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ウクライナ戦でロシア空軍が存在感を示せない理由を英軍事シンクタンクRUSIが分析。我々はロシア空軍力を過大評価していた。

 


Sukhoi Su-25SM3 of the VKS shot down in Ukraine. Credit: Ukrainian Ministry of Defence


ロシアがウクライナに侵攻し1週間以上経過したが、ロシア空軍はいまだに大規模作戦を展開していない。開戦直後の不活発さには要因がいろいろあったが、大規模航空作戦が行われないままなのは、深刻な問題があることを示している。

 

 

シアのウクライナ侵攻の初期段階で驚かされたことのひとつに、ロシア航空宇宙軍(VKS)の戦闘機・爆撃機隊が航空優勢を確立できず、ロシア地上軍の支援を展開できなかった点がある。侵攻の初日、巡航ミサイルと弾道ミサイルによる攻撃開始の後に、予想されていた大規模なロシア航空作戦はなかった。原因を分析したところ、地上の地対空ミサイル(SAM)のデコンフリクションに問題があった、精密誘導弾の不足、VKSの平均飛行時間が短く、地上作戦支援の精密打撃の専門知識を有するパイロットが不足していたことなどが指摘された。各要因は関連するが、侵攻が2週目に入っても、VKSの作戦が低調なのを説明できない。ロシアの高速ジェット機は、ウクライナの携帯型防空システム(MANPADS)や地上砲撃による損失を最小限に抑えるため、単機または二機で、低空で、主に夜間の限定的出撃に終始している。

 

筆者含むアナリストは、2010年以降のロシア戦闘航空装備の近代化に目を奪われる傾向がある。特に顕著なのは、VKSが10年で最新鋭機約350機を導入したことで、これにはスホイSu-35S航空優勢戦闘機、Su-30SMマルチロールファイター、Su-34爆撃機が含まれる。また、 Mig-31BM/BSM迎撃機約110機と少数のSu-25SM(3)地上攻撃機の再生産とアップグレードとの野心的な近代化運動も行われている。ロシアは通常、ウクライナの射程圏内にある西部および南部軍管区に最新戦闘機約300を配備しており、侵攻前の軍備増強の一環として、ロシア内の他地域から連隊を移動させていた。特に2015年以降のシリアへのロシアの軍事介入では、戦闘空中哨戒や攻撃任務にVKS固定翼機を多用していることから、使用の意図があったことは明らかである。ウクライナの北部と東部でロシアの地上戦がなかなか進まず、ウクライナ軍により車両や人員の損失が続く中、ロシア航空作戦の欠如には別の説明が必要だ。

 

ありえない、あるいは不十分な説明

一つの可能性として、VKSの戦闘機隊は、NATO軍の直接介入への抑止力として保持されている可能性がある。ただ、これは考えにくい。もしVKSがウクライナ上空で迅速に制空権を確立する大規模作戦を実施可能なら、それを実施しないことで、NATO軍への潜在的な抑止力は維持するどころか、むしろ弱まる。ロシア軍が、はるかに小規模で陣容の劣るウクライナ軍を迅速に制圧できず、最新車両と人員を大量に失ったことで、ロシア通常軍事力への国際的認識が大きく損ねられた。NATO抑止力の観点から、ロシア軍参謀本部とクレムリンには、失われた信頼を回復すべく航空兵力を最大活用する動機があるのだ。

 

また、VKS固定翼機は精密誘導弾を効果的に使用できる割合が比較的低いため、制圧・利用したい重要インフラの損傷を避けるため、あるいはウクライナ市民の犠牲を最小限に抑えるため、無誘導弾やロケット弾による大規模攻撃が避けられているとの見方もある。ロシア指導部が迅速な軍事的勝利を目論んでいた侵攻当初なら、これは有効な仮定だった。しかし、この可能性は急速に薄れ、ロシア軍は包囲した都市(特にハリコフとマリウポリ)に重砲と巡航ミサイルで砲撃するパターンに落ち着いたため、この理論では大規模なVKS攻撃の不在を説明できないことになる。

 

ロシア軍の指揮官が、高価かつ威信のある高速ジェット機の大損害リスクを避け、リスク許容度でVKSを抑制しているとの説もある。これも筋が通らない。ロシア地上軍は最新型戦車・装甲兵員輸送車数百両、短・中距離防空システム、精鋭空挺部隊(VDV)や特殊部隊を含む数千人の兵員を1週間で失った。ロシア経済は深刻な制裁措置で急速に疲弊し、ロシア指導部はヨーロッパはじめ世界各地で慎重に築き上げてきた影響力ネットワークと同盟関係を焼失させた。つまりクレムリンはすべてを危険にさらしている。損失を避けるため空軍戦力を抑制するのでは意味をなさない。

 

現時点で有力な唯一の説明

VKSが初期に航空優勢を確立できなかったのは、早期警戒、調整能力、立案時間の不足で説明できるが、継続的な活動パターンは、VKSに大規模で複雑な航空作戦を計画、準備、実施する制度的能力が不足しているとの、より重大な結論を示唆する。この暫定的な説明を裏付ける重要な状況証拠もある。

 

VKSは2015年以降、シリア上空の複雑な空域で戦闘経験を積んできたが、小規模編隊で航空機を運用してきたに過ぎない。単機、二機、時には4機編成が普通だった。異なる機種の航空機が同時運用される場合も、せいぜい2組の構成に過ぎない。戦勝記念日の展示飛行のような威信をかけたイベントは別として、VKSは訓練飛行の大部分を単機か二機一組で行っている。つまり、VKSの作戦指揮官は、脅威の高い空域で多数の部隊が参加する複雑な航空作戦を立案、説明、調整する方法について、実践的な経験を持っていない。過去20年間、イラク、バルカン、リビア、アフガニスタン、シリアで行われた西側の軍事作戦では、統合航空作戦センターを通じ複雑な航空作戦が当たり前に行われてきたため、西側の航空戦力の専門家多数がこの点を見落としがちだ。

 

第二に、ほとんどのVKSパイロットの年間飛行時間は約100時間(多くはそれ以下)であり、NATO空軍の飛行時間の約半分である。また、複雑な環境下で高度な戦術を訓練・実践する近代的なシミュレーター設備もない。ロシアの戦闘機パイロットが得る実戦飛行時間も、NATO軍の飛行時間と比べ、複雑な航空作戦に対応する準備として、価値が著しく低い。英空軍や米空軍含む西側諸国の空軍では、パイロットは、悪天候、低空で、地上や空中の脅威を想定した複雑な出撃に厳しく訓練されている。高速ジェット機の上級訓練に合格するため、こうした訓練を確実にこなし、しかも計画したタイムオンターゲットの5〜10秒以内に目標に命中させることができなければならない。これは、前線任務において、複雑な攻撃パッケージによる複数の要素として、銃撃を受け視界が悪くても、安全かつ効果的に操縦と攻撃を繰り返すために不可欠なスキルである。また、訓練に長時間がかかり、定期的に実戦飛行とシミュレーターで最新の技術を習得する必要がある。これに対し、VKSの最前線での訓練は、比較的無菌状態で行われ、航法飛行、オープンレンジでの無誘導兵器運用、地上防空システムとの連携による目標シミュレーション飛行など、単純タスクがほとんどだ。地中海、北海、カナダ、米国にある十分整備された射場で日常的に共同訓練を行っているNATO空軍に匹敵する訓練・演習体系をロシアは利用できない。また、NATO加盟国が毎年行っている、現実的な脅威を想定した大規模な複合型航空演習(最も有名なものは「レッドフラッグ」)に匹敵するものもロシアにない。そのため、ロシアのパイロットの多くが、熟練度を欠いていて複雑でダイナミックな任務を遂行する大規模な混合編隊の一員として、効果的に活動できないとしても不思議はない。

 

第三に、VKSが複雑な航空作戦を実施できるのであれば、ウクライナ上空での航空優勢の獲得は比較的簡単だったはずである。自国の都市上空で勇敢に防空する少数のウクライナ軍戦闘機は、ロシアの長距離SAMシステムにより低空飛行を余儀なくされており、その結果、状況認識力と耐久力が比較的限られる。ウクライナ国境周辺に配置された、重武装で高性能VKS戦闘機多数なら、比較的容易に圧倒できたはずである。ウクライナのSA-11やSA-15などの中・短距離移動型SAMシステムは、ロシアのヘリコプターや固定翼機に有効だ。しかし、護衛戦闘機と中高高度で飛行するロシアの大型攻撃機部隊は、ウクライナのSAMを素早く発見し、位置を把握し攻撃できる。その過程で一部航空機を喪失しても、SAMを攻撃すれば、航空優勢を迅速に確立できるだろう。

 

ロシアには航空優勢を確立する動機があり、大規模な混合編成でウクライナの戦闘機とSAMシステムを制圧し、追い詰める戦闘作戦を行う能力は、書類上はある。しかし、VKSはウクライナのSAMの脅威を最小化するため、少数かつ低空での作戦しか続けていない。低空飛行では、状況認識や戦闘効果に限界があり、ウクライナ軍のイグラやスティンガーなど高射程ミサイルの射程内に入る。また、苦境に立たされているウクライナ軍に西側諸国が物資を送り、MANPADSは増えている。MANPADSによる損失を避けるため、出撃は主に夜間に行われており、搭載する無誘導空対地兵器の有効性はさらに低下している。

 

以上の説明がまちがっていれば、NATO諸国やイスラエルのような近代的な空軍が日常的に行う大規模で複雑な航空作戦をVKSが突然開始するかもしれない。しかし、そうでなければ、今後数週間でウクライナ軍への戦闘力と、西側諸国への通常型抑止手段としての価値が大きく問われる事態になろう。

 

Is the Russian Air Force Actually Incapable of Complex Air Operations? | Royal United Services Institute

Justin Bronk

4 March 2022

 

Justin Bronk is the Research Fellow for Airpower at RUSI


コメント

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