同基地を2050年までの期限で租借しているが、カザフスタン政権が親ロシアであることが同施設を安全に活用する条件だ。バイコヌール北東に広がるステップ地帯はソユーズ宇宙機が国際宇宙ステーションから地球に生還する際の着陸地点だ。こうした施設へのアクセスがなくなればロシアの宇宙活動には大きな打撃となる。


軍事介入の規模、期間は


報道では旧ソ連共和国で構成しる集団安全保障条約機構(CSTO)加盟国より合計2,500名規模の部隊が首都ヌルスルタンに進駐とある。部隊の9割はロシアが派遣している。最大都市アルマトイにも展開している。ロシア空挺部隊はエリート部隊でアルマトイ国際空港を奪回し、1月7日時点で占拠している。


小規模部隊では大規模な反抗勢力を圧倒できないように見えるが、反対運動は各地に分散している。つまり、大規模な部隊を他所から有働させ(この場合ウクライナ国境も当然対象となる)、カザフスタンが2014年のウクライナと同じ状況に陥らないようにすべきなのかプーチンにとって思案のしどころだ。ロシア部隊がカザフ抗議集団の殺戮を始めれば、「ロシアに深刻な事態になる」と英国のロシア専門家ティモシー・ガートン・アッシュTimothy Garton Ashがツイートしている。


ただし、ロシアの政治アナリストがBreaking Defesnse に語ったところでは抗議運動の本質は各地に分散し全体の調整統合がないままで強力な武力により短時間で騒擾を制圧できるという。


「抗議運動は局地的でカザフ政府がインターネット、携帯回線の運用を停止したため、今後抗議運動がカザフ、ロシアの軍部隊に勝てるチャンスは極めて低い」というのだ。


「抗議運動は二週間もあればおさまりそうだ。だがその後に残る影響と感情ははるかに長く続く」とし、今後も不安定な状況が続き、プーチン政権も注意は払わざるを得なくなる。


この予測を複雑にするのはカザフ国内でロシア軍に戦死者が発生した場合で、プーチン支持率に陰りが生まれるからだ。


この恐れがウクライナ問題ですでにあらわれている。ロシア国防産業関係者からBreaking Defenseに対し、「プーチン政権に圧力が増えており、さらに戦死者が続々とウクライナの戦場から母国に搬送される可能性が加わる。ロシアでは戦死者の遺族にとってウクライナは戦う正当性が疑わしい場所だ」


カザフスタンの治安回復のため展開した部隊に死傷者が発生すれば、プーチンのウクライナ作戦展開には大きなプレッシャーとなる。ウクライナでは戦死多数の発生は避けられない。ウクライナ軍はロシア軍の比ではないとはいえ、カザフスタン住民よりは手ごわい敵であるためだ。


Atlantic Councilに寄稿したウクライナ、ウズベキスタンで米大使だったジョン・ハーブストJohn Herbstは「当初のCSTO配備が失敗に終われば、プーチンはジレンマに直面する。軍備増強前のウクライナ情勢は手詰まり状態だった。カザフスタンで国民の反対運動で改革志向の新政権が誕生したり、トカイエフが中国や上海協力機構に政権維持の支援をもとめればはロシアの中央アジアでの立場が悪化する。そうなるとプーチンがウクライナ国境地帯から部隊を撤収しカザフスタン騒擾状態の制圧に当たらせ、中央アジアでのロシアの立場を強めるべきなのか。これを実行すれば、ウクライナでの大規模軍事攻勢よりもリスクは低くなる」


1月9日から10日にかけて米ロがウクライナ情勢についてジュネーブで会談する予定で、今のところカザフスタンの不安定状況の影響は出ていない。ただし、ウクライナではロシアが今はカザフスタン情勢のため行動に移れないとの見方が強い。


これと別に番狂わせとなりそうなのがトルコとPRCの二国だ。また米国もトカイエフ政権崩壊で力の真空が生まれれば動いてくるだろう。この場合、プーチンはウクライナに専念できなくなるだけでなく、自身の権力基盤にも疑問が生まれかねない。■


Kazakhstan revolt adds new variable to Russia's plans for Ukraine

By   REUBEN JOHNSON

on January 07, 2022 at 11:11 AM