スキップしてメイン コンテンツに移動

ロシア空軍が航空優勢を確保できない理由に、西側と全く異なる空軍用兵思想があった。今回の失敗から進化する可能性は?

 





シアのウクライナ侵攻開始から1カ月経過したが、ウクライナ防衛軍は不可能を可能にしたかのように、各地でロシア地上軍を阻止し、ロシアの圧倒的な数の優位にもめげず、空域を確保している。

 ロシア空軍は米国に次ぐ世界第2位の規模だが、運用は米空軍と全く異なる。ロシア軍は確かに苦しんでおり、ウクライナ上空の失敗は、ロシアの戦争へのアプローチそのものの問題だ。



米国の考える戦闘と航空戦力の意義

 米国では、戦闘作戦を6つの想定段階に分け、各段階で、中間目標に向け部隊間が協力し合う。指揮官と幕僚が大規模戦闘作戦を視覚化し、要件を考慮した作戦立案が基本となっている。2009年まで、米国のドクトリンは4段階だったが、対テロ戦争の教訓から劇的に変化した。

 6段階とは、形成、抑止、主導権の獲得、支配、安定化、文民権力の実現、形成への回帰だ。

 この段階的アプローチでは、指揮官は次の作戦段階の前に、各中間目標を完了するため十分な人員、資源、装備、時間を部隊へ確保する。IRIS Independent Research の社長レベッカ・グラント博士Dr. Rebecca Grantが 13 年前に Air Force Magazine で指摘していたが、米国の戦闘ドクトリンでは航空戦力はあらゆる局面で役割を果たし、かつ最重要局面で重要な役割を担う。

 情報、監視、偵察(ISR)、武装哨戒などの航空戦力は、抑止力として不可欠だ。また、米軍機は主導権を握り、空爆を行い、ISRを提供する上で極めて重要な役割を果たす。制圧段階では、米軍機が制空権を握り、敵機や防空網を排除・軽減した上で、地上軍に近接航空支援とISRを提供する。安定化と民政移管の段階では、偵察から武力支援まで、新政権を正統化するため再び航空戦力が頼りにされる。

 大規模で圧倒的な航空戦力が、アメリカの戦争ドクトリンでは主導権を握る段階と支配する段階の両方で不可欠である。航空機は、敵の空中脅威を迅速に無力化し、その後の空爆と地上部隊の支援を同盟国航空機の危険なしで実施可能とする手段だ。

 現実に、米国の戦争アプローチは航空戦力中心に構築されており、地上部隊は目標達成のため航空機や長距離兵器システムと組み合わせて使用される。地上部隊の重要性を軽視しているのではなく、米国式戦闘方法は航空優勢の確保を強調している。


ロシアの軍事ドクトリンでの空軍力の意義

 これに対し、ロシアの軍事ドクトリンでは、戦争へのアプローチが大きく異なり、紛争の前段階と初期段階(グレーゾーン作戦)ではロシアが新世代戦争(NGW)と呼ぶものを重視し、紛争では慎重かつ予算重視の武力行使を行うとある。ロシアでは、安価な手段が実行不可能な場合のみ、高価な資産を使用する。これは、圧倒的技術力を持つアメリカのアプローチと全く対照的である。

 ロシアの軍事ドクトリンが、航空戦力を背景とするアメリカと異なり、航空戦力を地上軍に従属させる存在として捉えていることが重要である。フォーブスのデビッド・アックスDavid Axeによれば、ロシア空軍は空の火砲として使用されている。これは、NATOの巨大な航空戦力と大規模衝突した場合に航空優勢を失う可能性があることをロシアが理解しているためと考えられる。ロシアのドクトリンは、負け戦に勝つことよりも、戦闘空域を支配できない可能性を甘受している。

 ロシア軍事ドクトリンには、敵制空権を迅速に完全制圧すること、敵防空網を迅速に排除するとはともに書かれていない。アメリカのワイルド・ウィーゼルF-16のような敵防空制圧任務(SEAD)の特化機材がロシアにはない。ただし、ロシア機は、防空システムを攻撃する対レーダーミサイルを使用することができるし、実際に使用している。

 その代わり、ロシアは長距離射撃を重視し、自軍上空を支配するために航空機に任務を与えるよりも、自国の統合防空システムの使用が優先されている。

 ロシアの戦争方式は、長距離攻撃で敵の防空・航空機の効果を下げ、大量の砲撃、ロケット、ミサイルで火力優勢を獲得し活用するものだ。航空機は、戦域支配の手段ではなく、地上軍を支援する。アメリカの軍事ドクトリンのバックボーンが航空戦力ならば、ロシアのは大型戦車部隊と大砲である。

 ロシアの戦争への考え方は、戦闘初期段階で敵を懲らしめ、ロシアに有利な形で紛争を迅速解決するというものだ。米国議会調査局が指摘するように、敵対国の領域アクセスを拒否することはロシアの目標ではない。

 ロシアの狙いは、司令部やインフラなど重要施設を狙い、機能を低下させて、有利な条件を相手に受け入れさせることにある。そのため、ロシアの戦略は、全国的な制空権の確保は前提としていない。ロシアが航空機と統合防空システムで空域を支配することはない、と主張しているのではない。ロシアはそうするだろうし、そうしているのは確かである。しかし、ロシアは、目的の達成に制空権の確立が不可欠とは考えていない。

 ロシア軍は、混沌とした戦場環境で敵機味方機の識別が難しいようで、ロシア軍上空でロシア航空機はリスクが高いように思われる。

そのため、ロシア軍機は砲兵隊同様の扱いで、地上軍支援の空爆に従事している。


ウクライナの現実からロシア航空戦力ドクトリンも変化するはず

 ロシアは火力優勢の補完手段で航空戦力を使用しているが、ウクライナでは、ロシアが長年主張してきた統合防空システムも効果がないことも証明されている。ウクライナ空軍は損失を被っているものの、開戦から1カ月以上経過した現在も連日出撃している。

 ウクライナ戦闘機は、主に夜間に出撃し、防衛部隊に航空支援を提供し続け、ウクライナのドローンは各地でロシアに大打撃を与えている。一方、ロシア軍機は1日に数百回の出撃を続け、ロシア領内からウクライナ国内目標に長距離攻撃を実施し、停滞している地上軍に長距離砲として機能している。

 ロシアがウクライナの空を支配できないのは、航空機を長距離砲やロケット弾の延長として使用しているためで、ロシアのドクトリンは明らかに机上の想定通り機能していない。

 ロシアがウクライナでの航空優勢確保に苦労している理由で、おそらく最も重要な理由は、ロシアの戦争へのアプローチが航空優勢の重要性を著しく過小評価していることだろう。ウクライナ戦争がどのような結末を迎えるにせよ、ロシアの航空戦力に関する考え方は、今後数年で大きく変化する可能性があるように思われる。■


How Russia's warfare doctrine is failing in Ukraine - Sandboxx

Alex Hollings | March 23, 2022

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...