2025年11月25日火曜日

悪いウクライナ和平は戦争を終結させない―逆に長引かせる(The National Interest)

 


2025年11月24日

著者:カウシュ・アルハ

28項目案はどうみてもおかしな内容でロシアが喜ぶだけの内容です。このような交渉をしてしまった米側の過ちであり、欧州各国はウクライナとともに疑念を抱いており、それはわが高市首相も同じです。ウクライナの動向を最も深刻にミているのは台湾のはずで、一週間と勝手に期限を切られて反応を求められているウクライナの返答が注目されます。

近発表された「28項目計画」は、ロシアの要求リスト以外の何物でもない。

ロシアはウクライナを攻撃した。先週発表された28項目計画(28P)の初稿は、ロシアの不法占領を承認し、戦争犯罪を免責する内容だ。ウクライナの軍事力を制限し、NATO加盟を阻む。不法侵入した犯罪者に報酬をあたえるようなものだ。これはロシアの要求リストを反映したものであり、アメリカの掲げる公正と正義の理念に反する。

今こそ、ウクライナと欧州の利益を強固に和平案に組み込むべきだ。ロシアには理解させるべきだ。米国が交渉におけるロシアの最初の提案を超える28Pを検討すること、ましてやウクライナに受け入れを強要することは、米国の利益、理想、そして誠実さへの裏切りとなる。

28Pは、略奪的な米国の敵対者との英雄的な闘いの中で奮闘する勇敢で正義感あふれるウクライナの戦士たちを裏切るものだ。英国上空空戦、バストーニュの戦い、ベルリン空輸作戦はアメリカの国民性と伝承を形作った。第二次大戦中、ロシア軍に無制限の武器供与を行った際、アメリカの指導者たちはこのような思考に溺れることはなかった。その支援がなければ、ロシア軍はナチス・ドイツを押し止めることすらできず、ましてや反撃など不可能だったのだ。

トランプ大統領の平和への取り組みは称賛に値する。彼の顧問たちは、ウクライナを武装させて長期の消耗戦を続けるよりも、ロシアの要求を受け入れる方が、トランプ政権下での停戦と平和への近道だと計算しているのか。バラク・オバマ大統領の顧問たちも、未熟なイラン核合意を急いで結んで同様の罠に陥り、オバマ退任直後に合意は崩壊した。トランプ大統領は顧問たちに、こうした誤算を避けるよう指示すべきだ。

28Pは、ロシアの歴史と、ますます異常かつ人工的な帝国を維持するためにクレムリンが外部脅威と「特別軍事作戦」を必要としている事実を故意に無視して考案された。強固な主権民主国家としてのウクライナやNATOはロシアを脅かさない。脅かされるのはクレムリンの権威主義的支配だけだ。モスクワが自国民を統制するため外部脅威をでっち上げる必要を満たすには、NATOの譲歩はいくらあっても足りない。

ロシア経済の復興は、欧州やインド太平洋地域への米国エナジー輸出に大きな不利をもたらし、黒海・コーカサス・中央アジアにおける米国の拡大する経済的利益を損なう。欧州・アジアへの輸送コストが低いロシアは、米国より競争力のあるエナジー生産国だ。28Pが実施されれば、エナジー利益の喪失、世界のエナジー主導権の喪失、新市場の喪失など、不必要な経済的コストを招くだろう。ロシア経済の復興は米国の経済的利益に反し、トランプ大統領の取引手腕の評判を傷つけるだけだ。端的に言えば、狂気の沙汰である。

28Pはウクライナが血と涙と汗で戦ってきた長年の闘争に対して何の代償も提示していない。この勇敢な国家に領土の喪失と、軍隊の規模・能力・同盟関係への制限を受け入れるよう求める。その見返りとして提示されるのは、ミンスク合意と実質的に変わらない曖昧な安全保障だ。

「我々は自由でありたい。この自由を誰にも借りはない」―第二次大戦末期、ソ連軍が蜂起を支援せずポーランド人(ワルシャワ蜂起)が学んだ厳しい教訓はウクライナにも当てはまる。ウクライナにとって唯一の安全保障はウクライナ軍そのものだ。停戦や和平協定においてウクライナが絶対に譲れない条件は、将来の攻撃を防ぐための迅速な軍事増強を、同盟国からの無条件の支援を得て自由に行えることだ。ウクライナが領土で譲歩すれば、さらなる侵略を招くだけである。押し込み強盗を犯した犯罪者に報くのであれば、さらなる不法侵入を招くことになる。

欧州の現在および将来の安全保障と国際的立場は、ウクライナにおける最終的な停戦または和平計画の性質によって大きく左右される。強靭なウクライナは、ロシア帝国主義に対する欧州防衛の戦力増強要因となる。弱体化したウクライナは、NATOや黒海全域におけるロシアのさらなる侵略を招くだろう。ウクライナの将来の展開は、欧州が国際舞台で戦略的主体として果たす役割に直接影響する。

ヨーロッパは、ロシアの要求が定期的に繰り返されるのを防ぐため、より強い正義感と決意を示す必要がある。ウクライナ戦争を力によって解決することの優先順位と緊急性を、当然のこととして伝える必要がある。ウクライナは、必要な軍事支援を受ければ、ロシアが不法に占領している全領土を奪還できる、というトランプ大統領の見解を採用し、それを拡大し、それに基づいて行動する必要がある。ウクライナの戦場での勝利こそが、ウラジーミル・プーチンのロシアとの公正な平和を保証する唯一の方法だ。欧州での議論の時間は終わった。ウクライナの戦場での勝利を保証するために行動しなければならない。

米国の28Pへの対応は、米国の同盟国、特に台湾に対し明確なメッセージを送る。それは中国が近隣地域でロシアの「特別軍事作戦」を模倣することを抑止するか、あるいは奨励するかだ。欧州、インド太平洋、そして全世界における米国の安全保障保証を再確認するか、あるいは疑念を抱かせるかだ。ウクライナ和平プロセスへの米国の対応は、米国の同盟関係と国際的立場を強化するか弱体化させるかであり、米国の安全保障と繁栄に広範な影響を及ぼす。

トランプ大統領は、強力な指導者であり、ホワイトハウスに構える史上最高の交渉者であると自ら公言している。彼のリーダーシップとスタイルは、コーカサス地方におけるアルメニアとアゼルバイジャンの和平協定、ガザ地区におけるイスラエルとハマス間の和平協定の成立に大きく貢献した。彼はスーダンでも敵対行為の停止を実現する可能性が高い。ウクライナでの不十分な和平は、他の地域での彼の称賛に値する成果を台無しにしてしまうだろう。

歴史は、悪い和平協定によって自らの遺産を無駄にした指導者たちに容赦がない。英国のネヴィル・チェンバレン首相は、1938年にアドルフ・ヒトラーにチェコ・ズデーテン地方を割譲することで「我々の時代の平和」を追求した。オバマ大統領による2011年のイラクからの時期尚早な撤退と、それに続く中東での曖昧な対応は、ISISの台頭、シリアへのロシアの進出、レバントからヨーロッパに至る地域的な混乱を招いた。バイデン大統領の、よく考えられていない悲劇的なアフガニスタン撤退は、アメリカ人の命と名誉を犠牲にし、アフガニスタン国家の崩壊に直接貢献した。トランプ大統領は、自らの遺産を守るために、28P の規定に基づいて、ウクライナで「我々の時代の平和」を無思慮に追求するよう求める国内外の嘆願を無視するのか。

28Pは現実主義という偽りの覆いの下で、ロシア懐柔の古い手法を再演している。2008年(ジョージア)と2014年(クリミア・ドンバス)の経験を繰り返すと公言しながら、異なる結果を期待しているのだ。略奪的なロシアの熊に領土と尊重と名誉を与えれば、草食動物に変わるだろうと期待している。これは熊の本質を根本的に誤解している。熊を制御するために餌を与えるものではない。熊を森から追い出すために狩人に武器を与えるのだ。現実主義は、米国と欧州がウクライナの戦場での勝利を確実にした後で、ロシアと公正かつ永続的な平和のための交渉を行うことを求める。

同盟国からの武器供給が途絶えたウクライナが劣勢にある現状のまま、ロシアが優位に立つ戦争中に和平交渉を行えば、米国と欧州の利益は何ら前進しない。公正かつ永続的な平和は、まず第一に、和平交渉に先立ち戦況を均衡化させるため、ウクライナ軍に必要な兵器(長距離攻撃ミサイルを含む)を即時供給して状況を是正すべきだ。さらに、ウクライナの主権を鉄壁に保証せず、戦争の代償をロシアに負わせない最終合意では、道義的にも現実的にも成り立たない。

トランプ大統領は、コーカサス、中東、アフリカその他の地域に平和をもたらした功績で歴史に名を残すだろう。ウクライナで侵略者に報いるような拙速で卑劣な和平は、彼の正当な和平構築者としての評価を致命的に損なう。28Pのような拙速な和平は、平和をもたらしたのではなく、米国の利益・安全保障・国際的地位に多大な代償を払わせて戦争を長期化させたとして記憶されるだろう。「アメリカ第一」とはゴリアテではなくダビデとなることを求める。

ウクライナ、欧州、そして自由世界は、アメリカの決意と正義への期待を持ちつつも、公正な平和以外の何物も実現させないよう、必要なあらゆる行動を緊急に講じるべきだ。バストーニュで追い詰められた米軍部隊を指揮したマコーリフ将軍は、ドイツ軍の降伏提案に対し「NUTS(ふざけるな)」と返答した。28項目計画は「NUTS」をはるかに超えている。アメリカにはもっと良い選択肢があり、ウクライナにはそれ以上の対応が相応しい。■

著者について:カウシュ・アーラ

カウシュ・アーラは、自由で開かれたインド太平洋フォーラムの会長であり、アトランティック・カウンシルおよびパデュー大学クラック技術外交研究所の非居住上級研究員である。トランプ政権第一期において、アーハ博士は省庁間二国間調整フォーラムとしての日米戦略的エナジーパートナーシップ及び日米戦略的デジタル経済パートナーシップの設計者であり、年2回開催される日米自由で開かれたインド太平洋対話において影響力のある役割を担った。

画像提供:Photo Agency / Shutterstock.com

In Ukraine, a Bad Peace Won’t End the War—It Will Prolong It

November 24, 2025

By: Kaush Arha

https://nationalinterest.org/feature/in-ukraine-a-bad-peace-wont-end-the-war-it-will-prolong-it




1 件のコメント:

  1. ぼたんのちから2025年11月25日 12:56

    この記事の筆者の28Pの和平案に対する評価は、妥当である。ウクライナの今までの敢闘を反故にし、プーチンとロシアを増長させるような行為は、悪い例となり、次のロシアの侵略を誘発させるだろう。
    しかし、筆者は、その代わりに「ウクライナの戦場での勝利」こそが、「公正な平和を保証する唯一の方法」だと述べるが、それは可能なのだろうか? ウクライナ軍の疲弊を見る限り、困難であるように思える。
    ウクライナ軍を強化する唯一の方法は、欧州NATO諸国の義勇兵としての参加であるが、欧州の劣化したリベラルの指導者達は、武器は送るが、血を流すのは自分たちでないと決めてかかっているようだ。
    結局、戦争の行方の鍵は、米国が握っている。トランプは、老いぼれバイデンと同じように、戦局を左右する武器の供与には及び腰である。バイデンはプーチン恐怖症に罹っていたためだが、トランプは、ロシアを「北京枢軸」から連れ戻し、あわよくば仲間にしようとする他人には言えない思惑を内に秘めているのかもしれない。
    トランプは、レーガン、ゴルバチョフによる緊張緩和を、プーチンと再現したいのかもしれない。
    今はトマホークや類似兵器を送るべきだが、やはり無理なのか?

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