2016年6月22日水曜日

6月22日ムスダンミサイル試射の一次評価 北朝鮮の技術進展ぶりは要注意


今回のミサイル発射でも日本は早々に警戒態勢を取り、情報を入手していたことを示していますが、韓国との事前情報交換はあったのでしょうかね。

 N. Korea fires 2 missiles in quick succession; one flies 620 miles high

Stars and Stripes
Published: June 21, 2016

SEOUL, South Korea – 北朝鮮が22日に発射した弾道ミサイルの一発は高度620マイルに到達し、太平洋の米軍基地を狙える兵器開発を目指す同国には大きな一歩となった。
  1. 中距離ミサイルのムスダンは2か月で5回の発射に失敗していたが今回は技術面で大きな進歩を示した。22日も初回発射が失敗に終わり、発射後およそ93マイル地点で空中分解したと韓国聯合ニュースが匿名軍事筋から伝えている。
  2. 米、日、韓およびNATOがミサイル発射を強く非難した一方、北朝鮮の同盟国である中国は自制を求めた。
  3. 韓国統合参謀本部は一回目は午前5時58分で元山ロケット施設からの発射に失敗したが、二回目は8:05に発射され250マイル飛翔したと述べている。
  4. ただし同本部は詳細情報やテスト結果の判定は今後の分析を待つとし発表していない。
  5. 日本の防衛省はレーダー解析により二回目の発射で高度は少なくとも620マイルに達したと述べたのをAPが伝えている。韓国はまだ確認していない。
  6. ミドルベリー国際研究所(カリフォーニア)のジェフリー・ルイスによれば今回の高度は十分な高さに達しており、ミサイルは通常の軌跡で発射されれば射程距離は最大になっていたはずと語る。
  7. 「その通りなら北朝鮮は推進系のテストに成功したことになる」とルイスは電子メールで伝えてきた。「北朝鮮のロケット技術陣はムスダンの能力を実証するべく相当の圧力を受けている」
  8. 今回のミサイル試射は北朝鮮が核開発の野望を捨てず緊張が高まる中で実行された。国際社会は1月の第四回核実験後に厳しい国連制裁を実施している。
  9. 米戦略軍は各種システムで発射を探知し二回の発射を探知し日本海に落下したのを確認したと発表している。
  10. またミサイル発射は国連安全保障理事会決議の違反で、北朝鮮は弾道ミサイル技術の使用は禁じられているとも発表。「北朝鮮に挑発行為を自粛し、緊張をこれ以上高めないよう求める。逆に国際社会への責務義務を果たすよう求める」
  11. 韓国大統領朴槿恵は「完全な孤立を招き、自滅への一歩となる」と警告し、「無謀な挑発行為だ」と北朝鮮政府を非難した。
  12. 中国外務省報道官華春瑩は「関係各国」がこれ以上の緊張発生につながるエスカレーションをしないよう求め「朝鮮半島の状況は極めて複雑かつ敏感だ」と述べたと聯合ニュースが伝えている。
  13. ムスダンは中距離弾道ミサイルで日本本土や米領グアム島に到達する能力があると見られる。2010年の平壌軍事パレードで初公開されたが、今年4月、5月末のテスト三回まで一発も発射されておらず発射したものの失敗に終わっていた。だが北朝鮮は失敗から学び、技術を進展させているようだ。
  14. 北朝鮮指導者金正恩は1月の第四回実験の後で核兵器開発を進めていくと公言しており、同時に韓国に軍事協議を申し出たが、韓国は核開発を断念しない北朝鮮には誠意がないと一蹴している。
  15. 米国の科学国際安全保障研究所の試算では北朝鮮は核爆弾21発を備蓄している可能性があるという。だが弾頭運搬用ミサイルを開発しないと北朝鮮は米本土攻撃の公約が実現できない。
  16. 北朝鮮と韓国は1953年に休戦協定に合意したが技術的には交戦状態にある。28千名の米軍部隊が韓国に駐留中だ。■

★★海水から燃料を生産へ>米海軍が新技術で特許取得



これは海軍作戦を革命的に変える可能性がありますね。まだ軍用のためコストがネックと思いますが、民間に開放されればまさしく革命的で、中東他の原油生産国に依存しなくても無尽蔵な海水が人類のエネルギー問題を解決してくれそうです。今年最大の技術革新となるかもしれません。詳細は不明ですが、相当の電力消費が必要なはずで、原子力推進艦で燃料合成をするのが賢明ではないでしょうか。

Naval Research Lab Issued Patent for Seawater Carbon Capture Process

TOPICS:RefuelSea
POSTED BY: BRYANT JORDAN JUNE 21, 2016

In this May 27, 2016 photo the guided-missile destroyer USS Barry (DDG 52) conducts an evening underway-replenishment with the Military Sealift Command dry cargo and ammunition ship USNS Cesar Chavez (T-AKE 14) in the Philippine Sea. The Naval Reserach Laboratory has been issued the first U.S. patent for a means of simulaneously capturing from seawater the basic materials for making synthetic fuels. U.S. Navy photo誘導ミサイル駆逐艦USSバリー(DDG-52)が洋上燃料補給を海軍輸送本部所属のUSNSシーザー・チャベス (T-AKE 14)からフィリピン海で受けている。海軍研究所はこのたび米国特許を取得し、海水から合成燃料生産に必要な物質を同時に得る方法を確立した。 2016年5月27日撮影。U.S. Navy photo

米海軍研究所に米国特許が下りた。海水から二酸化炭素と水素を同時に回収する技術で一回の処理で合成炭化水素燃料を生産できる。
  1. 米国特許庁の特許番号#9303323が交付された。
  2. 合成燃料生産が可能となると補給作戦上で大きく有利となり、化石燃料補給の制約から解放される。また海上燃料輸送の脆弱性が減る。
  3. 「艦船内で戦闘群に必要な燃料が生産できると燃料補給の必要時間を減らし逆に作戦上で柔軟性が増え、現場にとどまる時間も延長できることになる」とフェリス・ディマシオ中佐が製法の発明者5名を代表して説明している。
  4. ディマシオ中佐によれば今回の技術で燃料運搬の移動が減る一方でエネルギー自立が海軍で増える、環境負荷は最小限に抑え、電解カチオン交換モジュール(E-CEM)の実現に不可欠な技術だ。


The Electrolytic Cation Exchange Module (E-CEM), developed at the U.S. Naval Research Laboratory (NRL), provides the Navy the capability to produce the raw materials necessary to develop synthetic fuel stock for production of LNG, CNG, F-76, and JP-5, at sea, or in remote locations. U.S. Naval Research Laboratory illustration
電解カチオン交換モジュール(E-CEM)が海軍研究所で開発され、米海軍は合成燃料生産に必要な原材料の確保が可能となる。各種燃料を海上あるいは遠隔地で自由に生産できる。U.S. Naval Research Laboratory illustration




  1. この製法で米海軍はLNG, CNG,F-76、JP-5など各種合成燃料を自由に海上であるいは遠隔地で行う能力を入手できる。
  2. E-CEMプラントは海軍研究所のキーウェスト施設(フロリダ)に設置されており、実証運転に成功し、海水からCO2およびH2を回収し、次工程の合成プロセスで触媒を使い炭化水素に転換できる。
  3. 第二世代の大型E-CEM研究試作機もキーウェストで実証する。E-CEMの外寸と容量が次の目標のシステム統合や商用化の鍵だと海軍研究所は発表している。■


ご参考 当ブログでは米海軍の合成燃料開発取り組み状況をご紹介していました。



★中国がBrexitを恐れる三つの理由



この通りならいよいよ迫ってきた国民投票の結果で中国の目論見が崩れると面白いですね。
僅差で残留が決まると見ていますが。

The National Interest 3 Reasons China Fears Brexit

英国の離脱でEU内経済権益の消失を恐れる中国
June 19, 2016


  1. 疑いなく米国はBrexitで多くを失う。この数か月で多数の評論家がオバマ政権とともにこの点を強調している。だがその中で中国でも同様と指摘したのは皆無に近い。英国がEU離脱すれば、中国にも経済政治上の打撃は大きいため中国政府は憂慮している。中国は静かだが明確にBrexitに反対姿勢を示し、習近平主席自らが昨年10月の訪英時に伝えている。他国の内政へは不干渉を貫くべきという公式な立場を離れて、中国政府は「中国は繁栄の下でEUが団結していくと希望する」との声明を出しており、真意は明白だ。
  2. だがなぜ中国がBrexitの可能性を心配するのか。そこで中国が対英関係を重視する理由三つを理解する必要がある。
  3. まず第一にかつ最重要なのが中国政府が英国との緊密な関係を利用してEUの対中政策に影響力を行使したいと考えていることだ。日米両国の圧力のため、中国はこれまで以上にEUに経済利益の機会を求めており、これが一帯一路構想の原動力になっている。このため中国は英国と経済政治関係を大幅に強化しており、英国を重要なパートナーとしてEU内の代弁者に変えようとしている。中国指導部が英保守党の関心を引こうとしているのは同党が貿易立国をかたくなに信奉しているためだ。中でもジョージ・オズボーン蔵相はデイヴィッド・キャメロン首相の後継者とみなされている。
  4. 早くもこの戦略が二方面で結果を生みつつある。国内外の反対を押し切るかたちで英国政府は中国の市場経済待遇を受け入れるようEUにロビー活動を展開し、中国製品への反ダンピング課税を軽減することを狙った。英国政府は数十億ドル単位のEU中国自由貿易協定の推進を公に進め、ここでも中国は大きく貿易投資をヨーロッパと拡大させる目論見だった。中国の観点では、貿易拡大など追加効果により米国が進める環太平洋貿易投資連携の実現を一掃難しくさせたい。そこで英国がEU離脱となれば中国が狙うEUへの影響力拡大構想が大きな打撃を受けてしまう。またEUもパートナーとしての経済政治力が低下してしまう。
  5. 二番目として中国にとって英国は欧州市場への重要な入口となる。規制が比較的緩い英国に中国企業多数が多額の投資をし、巨大だが規制が厳しい5億人の欧州大陸市場への飛び石として利用している。こういった戦略的投資が近年増えており、中国企業がヴァリューチェーンを構築する事例が特にサービス産業で目立っており、米国など安全保障や技術移転のため投資が思い通りに進まない他国と好対照になっている。当然のこととしてBrexitが実現すればEU市場に英国から入る中国の目論見が崩れる。英国に大規模投資をしている大連万達Dalian Wandaの創設者王健林Wang Jianlinは「Brexitは英国にとり賢明な選択ではない。投資する側には余分な障害が生まれる」と警告している。内部関係者によれば中国企業各社は英国との新規取引を中止しており神経を尖らせながら国民投票の結果を待っているという。
  6. 三番目の理由としてロンドンは中国が進める通貨元の国際化戦略に重要な場所だ。世界有数の金融ハブとしてEU内に位置し、時差の関係から東アジア、欧州、米国をカバーできるロンドンはアジア外で元の利用促進を進めるのに理想的な場所だ。元の国際化は中国政府の大きな目標であることに注意が必要だ。中国は元建て国債を発行し、金融の力を借りた成長が可能となり、外貨依存を減らし、元が安定し自由に取引決済できる通貨になる。また元の国際化で中国は世界の金融秩序を形成できる立場になり真の大国となる。したがってロンドンを元国際化戦略の中心とすることは中国にとって重要事項だ。
  7. すでにこの戦略が効果を上げている兆候がある。ロンドンは香港に次ぐ世界第二位の元取引高を誇り、北京通貨取引市場は中国中央銀行の下部組織としてロンドン支部を開設すると発表している。もし英国がEUから離れたら、元国際化の野望と世界金融界での地位向上がロンドン通じ実現するか確証が持てなくなる。特にロンドンはヨーロッパの金融サービスの中心地であり、英国に本拠を置く金融企業はEU加盟国すべてで追加登録なしで活動できる「パスポート」機能があるので、これがなくなれば大きな打撃だ。
  8. ここまでは戦略レベルの大きな理由だが、中国にはこれとは別にBrexitがEUに即効で与える効果にも気をもんでいる。それは中国にはEUが最大の貿易相手であり2015年には5,200億ユーロ相当の財サービスの交易があった。英国がEUから離脱すればEUへの影響は深刻で世界経済にも同様だ。すると翌年から数年間は世界経済が減速しかねない。輸出依存の経済構造の中国はすでに経済不況にも直面しており、さらにこのシナリオが加わると困難な事態になる。
  9. さらに中国指導部はBrexit国民投票そのものに当惑を隠せない。予想不可能な事態になるかもしれず一度結果が出れば元に戻れない国民投票という賭けにキャメロン首相が出た理由が理解できないのだ。中国専門家のケリー・ブラウンによれば実利を追い求める中国指導部は英国が国家主権だけを理由にEUの恩恵である経済や政治上の利益から背を向ける可能性にショックを受けているという。
  10. 要約すればBrexitは中国にとって何もいいことがなく、戦略経済的に悪い結果をもたらす。そこで6月23日の国民投票を中国指導部はかたづを飲んで待っている。当然だろう。中国にとっては高くつく結果になるからである。

イヴァン・リダレフはキングスカレッジロンドン校で博士号取得予定で、ブルガリア国民議会で顧問も務める。Diplomat,China Brief, Eurasia Reviewで論文を発表しており、専門は国際関係論とアジア安全保障問題である。記事は著者自身の見解である。
Image: Flickr/Number 10 (Crown copyright).


A-10が高速道路で離着陸運用を訓練! エストニアで、1984年以来の実施




 Four A-10 tankbusters have landed on a highway (in Estonia): it’s the first time since 1984!

Jun 20 2016


A-10サンダーボルトIIがセイバーストライク演習Saber Strike 2016で冷戦時代同様に高速道路へ着陸した。

ミシガン州空軍部隊第127飛行隊の所属機4機が32年ぶりに高速道路への着陸訓練を行ったのは6月20日でエストニア国内でのこと。


セイバーストライク演習は在欧米陸軍が中心となり各国と共同運用能力を引き上げるのが狙いで計14か国が国際緊急作戦を想定して行っている。
A-10 land Estonia 2

第二次大戦終結後、冷戦を経て一部国で高速道路を航空機用に転用する構想が生まれ、滑走路を使わない運用を可能とした。各空軍基地の位置は判明ずみで戦闘初期に破壊を免れない。

1920年代から1930年代にかけ企画されたドイツのアウトバーンには滑走路に転用可能な部分があり、今日でも戦術ジェット機や軍用輸送機の運用が可能だ。A-29号線のアイホムAhlhorn-グローセンクネテンGroβenkneten間が例で冷戦時にNATOがソ連戦が勃発した場合に軍用機運用を想定して建設している。

当時のワルシャワ条約加盟国にも同様の高速道路滑走路があった。このうちポーランドには21か所あり、路肩を広げて駐機場に使う構想だった。

現在も一部が健在でシュチェチンStettin近郊にはドイツが設計したハイウェイがカリニングラードに伸びている。この部分はアドルフ・ヒトラーが1930年代に建設したものでまだ利用可能だが旧帝国高速道路網Reichsautobahnの他の部分はもはや使用に耐えない状態になっている。

高速道路への着陸は冷戦時に欧州の中央部、東部、北部では標準訓練の一部だったが、ワルシャワ条約の消滅で高速道路離着陸は見られなくなっていた。

しかしロシアの脅威が再び高まる中で、滑走路を使わない運用がフィンランド、スウェーデンが再開の傾向にあり、米A-10も今回訓練をした。同機はロシアに近い各国へ頻繁に展開している。■
Image credit: U.S. Air Force

仲裁裁定結果後の中国の動きに備えた準備を怠るな


6月から7月にかけてはかなり荒っぽい展開になりそうです。中国が国連海洋法条約を脱退する動きを早くも見せていますが、当の米国も批准していなかったのですね、これでは片手落ちです。次期大統領には何とか政治手腕を見せてもらいたいものです。

U.S., Partners Should Prepare For Chinese Reaction To Impending Territorial Dispute Arbitration

June 20, 2016 3:12 PM

A map of China's shifting definition of the so-called Nine-Dash Line. US State Dept. Image
いわゆる九段線を示す資料 US State Dept. Image

南シナ海領有をめぐる中国とフィリピンの対立で国際仲裁裁判所が司法判断を今月中に出すが、中国の反応に米国は備える必要があるとシンクタンクのパネル討論が指摘している。
  1. アンドリュー・シアラーは戦略国際問題研究所CSISのアジア太平洋安全保障問題で上級顧問で、裁定結果で中国不利となれば米国は今後半年間にわたり「抑止モード」に入る必要があると述べた。現在空母二隻が同海域に展開中であるのは良い選択であり今後は増強の必要があるとも述べ、他のパネリストも同意見だった。
  2. 「中国政府は大統領選挙で米国が関心をそらすと考えている」とし、いわゆる九段線の内側はすべて自国の領有との主張を通す絶好の機会と見ているとシアラーは述べた。延長1,000マイル超で中国本土から伸びる九段線を中国政府は歴史上の経緯があり、70年間以上にわたり主張してきたとする。
  3. USSジョン・C・ステニス(CVN-74)、USSロナルド・レーガン(CVN-76)の二隻の空母を中心とする打撃群ふたつが問題の地点に近い場所に展開していることが重要と指摘したのはエイミー・シアライト(CSIS東南アジア研究部長)で、もし中国がスカボロー礁の埋め立て工事と軍事拠点化を先に進めれば同地点が今回の仲裁裁定の争点そのものであることもあり「簡単な解決方法はない」と見ている。同礁はマニラから200マイル未満の近さにあり、最も豊かな漁場でもある。中国海軍は同礁を2013年に実力占拠している。
  4. 「同地の持つ意味は大きい」は中国だけでなく、米国やアジア太平洋地域全体二も同様だと指摘する。シアライトは元国防総省勤務でスカボロー礁の軍事拠点化で中国は「戦略三角形」の基地設営を完成し、「兵力投射能力が大幅に上がる」という。
  5. スカボロー礁に空軍基地ができると中国は防空識別圏を設定し、海上交通も南シナ海ほぼ全域で管制するようになると述べたのはCSIS東南アジア研究部門で顧問を務めるアーネスト・バウアーだ。では米国、日本、韓国などに加え欧州の同盟各国や東南アジア連合内の協力国各国が中国が裁定結果を受け付けない場合にどう対応するかはまだ見えてこない。
  6. 中国はフィリピンとの二国間協議にこだわり、ヘイグの裁判所の権限そのものを認めていない。フィリピンでは政権が交代し、新大統領ロドリゴ・デュアルテが中国との交渉に動くか不明だ。
  7. 「ASEANはバランスを重視する」と日本が1970年代に太平洋で台頭し始めた際に敷衍しながらバウアーは述べた。先週ASEANは裁定結果が出た場合に中国に国際法順守を求める内容の声明文原案を採択しなかった。
  8. 「中国を孤立化させようと誰も考えていない。面子を守ることが重要だ」とバウアーは述べている。アシュトン・カーター国防長官はこの地域を訪れた際に「中国は孤立化の長城を築いている」と発言し自分の主張を経済的外交的軍事的にインド太平洋で押し付ける中国を批判した。
  9. シアラーはASEANへは期待できずかわりに法の支配はいかなる場所でも有効、とする内容で米国は各国と協議のうえ「二国間声明」を出すことに重みを置くべきと主張した。
  10. また不法占拠との裁定結果が出た場合に「米国他は即座に支持を」裁定結果に示し、航行の自由原則が国際公海で有効と主張すべきともシアラーは発言。
  11. またシアラーは選挙後の米新政権および新上院の面々は国連海洋法条約を再考し米国の進める法の支配原則による海上対立を解決すべきと提言した。上院では条約批准に必要な三分の二賛成が得られず、過去数回にわたる大統領府からの批准への訴えを退け、米海軍含む広範な支援も得ていない。

John Grady

本記事の著者ジョン・グレイディはNavy Timesの前編集主幹で米陸軍協会の広報部長も務めている。国防及び国家安全保障分野での報道をBreaking Defense、GovExec.com, NextGov.com、DefenseOne.com、Government Executive、USNI Newsに寄稿している。

2016年6月21日火曜日

オーランド大量殺人事件後にISIS作戦をどう進めるべきか



 The Global War on ISIS After Orlando

Image: “An Iraqi School of Infantry instructor instructs an Iraqi soldier from 2nd Brigade, 7th Iraqi Army Division on how to fire a Pulemyot Kalashnikov Machine Gun (PKM) in the Iraqi School of Infantry at Al Asad, Iraq, March 19. (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Shane S. Keller)”
“An Iraqi School of Infantry instructor instructs an Iraqi soldier from 2nd Brigade, 7th Iraqi Army Division on how to fire a Pulemyot Kalashnikov Machine Gun (PKM) in the Iraqi School of Infantry at Al Asad, Iraq, March 19. (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Shane S. Keller)”


今こそ戦いを熾烈かつ賢く進めるべき時だ。

June 16, 2016

フロリダ州オーランドで6月12日発生した悲劇を受けて、米国は全世界でISIS打倒を進める総合戦略の重圧をかけるべきだが、今後発生する攻撃をすべて確実に予防できないのは確かである。ISISは成功事例を新たな戦闘員の勧誘に利用してきた実績があり、英雄的行為と持ち上げ関心を引く傾向でも知られている。アメリカは封じ込め戦略あるいは無視を決め込む戦略ではISISの崩壊は期待できず、今回の事態を受けてこちら側の力を結集して強力な敵の脅威に国家として挑むべきなのである。
ISISが米国で能力以上の成果を上げている、あるいは犯人オマール・マティーンはISIS戦闘員以上に精神を病んでいるという向きがあり、イラクやシリアで米軍はじめ連合軍が着実に成果を示していることからISISが早期に崩壊すると見る向きもある。いずれも説得力はない。マティーン容疑者が米国史上最悪の単独犯だとしても別の犯行が簡単に繰り返されるはずで、射撃訓練を受けAR-15のような武器を入手すればいいだけの話だ。マティーンは精神を病んでいたのだろうが、同時にISISに刺激を受けた勢力に動かされ、憎悪の教えをそのまま受け止め、イスラム教を曲解して大量殺人を正当化したといえる。おそらく同様の事件は再発するだろう。

イラク軍、米および連合国の空軍力、クルド人戦闘部隊、スンニ派部族やシーア派はイラクで40パーセント、シリアでも20パーセントの領土をISISから奪回している。ISISはこの二国での収入源の半分を失っただろう。だがラッカ、モスルの二大都市はまだISISの手にある。また一昨年からISISはシナイ半島からリビアまで活動範囲を広げ、拠点をアゼルバイジャンからアフガニスタンにまで設け、さらに東南アジアも視野に入れ、ナイジェリアではボコハラム運動と連携している。打倒は可能だろうが、簡単ではないし完全に消滅しないだろう。

オバマ大統領の主導で66カ国の有志連合がISIS対抗勢力として生まれ次の五つの戦略方針を2014年以来維持している。
--軍事作戦
-- 外国人戦闘員対策
--財政対策
--逆宣伝活動
--地域内安定の実現

イラクとシリアで成果も生まれており、両国への外国人戦闘員の流入は今年は大幅に減っている。ただし一部がリビアに流れているのは残念だ。だがリビアでも新しく生まれた連立政権がISISをスルトから放逐しつつあるとの朗報がある。
つまり一部作戦で停滞が見られるものの再強化に時間を使っているといえる。国別状況は以下の通りだ。

イラク 政府軍が突破口を開きつつあるが、平和回復には時間がかかり、最大の懸念はモスルをISISから奪還しても有効に統治できるかだ。イラク政府には米国の力を増強して平和と安定を実現できる勢力を作る必要があり、ISISに似た集団の出現は早期に刈り取る必要がある。このため援助を拡大し、米国の支援内容を強化する必要があるが、イラクが石油でどれけ収入を得られるかにかかってくる。ただし原油価格の低下傾向がどこまで続くかも考慮すべき要素だ。

シリア 当地の政治戦略は完璧とは言えない。平和交渉は停滞し、アサド大統領が盛り返しているのはロシアの支援があるからだ。こちら側は政治目標の水準をを下げるべきだ。連合のしくみで少数集団の保護を図るのが成功のめやすとして妥当だろう。クルド人のみならずアラブ中道集団も援助していくべきである。また援助対象の基準を緩和しつつ米軍による訓練や装備提供を増強する。安全地帯を爆撃するシリア政府軍機への報復行動は有効策だろう。

リビア 連立政権がこれから生まれる想定の中、西側は大幅な援助とリビア軍向け訓練の体制を今から準備しておくべきで、ISISが占拠したままの中部沿岸地方を奪還する。

ナイジェリア ムハマドゥ・ブハリ大統領の汚職対策が効果を示しつつある中、今こそ米国の援助を拡大すべきで、ナイジェリアの要請が前提だが、小規模顧問団を送り、同国陸軍のボコハラム戦を手助けすべきだ。

アフガニスタン オバマ大統領は米軍削減をこれ以上行うべきではない。現地指揮官には柔軟に指揮命令権限を与えタリバンへの空爆を進めるべきだ。

米本土 ISISは三つの頭を持つ怪物だ。胴体はイラク・シリアにあり、その周辺各地がある一方で、グローバルネットワークで各地を結んでいる。このネットワーク対策を国内外で強化すべきだ。このネットワークから国内襲撃事件が発生するからだ。このためFBIは疑わしい国内テロリストや武器の所在を的確に捜査すべきだ。海外でもISISのグローバルネットワークを容赦なく遮断する。ここで米国が対ISISグローバル連合でリーダーシップを迅速に発揮する必要ある。スマートフォンの暗号化技術のため捜査が困難になっているが、ネットワーク監視を強化し執拗に捜査すれば司法機能と情報機関の融合につながり、容疑者へ迅速に対応し犯行の未然防止が可能なはずだ。ニューヨーク、ロンドン、また最近パリでこの方法の実施が見られるが、まだ一般化されていない。実施のためには一層強いリーダーシップがアメリカに必要になるだろう。

各対策は大規模にならず、組み合わせて実施しても同様だが、米側は人員数千名規模を追加する必要があり、少なくとも数十億ドルの年間追加予算が必要となる。ISISの三つの頭をそれぞれ攻撃し徹底的に撃つべきだ。これまでのISIS対策はそこそこの成果しか出ていないが、今こそ大幅に活動を強化し次の大惨事を招く攻撃を事前に防止すべき時なのだ。

本記事の著者ジョン・アレンとマイケル・オハンロンはともにブルッキングス研究所の上席研究員。


★なかなか進まないPAK-FA事業のネックは高性能エンジンだ




Russia's New PAK-FA Stealth Fighter Might Have a Fatal Flaw (or Two)

Creative Commons.
June 17, 2016

合同航空機製造企業UACのスホイT-50 PAK-FA第五世代ステルス戦闘機が量産に向け準備中とロシア報道が伝えている。試作第八号機はロシア当局の要求内容に沿った形で完成しており、6月20日初飛行の予定だ。
  1. 「八号機は最初からシステム、装備が完全で仕様を満たしており、このまま第一線の防空任務に投入できる」との防衛筋の発言がロシア語日刊紙イズベスチアに掲載されている。「T-50は実戦投入段階に到達し大量生産の準備が整えばロシア航空宇宙軍での活躍が期待される」
  2. 現在ロシア極東部にあるコムソモルスク・オン・アムル航空機製造協同企業でさらに四機のT-50が最終組み立て工程にある。通算九号機が9月にフライトテスト機材に加わる。だがフライトテストが完了していないのにUACはロシア航空宇宙軍から契約交付を期待しており、今年秋にも量産を開始したいとしているとイズヴェスチア記事が伝えている。機体納入は2017年に始まる予定だ。
  3. ロシア国防省はまず10数機の調達を考えており、ロシア航空宇宙軍が運用テストに投入する。その結果で追加調達を決める。ロシア情報筋によれば軍部内でT-50が金額に見合った機体なのか論争があるという。さらにロシア経済の不振のためロシア航空宇宙軍は当面は調達に走らず静観すると見られる。
  4. ロシア航空宇宙軍を悩ませるのはエンジンだ。T-50はサトゥルンのイズデリエ117エンジン(別名AL-41F1)を二基搭載し、アフターバーナー使用時に31,967lb (142kN)の推力を生む。同エンジンはAL-31FP(Su-27やSu-30フランカー各型に搭載)を元にした高価格エンジンで、もともとSu-35の最新版S型フランカーE向けに開発されたものだ。
  5. AL-41F1はフランカーE用に最適化されており、第五世代戦闘機には不十分と判明している。ロシア筋によればAL-41F1は超音速飛行を持続する推力を実現しているが、ロシア航空宇宙軍の求める推力重力比や燃料消費率水準に達していないという。
  6. しかし、AL-41F1はあくまで当面の解決策でしかない。サトゥルンは40,000lbs級のエンジン開発に取り組んでおり、これをイズデリエ30と呼称し、新型戦闘機用の決定版エンジンとしたい考えだ。だが開発には課題が残っている。イズヴェスチアはT-50に新型エンジン搭載のは2025年ないし2027年と伝えている。開発を妨げているのはロシアに旧ソ連時代から続く資金不足で技術開発が十分に行えない状況だ。
  7. エンジン開発は技術的に複雑度が一番高く、特に戦闘機用となれば難易度が高い。米国もグラマンF-14トムキャットやマクダネル・ダグラス(現ボーイング)F-15イーグルで1970年代に苦労している。当時ペンタゴンはF119エンジンとジェネラルエレクトリックYF120エンジンも代替策としてロッキード・マーティンF-22ラプターに先行して開発させている。
  8. だが成熟度が高いエンジン設計でも想定外の用途に投入すると初期段階で問題を発生する。プラット&ホイットニーF135が例で、F-22で完璧に作動しているF119が原型だが、ロッキード・マーティンF-35共用打撃戦闘機に搭載したところアフターバーナーの異音問題であり、タービンブレイドがケーシングと摩擦して機体喪失が一件発生している。

Dave Majumdar is the defense editor for the National Interest. You can follow him on Twitter: @davemajumdar.


韓国へISISテロ攻撃の可能性浮上、警備体制を厳重にしています


不穏な情勢が韓国で何も発生しないことを祈るばかりです。

S. Korea beefs up security after Islamic State threatens US bases

Stars and Stripes
Published: June 20, 2016


SEOUL, South Korea — 韓国政府は在韓米軍基地及び韓国一般市民がテロ攻撃を受ける脅威があるとし警備体制の強化を6月20日発表した。イスラム国に近い筋が韓国内の基地等を襲撃リストに載せているためと言われる。
  1. 懸念の浮上は週末のことでイスラム国が世界各国で合計77か所の米空軍、NATO軍基地の攻撃を想定し、韓国ではオサン、クンサンの両空軍基地がリストに入っていると韓国情報機関から発言があったためだ。また福祉機関に働く韓国人一名もリストにあると情報筋は述べている。
  2. 韓国は仇敵北朝鮮に加え新しい脅威が加わることになった。韓国・北朝鮮は1953年の休戦協定で戦闘は終わったものの戦争は終結しておらず、米軍はおよそ28,500名を韓国に駐留させている。
  3. 韓国国家情報院NISの発表では「韓国一般市民や国内の外国人がテロ攻撃対象になるのが現実味を帯びてきた」とある。
  4. 同機関が参照したのは今月初めにISIS寄りのハッカー集団ユナイテッド・サイバー・カリフェイトが公表したいわゆる殺人リストのことで、氏名、住所、電子メールアドレスおよそ8千名分を掲載している。リストではどういう基準で選ばれたのかは不明だ。
  5. 同グループは世界各地の米空軍基地の衛星写真も公表したが、同じ写真がグーグルアースで入手可能と6月8日に同リストの存在を報じた報道技術企業Vocativは指摘している。
  6. NISによれば在韓米軍、韓国軍及び警察当局に警備を厳重にするよう伝え、言及のあった施設では警護を固めるよう要請した。
  7. 在韓米軍からは各施設の保安態勢を重視し朝鮮半島の安全に対し最大限の配慮をしているとの発表があった。
  8. 「警戒を怠らず通常の体制で韓国とともに対応していく。脅威事象発生の場合は直ちに対応する準備ができている」.
  9. 韓国首相黄教安 Hwang Kyo-ahn が20日、韓国政府はテロ攻撃を未然に防ぐ体制にあると述べたと聯合ニュースが伝えている。首相は国内の対テロセンターが捜査対象を広げ、国民一般に被害が及ばないようすべての対策をとっているとも述べている。
  10. 「イラク・シリアのイスラム国は次の攻撃目標に韓国を昨年9月以来加えています」と首相は発言したといわれる。■

★中国の新型大型輸送機Y-20の引き渡しが始まった(らしい)



米軍が運用するC-17でも230機あまりで、中国がなぜ1,000機も新型輸送機を必要とするのかよくわかりません。中国流の大げさなものの言い方なのか、旧型機の置き換えなのか、それとももっととんでもないことを考えているのかもしれません。これだけの規模の量産が実現するかも見ものですね。

 PLAAF reportedly receives first Y-20 airlifter

Gareth Jennings, London - IHS Jane's Defence Weekly
17 June 2016

試作型のY-20のテスト飛行の様子。このたび作戦運用機材の納入があったと伝えられる。. Source: Chinese Internet

人民解放軍空軍(PLAAF)が西安航空機(XAC)のY-20大型戦略輸送機の初号機を受領したとの報道が出ている。PLAAFは同機を1,000機発注している。
中国国内ソーシャルメディアが機体番号11051と11052を成都邛崍市(キョウライ)の空軍基地で受領したとされるが、公式発表はない。
今年初めには五号機が初飛行し、テストパイロットが2015年末に開発テスト段階を終えたと発言したとの報道があった。
中国国営メディアはPLAAFにはY-20が1,000機必要と報道した。(2014年の400機から上方修正)
機体性能の公式発表はないが、国営通信ではターボファン4発のY-20のペイロードは66トンで、5,200Km飛行の場合は51トンとしている。空中給油装置はついていないようだ。
Y-20の設計ではロシアとウクライナのアントノフ技術陣が援助したことが知られる。外観はアントノフAn-70とターボプロップを除けば酷似している。またボーイングC-17グローブマスターIIIとも類似性が見られる。この背景に産業スパイ活動があるのかもしれないが、単に同じ目標を同様の技術で達成しようとした結果なのかは不明。■



2016年6月20日月曜日

★歴史に残る機体② CF-105アヴロ・アロー



歴史に残る機体シリーズの今回はアヴロ・アローです。カナダ独特の事情で想定した大型戦闘機が5機魔で完成しながら首相の鶴の一声で開発中止となり、機体はおろか図面、治工具まですべて廃棄されたのはどうしてなのか、今でも憶測が流れていますが、カナダ航空宇宙産業の終焉となったのは事実です。

 Avro Arrow: Could Canada's Cold War Super Jet Have Dominated the Sky?


June 17, 2016 

1950年代初頭のこと、カナダ政府は新型高速迎撃戦闘機の発注を準備していた。ジェット推進技術が飛躍的に進歩しカナダでも第一世代、第二世代の迎撃機各種が老朽化していた。広大な同国の空域をパトロールするため王立カナダ空軍には新型機の必要を痛感していた。
  1. アヴロ・カナダがCF-105アヴロ・アロー高性能迎撃機を最先端技術で提案した。大型で美しい外観のアローでカナダ領空は数十年にわたり防衛でき、同時にカナダ国内航空産業の存続も期待できた。
  2. だがそうならない運命だった。技術変革、政治情勢と国防重要事業の順位変動でCF-105は実現の目をふさがれた。同時にカナダの国防航空産業も芽を摘まれた。とはいえアヴロ・アローの名はその後長く残っている。
迎撃戦闘機として
  1. アローはB-58ハスラーやMiG-21フィッシュベッドと同様の技術と知識から生まれた機体だ。1950年代初頭は機体構造やエンジン技術で大きな進展があり、性能も飛躍的に伸びた時代だ。その反面変化も激しく1950年代初頭に生まれた機体は同じ50年代末に旧式化している。
  2. ソ連が長距離航空兵力を整備したことが戦略上の背景にある。1940年代のソ連は戦略爆撃機の第一世代をTu-4(米B-29のコピー)で整備した。その後登場したソ連爆撃機は高速かつ高高度飛行が可能となり、カナダ領空を横断し米国を標的にした。カナダ迎撃戦闘機隊には1950年代初頭にCF-100カナックがあったがソ連爆撃機迎撃は期待できなかった。
  3. そこでCF-105アヴロ・アローが登場する。アローのミッション内容はその後に登場したMiG-25フォックスバットと同様だ。高高度を飛行するソ連爆撃機がカナダ領空に侵入次第捕捉し撃墜することだ。初期テストではアローはこれが可能と判定されていた。オレンダ・イロコイエンジン双発(まだ開発中だった)でマッハ2を維持できるはずだった。また長距離空対空ミサイル3発から8発を搭載し、核弾頭付き対空ロケット弾も装備するはずだった。すべての点でアローは同時期のコンベアーF-106デルタダートと類似していたといってよい。
  1. 興味深いことに今日のF-35と同様にカナダは試作機を作らない方針をとり、機材導入後に設計変更を反映させることにしていた。50年経過しておなじ考え方がF-35の「並列進行」方式として見られ、今日ではコンピューターシミュレーションやテストで機体を早く飛行可能にできるはずだ。
  2. だが初期フライトテストを終えて生産開始を期待した時点でアローは戦略的な問題に遭遇する。まず地対空ミサイルSAMの登場で戦略爆撃機の高高度飛行は実施困難となり、低空飛行に切り替えるあるいは長距離巡航ミサイルの登場が急がれた。突如として高速迎撃機を中心にした防空体制は高価格低効果の存在になってしまった。世界各地で迎撃機は主役の座を降りた。二番目に大陸間弾道ミサイルの開発(アヴロがアローを公表したのはスプートニクが宇宙飛行をしたのと同日)でカナダ本土防衛の十分な実施は不可能となってしまった。
  3. 英米両国は高速迎撃戦闘機に未来はないと早々に判断し、機材開発を取り消している。(ただしF-106はその後も供用を続けた) カナダも追随し1959年2月20日にアロー開発を中止した。この決定はカナダ国内の防衛航空産業に大きな打撃となり、アヴロ・カナダは三年して事業を終了し(ホーカー・シドレーが残存部分を継承)オレンダエンジンは直ちに開発中止となった。 
  4. CF-105のかわりにRCAFはセンチュリーシリーズ戦闘機各種を米国から導入した。F-104スターファイター(カナダでの事故損耗率46%)、CF-101ヴードゥー(アロー取り消しより大きな論争を巻き起こした)である。このうちヴードゥーは迎撃機性能でアローをことごとく下回っていた。
  5. アローの死はカナダの三軍統合につながった。キューバミサイル危機で露呈した文官統制と予算不足が原因と言われるが、1950年代の各軍の対立(陸軍と海軍はアロー導入に強く反対していた)が実は大きな原因だ。さらにカナダ国内軍用航空機産業の消滅でカナダ空軍は強い支持勢力を失った。
今も残る伝説
  1. だがアローの伝説は開発取り消しとともに消えたわけではない。同機中止と同時に試作機は生産用の治工具類もろとも廃棄され、原因をめぐり陰謀論も出現した。多くは米国に理由があるとし、米政府が悪辣な影響力でアローを中止させ米国企業の競争相手の出現を防止したとする。
  2. 今日に至るまでCF-105伝説はカナダ航空愛好家の間では熱烈に信じられている。一部には試作機が一機だけ破壊を免れて現存しておりいつの日か公開されると信じる者もある。2012年には本気かどうか不明だがカナダ政府はトラブル続きのF-35に変わりアローを再開発すべきと主張する評論家もあらわれた。カナダ政府はこの提案を即座に否定した。とはいえカナダ国民はアローの特徴ある機体形状に愛着を感じ、2015年には空港保安検査でCF-105のダイカストモデルが筆者の荷物カバンからx線検査で見つかったほどだ。
  3. アローはフォックスバットと同様の機体になっていただろう。フォックスバットの登場の前に。迎撃機として超高性能だが制空戦闘機としては大きな欠点があったはずだ。技術進歩でアローの飛行速度はさらに上がっていただろうがフォックスバットの域には達しなかったはずだ。だが機体設計には多くの問題が第二世代、第三世代戦闘機共通の課題として残っていた。フォックスバットやF-106と同様にアローを攻撃任務に投入すると大変だっただろう。1970年代には多用途戦闘機が急速に台頭してきたが、アローは持て余す存在になっていただろう。

この記事の著者ロバート・ファーリーはNational Interestへの寄稿も多く、著書にはThe Battleship Bookがある。ケンタッキー大学パターソンスクール(外交・国際商業)で講師を務めている。その他研究成果には軍事政策、国家安全保障や海事問題を扱っている。Lawyers, Guns and MoneyInformation Dissemination、theDiplomat でブログを公開している
Image: Wikimedia Commons/Dennis Jarvis.