2016年6月28日火曜日

★★★F-3実現に向け防衛省が..への米読者コメントが面白い



やはりこの話題には読者の皆さんが敏感に反応しています。そこで今回は元記事に対する米読者の反応をそのままお伝えし、彼の地の航空機愛好家筋がどんなことを考えているかの一端をお伝えしましょう。多彩な意見があり、一部首をかしげたくなるものもありますが、日本の財務状態についても心配している向きがあり、一般的な読者よりも日本事情に詳しい層が反応していることうかがわせます。F-22の話題がやはり出ていますね。


Aviation Week & Space Technology

Japan Issues Request For Information On Fighter Options


元ネタの記事はスクロールして直前の投稿をご覧ください
読者の反応
  • F-22の性能向上型を生産再開すればよい。日本にもイスラエル、オーストラリアと並んで売ればよい。米海軍、米空軍にも類似構想があるが第六世代機が姿を現すのは2030年代後半から2040年代だろう。その間にエンジンと機体開発を進めればの話だ。米空軍のAS2030報告書ならびに米財政赤字を見るとどうも期待しないほうがいいようだ。

  • F-35開発のような20年以上の苦労を繰り返すのでなければ第六世代戦闘機の試作機は2020年代中ごろに供用は2030年代になろう。敵の脅威が増大して入ればそれだけ早く実戦化につながる。F-15はあと10年は第一線にとどまろうが消耗は避けられない。200機程度の大型ステルス侵攻型有人制空戦闘機を攻撃の中心に整備すべきし、性能が劣る戦闘機を背後に置き、制空無人機や重武装機をファミリー構成で開発すべきではないか。

  • Gen6のF/A-XXやF-X開発は高性能新型エンジンなくしては実現しない。その技術はまだ初期段階だ。Gen6試作機が空を飛ぶのが2020年代初期に実現するとは思えない。米空軍、海軍、海兵隊はF-35に巨額予算を無駄につぎ込んでしまった。

  • リベラル派がF-22の息の根を止めたのが悔やまれる。F-22はNATOでも欲しかった機種だ。ロシアが第五世代戦闘機を配備していることを意識してこちらもNATO以外の国にも新型機を売ればよい。F-22改がジャップ-オージイ他には最適だろうがもっと前に手を打つべきだった。

  • ビル・ゲイツが国防長官としてF-22を中止させたが長官は共和党だぞ。民主党ではない。

  • 違う。ビル・ゲイツがF-22を終わらせたのは今の民主党大統領の下で国防長官のときだ。閣僚全員は大統領の指示に従っているだけだ。

  • オーストラリ同様にJASDFはF-18スーパーホーネットとEA-18グラウラーを選択すべきだ。

  • オーストラリア、イスラエル同様に日本もF-22が欲しかったが米国が一番信頼の高い同盟国にも売却をしてくれなかったのだ。

  • 記事にあるように日本には戦闘攻撃機を新たに導入する意向はない。F/A-18E/Fは優秀な戦闘攻撃機だが制空任務では大したことはないので日本の要求水準に合わない。EA-18グラウラーは優秀なEW機材でこの戦力は日本がまだ整備していない分野だ。

  • 日本はF-15サイレントイーグルを100機ばかり買えばよい。SAレーダーとAIM120Dさらにメテオミサイルをつければよい。この組み合わせで今後30年は持つ。中国が能力を向上させてこの装備で対応できなくなれば核を装備すればよい。

  • 日本が長距離打撃を航空機で実施することにこだわるのであれば現在生産中の機体で要望を満たすものは皆無だ。各社とも日本と共同開発は歓迎するだろうがこの仕様に興味を示す外国政府はあるだろうか。イスラエルが第六世代長距離戦闘機を希望するだろうが攻撃任務に比重を置くはずだ。ヨーロッパはタイフーン以後の機体をまだ想定していないし、米国は毛局単独開発に向かうだろう。ということは日本は巨額予算を投じて単独国産開発しか選択肢がないことになる。

  • イスラエルはF-35IにCFTを付けてF-16I同様に改装する。

  • 日本にはそこまでの予算がない。日本政府の財政状況を見れば状況は厳しく今後五年で債務不履行になるのではないか。年間税収が5,000億ドルで国債利息支払いが3,600億ドルなので1.400億ドルで国を運営するのは不可能。そのため、5,000億ドルを借り入れ不足分を補っている状況だ。

  • 日本の財政状況の分析は正しい。100機の新型戦闘機導入より根の深い問題があるということだな。ただ日本の地理条件と政治体制を見れば、日本が有料すべき国がひとつある。どの機種を導入するにせよ抑止力を整備する必要がある。

  • イスラエルはCFI以外に自国開発ソフトウェアを搭載する。その結果、イスラエルのF-35は米国装備よりはるかに威力が高くなるぞ。

  • F-23の権利を買い、F-22より優秀だった同機を近代化し最新のエンジンに換装し、電子装備をつければよい。ステルス、スピード、航続性、戦闘能力のすべてF-22を上回るはずだ。ただし、コストは相当になる。F-2と同様だ。もしこれが可能ならば。

  • そうだねYF-23なら日本が求める内容に合致しそうだ。だがノースロップは技術資料をもう何年も前に廃棄しているのでは。

  • 数億ドルかけた技術を排気するような企業はない。ちゃんと残っている。

  • 2001年ごろに技術資料、生産データは廃棄されている。ノースロップ社員にこれが間違っていたら教示願いたい。どちらにせよ今となっては生産システム自体が時代遅れだ。

  • F-22が政治的に選定されたとの指摘に全く賛成。ロッキード・マーティンは当時財政的に苦しく国防企業の数を一定に保ちたいとの意向が働いた。F-22を受注してなければ同社は幕を下ろしていたかも。性能や米軍のためではなくあくまでも政治的な選択で「互助の精神」が働いたのだ。

  • 日本が同機を輸出する動きに出たらどうなるのか。まるで無害な鳩の群れに猫を放すようなものでF-22は安全に飛べなくなるかも。

  • F-3を導入する国は現れないだろう。単価は400億ドルで100機調達なら4億ドルだぞ。

  • 日本に新型戦闘機を開発する余力はないのでは。昨年に防衛装備のR&Dに使ったのはわずか10億ドルで、米国からの調達に切り替える中で研究予算は減る傾向にある。記事の言う通りなら日本は抜本的に防衛R&D支出を増やす必要がある。F-3開発には400億ドル必要で日本に支出能力があるのか。そうなると選択肢はF-35輸入をふやすことだろう。多額の国債発行で日本に国産戦闘機による防衛体制整備は不可能なはずだ。ライバルの韓国も国産ステルス戦闘機開発に向かっているが韓国の国債発行額はGDP比で38%相当なので実現は可能だろう。

  • 日本のRFIに合致するのはスホイPAK FA/T-50しかない。ロシアが日本に接近してきても驚かないだろう。日本がロシアと組めば、インドとも共同で開発に進み、イスラエルがF-35に手を加えるようにT-50も改修される。兵装、エイビオニクスを日本仕様に変えて、すでに飛行可能な機体を買えばよい。国内生産も考えらるし日本はすでに国産エンジン開発に取り組んでいる。実現するとは思わないが、日本が想定する大型機内兵装搭載能力を持つのはPAK FA/T-50だけだ。

  • 日本はロシアとの戦争状態をまだ解決していないのだぞ。日本はロシアが自国領土を実効支配しているのを快く思わず奪回をめざしている。

  • それは知ってるよ。ただ経済産業省によれば日ロ間の貿易量は2006年から四倍に増えており、サハリン-1、サハリン-2の共同プロジェクトがあり、ロシア原油の案件も進行中だ。平和条約が未締結のままでも両国は実利を追求できる。日本は北方領土より中国を憂慮している。そこで長距離戦闘機で全国を防御するのか、一部の島しょ部分を守るのか。ロシアはそれでもPAK-FAを提供できるだろう。

  • 日本の公式見解は北方領土の奪回に武力行使することは憲法9条に違反せず、他国侵略ではなく自国領土の奪回だからよいとする。このためロシアはミストラル級強襲揚陸艦を導入し千島列島を日本の攻撃から守ろうとしたのだ。日本が武力行使に踏み切っていないのは財政事情で防衛に回す資金が減っているためだ。ロシアが日本に武器売却を認めることは発生しない。なぜなら日本はロシアから見れば敵対勢力であり領土を狙う国だから。PAK-FAの購入は中国からJ-20を調達して尖閣諸島を防御するようなもので全くのナンセンスである。さらに仮にPAK-FAを日本が購入すれば機体は米国が細かく調べるだろう。文中からアジア安全保障で地政学的な知識がないのがわかるぞ。 1. ロシア製武器の対日販売はあり得ない。ロシアに向けて使われてはたまらないからだ。 2. 日本には国産戦闘機開発資金はない。まだゆとりがあった10年前に実施すべきであった。 3. 日本は今後年を追うごとに弱体化していく。中国、韓国は日本を恐れていない。

  • ロシア報道ではミストラル級一号艦は太平洋配備で千島列島への兵員輸送に投入するとしていた。だが同艦導入の理由と言われた日本の攻撃の兆候はなかった。

  • ロシアが購入したのは二隻だけでフランスがロシアのクリミア半島併合を理由に売却を取り消した。残る二隻はロシア国内で建造予定だったが起工していない。ロシアは先行二隻の支払い済み分は返金を受けている。

  • F-2は開発期間中に主翼で初期問題が発生したが、量産型機体では発生してない。

  • (1) 空母「 # ミストラル 」は当初クリル諸島を # 日本 の侵略から守るため購入された 「空母「ミストラル」は当初、日本のクリル諸島へ侵攻を撃退することが目的であった。

  • ロシアがミストラル級の取得を急いだ理由に日本が千島上陸を立案中との情報が入ったことがあり、仮に日本が千島を占拠しても奪還用部隊の輸送が必要と判断したためである。2011年のことで日本右翼勢力は日本政府が武力で千島を奪還する意思があることを知り興奮を隠せなかった。

  • 日本の憲法学者は千島での軍事行動が許容するため第九条改正は必要はないと主張していた。その理由は日本国の領土を不法に占拠する外国軍を駆逐するのは第九条が定める自衛権の行使に当たると説明していた。

  • 戦争状態は終結(1956年)したが平和条約は調印されていない。米国は平和条約締結を妨害している。

  • 日本の真の狙いは二つあり、改修型F-22 ラプターの調達あるいはロッキード・マーティンとF-22を共同生産し、米国はじめ各国に売り込むことだろう。

  • 米空軍はF-22ライン再開の可能性を除外している。F-22は復活しない。

  • F-35と競合するのにわざわざロッキードがF-22共同生産に踏み切る理由がないだろう。

  • F-22生産再開の条件は整うのではないか。日本が購入すれば再生産の費用を押し下げる効果があり、日本も自国開発より好ましく思うのではないか。米空軍はF-Xがもうすぐ実用化できるという幻想をを捨ててこの機会をとらえるべきだ。
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  • 新型F-22生産に踏み切るのであればF-22Aより内部燃料搭載量を増やすため機体を若干大型化していいのではないか。

  • 核兵器搭載もお忘れなく。F-22現行型でも内部兵装庫に核運用をするだけの大きさがある。戦闘爆撃機角型はほぼ全機種でこの能力がある。
まだまだ論争は続きそうですがここで一回お開きにしましょう



★★★F-3実現に向け防衛省が情報開示要求を発出



大きなニュースですね。本日は多忙につき、記事部分のみお伝えします。米国読者はさっそく活発な反応を示しており、その部分は後日追加でお伝えしますのでお待ちください。

Aviation Week & Space Technology

Japan Issues Request For Information On Fighter Options



防衛省が次期戦闘機の技術情報開示を求めている。調達に向けた第一歩で今世紀中ごろの戦力化を狙い、おそらく国産開発に向かうだろう。
  1. 防衛省が求め情報では次の三つの選択肢がある。新型機の開発、既存機種の改良、輸入の選択肢だ。いずれも三菱重工(MHI)のF-2後継機を想定する。
  2. だが同省が本当に欲しいのは新型機開発だろう。現在生産中の機体で日本の要望を満たす機種はない。内容は大型、双発、長距離飛行、空対空ミサイル6発の機体内部格納だ。
  3. 外国企業に参入可能性がないわけではない。仮にMHIが機体でIHIがエンジンで中心の国内生産となっても価格さえ条件に会えば海外企業の技術を採用する余地はあるからだ。
  4. 防衛装備庁が求めるのは各社の技術能力及び最近の実績だ。既存機種改修と輸入に関しては最新機種が対象。「情報開示請求」という用語は使っていないが、同庁の狙いはまさに同じである。回答締め切りは7月5日。
  5. 対象企業は絞り込まれている。機体あるいはエンジン製造の実績がある企業、開発生産の知見がある企業、商社およびコンサルタント企業である。そのうち、メーカーにはMHI、IHIが当然含まれ、合わせてボーイングBAEシステムズダッソーSAABも含まれよう。第二グループにイスラエル航空宇宙工業が想定されているが、戦闘機を完全に自社設計で作った実績はないが中核技術の知見があるからだ。
  6. 商社が加わるのは日本の防衛装備導入では国内仲介役として不可欠の存在だからだ。ロッキード・マーティンのF-35ライトニングが選定された2011年事例では三菱商事が陣営に加わっており、対して伊藤忠はボーイングF/A-E/Fスーパーホーネットを、住友商事ユーロファイターの総代理店としてタイフーンを推挙していた。
  7. 日本政府は平成30年度までにF-2後継機種を選定する予定だ。新型機が供用開始するのは平成42年度(2030年)ごろの予定で、今世紀後半を通じて稼働する。
  8. MHI、IHI他日本企業はすでに国産機開発の基礎研究を始めており、その内容は今回の防衛省の要求水準をほぼ満たす。新型機、改修型、あるいは輸入機のいずれになっても新型機はF-3の呼称となるだろう。
  9. 政府は研究開発予算を大幅に増額しF-3実現を目指している。1988年以来の累積支出は1.730億円(16.4億ドル)に登っている。F-3の開発費用は不明だが、ロッキード・マーティンF-22が概念上はF-3に近く当時の米国は304億ドルで開発している。F-2はロッキード・マーティンF-16を元に開発され3,600億円で開発できた。
  10. F-2は戦闘爆撃機だが日本はその後継機を求めているのではない。防衛技術研究本部TRDIの概念設計では制空任務を明らかに想定している。同本部は長い航続距離を与えてを空戦能力より重視している。機内格納兵装で遠距離から攻撃を加える想定で、図面ではラムジェット推進を想定しているようだ。また概念設計ではステルス性も想定している。
  11. 一方で技術や政治面で受容可能なF-2後継機の原型となる既存機種あるいは輸入機種はどうだろうか。まずボーイングF-15が1980年代から日本で稼働中だ。日本が求める長距離航続力はあるが、兵装庫はないうえ一番大切なステルス性も欠ける。F/A-18E/Fは限定的ながらミサイルをポッド格納搭載できるため有望だ。タイフーン、ダッソー・ラファール、グリペンE/F型もそれぞれ制約があり、長距離運用という点で失格だろう。ステルスF-35では機内兵装庫で制約があり、なんといっても航続距離が短すぎる。
  12. 今のところ日本の要求内容を満足できる新型機の開発日程はどの国にもないが、米海軍と空軍には日本の求める大日程と性能とほぼ一致する新型機開発構想がある。■


2016年6月27日月曜日

★★ヴィエトナムが海自P-3C余剰機材の導入に前向きになっています



さすがヴィエトナムの目の付け所は鋭いですね。フィリピン向け練習機の案件ではリース方式にしましたが、今回ヴィエトナム案件が成立したらどう処理するのでしょうか。 それはさておき、日本が国境線から利益線に世界観を拡大するのはよいことでしょう。もちろん、それを歓迎しない勢力もあるわけで、とりわけ国内では次回参院選挙で政党の世界観・安全保障観が問われていると思います。



Nikkei Asian ReviewVietnam eyes secondhand Japanese defense gear

June 26, 2016 1:00 pm JSATSUSHI TOMIYAMA, Nikkei staff writer

HANOI--米国が武器禁輸措置を解除してヴィエトナムが国防力増強に取り組んでいる。
  1. 中国を意識し海上哨戒能力の向上を狙う同国だが問題は米国製装備の高価格だ。代替策でヴィエトナムは安価な使用済み機材を海上自衛隊から導入したいようだ。
  2. ロイター報道によれば同国はロッキード・マーティンに使用済み米海軍P-3オライオン4機ないし6機の価格および納期を照会する予定だ。P-3の新品価格は最低でも80百万ドルでヴィエトナムは一機しか調達できない。
  3. 対潜能力整備は同国の目標で、武器禁輸措置解除により米製装備の調達に向かうと見られたが、ここにきて日本が浮上しており、日本側関係者によればヴィエトナム海軍から非公式に海自の退役済みP-3C対潜哨戒機購入の打診が今年春にあったという。
  4. ヴィエトナムの悩みの種は中国潜水艦部隊だ。中国の約70隻に対しヴィエトナムもキロ級潜水艦をロシアから6隻購入たがそれだけでは対抗しきれない。そこで対潜哨戒航空機材の整備をめざす。
  5. ただし日本への期待は価格だけではない。まず日本には十分な機数のP-3Cがある。海自が新型P-1の導入し機種更新中のためだ。またヴィエトナムは訓練も期待している。P-3C乗員は音紋から潜水艦を識別する必要があり、海自は同機運用で世界トップクラスと言われ、ヴィエトナムは日本から学ぶのが近道と考えているようだ。また日本とは政治経済上のつながりも強い。
  6. さらに海自との共同演習で自国部隊の技量を磨く期待もヴィエトナムにあるようだ。日本のP-3Cはダナンまで飛んでおり、今年も共同で捜索救難演習を実施する。ヴィエトナムはP-3C運用の事前訓練の機会にしたいようだ。
  7. ヴィエトナム国防相ゴー・スアン・リックは6月のシャングリラ対話を欠席し、次官を代理で送り中国を配慮した可能性がある。今のところヴィエトナム政府は中国を挑発することを避けようと、軍事力示威やあからさまに米側に寄り添うところは見せていない。■


ブレグジットとトランプ:なぜエリート層はショックを受けているのか



Why Do Brexit and Trump Still Shock National Security Elites?

Donald Trump supporters at a campaign rally at the Greensboro Coliseum in Greensboro, N.C., Tuesday, June 14, 2016.
BY KEVIN BARONEXECUTIVE EDITOR, DEFENSE ONEREAD BIO
8:29 PM ET
ブレグジットで判ったこと:結局、耳を傾けず、理解せず、意思疎通せず、説明もしていない。

LONDON – 6月23日の出来事を追っていただろうか。ブレグジットは関心を引いただろうか。この記事をご覧の皆さんは国家安全保障専門家あるいは外交政策にご関心の向きだろう。国民投票結果に恐れを感じ、トランプ候補のメッセージにも脅威を感じるのなら、大衆に非を求めるのはやめてご自分のことを考え直した方がいい。
  1. こんなのはいかがだろうか。もう一度各種記事を読んで米国人、英国人が安全保障の専門家知見から距離を置く理由を考えてほしい。その次にこのブログを閉じて周りの人に説明してほしい。どんな仕事をしていてどれだけ重要な仕事なのか。またその政策実施がどれだけアメリカを再び偉大な地位につけられるかを。これはトランプが実行していることだ。トランプは市井の人々を巻き込んでいる。あなたはしていない、あるいはしているつもりでも十分ではない。
  2. ロンドンでこの四月にアスペン安全保障フォーラムがあり、参加者のほとんどがEU離脱に反対の上、離脱の可能性はないとしていた。なぜ英国が世界規模の安全保障、情報利用の機会を放棄し再度自国で作り上げる必要があるのか。ブレグジットに一票を投じるのは自分の顔から鼻を切り取ることではないか。(鼻とは法執行、情報活動、軍事保安作戦の総称だ)
  3. ワシントンの国家安全保障専門家のほぼ全員がドナルド・トランプを最高司令官とすることに反対している。共和党指導部でさえトランプの安全保障観を憂慮している。イスラム教徒への態度、イスラム国へ核兵器投入を許容する姿勢であり、NATO解体もある。先週もネオコンの長老ロバート・ケイガンがヒラリー・クリントン支持に回り、保守派著述家のマックス・ブートもロサンジェルスタイムズ紙上でトランプに苦言を呈している。
「トランプは傲慢な扇動家で人種差別、女性蔑視、陰謀論へ誘導を図っている。貿易保護主義や孤立主義の第一人者だ。だがその考え方が大恐慌と第二次大戦につながったのを忘れてはならない。警察国家さながらに不法移民の一斉取り締まりを望み、イスラム教徒の入国禁止を主張する。支持者に反対勢力を襲うようけしかけ、批判勢力には訴訟や中傷をそそのかす。日本や韓国を見捨てて史上最高の同盟のしくみNATOを解体すると公言。その発言はまるでウラジミール・プーチンのような独裁者の観がある。
「ここまで不適格な候補者が大統領選に党大会で推挙された例は米史上にない。トランプ当選のリスクこそ米国にとって最大の国家安全保障上の脅威だ」

  1. まだそこまでいっていない。トランプは生きており、ブレグジットは起こった。
  2. 「トランプ現象とブレグジットは類似している」とスティーブ・カル(メリーランド大公共政策研究所長)は指摘する。「共通するのは利益を感じられない政策が決められているとの国民感情だ」としさらに「選択の絞り込み作業が民主的でないし、公共の利益の方を向いていない」ため国民の意見を反映していないとする。「そこで国民はトランプかサンダースかの選択に向かう」と政策こそ全く反対方向だが反体制派として共通する両候補に言及している。
  3. 言い換えれば、国民は政策に反対しているのではない。一度も意見を聞かれなかったことを問題視しているのだ。そもそも政策決定の仕組みに組み込まれていないのに負担だけ求められていると国民は感じている。エリート層はアメリカを世界を導く国にしておきたいと国民は感じとっており、意見を聞かれない間にグローバリゼーションは税負担増や歯止めのない移民受け入れ、国境警備の形骸化、失業、その他あらゆる不平不満につながると見ている。読者の中にはこれは孤立主義であり誤った主張だと一蹴する向きもあるかもしれない。
  4. 「国民の動向を孤立主義と片付けるのは正しくないでしょう。アメリカの特別視に反対しているのです」とカルは述べる。
  5. トランプへ票を投じる層はブレグジット同様に国粋主義の最右翼であり良き時代のアメリカが戻るのであればアメリカの力を一部放棄してもよいと考える。カルによれば調査対象のグループで「世界秩序の名のもとにあまりに多くの服従を強いられている」とか「本来より高い負担を強いられている」との主張が繰り返し見られるという。また「外交政策のエリート層の理想、アメリカの支配に対する自信過剰、強迫観念が結果高い出費につながっている」とも聞こえてくるという。
  6. 政界は今こそ目覚めるべき時だ。
  7. ご自分の国家安全保障観が正しいと信じるのであれば、国のためになっているということであり、全米有権者を納得させることができるはずだ。白書、会議、政策サミットなどの手段でワシントンなら有権者向きの仕事ができる。だがワシントンを一歩出ればだれも皆さんに耳を傾けない。国民に接触する方法が見つかれば国民の考えも変わるかもしれない。もっといいのは何もしないことだ。
  8. クルの調査チームは複雑な外交問題を一般大衆に尋ねても回答はほとんど無意味だと突き止めている。だがもし国民を教育すればその判断はエリート層の考えと同様になるとも判明している。クルは「市民内閣」を八州で組織し合計7千名を作業チーム同士の論争に参加させたところ良好な成果を得ている。
  9. 「参加者に争点を説明し、賛否の主張をすべて解説して総合的な観点で提言を求めた」のをTPPのような複雑な問題に応用した。その結果、クルによれば参加者は「実にうまく扱えること」ができたという。
  10. またこの手法を応用すれば真の世論の抽出に非常に有益だという。例としてイラン核交渉がある。クルによれば世論調査では「首尾一貫しない」回答が出ている。質問文を一言を変えるだけで回答結果は大きく変化したが、市民内閣で有権者は政策選択結果を信頼することが判明したという。
  11. この手法ならエリートがすべて決めているとの見方を解消できるのではないか。クルによればTPPでは「企業の利益の名目で中間層に犠牲を求めるのだから企業にとって都合のいいことに反対だ」との声があり、移民問題では米エリート層は低賃金労働で企業に利益を生み出す政策を作っているが、勤労家庭には益がない。だが一般国民に政策の背景を説明すれば、他国との協力も受け入れ、国連の仕組みを尊重し、他国が負担増を受け入れるのであればアメリカ第一の考えも一部放棄してもよい」と考えるようになるという。「トランプはこの手法を使って、有権者に話しかけている」とクルは述べている。
  12. たしかにそうだ。トランプは朝令暮改さながらに英国国民投票についての意見を変えている。「これは英国のヨーロッパ連合からの独立宣言であり、政策、国境、経済で主権を再び回復したのだ。来る11月には全米の有権者にも独立を再宣言する機会がやってくる。有権者は貿易、移民、外交それぞれで一票を投じることができ、国民第一が実現する。今あるルールは世界のエリート層がつくったがこれを白紙に戻し、国民の国民による国民のための政府を実現する機会がやってくる」
  13. お分かりだろうか。トランプは米国民に参加を求めているのであり、有権者には政策云々よりもこちらの方が重要なのだ。
  14. 「トランプの外交政策に有権者がそのまま賛成しているわけではない。アメリカ第一の姿勢は孤立主義の様相を秘めている」とクルは指摘する。「有権者はそれ以上を期待している。参加を望んでいるが、現状のやり方には満足していない。微妙な点です」
  15. 一部は可能だろう。今週末にTruConがある。毎年恒例のワシントンでの会合でトゥルーマン国家安全保障プロジェクトのメンバーが全国から集まり、政策目標を論じ、その後各地に戻り、リベラルより左寄りの外交、安全保障その他の政策を広めるのが目的だ。参加者はおよそ1,500名で次世代の公職者他指導層に福音を伝えるエリート層だ。左翼右翼を問わず国家安全保障問題を国民各層に伝える機会があることはいいことで、共和党OBのネットワークからかい離できるはずだ。だがそれだけでは十分ではない。
  16. もっと有益なネットワークがある。米軍である。軍が隊員勧誘に大金を使うのは理由がある。高校でのROTC勧誘、NASCARレース場、NFLの会場さらに全国各地の入隊勧誘事務所を通じ米軍の姿はどこでも見られるアメリカ精神を形作っている。これを安全保障でも行えないか。
  17. 全米児童は米政府の仕組みを学ぶ。だが米国のグローバルなリーダーシップを学ぶ機会はどこにもない。時事問題、外交政策、国際関係、世界のしくみ、NGO、中東問題、中国の台頭、経済問題、地球気候変動、海外市場、外交、外国の言語文化、限りなくリストはひろがるがすべて学習の必須項目に入っていない。
  18. クルの調査研究成果からもしアメリカ人が「市民内閣」を各種問題で経験すれば相当変化し投票行動も変わり安全保障のエリート層と近くなることこそあれ反発はなくなるという。
  19. そこで読者諸氏も驚いてばかりいるのはなく、ツィッター上で赤面するような意見を表明しEU離脱を求め読者の意見に反対するような有権者、あるいはトランプの視点でものごとを見る有権者を止めるべきだ。ツィッターは全米国民のほとんどは使っておらず、投稿することは自問自答するのと大差ない。
  20. 読者諸氏の安全保障面での指導性により多くの米国民(英国民)の信頼を集め関与させたいのなら、国民の基本的な考え方を変える何かを始めるべきだ。運動を始める、より効果的な発言をする、などだ。自説を強調し熱意をこめて話しかけるべきだ。だがこれは首都を離れた場所で行うことが肝要だ。いかにも驚愕しているとの演技はやめよう。■

米空軍>指向性エネルギー兵器の技術進展と実戦化の現状




Air Force has directed energy weapons; now comes the hard part

Phillip Swarts, Air Force Times12:16 p.m. EDT June 25, 2016

635736797419217976-photo-directed-energy-weapon(Photo: Air Force)
20年間にわたり、米軍は産業界とレーザーなど指向性エネルギー兵器の実用化をめざしてきた。装置は危険な化学レーザーから信頼性の高い半導体レーザーに変わり、出力は数ワットから数キロワットへ拡大している。
  1. これからが困難な部分だ。空軍はワシントンDCで第二回指向性エネルギーサミットを開催し大きな課題が改めて認識された。
  2. 主催は国防コンサルティング企業ブーズ・アレン・ハミルトンとシンクタンクの戦略予算評価センターで指向性エネルギー分野で業界最高の人材が集結した。
  3. 軍上層部は早く実戦化したいとじりじりしている。指向性エネルギー兵器は敵車両を止めたり通信を遮断し、飛んでくるミサイルを破壊したりと多様な用途の想定がある。
  4. だがレーザー兵器の実戦化は困難な課題だ。空軍が指向性エネルギー兵器をはじめて開発したのは2000年代初期で、装置は巨大なボーイング747の全長を必要とした。海軍の試験版は揚陸艦ポンセに搭載され重量は通常の航空機の搭載量を上回る。
  5. さらに新技術は通常通り試験、分析、予算手当、調達、運用構想の作成、立案、承認、訓練を経てやっと実戦化される。
  6. 「予算をたくさん確保するには書類がたくさん必要だ」とブラドリー・ハイトフォード中将(空軍特殊作戦軍団司令官)は軽口をたたく。「今はたくさんの書類に字を埋めているところ」
  7. 同中将によれば敵を警戒させず静かかつ迅速に敵のシステムを妨害する装備が空軍に必要だとし、音を立てず目に見えないレーザーは最適だという。
  8. 「指向性エネルギーを高密度レーザーの形でAC-130ガンシップに搭載できるようになった」とハイトホールド中将は述べる。「指向性エネルギー兵器こそ次代の兵器だ」
  9. ただし指向性エネルギーの実戦化には課題が残る。ハイトホールド中将によれば最大の課題はレーザー装置の寸法と重量だ。
  10. 「重量5千ポンドでパレットのサイズに合えばおさまる」と中将はC-130搭載を想定して語った。
  11. ウィリアム・エター中将もレーザー兵器実用化を望むが、想定ミッションはハイトホールドと異なる。第一空軍司令官として中将の任務は米本土上空の安全であり、ミサイル撃墜にレーザーを使いたいとする。
  12. レーザーでのミサイル迎撃には巻き添え被害の予防が必要だ。
  13. 「一般市民が被害を受けないようにせねば。本土上空には民間航空機も飛び、小型機もあり、衛星もあります。標的は精密に狙わないといけません」
  14. エター中将もレーザーは極力小型化し機体に搭載できればとよいと見る。F-22やF-35に指向性エネルギー兵器を搭載すれば米本土がミサイルに狙われていてもどの地点からも迅速に対応できる。
  15. 指向性エネルギーでミサイル防衛の穴を埋めるのは可能とエター中将は指摘し、高速飛翔する標的への対応を言及した。
  16. 「現時点で極超音速飛翔体への対応は不可能です」とし、マッハ5以上で飛行するミサイルに言及している。
  17. だがハイトホールドの言う一杯の書類作業のように指向性エネルギーには多数の関連規則や規制面での支援が必要だ。
  18. 「脅威に方針が対応しきれていない」とエター中将は指摘し、「技術対応より方針が難しい。交戦規則が欲しい。撃ち落としたいのは小型無人機なのかそれとも航空機なのか」
  19. 検討事項が他にもある。空軍隊員をレーザー装備に慣れるよう訓練するのは最も些少なことだ。
  20. 「信頼醸成が必要だ」とヘンリー・「トレイ」・オーバリング中将(退役)がAir Force Timesに語った。「机上演習、訓練、演習が必要です」
The amphibious transport dock Ponce conducts an operational揚陸ドック型艦ポンセに実証型の海軍レーザー兵器システムが搭載され、アラビア湾に投入されている。空軍もポンセでの運用実績に期待し航空機搭載レーザーとしてAC-130への応用を考えている。さらにF-22やF-35への搭載を想定している。 (Photo: John F. Williams/Navy)
  1. オーバリングは現在はブーズアレンハミルトンで指向性エネルギー事業に従事しており、空軍内部並びに軍組織全体で時間をかけた価値観の変化が必要だという。
  2. 「隊員がこの兵器の能力を十分理解し、教育訓練を受ければ実用化が可能となり、戦術や手順も実戦に対応できるようになります」という。
  3. 目に見えず音もほとんどしない兵器の照射を当たり前に思う隊員を作るのは簡単なのか。
  4. 「空対空ミサイル発射音に慣れたパイロットや爆弾投下の衝撃を経験したパイロットを新兵器に適応させる必要がありますね」(オーバリング)
  5. 「ミサイル防衛庁長官時代に空中発射レーザー実証機を運用していましたが、乗員がとまどっていたのはレーザー発射の瞬間がわかるのは機体後部で発電機の出す振動が聞こえるときだけでした」という。
  6. 解決策として指向性エネルギー兵器の訓練で「効果と有用性をパイロットの男女に理解させること」があるとオーバリングは指摘する。
  7. 国防企業数社が指向性エネルギーレーザー各種や高周波兵器開発に従事しており、軍へ
  8. の採用を円滑に進めるべく、オーバリングは「モジュラー化し標準化した構造」でシステム作動を保障する必要があるという。そうすれば空軍は契約企業が違うことがあっても装備のつぎはぎ状態を避けれるという。
  9. 一方でハイトホールド中将はAC-130は緑色照準レーザーが搭載されており、その消費電力量はレーザーポインター以下だとする。
  10. 「緑色光線で敵は怯えます」と中将は会場で語った。「光線が出ると標的地点で動きが止まります。緑光線の次に何が来るかわかっているからです。もう少し出力を上げて目に見えなくなるといいですね、相手に聞こえなくしたいですね」■

★歴史に残る機体③ T-4超音速爆撃機など実現しなかったソ連の怪物たち




戦闘装備の歴史では数々の役に立たない兵器が生まれましたが、ソ連では特にその数が多いようです。いつか実物を拝見したいものです。では現在のロシアはどうなのでしょう。すっかり元気がなくなっているロシアですがいつまでもこのままではないでしょう。なんといっても基礎研究はしっかりしていたロシアでボーイングその他米企業が安価に基礎研究結果をソ連崩壊後に買いあさっていましたね。今はむしろ中国の動向に配慮すべきでしょうね。数十年たって中国のとんでもない兵器が過去の遺物になればいいのですが。

War Is Boring These Five Soviet Super-Weapons Were Disastrous

It’s not surprising that most stayed on the drawing board

by ROBERT FARLEY
T-4爆撃機. Clemens Vasters/Flickr photo
  1. ソ連時代の産軍複合体は西側企業へ70年近くも対抗意識を燃やしていた。中には西側を驚かせる安価かつ革新的で高性能の装備もあったが、空を飛ぶのもやっとという機体や何とか浮かんでいるだけの艦船があったのも事実だ。
  2. ソ連崩壊を回避できた兵器は一つもなかったが一部は崩壊の様相を変えている。戦闘では技術と「ヒト」的要素の関係は複雑だ。その関係で孤立した装備の配備を決定をすれば国防に大きな影響が出る。
  3. 兵器開発の中止にはそれなりの理由がある。各種の出来事が関係する中で真の国益と必要性に集中するのが普通で栄光や見栄だけの追求ではない。ソ連の場合では「驚異の兵器」の多くは想像の世界のままだった。ソ連自身にもソ連の敵にとっても。
口径40.6センチのB-37海軍砲は「ソヴィエッキー・ソユーズ」級に製作された。 Photo via Wikipedia

「ソヴィエッキー・ソユーズ」級戦艦


  1. 20世紀初頭時点で帝政ロシアは比較的近代化されて強力な海軍力を維持していたが日露戦争がおわるとロシア造船業界は西側諸国よりかなり遅れをとり、さらに革命で産業界のみならず海軍まで活動を停止してしまう。大戦間のソ連は弱体化した艦隊を再活性化しようとと各種の策を試みた。
  2. 1930年代も終わりに近づくとソ連経済は回復してきたのでスターリンは海軍力整備を真剣に考えるようになった。ソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦を先頭に野心的な整備計画を立案し、巡洋戦艦や航空母艦の整備も想定した。
  3. ソヴィエツキー・ソユーズ級はイタリアのリットリオ級を参考に排水量は6万トン近く、主砲16インチ9門で最高速度28ノットの構想だった。
  4. 完成していれば西側の最優秀戦艦と同程度の規模だったろうが、ソ連は建艦で経験不足があり手抜き作業で実戦ではいろいろトラブルがあっただろう。
  5. ソ連は16隻の戦艦建造を1938年から1940年に計画し、うち4隻を起工している。建造場所はレニングラード、ニコライエフ(黒海)、モロトフスク(白海)でうち一隻は1940年に作業が稚拙なため途中で放棄されている。
  6. 残る三隻も開戦により作業を中断し、うち一隻はレニングラードで大戦後も完成を目指したが、賢明な一派が各艦の建造を中止させ解体している。
  7. 各艦の建造はソ連に膨大な資源投入を求めた。建造がもう少し早い時期に始まっていたら、ソ連は相当の国力を投入した挙句、黒海やバルト海に封鎖されたままの戦艦を抱え込んでいただろう。あるいは一隻は北極航路で船団護衛に投入されていたはずだ。
  8. 大戦中のソ連には戦艦に使う予定の資材を投入すべきもっと有益な分野があったのだ。
国防総省による「ウリヤノフスク」級空母の想像図。 Art via К.Е.Сергеев/Wikimedia

オレル級、ウリヤノフスク級空母

  1. ソ連は革命直後から空母建造を検討していたが、戦艦建造で経済が混乱するとソ連産業界が消極的になりさらに第二次大戦で計画は立ち消えとなる。
  2. 戦後になりスターリンの非現実的な建艦計画からもっと足が地についた空母建造に切り替えた。モスクワ級ヘリコプター空母が1960年代中期に就役し、その後キエフ級VSTOL空母数隻が1970年代から80年代にかけ登場した。
  3. その次は簡単ではなかった。堅実な進歩を主張する向きがあった一方で、一気にスーパー空母へ移行すべきとする向きも出た。(これがオレルプ級である) だがソ連海軍は段階的な発展策を採用し、キエフ級の改良とクズネツォフ級通常動力型中型スキージャンプ式空母の開発が始まった。
  4. さらにクズネツォフ級の後継としてウリヤノフスク級を想定した。
  5. 排水量8万トンで原子力推進のウリヤノフスク級は米スーパー空母に初めて真正面から対抗する艦となるはずだった。スキージャンプ式を採用していたが、カタパルトを装備し戦闘機、早期警戒機を運用できれば米海軍空母とほぼ互角になっていただろう。また完成すれば初めてソ連海軍は長距離攻撃作戦を世界のいかなる地点でも実施する能力を入手していたはずだ。
  6. だがソ連時代の兵器システムの例にもれず壊滅的な出来事が発生した。冷戦終焉でソ連体制が崩壊し、ウリヤノフスクの建造のはリスクがあまりにも大きくなり、船体は分解された。後になってみれば段階的な戦力整備方法はそれなりの効果を上げ、制海艦や海軍航空隊を生んでいる。
  7. ただしスーパー空母をそのまま建造する決定をしたソ連海軍の考えは米海軍と全く異なっいたのであり、西側に匹敵する海軍の存在意義を示すより海軍戦略の再活性化にこだわっていた。だが完成していてもソ連には友邦国、敵国に誇示できる内容は多くなかっただろう。
K-7重爆撃機のRC模型. Photo via Wikipedia

大戦間の重爆撃機

  1. ソ連空軍は第二次大戦中に戦略爆撃能力を整備できなかったが、大戦間にソ連は長距離四発エンジン爆撃機を重点的に開発しようとしていた。
  2. 大戦勃発時のソ連は他国を上回る規模の重爆撃機を配備していた。ただし、機種は旧式化したTB-3が大部分であったが。
  3. 戦闘の激化でソ連はPe-8を主力としている。ほぼアヴロ・ランカスターやボーイングB-17に匹敵する機体だったがPe-8は西側爆撃機に匹敵する成果は上げていない。機体製造と補給問題がその原因だった。
  4. だたし、ソ連空軍は真に壮大なプロジェクトも実験しており、なかでもK-7重爆撃機はユンカース構想に酷似していたが八回目のテスト飛行で墜落し機内の14名が全員死亡している。
  5. その中で最も有望な開発事業はTB-3/ANT-20/TB-6ファミリーを軸に進められエンジン六基以上の怪物機となった。重武装のため速度と操縦性は犠牲にされたが編隊飛行中の重爆撃機は迎撃機から防御が必要との考え方が理由だった。
  6. ANT-20輸送機はエンジン八基で乗客72名を乗せ、試作機はモスクワ近郊に墜落し45名が死亡した。ANT-26は爆撃機に転用したANT-20でエンジン12基で爆弾33千ポンドとB-29を上回る搭載量になるはずだった。
  7. 結局空を飛んだのは試作型だけでかつ長時間飛行はしていない。ソ連がこの路線を採用していたら、戦術空軍力の整備が相当遅れ、かつ赤軍地上部隊の資源を相当吸い上げていただろう。
  8. 巨大なANT-26はドイツ戦闘機の格好の標的になっていたはずで、ルフトバッフェの待ち構える空域に飛び込むだけだっただろう。
  9. ソ連に資源を無駄使いする余裕はなく、戦略爆撃のような高価な作戦は実施できなかった。なんといってもドイツ国防軍を地上で撃破することが必須だった。もしソ連が戦略爆撃を真剣に実施する政策を採用していたら、ドイツ軍の地上侵攻を食い止めることは不可能だったろう。
T-42戦車の想像図。 Art via Wikipedia

超大型戦車T-42

  1. ドイツとソ連の戦車設計が1930年代に類似していたのはカザン戦車学校の知見を共有していたためだ。ワイマール時代のドイツとソ連は1920年代末から航空分野、装甲車両、化学兵器共同作業を開始し成果が上がっていた。t.
  2. ナチの台頭でこの協力は幕を下ろし、ソ連とドイツはともに革新的な新発想の装甲車両技術を手にしていた。
  3. 大戦間に「超大型」戦車の生産を試みた国は数多い。標準型戦車の三倍から四倍の重量のある戦車を指す。その中でドイツのエドワード・グロッテは超重量戦車をドイツ、ソ連双方に設計していた。
  4. ソ連参謀本部へ提出した案で一番関心を集めたのはT-42案で重量100トン、砲塔三つ、時速17マイル、乗員14から15名というものだった。
  5. T-42は試作さえされなかったが、ソ連軍部が真剣に装備化を検討していたのは事実だ。もう少し現実的な案としてT-35、T-100、SMK、KV-4、KV-5があった。このうち生産に入ったのはT-35だけで、45トン、砲塔は5つあった。配備された61両はほとんどがバルバロッサ作戦の初期段階で喪失している。機構上の不具合と乗員が放棄したためだった。
  6. 超重量戦車の例にもれずT-42も重量超過、高価格で開発に手間取り本格生産されなかった。赤軍が同戦車を採用していたら、日本、フィンランド、ドイツを相手にいずれの場合も悲惨な結果になっていたはずで、ソ連の装甲車両教導方針そのものが戦術的に意味のない内容にされていた可能性もある。
氷に覆われたT-4爆撃機。Samantha Cristoforetti/Flickr photo

スホイT-4超音速爆撃機

  1. 大戦後のソ連爆撃機には米側と類似する機種が多い。Tu-4は捕獲したB-29をそのままコピーした。スホイT-4はB-70ヴァルキリーに相当するソ連の機体だ。大型高速爆撃機として高高度を飛行するT-4はソ連防衛産業の能力を試す課題(能力以上の課題にもなった)だった。
  2. マッハ3で実用最高高度が70千フィート近くのT-4は外観がB-70に酷似し、性能も同様だった。しかし、ソ連空軍の構造が米国と異なり、T-4は戦術ミッションに投入され偵察や対艦ミサイルの輸送にも使う構想だった。Kh-22対艦ミサイルを抱いて飛行するT-4は恐ろしかっただろう。
  3. だが要求水準がソ連に高すぎ生産に移されなかった。高速で高高度を飛行する機体に許される公差はソ連航空産業界では実現できなかった。さらにT-4にもB-70同様にSAMが立ちふさがった。
  4. T-4は可変翼型Tu-160の先駆けとなった。Tu-160は35機しか製造されずT-4の就役開始想定年からほぼ10年後に登場している。
  5. もしソ連がT-4を配備していたら戦術機部隊で相当部分を断念していただろう。だが、同時に高性能超音速爆撃機部隊は対艦ミサイルを搭載していたはずで、米空母部隊にとっては小型で短距離型のTu-22M以上に防御が困難だったはずだ。
  6. T-4が量産されていたら米国の調達にも変化が生まれていたはずで、B-1Aがもっと重視され、戦略迎撃戦闘機も脚光を集めていたはずだ。運行維持が極めて高額につくT-4だがソ連崩壊後も一部は残存してロシア空軍に編入されていたかもしれない。

結語

  1. ソ連には壮大な構想と世界規模の野心があったが国防産業の基盤に深刻な制約があった。
  2. 制約が傑作装備を生んだこともある。T-34やMiG-21がその例だ。逆に制約で悲惨な結果を生む決断につながったこともあり、大戦間の巨大爆撃機、巨大戦艦や巨大戦車構想が例だ。
  3. ここから導き出せる教訓としてウェポンシステムの選択が防衛産業に影響を与えることはあっても国家の運命を変えるだけの力はないということだろう。■


2016年6月26日日曜日

★米海軍のUAVトライトンがP-8へ映像送信に成功、ひろがる広域海上監視能力の実現性



しばらくニュースがなかったトライトンですが着実に海軍用として進化を遂げているようです。P-8との共同運用が今回のテストで実証されています。前にも主張しましたが日本が本当に必要とするのはこちらのトライトンが本命ではないでしょうか。

 Navy’s Triton UAV Passes Full-Motion Video To P-8 During Flight Test

June 22, 2016 5:12 PM

The MQ-4C Triton prepares for a flight test in June 2016 at Naval Air Station Patuxent River, Md. During two recent tests, the unmanned air system completed its first heavy weight flight and demonstrated its ability to communicate with the P-8 aircraft while airborne. US Navy photo.
MQ-4Cトライトンが飛行テストに離陸する準備中。2016年6月、パタクセントリバー海軍航空基地。直近のテストで同機は初めて最大荷重飛行とともに飛行中のP-8とのデータ交換性能を実証した。US Navy photo.


米海軍が実用化をめざす長距離無人海上哨戒機MQ-4Cトライトンで運用テストが続いているが、今回は収集情報を有人P-8Aポセイドン多用途哨戒機と共用できることを実証した。
  1. 6月2日に海軍航空基地パタクセントリバー(メリーランド州)でトライトンはポセイドンと共通データーリンクシステムを介してフルモーションビデオ画像の交換に初めて成功した。海軍航空システムズ本部NAVAIRが本日発表した。テストでトライトンが持つ水上目標追跡能力(電子光学赤外線カメラEO/IRを使用)による状況把握能力が離れた地点を飛行中のポセイドン乗員に共有され二機種の同時運用が実証されたことで広域海洋上での共同ミッションに道が開けた。
  2. 「作戦環境では現地到着する前からP-8乗員が監視対象の状況を知ることができることを意味します」とダニエル・パップ中佐(トライトン統合運用実証チーム主査がNAVAIR広報資料で語っている。
  3. トライトンはこれとは別に一連の重量荷重飛行テストを行い、燃料満載で監視地点上空の高高度で滞空可能な時間をさらに伸ばしている。トライトンは燃料満載状態で高度20千フィートから30千フィートへ上昇している。重量物搭載テストは今後も続け最終的に実用上昇限度を60千フィートに伸ばすとNAVAIR広報官ジェイミー・コスグローブがUSNI Newsに語っている。
  4. トライトンは空軍仕様のRQ-4Cグローバルホークを大幅改修し、海軍の広域海上哨戒機(BAMS)事業で生まれた機体だ。高高度を24時間飛行でき、AN/ZPY-3レーダーで広域監視する海上偵察機だ。EO/IRと自動識別で商船の発する信号をとらえる。同機に広い海域を走査させてP-8は必要な個所だけに専念できる。
  5. トライトンとグローバルホークはともにノースロップ・グラマン製だ。
  6. BAMS事業では69機を調達し、P-8の117機と組ませる。196機あったP-3Cオライオンは順次退役中だ。
  7. 先行して海軍は初期モデルのグローバルホーク2機を空軍から購入し、長時間洋上飛行用に大幅改造し、米中央軍の管轄地域で2008年にBAMS実証機として投入した。一機はその後喪失。コスグローブ報道官によれば残存機は飛行時間が21千となり今でも監視ミッションに投入しているという。
  8. ノースロップ・グラマンは2月17日にトライトンが海軍による作戦運用評価に合格したと発表している。マイルストーンCの調達決定に繋がり本格生産が始まる。コスグローブ報道官によれば海軍はノースロップと低率初期生産の協議中という。トライトンの初期作戦能力獲得は2018年予定。
  9. 海軍はトライトンを以下の五地点に配備する。ジャクソンヴィル海軍航空基地(フロリダ州)、ウィドベイアイランド海軍航空基地(ワシントン州)、グアム、地中海および中東、とコスグローブ報道官は明かした。■