2022年3月10日木曜日

ウクライナへの戦闘機供与案が不調。米軍経由で機材提供のポーランド構想をペンタゴンが拒否したため。これはどうなのか。

 A Polish MiG-29 Fulcrum fighter jet.

OLEG V. BELYAKOV/AIRTEAMIMAGES VIA WIKIMEDIA

 

 

旧ソ連機材ならウクライナで即戦力になるとの触れ込みで供用中のNATO加盟国からウクライナ壁材を提供する構想が浮上したものの、実施を検討したら、米国が腰砕けになった格好です。ペンタゴンは戦闘機より対空ミサイルを供与するほうが効果がすぐ出るという考えなのでしょうか。

 

ンタゴンはポーランド空軍所属のMiG-29フルクラム戦闘機を米国に移管してからウクライナへ供与する案を公式に却下した。国防総省報道官ジャック・カービーによれば機材を移せばロシアの報復を招く深刻な事態になりかねず、ウクライナ空軍には地上配備防空装備を追加送付したほうが効果が大きいと述べた。

 

 

カービーが触れたのはポーランド政府による提案で残る28機のMIG-29を米国経由でウクライナへ供与する構想のことだ。同構想は昨日急浮上したもので、米関係者も虚をつかれた格好だった。ポーランド外務省は構想についてフルクラムをいったん米空軍のラムステイン基地(ドイツ)に移動させ、米側は同数の中古機をポーランドが取得するのを助けるものと説明していた。EUで戦闘機の追加がウクライナに必要との発言が出て二週間がたってこの進展だ。

 

カービー報道官は「この時点で戦闘機をウクライナ空軍へ移管する案は支持できない。そのためポーランド機を米国が受領するつもりもない」としつつもポーランドのNATOへの貢献ぶりを称賛し、ウクライナへ同奥が軍事含む援助を提供していることに触れた。

 

「ウクライナの防衛の支援策でベストな方法は軍事装備品等ロシアを敗退させる手段の提供だ」「とくに対装甲、対航空機装備がある。米国は他国とともにこうした装備品を今後も提供する。効果がすでに生まれていると判明している」

 

カービー報道官はウクライナ軍の地上配備防衛装備として肩載せ地対空ミサイル(MANPADS)がロシア軍機に大きな効果を発揮していると付け加えた。

 

さらに、「ウクライナ空軍には飛行隊数個が残っており、完全に任務を遂行できる機材もある」とし、「ウクライナに航空機を追加してもウクライナ空軍の対ロシア戦力が大きく向上しそうにない。そのため、MiG-29機材を移譲しても効果は低いと評価した」

 

「情報機関の評価ではMiG-29をウクライナへ移管するとエスカレーションの危険が増え、ロシア側が過剰反応してNATOとの軍事対決に発展しかねないとある」とカービー報道官は「したがって、MiG-29をウクライナへ移管すればリスクが高くなると評価した」と述べた。

 

後半の発言が要注意だ。国務長官アントニー・ブリンケンの発言とまっこうからぶつかる。国務長官は先週末にポーランド軍MiG-29をウクライナへ移管すると発言していた。「進めてよいことになった」と長官はCBS News報道番組「Face The Nation」で米政府がクレムリンがNATOによる動きのエスカレーションと見る恐れから構想に反対するのではとの質問に答えるかたちで発言していた。リスク評価がいつ変わったのかは不明だ。

 

米議会の議員数名に戦闘機他軍用機のウクライナ移譲を公然と支持する動きがあった。また、バイデン大統領に提案の実現を働きかけていた。

 

カービー報道官はポーランド構想を完全に葬るつもりはないとした上で、その他国からMiG-29など軍用機をウクライナ空軍に米政府を関与させず移譲する想定に触れた。同報道官は主権国家には独自の政策判断を実施に移す権利があると述べた。

 

ただし、ポーランド政府関係者から本日早く単独でウクライナへ戦闘機材を送るのはリスクが高く、このため米政府を経由する形で機材をNATOの意思で譲渡したいと考えたとの説明が出た。さらにポーランド外務省からその他NATO加盟国に対し同様の動きで機材をウクライナに供与すべきだとの呼びかけがあった。この発言はこれまで検討対象となっていた。スロバキアのMiG-29、ブルガリアのフルクラムおよびSu-25フロッグフット対地攻撃機のウクライナ供与を指している。

 

ただし、ポーランド政府がMiG-29機のウクライナ移譲を繰り返し公式否定していたことを記憶しておく必要がある。スロバキア、ブルガリア両国からは自国機材を販売あるいは寄贈する意図はないとの発言が出ている。

 

可能性は遠のくばかりのように見えるが、ポーランド、スロバキア、ブルガリアあるいは他の国が戦闘機材をウクライナへ提供する案を検討しているのはたしかだ。カービー報道官は想定する戦闘機がウクライナのニーズに合うものかで疑問もあると述べている。

 

いずれにせよ、少なくとも今は米政府はウクライナへの戦闘用機材の提供は支持しない決定をしたようだ。■

 

Poland's "High Risk" Plan To Transfer MiG-29s To Ukraine Shot Down By US

The Pentagon says there are better ways to bolster Ukraine's air defenses that are less likely to provoke a Russian response.

BY JOSEPH TREVITHICK MARCH 9, 2022

 


メディアチェック。ウクライナ支援に飛び立ったKC-767をめぐり、信頼できる国内メディアが明らかになった。

 恒例の(?)メディアチェックです。

ウクライナへの自衛隊機出発を伝える報道内容を見てみました。予想外というべきか、14機関中5つが正しい表記をしていたのは、小うるさい当ブログの影響でしょうか(笑)。 一方で相変わらず通信社系が誤った表記で配信しており、機種名を明かさない記事も散見されました。「真実」を伝えるメディア各位にはしっかり責任を果たしてもらいたいものです。縦書き印刷などの言い訳は通用しませんよ。読者のみなさんも注意の上、信頼できるメディアを選んでください。


航空自衛隊


  1. 読売新聞オンライン KC767

  2. TBS News KC-767

  3. NHK web 機種名を示さず

  4. Yahoo News KC-767

  5. FNNプライムオンライン KC-767

  6. khb東日本放送 KC-767

  7. 共同通信47 News KC767エキサイト KC-767

  8. 毎日新聞 輸送機

  9. nippon.com KC767

  10. 水戸経済新聞=時事通信 KC767

  11. 朝日新聞DIGITAL 空自機

  12. 日経 自衛隊機

  13. 日テレNEWS 自衛隊機

  14. テレビ朝日 KC−767

その他の例があればご教示ください。




主張 中国がロシアにならい台湾侵攻を実行すればロシアと同じ過ちを繰り返す結果になる。中国はロシアの愚かさから教訓を得るだろう。

 

 

 

Ukraine

 

中国は台湾制圧に成功するだろうが、ウクライナでのロシア同様に代償は報酬より高くなる。

 

 

 

 

中国にとってウクライナ侵攻の教訓とは実行は想定より困難になること

ロシアによるウクライナ侵攻は、中国が台湾の奪取のきっかけになるとの議論がある。台湾とウクライナは確かに地政学的に似た位置にある。ともに好戦的で独裁的な隣国から反体制的な領土として扱われている。ともに米国や他の民主主義国に助けを求めているが、各国との正式な同盟関係はない。

 

さらに、両国へ民主主義世界は「戦略的あいまいさ」を示している。ともに民主主義国が助けてくれると確信が持てない。曖昧さが、中国やロシアによる直接的な介入を思いとどまらせるという論理である。しかし同時に、民主主義諸国は、ウクライナと台湾において、強固な国家能力と軍事能力を開発させ、自衛能力を高めることで、ロシアや中国の攻撃を抑止できると期待してきた。

 

抑止力がウクライナで失敗したのは明らかだ。並行してウクライナの失敗に触発され、台湾でも失敗することが懸念される。つまり、ロシアの攻撃から、核兵器によって外部からの軍事介入を排除すれば、自分たちも攻撃できると中国は学ぶだろう。中国メディアによれば、現在の中国メディアはウクライナ戦争を曖昧に伝えている。

 

しかし、実戦の経過から実践的な別の教訓が導かれる。

 

愛国心ある国民が動員され戦う

ロシアがウクライナに勝つ、あるいは中国が台湾に勝つという仮定には、非対称性が根源にある。過去10年間、巨費を投じて近代化を進めてきたロシア軍の規模と技術は、弱く、軍備も中規模の中堅国家を凌駕し、打ち負かすはずだ。プーチンはまさにそれを期待していたようだ。プーチンは電撃作戦、つまり親ロシアかいらい勢力を素早く樹立し、その後迅速撤退するつもりだったようだ。

 

しかし、プーチンの立ちはだかったのは、獰猛な民族主義者の抵抗と奮起を促すリーダーシップの壁だった。ロシア軍は苦戦を強いられ、現在は長距離砲撃に頼っているため、一般市民多数が必然的に死亡し、泥を塗っている。ウクライナ軍は、勝ち目が低いにもかかわらず、粘り強い勇気で世界を魅了している。その情報作戦は見事というしかない。大統領は有名人になった。その大統領が民主的に選出されたことは、国民の正統性と支持を得ていることにほかならない。ウクライナの戦いを支援するグローバルな取り組みが始まっている。

 

台湾でもこうしたことがほぼ間違いなく適用される。

 

閉鎖的な独裁国家の腐敗した軍隊は、お粗末な戦いぶりを示す

 

ロシア軍の戦術作戦の低さは衝撃的であった。特にキエフへの北方攻撃では低い士気と低劣な兵站を露呈した。原因の多くは、ロシア軍の腐敗にある。強力な軍隊でありながら、燃料や弾薬が不足したり、整備不良や装備不足で車両が故障したり、車両を放棄したり、傭兵に依存する傾向が強まっている。

 

ここでも中国と類似点が目を引く。中国にも腐敗が蔓延している。中国軍はかつてよりはクリーンというものの、人民解放軍は、第三世界の軍隊によく見られるように、経済活動に関与している。ロシアが証明するように、見栄えの良い近代化に多額の費用をかけるのは、戦力投射の兵站を備えた専門化した軍隊より価値がはるかに低い。中国の場合、十分な兵力を台湾に上陸させるには、1944年のD-Day以来最も複雑な水陸両用作戦を実施する必要があり、ウクライナ以上に機能的な兵站が重要となる。

 

大規模な制裁措置の反動

最後に、民主主義諸国は激しく反発している。ロシアへの制裁網は驚くべき速さで拡大中だ。ロシアはSWIFTシステムへアクセスを制限され、西側の石油市場を失う可能性があり、通貨は下落し、資本逃避が加速している。プーチン大統領は戦争に勝つとしても、大損害の割に得るものが少ない勝利となるだろう。

 

ロシアは世界経済から孤立し、おそらくプーチンが権力の座から降りるまで、状態が続くだろう。ロシアの経済成長は10年以上遅れる。人的資本の逃避が加速し、資源と技術を持つロシア人が国外に流出する。外国技術にアクセスできなくなる。ロシアは天然資源輸出への依存度をさらに高める。そして、プーチンは、唯一残された大口購入者である中国が、厳しい価格を要求してくるのを目にする。プーチン自身は二度と国外に出られなくなり、戦争犯罪の訴追を受ける可能性さえある。

 

中国が台湾を攻撃した場合、同じ可能性がありそうだ。中国はおそらく勝つだろう。中国軍は、勝つために必要であれば、現在のウクライナ同様に島を砲撃し服従させることが可能だ。しかし、その結果、中国は世界経済から切り離される。ロシア同様に中国も成長を促進し、重要技術を得るため西側市場へのアクセスが必要だ。習近平国家主席は、中国をこうした市場から切り離し、自立した国にしようと努力しているが、いかんせん時間がかかる。新技術や資源が世界中に散在するグローバル経済において、中国が切り離されても成長率を維持できるかは不明だ。

 

その意味で、中国にとってウクライナは、台湾を奪う鈍器になりかねない。しかし、2週間にわたるロシアの失態と、世界経済からロシアが急速に疎外された後、より微妙な教訓を引き出す必要がある。中国は台湾を征服できるかもしれないが、ウクライナでのロシアの惨事のようになれば、その代償は報酬よりはるかに高くつくはずだ。■

 

Russia's Disaster of a War in Ukraine Means China Won't Invade Taiwan? - 19FortyFive

 

ByRobert Kelly

 

Robert Kelly is a professor in the Department of Political Science at Pusan National University in South Korea and a 1945 Contributing Editor. Follow his work on his website or at Twitter.



2022年3月9日水曜日

イスラエルが世界初のF-35による空中標的撃墜事例を公表。対象はイラン無人機編隊。ただし、昨年3月に行っていた。今になって発表したのはイラン核交渉を横目ににらんでか。

 Israel F-35I Intercept Iran DroneIAF

スラエルのF-35Iステルス戦闘機が初の交戦でイラン無人機二機を撃墜したと同国が発表した。無人機はイスラエルに接近する途中で、撃墜は昨年のことという。F-35が空中で脅威対象を撃破したのは初めてで、イスラエルが同機運用を迅速に拡大する中での展開となった。同国では同機は「アディール」(強者)と呼ばれる。今回の事件は高額なハイエンド戦闘機やミサイル装備に対し低価格だが普及進む無人機の対照をあらためて浮き彫りにした結果となった。

イスラエル国防軍(IDF)からは映像も公開されており、無人機の一機が攻撃を受けている様子をF-35Iが撮影した。映像が同機の電子光学標的捕捉装備(EOTS)あるいはヘルメット装着のディスプレイで撮影されたものか不明だが、F-35が実戦に投入されたのを見るのは今回が初めてだ。

事件は昨年3月に発生していたが、IDFは昨日に詳細を発表した。その説明によれば、イスラエル空軍(IAF)のF-35I編隊がイラン無人機二機を迎撃し、「イスラエル到達前の」「イスラエルから遠隔地で」両機を撃墜したとある。

無人機の撃墜地点は不明だが、IDFでは迎撃は「周辺国との連携の下で行い、イスラエルへの無人機侵入を防いだ」としている。無人機編隊はイラクあるいはシリアに展開するイラン代理勢力が発進させ、ヨルダン上空を通過したのではないか。IDFは同様の事態が以前にもあったことを認めている。

報道を総合すると無人機2機はともにF-35Iに撃墜されたが、残る無人機は電子戦装備で撃墜された。無人機編隊は終始、イスラエルの地上部隊が追尾していた。

無人機はガザ回廊へ武器を運搬していたとIDFは発表し、パレスチナで活動するハマス集団への搬送を狙っていたとする。ハマスはイランの多大な支援を受けている。

IDF

IDF

IDF

IDFは撃墜した機体をシャヘドShahed-197としているが、これまで未知の機種名称だ。映像で分かる範囲ではシャヘド-161ファミリー全翼機無人装備と関係があるようだ。イランは米RQ-170センティネルをもとに同無人機を製造したといわれるが、機体は米製より相当小型でプロペラ推進であることが映像でわかる。

発表を受けて国防相ベニー・ガンツBenny Gantzは「イランの侵略はイラン国内あるいはイラン代理勢力を通じてを問わず、世界の平和や地域内安定への脅威であることをあらためて教えてくれる。当然ながらイスラエル国にも脅威である」との談話を発表した。

撃墜の二ヶ月後にイスラエルはGuardian of the Walls作戦を展開し、ガザ回廊のハマス拠点攻撃を行った。

他方で2018年2月にはシリア国内でイラン軍がイスラエルに向け武装無人機を発進させ、イスラエル首相ベンジャミン・ネタニヤフ他はこれを攻撃用途と認識し,IAFのAH-64アパッチヘリコプターにより撃墜したが、この際の反撃でIAFはF-16Iの1機が撃墜され、F-15にも損傷が発生した。

今になってF-35Iによる無人機撃墜を公表した意図は不明だが、ウィーンでのイラン核交渉と関連があるのかもしれない。交渉ではイラン向け制裁の解除が論点といわれる。

同時に、上記の事件や、イスラエルがらみの攻撃に無人装備が使用されている中で、イラン無人機の潜在的脅威が、最近より鮮明になっている。昨年7月にオマーン沖で発生した、リベリア船籍イスラエル運航のタンカー「M/T Mercer Street」への無人機による襲撃攻撃で死亡者が出たのも一例だ。米中央軍は、この攻撃に「イランが積極的に関与した」と断定した。

特に中東で、小型無人機の脅威が高まっている。しかし、域内の各軍が比較的低価格の無人機を標的にハイエンド装備を使用している状況が改めて注目されている。

サウジアラビアはこれまで、フーシ派が運用する無人機の脅威に対し、AIM-120高性能中距離空対空ミサイル(AMRAAM)で対処してきた。米空軍のAIM-120Cの調達単価は約100万ドルと予想され、それに加え航空機取得、メンテナンス、訓練、基本的なランニングコストなど、その他費用もある。昨年末には毎週10発近い弾道ミサイルや無人機による攻撃に直面していたサウジアラビアにとって相当の出費となる。

イスラエルのF-35Iがイランの無人機2機の撃墜にどの武器を使用したかは分からないが、同型機もAMRAAMと短距離ミサイルAIM-9Xサイドワインダーを装備しており、後者の米空軍調達価格は約47万5000ドルである。しかし、小型無人機の発する熱信号は限られるため、ような赤外線誘導ミサイルAIM-9では、AIM-120含むレーダー誘導兵器と比較して、撃墜の信頼性が低いと考えられる。

F-35Iについては、イスラエルでの戦闘記録に、空中戦での撃墜成功が追加された。この事件は、IAFが同ステルス機を地上攻撃だけでなく、空中交戦にも使用する意向を強めていることを示唆している。イスラエルはF-35の実用化で最前線に立っており、2018年5月には、攻撃作戦に同機を使用する初の国になったと発表している。

イスラエルはF-35Iを50機購入しており、さらに25機を追加する可能性がある。期待されていたF-15戦闘機の追加発注が実現しないため、F-35Iは今後数十年にわたりイスラエル航空戦力の最前線に立つことになりそうだ。国境を越え優先度の高いターゲットを攻撃できるユニークなステルス攻撃機としてだけでなく、昨年3月の事件で、ハイエンドの同機がイスラエル領を脅かす無人機の撃墜にも今後も動員されそうだ。■

Israel Shows The F-35's First Aerial Kill In Newly Declassified Video

The incident involved an Iranian flying-wing drone carrying small arms to Hamas fighters over a very long distance.

BY THOMAS NEWDICK MARCH 7, 2022

 


ウクライナ軍が予想外に奮戦している理由。国防に必要な要素は装備品だけではない。日本にも学ぶべき点が多い。

 



 

強力なロシア軍の前に数日で崩壊すると思われていたウクライナ軍がなぜ今も抵抗できているのか不思議に思う向きも多いのではないでしょうか。ウクライナ軍の改革と訓練、装備品の充実が事前にあったことを実際に支援に従事した米軍関係者が説明しています。今回は非営利ニュース論評サイトThe Conversationからのご紹介です。


広範な軍事改革の成果

2014年、ウクライナ軍を「老衰状態」と表現し、海軍は「残念な状態」とした国家安全保障アナリストがあらわれた。ウクライナ軍の元総司令官ヴィクトル・ムジェンコVictor Muzhenko大将は、「文字通り軍隊の廃墟」とまで言い切る始末だった。

 

 

しかし、それから8年後、2022年2月24日に始まったロシア侵攻でウクライナ軍は、規模が大きく、装備の整ったロシア軍に対し驚くほど強力に対応している。

 

ウクライナの堅固な抵抗は、大きな要因4つの結果だ。

 

最初の2つは、2016年にウクライナ政府が軍事改革に尽力したこと、ならびに欧米の援助と軍事装備数百万ドル相当だ。

 

3つ目の要因は、ウクライナ軍の考え方が大きく変化を遂げ、現場で下級指揮官が意思決定を行えるようになったことだ。それまでは、指揮官が下した命令を変更するには、上級指揮官の許可を得る必要があった。

 

最後の重要な要因は、間違いなくウクライナ人の間で起こった変化だ。つまり、軍に志願する国民文化が生まれた。その結果、軍事攻撃からの防衛に民間人を組織し、訓練する政府機関が創設された。

 

2016年から2018年にかけて、筆者はウクライナの防衛組織の改革を支援してきた。その間、2008年のロシア-ジョージア戦争を研究するため、ジョージアで現地調査も行った。その調査の結果、ウクライナ侵攻に用いられたロシアの戦術には、驚くべきものは皆無だと判明している。

 

驚くべきは、ウクライナ軍の戦果だ。

 

広範な国防改革

2014年、ウクライナ政府は国家安全保障と軍事防衛の包括的見直しに着手した。その結果、戦闘能力の低下に直結する問題が多数明らかになった。

 

サイバー攻撃に対応できない、医療提供の不備に至るまで多岐にわたった。汚職が横行し、部隊に給料が支払われず、基本的な物資は常に不足していた。補給活動と指揮統制も非効率的だった。

 

こうした欠点を改善するため、2016年に当時のペトロ・ポロシェンコ大統領は、指揮統制、立案、作戦、医療・兵站、5つのカテゴリーで部隊を専門的に育成させる抜本的な改革を指示した。

 

わずか4年での完了を目標に掲げた野心的な計画だった。ウクライナ軍は当時ドンバス地方でロシア分離主義勢力と戦っており、最高の環境での努力となった。

 

ロシアが侵攻してくるとの恐怖が、ウクライナ政府を動かし、改革を加速させた。改革はすべて完了していないものの、6年間で大きな進歩があった。

 

成果が、ロシア侵攻への対応に現れている。

 

米国の軍事援助

ウクライナ軍事改革を支援するため、米国は2014年のロシアによるクリミア不法併合とウクライナ東部の分離主義者支援の直後からウクライナへの資金援助を拡大した。

 

2014年、オバマ政権は291百万米ドル支援を行い、2021年末までに米国は訓練と装備で合計27億米ドルを提供した。

 

支援の一環として、米国はヤヴォリヴYavoriv軍事基地でウクライナ軍の訓練を支援した。同基地は短期間で大規模訓練センターとなり、2015年以降、毎年5個大隊が訓練を受けている。

 

2016年、ポロシェンコは米国、カナダ、英国、リトアニア、ドイツから上級軍事顧問を招き、2020年までにNATOの基準、規則、手順に到達するのを目標に、ウクライナ軍の近代化で助言を求めた。

 

重要なNATOの基準のひとつは、ウクライナが展開する際に、NATO部隊と後方支援を統合することだった。

 

欧米の支援には、ハンビー、無人機、スナイパーライフル、敵攻撃源を特定するレーダー、昼夜を問わず目標を確認するサーマルスコープなど、さまざまな武器や装備が含まれていた。

 

ウクライナ側が特に関心を示したのは、対戦車ミサイルの充実だった。2014年にロシアが分離主義者を支援し国境を越えT-90戦車を送り込んだとき、ウクライナの既存兵器ではT-90の装甲を貫通できなかった。

 

2017年、米国はジャベリン対戦車ミサイルをはじめてウクライナに提供した。

 

侵攻の恐れが切迫する中で、欧米諸国はリトアニアとラトビアからスティンガーミサイル、エストニアからジャベリン対戦車ミサイル、英国から対戦車ミサイルなど、武器・軍需品をウクライナに送った。

 

戦場での意思決定

2014年、ウクライナの軍事価値観では、中尉や大尉といった下級指揮者がリスクを取るのを抑制していた。意思決定できない下級指揮者は、いちいち行動の前に許可を得る必要があった。

 

最初の命令がもはや適切でなくなった、あるいは状況の変化に適合しなくなった場合に問題が起こる。現代戦のスピード、機動性、殺傷力を考えると、統制のとれた取り組みが成功と失敗の分かれ目となる。

 

2014年、ドンバス地方でロシア支援を受ける分離主義勢力およびロシア軍と戦っていたとき、ウクライナ軍は、小隊長や中隊長は、すべての動きについて上位司令部の承認を待つことが不可能とすぐに理解した。戦闘のスピードがあまりにも速すぎた。

 

新しい価値観の下で、ウクライナ軍は「目的は手段を正当化する」という新しい形で戦うようになった。プロセスよりも結果が重要だ。

こうした価値観の変化と、ドンバスでの8年間にわたる戦闘が相まって、即戦力となる新世代の指揮官が生まれた。

 

志願者を生む国

2014年、ロシア支援を受ける分離主義勢力と戦うため、ウクライナ全土から志願者がドンバスに集まった。あまりの数の多さに、志願兵大隊創設が必要になったほどだ。

 

しかし、訓練時間はほとんどなく、志願者は、不揃いの迷彩服を着て、急造部隊に放り込まれ、寄せ集めの武器で前線に送り出された。

 

しかし、この志願者部隊がウクライナ軍に動員時間を稼ぎ、ロシアのウクライナ侵入を防ぐため戦線の維持に貢献した。

 

志願兵問題を改善するため、ウクライナは法律を制定し、2022年1月1日に発効した。この法律により、軍の独立部門として「領土防衛軍」が設立された。

 

平時には職業軍人1万人を含み、12万人の予備役を旅団20に編成する。

 

ロシアは、この部隊が完全に発足する前に侵攻を開始したが、戦争が続く中で組織的な対応が生まれている。

 

ウクライナの決意

こうした改革とウクライナの抵抗にもかかわらず、ロシア戦力はウクライナを圧倒している。

 

ロシアへの防衛は困難な課題で、ウクライナ国民が過去8年間、そして今回の戦争の開始から何度も示している決意が今こそ必要だ。

 

ウクライナ人は誇り高く、愛国心が強く、国を守るため必要なら何でもする覚悟がある。■

 

In 2014, the 'decrepit' Ukrainian army hit the refresh button. Eight years later, it's paying off

Published: March 8, 2022 1.18pm GMT

by Liam Collins
Founding Director, Modern War Institute, United States Military Academy West Point

 


2022年3月8日火曜日

ウクライナ戦でロシア空軍が存在感を示せない理由を英軍事シンクタンクRUSIが分析。我々はロシア空軍力を過大評価していた。

 


Sukhoi Su-25SM3 of the VKS shot down in Ukraine. Credit: Ukrainian Ministry of Defence


ロシアがウクライナに侵攻し1週間以上経過したが、ロシア空軍はいまだに大規模作戦を展開していない。開戦直後の不活発さには要因がいろいろあったが、大規模航空作戦が行われないままなのは、深刻な問題があることを示している。

 

 

シアのウクライナ侵攻の初期段階で驚かされたことのひとつに、ロシア航空宇宙軍(VKS)の戦闘機・爆撃機隊が航空優勢を確立できず、ロシア地上軍の支援を展開できなかった点がある。侵攻の初日、巡航ミサイルと弾道ミサイルによる攻撃開始の後に、予想されていた大規模なロシア航空作戦はなかった。原因を分析したところ、地上の地対空ミサイル(SAM)のデコンフリクションに問題があった、精密誘導弾の不足、VKSの平均飛行時間が短く、地上作戦支援の精密打撃の専門知識を有するパイロットが不足していたことなどが指摘された。各要因は関連するが、侵攻が2週目に入っても、VKSの作戦が低調なのを説明できない。ロシアの高速ジェット機は、ウクライナの携帯型防空システム(MANPADS)や地上砲撃による損失を最小限に抑えるため、単機または二機で、低空で、主に夜間の限定的出撃に終始している。

 

筆者含むアナリストは、2010年以降のロシア戦闘航空装備の近代化に目を奪われる傾向がある。特に顕著なのは、VKSが10年で最新鋭機約350機を導入したことで、これにはスホイSu-35S航空優勢戦闘機、Su-30SMマルチロールファイター、Su-34爆撃機が含まれる。また、 Mig-31BM/BSM迎撃機約110機と少数のSu-25SM(3)地上攻撃機の再生産とアップグレードとの野心的な近代化運動も行われている。ロシアは通常、ウクライナの射程圏内にある西部および南部軍管区に最新戦闘機約300を配備しており、侵攻前の軍備増強の一環として、ロシア内の他地域から連隊を移動させていた。特に2015年以降のシリアへのロシアの軍事介入では、戦闘空中哨戒や攻撃任務にVKS固定翼機を多用していることから、使用の意図があったことは明らかである。ウクライナの北部と東部でロシアの地上戦がなかなか進まず、ウクライナ軍により車両や人員の損失が続く中、ロシア航空作戦の欠如には別の説明が必要だ。

 

ありえない、あるいは不十分な説明

一つの可能性として、VKSの戦闘機隊は、NATO軍の直接介入への抑止力として保持されている可能性がある。ただ、これは考えにくい。もしVKSがウクライナ上空で迅速に制空権を確立する大規模作戦を実施可能なら、それを実施しないことで、NATO軍への潜在的な抑止力は維持するどころか、むしろ弱まる。ロシア軍が、はるかに小規模で陣容の劣るウクライナ軍を迅速に制圧できず、最新車両と人員を大量に失ったことで、ロシア通常軍事力への国際的認識が大きく損ねられた。NATO抑止力の観点から、ロシア軍参謀本部とクレムリンには、失われた信頼を回復すべく航空兵力を最大活用する動機があるのだ。

 

また、VKS固定翼機は精密誘導弾を効果的に使用できる割合が比較的低いため、制圧・利用したい重要インフラの損傷を避けるため、あるいはウクライナ市民の犠牲を最小限に抑えるため、無誘導弾やロケット弾による大規模攻撃が避けられているとの見方もある。ロシア指導部が迅速な軍事的勝利を目論んでいた侵攻当初なら、これは有効な仮定だった。しかし、この可能性は急速に薄れ、ロシア軍は包囲した都市(特にハリコフとマリウポリ)に重砲と巡航ミサイルで砲撃するパターンに落ち着いたため、この理論では大規模なVKS攻撃の不在を説明できないことになる。

 

ロシア軍の指揮官が、高価かつ威信のある高速ジェット機の大損害リスクを避け、リスク許容度でVKSを抑制しているとの説もある。これも筋が通らない。ロシア地上軍は最新型戦車・装甲兵員輸送車数百両、短・中距離防空システム、精鋭空挺部隊(VDV)や特殊部隊を含む数千人の兵員を1週間で失った。ロシア経済は深刻な制裁措置で急速に疲弊し、ロシア指導部はヨーロッパはじめ世界各地で慎重に築き上げてきた影響力ネットワークと同盟関係を焼失させた。つまりクレムリンはすべてを危険にさらしている。損失を避けるため空軍戦力を抑制するのでは意味をなさない。

 

現時点で有力な唯一の説明

VKSが初期に航空優勢を確立できなかったのは、早期警戒、調整能力、立案時間の不足で説明できるが、継続的な活動パターンは、VKSに大規模で複雑な航空作戦を計画、準備、実施する制度的能力が不足しているとの、より重大な結論を示唆する。この暫定的な説明を裏付ける重要な状況証拠もある。

 

VKSは2015年以降、シリア上空の複雑な空域で戦闘経験を積んできたが、小規模編隊で航空機を運用してきたに過ぎない。単機、二機、時には4機編成が普通だった。異なる機種の航空機が同時運用される場合も、せいぜい2組の構成に過ぎない。戦勝記念日の展示飛行のような威信をかけたイベントは別として、VKSは訓練飛行の大部分を単機か二機一組で行っている。つまり、VKSの作戦指揮官は、脅威の高い空域で多数の部隊が参加する複雑な航空作戦を立案、説明、調整する方法について、実践的な経験を持っていない。過去20年間、イラク、バルカン、リビア、アフガニスタン、シリアで行われた西側の軍事作戦では、統合航空作戦センターを通じ複雑な航空作戦が当たり前に行われてきたため、西側の航空戦力の専門家多数がこの点を見落としがちだ。

 

第二に、ほとんどのVKSパイロットの年間飛行時間は約100時間(多くはそれ以下)であり、NATO空軍の飛行時間の約半分である。また、複雑な環境下で高度な戦術を訓練・実践する近代的なシミュレーター設備もない。ロシアの戦闘機パイロットが得る実戦飛行時間も、NATO軍の飛行時間と比べ、複雑な航空作戦に対応する準備として、価値が著しく低い。英空軍や米空軍含む西側諸国の空軍では、パイロットは、悪天候、低空で、地上や空中の脅威を想定した複雑な出撃に厳しく訓練されている。高速ジェット機の上級訓練に合格するため、こうした訓練を確実にこなし、しかも計画したタイムオンターゲットの5〜10秒以内に目標に命中させることができなければならない。これは、前線任務において、複雑な攻撃パッケージによる複数の要素として、銃撃を受け視界が悪くても、安全かつ効果的に操縦と攻撃を繰り返すために不可欠なスキルである。また、訓練に長時間がかかり、定期的に実戦飛行とシミュレーターで最新の技術を習得する必要がある。これに対し、VKSの最前線での訓練は、比較的無菌状態で行われ、航法飛行、オープンレンジでの無誘導兵器運用、地上防空システムとの連携による目標シミュレーション飛行など、単純タスクがほとんどだ。地中海、北海、カナダ、米国にある十分整備された射場で日常的に共同訓練を行っているNATO空軍に匹敵する訓練・演習体系をロシアは利用できない。また、NATO加盟国が毎年行っている、現実的な脅威を想定した大規模な複合型航空演習(最も有名なものは「レッドフラッグ」)に匹敵するものもロシアにない。そのため、ロシアのパイロットの多くが、熟練度を欠いていて複雑でダイナミックな任務を遂行する大規模な混合編隊の一員として、効果的に活動できないとしても不思議はない。

 

第三に、VKSが複雑な航空作戦を実施できるのであれば、ウクライナ上空での航空優勢の獲得は比較的簡単だったはずである。自国の都市上空で勇敢に防空する少数のウクライナ軍戦闘機は、ロシアの長距離SAMシステムにより低空飛行を余儀なくされており、その結果、状況認識力と耐久力が比較的限られる。ウクライナ国境周辺に配置された、重武装で高性能VKS戦闘機多数なら、比較的容易に圧倒できたはずである。ウクライナのSA-11やSA-15などの中・短距離移動型SAMシステムは、ロシアのヘリコプターや固定翼機に有効だ。しかし、護衛戦闘機と中高高度で飛行するロシアの大型攻撃機部隊は、ウクライナのSAMを素早く発見し、位置を把握し攻撃できる。その過程で一部航空機を喪失しても、SAMを攻撃すれば、航空優勢を迅速に確立できるだろう。

 

ロシアには航空優勢を確立する動機があり、大規模な混合編成でウクライナの戦闘機とSAMシステムを制圧し、追い詰める戦闘作戦を行う能力は、書類上はある。しかし、VKSはウクライナのSAMの脅威を最小化するため、少数かつ低空での作戦しか続けていない。低空飛行では、状況認識や戦闘効果に限界があり、ウクライナ軍のイグラやスティンガーなど高射程ミサイルの射程内に入る。また、苦境に立たされているウクライナ軍に西側諸国が物資を送り、MANPADSは増えている。MANPADSによる損失を避けるため、出撃は主に夜間に行われており、搭載する無誘導空対地兵器の有効性はさらに低下している。

 

以上の説明がまちがっていれば、NATO諸国やイスラエルのような近代的な空軍が日常的に行う大規模で複雑な航空作戦をVKSが突然開始するかもしれない。しかし、そうでなければ、今後数週間でウクライナ軍への戦闘力と、西側諸国への通常型抑止手段としての価値が大きく問われる事態になろう。

 

Is the Russian Air Force Actually Incapable of Complex Air Operations? | Royal United Services Institute

Justin Bronk

4 March 2022

 

Justin Bronk is the Research Fellow for Airpower at RUSI