2023年2月26日日曜日

米海軍戦闘機が対潜任務に投入される? 深刻なASW能力低下に対する解決策になるのか。前例が存在していたとはいえ、必要なのはASW専用機材ではないのか。

 

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Jonathan Berlier

冷戦時代の潜水艦ハンターが、海軍戦闘機で海中脅威に対抗した思いもよらない取り組みを語っている

ントロールできなくても、単にコントロール不能になったにせよ、直面する問題の解決では、かつて存在した選択肢を思い出させてくれる。今日、米海軍の対潜水艦戦(ASW)に疑問符がつき、コントロールできなくなくなってきた事情から、米海兵隊と海軍が、1970年代初頭の選択肢、戦術ジェット機を潜水艦狩りに転用することを呼びかけている。

筆者はThe War Zoneに寄稿した、ソノブイを投下して音響データを中継し対潜活動を支援する海軍の戦術機(TACAIR)の実験的使用について調べる際、F-35やF/A-18にそれをさせるべしとの声が上がるとは思いもよらなかった。しかし、それはまさに米海兵隊のウォーカー・ミルズ大尉と米海軍のコリン・フォックス、ディラン・フィリップス=レバイン、トレバー・フィリップス=レバイン両中佐が、米海軍協会『Proceedings』2021年10月号掲載の論文「ASWに新たな技術を活用せよ」で提案していることなのだ。

冷戦時代の艦載対潜機

1960年代半ば、老朽化し、扱いにくく、ピストンエンジンのS-2トラッカーは、ソ連海軍の原子力攻撃型潜水艦(SSN)や各種対艦巡航ミサイル(ASCM)搭載潜水艦(SSG/SSGN)についていけなくなった。しかし、トラッカー後継機が空母艦隊に加わり始めたのは1974年だった。ツインターボファンのS-3バイキングは、より速い速度、より長い航続距離と滞空時間、高度な音響プロセッサ、より多くのソノブイを搭載し、あらゆる潜水艦の脅威をはるかに効果的に捜索、位置確認、追跡できた。

ASWで一つの時代の終わりと、次の時代が始まった。S-2トラッカーと後継機のS-3A。 U.S. Navy

海軍は空母戦闘群(CVBG)のASW能力強化で応急処置として、TACAIRの使用を決定した。投下されたソノブイが発する音響データを別ポッドで中継し、空母や他のASW能力保有艦に解析させることも可能だった。もちろん、A-7コルセアIIやA-6イントルーダーは、潜望鏡深度や水面に潜水艦が姿を現せば、弾薬を大量投下することも可能だった。

しかし、今日、残念ながら、同じ能力を有する機材はない。P-8ポセイドンやMH-60Rシーホーク・ヘリコプターを補完し緩和できる奇跡などない。

え、F-35とホーネットをASWに投入するの

「海軍は、中国のステルスで強力な長距離脅威から防衛するため、新しく革新的な対潜水艦戦プラットフォームを必要としている」と、Proceedings論文の共著者は主張している。バイキングのような航空機が海軍にないことを知っているので、50年前に戻り、ASWミッションにTACAIRを使用する概念を復活させるよう海軍に推奨している。高速移動可能な航空機は、空母打撃群(CSG)と遠征打撃群(ESG)の脆弱な中・外郭防御域をカバーできる。

TACAIRクルーがブイ投下や中継任務でASWの暗黒技術に手を染めていた以前とは異なり、共著者は一歩踏み込んだ提案をしている。

「ASW設定のF/A-18やF-35は、退役ずみS-3バイキングの役割を担い、有機的で高速かつ長距離のASWを空母航空団に復活できる。空中ASW パトロールは、IRST(赤外線捜索・追跡)で標的の位置を正確に把握し、空対空ミサイルで飛来するミサイルを撃退しつつ、標的地域に迅速移動し緊急攻撃を行い、後続部隊用に各種センサーを展開できる。海軍は、S-3B後継機を新しい機体で再登場させるのではなく、F/A-18とF-35を使用して、より高性能なセンサー、無人技術(ウイングマンとしてのMQ-25を含む)、および遠方の潜水艦を攻撃する新兵器を活用すべきなのである。しかし、S-3のような長い滞空時間がないため、新しい作戦コンセプトを可能にするためには、長時間移動センサーと水平線超え中継で新しいツールキットが必要になろう」。

試験中のスーパーホーネットのセンターラインタンクに組み込まれたIRST21ポッド。米海軍. U.S. Navy

2021年8月、E-2DホークアイによるMQ-25スティングレイの空中給油能力の評価。 Boeing

戦時・平時を問わず、ASWの多くで対潜水艦部隊が潜水艦の存在を最初に知るのは、守るべき輸送船団や高価値部隊が魚雷(または迷惑な緑の照明弾)で攻撃された時点の「火炎放射器」方式で実施されてきた。

論文の共著者が提案するのは、TACAIRを使用しASCM発射を探知し、それを撃破し、その後、発射した潜水艦を追撃するという驚くべきものである。

海戦におけるミサイルの黎明期以来、ずっと待ちのゲームだった。ミサイルがレーダー探知範囲に入るのを待ち、失敗の余地が許されない非常に危険な距離で、ミサイルを破壊する。さらに、ミサイルを発射する前の潜水艦の位置をASWが特定していないと、戦争の霧と混乱の中で、重要なASWプラットフォームが損傷または破壊されると、攻撃目標を発見し報復する機会が急速に、または完全に減少するのは確実だった。


環太平洋演習(RIMPAC)の実弾射撃で、退役した元USSダーラム(LKA-114)を撃沈した 2020年8月 U.S. Navy

海軍のASW能力を強化するアイデアはどんなものでも今日の海軍の怠慢な状況のため、真剣に受け止められなければならない。MH-60Rが、CSG と ESG で対潜水艦の唯一の戦力であることを忘れてはならない。皮肉なことに、当時のS-2トラッカー同様に、シーホークも「潜水艦が発射するASCMから艦隊を守るためには、航続距離、速度、積載量が不足している」と共著者は述べている。ASWの守備範囲内のどこかにいる潜水艦を見つけ、位置を特定し、そして殺すことは、全員の努力が必要だ。

バハマの大西洋海底試験評価センターで撮影されたディッピングソナー搭載のMH-60Rシーホーク。2005年2月、U.S. Navy

 脅威対象の潜水艦を沈め、殺傷し、抑止することに関しては、1960年代の無人ヘリコプターQH-50Cドローン対潜ヘリコプター(DASH)が探知した潜水艦に軽量のASW魚雷を投下できたのなら、今日のF/A-18やF-35がMk54魚雷、特に高高度対潜水艦戦兵器能力(HAAWC)を搭載できないわけがないのである。超軽量魚雷(VLT)であれば、戦闘機でも数本搭載可能だ。フォークランド紛争が21世紀の米海軍に何らかの教訓を与えるとすれば、それは次の海戦でASW兵器がどれだけの使えるかであろう。

 Proceedings記事が掲載されると、ソーシャル・メディアの「海軍関係者」からの批判に気づいた。しかし、コルセアIIからソノブイを投下したA-7パイロットが、ASW任務のためのTACAIRの現代的な使用を支持しているのを見て、筆者は嬉しい驚きを覚えた。

ズニロケットポッドでソノブイを発射していた

海軍歴30年、海軍大学校(NWC)名誉教授のロバート・"バーニー"・ルーベル退役大佐は、USSインディペンデンス(CVA-62)からA-7を飛ばした経験をもつ。Proceedings記事について、こう書いている。

「USSインディペンデンスは、75-76クルーズでCVAとして展開した...ズニポッドを改造し、ソノブイを後部から飛び出させ(ポッドあたり8個)、ドロップタンクに無線リレーを装備する改造をした。リレーポッドをタンカーに搭載し、ソノブイポッドをSSSC(Surface, Subsurface, Surveillance, and Control missions)を行うA-6とA-7に搭載した」。

ズニポッドを搭載したA-7コルセアII。 Courtesy of the A-7 Corsair II Association

筆者の調査では、TACAIRによるASW実験に使用された空母はUSSサラトガ(CV-60)だけであった。

興味深いのは、S-3が供用開始した後も、ソノブイ投下にA-7やA-6を使う選択肢があったことだ。ルーベル大佐は著者のメール問い合わせに対し親切にプロセスを詳しく教えてくれた。

「ブイに関しては、ウェポンテーションとマスターアームを選択し、ピックルスイッチを押して、ズニポッド後部から2つ放出させるだけでした。ASWモジュール担当者がブイの設置方法を指示し、私たちは慣性航法システムを使い指定場所にブイを設置した。ASW任務では、通常ポッド2つに合計16個のブイを搭載していました」。

TACAIRのパイロットは、実際にソ連潜水艦の捜索に参加した。地中海のイオニア海で、NATO演習を盗み見ようとしたジュリエット級SSGが発見されたことを、ルベルは説明してくれた。コルセアIIとイントルーダーは、ブイ投下任務をこなし、見事に同潜水艦を 「追い払った」。

ミサイルランチャーの1つを上げた状態で航行中のソビエトのジュリエット級巡航ミサイル潜水艦 DVIDS and NARA

ASWの地味な性質を知る筆者は、ルーベル大佐に、彼と仲間のA-7パイロットがこの種の任務についてどう感じていたのか尋ねた。「文句を言う者は一人もいなかった。私たちは通常、E-2(ホークアイ)が見つけた遠方のレーダーコンタクトを確認するため、SSSC任務にあたっていた」。

TACAIRパイロットがSSSCとASWの任務をなぜ平気でできていたのか、ルーベル大佐の指摘は刺激的だ。「73年末にソ連のメッド・エスカドラと遭遇し、我々には海上戦が全てであり、ASWはまさにうってつけだった」。大佐はNWCの記事 "The Tale of Two Fleets" に詳しく書かれている、ヨム・キプール戦争中の米第六艦隊とソ連海軍地中海戦隊(エスカドラ)のにらみ合いを指していた。

そして、驚きの連続であった。TWZのコメンテーターの一人である「N-Drive」は、AV-8ハリアーもソノブイポッドで武装していたと指摘してくれた。

ハリアーのパイロットでもできる

米海兵隊がAV-8A(英国製ハリアーの米国版)の運用を開始したのは、海軍が制海権艦(SCS)建造を本格検討していた時期だ。SCSコンセプトは、輸送船団や補給艦、水陸両用軍団など重要部隊を航空およびASWで支援する護衛艦となる小型甲板の空母だった。ハリアーは主に攻撃と防空に使用され、ASW任務にあたるSH-3シーキングを保護・支援するとされた。

1974年の地中海派遣で、暫定的にSCSとして活動していたUSSグアム(LPH-9)に搭乗していたマイケル・スミアレック中佐が書いた論文には、小型空母がジブラルタル海峡の内側にソノブイ・バリアを展開する任務が与えられたと書かれている。同海峡は、潜水艦にとって悪名高いチョークポイントであった。ソノブイ敷設は、ソ連SSNが到着するのを見越してのことだった。「ソノブイの大部分はSH-3Gヘリコプターや時にはハリアーから様々なパターンで投下された」。VMA-513 "Flying Nightmares" はHS-15の "Red Lions" からシーキングと一緒に飛んでいた海兵隊分遣隊だった。

1972年1月、アメリカ海軍の水陸両用強襲揚陸艦USSグアム(LPH-9)に搭載されたVMA-531のAV-8AハリアーとHS-15のSH-3Aシーキング。 U.S. Navy

USSグアムは、最高速度23ノットと比較的遅い水陸両用空母であった。ソ連のSSNはもっと速く、同艦を簡単に追い越すことができた。追跡中の潜水艦が空母やSH-3の有効射程から離れ始めると、「...ハリアーを出撃させグアムから50~100マイル離れた潜水艦が向かったと思われる方向にソノブイを投下していたかもしれない」という。

海兵隊にとってASWは、前例のない任務ではない。第二次世界大戦中、海兵隊がカリブ海と太平洋でドイツと日本の潜水艦を相手に対潜哨戒を行ったのを覚えている人は少ないだろう。21世紀に海兵隊が行う任務が騒がれる中、MV-22オスプレイやヘリコプターが、潜水艦を倒す海軍を支援するためブイ投下することが増えている。USSグアムからのハリアー作戦と同様に、F-35BがASW活動を支援するのは非常に興味深い。

2021年7月、カリフォルニア州サンクレメンテで行われたサマーフューリー21演習で、米海軍の潜水艦の上を飛ぶ第3海兵航空団第16海兵航空機群、海兵軽攻撃ヘリコプター隊267の米海兵隊AH-1ZヘリコプターとUH-1Yヘリコプター。U.S. Marine Corps

UH-1Yもこの能力を実験しており、ESGに搭載する際や遠征前進基地作戦(EABO)で付加価値を生む可能性がある。UH-1Yの攻撃型AH-1Zも、対潜水艦キルチェーンのキネティックエンドで潜在的な役割を果たす可能性がある。新しい対艦作戦のコンセプトと、リンク16データリンク機能を含むアップグレードで、UH-1Yと並ぶユニークなポジションを得られる。海軍の無人機MQ-8ファイアースカウトも、ASW任務を担うことができるプラットフォームだ。しかし、各機はヘリコプターで、固定翼対潜機の速度と範囲に劣る。

Q-9リーパーファミリーは、ソノブイを投下しデータを信頼する能力も開発した。リーパーは空母搭載機ではないが、この点でも役立つ可能性があり、空母搭載コンセプトが描かれているようだ。

米海軍は問題を抱えたままだ

将軍と同様、提督は常に最後の戦争で次の戦闘に備える。過去 30 年間に ASW 能力を衰退させただけでなく、来るべき海中戦に備えることなく、数十年を無駄に 過ごしてきた。したがって、ソ連海軍と戦うため設計されたプラットフォームやコンセプトで仕事をせざるを得ない若い士官が、1971年当時で革新的だったアイデアを再検討しなければならないとしても、驚くにはあたらない。

残念ながら、共著者が主張するように、ASW設定のF-35やF/A-18が「S-3バイキングの役割を担う」という考えには根拠がない。対潜水艦戦の複雑性のため、中・外側のASWゾーンをカバーする航続距離、耐久力、センサー・武器搭載量を備えた空母ベースの専用固定翼機が必要だ。F/A-18、F-35B/C、MQ-25は、これにあたらない。

現実には、空母搭載TACAIRには、ASWよりもはるかに重要な任務がある。中国海軍の台頭、新型のディーゼル電気潜水艦の普及、そして復活したロシア海軍の挑戦を前に、米海軍はS-3Bバイキングの後継機に焦点を当てるべきであったのだ。CMV-22 オスプレイや改良型 E-2Dは、CSG で最適なプラットフォームが設計・開発されるまでの暫定的なオプションとして使用できるだろう。

当面はASWの負担を想像的、効果的、現実的な方法で艦隊全体に分散させる方法を検討し、手遅れになる前に達成しなければならない。したがって、この二機種の戦闘機が、CSG/ESGの対潜任務で重要な一部となるはずだ。■


Reviving The Use Of Navy Tactical Jets As Submarine-Hunters

BYKEVIN NOONAN|PUBLISHED FEB 23, 2023 4:14 PM

THE WAR ZONE

Kevin Noonan served in the US Navy from 1984–94 as a sensor operator (SENSO), briefly, in the P-3B Orion with VP-94 and for the remainder of his service as a SENSO in the S-3A/B with VS-41, VS-24, and VS-27.


2023年2月25日土曜日

ウクライナ上空の膠着状況から何を読み取るべきか----航空戦力の意味を再考しよう

 


クライナ上空は、まるで第一次世界大戦の「ソンムの戦い」の空中戦版のようだ。キーウ上空での当初の熱狂と対照的に、双方とも相手領空に深く侵入しようとはしていない。フランスとドイツの塹壕戦さながらで侵入の試みは、地対空ミサイルと防御戦闘機で自殺行為となる。その結果、空中は無人地帯と化している。双方とも消耗品のプラットフォームと弾薬を使うスタンドオフ攻撃を実行し、前線で超低空で狙い撃ちしているが、どちらも空中で決定的な戦闘力を発揮できていない。


 しかし、両者が努力していないわけではない。空での膠着状態は、ロシアとウクライナ双方が積極的な行動を続けることで維持されている。ウクライナ軍は西側諸国の空軍機材を求め続け、ロシアはイランの無人偵察機を新たに配備している。キーウへの最近の支援では防空システムが目立ち、ロシアは長距離兵器の豊富な備蓄に頼っている。要するに、動きが比較的少ないのは、新しい取り組みが行われるたびに相手が素早く対抗してくるため、双方が空中戦を重視していることを示している。

 どちらかが空中で突破口を開けば、どのような結果になるかは想像に難くない。キーウへの西側からの重要な援助は、東ヨーロッパからの道路や鉄道で到着する。ロシア空軍力が輸送を妨害すれば、ウクライナ地上軍は戦線の維持が難しくなり、ましてや攻勢をかけることはできなくなる。また、ロシアが制空権を握れば、アレッポでロシア軍爆撃機が行ったように、無尽蔵にある無誘導兵器でウクライナ都市を破壊できる。逆に、ウクライナ攻撃機がロシアの補給線を死の高速道路に変えれば、ロシアの砲兵隊や機甲隊は燃料や弾薬を失い崩壊する。このように、ウクライナ空軍は、10対で数でも技術でも劣っているにもかかわらず、恐るべき勝負に毎日直面している。空戦はどちらが勝ってもおかしくないが、どちらも負けるわけにはいかないのだ。

 進行中の紛争の不完全な情報から技術や戦術を断言するのは賢明ではないが、1年にわたる戦闘は、将来の西側の概念と投資に役立ちそうな重要原則を示唆している。第一に、膠着状態は非常に重要な指標だ。空からウクライナを支援することは、地上での成功の前提条件であることに変わりはない。第2に、航空作戦は空域に限定されず、すべての領域を巻き込む。次の戦いに勝つためには、米軍と同盟軍は領域を超えたデータリンクと相互運用性に投資するだけでなく、領域の境界を越えた関係を構築するための共同訓練に投資すべきだ。最後に、攻撃は必ずしも航空戦力の本質ではなく、防御の力学も重要だ。また、安価な短距離プラットフォームの大量配備が良い手段となる。


膠着状態は戦略的重要性の指標

ウクライナは当初から、ロシアから領空を奪われぬよう、さまざまな手段を積極的に講じてきた。ロシア空軍の攻撃力を低下させることは、キーウ周辺での最初の逆転劇、東部での戦線維持、ハリコフでの躍進、そしてケルソン攻防戦に必要な条件であった。膠着状態を維持することは、ウクライナ軍の勇気と犠牲、そしてウクライナのパートナーの多大な努力と資源を消費する、コストのかかる取り組みである。

 ソンムの戦いに話を戻すと、第一次世界大戦を分析すれば、静的な塹壕線を戦略的重要性の欠如と混同することはないだろう。防衛線のネットワークを突破することの難しさが、この戦争の中心的な特徴だった。フランスとイギリスは戦車を、ドイツはストームトルーパー戦術を開発し、これらは第二次世界大戦で重要な役割を果たした。同様に、ウクライナも非常に巧妙な戦術を開発し、国際的なパートナーと協力して、高速対放射線ミサイルをMiG-29から発射させるという斬新な能力の組み合わせを実用化した。ロシアは、自国が保有する精巧な兵器を消費し、レガシー兵器の再利用で、これに対抗している。

 作戦設計の技術の一つは、どこで勝たなければならないか、どこで敵の勝利を防げばよいかを知ることである。空中の膠着状態には、米国とその同盟国は、最近の戦争で享受したような並外れた優勢は想定できない。したがって、米国はマハンとあわせコルベットの手段を使うことを学ぶべきだろう。つまり、制空権を握れないときにはその使用を拒否し、一方で決定的な窓のために制空権を握る方法を見出すことを学ぶのである。今後の紛争では、同盟国の空軍が必ずしも制空権を握る必要はなく、統合軍による決定的な行動を可能にするために、適切な時間と場所で優位性を確保すればよい。


 航空戦は空域以外でも展開する

真珠湾攻撃の勝利の後、日本の戦略家は自国軍が「勝利病」に侵されていることに気づいた。緒戦段階の成功が過信につながり、その結果、戦略家は必要な戦い方ではなく、自分たちが望む戦い方をするようになった。同様に、何十年にもわたり同盟国の航空優勢が疑問視されなかったため、航空領域は当然のものと考えがちだ。実際、米軍の記憶では、これまでの航空領域の戦力は、航空作戦で一方的に勝利し、その後、他の共同作戦を進めるために十分だった。しかし、オーバーマッチとは言わないまでも、少なくとも同等以上の力を持つ敵空軍を相手にする場合、こうした仮定は危険だ。連合国空軍は、空域に重点を置くべきだ。統合軍は、我々の成功を前提に構築されているからであるが、他領域も統合航空作戦に織り込むべきだ。

 航空作戦の成功の本質は、地上戦の限界を超え、敵の戦争遂行能力の中枢に深く食い込む能力だ。しかし、それにはコストがかかるため、航空兵は効果の適用に質素でなければならない。そのため、航空兵は敵をシステムとして想定し、主要なノードを特定し、そのノードに効果を適用し、システムを無力化する。第2次世界大戦の燃料庫、ベトナムの橋、最近の紛争での即席爆発装置ネットワークなど、種類はさまざまだ。このような効果は、複数領域からもたらされる可能性があり、またそうでなければならまお。無人航空機や戦場の飛行士からの照準データに基づいて、トラックから対レーダー・ミサイルを発射しているイスラエル空軍がその好例である。

 ウクライナ軍は、複数領域を組み合わせることで、見事な航空作戦を展開している。空、宇宙、サイバースペースを駆使して、補給基地や地対空ミサイル基地などの敵の主要拠点を特定し、空と地上からの攻撃を組み合わせて、拠点を無力化している。システム中心型の標的戦略がなければ、ロシア火砲の膨大な量によって、ウクライナ陸上部隊の勝算は大きく損なわれていただろう。同様に、航空機と地対空砲火の組み合わせが、ウクライナの航空作戦に不可欠な防御的対空任務を構成している。ロシアがウクライナ沿岸に艦隊を出撃させる能力を保持していれば、巡航ミサイルの発射量はもっと多くなっていたはずだから、海上領域も重要な役割を担う。オール・ドメイン・アプローチで航空作戦を展開し、ウクライナは空域での不利を補い、「航空阻止」を達成したのだ。

 航空戦力のオールドメイン・アプローチには、先例がある。第二次世界大戦の北アフリカ戦線で、イギリス空軍は技術力・兵力ともに強力なドイツ空軍を前に厳しい立場に立たされた。特殊空挺部隊の前身は、敵の空中戦の強さを補うため、地中海沿岸の敵航空基地を秘密裏に急襲した。ドッグファイトで破壊されようが、地上での火災で破壊されようが、航空機が戦闘の要因にならないことに変わりはない。ドイツ軍の地上レーダーが連合軍の爆撃機部隊に多大な損失を与えていた頃、イギリスのコマンドーが1941年のブルネヴァル襲撃でレーダーを奪取、移送するという大胆な作戦をとった。この成功により、チャフ(窓)という効果的な対策が生まれ、多くの爆撃機乗組員の命が救われた。同じ原理が、60年後のタリバンとの最初の戦いで、連合軍特殊作戦部隊がB-52の乗組員に標的データを提供したときにも働いていた。

 米軍と同盟国の立案部門に重要な教訓は、全領域統合指揮統制の技術面でも、演習を通じた戦術面でも、相互運用性を積極的に追求することにある。ブラウン米空軍参謀総長が述べたように、米軍は領域と同盟の両方で「設計から統合」されなければならない。さらに同盟国は、航空作戦で勝つため航空領域の戦力を強化し、陸海軍による敵の深部戦闘力を阻止することに貢献する必要がある。


航空戦力の本質は必ずしも攻撃ではない

アメリカの歴史で、航空戦力はアウェイゲームであった。それは、アーノルド大将の「攻撃が航空戦力の本質である」という象徴的な言葉を説明してきた。しかし、アメリカの同盟国協力国は、常に同じ仮定ができない。その結果、航空軍が効果的に防御的な航空作戦も行えないと、アメリカは不利になる。ウクライナは必要に迫られて、航空作戦でほぼ防御的なアプローチをとっている。もし、飛行場や中央防空網のノードへ大量攻撃を試みていたら、受け入れがたいほどの損失を被っていただろう。その代わりに「腐食戦略」で、ロシアが空域を支配しようとする際に摩擦と抵抗を誘発させている。それにより、残忍ながら悲劇的なほど効果的なシリア戦略、すなわち無誘導「愚鈍」爆弾による民間インフラへの絨毯爆撃を防ぐことができた。このような戦術は、作戦上も人道的にも壊滅的な影響を与えていただろう。ロシアはスタンドオフ兵器で戦争法の重大な違反を犯し続けているが、巡航ミサイルは重力爆弾よりまだましである。したがって、ウクライナの防衛戦略は、特に戦力の相関関係を考慮すれば、成功していると判断せざるを得ない。

 ここでも歴史的な先例がある。バトル・オブ・ブリテンにおいて、英空軍は、敵を消耗させつつ、決定的な交戦を回避する驚くべき自制を保った。チェーンホームレーダーシステムの助けを借りて、イギリスのスピットファイアとハリケーンは高度を上げ、侵攻してくるドイツ編隊に一度だけダイビングパスを行い、離脱した。戦闘は接戦だったが、ドイツはイギリス空軍の撃滅から民間人を標的にすることに重点を移した。これは決定的なミスであった。この戦術を毎日、毎週繰り返し、イギリス空軍はドイツ空軍を作戦を継続できないところまで消耗させたのである。

 米国と同盟国が大西洋と太平洋の舞台で直面している脅威を見れば、防衛作戦が適している。台湾やバルト海の場合、同盟国協力国である小国は、より大きな隣国の侵略リスクに直面している。中国やロシアのような攻撃者がこれらの国の上空を支配しても、被侵攻国は1万フィート以下の空域を利用、競合、または支配して、かなりの効果を上げることができる。ウクライナのAerorozvidkaのような小型無人機は、射撃指示と重力弾薬の投下で大きな成功を収めており、攻撃者の動きを鈍らせたり、注意をそらしたりするのに有効だとが証明されている。さらに、このような状況では、統合防空システム、特殊作戦部隊、従来型の肩撃ちのミサイルも、恐るべき低空環境を作り出すために使用できる。

 結論として、航空作戦はこれまでのウクライナの成功に欠くことのできないものであった。連合軍の軍事立案部門や戦略家は、特に空中戦の動きがないように見えることと重要性がないことを混同して、間違った教訓を引き出してはならない。ウクライナ空軍と防空部隊は、全領域を活用した航空作戦の実施が可能であり、膠着状態となった価値を実証している。模範的な防衛航空作戦を展開することは、特に航空面で不利な立場にある同盟国協力国にケーススタディを提供してくれる。■

 

The Somme in the Sky: Lessons from the Russo-Ukrainian Air War

MICHAEL STEFANOVIC, ROBERT “CHUCK” NORRIS, CHRISTOPHE PIUBENI, AND DAVE BLAIR

FEBRUARY 9, 2023


Col. Michael Stefanovic is a U.S. Air Force civil engineer and explosive ordnance disposal technician. A graduate of the Blue Horizons Innovation program, he led explosive ordnance disposal teams in Iraq and currently serves as head of the Air Force Chief of Staff’s Strategic Studies Group.   

Group Capt. Robert “Chuck” Norris is the Royal Air Force exchange officer to the Air Force Chief of Staff’s Strategic Studies Group. A helicopter pilot and instructor with 4,500 flying hours, he also has extensive command and staff experience in the U. K. Joint Headquarters, the U. K. Ministry of Defence and NATO headquarters

Col. Christophe Piubeni is the French Air and Space Force exchange officer to the Air Force Chief of Staff’s Strategic Studies Group. An A400M pilot and instructor with more than 4,000 flying hours and 100 combat missions, he has extensive operational and command experience, as well as staff experience in procurement and capability development. He is the Strategic Studies Group Artificial Intelligence lead and a graduate from the U.K. Joint Staff College and the Massachusetts Institute of Technology Sloan Institute. He also holds a masters of arts in war studies from King’s College.

Lt. Col. Dave Blair is the innovation lead for the Air Force Chief of Staff’s Strategic Studies Group. He is an evaluator pilot with more than 2,000 hours in the MQ-1/9 and AC-130. A graduate of the U.S. Air Force Academy and the Harvard Kennedy School, he holds a Ph.D. in international relations from Georgetown University, where he teaches as an adjunct professor on the politics of defense innovation. 

The authors are all members of the Trilateral Strategic Initiative, which was created a decade ago to strengthen operational effectiveness by encouraging continued collaboration and exchanges between the Royal Air Force, the U.S. Air Force, and the French Air and Space Force. The views expressed are those of the authors and do not reflect the official guidance or position of the U.S. government, the Department of Defense, the U.S. Air Force, or the U.S. Space Force. The appearance of external hyperlinks does not constitute endorsement by the Department of Defense of the linked website for the information, products, or services contained therein.

Image: Wikimedia Commons


ウクライナ戦の最新状況 二年目に入りロシア戦死者14万名と言われる中、めぼしい戦果が生まれないロシアは焦っている

ウクライナ無人機の攻撃を受けるロシア軍戦車 Image Credit: YouTube/Ukrainian military.


クライナ戦争が1周年の節目を迎えようとしている。

 紛争開始から363日目、ドンバスでの戦闘は休むことなく続いている。

 ロシア軍は侵攻1周年を前にバフムートの攻略を試みているが、ほぼ不可能な状況だ。



ロシア軍の死傷者

 ロシア軍はウクライナで兵士を失い続けている。

ウクライナ国防省は、火曜日現在、ウクライナ軍がロシア軍を約144,440人(負傷者はその2倍から3倍)殺害したと発表している。

 破壊された装備品は以下の通り。戦闘機、攻撃機、爆撃機、輸送機299機、攻撃・輸送ヘリコプター287機、戦車3,326両、大砲2,338門、装甲人員輸送車・歩兵戦闘車6,562両、多連装ロケットシステム(MLRS)471基、ボート・カッター18隻、5, 210台の車両と燃料タンク、243台の対空砲台、2023台の戦術的無人航空機システム、226台の架橋車などの特殊装備プラットフォーム、4台の移動式イスカンダル弾道ミサイルシステム、ウクライナ防空が撃ち落とした873個の巡航ミサイルなどだ。


ウクライナにさらなる武器を

 バイデン米国大統領は、ウクライナを訪問し、同国への新たな安全保障支援策を発表した。

 今回の武器供与はウクライナ軍が受け取り済みの大砲の弾薬が主だ。

 一方、ウクライナは西側諸国数カ国分の主戦闘戦車の最初のロットの受け取りを待っている。ウクライナ軍は、Challenger 2、Leopard 1、Leopard 2、M1A2エイブラムズの各主戦闘戦車を受け取る予定である。


地上での戦い

 地上では、ロシア軍は攻勢作戦を続けている。東部では、ロシア軍はクレミナ郊外からウクライナ軍を押し返そうとしている。

 9月以来、ウクライナ軍はクレミナに到達し、そこからさらに東にある重要な物流拠点スヴァトヴを解放しようとしている。スヴァトヴは東部とドンバスのロシア軍への供給拠点であり、ウクライナ軍がここを占領すれば、ロシアの攻撃作戦を大きく挫くことができる。

 ロシア軍はドンバス地方のバフムート、ヴュレダー方面でも攻撃作戦を続けている。しかし、各攻撃は代償が高く、特に先陣を切るロシア軍第155旅団と第40海軍歩兵旅団は、「戦闘不能」と思われるほど高い死傷率を出していると、英軍情報部は指摘している。

 「ロシア軍は、侵攻記念日が近づくにつれ、政治的圧力を強めているようだ。ロシアは、現地の実態にかかわらず、記念日に合わせてバフムートを奪取したと主張する可能性が高い」と英情報部は最新情報の中で評価している。

 「ロシア軍の春攻勢が何も達成できなかった場合、ロシア指導部内の緊張は高まるだろう」と英軍情報部は付け加えた。

 ロシア国内の緊張は今に始まったことではない。

 悪名高い民間軍事会社ワグナー・グループは、ロシア国防省から十分な支援を受けていないとし、弾薬補給さえ十分でないなど、常に不満を口にしている。■


Putin The Desperate: 144,000 Dead In Ukraine And Nothing To Show For It?


ByStavros Atlamazoglou

https://www.19fortyfive.com/2023/02/putin-the-desperate-144000-dead-in-ukraine-and-nothing-to-show-for-it/


Expert Biography: A 19FortyFive Defense and National Security Columnist, Stavros Atlamazoglou is a seasoned defense journalist specializing in special operations, a Hellenic Army veteran (national service with the 575th Marine Battalion and Army HQ), and a Johns Hopkins University graduate. His work has been featured in Business Insider, Sandboxx, and SOFREP.


米連邦議会にウクライナへのF-16供与の声が高まってきた

 

An F-16 jet flies on October 22, 2020, in Spangdahlem, Germany. | Maja Hitij/Getty Images



戦闘機が 「今年のウクライナ領空支配の決め手となる」との主張が下院に出ている


党派議員グループが、ロシア侵攻に対する戦いが2年目に入ったウクライナにF-16戦闘機を送るよう、ジョー・バイデン大統領に圧力をかけている。

 下院議員5名は、POLITICOが入手したバイデンへの木曜日付書簡で、キーウが求めているが政府は同意していない最新のジェット機を「今年のウクライナ領空支配で決定的な影響を与える可能性がある」と主張した。

 「このような航空機の提供は、ウクライナ領空を守るために必要だ。特にロシアの新攻勢を考慮し、大規模な戦闘行為の増加が予想されるためだ」と議員らは書いている。

 書簡は、メイン州選出の民主党議員ジャレッド・ゴールデンJared Goldenが企画した。また、コロラド州のジェイソン・クロウ Jason Crow、ペンシルベニア州のクリッシー・ホーラハンChrissy Houlahan、に加え共和党ではテキサス州のトニー・ゴンザレスTony Gonzales、ウィスコンシン州のマイク・ギャラガーMike Gallagherが署名している。

 この書簡は、キーウに米国製戦闘機を与えるべきという議会からの最新の提案だ。また、両党のウクライナ支援支持者が、支援を縮小しようとする下院共和党の新会派を取り込もうとしているところでもある。

 議員たちは、ロッキード・マーチン製のF-16や同等の戦闘機があれば、米国や他の国々が提供する地上砲よりも高い能力をウクライナ軍に与えられると主張している。

 「F-16や同様の第4世代戦闘機は、ロシアの空対空ミサイルや無人機を狙う高機動力プラットフォームをウクライナに提供し、ロシア軍と交戦中のウクライナ地上軍を保護し、ロシア戦闘機と交戦し制空権を争うことができる」と議員連は主張している。

 議会での超党派の動きは、主戦闘戦車を前線に送り込むという米独の協調的な決定の後に出てきた。論争を経て、米国はエイブラムス戦車を送ることに合意し、ドイツはより早く戦場に投入されるレオパルド戦車を寄贈することになった。

 しかし、バイデンは先月、ウクライナにF-16を送ることを拒否するように見えたが、その後、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と話すと述べた。

 バイデンがF-16を送らない選択をしたとしても、アメリカ製の戦闘機を飛ばす他の西側諸国は、ウクライナに送ることができる。

 POLITICOによると、この動きは国防総省で活発化している。しかし、ウクライナには砲兵、防空、装甲の方がより必要だとの意見もある。

 米国製F-16は、1年前にロシアの侵攻が始まって以来、キーウの兵器希望リストに載っている。議員たちは、古いミグ戦闘機をウクライナに譲渡する東欧諸国にF-16を送るべきだとも言っている。この動きは超党派の支持を得たが、武器交換は実現しなかった。

 バイデンへの提案で議員たちは、ウクライナ軍パイロットを訓練するのに必要な時間を考えれば、F-16決定は「迅速になされなければならない」と主張している。

 しかし、彼らは、ウクライナ軍パイロット多数が、戦前から大規模演習で米軍から訓練を受けていることを指摘し、「ウクライナの軍事能力を強化し、この紛争を公正に終結させるための健全な戦略的投資だ」と主張している。■



Democrats, Republicans join up to urge Biden to send F-16s to Ukraine - POLITICO

By CONNOR O’BRIEN

02/17/2023 07:52 AM EST


2023年2月24日金曜日

2年目に入ったウクライナ戦の行方を大胆に予想する

 

Russia's T-90 tanks. Image Credit: Creative Commons.


シア・ウクライナ戦争の1年目が終わろうとしている。当時紛争が数週間以上続くと予想する向きはほとんどいなかったが、キーウやオデーサへの攻勢が挫折すると、ロシアの迅速かつ決定的な勝利への期待は急速に薄れた。ロシア軍が挫折し崩壊するというウクライナの期待も、急速動員で戦線全体でひどく傷ついた部隊を補うロシアの動きより同様に打ち砕かれた。

 この数ヶ月、ロシアもウクライナも(そして西側諸国のウクライナ支持者も)諦める気配がないため、戦争はしばらく続くと分析されている。その一方で、紛争は一定のリズムを刻んでいる。

 2年目はどうなるのだろうか。


ロシアの攻勢

NATOのオブザーバーは、予想されるロシアの春季攻勢はすでに始まっていると見ている。

 ロシアはドンバスで、連動した進攻軸で前進しており、あるところでは大きな成功を収めている。

 この地道な攻勢は、キーウを脅かし、ウクライナを戦争から追い出すような、大きな突破口を開く可能性は低いと思われる。ロシア軍は1年前に比べ、最新鋭の装備や経験豊富な部隊の多くを戦場で失い、多くの点で物足りなさを感じている。

 しかし、ウクライナ軍に深刻な死傷者を出し、貴重な弾薬を使用させるなど、ダメージを与えていることは間違いない。

 ロシアが紛争を拡大する見込みは厳しいと思われる。ケルソン奪還で、ロシアが黒海沿岸で攻勢をかける可能性はなくなった。ウクライナに対するロシアのミサイル攻撃は損害を与えたが、ウクライナの士気には大きな打撃を与えていないようだ。

 最後に、ロシアはベラルーシからの作戦をウクライナの西部および北部地区に対する脅威とする用意はないようだ。


ウクライナの反攻

 ロシアが成功しても失敗しても、ウクライナ側には反撃するチャンスがあり、兵力、弾薬、車両などロシア軍全体の戦力を消耗させることができる。

 ロシアの攻勢が頂点に達した段階で、ウクライナ軍はロシアの前線を突破し、昨年失った領土の一部を奪還するための作戦を準備することが予想される。

 ロシア側と対照的に、ウクライナは1年前よりも高性能な軍隊を編成して臨むだろう。欧米からの武器供与により、ウクライナ軍の技術的・物質的基盤が向上したことは間違いないが、訓練や西側兵器の統合については深刻な問題が残ったままだ。

 ロシアの防衛力は数カ月前より手ごわくなっており、ウクライナの能力を試す深刻な試練となる。


外国勢の介入

この紛争の残りの大部分は外国の介入に依存することになるが、外国の介入は戦場での結果を条件とするものだ。

 ウクライナの強さとウクライナの弱さのどちらが海外からの支援に影響を与えるかは、一概に言えない。ロシアの攻勢が成功の兆しを見せれば、欧米諸国はキーウに迅速に兵器を追加輸送する必要に迫られるかもしれない。ウクライナの反攻でかなりの領土が奪還されれば、同様にヴォロドミル・ゼレンスキー大統領に「ウクライナは最後まで支援が必要だ」と主張する材料を提供することになるかもしれない。最大の論点は、戦車の移送、長距離ミサイルの移送、そしてもちろん西側諸国の最新鋭戦闘機の移送であろう。

 しかし、欧米の態度だけが問題ではない。今、中国の戦争介入の問題が浮上し、アメリカのトニー・ブリンケン国務長官はロシアへの武器供与を中国に警告している。中国がロシア支援を強化すれば、ロシアの戦況は大きく改善されるだろうが、支援を戦闘に組み込むのは複雑なこととなる。

 同様に、ロシアは、イラン、北朝鮮、ベラルーシの協力を積極的に促すことができる。イランは地理的な機会を提供し、北朝鮮は物質的な支援を提供する。

 

終戦交渉の行方

ロシアもウクライナも、戦争に勝つ見込みはない。ロシアがキーウを占領しウクライナ政府を破壊する可能性は低く、ウクライナもロシア軍を破壊したり占領地から追い出したりする可能性は低い。しかし、戦場と交渉の間には、一般に考えられているほど大きな壁はないことを理解することが重要だ。

 領土を奪い、大隊戦術群を破壊することは、すべて外交上の口実を意味する。ウクライナがスネーク島を奪還したことは、キーウが和平交渉で戦略的な領土の塊を取り返す必要がないことを意味する。

 しかし、だからといって、交渉が今年中に実現するかというと、そうではない。おそらくそうではないだろう。

 軍事的な状況は年内に進展するだろうが、交渉の席でどちらかが決定的な優位に立つということは、今のところなさそうだ。キーウとモスクワは、世界のオブザーバーに「理性」を示すために会談するかもしれないが、どちらも真剣に譲歩する用意はないようだ。

 これからの1年間、我々は2人の巨大なボクサーのパンチとカウンターパンチを見ることになる。巨体でパワフルなロシアは、ウクライナに先制攻撃を仕掛け、小型で素早いウクライナは、ロシアがバランスを崩すか見守ることになる。戦場での結果が、外国の戦争介入のあり方や程度を決めることになり、最終的には交渉による和平の土台を築くかもしれない。■


War In Ukraine: What Happens In Year Two?

ByRobert Farley

https://www.19fortyfive.com/2023/02/war-in-ukraine-what-happens-in-year-two/



Author Expertise and Experience 

A 19FortyFive Contributing Editor, Dr. Robert Farley has taught security and diplomacy courses at the Patterson School since 2005. He received his BS from the University of Oregon in 1997, and his Ph. D. from the University of Washington in 2004. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020), and most recently Waging War with Gold: National Security and the Finance Domain Across the Ages (Lynne Rienner, 2023). He has contributed extensively to a number of journals and magazines, including the National Interest, the Diplomat: APAC, World Politics Review, and the American Prospect. Dr. Farley is also a founder and senior editor of Lawyers, Guns, and Money.

In this article:China, featured, NATO, Putin, Russia, Russian Military