2020年7月22日水曜日

米陸軍がブラッドレイ戦闘車両の後継装備の提案要求を公表

   

シリア北東部の名称非公開地点にある米陸軍基地で待機するブラッドレイ戦闘車両部隊 Nov. 11, 2019. (Darko Bandic/AP)


陸軍は遅れている有人操縦切り替え式戦闘車両 optionally manned fighting vehicle (OMFV)で初期設計段階での提案要求原案を7月17日に発表した。ブラッドレイ歩兵戦闘車両の後継装備の再立ち上げで大きな一歩となる。

OMFVは陸軍が目指す次世代指揮統制事業f Army Futures Commandで初の大規模調達案件となる。

初期段階は40日間の期間で、業界の反応を吸い上げて次のRFP段階に移るもので、今年後半にRFPが出る。最終版RFPは2021年6月の予定で上上限5社に設計契約を交付し、次の競合段階に移る。

「OMFV事業では五段階の最初の段階にあり、業界の意見、希望や画期的な思考内容がかぎとなります」とブライアン・カミンズ少将(地上戦闘車両装備の統括官)が声明文を発表した。「業界にはフィードバックや知見を期待し、真の意味で画期的な車両が実現するようにしたい」

次世代戦闘車両横断機能チームを率いるロス・コフマン准将がここに加え、「望ましい性能諸言を細かく定義することで設計を必要以上に制約させないことが決定的に重要と考える」と述べている。

「陸軍は業界とオープンな意見交換を保ち、OMFVの最終的な性能諸元に技術面の進歩の裏付けを与えたいと考えている」

業界から情報フィードバックを重視する姿勢は同事業の過去を振り返れば意外な感はしない。OMFV構想が生まれた時点で陸軍は試作競技を二社に絞りこみ、評価の末一社を採択する構想だった。

だが昨年10月にOMFV提案企業はジェネラルダイナミクス・ランドシステムズ一社となり、他の企業は要求内容と日程のため脱落していた。

その結果、1月に陸軍は事業を再度立ち上げなおすと発表し、競合を促すとした。そこには3月に開かれた議会公聴会で幹部が猛烈な批判を受けたこともある。

RFP原案は政府の入札公募ウェブサイトに7月17日に掲載されており、「業界による設計の自由度とともに技術革新の盛り込みを許すべく、陸軍は性能諸元の数値表現や説明はしない」とある。

カミンズ少将は「業界を一定の解決策の中に封じ込めるまねはしたくない」と説明。「業界には逆にこれまで得た知見から創造的な思考で陸軍に画期的な技術内容や解決策を提示するよう奨励しつつ、構想の実現を目指したい。実用化されつつある新技術を採用しながら将来の発展性の余地を残したOMFV装備を実現したい」■

この記事は以下を再構成したものです。

US Army releases draft RFP for Bradley vehicle replacement

By: Aaron Mehta

2020年7月20日月曜日

F-15無敵伝説に異論を唱える筋の主張の信ぴょう性は?

F-15は高性能かつ高信頼度の機材だ。高齢化しているとはいえ退役までまだ活躍するだろう。

ボーイング及び米空軍の公式発表ではF-15の戦歴は104対ゼロの圧倒的勝利とある。だが敵勢力の空軍部隊にこの伝説的戦闘機を撃墜したとの主張もあるのは事実だ。

撃墜主張に共通項が一つある。証拠が皆無なのだ。

初期の成果はほとんど公表されていない。イラク空軍の39飛行隊MiG-23MSがイスラエル空軍のF-15をイラク西部で撃墜したと主張が1978年からある。イラク空軍の退役関係者がこの主張を繰り返しているものの、証拠は提示できていない。

次のF-15撃墜と称する1981年春の事案のほうが知名度が高い。話は各種変形しているが、事実上すべてがロシアのメディア発だ。

一番多く引用されたのは1981年2月13日のイスラエルF-15編隊がシリアのMiG-25P編隊に待ち伏せ攻撃し、うち一機を撃墜したとするものだ。その報復でシリアが1981年6月29日にMiG-25P編隊でR-40/AA-6アクリッド空対空ミサイルを25マイル地点から発射しF-15一機を撃墜したとする。

だが、この話には無理がある。シリア、ロシア双方がレーダー記録テープや機体残骸といった証拠を提示していない。またシリア空軍はMiG-25Pは受領していない。フォックスバットを導入したが二機がMiG-25PDS迎撃機仕様で、MiG-25Pではない。

MiG-25PDSは輸出用劣化版といわれるが、実は初期型よりも装備は充実している。強力なスメルチ2Aレーダーを MiG-25P同様に搭載し、赤外線探知追尾システムを機体前方下部に、レーダー警告装置を空気取り入れ口内のブリスターにそれぞれ搭載し、チャフ、フレア放出装置も主翼に積む。そこで「シリアのMiG-25P」というだけで信憑性が下がる。

さらにイスラエルが1981年2月に撃墜したフォックスバットはMiG-25R偵察機でレバノン上空を単独飛行していた。ロシアの言い分と異なり、シリアはMiG-25PDS単機でF-15を報復撃墜したと言っているのでこのことは重要だ。

シリアで流布している話ではMiG-25PDSにMiG-25Rの偵察飛行を模して高高度高速でベイルート方面に飛行させたとある。イスラエルがF-15の八機編隊を迎撃に向かわせると、シリア機がR-40二発を編隊の先頭機に向け発射し、一発は距離は37マイルで、残りは31マイル未満で、AIM-7Fスパローの有効射程外だった。スパローは当時のイスラエルで最長射程を誇る空対空ミサイルだった。

シリアによればF-15は被弾し海面に墜落した。イスラエルパイロットは射出脱出したらしい。同様の対決場面に触れ、イスラエルではF-15でMiG-25をスパローミサイルで撃墜したとの報道が出た。

もっと有名な事例は1982年6月9日のことでシリアのMiG-21がF-15DにR-60/AA-8アフィドミサイル一発を命中させた。大損害を受けたものの同機はイスラエルに帰還し緊急着陸した。機体はその後修復された。

そのほかにも注目すべき事例があった。1982年7月3日にシリアのMiG-21八機編隊がイスラエルのF-15四機、ミラージュIIICJあるいはクフィール四機とベイルート上空で遭遇した。シリアは四機を喪失したもののイーグル一機を撃墜したと主張。

この時の空戦に触れたイスラエル記事はないが、地上に目撃者数十名がおり、レバノン報道が伝えていた。

最後に、ロシア側記事では少なくとも三機のイスラエルF-15を撃墜し、すべて1983年のこととある。シリアのMiG-23MLがF-15二機を10月4日、もう一機を12月4日に撃墜したという。その主張を裏付ける証拠はロシアは提示していないが、関係したシリア空軍パイロットの氏名は示している。■

この記事は以下を再構成したものです。


Is the Air Force's F-15 Eagle Really Invincible?

It keeps winning big in practice war games.


2020年7月19日日曜日

主張 核兵器誕生75周年にペリー元国防長官が核兵器使用権限について懸念を示す


The world's first nuclear explosion on July 16, 1945, in New Mexico.


1945年7月16日午前5時30分。史上初の核のきのこ雲が閃光とともにニューメキシコの砂漠に出現した。ハリー・トルーマン大統領は広島、長崎へ初の原子爆弾投下を命じ、200千名の生命が瞬時に消えた。

だが、それで最後だった。米国、ロシアは核兵器数万発の整備に数兆ドルを使ったが、核兵器は一回も戦闘投入されていない。その理由は幸運がすべてで政策決定はわずかな役目しか果たしていない。

我々が共著した新刊The Buttonであきらかにしたようにトルーマンは軍将官から核爆弾使用を取り上げ、文官に使用をまかせる構想だった。トルーマンは100千人もの生命を奪うのは「考えるだけで恐ろしい」と思った。このため三発目以降の投入は中止されたのだろう。ただトルーマン構想では原爆使用の権限を与える文官は大統領一人だった。その後の米大統領は全員が核戦争を開始する権限を有していることになる。

話は一気に2020年に飛ぶ。米国民の大多数はこの権限について知らない、または意識していない。これまでは。ドナルド・トランプ大統領の不安定な気性と権利濫用傾向のためこの大統領権限が懸念されている。ただし、核のボタンに指を置きそうな精神状態の大統領はトランプが初めてではない。リチャード・ニクソンも退陣前数か月は大量飲酒していた。また今後の大統領に無謀な動きに出るものがいないと断定できない。

トランプが大統領の座にあるかぎり普段なら話題にならない疑問が出てくる。大統領にここまでの権限を与えてよいのか。そもそも必要なのか。冷戦時の残滓なのか。

この形でよいはずがなかった。ジョン・ケネディ大統領は1962年に「論理的に言って合衆国大統領が核兵器投入の決定に動く理由がない。歴史の必然でこの権限が与えられているのである」と書いた。ま神話の正当性はずっと前から誇張されたままだ。

神話その1:米国は数分で核兵器を発射する体制にある。

トルーマン以降、大統領に権限を認める理由は核戦争の予防から逆に核兵器使用の促進に代わってきた。ロシアの核ミサイル攻撃は米国本土に30分未満で到達する。実現すれば核の真珠湾攻撃となり、瞬時に大破壊となる脅威のもとで生活しているのが現実だ。これは1960年代から変わらない。こうした攻撃の可能性がごく少ない、あるいは米国は即座に反応すべきと考える理由がない。ともに危険な仮定であり、大統領が時間の重圧の中で最悪の破滅的決定を下してしまうかもしれない。核戦争勃発を防ぐには大統領に考える時間をもっと与える必要がある。

たとえば、米国の大陸間弾道ミサイルICBMは脆弱な装備で、大量攻撃の到達前に発射しないと、格納サイロ内で破壊される。だからといって即座の発射を正当化できない。米国には他に核兵器数百発が潜水艦に残り、爆撃機も発進できる。このためロシアが先制攻撃に乗り出せば自殺行為となる。ロシア指導部がいかに無慈悲でも自殺行為には走らないはずだ。

さらに攻撃警報で即座にICBMを発射すれば極度なまでの危険行為となる。「攻撃」が誤報の場合があり、実際に過去発生している。ペリー元長官も在任中に誤報の警告を二回経験した。誤報で核兵器を使用すれば、誤って核戦争を勃発させる究極の悪夢となる。

神話その2: 大統領は過ちを冒さない

もちろんこれは誤りである。核戦争の迅速決定となると、大統領は不十分な情報のまま判断の可能性があり、感情が不安定となったり、飲酒の影響下の場合もある。あるいは誤報に反応する可能性もある。

ロナルド・レーガン大統領は核兵器使用の決定は6分間で下す必要があると述べ、「すべてが素早く展開する危機状況ではじっくり検討したり理由を考える余裕がない」と述べていた。

神話その3:核兵器はサイバー攻撃に脆弱ではない

サイバー攻撃がコンピューター、配電網、通信設備にどこまで被害を与えるかを考えることが多い。事実はわが方のネットワーク対応システムは核兵器の指揮統制用装備も含めすべてサイバー攻撃の前に脆弱である。敵がコンピュータを乗っ取り米国に核攻撃が迫っていると誤報を与えたとしよう。実際には何もないのに攻撃の接近を「見る」ことになる。サイバー脅威は偶発核戦争の危険を大幅に引き上げる。

こうしたリスクを減らすべく次期大統領は核政策そのものを変更する必要に迫られる。大統領の専権事項たる核兵器使用権限も含み核兵器の先制使用を禁じ、陸上配備ミサイルは段階的に廃止すべきだ。ICBMの抑止力は機能せず、逆に核戦争による破壊の可能性を高める。偶発事故が発生すればそれでおしまいだ。

危険なほど無責任な政策が続いてきたが、75年間を核兵器となんとか共存できた。だがこれは単純に幸運のたまものであり、考え抜かれた末の結果ではない。核の惨状を回避するには、大統領に核のボタンを押させてはならない。だれが大統領になっても一人で人類の運命を支配するのはあまりにも危険だからだ。■

この記事は以下を再構成したものです。

ペリー元国防長官他が核兵器管理の現状について警句を鳴らしているのは多分にトランプ大統領を危険視しているからでしょうね。


JULY 16, 2020


  • William J. Perry served as the 19th U.S. Secretary of Defense. He is a co-author of the just-released book “The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.” FULL BIO
  • Tom Collina is director of policy at Ploughshares Fund and co-author, with former Defense Secretary William Perry, of the just-released book "The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.”

2020年7月18日土曜日

F-22: イスラエル(及び日本)はなぜ調達を許されなかったのか


スラエルは米国製防衛装備を大量入手してきた。だがF-22ラプター戦闘機を導入できなかった理由とは何か。

米イスラエル協力をもっとも強く示すのがイスラエル版のロッキード・マーティンF-35ライトニングIIで、機体改装を許されたのはイスラエルのみで、すべて中東での使用を念頭にイスラエル装備を搭載するためだった。

だがイスラエルにはF-35より多数が配備されている米製機体がある。ロッキード・マーティンによればイスラエルはF-16を300機以上入手している。1990年代の米軍余剰機材の入手から始め、イスラエルは米国外で同機の最大使用国になった。

このように緊密な軍事関係が両国にあり、技術共同開発や演習もしているのにイスラエルは希望通りにF-22を入手できなかった。なぜか。

ロッキード・マーティンは米空軍が運用し、世界最高性能の有人戦闘機であることに議論の余地はない。ステルス性能ではF-35を上回り、そのF-35は米同盟国への輸出が認められ、日本、イスラエルも調達している。

当初はソ連軍用機を空で撃破する機体として構想され、ステルス技術の最高峰を投入され、敵レーダーによる探知を逃れたほか、推力変更エンジンを二基搭載し、操縦性能を高めたほか、エイビオにクスでは機内外のセンサーの情報を融合し一つにまとめて表示する能力を狙った。

F-22の輸出に道を閉ざしたのは通称「オベイ改正法案」だった。デイヴィッド・オベイ下院議員の懸念は機微かつ極秘のF-22技術が輸出され米国の敵の手に渡りリバースエンジニアリングされることだった。とくにステルス技術を念頭に置いていた。

1998年に同議員は1998年国防総省予算認可法案に追加条項を提案した。内容は次の一文だった。「同法案で支出可能となる予算でF-22高等戦術戦闘機の外国政府向け販売を承認あるいは許諾することはまかりならない」

F-22の開発期間中に米空軍は750機もの大量調達を想定していたが、結局187機になった。

オベイ法案以外にF-22の障害となったのはF-22に対抗できる脅威がなくなったことだった。F-22はソ連の高性能機材に対抗する目的で開発されたが、ソ連解体で一時的にせよ米国の一極支配が実現し、高性能戦闘機のF-22には出番がなくなったのだった。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 17, 2020  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Reboot  Tags: F-22MilitaryTechnologyWorldStealthIsrael



Caleb Larson is a defense writer for the National Interest. He holds a Master of Public Policy and covers U.S. and Russian security, European defense issues, and German politics and culture. This article first appeared earlier this year and is reprinted due to reader interest.

2020年7月16日木曜日

50年も主力戦車の座を守るM1エイブラムズ戦車はこうして生まれた

M1エイブラムズ主力戦車は米陸軍装甲部隊で半世紀にわたり主役の座を守っている。強力な装甲、ガスタービンエンジン、120ミリ主砲を搭載したM1はドイツ南部の丘陵地帯からイラクの砂漠まで各地で実力を発揮してきた。とはいえ、当初は失敗作とされ、利害対立の構図に巻き込まれ一時は消滅の危機もあった。

1960年代末、米陸軍は次期主力戦車を模索していた。M48/M60各型は設計上の限界に達しており、陸軍は完全新設計の戦車に新技術を盛り込もうとした。ペンタゴンは当初西ドイツとの協力で新型戦車MBT-70の実現を目指していたが、技術上の課題と予算超過で頓挫した。

陸軍は新型戦車開発を再始動し、これがXM-1となりその後M1になった。新型戦車は火力、防御、移動力のすべてで大きく優位性を発揮するはずだったが、激しい内部の争いの結果、いずれでも妥協を許す結果となった。

戦車の攻撃力の中心は主砲だ。MBT-70では152ミリ戦車砲で通常砲弾以外にシレーラ対戦車ミサイルも運用する構想だった。残念ながらシレーラは信頼性が期待以下で陸軍も従来型の戦車砲に戻らざるを得ないと悟った。

ソ連の主力戦車T-62はU-5TS115ミリ砲を採用し、米陸軍のM60はM68105ミリ砲だった。スペック上はソ連の主砲が優れていたが、米陸軍はXM-1に105ミリ砲をあえて使った。陸軍の言い分は105の装甲貫通性能は有効であり、各戦車に55発もの砲弾を搭載できる。陸軍の優先事項では主砲は三番目で、装甲、標的捕捉の次だった。

皮肉なことにペンタゴンの文官は大型主砲を好み、西ドイツ開発のラインメタル120ミリ砲を一押しした。同砲だと搭載砲弾数は50発と減るが、将来登場する敵装備に十分対抗できるとされた。ペンタゴンはソ連新型戦車のT-64(120ミリ砲搭載)に懸念を示し、XM-1は対抗できなくなると見ていた。

結局、両派は妥協した。初期生産型のM1は105ミリを搭載し将来ラインメタル120ミリ砲に性能向上することした。次の生産型M1A1は1980年代中ごろより生産開始され、1991年までに各部隊に広く配備されたため、砂漠の嵐作戦ではイラク陸軍の「バビロンのライオン」と呼ぶソ連製T-72主力戦車と対決することになった。

将官クラスは小口径主砲で満足したが装甲では妥協の余地はなかった。陸軍関係者は英国で開発された画期的な装甲技術「バーリントン」のことを耳にしていた。これはその後、英国の国立武器研究開発センターから近い村落「チョバム」の名で知られることになった。

同センターの研究はRPG-7ロケット推進手りゅう弾発射装置やソ連の対戦車誘導ミサイルに対応するため各種の鉄鋼素材やセラミクスで試験していた。ポリプロピレンによる防御も検討された。残念ながら同じ重量のポリプロピレンは鉄鋼よりはるかに体積が増して運用に耐えられないと判定された。

「チョバム」は鉄鋼とセラミクスの複合材料でハニカム構造に似ており、敵弾の爆発エナジーを吸収するものだった。

陸軍関係者は新型装甲に熱狂したものの懐疑心にさいなまれた。「米国外の発明品」として斥けようとする勢力の存在が多かった。だがその効果が明らかになると反対勢力は声を静めた。これと別に新型装甲の重量が技術面で深刻な問題になった。

チョバム装甲は効果を発揮したが、砲塔まわりに配備すれば砲塔はM60の鋳造から鋼鉄溶接に切り替える必要が生まれた。これが逆にエイブラムズ戦車の外形を未来型にした。問題はXM-1に十分な装甲を与えると重量は当初の35トンが40トン、さらに52トンへ増加していったことだ。これでは機動性が犠牲になる。陸軍が夢見た軽量高機動戦車は装甲要求のため消えたのだった。

一方で陸軍は1,500馬力エンジンとM60の倍の出力を求めた。まずダイムラー・ベンツがレパード2に供給していたエンジンとテレダイン・コンティネンタル製国産エンジンのディーゼルエンジン二型式を試した。だが三番目のエンジン、航空機用ガスタービンエンジンが試され、想定外の高評価を与えられた。ガスタービンは起動が早く、加速性能が優れ、排煙なしの走行が可能で、最も重要なのはほかのエンジンより小型で3トンも軽量なことだった。ガスタービン用に大量の燃料の備蓄が最前線で必要だが、欠点も帳消しになる効果が得られた。

M1エイブラムズの開発事例は高い要求内容がほかの要素とぶつかる典型例といえる。戦車の走行性能、火力、防御、機動性を追い求めると一定の妥協が必要となる。米陸軍は潔く重量で目をつぶり、完璧な戦車の代わりに実用上十分な戦力を有する戦車が生まれた。その結果は戦場の試練で真価を最大限まで発揮する主力戦車として結実し、数々の改良を経て、時の経過に逆らい続ける装備となっている。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 15, 2020  Topic: History  Region: Americas  Blog Brand: The Reboot  Tags: TechnologyMilitaryTanksTankU.S. ArmyArmyM1 Army



Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009, he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami. This first appeared several years ago and is being republished due to reader interest. 


2020年7月15日水曜日

日本も導入を検討中のトマホーク巡航ミサイルで性能改修の動き

海軍はトマホーク対地攻撃巡航ミサイルの全面改良を企画中だ。改修規模は合計一千発となる。残りは廃棄する。その結果、米巡航ミサイル配備規模は縮小されるが威力は増大する。

トマホークはレイセオンがアリゾナで生産する。単価は100万ドルを超える。2020年時点で海軍はトマホーク4千発を保有する。ただし、改修と並行して廃棄が進むとこの数字は小さくなる。

米海軍でトマホーク事業を統括するジョン・レッド大佐が2020年水上艦協会が開いたシンポジウムで内容を述べていた。「近代化でトマホークは将来にわたり重要性を維持する」

トマホークを運用できるのは駆逐艦巡洋艦89隻に加え攻撃型潜水艦54隻に及ぶ。トマホークは1983年供用開始している。

トマホークは水上艦のマーク41垂直発射装備あるいは潜水艦の垂直発射装置または魚雷発射管から運用する。米海軍のトマホーク発射対応装備は1,000基あるが、巡航ミサイルを常時搭載するのはわずかだ。

レッド大佐によれば ブロックIV仕様のトマホーク全部をブロックV仕様に改修し、誘導性能と射程が向上する。GPS、慣性航法、地形参照型航法を組み合わせたトマホークは最大1千マイル先の標的を狙える。

ブロックIVの供用開始は2004年で旧型ブロックIIIはそれより早く1990年代中ごろから運用開始していた。ブロックIVは二方向のデータリンクで飛翔中の経路変更を可能とし、標的も変更可能となった。耐用年数は30年のはずだった。

ただし15年経過し改修が必要となったとレッド大佐は説明。「未来を今実現する」と説明資料にもあった。

そこで海軍はブロックIV仕様のトマホーク全弾を中間で「再認証」することとしレイセオンが誘導装置の新型を追加していく。これでブロックVとなる。一方でブロックIII全数の用途廃止作業が始まっている。

ブロックVには型式が三種類ある。基本形は新型誘導装置を取り付けるのみとする。ブロックVaはシーカーモードを加え水上艦艇攻撃が可能となる。ブロックVbでは弾頭を変更し、地下施設攻撃を可能とする。

レッド大佐は海軍は年間90発のトマホークを近代化改修する計画にする希望があるという。これが実現すると2030年代中ごろまでにブロックV仕様のトマホークが1,400発そろう。議会から追加調達予算が認められないと、同時期に海軍のトマホーク備蓄は現在の半分以下になる。ここには海軍が実戦で発射するトマホークの代替調達は入っていない。ここ数年で米海軍はトマホーク100発以上をシリアに発射している。

現在の使用実績が続くと海軍は今後10年間で数千発のミサイルが必要となると試算する専門家もいる。

トマホーク生産へ議会が支援を継続しないと「いつの日か敵を攻撃しようと思っても手段がない事態が来る」と同専門家はみている。ただし、トマホーク以外にも海軍はミサイル整備を進めており、今後登場するSM-6の転用でトマホークの不足分を補うという計画だ。

海軍ではロッキード・マーティンの空中発射型ステルスミサイルを原型に長距離対艦ミサイルの開発も進めている。また新型極超音速対地攻撃ミサイルも2020年代中ごろに供用開始となる見込みだ。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 14, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: U.S. NavyNavyMilitaryTechnologyWorld
 “Modernization ensures Tomahawk’s relevance now and in the future”
by David Axe 

David Axe serves as Defense Editor of the National Interest. He is the author of the graphic novels  War Fix, War Is Boring and Machete Squad.