2022年1月15日土曜日

今週のウクライナ情勢。ロシアが侵攻の口実作りに着手か。ウクライナ軍への不正規部隊の攻撃で一気にロシア軍が国境を超える作戦を米側が恐れる。一方、外交交渉は不調に終わった。

 台湾、ウクライナと東西の同時危機が一番恐ろしいシナリオですが、本邦ネットのニュースはあまりにも断片的なので読者には背景がわからないままです。短い報道もいいのですが、重要問題については情報量の多い記事が欲しいですね。(新聞には頼りませんが

2021年11月9日撮影の衛星画像で、ロシア=ウクライナ国境から北約160マイルの訓練地に展開する、戦車、自走砲多数、その他の軍事装備を含むロシア地上軍が判別できた Satellite image ©2021 Maxar Technologies.

  • 米情報機関はロシアがウクライナ侵攻を正当化するため展開すると見ている

  • ホワイトハウスも記者会見で懸念を1月13日表明

  • ウクライナ防衛省もロシアが侵攻の理由付けを模索している懸念


情報機関はロシアがウクライナ東部でサボタージュ要員を潜り込ませており、国籍を不明のまま活動させることで対ウクライナ軍事行動を正当化するとみている。CNNが1月14日に匿名米政府関係者の発言として先に伝えた。



「ロシアが工作員を配置しており、国籍を偽装しウクライナ東部で活動させようとしているとの情報がある」と匿名筋はワシントンポストに語り、さらに「工作員は都市戦訓練を受けており、爆発物で妨害工作を展開する」とした。


これが発生すればロシアに10万名近くの部隊を展開する口実となる。現在ロシア軍はウクライナ国境沿い各地に展開している。


別の匿名筋はPoliticoに対し工作員は「数週間にわたり」作戦を展開し、その後攻撃に移るとし、「2014年のクリミアと同じ展開だ」とした。


この説明に重なるのがホワイトハウス安全保障担当補佐官ジェイク・サリバンが1月13日に説明した次の内容だ。


「ロシアは侵攻の口実づくりをはじめており、妨害工作、情報操作を通じウクライナが東部ウクライナでロシア軍攻撃を画策していると非難している。


「同じ展開は2014年にあった」とし、クリミア侵攻・併合時のロシアの動きに言及した。「今回も同じ手口で準備している」


ウクライナ防衛省も同様の発言で、「侵略国家の部隊に同調する勢力へ挑発行動準備の指令が下っている」と1月13日にCNNに語った。


NATO協議は不調に終わり、ロシア侵攻の恐れが強まる


ウクライナ侵攻の口実をロシアが模索中との警告の一方で米国NATOとの協議は失敗し、ロシア政府関係者は「忍耐が切れた」とまで発言している。


ロシアと西側の外交交渉に決定的突破口は生まていない。米ロ両国は1月10日に会談し、その後ロシア外交団はNATOと12日に会談し、さらに13日にヨーロッパ安全保障協力機構での協議が続いた。


だが週の終わりにロシアは拘束力のついた保証を引き続き求め、米NATOは拒否し、双方で悲観的な見方が強まった


水曜日の会談を終え、NATO事務局長イエンス・ストルテンベルグは「ヨーロッパで新たな武力衝突が発生する危険が現実」になっていると報道会見で述べた。


ロシアの要求の一つにウクライナ、ジョージア両国のNATO加盟阻止があるが、NATOは来るものを拒まずとの方針には交渉の余地がないとする。ロシアの最上位外交官はロシアの要求内容に対する西側の文書回答を来週までに求めていると述べた。


米側はウクライナ領内への軍部隊の侵入は大規模経済制裁につながるとロシアへ警告している。


この関連で上院民主党がロシア侵攻の場合はプーチン大統領含むロシア指導部を制裁対象にする法案を13日提案した。これに対しクレムリンもプーチン自身が制裁対象になれば米ロ関係は決定的に決裂すると反応した。


クレムリンの主張はロシアにウクライナ侵攻の予定はないのに西側指導層が極端な猜疑心を示しているというものだ。


「2014年にウクライナ侵攻したのはロシアであり、1万4000人近いウクライナ人の命を奪ったウクライナ東部の戦争を煽り続けているのもロシアであり、そして今、ウクライナのみならず全欧州とわが方に新たな危機をもたらしているのはロシアだ」と、米国代表団代表をつとめたウェンディ・シャーマン国務副長官は2日の記者会見で述べている。


シャーマンは、「エスカレーション回避と外交、あるいは対立と結果のいずれかの厳しい選択に迫られるのはロシアだ」と付け加えた。■


US Intel Suggests Russia Planning False-Flag Operation in Ukraine

Ryan Pickrell and John Haltiwanger


米海軍が次期駆逐艦DDG(X)構想を公表。アーレイ・バーク級の正常進化で、将来の新装備搭載を設計時から盛り込む。艦内電源の大型化とステルス化がねらい。

 

  •  

U.S. NAVY

 

  • 米海軍が次世代DDG(X)の構想を発表した

  • 新型船体に既存装備を搭載し大改良をめざす。

 

海軍が次世代駆逐艦DDG(X)構想を公表した。それによると長距離対水上艦攻撃能力とあわせ高出力指向性エナジー兵器を搭載するとある。DDG(X)は成功作となったアーレイ・バーク級の後継艦として2020年代中の建造開始をねらう。

 

 

最新のDDG(X)構造図は水上艦海軍協会(SNA)主催イベントで公開された。DDG(X)計画主管のデイヴィッド・ハート大佐 Capt. David Hartがとりまとめた。

 

ハート大佐はDDG(X)はアーレイ・バーク級最新型のフライトIIIの後継艦の位置づけで建造を2027年開始とし、2060年代を通じ米海軍で供用をねらう。アーレイ・バーク級最終建造艦は「世界最高性能の統合防空ミサイル防衛(IAMD)システムを搭載する」と大佐は解説した。

 

ただし、アーレイ・バーク級ではこれ以上の性能向上は想定がなく、極超音速ミサイルや嗜好性エナジー兵器といった新世代装備はDDG(X)で導入する。現行艦では装備搭載のスペースが不足し、電源出力も足りない。

 

「大型水上艦艇」となるDDG(X)にはセンサー能力、長距離射程対艦対地攻撃力、指向性エナジー兵器を将来追加する余裕が生まれる。同時に生存性を強め、DDG-51フライトIIIを上回る機動性と攻撃で損傷を受けてもIAMD機能を維持できる。DDG(X) では同時に音響、赤外線、水中電磁 (UEM) の各面での被探知性を少なくとも50パーセント削減する。

 

他方で統合電源系統 Integrated Power System (IPS)により、効率を上げながらコストを下げる。IPSは今後増大する電源供給に対応するもので、指向性エナジー兵器とあわせ電源消費が増えるセンサー装備に対応する。IPSはすでにズムワルト級駆逐艦に搭載されており、ターボエレクトリック推進がこれまでのガスタービン方式に代わり採用されている。ズムワルト級はわずか三隻の建造に終わったが、推進系は75メガワット超の発電容量を誇る。

 

新型艦には分散型海洋作戦構想をさらに進める狙いもあり、将来の対中戦で広くアジア太平洋で戦闘場面を分散させる米海軍思想の実現で一助となる。ここで要求されるのが航続距離の拡大でアーレイ・バーク級を上回る水準とする。具体的には新型艦の航続距離は最低50%増とし、現場待期期間は120%増とする。このため燃料消費効率を最低でも25%改良が前提となり、補給活動の負担も軽減される。

 

アジア太平洋での分散作戦に加え、DDG(X)は北極海での運用も想定する。北極海は最近になり戦略重要性を増している。

 

米海軍はDDG(X)を進化型と位置づけ、タイコンデロガ級巡洋艦、アーレイ・バーク級駆逐艦に加え、ヴァージニア級攻撃型潜水艦や進行中のコロンビア級戦略ミサイル潜水艦で得た教訓を反映し、産業界を最初から巻き込んでいる。

 

このためDDG(X)は戦闘システムをアーレイ・バーク級から継承し、SPY-6防空レーダー、ベイスライン10仕様のイージスシステム等を流用するが、船体は新設計となる。ハート大佐が公開した図は検討中のものと思われるが、すっきりとした船体が特徴的で、ねらいは艦の探知特性を減らすことにあるのは明らかだ。全体としてズムワルト級よりもアーレイ・バーク級に近い。

 

アーレイ・バーク級同様にDDG(X)でも性能改修を建造時から想定した設計になる。極超音速ミサイルの将来搭載が想定されているが、搭載装備は未定のまま現時点で海軍は開発に心血を注いでる。

 

今回の説明を聞くと DDG(X) に今後想定される改修は次の通り。防空ミサイル防衛レーダー(AMDR)、指揮統制通信演算情報収集(C4I)の改修、高出力指向性エナジー兵器、ミサイルセルだ。

 

ベイスラインノSPY-6レーダーは開口部を拡げるアンテナをつけ、現行の全高14フィートが18フィートに伸びる予定があり、空中の標的を探知追跡する距離が増え、精度を上げることになっている。

公表図で回転式対空ミサイル(RAM)の21セル発射装置二基が当初搭載されるとあるが、将来的には600キロワット級レーザー発射装置に交代する。さらに150キロワットレーザーが追加され構想図では艦橋前に搭載されている。RAMについては現行艦では一基の搭載なので大きく性能向上となる。

 

DDG(X)の初期構想ではMK 41垂直発射管装備(VLS)32セルを艦橋前方に搭載していたが、その後MK 41の代わりに大型ミサイル発射管12本になり、おそらく新型極超音速ミサイル搭載を想定しているのだろう。

 

基本構想はVLS32セルだったがUSNI NewsはDDG(X)にDDG-51フライトIIIの96セルと「ほぼ同じ」ミサイル運用能力を与えると報じていた。小型Mk 41VLSセルを大型セルに取り替え、極超音速ミサイル運用に対応させるのであれば、ミサイル運用規模全体も変わる。今回の図はVLSセル必要数の最小規模に対応したものなのだろう。

 

その他わかることとして機体格納庫がアーレイ・バーク級より大型化しており、有人へリコプター、無人機さらに駆逐艦用ペイロードモジュールに対応するのだろう。同モジュールについては不明なままだ。トラブル続きの沿海域戦闘艦(LCS)に近い案に見える。LCSではミッションモジュールとして対潜戦用、機雷戦用を基地停泊中に短時間で切り替え可能とするとしたがその後中止となった。再び出てきたのは兵装をモジュラー化し、必要に応じ取り替える構想があるからだろう。

 

既存装備を利用しつつ、高性能装備品に後日取り替える構想はDDG(X)を安価かつ短期間で供用開始するねらいがあるようだ。各種システムの陸上試験を可能な限り利用してリスク低減も目指す。

 

陸上テストは船体設計、統合電源システムまで含め海軍水上戦センター(NSWC)がメリーランドのカーでロックとフィラデルフィアで行う。ねらいはマイルストーンB認定前に重要システムの性能を検証することにある。

 

艦艇建造企業は昨年3月からDDG(X)設計チームに加わっており、早期方針決定を支援している。現在は構想を完成させる段階にあり、今年9月末の現会計年度終了前に初期設計段階に入る。

 

海軍はこれまでDDG(X) 建造を2028年度までに開始したいとしてきた。

 

ただし、DDG(X) では大きな問題点が残ったままだ。同艦のサイズがはっきりしないし、建造コストも決まっていない。USNI Newsは建造単価を10億ドルとみており、アーレイ・バーク級とコンステレーション級開発コストを参考にしたとある。

 

SSN(X)とコロンビア級の潜水艦建造に加え、コンステレーション級フリゲート艦が加わる中で海軍は必要な装備と負担可能な予算の間でDDG(X)設計の決定を迫られそうだ。■

 

This Is What We Now Know About The Navy's Future DDG(X) Destroyer

BY THOMAS NEWDICK JANUARY 13, 2022

THE WAR ZONE

Contact the author: thomas@thedrive.com


2022年1月14日金曜日

難航する次期エアフォースワンVC-25Bの改装作業。米空軍引き渡しは大幅に遅れる。現行VC-25A(747-200B原型)をいかなるコストをかけても維持するしかない。

  

家元首専用機の調達となると事は簡単にいかない。利用するのが世界最強国家の指導者となればなおさらである。米大統領専用機の後継機調達が難航している。遅延だけでなく訴訟まで発生し、事業の実現を困難にしている。最新状況はどうなっているのだろうか。

 

Getty 747-8 construction

次期大統領専用機はボーイング747-8iを原型とする。当初民間航空会社向けに製造された二機を改装する。Photo: Getty Images

 

事業は遅れている

ボーイング747-8を改装した一号機は2024年中に完成すると見られてきた。 The Driveの2019年6月記事ではトランプ政権が一号機の納入を早めようと2023年12月を目標に設定したとあった。だが時が経過し、2024年目標も実現に疑問がつきはじめている。現時点の予測は最短で2025年となっている。

 

この理由としてボーイングは機体改装工事にあたる主契約企業が脱落したことを上げている。2021年4月にボーイングはGDC Technicsへの訴訟を起こし、遅延とともに工期が実現できていないことを理由にした。同社によれば「ボーイングに数百万ドルの損害を生じさせ、米空軍さらに米大統領にとって重要な意義のある工程を危険に陥れたのみでなく」とある。

 

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Air Force One Disrupted 40,000 Passengers At Heathrow In 2008

 

 

内部告発者によると、遅延はGDCのオーナーと他のプロジェクトとの利益相反が原因の可能性があるという。

 

 

Transaero-747

改装される747-8は破綻したロシア航空会社トランスアエロ向けの機体だった。同社は結局、2機を受領していない。 Photo: Kudak via Wikimedia Commons 

 

 

GDCは逆にボーイングに訴訟を起こし、ボーイングの失敗の身代わりにされていると主張。GDC Technicsは20百万ドルの損害を受けたとしている。ただし、話がややこしくなるのはテキサスに本社を置くGDCがチャプター11の破産宣言をしたことだ。「再構築」手続きと呼ばれるが米裁判所からは債務者の所有をそのまま認め、事業を継続することができるが、裁判所の承認があれば新たに資金を借り入れることも可能だ。

 

その後、両社は妥協点を見つけ、それぞれの訴訟を取り下げることとした。両社は引き続きエアフォースワンプロジェクトに取り組む。昨年10月初めの時点でGDCから同社の破産手続きによる再構築過程が終了したとの発表があった。

 

GDC 脱落の影響

ボーイングは公式にはGDCとの作業は2021年中ごろに終了したとしているが、GDC関連の話題がすべて終わったわけではない。San Antonio Express Newsに内部告発者がボーイングがエアフォースワンの改修作業を外国政府所有の企業に対中していると伝えてきた。その関連でサウジアラビア人にトップシークレットのはずのエアフォースワンの諸元が手渡されているとの暴露もあった。これは国家安全保障上の大きな問題になりかねない。GDC社の破産手続き中にも情報が漏出している。

 

GDC Technicsの株式80%はサウジアラビア政府が保有しており、上記内部告発者はサウジ政府がVC-25B事業用に確保してあった予算をボーイング787-8型機計2機の作業に流用したと述べている。この二機はサウジ財務省が保有している。

 

ボーイング社とサウジアラビア政府との間の見返りの取り決めは、カンザス州で航空機の改造作業を行っていたが消滅したEmerald Aerospace社のCEOだったアーメド・バシルAhmed Bashir氏が内部告発者として主張している。

 

 

「言い換えれば、ボーイング社は米国の主要な防衛プロジェクトをGDCに下請けに出し、同時にGDCの実質的オーナーであるサウジアラビア政府から重要契約を取っていたのだ」-Ahmed Bashir via San Antonio Express News

 

内部告発者は2018年にボーイング社に「倫理面の苦情」を申し立てた。次に2019年4月にワシントン州の連邦裁判所に内部告発の訴訟を起こした。この種の訴訟は、機密事項であり、連邦政府が被告に知られずに調査できると指摘されている。米国政府は最終的にバシル氏訴訟に参加しないことを決めたが、後日介入する権利を留保した。

vc25b Photo: Boeing

 

 

しかし、弁護士によると、バシル氏はその後、訴訟を修正し、2021年11月に政府介入の是非を評価するために司法省に委ねたという。

GDCは、エアフォース・ワンのプロジェクトから干されたバシールの申し立ては「負け惜しみにすぎない」と指摘した。一方、ボーイング社は、正式回答をするために、修正訴訟の提出を待っており、空軍の広報担当者とともにはコメントを控えている。

 

いずれにせよ、GDCによる747型機改修作業は終了しており、ボーイング社は秘密のうちに747改修を続けている(といいたい)。

 

新しい提携企業名は非公表

VC-25Bの主契約者が抜けたことで、ボーイングは誰に後任を任せたのか。Defense Oneが報じたように、空軍の調達担当次長デューク・リチャードソン中将Lt. Gen. Duke Richardsonは、プログラムの進捗状況について次のように2021年5月コメントしている。

「日程について現実的に考えなければならない。ボーイング社は懸命に働いており、新しいサプライヤーもついた。内装作業をできる限り移管していきたい」

 

事実、ボーイングは、別のサプライヤーを確保するか、社内作業に切り替えたいと、4月末にSimple Flyingに語っていた。

 

ボーイング社は、事業および下流サプライヤーへの影響を軽減するべく取り組んでいる。GDC Technicsの主要な下請けサプライヤーと協力しており、ボーイングは事業に貢献してくれている52の中小サプライヤー52社すべてと協力していく。

 

ボーイング社からは顧客と密接に調整し、GDC Technicsの作業は、「新規の適格なサプライヤーへ、あるいはボーイング社内作業で実行される」と付け加えた。

 

ほとんどの詳細は機密のまま

国家安全保障の問題のため、747-8改修作業の詳細が機密扱いなのは驚くべきことではない。下請け業者がプレスリリースを出すことを許される契約ではないことは確かだ。

 

Air-Force-One-New-Livery

トランプ政権は次期エアフォースワンの塗装を一新するとした。.Photo: Boeing

 

 

そのため、プロジェクトの進捗状況はほとんど一般に知らされていない。しかし、初号機の納入が2025年以降になる可能性が高まっている。世界的な健康危機と、グローバルサプライチェーン問題が、スケジュールに影響を及ぼしていても不思議ではない。

 

気になるのは、トランプ前大統領が提案した塗装が維持されるのか、それとも以前と同じカラーリングを維持するのか何のニュースも出ていないことだ。

 

2024年か、2025年か、それともそれ以降か?新型機運用が始まるのはいつになるのだろうか。■

 

The Next Air Force One: What's The Latest? - Simple Flying


by

Chris Loh

January 11, 2022

 


2022年1月13日木曜日

中国との緊張が高まる中で、米沿岸警備隊がユニークな存在としてミッションを実行していることに注目。

 


2021年8月、米沿岸警備隊カッター、マンローが台湾海峡を通過した。米海軍駆逐艦USSキッドが随行した。US Navy

 

  • 中国と競合が強まる中で米軍は太平洋地区へ関心を強めている

  • 米沿岸警備隊が海軍で実行不能の任務にあたっており、カギとなる

  • ただ、世界規模で展開する必要があり、太平洋で需要が高まる中で沿岸警備隊の資源を使い切る可能性がある



国との競合でペンタゴンはより多くの装備を太平洋に振り向けているが、なかでももっとも目立つ米軍プレゼンスは国防総省下の組織ではない。


米沿岸警備隊の艦艇人員は国土安全保障省に所属し、長期間にわたり配備され、軍部隊では実施が困難な任務をこなしている。


沿岸警備隊司令官カール・シュルツ大将 Adm. Karl Schultzは「警備隊の業務は大規模ではなくても大きく役立っていると思う。どこへでもアクセスでき移動できるからだ」と12月の海軍連盟主催イベントで語っていた。


シュルツが例示したのはカッターの一隻マンローで102日にわたるインド太平洋方面任務を終え10月に本国へ戻ってきた。マンローは東シナ海・南シナ海で同盟国協力国との訓練を展開し、台湾とは「覚書」に従い行動したとシュルツが説明している。マンローは台湾海峡を航行し、その他の航行例同様に中国の非難を買った。


中国側は「沿岸警備隊が台湾側と一緒に訓練していると、かなり興奮する」と先月シュルツは語っていた。


「大歓迎を受ける」

米沿岸警備隊のカッター、マンロー乗員がフィリピン沿岸警備隊に敬礼した。8月に西フィリピン海を通過した際のこと。 US Coast Guard/PO3 Aidan Cooney


米沿岸警備隊は、古くから太平洋地域で活動している。2つしかない米沿岸警備隊の海外司令部の1つが「極東本部」で、70年前から日本に置かれている。また、米領をはじめ太平洋各地では、それ以前から船舶によるパトロールが行われてきた。


「米国沿岸警備隊は、150年以上にわたり太平洋地域で活動している」と沿岸警備隊太平洋方面総監のマイケル・マカリスター中将Vice Adm. Michael McAllisterは9月の記者会見で、「我々はそれを非常に誇りに思っている」と述べていた。


米海軍が、中国に対抗する米軍の取り組みをこの地域で主導しており、日本に拠点を置く第7艦隊は、マンローを指揮下に置いた。



海軍当局は沿岸警備隊などと協力してカッターのスケジュールを計画し、「作戦目標、優先順位、目的を慎重に取り入れた」と、第7艦隊広報官マーク・ラングフォード中尉Lt. Mark Langfordは9月にInsiderに語っている。


「沿岸警備隊は第7艦隊活動区域に独自の能力とスキルをもたらし、米海軍を補完してくれる」とラングフォード大尉は述べた。



沿岸警備隊は新造3隻をグアムに昨年7月に配備した。US Coast Guard/PO1 Travis Magee


ユニークな能力として、法執行権限や捜索救助、海洋環境対応、人道支援に関する専門知識が含まれる。


マカリスター中将は9月、沿岸警備隊を海軍の防衛力を「補完する存在」と位置づけ、「米海軍やその他軍の任務とは異なる」と述べている。


中国と緊張が高まる中で、沿岸警備隊の専門性が重要性を増している。不法漁業では、特に中国の海外漁船団が大きな懸念材料で、沿岸警備隊は各国による自国海域の取締への支援を強めている。2020年12月には、パラオの排他的経済水域で違法漁中の中国船の捕獲に協力した。


沿岸警備隊はこの夏、カッター3隻をグアムに配備し、前哨部隊の名称を変更した。新名称「沿岸警備隊ミクロネシア・セクター・グアム」は、「前方展開活動の拠点であることを示す」意味があると、副司令官リンダ・フェイガン中将Vice Adm. Linda Faganが9月に述べた。


沿岸警備隊の活動は、島しょ小国に限ったものではない。マンローはフィリピンやインドネシアと訓練を行い、日本の自衛隊と初の海上での補給活動を行った。


米沿岸警備隊カッター、マンローはインドネシア沿岸警備隊KNプラウダナとシンガポール海峡を航行した US Coast Guard/US Marine Corps Sgt. Kevin Rivas


また、退役カッターをベトナムに寄贈したことで米越関係改善に大きく寄与したと、2014年から2017年まで駐ベトナム米国大使のテッド・オシアスTed Osiusが述べている。


現職・元職員は、沿岸警備隊の責任とその行動はこの地域で規範で、パートナーとして求められているとアピールしている。


トランプ政権時代にインド太平洋安全保障問題担当国防次官補を務めたランドール・シュライバーRandall Schriverは9月、「両手を広げて迎えられるのは、我々が良きパートナーになりたいと願う各国にとって、想定する任務が非常に重要だからだ」と述べた。


「つまるところ、われわれは通商をオープンに保ち、紛争を平和的に解決し、貴重な資源を保護し、不法活動に対抗するという一種の行動をモデル化したい」とマカリスター中将は述べ、同地域の各国組織が 米沿岸警備隊のデザインに酷似したストライプ を自国艦艇につけていると指摘した。


「投入資源の問題」

沿岸警備隊カッター、キンボールの法執行チームがフィリピン海で昨年2月に初の臨検取り締まりを行った。 US Coast Guard


国内外で沿岸警備隊への要望がかつてないほど高まっているとシュルツ氏は述べ、バイデン政権下でその傾向は強まりそうだと語った。


国家安全保障会議の東アジア・オセアニア担当上級部長エドガード・ケーガンは9月、「沿岸警備隊は極めて重要な手段であり、沿岸警備隊による関与のレベルを拡大する方法を検討している」と述べ、「多くの場合、太平洋地域の各国にとって重要な問題は、沿岸警備隊の任務と一致している」と述べた。


しかし、沿岸警備隊は限られた能力で需要に応えることになる。


「4万2,000人の現役隊員を世界中に展開するにはどうすればいいのか」とシュルツは12月に述べ、2019年に実施したようなインド太平洋での5カ月間のカッター二隻の展開を続ければ「達成可能レベルより上を目指すことになる」と述べ、この地域にカッターを年間100~150日配置するほうが可能性が高いと述べた。


需要が高まる一方の中、沿岸警備隊に十分な予算が計上されて必要な任務遂行が可能なのか懸念が寄せられている。


米沿岸警備隊カッターのアレックス・ヘイリーの臨検隊が底引き網を使い不法漁業の疑いのある漁船に接近した。北海道東方860マイル地点。2018年。US Coast Guard



老朽艦船の入れ替えとして「第二次世界大戦後最大の資本増強計画」とシュルツが呼ぶ事業を展開中だが、2010年代の運営予算は横ばいのままで、近年の国防予算増強の恩恵は受けていない。


シュライバーは、「沿岸警備隊を国際的に関与する手段として真剣に使うつもりなら、もっと多く投資しなければならない」と述べた。


沿岸警備隊の法定任務11種のうち、国防総省を支援する防衛準備任務は小規模で、議員から沿岸警備隊が国防総省をどれだけ支援できるのか、厳しくチェックしている。


メリーランド州のアンソニー・ブラウン下院議員はインサイダーに対し、「沿岸警備隊が国防準備任務から外されて国防総省支援を求められると、今でさえ薄い資源をさらに薄く引き伸ばことになるとの懸念を抱き続けている」と伝えてきた。


シュルツは、近年の沿岸警備隊は資金需要面で前進しているが、「国家が必要とする沿岸警備隊の実現のため、毎年3%から5%の持続的な予算増を要求している」と述べている。


ブラウン議員は海軍と沿岸警備隊双方を監督する議会の委員であり、沿岸警備隊を効果的に機能させるためには、議員や政策立案者が「正しいバランスを取る必要がある」と述べた。


「沿岸警備隊に必要な資金を確保するために戦い続ける。しかし、資金は正しく、戦略的に管理されなければならない」とブラウン議員は述べている。■



In Competition With China, the US Coast Guard Takes on Unique Missions

Christopher Woody