2021年2月15日月曜日

韓国の軽空母LPX-II建造計画の根拠は相変わらず理解不能だが、国民への宣伝工作を開始しており、説明努力だけは評価したい。

 何回読んでもよく意味がわからない説明ですが、国民の素朴な疑問を想定し、理由になっていない回答とはいえ必死に展開している姿勢は評価しておきます。原文をつくった関係者もさぞや苦しかったと思いますが。


2021年2月4日、韓国海軍はLPX-II軽空母構想を国民に知ってもらおうとセミナーを開催した。セミナーはYouTubeでも中継し、「国の安全保障の中核装備としての軽空母の必要性」をテーマとした。LPX-IIを様々な角度で描いたイラストも新たに公開し、「韓国版空母打撃群」整備のめざす機能等を示す解説画像も同時発表した。


韓国海軍のめざす空母打撃群の姿

ROK Navy's future carrier strike group

韓国が実現をめざすCSG予想図(上)で興味を引くのは構成だ。

  • LPX-II 軽空母

  • KSS III 潜水艦二隻

  • KDX III バッチII駆逐艦

  • KDDX 駆逐艦

  • KDX II 駆逐艦

  • ROKS Soyang 高速戦闘支援艦

航空兵力で以下機種の姿が描かれている:

  • P-8Aポセイドン哨戒機

  • F-35B STOVL機

  • AW159ワイルドキャットヘリコプター 

  • VTOL UAV


  • LPX-II建造費をめぐる紛糾 

韓国の国防省および国防装備調達局が同日に国防事業協議会を開催していた。議題はLPX-II建造のコンセンサスづくりだったが、建造費の天文学的規模をめぐり、意見の対立がまだ続いている。また、軽空母では中国の海軍力整備に対抗できないとの意見もある。

これに対し、韓国海軍は情報公開年と質疑応対により理解を求めようとしている。(下参照)


LPX-IIの大きさ

海軍計画局主任のJeong Seung-gyunによればLPX-IIは全長265メートル、全幅43メートルで基準排水量30千トン(満排水量は45千トン程度)で、フランス海軍のシャルル・ド・ゴールにせまる艦容となり、米海軍のアメリカ級に近い。


Kim Jae Yeop博士との一問一答

Kim Jae Yeop博士はパシフィックリム戦略研究所(PRINSS)の研究員で、Naval NewsはLPX-IIの最新動向について意見を求めた。

今回のセミナー開催の理由は何か。韓国世論は反対しているのか。

必ずしもそうではない。ただ状況が厳しいのは事実だ。まず、当初予算として10百万ドル近くが財務省により年末に拒否された。今年の予算案で韓国海軍が確保できたのは10万ドルにすぎない。今回のセミナー等に使っている。政界では、野党に加え与党にも国民の了解が得られていないとの声が国防委員会に強い。

LPX-IIは韓国海軍の運用方針に合致するのか。北朝鮮への抑止力は海軍の存在意義ではないと思うが。

建造計画の正当化として北朝鮮の脅威は説得力が弱い。韓国海軍は軽空母は陸上航空基地が北朝鮮弾道ミサイル攻撃を受けた際に代替運用手段となると説明している。だが、F-35Bがわずか十数機で、しかも空対地兵器は機内に搭載できない状態では抑止効果が限られる。

 そうではなく、周辺国の中国、日本の海軍力整備がLPX-II建造の理由として説得力がある。韓国が自力で海上通行路を守るべきという理由もある。この場合は近隣海域を超えた地点を想定する。朝鮮半島周辺で海上戦闘が発生すれば、空母より費用対効果の高い対応手段がすでにある。対艦ミサイルは陸上基地運用の機材や潜水艦から発射できる。

海軍装備の調達プロジェクト多数(KSS III、 KDX III Batch 2, KDDX, F-35B など)がある中で、LPX-IIの予算が捻出できるのか。

国防省はLPX-IIは導入可能と言っている。費用は20億ドル程度で今後10年かけ建造するのであり、いきなり実現するわけではない。だが、ご指摘の通り、韓国海軍には大規模調達事業がある。このため、財政面で国防省が言う安易な事態ではない。

 とはいえ、海軍は先に実現すべき事業をLPX-IIより優先すべきだ。軽空母の建造前に整備しないと戦略的価値を産めなくなるからだ。こうした装備がないままLPX-IIを建造しても意味がなく、予算ばかり食うことになり、脆弱な艦をさらすことになる。事業に批判的な向きがこれを懸念している。


二重艦橋構造

LPX-IIの最新版予想図では艦橋を2つとしており、国際協力を反映しているようだ。


海外提携先として英米政府、両国企業が建造に関与するといわれる。米国は強化飛行甲板技術をF-35B購入の見返りとして提供し、英国も技術支援をする。英政府とバブコックインターナショナル(英海軍空母クイーン・エリザベス級建造に参画)が積極的に関与しているといわれる。このため、最新のLPX-II予想図で艦橋がふたつの英海軍空母と類似している説明がつく。バブコックは韓国とKSS-III大型潜水艦事業ですでに関わっている。


LPX-II 事業とは

現代重工業(HHI)が2020年中に構想設計を完成する予定で、海軍編入を2030年代初頭と想定していた。艦設計は既存の独島級強襲揚陸艦(LPX-I事業)を原型としながら、ウェルデッキは採用せず、航空運用を中心に置くことで米海軍LHAと類似する。F-35Bを20機程度搭載できる。設計案は2020年12月30日に完了し、予算は2020年度から2024年度の中期防衛計画で計上することとした。


弾道ミサイル防衛(BMD)対応の多機能レーダー(MFR)が次期駆逐艦用に開発されており、LPX-IIにも搭載されるといわれる。韓国海軍が公表した解説画像ではLPX-IIに新型CIWS(開発中)、K-SAAM対空ミサイル、LIG Nex1製のSLQ-261K対魚雷音響対以降装置(TACM)も搭載するとある。


軽空母にはF-35Bに加え、韓国海兵隊の次期海上運用攻撃ヘリコプターを搭載するとあり、KAIがスリオンMAHを、ベルヘリコプターズがAH-1Z、ボーイングがAH−64アパッチをそれぞれ提案中。


LPX-II解説画像と Q&A

セミナーで韓国海軍は以下の解説画像を公開した。

The Republic of Korea’s

韓国海軍の空母の歴史が始まる!

有事になれば空母戦闘集団が必要だ

空母の役割とは

海軍、空軍、地上軍が統合部隊となる。

北朝鮮の挑発に呼応し、統合部隊は有事に攻勢をかけ、強力な軍事力を誇示する!

1-北朝鮮の挑発を打破史、有事には統合部隊として攻勢をかけ初期段階で勝利をおさめる

2-潜在的脅威国の軍事活動を予防し、海上主権と国益を有事の際に防御する。

3- 非軍事脅威から国民を守る。

4-外交を支援し国際平和の実現に貢献する。


軽空母でこれが大事

Q: 軽空母構想はいつはじまったの?

A: 1996年の大統領報告で軽空母の必要を訴えてから、一貫して推進してきました。国会が戦闘機搭載可能な艦により潜在脅威への対応を2012年の検討で求めています。統合参謀総長は空母建造の必要性を認め、事業の推進を2020年12月に決定しました。

Q: 韓国の国防予算で軽空母一隻とあわせ護衛部隊を整備、運営できるの?

A: 護衛部隊は大部分が完成しており、運用中あるいは中期防衛計画に盛り込まれていますので、予算は大して必要ではありません。軽空母の設計作業は次年度開始となり、2033年までに完成します。建造費は10年以上に渡り各年の防衛予算に計上します。

Q:韓国の防衛力は北朝鮮を上回るのに、軽空母がなぜ必要なの?

A: 戦闘が長期化すると人命の損失、国土の破壊、経済損失は多大になります。可能な限り短期間で戦勝を実現することが重要で損失を最小限にすることが肝要です。軽空母を発信する航空機は敵国の後方から重要標的を精密攻撃することで敵攻撃を分散させわが方の軍が短期で勝利する条件を実現します。

Q: 周辺国と海上戦闘となればどんな結果になるの?周辺国との海上戦闘の可能性はあるの?軽空母一隻で対応できるの?

A: 損害規模と脅威対象を抑え込む最小限の国防力の維持が必須です。軽空母は効果的かつ効率的に脅威可能性のある国の海軍力整備に対抗できます。

Q: 遠隔地で発生する問題には外交力や同盟関係を使う解決のほうが軍事力の行使より望ましいのでは?

A: 外交や同盟関係だけに頼る国家安全保障はありえません。外交関係はすぐ変化しますし、同盟国といえども国益がぶつかる場面があるからです。外交、同盟関係には力の裏付けが必要です。原油、原材料、食料を輸入に依存する韓国には海上交通路を守る能力が国内経済や国民の生活に不可欠です。

Q: 朝鮮半島自体が不沈空母との見方があるけど、それでも軽空母は必要なの?

A: 陸上の航空基地は大規模ミサイル攻撃を北朝鮮が実施すれば損傷は免れません。また開戦当初は陸上基地の航空運用には制限がついてまわります。戦闘機材を軽空母に搭載すれば、移動航空基地として敵ミサイル攻撃を生き残り、航空運用できます。

Q: 軽空母で運用する垂直離着陸機では後続距離、兵装搭載量が限定されるのでは?

A: たしかに空母搭載機の航続距離や兵装搭載量は陸上配備機より制約されますが、海上で再搭載、給油を受けられるので、各出撃の準備時間が短くなり、短い間隔で遠距離地点へ進出が可能となります。また遠隔地点でわが国益を守る任務が実施できるのは軽空母部隊です。

Q: 独島防衛に軽空母がなぜ必要なの?F-15KやF-35Aで対応できるでは。

A: 陸上基地から発進したF-15KやF-35Aでは独島上空に短時間しか留まれません。空中給油を受けても現地には長く留まれません。空母発進の戦闘機なら艦上で給油再装備を受けて迅速かつ高頻度でミッションを実施できます。

Q: 必要なのは70千トン級やもっと大型の空母じゃないの?30千トン空母では搭載機数が少ないでしょ。

A: 英、仏、伊の各国が中規模空母をそれぞれの国力を反映して運営しています。米国も軽空母6隻を整備する構想の実現に向かいます。

Q: 潜水艦やミサイルといった非対称戦力を整備するほうが高額な空母の建造より効率が高いのでは?

A: 非対称軍事力で脅威対象に対応するのは重要ですが、全方位安全保障能力を各種脅威をにらんで整備するのが望ましいのです。軽空母は統合部隊となり、北朝鮮を抑え込む以外に周辺国を対象の各種ミッションを実施したり、海上権益や国民を守り、同時に力の示威で強い抑止力効果を実現できます。


軽空母の実現を:

誰も軽視できない堅固な安全保障体制のため、

国、国民の新しい時代のミッションを

強力な国防と将来の平和のために。


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RoK Navy Issues New Images of LPX-II as it Tries to Gain Public Support for Aircraft Carrier Program - Page 2 of 2

Xavier Vavasseur  11 Feb 2021


2021年2月14日日曜日

英国の弱み 世界第5位の経済でも大国にふさわしい軍事力の維持は不可能になってきた。さらにブレグジットで悪影響が生まれている。

 英国の弱み ここでも経済の実態が国防力整備を厳しくしています。

 

国は大国の地位を維持したいが、ない袖は振れない。

 

「英国」と「国防予算」が合わさると気が滅入る響きになる。英国軍は縮小の一途で、新型装備導入計画は全く非現実的で、逆に英国の軍事力に悪影響が生まれると、政府会計検査部門が指摘している。

 

現在実施中の装備計画10年計画は1,810億ポンド(2,345億ドル)の予算だが、今後10年の防衛ニーズに全く足りないと英政府の国家監査局(NAO)が発表した報告書にある。

 

NAO試算では装備計画で29億ポンド(38億ドル)が不足とある。最悪の場合、130億ポンド(171億ドル)足りなくなる。

 

 

NAOは予算不足の事例を取り上げ、軍事力への悪影響を測った。「例えば、RFAアーガスが医療訓練、ヘリコプター訓練の場となっているが、2024年に退役する予定」と判明した。「海軍は掃海機能も2030年代初頭に喪失する。海軍はこのため2019-2029年整備計画で対応が必要と把握していたにもかかわらず、後継装備の調達予算は計画に含まれていない」

 

掃海で新技術をさぐる研究費はあるのだが、他の問題は野放しで、早期警戒機では規模が十分でない。「英空軍はE-3セントリー退役予定を2022年12月に前倒ししたが、これでは後継機の就役まで9ヶ月が空白となる。2020年1月からセントリーは6機から3機になっており、空軍はこれで19億ポンド(25億ドル)の予算節約になるとしたが、戦力へ影響が生まれる中で、実施の手順は未決定のままだ」

 

国防省は国防力の必要規模を十分把握しておらず、英空軍向けF-35ステルス戦闘機調達や英海軍のクイーンエリザベス級空母の試算ができていない。「2015年度SDSR(戦略国防安全保障検討)ではF-35は138機調達する意向とあったが、2019-2029年整備計画ではそのうち48機分の試算しか言及がない。各機は現在生産中だ」とNAOは指摘した。「HMSクイーンエリザベスが2021年に運用開始してから、F-35の必要機数を決めるとある」

 

「国防省は戦闘航空機材調達事業の一環でこうした決定を下す。また空母打撃群で航空戦力を最大活用する方法でも決定を迫られる。後者に関し国防省はHMSクイーンエリザベスが2020年に海上公試を完了すれば支援経費の規模を把握できる」

 

きびしい予算でその他にも問題が発生している。例として退役英海軍原子力潜水艦20隻で原子炉処理予算が確保できず放置されたままだ。他方で、ブレグジットで英ポンド安になっており、海外製装備品はF-35含め価格上昇している。

 

英国は手も足も出なくなる。英国軍は米軍のような構造となっており、高額装備の空母、ステルス戦闘機、原子力潜水艦にトライデントICBMミサイルを搭載しそろえている。だが、世界第5位ないし6位(インドが四位になった)の経済規模の英国が軍に僅かな予算しか回せないのが現状だ。■

 

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Not Enough Pounds: Why Britain Cannot Pay for a First-Class Military

February 13, 2021  Topic: Security  Region: Europe  Blog Brand: The Reboot  Tags: NATOUKRussiaMilitaryTechnologyDefense

by Michael Peck

 

Michael Peck is a contributing writer for the National Interest. He can be found on Twitter, Facebook. or on his Web site. This article first appeared in March 2020 and is being republished due to reader interest


歴史に残らなかった機体22 イリューシンのIl-40は進化の枝から外れたジェット強襲機になってしまった

 歴史に残らなかった機体22

Il-2、Il-10と強襲機の成功作を生んだので、そのままジェット化したような機体ですが、戦術作戦の前提が変わってしまい、強襲機そのものが不要になった時点で登場したかわいそうな機体といってよいでしょう。しかし、奇妙な機体ですね

 

 

二次世界大戦が終わると、画期的かつ実験的な各種機体が戦勝国から登場した。ジェット時代に入ると、特にソ連と米国から奇妙な機体が続出した。

 

ジェット時代に技術課題は山積していた。ジェットエンジンは飛躍的に進歩したが、機体設計は別だった。初期の機体はマッハ1超の速力に最適化され、逆に低速での操縦が大変だった。

 

ソ連国営航空宇宙企業イリューシンは地上部隊支援の強襲機をジェットエンジンで実現する課題に取り組んでいた。ここから生まれたのがIl-40で、軍の採用は確実と信じていた。

 

 

Il-40はある意味で古典的な地上攻撃機の設計だった。操縦士・銃手の搭乗員二名は装甲ポッドに保護され、地上火砲から護られた。さらにコックピットも防弾ガラスをつけ、パイロット座席後部、ヘッドレストも装甲入りだった。パイロットの視界は良好だった。

 

兵装は極めて通常のものだった。主翼に合計四箇所の小型爆弾倉がつき、小型爆弾を投下する想定で、さらに主翼下に追加燃料タンク、無誘導ロケット弾あるいは追加爆弾を搭載する想定だった。

 

さらに23ミリ自動機関砲を6門機首に搭載した。だが、これがIl-40の大きな欠陥につながった。

 

23ミリ自動機関砲を同時発射すると相当の噴煙が発生する。また機首に搭載したため、ガスがジェットエンジンの空気取り入れ口に吸い込まれた。

 

空気を取り入れ圧縮してエンジンの燃焼室に送るはずが、同機の場合は機関砲を発射するたびに排気噴煙を取り入れてしまった。

 

これによりエンジンがフレームアウトする不具合が生まれ、さらに問題を悪化させたのは機関砲の取り付け場所で、6門の大閃光でパイロットの視界が奪われた。

 

そこで機関砲の取り付け場所の変更が検討され、機体下部に搭載する案、空気取り入れ口を機首まで延長する案が提示され、これで同機は二重銃身のショットガンを思わせる形状になった。最終的に設計変更も効果を認められず、Il-40は量産されることはなかった。■

 

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Russia's Il-40 Ground Attack Jet Was Perfect—Except for One Fatal Flaw

February 11, 2021  Topic: History  Region: Europe  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitarySoviet UnionRussiaCold WarGround Attack JetIl-40

https://nationalinterest.org/blog/reboot/russias-il-40-ground-attack-jet-was-perfect%E2%80%94except-one-fatal-flaw-178058

by Caleb Larson

 

 

Caleb Larson is a defense writer for the National Interest. He holds a Master of Public Policy and covers U.S. and Russian security, European defense issues, and German politics and culture.

This article first appeared in November 2020.

Image: Pinterest


2021年2月13日土曜日

AC-130が、30年間撃墜されていない背景に湾岸戦争のスピリット03の尊い犠牲の教訓があった。

あなたの知らない戦史(7)1991年湾岸戦争で散ったAC-130H  

ロリダのまぶしい陽光の中、ハールバートフィールド基地の記念碑にひと束のブーケが捧げられた。2021年1月29日、第一特殊作戦航空団が砂漠の嵐作戦中に発生した空軍最大の人員喪失事件の日が今年もやってきた。

 

30年前の1991年1月31日、カフジの戦いでAC-130Hスペクター・ガンシップ、コールサイン・スピリット03がイラクの地対空ミサイルで撃墜された。

 

搭乗員14名全員が戦死し、空軍将官のひとりは各自の犠牲がAC-130の新時代を開いたと述べている。新技術や戦術の導入でその後の戦闘で同機喪失は皆無となった。

 

「スピリット03搭乗員の尊い犠牲で、AC-130改良が始まり新世紀が到来した」とマーク・ヒックス退役少将が2014年夏号のAir Commando Journalに記した。ヒックスは経験豊かな元ガンシップ・パイロットだ。スピリット03撃墜後に出た風説をヒックスは否定している。

 

No enemy has downed an Air Force AC-130 gunship in 30 years. Here’s whyスピリット03慰霊祭が2021年1月29日にフロリダ州ハールバートフィールド基地で執り行われた。スピリット03はAC-130Hガンシップのコールサインでカフジの戦いで撃墜され14名の乗員全員が戦死し、砂漠の嵐作戦中最大の空軍喪失事案となった。(Air Force photo / Senior Airman Miranda Mahoney)

 

 

まず何が起こったかを見てみよう。1991年1月29日、イラク軍がクウェイトから南方のサウジアラビア国境の町カフジを攻撃してきた。襲撃部隊は戦車40両と500名の規模とスピリット03撃墜の記録を2012年の Air Commando Journal に記したAC-130歴42年の砂漠の嵐帰還兵ビル・ウォルター上級曹長が述べている。

 

連合軍部隊は数で圧倒され、カフジに後退したが、米海兵隊偵察チーム2個が取り残された。1月30日夜から1月31日朝にかけ、AC-130ガンシップ二機がスピリット01、スピリット02のコールサインでイラク装甲部隊を攻撃したが、強烈な対空砲火をあびた。

 

三機目のAC-130がスピリット03で数時間後に現場に到着し、上空を周回飛行し待機した。スピリット01および02は帰投することとし、03に対空火砲が手強いと伝えたが、3号機は海兵隊前方航空管制官の要請を受け標的策定を続けた。

 

スピリット03はイラク陣地を攻撃したが、 6:00 a.mに燃料残量が少なくなった。それでも搭乗員は標的への砲撃をやめず、ついに「ビンゴ」燃料になった。基地帰還ギリギリの燃料しかないことを意味する。だが、海兵隊航空管制官が海兵隊へ脅威になるロケット発射装備があるとしたので、スピリット03は捜索を始めた。

 

そして事態は急進展した。

 

No enemy has downed an Air Force AC-130 gunship in 30 years. Here’s whyAC-130 が機体を傾け、回転式機関砲の煙が薄暮の中で目視できる。 1988年撮影。 (Air Force photo / Tech. Sgt. Lee Schading)

 

 

なんの警告なくイラクの小型地対空ミサイルが同機の左主翼に命中し、外部燃料タンク近くが出火しはじめた。パイロットのトーマス・ブランド大尉、ポール・ウィーバー少佐は当初は機体を制御できたが、燃焼が広がり、左主翼3分の2が脱落すると機体はスピンしはじめ制御不能となった。大きなGがかかり、機外脱出は不可能のまま、機体はペルシア湾の浅瀬に墜落した。

 

墜落地点を突き止めるのに一ヶ月かかり、この遅れのため当時の状況で憶測を呼んだとヒックスは記している。「憶測に不満、怒りが加わり今も続く伝説が生まれた」

 

伝説の一つがパイロットで、ウィーバー少佐は1989年のパナマ侵攻作戦に加われなかったため実戦現場を見たいとの思いが強すぎたという風評があるとヒックスは記している。また乗員が燃料低下を気にせず海兵隊部隊を守り戦死したというのも伝説だ。

 

ともに真実ではない、とヒックスは述べている。「ともに部分的には正しいが、誤解につながりやすい」とヒックスは書いている。「スピリット03は敵防空装備で撃墜されたが、その時点で訓練内容通りの業務をしていた」

 

乗員の行動に能力不足や無鉄砲な英雄気取りの兆候は見られなかった、とヒックスは記し、敵ロケット砲装備をすぐ探知する必要もなかったとする。乗員が高脅威地区に日昇後も残るのはリスクで説明がつかない。ただ撃墜の背景に訓練、技術、戦術の不足もあった。

 

技術面ではセンサー、火器管制が旧式のままで高度、飛行速度以外は精度が低かったとヒックスは記している。これが戦術に影響し、敵砲火にさらされる危険が増えるフライトパスをとってしまったという。悪いことにスピリット03が敵攻撃にさらされた際のフレア投射装置が旧式でレーザー方式の携帯型地対空ミサイルには対応できなかった。機体防御装備の改良が長年後回しになったつけを払わされた格好だ。だが「砂漠の嵐終了後に改修がおこなわれ、チャフ、フレア放出装置が新型になり、赤外線ミサイル発射警報装置がつき、電子対抗装置も一新した」という。

 

No enemy has downed an Air Force AC-130 gunship in 30 years. Here’s whyAn AC-130 スペクター・ガンシップがフレアを放出している。June 3, 2011, Cannon Air Force Base, New Mexico. (Air Force photo / Airman 1st Class Ericka Engblom)

 

 

ビル・ウォルター上級曹長は Task & Purposeへのメールで砂漠の嵐作戦後のAC-130全機にAN/AAR-44 ミサイル接近警報装置が導入されたと述べている。これは携行式防空装備 (MANPADS) のミサイル発射を探知し、乗員に危険を伝え、フレアを自動放出する機能がある。作動には乗員の介入が不要なので、攻撃下での貴重な数秒を無駄にしなくてすむ。

 

スピリット03撃墜を受け各種技術で改良が進んだとヒックスは記しているが、戦術を変えないままでは効果が限定された。乗員は予測不能な飛行経路をとり、機体を敵に晒す時間を最小限にしながら、戦闘地点付近を高度を上げて飛行し、敵弾命中の確率を下げるようになった。

 

不要な通信手順を減らし、航法装置の機能を改良し、暗視ゴーグルを導入した他、酸素マスクをつけたままで高高度飛行に対応した。AC-130機内は与圧していない。

 

「火器管制機能とセンサー機能の向上で本当に助かったが、あくまでも戦術面を重視し、意味のある結果を求めるためだだった」(ヒックス)

 

ウォルターも同様の意見だ。

「教訓の本質は飛行中は常時攻撃を受ける覚悟がいることだ。スピリット03搭乗員はこの点で訓練を受けていたとはいえ、太陽が上る状態でMANPADSミサイルの目視照準を回避するのは無理だっただろう」「ミサイル接近が見えていたら、回避行動とデコイフレアが現場にいた他の2機同様に防御してくれたのではないか。残念ながらミサイルを見つけた乗員は皆無だった」

 

とはいえ、過剰対応も防ぐべきだとヒックスは警句を鳴らす。スピリット03喪失を受けAC-130部隊に昼間のミッションを放棄するものがあらわれたという。低速のスペクターは日中は敵に狙われやすい。だが昼間ミッションを中止したため、アフガニスタンで航空支援を受けられず地上部隊に死傷者が発生した。砂漠の嵐作戦の前年にスペクターが作戦投入されていた事実をヒックスは指摘しており、また夜間飛行が完全に安全と言い切れないという。

 

だがスピリット03後にもAC-130の被害が発生している。1994年に、第16特殊作戦飛行隊のスペクターがケニア沖合に墜落した。機関砲の高性能弾薬が発射前に機内爆発したためで、乗員8名が即死、9人目も負傷がもとでその後死亡している。この痛い犠牲の教訓をもとに以後30年間にわたりAC-130はテロ戦闘に数千時間も投入されながら、戦闘中喪失が皆無となっている。

 

スペクター全機は2015年に退役したが、スプーキー、スティンガーII、ゴーストライダーの各型がスピリット03撃墜の教訓を活かし、活動を続けている。

 

「AC-130部隊は準備不足のまま砂漠の嵐作戦に投入された。その後は平時活動に戻り、容易な環境のもと、近代化改修も後回しにされていたが、スピリット03喪失の衝撃が牽引力となり、戦術方法の再編でAC-130はアフガニスタン、イラク双方で黄金時代を迎えた」とヒックスが記している。

 

「一連の事態がスピリット03喪失につながり、長時間の研究結果がAC-130搭乗員の訓練シラバスにつながっている。あの運命の日の教訓が乗員訓練に生かされていることこそスピリット03の遺産だ」

 

スピリット03の乗員全員は以下の通り。

Maj. Paul Weaver

Capt. Thomas Bland Jr.

Capt. Arthur Galvan

Capt. William Grimm

Capt. Dixon Walters, Jr.

Senior Master Sgt. Paul Buege

Senior Master Sgt. James May II

Tech. Sgt. Robert Hodges

Tech Sgt. John Oelschlager

Staff Sgt. John Blessinger

Staff Sgt. Timothy Harrison

Staff Sgt. Damon Kanuha

Staff Sgt. Mark Schmauss

Sgt. Barry Clark

 

 

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No enemy has downed an Air Force AC-130 gunship in 30 years. Here's why

No enemy has downed an Air Force AC-130 gunship in 30 years. Here’s why

“The lessons passed on to crews trained since that fateful day are the true legacy of Spirit 03.”

BY DAVID ROZA FEBRUARY 05, 2021

David Roza covers the Air Force and anything Star Wars-related. He joined Task & Purpose in 2019, after covering local news in Maine and then FDA policy in Washington D.C. He loves referring to himself in the third-person, but he loves hearing the stories of individual airmen and their families even more. He also holds the unpopular opinion that Imperial stormtroopers are actually excellent marksmen.