U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Jonathan Berlier
冷戦時代の潜水艦ハンターが、海軍戦闘機で海中脅威に対抗した思いもよらない取り組みを語っている
コントロールできなくても、単にコントロール不能になったにせよ、直面する問題の解決では、かつて存在した選択肢を思い出させてくれる。今日、米海軍の対潜水艦戦(ASW)に疑問符がつき、コントロールできなくなくなってきた事情から、米海兵隊と海軍が、1970年代初頭の選択肢、戦術ジェット機を潜水艦狩りに転用することを呼びかけている。
筆者はThe War Zoneに寄稿した、ソノブイを投下して音響データを中継し対潜活動を支援する海軍の戦術機(TACAIR)の実験的使用について調べる際、F-35やF/A-18にそれをさせるべしとの声が上がるとは思いもよらなかった。しかし、それはまさに米海兵隊のウォーカー・ミルズ大尉と米海軍のコリン・フォックス、ディラン・フィリップス=レバイン、トレバー・フィリップス=レバイン両中佐が、米海軍協会『Proceedings』2021年10月号掲載の論文「ASWに新たな技術を活用せよ」で提案していることなのだ。
冷戦時代の艦載対潜機
1960年代半ば、老朽化し、扱いにくく、ピストンエンジンのS-2トラッカーは、ソ連海軍の原子力攻撃型潜水艦(SSN)や各種対艦巡航ミサイル(ASCM)搭載潜水艦(SSG/SSGN)についていけなくなった。しかし、トラッカー後継機が空母艦隊に加わり始めたのは1974年だった。ツインターボファンのS-3バイキングは、より速い速度、より長い航続距離と滞空時間、高度な音響プロセッサ、より多くのソノブイを搭載し、あらゆる潜水艦の脅威をはるかに効果的に捜索、位置確認、追跡できた。
ASWで一つの時代の終わりと、次の時代が始まった。S-2トラッカーと後継機のS-3A。 U.S. Navy
海軍は空母戦闘群(CVBG)のASW能力強化で応急処置として、TACAIRの使用を決定した。投下されたソノブイが発する音響データを別ポッドで中継し、空母や他のASW能力保有艦に解析させることも可能だった。もちろん、A-7コルセアIIやA-6イントルーダーは、潜望鏡深度や水面に潜水艦が姿を現せば、弾薬を大量投下することも可能だった。
しかし、今日、残念ながら、同じ能力を有する機材はない。P-8ポセイドンやMH-60Rシーホーク・ヘリコプターを補完し緩和できる奇跡などない。
え、F-35とホーネットをASWに投入するの
「海軍は、中国のステルスで強力な長距離脅威から防衛するため、新しく革新的な対潜水艦戦プラットフォームを必要としている」と、Proceedings論文の共著者は主張している。バイキングのような航空機が海軍にないことを知っているので、50年前に戻り、ASWミッションにTACAIRを使用する概念を復活させるよう海軍に推奨している。高速移動可能な航空機は、空母打撃群(CSG)と遠征打撃群(ESG)の脆弱な中・外郭防御域をカバーできる。
TACAIRクルーがブイ投下や中継任務でASWの暗黒技術に手を染めていた以前とは異なり、共著者は一歩踏み込んだ提案をしている。
「ASW設定のF/A-18やF-35は、退役ずみS-3バイキングの役割を担い、有機的で高速かつ長距離のASWを空母航空団に復活できる。空中ASW パトロールは、IRST(赤外線捜索・追跡)で標的の位置を正確に把握し、空対空ミサイルで飛来するミサイルを撃退しつつ、標的地域に迅速移動し緊急攻撃を行い、後続部隊用に各種センサーを展開できる。海軍は、S-3B後継機を新しい機体で再登場させるのではなく、F/A-18とF-35を使用して、より高性能なセンサー、無人技術(ウイングマンとしてのMQ-25を含む)、および遠方の潜水艦を攻撃する新兵器を活用すべきなのである。しかし、S-3のような長い滞空時間がないため、新しい作戦コンセプトを可能にするためには、長時間移動センサーと水平線超え中継で新しいツールキットが必要になろう」。
試験中のスーパーホーネットのセンターラインタンクに組み込まれたIRST21ポッド。米海軍. U.S. Navy
2021年8月、E-2DホークアイによるMQ-25スティングレイの空中給油能力の評価。 Boeing
戦時・平時を問わず、ASWの多くで対潜水艦部隊が潜水艦の存在を最初に知るのは、守るべき輸送船団や高価値部隊が魚雷(または迷惑な緑の照明弾)で攻撃された時点の「火炎放射器」方式で実施されてきた。
論文の共著者が提案するのは、TACAIRを使用しASCM発射を探知し、それを撃破し、その後、発射した潜水艦を追撃するという驚くべきものである。
海戦におけるミサイルの黎明期以来、ずっと待ちのゲームだった。ミサイルがレーダー探知範囲に入るのを待ち、失敗の余地が許されない非常に危険な距離で、ミサイルを破壊する。さらに、ミサイルを発射する前の潜水艦の位置をASWが特定していないと、戦争の霧と混乱の中で、重要なASWプラットフォームが損傷または破壊されると、攻撃目標を発見し報復する機会が急速に、または完全に減少するのは確実だった。
環太平洋演習(RIMPAC)の実弾射撃で、退役した元USSダーラム(LKA-114)を撃沈した 2020年8月 U.S. Navy
海軍のASW能力を強化するアイデアはどんなものでも今日の海軍の怠慢な状況のため、真剣に受け止められなければならない。MH-60Rが、CSG と ESG で対潜水艦の唯一の戦力であることを忘れてはならない。皮肉なことに、当時のS-2トラッカー同様に、シーホークも「潜水艦が発射するASCMから艦隊を守るためには、航続距離、速度、積載量が不足している」と共著者は述べている。ASWの守備範囲内のどこかにいる潜水艦を見つけ、位置を特定し、そして殺すことは、全員の努力が必要だ。
バハマの大西洋海底試験評価センターで撮影されたディッピングソナー搭載のMH-60Rシーホーク。2005年2月、U.S. Navy
脅威対象の潜水艦を沈め、殺傷し、抑止することに関しては、1960年代の無人ヘリコプターQH-50Cドローン対潜ヘリコプター(DASH)が探知した潜水艦に軽量のASW魚雷を投下できたのなら、今日のF/A-18やF-35がMk54魚雷、特に高高度対潜水艦戦兵器能力(HAAWC)を搭載できないわけがないのである。超軽量魚雷(VLT)であれば、戦闘機でも数本搭載可能だ。フォークランド紛争が21世紀の米海軍に何らかの教訓を与えるとすれば、それは次の海戦でASW兵器がどれだけの使えるかであろう。
Proceedings記事が掲載されると、ソーシャル・メディアの「海軍関係者」からの批判に気づいた。しかし、コルセアIIからソノブイを投下したA-7パイロットが、ASW任務のためのTACAIRの現代的な使用を支持しているのを見て、筆者は嬉しい驚きを覚えた。
ズニロケットポッドでソノブイを発射していた
海軍歴30年、海軍大学校(NWC)名誉教授のロバート・"バーニー"・ルーベル退役大佐は、USSインディペンデンス(CVA-62)からA-7を飛ばした経験をもつ。Proceedings記事について、こう書いている。
「USSインディペンデンスは、75-76クルーズでCVAとして展開した...ズニポッドを改造し、ソノブイを後部から飛び出させ(ポッドあたり8個)、ドロップタンクに無線リレーを装備する改造をした。リレーポッドをタンカーに搭載し、ソノブイポッドをSSSC(Surface, Subsurface, Surveillance, and Control missions)を行うA-6とA-7に搭載した」。
ズニポッドを搭載したA-7コルセアII。 Courtesy of the A-7 Corsair II Association
筆者の調査では、TACAIRによるASW実験に使用された空母はUSSサラトガ(CV-60)だけであった。
興味深いのは、S-3が供用開始した後も、ソノブイ投下にA-7やA-6を使う選択肢があったことだ。ルーベル大佐は著者のメール問い合わせに対し親切にプロセスを詳しく教えてくれた。
「ブイに関しては、ウェポンテーションとマスターアームを選択し、ピックルスイッチを押して、ズニポッド後部から2つ放出させるだけでした。ASWモジュール担当者がブイの設置方法を指示し、私たちは慣性航法システムを使い指定場所にブイを設置した。ASW任務では、通常ポッド2つに合計16個のブイを搭載していました」。
TACAIRのパイロットは、実際にソ連潜水艦の捜索に参加した。地中海のイオニア海で、NATO演習を盗み見ようとしたジュリエット級SSGが発見されたことを、ルベルは説明してくれた。コルセアIIとイントルーダーは、ブイ投下任務をこなし、見事に同潜水艦を 「追い払った」。
ミサイルランチャーの1つを上げた状態で航行中のソビエトのジュリエット級巡航ミサイル潜水艦 DVIDS and NARA
ASWの地味な性質を知る筆者は、ルーベル大佐に、彼と仲間のA-7パイロットがこの種の任務についてどう感じていたのか尋ねた。「文句を言う者は一人もいなかった。私たちは通常、E-2(ホークアイ)が見つけた遠方のレーダーコンタクトを確認するため、SSSC任務にあたっていた」。
TACAIRパイロットがSSSCとASWの任務をなぜ平気でできていたのか、ルーベル大佐の指摘は刺激的だ。「73年末にソ連のメッド・エスカドラと遭遇し、我々には海上戦が全てであり、ASWはまさにうってつけだった」。大佐はNWCの記事 "The Tale of Two Fleets" に詳しく書かれている、ヨム・キプール戦争中の米第六艦隊とソ連海軍地中海戦隊(エスカドラ)のにらみ合いを指していた。
そして、驚きの連続であった。TWZのコメンテーターの一人である「N-Drive」は、AV-8ハリアーもソノブイポッドで武装していたと指摘してくれた。
ハリアーのパイロットでもできる
米海兵隊がAV-8A(英国製ハリアーの米国版)の運用を開始したのは、海軍が制海権艦(SCS)建造を本格検討していた時期だ。SCSコンセプトは、輸送船団や補給艦、水陸両用軍団など重要部隊を航空およびASWで支援する護衛艦となる小型甲板の空母だった。ハリアーは主に攻撃と防空に使用され、ASW任務にあたるSH-3シーキングを保護・支援するとされた。
1974年の地中海派遣で、暫定的にSCSとして活動していたUSSグアム(LPH-9)に搭乗していたマイケル・スミアレック中佐が書いた論文には、小型空母がジブラルタル海峡の内側にソノブイ・バリアを展開する任務が与えられたと書かれている。同海峡は、潜水艦にとって悪名高いチョークポイントであった。ソノブイ敷設は、ソ連SSNが到着するのを見越してのことだった。「ソノブイの大部分はSH-3Gヘリコプターや時にはハリアーから様々なパターンで投下された」。VMA-513 "Flying Nightmares" はHS-15の "Red Lions" からシーキングと一緒に飛んでいた海兵隊分遣隊だった。
1972年1月、アメリカ海軍の水陸両用強襲揚陸艦USSグアム(LPH-9)に搭載されたVMA-531のAV-8AハリアーとHS-15のSH-3Aシーキング。 U.S. Navy
USSグアムは、最高速度23ノットと比較的遅い水陸両用空母であった。ソ連のSSNはもっと速く、同艦を簡単に追い越すことができた。追跡中の潜水艦が空母やSH-3の有効射程から離れ始めると、「...ハリアーを出撃させグアムから50~100マイル離れた潜水艦が向かったと思われる方向にソノブイを投下していたかもしれない」という。
海兵隊にとってASWは、前例のない任務ではない。第二次世界大戦中、海兵隊がカリブ海と太平洋でドイツと日本の潜水艦を相手に対潜哨戒を行ったのを覚えている人は少ないだろう。21世紀に海兵隊が行う任務が騒がれる中、MV-22オスプレイやヘリコプターが、潜水艦を倒す海軍を支援するためブイ投下することが増えている。USSグアムからのハリアー作戦と同様に、F-35BがASW活動を支援するのは非常に興味深い。
2021年7月、カリフォルニア州サンクレメンテで行われたサマーフューリー21演習で、米海軍の潜水艦の上を飛ぶ第3海兵航空団第16海兵航空機群、海兵軽攻撃ヘリコプター隊267の米海兵隊AH-1ZヘリコプターとUH-1Yヘリコプター。U.S. Marine Corps
UH-1Yもこの能力を実験しており、ESGに搭載する際や遠征前進基地作戦(EABO)で付加価値を生む可能性がある。UH-1Yの攻撃型AH-1Zも、対潜水艦キルチェーンのキネティックエンドで潜在的な役割を果たす可能性がある。新しい対艦作戦のコンセプトと、リンク16データリンク機能を含むアップグレードで、UH-1Yと並ぶユニークなポジションを得られる。海軍の無人機MQ-8ファイアースカウトも、ASW任務を担うことができるプラットフォームだ。しかし、各機はヘリコプターで、固定翼対潜機の速度と範囲に劣る。
Q-9リーパーファミリーは、ソノブイを投下しデータを信頼する能力も開発した。リーパーは空母搭載機ではないが、この点でも役立つ可能性があり、空母搭載コンセプトが描かれているようだ。
米海軍は問題を抱えたままだ
将軍と同様、提督は常に最後の戦争で次の戦闘に備える。過去 30 年間に ASW 能力を衰退させただけでなく、来るべき海中戦に備えることなく、数十年を無駄に 過ごしてきた。したがって、ソ連海軍と戦うため設計されたプラットフォームやコンセプトで仕事をせざるを得ない若い士官が、1971年当時で革新的だったアイデアを再検討しなければならないとしても、驚くにはあたらない。
残念ながら、共著者が主張するように、ASW設定のF-35やF/A-18が「S-3バイキングの役割を担う」という考えには根拠がない。対潜水艦戦の複雑性のため、中・外側のASWゾーンをカバーする航続距離、耐久力、センサー・武器搭載量を備えた空母ベースの専用固定翼機が必要だ。F/A-18、F-35B/C、MQ-25は、これにあたらない。
現実には、空母搭載TACAIRには、ASWよりもはるかに重要な任務がある。中国海軍の台頭、新型のディーゼル電気潜水艦の普及、そして復活したロシア海軍の挑戦を前に、米海軍はS-3Bバイキングの後継機に焦点を当てるべきであったのだ。CMV-22 オスプレイや改良型 E-2Dは、CSG で最適なプラットフォームが設計・開発されるまでの暫定的なオプションとして使用できるだろう。
当面はASWの負担を想像的、効果的、現実的な方法で艦隊全体に分散させる方法を検討し、手遅れになる前に達成しなければならない。したがって、この二機種の戦闘機が、CSG/ESGの対潜任務で重要な一部となるはずだ。■
Reviving The Use Of Navy Tactical Jets As Submarine-Hunters
BYKEVIN NOONAN|PUBLISHED FEB 23, 2023 4:14 PM
Kevin Noonan served in the US Navy from 1984–94 as a sensor operator (SENSO), briefly, in the P-3B Orion with VP-94 and for the remainder of his service as a SENSO in the S-3A/B with VS-41, VS-24, and VS-27.
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