2022年4月10日日曜日

論考 ウクライナ戦に見る戦争形態の変化を物語る3要素。ロシアは変化を無視し従来型戦術のまま作戦展開し痛い目にあっている。

 技術の進化、地形、社会の変化で攻守のバランスが変化しており、ウクライナ以外の民主体制国家にも有利になってきた。



シア侵攻へのウクライナの反撃が予想外に成功していることは、戦争の性格が変わりつつある姿を示している。ロシア軍が予想外な無能ぶりを示した一方で、侵略側が思う通り進展できなくなる傾向だ。

 これは、中国など征服により他国の領土を確保しようとする国々にとって悪い知らせだ(そして、先制攻撃戦をいまだ主張するアメリカのネオコンも同様だ)。逆に戦略目標の中心を防衛におく民主主義国家や、圧倒的な通常戦力に直面している小国には朗報だ。

 何が変わり、なぜ変わるのか?ウクライナ戦争は、精密誘導火力市街地化国民動員という世界的トレンド3つの軍事的意味を浮き彫りにした。今回が初めてではなく、米国自身もイラクで同様の苦境に遭遇した。しかし、ロシア侵攻は、現代の戦場で各要素が展開する点で群を抜いて明確な例であり、台湾当局者が公言したように、中国の戦略家は台湾統一を強行した場合の影響を熟考する必要があろう。


火力

火力、防護、作戦のバランスは常に変化しながら、戦争の様相を形成している。歴史上、長距離兵器が防御力を上回ると、戦場の移動が危険になり、隠れるのが安全になる。その結果、攻撃効果は妨げられ、防御が有利になる。クレシーやアジャンクールでイギリスの長弓がフランス騎士団の進撃を妨げたように、西部戦線で機関銃が塹壕戦の膠着状態をもたらしたように、そしてウクライナがロシアの進撃を妨げた事例となる。

 最も劇的な例は、英NLAWや米ジャベリンといった西側装備がロシア戦車を破壊したことだ。重装甲車両は最も難しい標的であり、対抗策のアップグレードも最も簡単だ。(例えば、米軍はイスラエルのトロフィーシステムをM1戦車に搭載している)。米国の経験から、軽量車両、特に前進の維持に不可欠な非装甲の補給トラックへの対ミサイル防衛装備の搭載は困難だ。そして、薄っぺらな車両は、高性能対戦車ミサイルだけでなく、小型弾を投下する無人機にも脆弱だ。実際、ウクライナのアエロズヴィドカAerorozvidka部隊は、自ら設計した爆弾投下型無人機でロシア部隊を停止させたと主張している。また、非武装の市販無人機でも、目標を発見することで、ウクライナ砲兵隊や待ち伏せ部隊の威力を増進できる。

 スマート兵器の世界的な普及、そして標的探知用の長距離センサーの普及は、ウクライナにとどまらず、大きな意味を有する。ロシアと中国は、米軍による介入を阻止するため、長距離対空ミサイルや対艦ミサイルを用いた「接近阻止/領域拒否」防衛の構築を模索してきた。逆に、アンドリュー・クレピネビッチAndrew Krepinevichなど欧米の専門家は、フィリピン、日本、台湾を中国から守るため同様のシステムを主張しており、台北は同アプローチを検討している。いずれの場合も、陸上兵器により、敵航空機や軍艦を壊滅させるコンセプトだ。

 揚陸侵攻部隊は、こうした防御に特に脆弱だ。陸上部隊と異なり、艦船では外洋には隠れる地形がない。航空部隊のように高速移動して攻撃を回避することもできない。従来、海軍は陸からの脅威を避けるため、射程圏外にとどまり、広大な海で発見されないようにしてきた。しかし、部隊を上陸させるのが目的だと、その選択肢はない。

 中国が台湾を侵攻する場合、80マイル以上の海峡を渡り、さらに地球上で最も密集した市街地を内陸に向かい戦う必要が出てくる。それが次の話題につながる。


ウクライナの人口密度分布

ウィキメディア・コモンズ


市街地化

ウクライナは歴史的に侵略の通路であった。広い草原と小麦畑が広がり、モンゴルの騎馬民族からナチス戦車兵まで、侵略者の前進を妨げる自然障害物がほとんどない。では、なぜロシア軍はベラルーシから60マイルも離れたキーウや、ロシア国境から13マイルしか離れていないハルキウを占領できなかったのか。

 答えの一つは、防衛側を有利に変えた市街地化だ。ウクライナの自然特徴は変わらないが、居住地は過去の戦争と大きく異なっている。ウクライナの人口は、ヒトラーが侵攻した当時とさほど変わらない。公式発表によれば、当時は4000万人強、現在は4500万人だが、都市部住民の割合は69%へ倍増した。ウクライナの人口密度マップでは、点在する都市の一つ一つが要塞だ。

 紀元前6世紀、孫子は都市への攻撃は最悪の戦略だと警告していた。21世紀の都市はさらにタフだ。石垣はないが、上方から待ち伏せが可能な高層ビル、掩蔽壕に転用できるコンクリート構造、戦闘員が地下から作戦展開できるトンネルや地下鉄網がある。都市環境の複雑さは、攻撃側にとって悪夢であり、無数の裏ルート、隠れ場所、待ち伏せの可能性がある場所について防衛側ほど熟知していない。ロシアがウクライナで行っているように、都市を爆撃して瓦礫にすれば、民間人の殺戮では効果的だが、軍事的観点では、通りを瓦礫で埋め尽くしてしまうことになる。イラクのファルージャやサドルシティ、ウクライナのマリウポリなど、近代における最大に過酷な戦闘が都市が舞台となっているのは不思議ではない。


ウィキメディア・コモンズ


 そのため、各軍隊は都市への接近を避けるようにしてきた。しかし、世界人口が都市化を深め、市街地が広がるにつれて、接近回避は難しくなってきた。世界銀行によれば、1960年に世界人口の3分の1が都市部に住んでいたが、2020年は60%近くになるという。

 中国の最重要ターゲットである台湾では、人口の約80%が都市部に居住している。台湾の人口はウクライナより少ないが(4,500万人に対し2,400万人弱)、国土が狭いため、人口密度は9倍(1平方マイルあたり1,709人、185人)にもなる。さらに人口が集中している西側に中国の侵略軍が上陸する可能性が高い。(東海岸は本土から遠くなるだけでなく、急峻な山地が多い)。

 ここまで密集した都市部は、侵略の物理的な障害になるだけでない。人的な障害にもある。住民は、社会的ネットワーク、集団抗議行動、暴動、あるいは反乱軍が容易に生まれる。テクノロジーで大衆動員はかつてなく容易になっている。


国民動員

今日のウクライナの大部分は、300年以上にわたりロシア支配下にあった。しかし、ウクライナを服従させるのは困難になっている。歴史的に見れば、ウクライナ人の多くは自給自足の農民で、孤立した村落に住み、外部のニュースやアイデアはゆっくりとしか入ってこなかった。しかし現在では、ほとんどのウクライナ人が都市部に住み、60%以上がスマートフォンを持つ。農民にとって、戦争や政治は天候のように不可解で、危険で、しばしば災いをもたらし、耐えることはできても影響を受けることはなかった。現代のネットユーザーにとって戦争はインタラクティブな存在であり、ソーシャルメディアは抵抗、抗議、入隊、火炎瓶製造、補給隊への攻撃などを促している。勝利と残虐行為の画像は日常となり、ゼレンスキー大統領は国民に直接訴えている。

 この現象は、インターネットの登場以前にもあった。チャーチルがラジオでイギリス国内の抵抗を結集させたのは有名な話だ。それ以前にも、新聞、パンフレット、書籍の大量印刷は、アメリカ独立戦争までさかのぼれば、民衆の抵抗運動の炎を燃え上がらせてきた。独裁者もマスメディアを利用し、ヒトラーやスターリンは、工業化以前の専制君主では到底不可能な方法で、国民を総力戦に向け奮い立たせるプロパガンダを利用した。共通する要因は、大量動員を可能とするマスコミュニケーションだが、なかでもインターネットは最新かつ最も効果的な形態だ。QAnonの台頭やアメリカでの1月6日暴動を見ればわかる。


2021年8月24日、ウクライナの独立記念日のパレードで、大きなウクライナ国旗を運ぶ軍部(Brendan Hoffman/Getty Images)


 もちろん、ウェブサイトはハッキングされ、通信は妨害され、印刷機は押収される可能性がある。しかし、ウクライナでロシアが通信遮断できなかったことは顕著だ。とはいえ、強い国民性が形成されれば、手遅れだ。長年にわたりマスメディアに接することで、国民は共通の言語、思想、経験に触れ、学者ベネディクト・アンダーソンBenedict Andersonが言う「想像の共同体」imagined communityを形成し、対面のつながりで得る以上のアイデンティティが確立できる。ひとたび自分の村を超えた価値観に共感できれば、それを守るために動員される可能性が高くなる。

 今日のウクライナでは、何百万人が国家的大義のため戦うと強く共感している。 台湾はどうか?台湾は世界で最も電脳化され、動員された社会の一つだ。2021年の時点で、人口の98%がスマートフォンを持つ。うち67パーセントが選挙に参加し、2020年には75パーセントに増加する。

 さて、歴史的には、北京と台北間で台湾が統一中国の不可分の一部であることに同意できていた。ただ、どちらが主導権を握るかで意見が分かれていただけだ。しかし、最近の世論調査では、台湾人口の68%が自らを台湾人だとし、中国人と答えたのは2%以下、28%が両方であると答えている。64パーセントが台湾を守るため「絶対に」または「おそらく」戦うと答えた。

 この数字は、ウクライナ式の国土防衛が台湾で新兵多数を獲得できると示唆している。最新のミサイルや無人機で武装し、さらに都市部の地形で守れば、中国の侵略には手強い障害となり得るだろう。

 攻撃が時代遅れになったとは言い難いし、中国はロシアよりずっと強力だ。しかし、ウクライナは正しい形の防衛が有効だとあらためて示唆しており、世界各地の民主主義国はウクライナを参考にすべきだ。■


Three reasons why defense is beating offense in Ukraine - and why it matters for Taiwan

Changes in technology, terrain and society have shifted the balance between offense and defense in ways that favor democracy's defenders in Ukraine — and beyond.

By   SYDNEY J. FREEDBERG JR.

on April 08, 2022 at 9:13 AM


ウクライナ戦の最新状況(4月9日)ジョンソン首相の電撃キーウ訪問、黒海の機雷、陸上不発弾処理など

 





ANDRIJ SYBIHA, DEPUTY HEAD OF ZELENSKY'S ADMINISTRATION VIA KYIV INDEPENDENT

 

シアとの戦争が7週間目に突入した中、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月9日土曜日、ボリス・ジョンソン英国首相をキーウで迎えた。

ロシアの包囲攻撃でキーウ郊外や近隣市町村が廃墟と化して1週間後でのジョンソンの首都訪問は、2月24日のロシアの侵攻以来、NATO指導者のウクライナ訪問としては最も注目されるものとなった。今回の訪問は、ロシア軍が北部攻勢から態勢を立て直し、東部で攻撃を続けている最中に行われた。

ジョンソンとゼレンスキー両首脳が武装ガードマンに囲まれキーウ市内を歩くという驚きの映像が公開された。セキュリティ面からかなり衝撃的で、両首脳は各方面からの見通し線内を移動している。

 在英ウクライナ大使館が土曜日午前、両指導者の写真を最初にツイートした。BBCは、今回の訪問は「ウクライナ国民との連帯を示す」だけでなく、ウクライナへの英国の経済的・軍事的支援の協議が目的と報じた。

 前日に英国政府が対戦車システムNLAWとジャベリン、滞空待機弾、スターストリーク防空システムなど新たなウクライナ向け軍事支援パッケージを発表していた。

 その後、装甲車約120台と対艦ミサイルシステムの供与で首脳が合意したと英首相府が発表した。装甲車は6輪走行式マスティフMastiffと見られるが、対艦ミサイルの種類は不明。

 ジョンソン訪問は、キーウ周辺の状況をさらに浮き彫りにしている。ポーランド、チェコ、スロベニアの首脳が3月15日に包囲中の首都に列車で向かったことがあるが、英国首相の電撃訪問は別次元だ。

 端的に言えば、ジョンソン訪問団は核武装したNATO加盟国首脳がウクライナに移動したことを意味し、キーウ滞在中や移動中にロシアが攻撃すれば、偶然であっても、事態がエスカレートする深刻なリスクをはらんでいた。今回の訪問は、英国やNATOがロシアの攻撃リスクを低く見積もった場合、あるいは外交協議中の紛争地帯に向かうことに特別な勇気を感じた場合にのみ成立する。ここまで注目度の高い外交作戦のリスクを相殺する保証が英国にあったのかは、現時点では不明である。

 英国国防省が最新の評価を発表した。ロシア軍は現在ドンバスに集中し、クリミアへの陸上回廊を確保しているようだが、マリウポリなどで抵抗が続いているため期待どおりに動いていないとのオープンソース報告とほぼ一致している。

 英国防省はロシア軍のトーチカU Tochka-U ミサイルがクラマトルスクKramatorsk駅を攻撃し、脱出しようとした市民50人以上が死亡したとの報道にも言及している。

 ビデオでは、イジュムIzyum近くの道路上で、主にVマークのBMD空挺歩兵戦闘車、T-80U戦車とそれに付随するトラックなどの車両のロシア軍を映していた。最近ロシア軍に占領されたイジュムは、ドンバスのウクライナ軍に対するロシアの包囲作戦で重要地点になりそうだ。

 ウクライナ東部は青空が広がり、ドネツク近郊やベルゴロド・ハリコフBelgorod-Kharkiv前線の北には、ミサイル発射煙が何キロにもわたり見えるほどだった。これがトーチカ-Uあるいはイスカンデルのような弾道ミサイルか、長距離ロケット砲なのか、それとも防空ミサイルの発射かは不明である。

英国国防省が言及した抵抗の映像がさらにある。ウクライナのアゾフ大隊が公開した映像では、小型無人機からと思われるが、マリウポルのウォーターフロント付近でロシア軍トラックをピンポイント攻撃する様子が映し出されている。また、衛星はポパスナPopasns付近の戦闘を映し出している。

ロシア国防省はマリウポルに残るウクライナに補給を狙っていたマルタ船籍貨物船アゾフ・ゼアを攻撃したと主張している。

 衛星画像は、黒海でロシアの掃海作戦が進行中であることを示している。オデーサ上陸の噂が絶えない中、ロシア黒海艦隊は「水陸両用デモンストレーション」を実施しているが、揚陸作戦では機雷除去が前提となる。

 黒海では機雷の危険性のため、海上交通コストの上昇が伝えられている。トルコ海軍は浮遊機雷少なくとも3個を処分したと伝えられている。

 陸上では、キーウとその周辺地域の不発弾(UXO)の除去という高難易度作業が始まっているようだ。6週間にわたる激しい砲撃と市街戦で、戦闘員が落としたもの、不発弾、撃破車両内で燃え尽きなかった弾薬など、不発弾がトン単位で存在している可能性がある。

 車両の殺傷について言えば、オープンソース軍事監視員として知られるオリックスOryxが、目視で確認されたロシアの車両と重軍事装備の破壊数が合計1000台を突破したと土曜日発表した。■

 

Ukraine Situation Report: British Prime Minister Boris Johnson Meets Zelensky In Kyiv (Updated)

The British leader’s trip to the Ukrainian capital is thus far the most prominent visit by a NATO leader.

BY STETSON PAYNE APRIL 9, 2022


2022年4月9日土曜日

ウクライナ向け新レンドリース法が成立すれば武器等の供与が迅速に。ウクライナは武器提供を必死に請願。ロシアの人権委員会追放など急展開するウクライナ関係情報をお伝えします。

 

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An explosives sign marks the cordon around an aircraft in support of a security assistance mission between the U.S. and Ukraine at Dover Air Force Base, Delaware, May 24, 2021.

USAF

 

新レンドリース法案が成立すれば、兵器含む軍事装備品のウクライナ搬送が加速しそうだ

シアのウクライナ戦が8週目に入ろうとしている中、米上院は、第二次世界大戦中のレンドリース法のようなウクライナ向け新しい軍事支援メカニズムを確立する法案を可決した。成立すれば、米国政府からウクライナへの武器・弾薬などの安定供給が、飛躍的に増大する可能性が生まれる。

水曜日の夜遅く、アメリカ上院は、第二次世界大戦中のレンドリースプログラムをモデルとして、ウクライナに対する新たな軍事支援活動を確立する法案を可決した。この法案がジョー・バイデン大統領の署名で成立するためには、下院での可決が必要だ。

同法案が成立すれば、ウクライナへの新たな軍事支援の提供が大幅に加速されそうだ。米国政府はウクライナ軍に武器やその他物資を事実上貸与することが認められ、軍事援助の正式な譲渡とその支払い方法を規定する既存プロセスが不要となる。

ウクライナのドミトロ・クレバ外相はツイッターに「米国上院が『ウクライナ民主防衛レンドリース法』を可決したことに感謝する。ウクライナへの軍事装備の納入を促進するレンドリースプログラムに向けた重要な第一歩だ」と書き込んだ。「下院での迅速な可決および米国大統領による署名を期待している」。

ブリュッセルにあるNATO本部では、クレバ外相はこれと別に、ウクライナの国際的パートナー各国との今後の協議で3項目を議題としたと述べた。「武器、武器、武器 」だ。ウクライナ外相は、ウクライナは戦闘機、戦車などの装甲車両、防空システムの追加を続けて求めている、と付け加えた。

新たなレンドリースの可能性がなくても、米国やその他国は、対ロシア戦でウクライナに武器や資材を送り続けている。本日未明、統合参謀本部議長のマーク・ミリー米陸軍大将は、上院軍事委員会議員に対し、ウクライナ軍が2万5000台の対空兵器システムと6万台の対戦車兵器システムを受領したと述べた。多くは肩撃ちのシステムである。

ここにきて紛争の様相が変わってきたため、ウクライナ当局は、米国等に一層多くの援助を求めている。ロシア軍は現在、同国北部から部隊を撤退させ、東南部の目標に集中している。その結果、ウクライナ軍は国内の相当部分を解放でき、ロシア侵攻に抵抗しながら、複数前線で反撃を続けている。

これと別に、国連総会はこの紛争をめぐり、ロシアを人権理事会 Human Rights Councilから追放する決議をした。反対は24カ国、棄権は58カ国にとどまり、クレムリンの孤立ぶりを浮き彫りにした

(ロシア追放決議に反対した国)

 

米国はじめ92カ国の代表が本日未明、ロシアを国連人権理事会から除外する提案を動議にかけ、必要な3分の2の賛成を満たした。可決された決議は、「人権に対する重大かつ組織的な侵害を犯した理事国の人権理事会メンバーとしての権利を停止する」とある。

今日の投票に先立ち、ロシア当局は人権理事会からの追放に賛成する国との関係に悪影響が及ぶ可能性があると警告していた。

ウクライナ軍が北端のかなりの部分を奪還したため、ロシアの戦争犯罪の可能性を示す証拠が、ここ1週間ほどで、積み重なってきた。

民間人が処刑されたり、意図的に狙われたりしていることを示す強い証拠が含まれている。ロシア軍は、ウクライナ北部から撤退する際に、地雷やトリップワイヤーを含むその他のブービートラップをまいたと伝えられている。

ドイツ連邦情報局(BND)は、ロシア軍が民間人の処刑を議論する音声通信を傍受したと報じられている。また、ドイツ当局は、首都キーウ郊外のブチャでウクライナ人が虐殺された事件に、ロシア諜報機関と密接な関係にある民間軍事会社ワグナーWagnerの関与を疑っている。

戦争犯罪の疑惑のため、トルコにおけるウクライナとロシアの交渉は頓挫したと伝えられている。両国政府の関係者や仲介役のトルコは、紛争の外交的解決をめざす進展が遅々として進んでいないと述べている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のドミトリー・ペスコフDmitry Peskov私的報道官は、ウクライナ戦でロシア側に「大きな損失」があったと認め、「大きな悲劇だ」と付け加えた。ロシア政府は公式には軍人1,351人を失ったと認めただけで、数字はウクライナ、アメリカ、その他の外国政府当局の推定よりはるかに低い。

ロシア政府はウクライナと国境を接する西ベルゴロドBelgorod州の兵器庫が3月29日に爆発したのは、ウクライナの短距離弾道ミサイル「トーチカ-U」による攻撃だと発表している。また、ベルゴロド州は、3月31日夜から4月1日にかけて、ウクライナのMi-24ハインド攻撃ヘリコプターが石油貯蔵施設を越境攻撃したとロシア当局が発表した場所である。

ウクライナ東部ドンバス地域の一部からウクライナ市民を避難させる取り組みは、ロシアの空爆で鉄道路線が切断されており、停滞している。

ウクライナのミコライフ州知事ウィタリ・キムVitaliy Kimは、準軍事警察がロシア軍に向けてウクライナ製のRK-3コルサー対戦車誘導弾を使用する様子を映したビデオを公開した。ロシアの侵攻へのウクライナの抵抗勢力で注目され、直接標的にされている同知事は、「交通違反者」を裁いたと説明している。

側面に英語で「WOLVERINES」とスプレーで描かれた破損し放棄されたBMP-2歩兵戦闘車がウクライナで目撃されている。1984年公開の映画『レッド・ドーン』(邦題 若き勇者たち)を意識したと思われる。映画では、「ウルヴァリン」と名乗る10代の若者たちが、米国を侵略してきたソ連軍とゲリラ戦を行っている。

フィンランドのペッカ・ハーヴィスト Pekka Haavisto外相は、同国のNATO加盟の計画を、今後数週間以内に公の場で明確にすると述べている。フィンランド政府は、ウクライナ紛争を踏まえ、伝統的に中立的としてきた外交政策を積極的に見直している。■

Ukraine Situation Report: Senate Passes Bill To Create Weapons Lend-Lease Program For Ukraine

If the lend-lease bill becomes law, it would help accelerate deliveries of weapons and other military material to Ukraine.

BY JOSEPH TREVITHICK APRIL 7, 2022

主張 ロシアは大国ではない。大きな北朝鮮だ。

 

 

ーチン大統領はロシアの国力を破壊しており、ウクライナ戦争の誤算がロシアの衰退を早めている。プーチン本人は、これに気づいていないようだ。欧米の政府関係者は、プーチンが側近アドバイザーから嘘をつかれているとの疑いを強めている。また、プーチンは経済問題に関心が薄いようだ。対ロシア制裁を放置し、戦争が長引けば、ロシア経済がどこまで縮小するか把握していないようだ。

 今回の戦争がロシア崩壊の、ロシアが中堅国家に成り下がったことの原因だったと数年後に振り返ることになるかもしれない

 

プーチンはファシスト戦犯

プーチンが10年半で築いた体制は、権威主義、閉鎖性、超国家主義、抑圧性を一層強めた。プーチンは、混乱の1990年代からロシアの安定を取り戻そうと大統領職についた。ソ連崩壊後の「荒っぽい」資本主義を抑制するため、強硬策が必要だったのは間違いない。しかし、プーチンは権威主義に傾き、無期限に近く政権を維持するべく憲法を不正操作するに至った。

 プーチンはまた、西側への猜疑心を強めている。ロシア周辺での「カラー革命」に欧米の手が働いたと見ている。北朝鮮やイランの制裁逃れに手を貸した。中東、特にシリアで、軍が民間人に残虐行為を行い、荒っぽい役を演じた。今回のウクライナ都市部への砲撃も同様だ。

 国内では、偏執狂傾向が、ロシア社会の閉鎖、市民機関の抑圧、反対派の投獄、反対派メディアの排除などを引き起こしている。敵対する西側勢力にロシアが包囲されているとの好戦的なナショナリズムのイデオロギーが弾圧に伴っている。

 右派権威主義への傾斜はウクライナ戦争でピークに達したようだ。プーチンの過激な言動、帝国主義の公然たる受け入れ、戦争犯罪の容認によって、プーチンはファシストであるという意見が多く聞かれるようになった。

 

ロシア経済の腐敗、縮小

ロシアでの汚職の蔓延ぶりは有名な話だ。プーチンは当初、腐敗勢力を打破する姿勢に見えた。しかし、政権の利益のため逆に利用した。Transparency Internationalの汚職度スコアでロシアは常に上位にランクされている。

 汚職はロシアの経済成長を阻害するだけでなく、軍事力も低下させている。ハイテクを駆使した近代的な軍備は停滞経済では支えられない。社会の腐敗は必然的に軍部にも波及する。ウクライナにおけるロシア軍の兵站では、予備部品、燃料、軍需品の盗難や売買などが表面に出た。

 さらに制裁措置は懲罰の意味を有する。ロシアのGDPは現在世界第11位だが、エコノミストは今年だけでGDPの10〜15%の縮小を予測している。戦争が何年も続けば、ロシアは2年後にも世界経済のトップ20から脱落する。資本逃避と頭脳流出が加速し、中国への経済的依存も高まるだろう。

 

無謀な核の恫喝で孤立

プーチンは、ロシアの外交や世界経済からの孤立に対し、突飛な脅しや核兵器の言及で対抗している。プーチンは、ロシアは大国であるとの認識に固執している。しかし、ロシアに大国を名乗る経済力はなく、制裁で劇的に悪化しつつある。

 プーチンは、世界政治におけるロシアの重要性を主張する最後の手段として、核兵器のカードで対抗している。腐敗し、機能不全に陥った経済の重圧により、ロシア通常戦力が停滞するにつれ、核兵器の重視が高まっている。ロシアは、NATOや中国に匹敵する力が低下したため、核使用の閾値を下げた。

 ウクライナ戦争で、ロシアの通常戦力は外部が考えていたより弱いことを露呈してしまった。戦争が終結し、ロシアの経済基盤が大幅に縮小した後で、大国の威信をかけ、さらに戦略核兵器に傾倒する可能性がある。

 

北朝鮮としてのロシア

ウクライナ戦争後のロシアの状況によく似た国がある。偏執的で残忍な国家主義的指導者が従順な取り巻きに囲まれ、腐敗し機能不全の経済を持ち、世界多数国から嫌われ、恐れられ、孤立し、腐敗肥大した軍に支えられ、国際的威信のために核に傾き、突飛な脅威を与え、無謀にも核を振り回し、脱国したいと願う国民への弾圧に躊躇せず、極度なまでの国家主義思想、中国依存の国である。

 プーチンはロシアを大きな北朝鮮にしている。■

 

 

Russia is Turning into North Korea - 19FortyFive

By Robert Kelly

 

Dr. Robert E. Kelly (@Robert_E_Kelly; website) is a professor of international relations in the Department of Political Science at Pusan National University. Dr. Kelly is a 1945 Contributing Editor as well. 

 


2022年4月8日金曜日

この装備品はなぜ採用されなかったのか ヴォート1600は採用一歩前まで行ったF-16の海軍仕様だったが、採用されていれば....

 


F-16ファイティングファルコンは、40年以上にわたりアメリカ空軍で主力戦闘機として活躍しているが、空母搭載型がアメリカ海軍の主力戦闘機となるかと思われた時期があった。

 1974年初飛行し、4,600機が納入されているF-16はアメリカの航空支配の屋台骨であり続けている。F-16の幅広いマルチロール能力と圧倒的な性能は、映画「スター・ウォーズ」初公開された時点の機体にもかかわらず、今も世界トップクラスの戦闘機として知られている。


40年経っても健在だ (U.S. Air Force photo)


 F-16は米国、イスラエル、パキスタン、トルコ、エジプト、オランダ、ノルウェー、ベルギーなどで飛んでいる。しかし、この高性能な第4世代戦闘機が米国の超大型空母で供用される可能性があった。 1975年にF-16が空軍の新型戦闘機材(ACF)契約を獲得した直後、当時のジェームズ・シュレシンジャー国防長官は米海軍にも同機の採用を働きかけた。

 シュレシンジャー長官は、海軍もF-16を採用すれば、国防総省はF-16を大量調達でき、両軍の兵站が合理化できると考えた。

 この考え方は、最終的にF-35統合打撃戦闘機という悪夢の調達につながったが、F-16でも空軍、海軍、海兵隊、海外の異なるニーズを満たす単一の戦闘機プラットフォームとなる期待があった。もし、ヴォートのモデル1600(空母搭載型F-16)として就役していたら、F-16も失敗作になっていたかもしれない。


AIM-9サイドワインダーミサイルを搭載したYF-16(手前)とノースロップYF-17。(米海軍撮影:R.L.House)



F-16とF/A-18の前身が一度ならず対決していた

YF-16が空軍の主力戦闘機となる前に、まずノースロップYF-17という厳しい競争相手と戦わなければならなかった。YF-17は、制空戦闘機であるF-15イーグルに代わる低コスト戦闘機として開発された軽量試作戦闘機だった。F-15は大型で強力、かつ高価格であるため、多くの場面で必要以上の威力を発揮する。そこで、安価ながら高い能力を持つ戦闘機が、アメリカの戦闘機隊を補完することができると、軍上層部は考えていた。

 最終的にYF-16は、空軍のテストでノースロップYF-17を上回ったが、共に高性能な両機が契約をめぐり競合したのは最後ではなかった。海軍がF-16を空母用として検討するとノースロップYF-17と再び厳しい競争となった。

 F-16を製造したジェネラル・ダイナミクスもYF-17のノースロップ社、空母用戦闘機の製造経験はなかった。ジェネラル・ダイナミクスはヴォートと組み、新型のF-16ファイティング・ファルコンをヴォート・モデル1600とし、ノースロップはマクドネル・ダグラスと組み、YF-17を改良した。

 両戦闘機の新型は、当時の海軍の主要ニーズに重点を置いた。すなわち、迎撃任務用の長距離レーダーと、アメリカが重用してきた空対地戦闘作戦を支えるマルチロール能力だ。


vought 1600(Vought Aircraft)



F-16をヴォート1600にする

vought 1600サイドワインダーのパイロンを取り除き、空母収納のために主翼の折りたたみ機構を採用したヴォート1600の想像図。(米海軍)


vought 1600



F-16が戦闘機と同時に攻撃機として役割を見事に果たしている今日からすれば、奇妙に思えるが、F-16の当初コンセプトは、制空任務専用だった。「軽量戦闘機マフィア」と呼ばれるジェネラル・ダイナミクス設計陣は、新型戦闘機にありがちな「金メッキ」を新型機から遠ざけようとしたのである。「金メッキ」とは、火器管制レーダー、激しい戦闘空域を飛行するための電子対策、レーダー誘導ミサイル、地上攻撃能力など、今では第4、第5世代戦闘機の標準と考えられる要素だった。

 F-16Aが登場する頃には、AN/APG-66レーダーや地上攻撃能力など、「軽量戦闘機マフィア」が軽蔑する豪華装備も搭載されていた。しかし、レーダー誘導の空対空兵器はまだなく、熱探知型サイドワインダーミサイルが採用された。このように、F-16は海軍のニーズに対して、優れた候補とはいえ、まだ十分とは言えなかった。

 海軍のニーズに応えるべく、ヴォート1600はF-16Aより3フィートほど長く、翼幅は33フィート3インチと空軍の戦闘機よりも2フィートほど大きくなった。翼面積は269平方フィートになり、低速時安定性が向上した。胴体は少し平らで幅広になり、キャノピーはF-16と異なり、F-35同様に前方で開閉する設計になった。

 空母着艦用装備として、ヴォート1600の腹部には着陸フックなどの空母標準装備品と大型の着陸装置が必要となった。機体強度も向上し、目視外照準用のパルスドップラーレーダーも追加された。

 F-16をヴォート1600にするため必要な構造上の変更で、合計3,000ポンド以上の増加となった。その後、ヴォート1600は胴体や主翼にさらなる変更を加え完成した。V-1602は、主翼面積が399平方フィートとさらに大きくなり、エンジンも大型のGE F101となった。



2回目に福を引いたYF-17


海軍ニーズに合わせてF-16に変更を加えたものの、最終的にはノースロップとマクドネル・ダグラスのYF-17(後のF/A-18ホーネット、そしてその後継機であるブロックIIスーパーホーネット)に敗れることになった。

 YF-17は空軍には通用しなかったかもしれないが、海軍は航続距離と安全性から、この戦闘機のスケールアップ版に将来性を見出したのだ。


YF-17、F/A-18A、F/A-18Fのサイズ比較(WikiMedia Commons)


 ヴォート1600の低位置の空気取り入れ口は、空母飛行甲板で乗組員を吸い込まれかねない危険なものと考えられていた。この批判は以前にもあり、パイロットに人気の高いヴォートF-8クルーセーダーの大きく低いインテークは、乗組員を吸い込みかねないため「ゲイター」の異名をとっていた。

 重要なのは、F-16では軽量設計とレーダー専用兵器の不足で、空母打撃群に飛来する戦闘機や爆撃機を迎撃する全天候型作戦には不向きだったということだ。

 「私は、F-16が搭載する空対空ミサイルはAIM-9サイドワインダーだけであり、それは晴天時でのみ有効なミサイルであると指摘した」と元海軍作戦部長ジェームズ・L・ホロウェイ大将は、著書 "Aircraft Carriers at War: A Personal Retrospective of Korea, Vietnam, and the Soviet Confrontation "で、「雲の中では、AIM-7 スパロー IIIなどレーダーミサイルが必要だ」と説明している。

 「この能力は、レーダー誘導システムと大型パイロンとともに、F-18に組み込まれていたが、F-16は大規模な再設計と重量増加なしでは全天候型ミサイルシステムを搭載できない」。

 しかし、ホロウェイの書によると、ジェームズ・シュレシンジャー長官は、依然としてヴォート1600を海軍に押し付けようと固執していた。シュレシンジャーは論争に決着をつけるため、ホロウェイ提督を自分の執務室に招き、海軍の次期戦闘機について議論させた。シュレシンジャーはホロウェイに、執務室は狭いため部下を2人以上連れてきてはいけないと言ったにもかかわらず、ホロウェイが国防長官室に入ると、10人以上が提督を待っているのを見た。シュレシンジャーは数の力でヴォート1600を海軍に押し付けるつもりだった。

 しかしホロウェイは断固たる態度のまま、ヴォート1600は着艦時にエンジンを甲板にぶつけかねず、甲板と機体双方に損傷を与えるという技術者の懸念を強調した。国防長官室に参集した技術者陣が、この問題はパイロットの技量が向上すれば軽減されると主張すると、ホロウェイはいらだちをあらわにした。明らかに、戦闘機の設計上の欠点を補うためにパイロット技量を説く人は、夜間作戦で果てしなく続く荒波の中にかろうじて見える空母の上下する甲板に着陸したことがないのだろう。

 また、YF-17は双発エンジンのため、1つのエンジンに問題が発生した場合、空母に帰還できるか、不時着水するか選択が可能となる。



採用を逃したヴォート1600

最終的な決め手は、各機で想定した兵装だったかもしれない。F-16は大改造をしないと全天候型ミサイルシステムを搭載できないため、ヴォート1600は空母運用に対応できたとしても海軍の厳しいニーズに応えられなかっただろう。

 もちろん、F-16はその後、スパローミサイル、さらにAMRAAMを運用し、当時欠けていた能力を獲得した。もし、同じ機能がヴォート1600に搭載されていたら、ホーネットやスーパーホーネットが40年近くも使われることはなかったかもしれない。その代わりに、海軍はF-16とF-14トムキャットを空母から飛ばし、スーパーホーネットは軍事史に残る「もしもあの機体が採用されていたら」の戦闘機になっていただろう。


米海軍の空母に搭載される一歩前まで進んだ戦闘機は、ヴォート1600だけではない。F-117ナイトホークの大幅改良型が海軍に採用されそうになったことがある。数年後には、F-22ラプターが海軍の飛行甲板で運用されるところだった。■



Vought 1600: The plan to put the F-16 on America's carriers - Sandboxx

VOUGHT 1600: THE PLAN TO PUT THE F-16 ON AMERICA’S CARRIERS

Alex Hollings | April 7, 2022

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.