2016年5月27日金曜日

ペンタゴン報告書から中国の核戦力整備の最新状況を読み取る


アメリカ科学者連盟と言いながらしっかりとした情報分析をしているのはさすがです。中国の核関連では進んでいるようで進んでいない開発配備状況が見えてきますが、引き続き日本としても状況を注視していく必要があるでしょうね。ミサイルの中には日本に照準を合わせているものがあるはずですから。

Pentagon Report And Chinese Nuclear Forces

By Hans M. Kristensen
Posted on May.18, 2016 in China, Nuclear Weapons by Hans M. Kristensen

china-DOD2016
ペンタゴン発表の中国軍事開発状況の報告書最新版は通常兵器を多く取り上げているが、核兵力の最新状況でも重要な内容が含まれている。
  • ICBM配備数はこの五年間ほぼ同じ
  • 新型中距離弾道ミサイルの供用を開始した
  • 新型中間距離弾道ミサイルは未配備のまま
  • SSBN部隊が抑止力任務をまもなく開始する
  • 爆撃機の核運用能力の可能性
  • 中国の核政策の変更あるいは現状維持

ICBM開発の動向
中国のICBM部隊の整備状況が関心を集めている。新規開発もあるが、今回のDOD報告書ではICBM配備数はこの五年間に伝えられたものと同じ水準で60発程度とする。DF-31の配備は停滞しており、データからDF-31Aの導入も20から30基と少数と見られる。
china-icbms-gr

2012年度報告では2015年までに「中国はさらに道路移動型DF-31A発射台を配備する」としていたが、その通りに推移していないようだ。
china-icbm-nos
DOD報告が伝えるICBM発射台の数は大幅にばらついており、2003年は30基程度としていたものが2008年以降は50から60程度としている。2011年から2016年の間に25基もの差異がが出ている。これは40パーセントにのぼる誤差でそれだけ不確実だということだがここ数年は10パーセントに落ち着いている。とはいえ中国ICBM本数が大幅に増えていないのは確実だ。
発射台の数は安定しているといえるが、DOD報告書ではミサイル数は増えているとし、発射台50から75に対しミサイル75から100本だとする。これはこれまでのDOD報告と一貫性を欠く。これまで発射台の数とミサイル本数が一致するかわずかにミサイル本数が多かったのは旧型DF-4を再装填するためだった。
2016年度報告が突如としてミサイル本数を発射台数より25本以上多いと述べる理由は不明だ。DF-5ないしDF-31/31Aは再装填型と見られる。これまでのDOD報告ではDF-4のみで再装填すると想定していた。DF-4の発射台はわずか10基しか残っておらず、2016年度版報告での超過本数は10本のはずで、25ではないはずだ。(DF-4で再装填を二本と想定するとつじつまがあう) わかっている範囲での中国のICBMの全体像は下表のとおりである。
china-icbms-tbl
噂では中国が鉄道軌道で移動するICBMを配備済みあるいは開発中といわれるが、DOD報告では鉄道を利用する装備の言及はない。7月に加筆訂正版が公表される。

DF-26は核精密攻撃ミサイルか
最新の核ミサイルがDF-26(ペンタゴンはまだこの新型ミサイルのCSS呼称は明らかにしていない)で昨年9月の北京軍事パレードで初公開されているが、ミサイル部隊に展開していない模様だ。
DF-26
北京軍事パレードに6車軸の打ち上げ車両が登場し、核運用可能との説明があった。ミサイルはまだ供用開始されていない。Image: PLA.
DOD報告では核非核で共通の誘導方式を使うとし、「中国初の核精密攻撃能力が戦域内で利用可能になる」と述べている。
この書きぶりからこれ以外の中国核ミサイルには精密攻撃能力はないとDODが見ていることがわかる。

DF-21で新型登場か
DOD報告は中距離核ミサイルDF-21の新型を取り上げているが、詳細は述べていない。新型はDF-21 Mod 6あるいはCSS-5 Mod 6として報告書に記載されている。
DF-21_ex2016
DF-21が核攻撃演習に参加している。2015年撮影. Image: PLA via CCTV-13.

以前の報告書ではICBM部隊に「道路移動型固体燃料方式CSS-5(DF-21)MRBMを域内抑止ミッションに投入して補完する」としていたが、2016年度版ではICBM部隊は「道路移動型固体燃料方式CSS-5 Mod 6 ‘(DF-21) MRBMで域内抑止ミッションに投入して補完する」と述べ、初めてMod 6の名称が使われた。
DOD報告ではMod 6に関し詳細についても、その登場で既存型 (Mod 1、Mod 2)がどんな影響を受けるかでも言及はない。既存型は老朽化しつつあるのでMod 6が更改用の可能性があるが、実態は不明だ。
DF-21が中国軍で特別な意味があるのは、初の移動式液体燃料ミサイルとして登場したためだ。Mod 1は1980年代後半に配備開始されたが、戦力化は1992年だった。Mod 2が1998年時点で「配備ができていない」状態だったのは両型式で相違点が相当あったのか、両型式をミッションの性質の違いから並列配備しておく必要があったためだろう。
DF-21各型を巡っての議論では混乱が大きくみられ多くの論者が二次資料を引用しているが、原資料を使う向きは少ない。中でも最も多い誤りはDF-21C通常型陸上攻撃版をCSS-5 Mod 3とし、DF-21D対艦攻撃版をCSS-5 Mod 4とするものだ。ここ数年にわたりDODや情報各機関からはDF-21に以下の型式があるとしてきた。
DF-21 (CSS-5 Mod 1):核
DF-21A (CSS-5 Mod 2):核
DF-21C (CSS-5 Mod 4): 通常弾頭対地攻撃
DF-21D (CSS-5 Mod 5): 通常弾頭対艦攻撃
DF-21 (CSS-5 Mod 6): 核 (新登場)
DF-21B(CSS-5 Mod 3)がどうなったのかは不明だ。DF-21は旧型液体燃料方式DF-3Aに替わり中国の地域内核抑止力の中心となっている。DF-21へ変更をした最新の部隊は遼寧省の第810旅団だ。

海洋配備抑止力
各種報道が伝える公式発表は誇張気味あるいは拙速であり、中国潜水艦の作戦能力を高く買いかぶりすぎの観がある。新型の晋級SSBNが抑止パトロールを開始したとの報道があるが、米エネルギー省報告では潜水艦あるいはミサイルの問題で作戦実施可能になっていないとしている。
2015年2月に米海軍作戦部長の議会向け報告ではSSBN一隻が95日間に及ぶパトロールに出港したとあるが戦略軍司令官セシル・ヘイニー大将はSSBNが海上に出ることがあるが核装備しているのか判断できないと述べた。
今回のDOD報告書では晋級SSBNはJL-2SLBMを「ゆくゆくは搭載することになる」と言及しているのは明らかに現時点では未搭載であるということで、「中国は初のSSBNによる核抑止パトロールを2016年中に行う」と述べている。つまり実施実績がないということだ。
この「未実施」評価の背後には国防情報局が「PLA海軍部は晋級原子力弾道ミサイル潜水艦を2015年に就役させJL-2を搭載すれば中国初の海洋配備核抑止力が完成する」と述べたことがある。
一隻あるいは複数のSSBNが何らかの任務で外洋にでたことがあるが、核兵器が搭載されていなかった可能性があることになる。晋級SSBN四隻はすべて海南島の榆林海軍基地に配備されており、五隻目が建造中だ。
Jin-ssbns_yulin2015晋級SSBN三隻、商級SSN2隻が榆林海軍基地に見られる。
DOD報告書では晋級SSBNの五隻追加建造との噂は誤りとする。米太平洋軍司令官は2015年に議会に「最大5隻が追加建造され2020年までに部隊に投入されるかもしれない」と発言しているが、確証はなかったようだ。DOD報告書では5隻目の晋級が建造中だがその後は新型ミサイルJL-3を搭載する次世代SSBN(タイプ096)へ移行すると見ている。

核爆撃機
今回のDOD報告書は爆撃機の核任務の可能性を初めて取り上げている。各種中国国内の資料を論拠にしつつ米情報機関の推論は示していない。
china-bomb1967H-6爆撃機が投下した熱核爆弾。1967年6月
「2015年に中国が長距離爆撃機を開発していると明らかになった。中国軍事アナリストが『戦略抑止任務を実施能力がある』と、PLA空軍部に2012年に与えられた任務に言及している。また中国国内文献では『戦略級』ステルス長距離爆撃機の実用化を目指しているともある。各種報道や文献を総合すると中国が核爆撃機を開発する可能性があり、実現すれば、中国は核運搬手段の『三本柱』として陸上、海、空の整備を完成し、冷戦後にふさわしい残存性と戦略的抑止力を実現するかもしれない」
中国の爆撃機では改修型H-6K爆撃機があるが通常弾頭の対地攻撃巡航ミサイルを搭載し、核任務や「戦略抑止」ミッションは中心ではない。ただし米空軍のグローバル打撃軍団の説明資料では新型CJ-20空中発射対地攻撃巡航ミサイルを核搭載可能としていた。
過去においては中国は核兵器を爆撃機から投下する能力を展開していた。1965年から1979年まで続い板核実験では少なくとも12回が爆撃機による投下であった。実験は核分裂型と核融合型で威力は最大2から4メガトンまでと推定される。投下したのはH-6爆撃機(現在も近代化改修して就役中)、H-5爆撃機(退役済み)、Q-5戦闘爆撃機(全機退役済み)だった。

china-bombs
核爆弾の模型二つが北京で展示されている。左は核分裂爆弾第一号の模型で、右が熱核爆弾だ。右の模型に書かれているH639-23は1967年6月17日の水爆実験で投下された番号H639-6と類似。mage: news.cn

核戦略と核政策
最後にDOD報告書は中国の核政策・戦略について米側の理解する内容をまとめている。
まずPLAが核運用部隊に対する指揮命令統制通信機能を新型に切り替えて、戦場で多数の部隊を統制する能力を引き上げている。「通信能力の改良でICBM部隊はこれまでよりも戦闘状況をよりよく把握し、妨害されにくい通信手段で接続されている。部隊指揮官も命令を同時に複数部隊に下し、これまでのような順々方式ではなくなった」
これは部隊への指揮命令行為の効率性向上を目指したものだが、同時に危機的状況での戦闘効率を上げるる狙いもある。DOD報告書では中国が「平時での即応体制を引き上げようとしている」との報道内容を引用している。この点で中国軍の文書を引用して核部隊が「警告あり次第発射」する体制にあり、敵の攻撃を受けて全滅する前に発射する方式になったとの報道もある。
これが進展すると新たな問題になるが、DOD報告書の結論は今のところ中国が堅持してきた先制攻撃をしないとする安全保障政策に変化の兆しはないとする。
言い換えれば、中国の核政策事態に変化はないようだが、核部隊の運用・作戦方法は大きく変わりつつあるということになる。
さらに以下から追加情報が得られるので参照されたい。
本記事の発表の下となった研究はNew Land 財団およびPloughsharesファンドの助成金により実現した。ここで表した見解は筆者個人のものである。

★KC-46Aで再度遅延が発生、契約不履行になる公算大へ 事業体制見直しは必至か



なぜここまで開発が手間取るのでしょうか。そもそも767があるから簡単に給油機ができると楽観的だったボーイングも自社負担が増える一方のため、青ざめているのかも。その分は日本が負担することになるのでしょうか。今のところKC-46に手を挙げているのは日本だけではないでしょうか。

Aerospace Daily & Defense Report

KC-46A Tanker Program Braces For Another Delay

May 26, 2016 Jen DiMascio | Aerospace Daily & Defense Report

KC-46: Boeing
ボーイングのKC-46A空中給油機開発でまたもや遅延が発生、今回は最短でも六か月にわたる規模で、サプライチェーンと技術上の問題に直面している。
  1. 今回の遅延で事業推進体制の見直しや資金投入の削減を議会あるいはペンタゴンから申し渡されるかもしれないと上院のある補佐官は述べた。「誰かが責任をとらないとね」
  2. ボーイングは2017年8月までにKC-46Aを18機引き渡す予定で三機をテストに投入していた。だがC-17相手に空中給油テスしたところブームで安定性の問題が見つかり、その解決方法としてソフトウェア改訂でフライバイワイヤのブーム制御を改善しようとした。だがハードウェアの改良策はまだ決まっていない。またサプライチェーンの問題のため15機分の部品が全部そろうのは2018年になると判明した。
  3. 上院歳出委員会は5月26日に2017年度国防支出法案原案を可決し、ブラク・オバマ大統領が求めていた15機購入分29億ドルでを承認した。しかし法案に合わせまとめられた報告内容から議員の間にKC-46の将来に懸念が広がっているという。
  4. まず2017年は量産開始の年で、15機を生産する予定だったと報告書は指摘。だが量産開始を決定するマイルストーンC判定は先送りされたままで、このままでは生産数は同じでも低率生産になると報告書は伝えている。
  5. また開発段階の飛行テストが2割しか完了していないのは、ブーム問題が原因だと報告書は指摘する。
  6. 委員会は数回にわたる遅延の発生を指摘している。マイルストーンCで10ないし11か月遅れ、初期作戦能力テスト評価も11か月遅れており、一号機納入は9か月遅れる。この結果、重要な段階すべてで契約履行は不可能で、結果として2018年8月の目標達成はほぼ絶望的だという。
  7. ペンタゴンで調達全体を取り仕切るフランク・ケンドール副長官は同事業が既存機種を改装するため固定価格制契約になったと指摘する。だが開発費用の高騰から政府は無関係でいられる内容のため、付けはボーイングが支払っている。同社はすでに税抜きで12億ドルを負担している。この数字は今後増えるだろう。■


2016年5月26日木曜日

★RC-135が日本海上空でKLM,スイス航空機と空中衝突寸前だった(ロシア発表)



この記事は発生日を明示していません。ロシア側発表ということもあり信憑性が欠けると言いつつ、KLM、スイス両社は事実を把握しているはずです。日本海上空で東京発の便ということもあり、発生していたら大変なことになっていたでしょうが、だからといってISR活動をやめるわけにもいきません。今後もリスクは発生するでしょう。今や冷戦は再び始まっているのです。

“U.S. spyplane almost hit two passenger jets over the Sea of Japan” Russia MoD says

May 25 2016



ロシアによればRC-135一機がロシア太平洋沿岸近くを飛行中に民間機二機と空中衝突寸前だったという。
  1. ロシア国防省声明では米スパイ機は日本海の国際空域を飛行中に二機の旅客機と空中衝突を辛うじて回避したとする。
  2. 国家統制のメディア、スプートニクニューズおよびインターファックス通信によれば、国防省報道官イゴール・コナシェンコフ中将は米スパイ機がロシア東部を毎日飛行していると認めたが、「今回は国際航路を通過した米スパイ機は民間旅客機への衝突の危険を冒し、衝突していたら壊滅的な結果になっていただろう」と述べた。
  3. ロシア報道官は米機乗員が「プロらしからぬ行為」だと非難し、米大使館付け武官を呼び説明を求めたという。
  4. ニアミスに遭遇したのはスイス航空KLM航空の機体だった。
  5. 第一回目はRC-135リヴェットジョイントが嘉手納基地を離陸し日本海上空を高度33千フィートで飛行中にトランスポンダーを切り、民間レーダーにほぼ姿を消したまま国際空路を飛行しKLMとスイス航空(東京発チューリッヒ行き)を横切った。
  6. 現地時間午前5時41分、ロシアのウラジオストックのレーダー局が「スイス航空旅客機に直ちに高度を下げ衝突を回避せよ」と指示し、スイス航空機から四発機が向かうのを目視確認したと交信が入ったという。
  7. 二回目のニアミスはボーイング777で東京アムステルダム線の旅客機に進路変更の指示が入ったのは「正体不明の航空機」が同機に向かっているのが探知されたためで、のちに同一のRC-135だと判明した。
  8. ロシア航空管制局はスパイ機を高度36千フィートで探知し引き返すよう指示したが返答はなく、識別信号も発しなかったとインターファックスは伝えている。このためKLM機は1,600フィート高度を下げ「辛うじて衝突を回避した」という。
  9. 米ロ間で偵察機と迎撃機の遭遇は日常だが、ELINT電子情報収集機と民間ジェット機の空中衝突寸前の事態は極めてまれである。
  10. 2014年3月3日にSASのボーイング737が退避行動をとり、ロシアのIl-20クート情報収集機との空中衝突をスウェーデン沖合で未然に防いだ事例がある。
  11. スパイ機がトランスポンダーを切り、ATCと無線交信せずに、パイロットの目視飛行で空中衝突を回避しつつ飛行するのは普通だ。民間航空の妨害を避けるのが普通だが、危険な接近飛行が懸念を呼んでいる。
  12. ペンタゴンはロシア側がRC-135に危険な接近飛行をバルト海で行った「無謀さ」を非難しているが、今回はロシア国防省が「プロらしからぬ行為」を非難しているのは状況に変化がなく、実は第二次冷戦が進行中であることを思い起させてくれるものだ。■


★大統領の広島訪問で同時にやってくる核のフットボールは現実政治の最大の象徴である



オバマ大統領の広島訪問を巡っては謝罪だ、謝罪ではないとの議論の方が大きいようですがもっと大きな世界平和での視点が日本から出てこないのは核抑止体制の現実が理解されていないためと思われます。周辺で不穏な動きがあることから核武装論が簡単に口に上る様相がありますが、実は軍の方が核兵器を使いたくないと考えているのは皮肉な話です。

The Nuclear Football Goes to Japan


President Barack Obama steps off Air Force One as he arrives in Hanoi, Vietnam, Sunday, May 22, 2016.


バラク・オバマ大統領が5月27日に広島を初訪問するが、同時に核のフットボールも初訪問となる。

「フットボール」は大統領専用緊急鞄と呼ばれるブリーフケースで軍補佐官が持参し大統領が行くところ常についてまわる。中には数分のうちに1.000発近くの核弾頭を発射する命令コードが入っている。

今週オバマ大統領は広島で指一本で広島22,000個を30分で破壊できる。

米国は核弾頭975個を「高度緊急状態」に置いていると全米科学者連盟のハンス・クリステンセンは推定し、うち435発は大陸間弾道弾ICBMで弾頭多数を搭載し、潜水艦発射弾道ミサイルSLBM120発が合計540個の核弾頭を搭載する。各弾頭は広島型原爆の6倍から30倍の威力がある。

ICBM発射に要する時間は5分、SLBMだと12分だ。ミサイルはで三十分未満で目標到達し全部発射すれば330メガトン、広島型原爆の22,000個に相当する。実施すれば人類の文明は終焉を迎える。

ただし米国が保有する核兵器はこれだけではない。さらに6,000発の弾頭がミサイルや爆撃機で運用可能でさらに予備分や解体を待っている分含めてある。

今回の大統領訪問は米国の核兵器取り扱いで健全さを示す機会になるものの、好機を逸するかもしれない。

広島訪問は政治的な意味が強いが大統領周辺は実質的な意味は薄いとし政策スピーチはないとする。

また今回が大統領の核政策で変更を公言する最後の機会でもない。他に機会はあり、とくに9月の国連総会演説がある。

それでも広島は大統領がプラハ演説で7年前に始めた核政策の感情的な終着点となる。この機会を大統領は活用できるだろうか。

オバマ大統領は同地では簡単な所感として戦争について一般論を語ると発言していた。エイブラハム・リンカン大統領のゲティスバーグ演説も短いもので10センテンスしかなかった。リンカンも戦争の一般論を語っている。オバマなら同じ時間でもっと多くの内容を語れるはずだ。

最低でもオバマ大統領は平和と核のない安全な世界で持論を再度明示すべきだ。三年前のベルリン同様に「核兵器がある限り真の平和はあり得ない」との考えを示すべきだ。

これができれば効果は大きい。だができることはもっとある。大統領は核の惨劇リスクで低減策を打ち出すことができるはずだ。
  • 一言で米国の核兵器を数分以内に発射できる体制を終わらせることができる。今の体制は冷戦時代の考え方で時代遅れとなっており21世紀にふさわしくない。
  • 最低でも50発のICBMを即応体制から外すことができるはずだ。このミサイルは新START条約下で解体が予定ずみのもの。直ちに速報体制を解除しロシアにも同様の対応を求め、核戦争一歩手前から安全を確保すると言えばよい
  • 新世代核兵器体系総額1兆ドル発注ずみの実施取り消しとして手始めに300億ドルの新型核巡航ミサイル事業を中止する。これは必要性が最も薄く事態を不安定化させる装備だ
  • 国連安全保障理事会に核実験全面禁止と我が国による核実験探知能力向上を訴えるべきだ。
  • さらに上下両院の全議員に広島訪問を求めるべきだ。1兆ドルもかけて新兵器を開発する前にもっと小型の爆弾一発でもこんなことになると実感できるはずだ。

これらをすべて実施しても核のブリーフケースが統制する核兵器は地球上の人類の大部分を消滅するのに十分な規模だ。

後任にフットボールを引き渡す前に一度使えば取り消せないリスクを少しでも低減する好機をオバマ大統領は無駄にすべきではない。


AUTHOR

Joe Cirincione is president of Ploughshares Fund and the author of Nuclear Nightmares: Securing the World Before It Is Too Late. Full Bio


2016年5月25日水曜日

★F/A-18E/Fスーパーホーネットの機体寿命延長は避けられない課題



シリア空爆など長く続く作戦でスーパーホーネットの酷使が続くとそれだけ機材の消耗となるので、思い切った寿命延長が必要というのがボーイングの主張ですが、本音は新規受注も含め生産ラインの維持を図ることなのでしょう。

Aerospace Daily & Defense Report

Boeing Looks To SLAP Super Hornets Into Shape

May 23, 2016 Michael Fabey | Aerospace Daily & Defense Report

F-18: USN
ST. LOUIS—米海軍がF/A-18 E/Fスーパーホーネットを想定以上に作戦投入する中、ボーイングは機体を全面修理した場合の必要項目、戦闘時間の延長につながる供用期間延長をする場合に必要となる作業の初期検討を開始した。
  1. 同時に国内国外での拡販も念頭に必要な部品の調達も検討し、最終的に生産ラインを2020年代でも稼働させることを期待しているとボーイングでF/A-18とEA-18Gグラウラー事業を担当するダン・ジリアン副社長は述べている。
  2. スーパーホーネットを再活性化し、今後も作戦に投入するためボーイングは寿命評価プログラム(SLAP)と寿命延長プログラム(SLEP)を併用し、現在の機体寿命6,000時間を9,000時間まで延ばしたいとする。
  3. またスーパーホーネットで最も初期に導入され酷使されてきた2機をボーイングが検分し、機構上の問題を抽出するが旧型ホーネットの寿命延長作業の経験を応用できるとジリアンは述べた。
  4. スーパーホーネットでの方針は旧型ホーネットの重整備から生まれたとジリアンは説明してくれた。経年機が第一線を離れることが頻発し、米海軍はスーパーホーネットを想定より多く投入せざるを得なくなっている。
  5. 「この瞬間にもスーパーホーネットの寿命がどんどん減っています」とし、F-35就役の遅れも一層の圧力となっている。
  6. 「スーパーホーネットが空母航空隊の機材構成で当初予想以上に大きな存在になります。長期間で見ればスーパーホーネットは2040年まで空母航空隊の半分を構成することになります。現在は四分の三がスーパーホーネットですが、すでに不足気味です」とジリアンは言う。
  7. 作戦上の負担が機体に加わっており、ボーイングは2009年から解析と技術モデル作りに取り掛かっているとジリアンは述べた。
  8. 上限6千時間に到達する機体が来年にも現れる見込みで、同社技術陣はその際には機体状況を直接見ることができよう。「機体分解で状況を直接観察します」
  9. 初期調査の結果からスーパーホーネット改修は旧型ホーネットより早い段階で開始する可能性があるという。「スーパーホーネットの方が作業開始点では旧型より良好な状態にあるんですが、スーパーホーネットは依然として海軍で最新の機材です。ブロックIIの初期作戦能力獲得は2007年でした。その後製造技術も新しくなりスーパーホーネットにもチタンなど新素材が導入されました。旧型ホーネットの改修では機体を切断していましたが、スーパーホーネットではその必要はないでしょう」
  10. だが「解決が必要な重要箇所は数点あり、とくに操縦翼面は交換あるいは改修が必要でしょうね」とジリアンは認める。
  11. 作業規模も課題となる。ボーイングがSLEP対象とした旧型ホーネットは150機だったが、スーパーホーネットでは568機を想定している。
  12. 懸念されるのが腐食問題で、SLAP検討で使う機材で技術陣はこの問題の深刻度を把握することになる。「対象機材は戦闘に投入され続け、空母運用も長く腐食が進んでいておかしくない状況です」とジリアンはし、海軍機修理で腐食箇所が見つかるのはよくあることだが、機体ごとに状況は異なるという。
  13. 「腐食現象の基準をどこで設定するかが課題です。80%の解決で十分なのか。これが一番大きな課題です」■


2016年5月24日火曜日

★B-2は2050年代まで供用、近代化改修の内容と方向性


B-2は高性能ですが、いかんせん機数が不足します。この記事では核兵器運用能力の項が要注目です。なお文中でLRSBの名称が出ている背景にはB-21と呼称が決まったと発表がありましたがここにきて微妙になっているようです。

Pilot Interview: Flying and Attacking With the Stealthy B-2 Bomber

KRIS OSBORN
1:48 AM


ステルス爆撃機B-2は開発が始まった長距離打撃爆撃機と並行し2050年代まで供用される。
  1. 1980年代製造のB-2スピリット爆撃機パイロットは今後も機体改良と訓練を重ね敵防空網を突破する攻撃ミッションを実施することになる。
  2. 「操縦するのが夢でした。本当にスムーズな飛行です」と語るのはケント・ミケルソン少佐(第三九四戦闘訓練飛行隊)で、Scout Warriorの取材に答えてくれた。
  3. B-2の技術的要素を取材できるのはまれなことで、少佐は80年代の機体だが依然として問題なく高い効果を示していると述べた。
  4. ミケルソン少佐はB-2パイロットとして攻撃ミッションを体験し、2011年のリビア空爆を実施している。
  5. 「2016年の今日でもB-2は製造時同様に任務を遂行できるのは技術陣が良い仕事をした証拠です。近代化改修も控え、B-2がこれから出現する脅威に対応できなくなるとはだれも想定していません。実にすごい機体であり驚異の技術です」
  6. B-2が搭載するエイビオニクス、レーダー、通信技術は敵目標を高高度で遠隔地から捕捉し攻撃するのが目的だ。「デジタル機です。一般にグラスコックピットと呼ぶ装備がついています」 デジタル表示のひとつに合成開口レーダー(SAR)があり「SARは目標地点の地上をリアルに表示できます」
  7. B-2の乗員は二名だが射出シートはひとつしかない。また乗員は一回で40時間の飛行に耐える訓練を受ける。B-2乗員が使う「長時間セット」には寝台など長距離飛行に必要なものが入っているとミケルソン少佐は説明してくれた。


  1. 米空軍が運用するB-2の20機の大部分はホワイトマン空軍基地(ミズーリ)に配備されている。高度50千フィートを飛行し、ペイロード40千ポンドを搭載し、核・非核両用の運用が可能だ。
  2. 1980年代の運用開始以降、イラク、リビア、アフガニスタンへ投入されてきた。空中給油なしで6,000カイリ飛行でき、ミズーリからインド洋のディエゴガルシア島まで一気に飛び、そこからアフガニスタンで爆弾投下する。
  3. 冷戦真っ只中に開発されたステルス爆撃機B-2はソ連防空網をかいくぐり敵目標を攻撃する設定だった。技術専門家によればステルス機は敵が用いる高周波「交戦」レーダー(敵機に照準を合わせる)と低周波「監視」レーダー(敵機侵入を探知)の両方から逃れることができるという。
  4. B-2は敵地内部でも探知されずに飛行し、「ドアをぶちこわす」つまり敵レーダーや防空体制を破壊し、友軍機が探知されずに侵入する通路を作るのが目的だ。
  5. ただし敵防空体制も技術進歩で高性能化しており、新装備では一部ステルス機の探知が可能で、ネットワーク化と高速コンピューター処理能力により従来より長距離から敵機を探知する装備も現れつつある。ロシア製のS-300やS-400は最先端の防空装備といわれる。


機体近代化改修の内容
  1. そこで今後も有効性を維持するため各種近代化を図っているとミケルソン少佐は説明してくれた。
  2. 中でも重要な性能向上策がB-2乗員に敵防空装備の所在を伝える防御管理システムで、ステルス機探知が可能な技術が現れても将来のB-2は有効範囲外にとどまり探知を逃れることが可能となる。この装備が利用可能になるのは2020年代中ごろだとミケルソンは述べる。
  3. また極高周波通信衛星を使い指揮統制の効率が上がる。例として核攻撃時でも大統領から乗員は直接爆撃指示を受けることが可能となる。
  4. 「核攻撃、非核攻撃の双方で通信能力が改良され利用帯域が大幅に広がるので、データフローのスピードが上がります。この改良には期待しています」
  5. 広く使われているLINK-16、VHF、UHFの各リンクもついているので、地上の前線局や司令部との通信も可能で有人機・無人機からもデータを受け取ることが可能だ。
  6. 無人機からの情報はいったん地上局に送ってからB-2に届く前提だが、新技術でB-2は無人機から動画をリアルタイムで受け取ることも可能になる。
  7. B-2には新型飛行制御プロセッサーも搭載され機内のコンピュータ各種を新型にし、ソフトウェアも追加更新する。その一環で飛行管理制御プロセッサーが機の頭脳として高性能に更新される。また光ケーブル導入で80年代製のコンピュータの能力不足を解消すると空軍が説明した。
  8. 新型プロセッサーでエイビオニクスや機内コンピュータシステムズの能力は1,000倍も増えるという。飛行管理制御プロセッサーは2015年から2016年にかけ搭載され、総額542百万ドルになる見込みだ。

搭載兵装の更新
  1. 同時に次世代デジタル核兵器としてB-61 Mod12に尾部キットをつけたもの、長距離スタンドオフ兵器(LRSO)、空中発射誘導核巡航ミサイルの搭載も進める改修を行う。

U.S. Air Force
  1. このうちB-61 Mod 12の改修作業が進行中でB-61Mod 3,4,7,10の内容をひとつにまとめ誘導式尾部を付ける。B-61 Mod 12は慣性測定方式で航法を行う。
  2. これ以外にB-2はB-61 Mod 11貫徹型核兵器も搭載すると空軍が説明している。
  3. LRSOは従来の空中発射式巡航ミサイルALCMに代わるもので、現時点ではB-52だけに搭載されている。
  4. 通常兵器ではB-2は多彩な兵装が可能で、精密誘導方式2,000ポンドの共用直接攻撃弾(JDAMs)、5,000ポンドJDAMs、共用スタンドオフ兵器、共用空対地スタンドオフミサイル、GBU 28(5,000ポンドバンカーバスター)等がある。
  5. 同時に長距離通常弾頭空対地スタンドオフ兵器JASSM-ER(共用空対地スタンドオフミサイル長距離型)の搭載準備が始まっている。
  6. ミケルソン少佐はB-2は一発の重量30,000ポンドの通常型爆弾、超大型貫徹弾も搭載できるという。「これはバンカーバスターを肥大化させたもので地下深くへ達し目標を破壊します」■


2016年5月23日月曜日

英空軍がリビアのISIS戦闘員の通信網に大規模電子攻撃を実施



The brand new RAF Rivet Joint aircraft “fried” Daesh communications with massive jamming attack in Libya

May 19 2016




RAF英空軍の「新品」のRC-135リベットジョイントでISISの通信がリビアで使用不能になった。

  1. 英特殊部隊が実施した「ブラック作戦」で地中海沿岸のダーイッシュ拠点スルトへ電子攻撃を加え、リビア国内のISIS通信網を停止させた。
  2. このジャミング攻撃を行ったのはRAFのRC-135W「エアシーカー」で2011年に元米空軍のKC-135給油機を950百万ドルでL-3ISが改装した三機の一機だ。
  3. 機内の操作員は戦闘員が好んで使う周波数で高出力妨害電波を送り、ISISの交信を無効にした。同機がリビア沿岸沖合を飛行する間にHMSエンタープライズ艦内のGCHQ(政府通信本部、英国のSIGINT情報機関)所属サイバー戦チームが前週に行ったジャミングで判明したISIS指揮官間の通信内容を監視した。リビアには6千名のIS戦闘員がいるとみられる。
  4. 国防省筋はデイリーメイル紙にIS戦闘員が「状況が理解できず大変混乱し、こちらは周波数を四十分にわたり妨害し、性能の有効性を証明したが、結局IS側は状況を理解できないままだった」と語っている。
  5. RC-135Wは情報収集機材として通常は通信傍受に当たり、各種アンテナやセンサーで敵の通信、送信を盗聴し、周波数を突き止め、軍事的価値のある拠点、移動拠点、対空ミサイル陣地を正確に把握することができる。同時にEW能力もあり、乗員は「ジャミング攻撃で敵に混乱を起こさせることはよくある」のだという。
ZZ664_RC-135W_RAF_Mildenhall_2016_1
リヴェットジョイントを運用するのは米国外では英国だけだ

  1. 改装対象の一号機ボーイングKC-135Rストラトタンカー (64-14833) は2010年12月にL-3コミュニケーションズのテキサス州グリーンヴィルの施設に到着している。
  2. 英軍パイロット、航法士、電子戦要員、情報収集要員、機内整備員は第五十一飛行隊からオファット空軍基地(ネブラスカ)へ派遣され、2011年1月から訓練を開始し、およそ2千回のソーティーで35千飛行時間を飛んだ。
  3. 2011年3月にはそれまで電子情報収集の任務についていたニムロッドR.1が第五十一飛行隊から引退し、三年間も英国のISR機能に穴があいたが、2013年に最初のRC-135W ZZ664が到着し、2015年4月に中東へ派遣されている。
  4. 二号機ZZ665(元米空軍 64-14838)は2015年9月にRAFミルデンホール基地に到着した。三号機ZZ666はKC-135RからRC-135W仕様に改装中で2018年までにRAFへ引き渡される。

写真はアシュレー・ウォレスが撮影した。ZZ664(第五十一飛行隊所属)がRAFミルデンホール基地をタキシーしている。2016年2月19日撮影。尾翼には第五十一飛行隊創設100執念の特別塗装が施されている。
ZZ664_RC-135W_RAF_Mildenhall_2016


★ペンタゴンによる中国ステルス戦闘機開発の現状評価



北京ではAVICの横も通りましたが、AVIC直営のホテルがあることを確認。もちろん社用など画中だと思いますが一度どんな所かを見てみたいものです。


Aerospace Daily & Defense Report

China Makes Visible Strides In Stealth Air Ops

May 16, 2016 Michael Fabey | Aerospace Daily & Defense Report

J-20: Chinese Internet

中国はステルスを航空作戦の中心ととらえているとペンタゴンが評価している。
  1. 「PLAAF(人民解放軍空軍)は他国におけるステルス機の登用を見て、高度な作戦実施にステルスが欠かせない中核性能と位置づけている」とペンタゴンの年次報告書は述べている。「PLAAF首脳部はステルス機で攻撃が有利になり敵が対応する前に優勢が確立できると信じている。2015年に中国はJ-20ステルス戦闘機試作型の5号機、6号機の飛行テストを開始している」
  2. J-20の初飛行は2011年1月だったが、二年しないうちにペンタゴンは次世代戦闘機試作型の二番目の機種を把握している。「FC-31はF-35と機体寸法が近く、J-20と同様の設計上の特徴が見られる」
  3. PLAAFはステルス技術を無人機にも応用しようとしており、特に対地攻撃任務での応用を重視して重度に防御された地点への侵入を想定、とペンタゴンは報告書で言っている。
  4. 「中国航空工業AVICはFC-31を輸出用第五世代戦闘機として売込み中だ」とペンタゴン報告書は指摘する。「またAVICはFC-31の国内採用をPLAAFに働きかけているとの報道がある」
  5. 「米国を除けばステルス戦闘機二機種を同時開発しているのは中国だけだ。中国は高性能機種三型式を開発して域内での兵力投射能力を引き上げ、域内の基地攻撃能力を引き上げようとしている」とペンタゴンは見ている。■