2016年5月6日金曜日

GW特集(終) フォークランド戦争でのヴァルカン爆撃機SEAD任務の裏側


ゴールデンウィーク特集の最後は1982年のフォークランド戦争での英空軍ヴァルカン爆撃機による長距離爆撃ミッションの顛末です。確かアセンションからフォークランドへの往復では給油機を16機配置し(給油機の給油機も必要だった)、これを教訓に英軍は空中給油機材の整備に乗り出したのでしたっけ。肩がこらない読み物はこれでおしまいです。

The story of the SEAD Black Buck missions flown by Royal Air Force Vulcan bombers during the Falklands War

By Dario Leone May 03 2016 - 0 Comments


英空軍のアヴロ・ヴァルカンは当初1982年早々に全機退役の予定だったがフォークランド戦争が同年4月に勃発し、退役は先送りされた。RAFは同機とともにヴィッカース・ヴァリアント、ハンドレページ・ヴィクターと合わせ核抑止力爆撃機V部隊を編成していた。

  1. フォークランド戦争はヴァルカンを実戦投入した唯一の機会となった。計七機による「ブラックバック」任務でポートスタンレーを標的にし、うち三ソーティーはSEAD(敵防空網制圧)としてAGM-45シュライクミサイルを間に合わせの翼下パイロンから発射している。
  2. 英軍の航空作戦には対空レーダー二基が脅威だった。アルゼンチン空軍はウェスティングハウスAN/TPS-43F一基を4月6日にスタンレー空港近くに配置しており(その後市街地内に移動し温存を図った)、アルゼンチン陸軍もカーディオンTPS-44レーダーをスタンレー近くの道路わきに配置していた。
  3. アルゼンチンのレーダーを破壊するためRAFはマーテルミサイルの使用を想定していたが、米空軍がAGM-45を供与した。
  4. R.バーデン他共著の「フォークランド航空戦」 Falklands The Air Warで説明があるように、レーダー攻撃任務のヴァルカン一号機は5月28日にアセンション島のワイドアウェイク飛行場を離陸し、機材はXM597だった。
  5. 残念ながら同機は空中給油用のヴィクターで給油ホースドラムユニットで故障が発生したためミッションを中止している。「ブラックバック5」は5月30日深夜に離陸し、同じ機材乗員を使い、今度はシュライクミサイルの発射に成功したが、AN/TPS-43Fの損害は軽微で攻撃24時間後に運用を再開した。
  6. 同じ機体乗員は「ブラックバック6」として6月2日にワイドアウェイクを離陸し、今度はシュライク4発を搭載し、同じレーダーを狙った。
  7. AN/ATPS-43Fの電源が切入りを繰り返している間にヴァルカンは接近した。6月3日になったばかりだった。
  8. 同機は上空で40分ほど待機しレーダーの電源が入るのを待っていたところ、機内のレーダー警告受信機(RWR)がアルゼンチン陸軍のスカイガードレーダーを探知した。第六〇一対空砲兵隊の火器管制用で、同隊はポートスタンレー近くに展開していた。ヴァルカンは直ちにシュライクミサイル二発を発射し、レーダーは破壊された。
  9. さらに数分間滞空しAN/TPS-43Fレーダーの電源が入るのを待ち、ヴィクター給油機から空中給油(AAR)を受けた。ワイドアウェイクへの帰路半ばの地点だった。
  10. だが給油用先端が破損しAARは中断され、機体はブラジルのリオデジャネイロ空港へ航路を変更せざるを得なくなった。
  11. 燃料が乏しくなったため高度を40,000ft に上げ、燃料消費を少しでも抑えようとした。また残るシュライクミサイル二発を放棄しようとしたが一発は不発に終わりパイロンについたままだった。投下用の別系統がなかったためだ。
  12. 乗員はコックピットの与圧を解除したあとで機密書類を機外に放棄した。その後外交チャンネルでリオデジャネイロの英大使館経由でブラジル側ATCに連絡が入りヴァルカンはリオ・ノガレアオ空港に緊急着陸した。
  13. 着陸しエンジンを停止した時点で燃料残量は2,000 lbsだけだった。ブラジル側は機体を不発ミサイルを付けたまま抑留し乗員は空港内でよい待遇を受けた。乗員は帰国の申し出を断り、機体とともに空港に残ることとした。結局6月10日に機体も併せて帰還が認められアセンション島へ戻っている。■
Wild Weasel Vulcan
Image credit: Crown Copyright

2016年5月5日木曜日

★オーストラリア潜水艦選定結果>日豪関係と選定結果は別の話と見るのがオーストラリア多数意見のようですが....



さて日本では当面の入札失敗の犯人捜しをするのでしょうが、当のオーストラリアでは選定結果を受けて建造、配備、運用など先のことを中心に考えているようです。その中で日本の論調を伝えるこの記事は貴重な存在になるかもしれません。日本の戦略思考の程度とともに品格が問われそうですね。今回はオーストラリア専門サイトからご紹介します。この案件は当面大きな進展がない限りこれまでとします。

Goodbye Option J: The view in Japan

3 May 2016 6:09PM
今週オーストラリアは潜水艦HMASランキンを日本へ派遣し共同演習に参加させ、二国間協力を促進するが、先週に三菱重工業が12隻の潜水艦建造事業で落札に失敗したことを公表したばかりだ。オーストラリア国内では入札プロセスでの日本の取扱いについて批判がすでに生まれているが(下参照)、当の日本はどう見ているのだろうか。
  1. 日本メディアは潜水艦事業の顛末に極めて高い関心を示しており、選定結果が出た今はこの傾向が強い。日本は軍事ハードウェアの輸出を可能にする改正まで行いオーストラリア向け潜水艦事業は初事案になると期待していた。特に潜水艦の共同建造は日豪並びに日米豪の防衛協力の強化につながると見ていた。
  2. 日本としては提案が採択されるものと見ていた。読売新聞は天地がひっくり返ったようだと政府の驚きぶりを表現している。The Australian紙への記事でグレッグ・シェリダンが日本で政治家や外交評論家に取材しており、日本が戦略パートナーとしてのオーストラリアへ厳しい視線を見せている様子を伝えている。特にオーストラリアと中国の関係を問題視しているようだ。
  3. オーストラリアではDCNS案の採択は日本との二国間関係とは切り離してとらえられている。しかし日本では不採択の理由に関心が集まっており、今後の影響については二の次のようだ。
  4. 日本メディアで一番目立つ論調は三菱重工業の経験不足かつオーストラリア国内建造に熱意を示したのが遅すぎたというものだ。フランス、ドイツ側がオーストラリア国防筋や政治家に積極的にロビー活動を展開した一方で日本案を売り込んだのは在オーストラリア日本大使だったという。日本の防衛関係者の一部が機密性の高い防衛技術の輸出に及び腰だったのも日本に熱意が不足していた理由とされる。
  5. 記事の多くが日本案の不採択理由を国内政治に求めている。オーストラリア前首相トニー・アボットが2015年早々に「競合評価手順」を導入したことに言及するものもあるが、それよりも同年後半に首相がマルコム・ターンブルに交代した意味を重視しているようだ。
  6. 目を通した記事の半数が中国の影響を取り上げている。読売新聞は「もしオーストラリアが中国に配慮して日本案を不採択としたのなら見過ごすことはできない」とし、日経新聞はオーストラリアが中国の機嫌を損ねたくなかったのではないかとの見方を紹介しているがこれは日本政府内部にも広がる見方と同一だ。Newsweekはターンブルの訪中と潜水艦事業の採択発表までが極めて短期間であり、首相には中国と親族・ビジネスを通じたつながりもあると指摘している。
  7. 今後の日豪関係での展望はわずかだが、以下の記事が目立つ。
  8. 産経新聞は日豪、さらに日米豪の協力にひびが入れば中国の南シナ海軍事拠点化が止まらなくなると警鐘を鳴らしている。南シナ海での各国共同パトロール案は検討の価値があり、安倍首相にはオーストラリアとの二国間関係強化を求め、日豪関係さらに日米豪の協力関係が失速していると見られないようにすべきと主張。
  9. 読売新聞は「アボット前首相は日米豪協力の重要性を認識していた。ターンブル政権にはアジア太平洋の安定性確保でどんな役割を果たすつもりなのかを説明してもらいたい」と述べている。
  10. メディアは今回の結果でショックと失望を伝える一方、オーストラリアの提案採択手順を批判する声は出ていない。日本国内ではターンブルの対日政策、対中政策はアボット政権との一貫性が高いと見ているものの、アボットが極めて日本寄りだっただけに今回の決定を日本メディアは従来の路線が変更になったと見ており、今後の論調でこの見方が出てくるだろう。

参考)4月26日にオーストラリアABC放送が伝えた関係者の声は以下の通りです。(テレビ番組からの書き下ろし)

Transcript

司会 オーストラリアの造船所ではカヌー一隻も建造できないとの悪口が当時の政府首脳から出て一年半ですが、その政府がこのたび史上最大の国防建造事業をフランスのDNCS案を採択し、500億ドルで設計、12隻建造まで一括して発注することになりました。ただし建造の大部分は国内で行います。国政選挙を数週間に控え、政府は国内雇用2,800名分が生まれると自慢していますね。政治部のリプソン記者が後で追加情報をお伝えします。

マルコム・ターンブル首相(画像) : これは象徴的な事業になります。海軍には大きな進展の日となりました。オーストラリアの21世紀経済にも大きな意義が生まれます。将来の雇用にも大きな日です。オーストラリア製、オーストラリアの雇用、オーストラリア生まれの鋼板、すべてこの国に朗報です。

デイヴィッド・リプソン記者: 事業の規模にふさわしい美辞麗句で首相は史上最大の防衛契約を交付することになります。

アンドリュー・デイヴィス(戦略政策研究所)(画像): 今回整備する潜水艦は足掛け50年の事業となり総額は900億ドルになります。

リプソン記者: フランスのDCNSはショートフィン・バラクーダ潜水艦12隻を原子力推進から通常型推進に変える形で建造し、就役を2030年以降と想定しています。我が国の国防には大きな進展となり地元製造業への活性化効果が期待されています。

ターンブル首相(画像) : さらに2,800名分の雇用がオーストラリアで波及効果として生まれ、経済効果は実に大きなものがあります。

リプソン記者:南オーストラリア州の産業界は信頼を試される機会になりますね。わずか17か月前に当時の国防相ディヴィッド・ジョンストンが造船企業ASCを公然と侮辱していました。

ジョンストン前国防相(画像) カヌー一隻もまともに作れないあそこを信頼していないとわからないかな

リプソン記者: この発言がでて一か月後にジョンストンはアボット政権から更迭されました。当時首席補佐官だったショーン・コステロがDCNSの採択を今回成功に導きました。公職にあった時から何らかの情報を知っていたのではないですか。

ショーン・コステロ(DCNSオーストラリア法人CEO)(画像) DCNSで働くことは政府の事前審査と承認済みを経て実現しており、事業関係者すべてで異論がないはずです

リプソン記者: 今回DCNS案が差がつけたのはバラクーダのステルス推進方式、ポンプジェットです。

コステロ(画像): ちょうどプロペラ機とジェット機のちがいのようなものです。ローターと(聞き取り不能)が防護枠の中でずっと低い音紋つまり騒音しか生みません。

リプソン記者: 探知が困難になりますね。

コステロ(画像): ずっと困難になりますよ。

リプソン記者: 政府としてはDCNSが12隻全部をオーストラリア国内で建造する点が気に入ったわけですね。

コステロ(画像): 一部はフランスで作業します。特殊な部分です。それでも全体の10%未満でしょう。

リプソン記者: フランス案はドイツ案、日本案より抜きんでいました。敗れた両国は失望感を表明してますが、日本のコメントがとくに辛辣です。日本の防衛相は選考結果は大変遺憾といっています。

アンドリュー・デイヴィス(画像): 今回の選定で日本の取り扱い方では問題があったと思いますよ

リプソン記者: 問題はトニー・アボットが日本から潜水艦を「完成品」として導入する話を付けたとの報道があったときから始まっていました。南オーストラリア州はこれに対して国内造船業の将来で懸念を表明しました。さらに議会内の勢力を考慮して党から追放される前日にアボットは言い方を変えて競争評価手順で行くと発表しています。

デイヴィス(画像): 南オーストラリア州とアボット氏の政治関係が日本政府をいやいやながらヨーロッパの民間会社との競争に従わせたのだと思いますね。ヨーロッパ各社には状況は困難だったのです。すると安倍氏は国内で潜水艦輸出の承認を得るべく政治力を多用しました。これまで防衛装備の輸出実績がない国にとっては大きな案件です。そこでオーストラリアはこの微妙な事情を理解してあげて何らかの穴埋めをする必要があります。

リプソン記者: 日本は残念に思っていますが、オーストラリア国内の専門家は選定結果は正しいと見ています。

ピーター・ブリッグス(潜水艦専門家(画像): 日本はこれまで自国内で潜水艦を時間をかけて発達させてきましたが、フランスやドイツの潜水艦の作り方と比べると時代遅れです。

リプソン記者: ではここから難しい話題です。オーストラリアは現在六隻のコリンズ級潜水艦を運用中で、まず2036年に一隻が退役となります。なんか遠い先の話に聞こえるかもしれませんが次世代の潜水艦は相当複雑な仕組みであり、建造が遅れれば一号艦就役が2030年代に先送りされ我が国の国防力に穴が開いてしまいますが、域内での武力紛争の可能性が高まっていきます。

ブリッグス(画像): まず三隻が2030年、2032年、2034年に稼働可能となります。さらに9隻が加われば相当の強化になります。ただし設計工程に時間をかけすぎると一号艦の就役が2035年になり、現有の六隻も稼働できるよう維持する必要があり、2030年時点で望ましい形になりません。とくにこれからの戦略構図を考えると。



不動の決意作戦>米海軍SEALに戦死者発生、12月以来の激戦があった模様


連休続きでのんびりしている日本ですが、イラクでは相当の激戦が今週あった模様です。そこで米海軍SEALに戦死者が発生したことが話題になっています。自由と繁栄の代償とはいえISISにより犠牲者が出るのは何とも悲しいことです。


UPDATED: U.S. Officials Describe Fight That Killed Navy SEAL Charles Keating IV

May 4, 2016 2:20 PM • Updated: May 4, 2016 4:52 PM

Special Warfare Operator 1st Class Charles Keating IV, 31, of San Diego. US Navy Photo
第一級特殊戦通信士チャールズ・キーティングIV(31) US Navy Photo
THE PENTAGON – 海軍SEAL隊員一名が北部イラクでのISISとの交戦で死亡したと不動の決意作戦司令部から5月4日に発表があった。戦闘は米軍の顧問支援チームとクルド人ペシュメルガ部隊がISISの奇襲攻撃を受けた中で発生した。

  1. 第一級特殊戦通信士チャールズ・キーティング(31)は迅速対応部隊(QRF)の一員としてテルアスクフ近郊の米軍小部隊の要請にこたえ出動した。同地はクルド人部隊とISISの前線から約二マイルの地点と米陸軍報道官スティーブ・ウォーレン大佐が四日午前に発表している。
  2. 12名ほどの顧問支援チームはテルアスクフでSIS戦闘員120名強が移動してくるのを発見。ISIS部隊は20両の「テクニカル」(民生車両を兵員輸送や武器搭載車両へ改装したもの)に分乗しブルドーザーも最低でも一台伴っていたとウォーレン大佐は述べた。
  3. ISISがペシュメルガ防衛線を突破したのは三日現地時間午前7時30分ごろで20分後に顧問支援チームからISIS部隊と交戦中との報告が入った。
  4. 「敵部隊が前方防衛線を攻撃し、テルアスクフに移動してくるとわが方の部隊は長期戦に自然にさらされた。直ちに迅速対抗部隊の出動要請を入れつつ、戦闘を続けたが隊員一名が銃弾を受け、救難隊が搬送している」(ウォーレン大佐)
  5. 顧問支援チームの緊急時にはQRFを送る体制ができていた。
  6. 戦闘は二時間以上続き、キーティングは午前9時32時に被弾したが、その時点でQRFがどの位戦闘に参加していたかは明らかにしていない。
  7. 「キーティングは直撃弾を受け、後方へ搬送されたものの傷が致命傷となった」「残りの米軍、連合軍側に負傷者は発生していないが救難ヘリは小火器から損傷を受けている」
  8. 米軍がISISと何時間交戦したかは不明だが、QRFおよび顧問支援チームが撤収して連合軍の機材が飛来した時点でもペシュメルガはISIS戦闘員と銃撃戦を続けていた。
  9. 「現地に航空機を派遣した。F-15、F-16、無人機、さらにB-52とA-10が戦闘に加わった」
  10. 「連合軍の空爆は有人機11機と無人機2機で31回を数えた。航空部隊が敵車両20台、爆弾トラック二台、迫撃砲三門、ブルドーザー一両を破壊しISIS戦闘員58名が戦死した。ペシュメルガはテルアスクフを再度確保した」
  11. 戦闘は14時間にわたり現地時間午後9時30分に終了した。
Photos released by ISIS that show some of the technicals alleged to have been used in assault on Tel Askuf
ISISが公表した写真ではテルアスクフ強襲作戦にテクニカルを投入したことがわかる。

  1. ウォーレン大佐はペシュメルガ側の正確な戦死者人数は把握していないと述べ、今回の戦闘は昨年12月以来最大規模だったと明らかにした。
  2. 三日のロイターではキーティングが狙撃されたとのペシュメルガ側の情報を伝えたが、ウォーレン大佐は状況ははっきりしていないと述べた。
  3. 「直撃を受けたのは事実。だが銃撃戦は非常に活発でその中で銃弾を浴びている。狙撃銃なのかAKの銃弾かは不明だ」
  4. ウォーレン大佐の報道発表を受けて海軍からキーティングの経歴発表が出た。
  5. インディアナ大では長距離ランナーで、海軍入隊は2007年だった。2008年に基本水中破壊教程(SEAL訓練)を修了し、イラクに自由作戦で二回、アフガニスタンへ普及の自由作戦で一回派遣されている。
  6. 「その後西海岸狙撃偵察訓練部隊で主任下士官となり、教官を務めた後で西海岸のSEALチームに分隊主任下士官として2015年2月に復帰している」と海軍特殊戦第一集団発表の資料が述べている。
  7. 「イラク派遣は三回目で、不動の決意作戦の支援中に戦死したことになる」
  8. キーティングの戦死は3月のルイス・F・カーディン二等軍曹(第二十六海兵遠征部隊第六海兵連隊第二大隊)に続くものとなった。カーディン二等軍曹はモスル近郊の火力支援陣地でISISのロケット弾攻撃を受け死亡している。■

★GW特集② オサマ・ビン・ラディン強襲作戦が暴露したステルスブラックホークの正体




Five years ago today the raid that exposed the Stealth Black Hawk helicopter

May 02 2016 - By David Cenciotti



オサマ・ビン・ラディン強襲作戦はMH-Xステルスブラックホークヘリコプターを暴露する結果になった。

  1. 2011年5月2日にオサマ・ビン・ラディンが殺害されたアボッターバードから届いた最初の写真には誰も見たことのない光景が写っていた。米海軍シールズ隊員が「海王の槍」作戦で使用し墜落したヘリコプターはいかなる機種とも違うようだった。
  2. 水平安定板とテイルローターは形状と取り付け位置もブラックホークとは異なり、テイルローターに異様なカバーが付き、ステルス性を意図したようだった。また騒音低減装置に装甲板がついていた。
  3. 尾部の残骸から筆者は機体全体像を想像してみたが、完全なステルスヘリコプターは相当の改装を受けレーダーから写らないようにしているのか、少なくとも低騒音に改造してあるのかと思った。
  4. 若干の想像力を働かせ、現場に残ったエンジンシールド、ローターカバー、メインローターのブレイド(回転速度を下げて静音効果を狙っていた)、RAM(レーダー吸収素材)塗装、直線を基調とした機体構成で現場で米海軍シールズチーム6が破壊しようとして残った残骸からAviationGraphic.com所属のアーティスト、ユゴ・クリスポニの助けを得て、「ブラック」ヘリコプターの想像図を作った。(上参照。結果はMH-60ブラックホークの改装型というよりS-76に似ている)
obl-raid

  1. その後若干の情報が浮上し、ブラックチョッパーの姿が見えてきた。2015年にショーン・ネイラーが著した「容赦なき攻撃」“Relentless Strike”がMH-Xの開発経緯で新しい詳細情報を紹介している。
  2. ネイラーの著書によれば強襲作戦に投入されたステルスヘリコプターは試作機でブラックホークをレーダーに映りにくくする構想の産物だった。機体はネヴァダのエリア51で第160特殊作戦航空連隊 SOAR がテストしたが、計画は打ち切りになっている。製作された二機は一定の条件では標準型MH-60よりも機体制御が改装により難しいと判明した。
  3. それでもパキスタン強襲作戦の成功を受けて計画は明るみに出て、2014年7月4日「ナイトストーカー」隊が「新型の」MH-Xに搭乗しシリアへ飛び、人質のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイムズ・フォーリー他をISISから奪還する作戦(結果は失敗)にも投入されているという。ただしこの件は確認がとれていない。■


2016年5月4日水曜日

海上自衛隊TC-90のフィリピン貸与を伝えるAFP通信



古い機材とはいえまだまだ使えるのなら、ということで今回の話になったと思いますが、突破口になるのは確かですね。今後は別の案件も出てくるでしょうが、相手国の運用能力を総合的に確保するための支援も可能でしょうね。いわゆるキャパシティビルディングですが、ODAでは武器三原則のような解釈がまだできていないので、今後問題に浮上するかもしれませんね。今回は有償貸与ということで簿価以下の処分を禁じた国有財産のルールをうまく回避したようです。

Japan to Provide Military Aircraft to Philippines

Agence France-Presse1:20 p.m. EDT May 3, 2016
TC-90 海上自衛隊ホームページより
TOKYO — 日本がフィリピンに軍用機を貸与し、二国間安全保障関係を深化させ中国の影響力に対抗しようとしている。
  1. 中谷元防衛相とフィリピンのヴォルテール・ガズミン国防相の電話会談で合意が形成されたと防衛省が5月2日に発表した。
  2. 世界の原油の三分の一が通過する南シナ海での緊張は中国がサンゴ礁を人工島に変換し軍事利用に道を開いたことで高まっている。
  3. 合意内容では日本は上限5機のTC-90練習機を貸し出し、フィリピンはパイロット・整備要員を養成する。各機は監視用に使えると現地報道が伝えている。
  4. 自衛隊機材の外国貸与は初で、武器輸出制限の緩和で可能となった。
  5. 「南シナ海の平和と安定を維持する意味で関係各国との協力関係強化は重要との共通認識がある」と中谷防衛相は報道陣に語っている。「フィリピンの防衛能力向上は域内の安定確保につながる」
  6. TC-90の航続距離は1,900キロで、フィリピン海軍の現有機材のほぼ二倍と共同通信は伝えている。
  7. フィリピンはかねてから日本と連携強化を模索してきたが、南シナ海のほぼ全域を自国領土と主張する中国に対し各国の装備は大幅に劣っているのが現状だ。
  8. 先月は海上自衛隊艦船がフィリピンへ寄港し、二月には日本政府はフィリピン向けに対潜哨戒機やレーダーなど防衛装備の供与を決めていた。■

★オーストラリア潜水艦選定>浮かれるパリ、一方で豪州には早くも心配の声、日本は何を学べたか



今回の商談の結果についてはこれから各種の分析が出てくると思いますが、とりあえずオーストラリア側とフランスからの発信が目立ちます。たくさん経験を積むのはいいのですが、方向性を持たずにたくさん鉄砲玉を打っても効率が悪いですね。商談に勝つことの難しさは皆さんの方がよくご存じでしょう。当面はインドとのUS-2商談の行方が注目ですかね。

「defense news」の画像検索結果Australia’s Submarine Decision: Concerns Down Under, Celebrations in Paris

Nigel Pittaway, Pierre Tran and Christopher P. Cavas, Defense News4:12 p.m. EDT May 2, 2016

Australian Sub Turnbull(Photo: James Knowler/AFP/Getty Images)
オーストラリアが次期潜水艦12隻建造でフランス大手DCNSを選定したのは外部でも大きな驚きを呼んだ。事業規模は500億オーストラリアドル(380億ドル、332億ユーロ)でドイツのティッセンクルップ・マリンシステムズ(TKMS)と日本政府が受注でしのぎを削っていた。
  1. マルコム・ターンブル首相が4月26日にフランス案の優位性が「明白」と述べるとパリではシャンパン瓶が次々と開けられたがオーストラリアでは政治観、評論家が選定を巡り意見を戦わせていた。
  2. 「疑いの余地ない結果として国防省から提言が届いた。三案はいずれも優れた内容だった」(ターンブル)
  3. 日本には失望の結果となった。もとはといえばトニー・アボット前首相自らが日本に参加を求め、当時のオーストラリア報道では首相のお墨付きとまで報じられていた。
  4. オーストラリア戦略政策研究所の上級研究員アンドリュー・デイヴィスは「わが方の首相から安倍首相へ電話で伝えたとしているが、これで当面は豪日関係は冷たくなるだろう」と見ている。
  5. 「決定そのものは悪くないと思う。どの案でも優秀な潜水艦になっていたはずだ。三カ国が競い合うのは極めて恵まれた環境だ」とデイヴィスは述べた。
French President Francois Hollande holds up a model選考に残ったフランス潜水艦の模型を掲げるフランス大統領フランソワ・オランド。DCNSのパリオフィスにて。4月26日。左はジャン・マルク・アイロー外相とジャン・イヴ・ルドゥリアン国防相。右はDCNSのCEOエルヴェ・ジロー(Photo: Christopher Petit Tesson/AFP/Getty Images)
  1. パリでは同日にフランソワ・オランド大統領自らはDCNSを訪問し、ロビーでシャンパンをふるまいながら演説をしている。関係者の手を握りながら一般社員の手まで握るという予想外の振る舞いに出た。
  2. 「これは歴史的な事業で史上最大の武器輸出案件になった」と大統領府は声明を発表し、選定は当然である、何故なら両国関係はこの50年で「戦略的段階」まで進展したと述べている。
  3. フランスが期待する事業量は170億ユーロ(195億ドル)と国防相ジャン・イブ・ルドリアンに近い筋の話として週刊誌ルポワンが報じている。ロイターは80億ユーロとこれと異なる金額を報道している。
  4. DCNSの株式35%を保有するタレスにも朗報となった。タレスは10億ユーロ(12億ドル)の売上げを期待し、一隻あたり1億ユーロ相当をソナー、電子戦装備、潜望鏡等で売り上げる。
  5. 次は設計契約の交渉とDCNS副社長マリピエール・バリエンクールが述べ、2017年早々に締結を期待している。
  6. その次は装備品の選択だ。仕様で米戦闘システム統合企業と米製兵装が求められている。報道ではレイセオン、ロッキード・マーティンの二社が入札の準備中で、オーストラリア海軍駆逐艦でロッキードはイージスシステムレーダーを、レイセオンがシステム統合の実績がある。
  7. 米製戦闘装備の搭載がオーストラリアで建造する理由で、機密技術がからむためとロビン・レアード(コンサルタント企業ICSA)が解説する。タレスのオーストラリア法人にとってDCNSとならび米企業と連携して作業を進めるよい機会になるだろうとレアードは見る。
  8. ただDCNSに米企業と組んだ経験がないことが懸念材料だ。また米企業秘密をどう守るかという点もある。
  9. 「米海軍はどの案が採択されても知財面の影響を検討済みと思います」と語るのはガイ・スティット(AMIインターナショナル)だ。「オーストラリアは米知的財産を保護できる仕組みを整えています」
The DCNS Shortfin Barracuda Block 1A design is a conventionally-poweredDCNSのショートフィン・バラクーダ・ブロック1Aは通常型動力推進で、フランスの原子力潜水艦スフラン級が原型。 (Photo: DCNS)
  1. オーストラリア政府は12隻全部をASCが南オーストラリア州アデレードで建造すると確認しているが、南オーストラリア州へは国内から批判も生まれている。政府調達の艦船の大部分を同州が建造しているという意見だ。たしかに同州アデレードにあるASCでは2020年から次世代フリゲート艦の建造も始まり、遠洋哨戒艇OPVs12隻の建造が2018年開始となる。ただしOPV建造はその後西オーストラリア州へ移管し、フリゲート艦の建造をすすめる。
  2. 潜水艦建造のスタートは2022年か2023年になると国防省報道官は言うが、このまま実施は難しいとの見方が早くも出ている。建造が遅れれば、既存コリンズ級を改修しつつ新型潜水艦の就役を待つことになる。
  3. 「2022年は希望的すぎますね。OPV建造が2018年から次世代フリゲート艦が2020年と決まっていますからね。これだけでも相当の作業量であり、技術面、施設面で手一杯というところですから」とデイヴィスは指摘する。
  4. 特に一号艦の建造は簡単ではない。「初号艦の海上公試は2028年ごろ、就役はその二年後の2030年でしょう」とデイヴィスは見る。「建造開始から海上公試までが四年間とすれば開始が2024年になってもおかしくない」
  5. ターンブル首相はオーストラリア国内でまず1,100名が直接関連し、間接サプライチェーン含めると1,700名分の仕事が生まれると述べている。波及効果はフランスの方が大きい。DCNS広報によれば協力企業含み4千名分の雇用につながるという。
  6. 日本にとって今回の敗退は学習の機会になるとの見方が多い。フランス、ドイツともに海外の防衛需要で納入実績がある中で、日本にとって初の挑戦となった。武器輸出を自ら禁止してきたのだ。日本には優秀な装備も他にあり注目も集める一方、自信過剰な態度が時として顕著に出ていた。
  7. 「初挑戦の日本は教訓を多く得たのではないか」とスティットは見ている。日豪関係には独特の側面があり、安倍政権としても潜水艦商談を特別扱いしyていたとスティットは見る。
  8. 「日本が今後世界を相手に商売するつもりがあるのかわかりません。日本も次回は完成品輸出をいきなり提案する前にもう少し現実的に成約できそうな商談にもっていくのではないでしょうか」
  9. それでも日本はあきらめず世界の防衛需要に焦点を合わせているようだ。「三菱重工の営業報告2015年版では国際防衛市場の拡大に着目していますね」(スティレット)■


★GW特集 オサマ・ビン・ラディン強襲作戦の裏側、七つの新事実



世界はどんどん進展しているのに日本は平和なことに連休です。連休中は少し軽めのニュースもお送りしましょう。第一弾はオサマ・ビン・ラディン強襲作戦の裏側です。

7 New Details About the Osama Bin Laden Raid


Yesterday at 10:01 PM


西側世界で最も嫌悪されたテロリストがパキスタン・アボターバード強襲作戦で殺害されて五年たったが、新事実が浮かび上がってきた。ツィッターによるリークからオサマ・ビン・ラディンの五番目の妻の予想外の行動まで強襲作戦の七つの驚くべき超現実的な裏側を紹介する。

1. シチュエーションルームの食事はコストコのサンドイッチだった

大勢に食料が必要な時はまとめ買いが一番だ。 (Photo: Pete Souza, White House)

作戦の実況を見ようとシチュエーションルームに上級指導層が集まると、ホワイトハウスは画面を見ながら食べれるメニューとしてコストコのサンドイッチが最適と判断した。海軍SEALチームのロブ・オニールもオサマ・ビン・ラディンの遺体横でサンドイッチを食べたと伝えられる。

2. ツイッターが強襲作戦を最初にリークしていた


ソハイブ・アタールはアボターバード在住のIT専門家でヘリコプターのホバリング音を聞きつけ、ツィッターに書き記すことにした。まさかもっとも悪名高いテロリストの殺害を狙った強襲作戦を実況で伝えていたとはつゆ知らなかった。

3. オサマ・ビン・ラディンのポルノ収集はテロ集団のお約束通り

強襲作戦を詳しく伝えたニューヨーカー誌によればオサマ・ビン・ラディンが集めていたようなポルノはテロ集団強襲作戦でよく見つかるという。特殊作戦部隊の将校によれば「みんな持ってますよ。ソマリア、イラク、アフガニスタンどこでも同じです」と述べている。

4. 極秘ヘリコプターは最初はハンマーで破壊された

強襲作戦で墜落したヘリコプターの尾部 Screenshot: YouTube/CBS News

作戦中に墜落したヘリコプターでは予行演習時と現地の温度差も一因と言われる。温度差により揚力喪失が早まり、ローターが乱気流を生み墜落した。パイロットは巧妙に制御して機体を墜落させてから極秘部分の破壊を始めた。最終的にテルミット他焼夷弾で破壊する予定だったが、まず機内にあらかじめ搭載してあったハンマーが使われた。

5. ビン・ラディンの妻の一人は汚い言葉を終始口走っていた

ニューヨーカー記事にある証言によればオサマ・ビン・ラディンの妻がSEAL隊員を攻撃しようとしていたという。ビン・ラディンがこの妻の背後に隠れると別の妻アマル・アルファタが米軍兵士を狙う動きに出た。この女性は一撃で倒されたが絶命せず、残り生存者とともに中庭に集められたがアルファタは大声でヘリコプターを焼き撤収を始めるアメリカ人を侮辱していた。

6. 大統領はSEAL軍用犬に作戦終了後に面会したがシークレットサービスが予防措置を講じた

強襲作戦に参加した軍用犬カイロはシェパードの一種ベルジアン・マリノワ (Photo by Tech. Sgt. Jeff Walston)

バラク・オバマ大統領はフォートキャンベル(ケンタッキー)でSEAL隊員他関係者と会見したが、SEAL軍用犬だけはシークレットサービスの要請で隣室に閉じ込められていた。大統領は軍用犬にも会いたいと伝え会見したが犬には口輪を付けられていた。

7. だれも巻尺を持参せずSEAL隊員が遺体脇に寝そべりビン・ラディンの身長を測定した


殺害したのが本当にオサマ・ビン・ラディンなのか確認する決め手は身長だった。ビン・ラディンの身長は6フィート4インチから6フィート5インチだったが現場でだれも巻き尺をもっておらず、結局ひとりのSEAL隊員が遺体脇に横になった。その隊員が身長6フィートとも6フィート4インチと報道は一定ではないが遺体がビン・ラディンの身長に符号すると判断された。最終的にはDNA判定で遺体は本人のものと判定されている。■


2016年5月3日火曜日

中国の言論思想戦に対抗せよ 米議会に超党派法案提出


表向きは各国になっていますが、提出法案が中国に照準を合わせているのは明白です。言論の自由を盾に好き放題されることに我慢できなくなったというのが米国の心ある人たちの心情でしょう。一方、日本はどうでしょうか。いまだに能天気なイメージを中国にもつ議員もおり、非暴力の侵略や情報戦が日本に仕掛けられているという理解は低いのではないでしょうか。米議会でのこの動きには注目する必要があります。

Congress Attacks China's Propaganda Machine

CLAIRE CHU
Thursday at 11:16 PM
米議会にロシア、中国の宣伝戦や「情報操作作戦」に超党派立法で対抗する動きが出てきた。
  1. 2016年度情報戦対策法Countering Information Warfare Act(S.2692)が3月16日米上院へ提出され、外交委員会が審議中だ。提案したのはロブ・ポートマン議員(共、オハイオ)とクリストファー・マーフィー議員(民、コネティカット)で外国によるプロパガンダ活動や虚偽情報活動への対抗策を狙う。
  2. 法案の認識はロシア連邦や中華人民共和国含む外国政府が高度手段で総合的かつ長期的な活動を展開し情報操作や統制で自国の目標を追及しており、米国同盟各国の利益や価値観を踏みにじっているというもの。ロシアのプロパガンダに対抗する法案なら米国にこれまでもあったが、中国の活発な情報工作を対象とした法案はこれがはじめてだ。

  1. 人民解放軍(PLA)は心理戦、報道戦、法律論争を組みあわせ、情報工作の要素を加えて敵の情報統制機能を混乱させる(自国の機能は保全する)だけでなく国内外の意思決定に影響を及ぼす事を狙っており、これを軍事作戦の支援機能と位置付けている。情報工作は技術面で優れた米国のような敵の力を削ぎ、通常の軍事対立の範囲以上の効果を期待する。中国の伝統的な戦略では非暴力で勝利をおさめ戦闘せずに敵を屈服させるのが理想だ。
  2. 米国が高性能でネットワーク化された情報インフラに依存していることを考えると中国が米国を標的にして政治思想面で情報操作をめざしていること、前例のない手段を講じていることは国家安全保障上の脅威と政府は受け止めている。中国は各国で国営メディア放送を展開しているほか、新聞各紙に有料広告を掲載し中国共産党の一党支配と軍事作戦で理解統制を図ろうとしている。ここにきて海上での事件や軍事演習が目立つが、米側同盟国間に亀裂を入れ、アジア太平洋での米プレゼンスの正当性を損なうのが目的と見られる。
  3. 大西洋協議会での講演でポートマン議員は次のように述べた。「中国は巨額の予算を投じて海外宣伝活動を展開している。南シナ海埋立ては情報操作で主導権を握る例の一つで、米国や同盟各国の虚を突いて対応が間に合わないうちに実施している」
  4. ペンタゴンも中国が情報戦能力を拡充しているのを十分認識しているが、情報戦の脅威に対抗できる全体戦略を立案調整する組織が米政府にないのが事実だ。省庁横断のチームが実態をチェックしているに過ぎない。ソ連の偽情報宣伝に対抗するため発足した作業部会が数少ない成功例だ。省庁横断の調整機能が欠如していることが米国で悩みの種で、前例のない脅威へ対抗するしくみも不在である。連邦政府の機構はあたかも昔話の盲人の群れのようで国防戦略立案の仕組みが象といったところか。
  5. これに対して中国は総参謀本部が一般省庁に加え空軍、海軍、戦略ロケット軍、ならびに各軍区と連携する仕組みを正式に発足させている。PLAは党所属の国家組織であり、それとは別に一般市民やビジネス界に影響力を直接伝える各種手段との連携も生まれている。

  1. これに対抗する2016年度情報戦対策法では情報分析対応センターの設立を求めており、ここで国家戦略を立案、統合、調整し外国による対米情報工作を解明し対抗しようとする。同センターは国務長官のもとに発足させ、国防総省や各州の放送委員会とも積極的な調整連絡を行う。さらに運営委員会を作り、諮問機能を期待し、各省庁や統合参謀本部、米国際開発庁(USAID)から代表を集める。
  2. 中国による情報戦の戦術、技術、手法の解析を支援すべく議会は予算20百万ドルを国務長官に2017年度2018年度通じて供託する。この予算で同センターを運営し、民間団体、学術団体、研究開発機関他への助成金で米国の利益にかなう調査研究を進める。
  3. アジア重視政策にもかかわらず、伝統戦術に現代的な思考を組みあわせて作戦立案をするPLAに対して米政府は総合戦略をまだ確立できていない。そのため中国の軍事戦略の研究活動は不正確な結論しか出てこないとされる。「建設的関わり合い」に30年もの期間を費やして情報戦対策法の様な立法で知的基盤づくりを進め中国共産党の進める通常と異なる軍事戦略教義の理解と対抗策を講じることしかできないのだろうか。■


本稿はNational Interestに最初に掲載された。
本稿の著者クレア・チューはProject 2049 Instituteの研究生で、アメリカン大学四年生。専攻はアジア太平洋における米国防体制および域内の安全保障論の研究。中国による政治戦についてツイッター@clairejchuで #InfluenceOpsとして分析を試みている。

Image: Wikimedia Commons/David Pursehouse. CC BY 2.0.