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ウクライナ戦で早くもロシア戦車の10%を喪失。戦車の時代は終わったのだろうか。

 


A piece of a Russian tank along a road outside of Kharkiv, Ukraine.

ウクライナ・ハリコフ郊外で放棄されたロシア戦車の砲塔部分。ロシアは新鋭戦車部隊の一割を喪失したとの試算がある。Sergey Bobok/AFP via Getty Images


一次世界大戦以降の陸上戦で重要な柱は戦車だ。ウクライナでは、無人機と最新鋭軽火器に支えられた士気の高い歩兵が、戦車を前線で排除できると示している。



 粗い粒子の画面の十字線が、野原に潜むオリーブグリーンの巨体をとらえる。画面が一瞬かすみ、ミサイルが消えていく。6秒後。ドカーン。

 ロシア軍のT-72戦車がまた1台、行動不能に陥り、乗員は死んだようだ。

 肩ごし発射のジャベリン最新鋭ミサイルではない。ウクライナ製の対戦車弾Stugna-Pで、お世辞にも洗練されているとは言えない。兵士数名が三脚上にミサイルを設置し、戦車が射程に入るのを待つ。リモコンパネルで操作する兵士はミサイルが命中するまでターゲットにレーザーで照射したり、自己誘導させる。

 非常に効果的だ。オープンソースの兵器追跡サイト「オリックス」によれば、ロシアは少なくとも270台の戦車を3週間で失っている。

 ウクライナ防衛は効果を上げており、アナリスト多数が、ロシアの失敗は、前線兵器としての戦車自体に原因があると考えている。

 戦車の戦術的弱点を示す新たな証拠は、専門家の言葉を借りれば「衝撃的」であり、軍事史の遺物となるかで議論を呼び起こしている。

 低価格無人機が低高度で戦車を攻撃している。防衛部隊は焼け焦げた郊外で戦車を待ち伏せ、新世代の「撃ちっぱなし」武器で、志願兵でも、戦車殺しを簡単な仕事にしてしまった。

 世界各国の政府にコンサルティングする軍事戦略家のエドワード・ルトワックEdward Luttwakは、「戦う決意が固い歩兵は、大量の使い捨て対戦車ロケットで、超強力になった」とInsiderに語っている。

 戦車は80年以上にわたり陸戦の王者だった。敵陣地を突き崩し、歩兵に新たに獲得した地点を保持させるのが戦車の仕事だ。だが戦車には、バズーカや無反動ライフルなどの携行武器や、映画「プライベート・ライアン」に登場する「粘着爆弾」のような即席爆発物に弱い問題があった。


戦車は、時間の経過とともに、掃討任務に移行していく

 しかし、ウクライナにおけるロシア戦車の攻撃効果の低さを見れば、技術、特に高性能弾と誘導ミサイルの進歩で、戦車が時代遅れになるほど、対戦車防御が有利に傾いていることがわかる。

 Insiderの取材に応じた一防衛アナリストは、戦車の役割を、最前線で活躍したルネサンス時代の矛と薙刀で武装したスイス槍兵になぞらえている。 

 当時は歩兵が、そして今は戦車が担う前衛は、これからは無人機やロボット車両、長距離攻撃システムに役目を譲る可能性が高い。

 元米国陸軍レンジャーで、新しいアメリカの安全保障センターCenter for a New American Securityの研究部長ポール・シャールPaul Scharreは、「戦車は時間とともに、戦場を掃討する役割に移行していくでしょう」と述べている。


「ポイント・アンド・シュート」

肩撃ち兵器が、戦争を変えている。


 短時間の訓練で、歩兵のみならず志願兵でさえも戦車に勝てる。発射後すぐに移動したり、身を隠したりできるのがジャベリンだ。戦車の装甲の一番弱い上部に命中させるモードもある。ウクライナでは、開戦以来、予備役に同兵器を訓練してきた。

 イギリスとスウェーデンで設計されたNLAW(次世代軽戦車兵器)も、使い方は比較的簡単で、重さはビール1ケースと同程度。肩に担ぎ、半マイル以内の標的を数秒間追尾してから、発射する。その後はサイルの誘導装置が作動する。

「NLAW軽戦車兵器は、プラスチックの筒にロケット弾を搭載したのが、大きな違いがあります。指差して撃つだけ。トラック一台でキーウの街角に500発を配送できます」(ルトワック)

 NLAWはまさにウクライナのような戦争に対応できる設計だ。

 「NLAWは、建物上部から木の陰や溝と、ほぼすべての位置から攻撃できる」と、兵器メーカーSAABはウェブサイトで宣伝している。「45度下に発射でき、建物の中から、地下から、あるいはほとんどの戦車で射程外の2階から撃てる」

 SAABのパンフレットがいうように、戦車は市街地で、あるいは都市に接近時に最も脆弱となる。街角で待ち伏せされたり、窓から発砲され逃げられたりする。戦車にとって既知の危険だが、第二次世界大戦やベトナム戦争で戦車が地上で直面した事態をはるかに超えている。

 100年前、英国は戦車を陸上戦艦と考え、ほぼあらゆる地形を踏破し、速度と火力の比類ない組み合わせで敵を驚かせる装甲の塊になると考えた。戦車は第一次世界大戦中、塹壕戦の膠着状態を打破するため初めて配備された。

 戦艦同様に、戦車は燃料を大量消費するが、攻撃力を発揮する。米M1A2主力戦車は、重量73トン以上、120mm弾を発射する。ただし重い装甲とミサイルジャマーを持つ同戦車でさえ、市街地では危険だ。

 世界は都市化している。世界銀行によると、2045年までに60億人が都市部に住み、軍隊が戦いを強いられる都心部と郊外がさらに拡大する。

 ウクライナは郊外の輪郭部で、ロシアの優位性を否定している。ロシアの進攻は、キーウ近郊で停滞し、士気の高い戦闘員に鉢合わせした。戦闘は数週間にわたり街区単位で行われている。

 キーウの北西に位置するイルピンでは、ウクライナ火砲が射程内に入った装甲車隊を打ちのめし、部隊や志願兵の小チームが対戦車兵器で待ち伏せしている。キーウの東にあるブロヴァリで、ある中尉がニューヨーク・タイムズに語ったところによると、彼女のチームは主要高速道路や大通りに対戦車兵器を設置し、Stugna-Pミサイルの3マイル射程内に入るのを待ち伏せしている。

 そして、無人機がある。戦闘機サイズから手のひらサイズまで、各種あり、無効化する技術対策が進行中だ。しかし、無人機のメーカーや機種は多岐にわたり、妨害、混乱、破壊の各面で万能な方法は存在しない。


A collage of four screenshots from what Ukrainian forces say is the viewfinder of Bayraktar TB2 drones targeting Russian-controlled assets

ウクライナのバイラクター無人機によるロシア軍への攻撃の様子 Ukraine Armed Forces/Facebook/Insider


ウクライナ戦では、無人機が優位性を示している。トルコ製TB2が装甲車両の近くで待機し誘導ミサイルで攻撃し、標的の位置を砲撃部隊に中継している。TB2は貧者にとってのMQ-9リーパーの存在で、セスナ機ほどの大きさで、丸1日以上滞空し最大4発までミサイルや爆弾を発射し、基地に戻り再充填する。

 CNASのシャールは、「ウクライナ軍は実際に、ロシア装甲車に対して、TB2やもっと小さな無人機で大きな効果を上げている」「無人機は低空飛行が可能で、パイロットを危険にさらさず、空からの攻撃に非常に有効だ。

 さらに小型の無人機も役割を果たす。バイデン政権はウクライナに「スイッチブレード」100機を送る。バックパックほどの大きさの単発機で、カミカゼ攻撃で装甲車両を破壊できる。


これでは戦闘を続けられない

ロシア軍指揮官は誤判断で、軍の潜在能力を無駄にしている。戦車もこの一部だ。

 戦車を泥の中で進める自信がないため、幹線道路上を走らせている。ロシアの戦車は、それを守れる歩兵を出し抜く。

T-72の航続距離は約600マイル、重量は40トン、燃費は1ガロン当たり1マイル以下だ。ウクライナでは、多くが給油トラックから離れすぎたり、乗員自身の妨害を受けているという。ほとんど道路に張り付き、オフロードを走る、分散する、位置を隠すことはほとんどしていない。火砲の射程圏内で集団行動し、大損害を被ったこともある。

 欧米アナリストの多くは、ロシアが複合兵器能力を整備した兆候は皆無に近いと見ている。例えば、航空戦力と火砲が連動して戦車を支援する想定だ。

 戦車推進派は、ロシア戦車の場合は戦術が悪いせいと考え、アメリカでの戦車中心の陸上戦想定がすぐに変わることはないと見ているのだろう。


 ロシア軍は複合兵器運用に無能

 戦車は長い間、米陸軍のドクトリンの中心であり、中心的な役割を担ってきた。

 バルジの戦いで包囲された101空挺師団を救ったのは、パットン率いる第3軍の戦車部隊であった。1991年の湾岸戦争では、アメリカ軍戦車がイラク軍戦車を撃破した。73イースティングの戦いでは、戦車9台のアメリカ軍が、数でまさるイラク軍戦車部隊と遭遇し、これを撃破する典型的な戦車部隊の激突があった。

 73イースティングのイーグル戦車部隊の司令官で、後にドナルド・トランプ大統領の下で国家安全保障顧問を務めたH・R・マクマスター退役中将Lt. Gen. H.R. McMasterは、Insiderのメールインタビューで、「機動保護火力は今後も戦闘と勝利に重要」と述べた。

「接近戦に決定的な武器はない」とマクマスターは続け「地形に制限があったり都市部で敵の防御を崩すには、指揮官は歩兵と機動的な保護火力、そして火砲や航空機の攻撃を統合しなければならない。

「ロシア軍は複合武器作戦において無能に映る。

 とはいえ、地上や空から発射される誘導弾が課題だ。戦車支持派でさえ、戦車は軍艦同様に、装甲やミサイルへの防御システムが必要と認めている。

 歴史家ジェレミー・ブラックJeremy Blackは、2020年の著書『Tank Warfare』で、戦車を無人機や無人陸上車両を発射・制御する母艦に改造する提案をしている。

 無人機で武装しても、対抗兵器が強力で精密になるにつれて、戦車の役割は縮小する可能性が高い。

 NATO軍とロシア軍の通常兵器での衝突はどうなるか、という質問にシャールは「理想的な対応策は、戦車を前線に送り込むことではなく、長距離砲やミサイルでロシア装甲車両の前進を攻撃することだ」と答えた。

 「装甲車は来るだろうが、前方の装甲車隊を瓦礫にした後の第二波だろう」と。■



Ukraine has destroyed nearly 10% of Russia's tanks, making experts ask: Are tanks over?

Sam Fellman and Mattathias Schwartz


コメント

  1. >地形に制限があったり都市部で敵の防御を崩すには、指揮官は歩兵と機動的な
    >保護火力、そして火砲や航空機の攻撃を統合しなければならない。

    と元中将が答えを出してくれていますが、ニュースを見る限り、ロシア指揮官はそれを実行できない状況にあるようですね。
    というか、歩兵が能動的に長距離砲・戦車・航空機の火力支援を受けて前進するという文化がないのか?そんなばかな?

    返信削除
  2. ぼたんのちから2022年3月24日 1:07

    ロシア軍の惨事は、ロシア的戦車の価値を大幅に低下させることになる。個人用対戦車兵器と無人機の活躍は、ロシア軍の装甲車両に大打撃を与え続けることになる。
    しかし、そのようなことはシリア内戦、リビア内戦、及びアゼルバイジャンとアルメニアの紛争で予測できたことでなかろうか。そのような時代の変遷を見極められないロシア軍は、過去の遺物になったと言うことだろう。
    ウクライナ戦争で、ロシア軍は、準備不足を露呈し、また、プーチン好みの謀略を駆使したギャンブル戦術に強く依存したと思われる。その結果が、精鋭部隊の壊滅と、ロシア軍の大部分となる機械化部隊の進出遅滞となったと思われる。ロシア軍の編成は、スピードのある電撃戦に相応しいものであり、占領地の確保や都市戦には不向きであるから、現在の苦戦は当然のことと思われる。
    このように考えると、対ウクライナ軍用の大掛かりな軍編成の変換なしにロシア軍のウクライナ戦争の勝利は難しく、また、変換したとしても相当な人的損害を覚悟する必要があり、結果としてウクライナ軍の勝利が見えてくるが、ウクライナとしても勝利を得るためにはより多くの損失を覚悟する必要があるだろう。
    個人的には、何でこんな時代に下らない戦争(失礼!)を起こしてしまったんだと考えるものの、やはりプーチンの異常性が際立ち、この事象はこれからの時代を先駆けるものなのかもしれないと暗い予想を妄想する次第です。

    返信削除

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