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主張 きびしい制裁でロシアが中国に運命を握られる事態が生まれる

  

 

回のロシア制裁では迅速さと効果で世界が驚いた。ただし、制裁の影響は、ウクライナ戦争が追わても続く。ロシアにとっては深刻な経済危機の始まりであり、ユーラシア大陸に広がる中国勢力圏に沈む可能性が出てくる。

 

 

制裁で直ちに出る影響は深刻だ。ロシアの新興財閥オリガルヒの関心は、財産と金融資産の保全にある。例えば、アブラモビッチRoman Abramovichは、チェルシーフットボールクラブを慈善信託に移管したと言われる。だが財産を隠しても、オリガルヒは海外に戻れないだろう。

 

深刻なのは一般ロシア国民だ。ルーブルは記録的水準に急落し、金利は2倍に上昇し、市中銀行の資金量は不足気味である。ダイムラーなどのメーカーやBPエクソンモービルシェルなど西側エナジー企業は、ロシア事業の廃止を発表した。ボーイングの部品供給停止で、ロシア航空会社の欧米製航空機700機は飛行できなくなる。ロシア向け海上貨物の予約は停止された。ロシア市場で消費財を販売するEU企業は輸出を停止した。サプライチェーンの遮断でロシア消費者が大きな打撃を受ける。

 

このままだと、ロシア経済は停止状態になるか、中国の慈悲にすがるかのいずれかだろう。

 

ロシアの対中貿易は急成長中だ。2020年、ロシアの対中輸出は日用品中心に約490億ドルだった。同年ロシアの中国からの輸入は約540億ドルで、主に製造品(二流軍需品を含む)だった。中国はロシアへの制裁措置に加わっていない。したがって、両国の二国間貿易は、さらに拡大する予想がある。

 

ロシアの戦略思考家は、対中貿易の拡大を歓迎するだろう。短期的には、制裁による損失をある程度埋め合わせる効果が生まれる。しかし、長期的に見れば、ロシアは戦略的な罠にはまる。ロシア貿易の主要市場は中国のみとなる。

 

ロシアの自業自得が悪化してもかまわないと中国がほのめかしていることがロシアには不吉にきこえるはずだ。中国の準公式紙環球時報は、ロシアによる侵攻を肯定しないものの、NATOの東方拡大へのプーチンの不満に理解を示し、西側に傾いたウクライナを非難している。2月28日の中国外務省報道官発言の論調とほぼ同じだ。また、微妙な兆候に中国の考えがあらわれている。中国の著名歴史学者5人がモスクワの侵略を糾弾する共同書簡に署名した。中国でこのような書簡は大きな意味を持つ。中国は言論や文章表現を厳しく統制している。中国が学者に共同書簡を書かせ、発表させたのは興味深い。ただし、中国はロシアを非難する準備はしていない。ウクライナ戦争で露呈するプーチンの脆弱性を利用し、中国はロシアへの戦略的態勢を柔軟に取ろうとしている。

 

ロシアにとって、準国家メディアの記事や学術書簡よりはるかに不吉なのは、中国の外交トーンの変化だ。北京オリンピックでのロシアとの共同声明で、中国は「限りない友情」を両国が享受し、「禁じられた」協力領域は存在しないと表明していた。これに対し、2月28日記者会見での外務省報道官は、中国当局の古典的なあいまいさを用いた。中国ロシア両国は「非同盟が特徴の」関係で、「協調する包括的な戦略パートナー」と呼んだ。中国の呼称への敏感さ(リトアニアが台湾を「間違った」名称で呼んだときの危機があった)を考えれば、ロシアは突然のトーンの逆転に特に注意するべきだ。中国はモスクワに好意を抱いているわけではない。

 

モスクワの観点で一番気になるのは、中国の国有銀行2行が、商品購入用のロシア向けドル建て信用状発行を制限し始めたことだ。中国がロシアと侵攻のタイミングを先に協議していたとの報道もあり、中国が慎重に検討していたのがうかがえる。

 

プーチンと習近平は、民主主義と法治主義に対し共通大義を見出す。中国は、ウクライナ戦争への制裁で、短期的にはロシアを救済するかもしれない。しかし、ロシアの孤立が深まれば、プーチンの遺産はロシア帝国の復活どころではなくなり、ユーラシア大陸唯一の超大国の属国となりかねない。プーチン支持者は、ロシアの未来が中国に握られていいのか、問うべきだろう。■

 

Russia's Chinese Future - 19FortyFive

ByThomas GrantPublished14 hours ago

 

Thomas D. Grant served as Senior Advisor for Strategic Planning in the Bureau of International Security and Nonproliferation, U.S. Department of State, 2019-2021. He is the author of Aggression Against Ukraine: Territory, Responsibility, and International Law (2015).

In this article:China, featured, Putin, Russia, Russian Economy, Xi Jinping

 


コメント

  1. ぼたんのちから2022年3月7日 21:12

    歴史を遡ると、ロシアは二度東アジアの民族に征服された。一度目はフン族であり、二度目はモンゴルである。そして三度目があるのかもしれない。そして恐らく記録は明確でないが、フン族以前も東から西へと民族征服が繰り返されたと推定する。
    記録上、三度目の東アジア民族によるロシア征服は、CCP中国によるものになるのかもしれない。
    民主主義が根付いていないロシアは、東アジアの民族による支配を嫌っているものの、東アジア流の極端な中央集権国家体制には意外に馴染んでいるように思える。ソ連が長くロシアを支配した理由の一つが、これによるように思える もし、経済さえひどく破綻するようなものでなければ、現在もソ連は存続していたのかもしれない。
    今回はプーチンの失政により、CCP中国による支配を招く可能性が高まったが、支配を受けたとしても上記の理由により、酷く心配する必要は無いのかもしれない。CCP中国にとって、ロシア支配の維持は、デリケートで、負担の大きいものとなるだろうし、極端な統制社会になるだろう。西側国家にとって、CCP中国がロシア支配に集中せざるを得ないことは良いことかもしれない。
    CCP中国が、ウイグル、チベットやモンゴルのように、ロシア民族のナショナリズムさえ効果的に抑圧すれば、それほど大きな問題は起きないかもしれない。そのノウハウは、CCP中国が豊富に持っている。

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