2022年7月22日金曜日

日本の参加を折込み、英テンペストの新しい開発構想がファーンボロで発表された。ただし、5年で実証機を初飛行させるという大日程はいささか冒険的すぎないか。

 Let’s Look At The UK’s Plan To Fly A Tempest Fighter Demonstrator In Just Five Years

BAE SYSTEMS

 

日本の参加が視野に入り、テンペスト戦闘機の新しい見通しが明らかになった。

 

 

ギリスの次世代航空戦闘計画について、「今後5年以内に実証機を飛行させる」との直近の発表で、詳細がさらに明らかになった。また、同計画を主導するBAEシステムズは、テンペストの新モデルを発表し、米ステルス戦闘機F-22ラプター似の有人戦闘機となり、機体尾部はF-22のライバルだったノースロップYF-23を彷彿とさせる。

 ロンドン郊外で開催中のファーンボロ国際航空ショーが、BAEにとってテンペストの新コンセプトモデルを発表する機会となり、これまでのアートワークや動画、さらには2018年に同航空ショーで初公開された実寸大モックアップと比較し、印象的になった。

 従来のコンセプトと比較して、最新モデルのテンペストは、全体的なステルス構成と中大型のサイズを維持したままだ。しかし、翼の平面形状に大幅変更が加えられており、「ランバダ」翼は矢印のような後縁を持つ刈り上げデルタに交換された。インテークや前部胴体の全体形状は、ペリカン状の機首が特徴的だった初期型に比べ、F-22との共通点が多くなっているように見える。

 尾翼は、YF-23同様にラダーベーターを採用しているが、大型化され、主翼後縁のすぐ後ろに取り付けられている。エンジンノズルは、胴体後部にうまく隠されているようで、エンジンノズルの間にあった突起状の「刺」がなくなった。

 多くの点で、最新型はインドのAMCAやトルコのTF-Xなど、その他次世代戦闘機の概念構想と一致している。現段階でこのモデルを深読みできないが、今回アップデートされたことが興味深い。この変更は、先行デモ機と関係があるのかもしれないが、実際にどの程度、最終的なテンペストの外観に反映されるのかも不明だ。米空軍の次世代航空支配(NGAD)プログラムのデモ機が飛行しているが、同機もどの程度、後続の有人戦闘機の構成を反映しているかは不明だ。

 イギリスの軍事航空宇宙を長年観察してきたジョン・レイクJon LakeはBAEシステムズの「デモ機は伝統的な意味でのプロトタイプではなく、設計が進化し続ける可能性がある」と書いている。これは、多くの開発、設計、テストで、合成モデリングとモデルベースシステムエンジニアリングを用い、仮想世界で迅速かつ効率的に実施できるためだ。つまり、プロジェクトの伝統的な「金属バッシング」と「飛行試験」の段階を、より短い時間に短縮できる。これはかなり重要な設計上の決定を、従来のプログラムよりも後回しにできることを意味する」という。

 とはいえ、実際に実証機を作るのは、プログラム全体にとっても、イギリスの航空宇宙産業にも意味がある。計画通りなら、英国で新型戦闘機のデモ機が飛行するのは1986年初飛行したブリティッシュ・エアロスペース社のEAP以来となる。EAPは、イギリス空軍(RAF)でテンペストが後継機となるユーロファイター・タイフーンの実現に貢献した。

 

 

英国エアロスペース社のEAP技術実証機。 BAE Systems

 

BAE SystemsのCEOチャールズ・ウッドバムCharles Woodburnは、「信頼にたる戦闘航空能力を提供する責任を認識しています」と声明で述べている。「英空軍と同盟国が敵の先を行くことができるように、新技術を統合し、将来の空軍力の革新を加速させるため、英国の強い意欲と技術を持つサプライチェーンと提携しています。実証機は、経験豊富なエンジニアにも若いエンジニアにも、国家防衛と安全保障で本当に重要な取り組みに貢献するチャンスを与える、一世一代のエキサイティングな機会です」。

 一方、英国のベン・ウォレス国防相は、「デモ機の設計と開発は重要マイルストーンで、我が国のエンジニア、プログラマー、ソフトウェア開発者の成功と才能を示すものとなる」と付け加えた。同プログラムは、「英国内の多くの優秀な人材に機会を提供する」と述べている。

 興味深いことに、ウォレス大臣は、「英国は、イタリア・日本とともに、コンバット・エア・ジャーニーに共同で取り組んでいる」と言及している。「最先端技術に関する日本・イタリアとの協力は、同盟関係のメリットを示しています」。これらの国の一方または両方が、広義のテンペスト計画と同様に、実証機にも関与しているかは、明らかではないが、特に日本は、F-X次世代戦闘機の製造を支援するためBAE Systemsと提携すると広く期待されているため注目に値する。

 

 

将来の日本のF-X戦闘機のコンセプトアート。JASDF/Paipateroma-Wikimedia Commons

 

 

これまでのところ、日本はF-XをテンペストFCASへ正式に統合していない。しかし、関係者は、現在の「共同コンセプト分析」が、今年後半に完全なパートナーシップの最終決定につながる見込みを確認している。英国と日本は、戦闘機用試作エンジンを共同開発し、先進的な空対空ミサイル技術を共有する計画を発表しており、今回センサー開発がリストに加わった。次世代戦闘機の開発と調達のため約400億ドルを確保している日本が正式にテンペスに参加すれば、プログラムにとって大きな一歩となり、非常に高額な開発プロセスとなる可能性のあるテンペスが安定する効果が期待できる。

 一方、ウォレスは、過去にテンペスト計画に関与したスウェーデンに触れていない。スウェーデンが自国のJAS 39E/Fグリペンの開発で忙しいことと相まって、テンペスト戦闘機へのコミットメントが低いことを示唆しているのか。しかし、スウェーデンはまだFCAS(Future Combat Air System)に関わっている可能性があり、イギリス国防省高官が最近それをほのめかしていた。

 英国のFCASは、欧州の同名プログラムと混同されないように、有人第6世代戦闘機「テンペスト」を中心に据えている。しかし、米空軍や海軍のNGADと同様に、「忠実なるウィングマン」タイプの無人機や新世代の空中発射武器やセンサーなど、その他補完技術も含む。

 

 

BAEが最近発表したグラフィックには、タイフーン、F-35、E-7ウェッジテール、「忠実なウィングマン」タイプの無人機と共に、ネットワークチームの一員として働くテンペスト戦闘機が描かれている。BAE Systems

 

テンペスト有人戦闘機が、英国のFCAS事業全体にとって絶対重要であることは、BAE発表の実証機に関するプレスリリースの文言でも明らかだ。この機体が「英国の将来の戦闘航空システムを実現するために必要な技術と設計原理を証明する上で重要な役割を果たす」と述べている。実際、同じリリースでは「英国の将来の戦闘航空システムであるテンペスト」にも言及しており、有人戦闘機と包括的な「システム・オブ・システム」の境界がますますあいまいになってきていることを示唆している。

 BAE声明では、「実証機は、コアプラットフォームで使用する重要な技術、方法、ツールを実証する」とある。「テンペスト開発に関わる幅広い活動として、実証機プログラムは、野心的なこのプログラムを実現するのに必要な次世代スキルや専門知識の保持、さらなる開発、刺激にも役立つ」。

 

「テンペスト」に搭載予定の新技術には、新しい推進システム、センサーと対抗手段、コックピット・インターフェース、通信ネットワーク、ペイロード、自動化サポートなどがある。これらをどどう実現するかについて、BAEは現在、合成モデリングやモデルベース・システムエンジニアリングなど「新しいデジタルエンジニアリング技術」に取り組んでいるという。2035年までの初期運用能力による就役目標までの時間を短縮することが目的だ。

 

 

BAE Systems

 

BAEは先日、英国ランカシャーにある新しい「インダストリー4.0工場」で、「代表的な軍用高速ジェット機の機体」を製作したと確認している。機体構造の65%以上がロボット技術で作られている。

 

 

ハイテクで高度に自動化された新生産ラインで作られたBAEの「軍用高速ジェット機の代表的な機体」。テンペストの前部胴体や、新型デモンストレーターのプロファイルをイメージできる BAE Systems

 

ハイテクで高度に自動化された新生産ラインで作られたBAE社の「軍用高速ジェット機の代表的な機体」だ。テンペストの前部胴体や、新型デモンストレーターのプロファイルをイメージさせることができる。BAEシステムズ

 

同様のアプローチは、ボーイングサーブがアメリカ空軍の最新ジェット練習機「T-7Aレッドホーク」で採用している。また、空軍のeSeriesイニシアチブでは、新しい航空機、衛星、兵器システムなどの開発において「デジタルエンジニアリングがもたらす可能性を受け入れるよう企業を鼓舞する」目的で、(短期的に)信奉されていた。

 同時にBAEは、最先端の設計・エンジニアリング手法により、就航後の航空機をアップグレードする可能性を説いている。これが実現すれば、例えばタイフーンでは、必要なアップグレードが第1線に届くまでに何年もかかっているが、それと一線を画すものになる。

 次世代戦闘機計画も野心的だが、英国はタイフーン後継機に対して非常に高い目標を掲げている。イタリアや日本、さらに他国との提携による経済的、産業的な後押しがなければ、このプログラムが成功するとは考えにくく、これらのパートナーのいずれかを失えば、プログラムは麻痺しかねない。今週、レオナルドU.K.の主要航空プログラム担当ディレクターであるアンドリュー・ハワードAndrew Howardは、テンペスト計画は「一国だけで...実現するのは無理だ」と警告している。

 

同時に、テンペストとFCASプログラムは、BAEシステムズをはじめとする英国の戦闘機製造基盤を維持するために重要度を強めており、その成功は英国の産業部門にとって誇りになる。

 テンペストの「英国の長期的な防衛と安全保障における重要な役割」については、2035年頃にタイフーンの後継機が必要であることはよく知られているが、英国での運用が確立され戦闘実績のあるF-35B統合打撃戦闘機がこの仕事をこなし、より安価にできる可能性があると主張できるだろう。

 さらにF-35Bは、テンペストにはない英国海軍の空母運用が可能であり、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)の特性から、厳しい条件の滑走路や前方作戦拠点からの分散した運用に適している。

 

英国は、当初購入予定だった138機のF-35Bの全数導入を非常にためらっている。イギリス政府は、F-35B購入を減らして、テンペストやアスチュート級原子力潜水艦の後継艦、RAF宇宙司令部含むその他主要プロジェクトの予算にしようと考えているようだ。

 そして、将来の無人機とFCASの中での位置づけの問題がある。英国空軍の無人化計画「LANCA(Lightweight Affordable Novel Combat Aircraft)プログラム」では、BAEのいう「複雑かつ急速に進化する戦場」の要求に応えるために、どのような無人機が必要になるか検討中だ。この考え方の一環として、有人機と半自動的に協働可能な忠実なるウイングマン型無人機を試験するはずだったプロジェクト・モスキートが中止されたばかりだ。

 一方、BAEは先週、新しいタイプの無人航空機のコンセプト2種を発表した。1つは、単独でもネットワーク化され同時大量投入可能な比較的小型無人機、もう1つは大型で、近年他社が提唱中の無人戦闘機のコンセプトに沿ったものだ。イギリスが無人機をどのように利用するか、どの任務で無人機を構成するか、どの程度の自律性を持たせるかなど、非常に多くを検討中である事実を示していると言えよう。

 

 

BAE Systemsが発表した「アジャイル&アフォーダブル」な2つの新しい無人機コンセプト。 BAE Systems

 

 

英国のアプローチはロッキード・マーチンと平行しているようだ。最近、同社のスカンクワークス先端プロジェクト部門は、無人戦闘機(UCAV)のような設計とともに、拡張可能な群れ成分を含む多層分散型有人・無人チーミングのビジョンについて概説していた。

 無人機の大群と無人戦闘機の最適な組み合わせや、従来の有人戦闘機の任務をどこまで担えるのかなど、英国の研究結果が「テンペスト」の行く末に影響を与えることは間違いない。

 テンペストが約束する能力は、少なくとも紙の上では説得力があるが、実際に機体が使用できるようになると、そうでもないように思われるかもしれない。というのも、このスケジュールは非常に野心的だからだ。今後5年以内に実証機が飛行開始すれば、初飛行から量産型テンペストの初期運用まで、8年しかないことになる。タイフーンでは、実証機の初飛行から就航まで17年を要したのと比較すれば、差は歴然としている。

 設計とエンジニアリングの進歩がこのギャップを埋める役割を果たすだろうが、経済の現実と、非仮想領域での予測不可能な試験作業の性質が相まり、過去の戦闘機プログラム同様にハードルが生まれる可能性が高い。

 さらに、このプログラムが成功するためには、大きな経済的利益が生まれ、資金をF-35Bの追加や無人システムへの投資、その他限られた資金を争う大型防衛計画に使うより良いと、説明を求められそうだ。■

 

 

Let’s Look At The UK’s Plan To Fly A Tempest Fighter Demonstrator In Just Five Years

BYTHOMAS NEWDICKJUL 20, 2022 6:37 PM

THE WAR ZONE

 

 


ウクライナ戦の最新状況(現地時間7月21日現在) ロシア軍の攻勢が大きな成果を上げていない

 

Feature Image: Russian tank trapped after Ukrainians demolished a bridge in Kalynivka (Mykolaiv Oblast) on 2 March 2022. (Ukrainian Ministry of Internal Affairs)



ロシアのウクライナ侵攻が始まって148日目の木曜日、ロシア軍はドンバスの一部でわずかな領土を獲得したが、突破口を開くまでには至っていない。


ウクライナでの戦争

ドンバス地方では、ロシア軍はスロビャンスク(北部)とアブディフカ(南部)に対する地上攻撃を再開し、シヴェルスク(北部)とバフムート(南部)に対する攻勢を継続し、いくつかの限界的な利益を得た。

 戦争研究所は、「現在のロシアの攻撃は、高速道路E40の北東にあるドンバスで限られた追加的な領土を確保するかもしれないが、スロビャンスクやバフムートのような主要人口地域を奪取する前に終了するだろう」と評価している。



「ロシア軍はここ数週間、スロビャンスクやシヴァースク・バフムト岬に向かって大きな前進できておらず、ドネツク州内の比較的重要でない小さな集落を巡る局地戦において、自らの攻撃戦闘力を低下させ続けている」と述べた。ロシア軍は7月3日にリシチャンスクとルハンスク州境を占領して以来、特にシヴァスクを奪取しようとしているが、7月20日の時点ではまだ到達していない」と戦争研究所は付言している。

 南部戦線のケルソン、ザポリジャ方面では、ウクライナ軍が2都市奪還の条件が整いつつある。ドンバスでのロシアの攻勢とほぼ同時に開始されたこの地域でのウクライナの反攻は、ケルソン郊外に到達している。ウクライナ軍は高機動砲ロケットシステム(HIMARS)を使って、ケルソンにつながるロシアの通信・補給路を標的にしている。ウクライナ軍は、ケルソンと後方の他のロシア軍拠点とを結ぶ唯一の道路であるアントニフスキー橋を繰り返し標的にしている。


ロシア軍の損失



HIMARSが命中したとされるアントニヴスキイ橋。

(Twitter via @thedimsol)


ウクライナ軍は連日ロシア軍損失の最新情報を提

供している。これらの数字は公式の数字であり、個別に検証されたものではない。

 しかし、欧米の情報機関の評価や独立した報道は、ウクライナの主張する犠牲者数をある程度裏付けている。例えば、オープンソースの情報調査ページ「オリックス」は、約900両のロシア戦車(これはフランス、ドイツ、イタリア、イギリスの合計装甲能力を上回る戦車数)およびあらゆるタイプの4,700両以上の軍用車両の破壊または捕獲を視覚的に確認し、この評価は英国国防省によって確認されている。

 この評価は英国国防省によって確認されている。他のほとんどのウクライナの主張についても、同じように独立した検証が存在する。最近、米国防総省は、ロシア軍が1,000両以上の戦車、数十機の戦闘機やヘリコプターを含むあらゆる種類の戦闘車両を数千台失ったと認めた。

 さらに、西側情報機関の関係者を引用した最近の報告によると、ロシア軍はこれまでの戦争で最大2万人の死者を出しているという。英国国防参謀総長のトニー・ラダキン卿は最近、BBCの取材に対し、西側はこれまでの紛争で5万人以上のロシア軍が死傷したと理解していると述べた。ウクライナの数字を正確に受け止めるならば、ラダキン卿の言う数字は低い方である。

 とはいえ、実際の数字を確認するのは、現地にいないと非常に難しい。しかし、戦争の霧などを調整した後の西側の公式数字は、ウクライナの主張にかなり近いといえる。

 木曜日の時点で、ウクライナ国防省は以下のロシア人犠牲者を主張している。


  • 戦死38,850(負傷者・捕虜はその約3倍)

  • 装甲兵員輸送車および歩兵戦闘車 3,912

  • 車両および燃料タンク 2,781

  • 戦車1,704

  • 大砲859

  • 戦術的無人航空機システム 710

  • 戦闘機、攻撃機、輸送機 221

  • 多連装ロケットシステム(MLRS) 251

  • 攻撃・輸送用ヘリコプター188

  • ウクライナ防空隊が撃墜した巡航ミサイル167

  • 対空砲台113

  • 架橋装置などの特殊装備プラットフォーム 72

  • ボート・カッター15

  • 移動式弾道ミサイルシステム「イスカンダル」4


Russian tank getting hit in UkraineA Russian tank hit by incoming fire. (File photo)


この数週間、ドンバスで継続的な圧力と攻撃作戦にもかかわらず、ロシアの死傷者の割合は鈍化している。このことは2つのことを示唆している。1つは、ロシア軍の指揮官が攻撃作戦に慎重になっており、目的を達成するために複合兵器を十分に活用していること、もう1つは、ウクライナ軍が戦闘力や弾薬を使い果たしつつあること、これは5カ月近くロシア軍と戦ってきた中で予想されることである。最近の現地からの報告によると、この2つの要因はいずれも事実であり、戦いの疲労が双方に追いついてきているようである。

 5月の大半、ロシア軍の死傷者が最も多かったのは、スロビャンスク、クリヴィエリ、ザポリジャの3地域であり、そこでの激しい戦闘を反映していた。数日後、数週間後、激しい戦闘はスロビャンスクの南東、セベロドネツク、ライマン、リシチャンスク周辺のバフムト方面へと移っていった。

 その後、ヨーロッパ最大級の原子力発電所があるケルソン、ザポリジヤ周辺でのウクライナ軍の反攻により、最も犠牲者の多い場所は再び西に移動した。

 その後、犠牲者の集中は再びドンバスに戻り、特にセベロドネツクとリシチャンスクという、ロシア軍が最近獲得に成功した2つの都市とその周辺に移った。

 木曜日、ウクライナ軍はバフムト方面で最も多くの死傷者を出した。

 ロシア軍の東部での新たな攻勢の目的は、ドネツクとルハンスクの親ロシア派の離脱地域を完全に支配下に置き、これらの地域と占領下のクリミアとの間に陸上回廊を形成し維持することであると表明している。



RUSSIA HAS LOST MORE THAN 1,700 TANKS IN UKRAINE

Stavros Atlamazoglou | July 21, 2022

https://www.sandboxx.us/blog/russia-has-lost-more-than-1700-tanks-in-ukraine/


2024年大統領選挙にハリス副大統領が出馬すれば民主党は後悔することになる。資質面で大いに疑問の残るハリス、ではバイデンは再戦を断念するのか。

  

2021年3月8日(月)、ホワイトハウスのアイゼンハワー行政府ビルのサウスコート講堂から、ビデオ会議で全米都市連合に発言するカマラ・ハリス副大統領。 (Official White House t by Lawrence Jackson)

 

大統領職は、大統領職への出発点と認識されてきた。副大統領の実際の権限や影響力は政権により異なるが、副大統領は必ず世間の注目を浴び、党が後継の大統領を選ぶときには、デフォルトで最有力候補となる。カマラ・ハリスもその例に漏れない。バイデン大統領が2024年に再出馬するかどうか、ホワイトハウスがメディアに何と言おうと、まだ迷う中で、識者はハリスを後継候補のトップ3に取り上げている。

 ハリスは、トルーマン、LBJ、ニクソン、フォード、ブッシュ41、ゴア、バイデンといった、最終的に党の切符を握ることになる歴代の副大統領の錚々たるメンバーに加わる。前例から言えば、ハリスは民主党大統領候補として理にかなっている。しかし、政治的には、ハリスは誤った選択であり、過去にも前例のあった間違いだ。

 

 

党内政治

政治は重要だ。理想的な世界では、政治家の政策選択と統治能力が、各自を判断し、選出する唯一の基準であるだろう。実力主義、実質主義の評価システムのはずだ。しかし、現実には、「政治的能力」は、政治家としての資質、あるいは最も重要な条件である。政治的能力は、正確に定義するのは難しい。場を読むこと、自分を売り込むこと、何事もポジティブにとらえること、批判から抜け出すこと、すべての有権者に気を遣わせること、などが関係する要素だ。政治的能力を正確に定義するかは別として、見極めるのは簡単だ。誰かがそれを持っていれば、わかる。そして、持たない人もわかる。カマラ・ハリスは、持っていない。

 過去の候補者-そして大統領-は、持っていた。テレビ時代の今日、大統領になるには、ある程度の政治的駆け引きが必要だ。ロナルド・レーガンにはそれがあった。彼は、並のIQと表面的な政策観にもかかわらず、世代を代表する政治家だった。ビル・クリントンもそうだった。ロバート・レッドフォードの映画にちなんで、スタッフが彼を「ザ・ナチュラル」と呼ぶほど、クリントンには才能があった。クリントンは、一世一代の政治的才能の持ち主だった。1992年の民主党予備選挙で、クリントンは混戦で若手候補だった。ニューハンプシャー州予備選の直前に、クリントンが女たらしで、ジェニファー・フラワーズと12年間も不倫関係にあったという真偽不明の疑惑が持ち上がった。この話で、他の政治家であれば、破滅していただろう。しかし、クリントンは違った。クリントンは、事件を利用し、選挙戦を盛り上げたのだ。1992年の60ミニッツで、クリントンは「How To Sidestep」のマスタークラス・レッスンを受けている。

政治は重要だ。アル・ゴアは、シャープで熱心、かつ謙虚で、素晴らしい経歴を持つ大統領候補だった。しかし、ゴアは硬く不器用だった。政治家として失格だった。彼は総選挙でジョージ・W・ブッシュに敗れた。ジョージ・W・ブッシュは比較的スパルタンな経歴を持ち、飲酒運転の経歴があり、話し方が下手な男だった。しかし、ブッシュは、自分が男の一人であり、一緒にビールを飲める相手であると人々に感じさせることができた。一方、ゴアは税金の監査者に見ている気分にさせた。

 同様に、2016年のヒラリー・クリントン候補は、驚異的な経歴を持つ政治的王族だった。しかし、彼女は時代精神に優れたカーニバルで吠える大馬鹿者に負けた。ヒラリーは時代の精神を理解していなかった。ひどい、ひどい政治家だった。彼女は、店員の生活を惨めなものにするのを楽しむタイプの人間に見えた。さらに重要なことは、彼女には夫のような 「くねくね」対応する能力が欠けていただった。ビルは不倫を選挙戦の追い風にできたが、ヒラリーは電子メールスキャンダルで何ヶ月も選挙戦を苦しんだ。

 政治的才能という点では、ハリスはビルよりもヒラリーに似ている。ハリスには政治的才能がない--彼女の2020年キャンペーンが具体的に示しているように。

 

選挙戦でのハリス

 ハリスが2019年1月にグッドモーニングアメリカで出馬表明したとき、うらやましいほどの勢いがあった。何年も前から、ハリスは2020年候補者選出のフロントランナーと考えられていた。彼女の瞬間は間近に迫っていた。しかし、選挙戦は大失敗だった。彼女は2019年12月、DNCの予備選のかなり前に、選挙戦から撤退した。全国的な知名度にもかかわらず、ハリスのキャンペーンは、ジュリアン・カストロ、マリアンヌ・ウィリアムソン、ジョン・ディレイニーといった低位候補によるはるかに知名度の低いキャンペーンの前に頓挫していた。. 

 #KHiveと呼ばれるハリス支持者たちは、ハリスの早期敗退を人種差別や性差別のせいにするのが常だった。馬鹿げた議論だ。過去3名のDNC大統領候補は、黒人か女性だった。そして、左派が黒人女性を大統領候補にしたいと表明したことで、ハリスは最終的に副大統領候補になった。だから、人種差別と性差別がハリスの選挙戦を破滅させたのではない。

 本人の政治的無能さであり、不明瞭なメッセージ発信と結果としての資金不足であり、左派が刑事司法改革を求めているにもかかわらず、「私はタフな検事だ」というテーマに依存していたことであった。

 最後に再度強調しておく。左派が刑事司法制度を深く批判し、「Defund The Police」運動が起こる環境で、ハリスは「Ms. Top Cop」として出馬したのだ。間違った政治選択だ。そして、政治は重要である。カマラ・ハリスが2024年大統領選挙に勝てるか疑わしく思う。■

 

Kamala Harris 2024? Democrats Should Say Hell No

 

ByHarrison Kass

https://www.19fortyfive.com/2022/07/kamala-harris-2024-democrats-should-say-hell-no/

 

Harrison Kass is the Senior Editor at 19FortyFive. An attorney, pilot, guitarist, and minor pro hockey player, he joined the US Air Force as a Pilot Trainee but was medically discharged. Harrison holds a BA from Lake Forest College, a JD from the University of Oregon, and an MA from New York University. He lives in Oregon and listens to Dokken. Follow him on Twitter @harrison_kass.


2022年7月21日木曜日

ハインラインの未訳小説Sixth Column(1941)第8章 組織の拡大と運営方法の進化。パンアジア当局の受け止め方

 第8章

デンバー、シャイアン、ソルトレイクシティ、ポートランド、シアトル、サンフランシスコ。カンザスシティ、シカゴ、リトルロック、ニューオリンズ、デトロイト、ジャージーシティー リバーサイド、ファイブポインツ、バトラー、ハケットスタウン、ナティック、ロングビーチ、ユマ、フレスノ、アマリロ、グランツ、パークタウン、ブレマートン、コロナド。ウスター、ウィッケンバーグ、サンタアナ、ビックスバーグ、ラサール、モーガンフィールド、ブレイズビル、バーストウ、ウォールキル。ボイシ、ヤキマ、セントオーガスティン、ワラワラ、アビリーン、チャタフーチー、リーズ、ララミー、グローブ、サウス、ノーウォーク、コーパスクリスティ。ノーウォーク、コーパスクリスティ。

 「平和があらんことを。平和とは素晴らしいものです!病める者、重き荷を負う者、皆来たれ!来てください!あなたの悩みをモタ公の神殿に。マスターが踏み入れられない聖域にいらっしゃい。入りなさい。白人らしく頭を上げなさい。「弟子がやって来るぞ!」。

 「赤ん坊の女の子が腸チフスで死んだって?連れていらっしゃい!タマルの黄金光で元気になりますよ。仕事がなくなり、労働キャンプに入れられそうだって?入りなさい!入りなさい!ベンチで寝て、いつでも食べ物があるテーブルで食事しなさい。仕事はいくらでもあります。巡礼者になれば、人々に言葉を伝えることができます。指導によってのみ利益を得ることができます。

「代価は誰が払うのでしょうか?主よ、あなたを愛しています、男よ、金はモタからの贈り物です。「急ぎなさい!弟子がやって来るぞ!」

 彼らは押し寄せた。最初は好奇心で来た。新しく、びっくりするような、コケティッシュなこの宗教は奴隷の苦痛と単調な現実からの気分転換になったからだ。派手な広告へのアードモアの本能的な信念が、結果的にそれを正当化することになった。もっと普通で、もっと威厳のある教団なら、このような「家」は受け入れなかっただろう。

 しかし、このカルト集団では、そのようなことはなかった。食事はタダだし、問答無用で夕食までいられるのなら、無邪気な讃美歌を歌ってもかまわない。あの神官たちはアメリカ人では滅多に口にできない贅沢品、バターやオレンジ、赤身の肉などを買う余裕があった。代金を帝国倉庫で硬貨で支払えば、アジア人会計係の顔に笑みがこぼれる。その上、地元の神官は、本当に困っている人がいれば、いつでも手を差し伸べてくれた。必要なことだ。なぜ、信条にこだわるのか。この教会では、信条を守ることを求めない。宗教を捨てろと言われることもなく、信仰があるかさえ聞かれない。確かに、神官と従者たちは、自分たちの六神合体した神をかなり真剣に受け止めているように見えたが、それがどうした?信教の自由を信じてなかったのか?その上、彼らが良い仕事をしているのは認めざるを得なかった。慈悲の女神タマルには何かあるのかもしれない。ジフテリアで窒息死した子供をシャームのサーバーで眠らせた後、タマルの黄金光線で洗われ、1時間したらまったく健康で歩き出すのを見たら、不思議に思う。医者の半分が死に、軍隊と残りの多くが強制収容所に送られ、病気を治療できる人を見つけるのは大変だった。迷信的なたわごと?私たちは現実的な人間ではないか?大事なのは結果だ。

 しかし、物質的な利点よりも、心理的な利点の方がより深く切り込まれていた。モタ神殿は男が頭を上げて恐れる必要のない場所であった。自分の家でもできないことだ。「聞いたことないですか?平たい顔族は、この寺院に足を踏み入れたことがないそうだ。白人に変装しても入れません。そもそもドアの前でノックアウトされるそうです。あいつら猿どもはモタを死ぬほど恐れていると思う。あいつらが何をつかんでいるかは知らないが、寺院の中では木に得ず息ができる。さあ、いらっしゃい、行けばわかりますよ」


 デイヴィッド・ウッド神父は、友人の同じく敬虔なドイル神父のもとを訪ねた。ドイル神父は彼を中に入れた。「デイヴィッド、入ってくれ」と挨拶した。「楽しい顔をしているね。きみは楽しい人だ。久しぶりだね」小さな書斎に連れて行き、座らせタバコを勧めた。ウッドは夢中でそれを断った。

 二人の会話は、どうでもいいような話題から別の話題へと無造作に流れた。ドイルはウッドが何か考えているのがわかったが、年老いた司祭は我慢することに慣れていた。若い男がその話題を切り出せない、あるいは切り出そうとしないのが明らかになり、その話題に誘導した。「何か思い悩んでいるようだね、デイヴィッド教えてくれないか」。

 デイヴィッド・ウッドは思い切って言った。「神父様、モタの神官と呼ばれる一団をどう思いますか?」

 「どう思うって?どう思えばいいんだ?」

 「言い逃れはやめてください、フランシス。異教徒が自分の鼻先で商売を始めるのが気にならないんですか?

 「議論したいのか、ディヴィッド。そもそも異教徒とは、異教徒の宗教とは何だろうか?」

 ウッドがいぶかしげに言った。「おわかりでしょ! 偽りの神々です。ローブ、奇妙な神殿、そして儀式!」。

 ドイルは優しく微笑んだ。カトリック儀式と言おうとしたんだろう、デヴィッド?いや、私は奇妙な道具に大きな関心がない。しかし、『異教徒』の定義については

神学を厳密にみれば、地上の牧師の権威を認めない宗派はすべて『異教徒』と見なさざるを得なくなる」。

 「ふざけないでください!そんな気分じゃないんです」

 「ふざけてないよ。神学の厳密な論理にもかかわらず、こう付け加えたい。神はその慈悲と無限の知恵で、きみのような人でも聖なる都に入れるのだ。さて、モタ神官については、あのひとたちの信条に欠陥がないかどうか調べたわけではないけど、役に立つ仕事をしているように見えるんだ」

 「それこそが心配事なんです、フランシス。信徒に不治の病にかかった女性がいました。彼女のようなケースを知っていて、それがどうやら......。あの魔術師たちによって!私はどうしたらいいのでしょう?祈ったけど、答えは出なかったんです」

 「どうしたんだね」

 「弱気になった私は、彼女を彼らの元へ送りました」

 「どうだった?」

 「彼女は治癒しました」

 「だったら、心配はいらない。神はわれわれより器は大きい」

 「ちょっと待ってください。一度だけ彼女は私の教会に戻ってきましたが、その後、またどこかに行ってしまった。女性の聖域とでも言うべき場所に入ったのです。彼女は行ってしまったんだ、完全に失ってしまいました。偶像崇拝者たちのところへ!苦しいです、フランシス、彼女の肉体を癒しても魂はどうなってしまうのでしょう?」

 「いい女か?」

 「最高です」

 「神は彼女の魂に目を留められると思う。君や私の助けがなくてもね。 それにね、デビッド。いわゆる聖職者は、霊的な事柄に関して、あなたや私の助けを求めることはない。彼らは結婚式を挙げたりはしませんよ。彼らの建物を使いたいのならきっと簡単に見つかるだろう」

 「想像もつきません」

 「たぶん、たぶんね。懺悔室に盗聴器が隠されていたんだ」。神父の口が一瞬、怒ったような薄い線になった。「それ以来、寺院の一角を借りて、アジア人マスターが興味を持ちそうなものを聞いてるよ」

 「フランシス、そんなことしてはいけません!」。そして、もっと穏やかに、「司教はこのことを知っていますか?」

 「さて、司教は忙しいので...」

 「そうなんですか、フランシス」

 「さて、さて、司祭に手紙を書いた。できるだけ明確に状況を説明した。近いうちにその方角に旅行する人を見つけて、持たせる。私は、教会の大事な仕事を一般人に渡したくない」

 「ということは、まだ話していなんですね?」

 「彼に手紙を書いたと言ったよね?神がその手紙を見ている。司祭が読むまで待ってても損ではない」

 デイビッド・ウッドがアメリカ陸軍のシークレットサービスに宣誓したのは、その2ヶ月近く後だった。旧友のドイル神父が、自分と認識信号を交わすことができると知ったとき、軽く驚いただけだった。

 どんどん大きくなっていった。組織とコミュニケーションは、派手なつくりの神殿の下で、正統派の科学では発見できないように遮蔽されている。各神殿の地下で、オペレーターたちが監視していた。日の目を見ることなく、誰の目にも触れることのないオペレーターたちが、パララジオの機器を操作している。アジア占領軍が行方不明者として区分した男たち。過酷な日常を戦争の必要条件として哲学的に受け入れている男たち。

 士気は高く、再び自由人となり、自由に、そして戦っていた。そして、自分たちの努力によって、全土で、すべての人が自由になる日を心待ちにしていた。シタデルに戻ると、ヘッドホンをした女性たちが、パララジオのオペレーターが報告しなければならないことをすべて、タイプし、分類し、凝縮し、クロスインデックスする。1日に2回、通信監視員が過去12時間分の報告書をアードモア少佐の机に置いた。一日でアードモア少佐宛ての通信が、教区1,500以上から届き、机の上に積み上げられた。しかも、1枚1枚に目を通さなければならない。研究室からの報告書も山積みになっていた。カルフーンは一日に16時間も働いていた。人事課では、さらに多くの報告書、気質の分類、認可の要請、各部署への通知などがあった。この部門にはこんな人員が必要だ、という通知である。人事課は頭痛の種だった。いったい何人の人間が秘密を守ることができるのだろうか?人事には大きく分けて3つの部門があった。女性秘書や事務員は、外部接触を完全に遮断されていた。一般人と接する地元の寺院の職員は、必要なことしか知らされず、軍隊に所属していることも知らされなかった。そして、どうしても知っておく必要がある「神官」たちである。後者は秘密を守ることを誓い、アメリカ陸軍に入隊し、陰謀の本当の意味を知ることを許された。しかし、彼らでさえも、根底にある秘密、つまり奇跡の背後にある科学的原理を知ることは許されなかった。そのために、細心の注意を払って訓練された。最初の7人を除いては、レドベター効果とその関連性を知る者はシタデルから一人も出なかった。

 神官候補者は、各寺院からデンバー近郊のマザー・テンプルに巡礼者として送り込まれた。そこで、寺院の建物とシタデルの間の地下にある修道院に滞在した。彼らはあらゆる試練にさらされ、性格に関するあらゆるテストが行われた。落伍者は、地元寺院に送り返され、平信徒の兄弟として奉仕させられた。故郷を離れたときよりも賢くなれなかった。

 合格者、つまり、怒らされ、饒舌にされ、忠誠心を失わせる目的のテストを生き延びたものたちはモタの大神官、万物の霊長アードモアの面談を受ける。半数以上が、理由もなく、直感だけで、落とされた。

 ここまでの用心深さにもかかわらず、アードモアは破滅をもたらす弱点があるのではないか、という深い不安なしに一度も新しい士官を任命し、説教に送り出したことがなかった。

 緊張が彼にとりついていた。一人にあまりにも多くの責任があり、あまりにも多くの詳細、あまりにも多くの決断が必要だった。彼は、ますます目の前のことに集中できなくなり、簡単な決断さえできなくなった。自分自身に自信が持てなくなり、イライラするようになった。気分は彼に接する人々に伝染し、組織全体に広がっていった。

 何とかしなければならない。

 アードモアは、自分自身の弱さを診断することはできないまでも、自分自身に正直であった。トーマスを自分のオフィスに呼び、心の内を打ち明けた。そして「どうしたらいいと思う?この仕事は、俺には大きすぎるんだろうか?どうしたらいい?」

 トーマスはゆっくり首を振った。「そんなことはないと思いますよ、隊長。あなた以上に働いているのは一人もいません。一日は24時間しかないんです。それに、誰があなたの代わりになってもあなたくらい背景を熟知しているものはおりませんし、私たちが何をしようとしているのか想像力を働かせなければ、誰がやっても同じ問題が起こるでしょう」

 「何とかしなければならない。そろそろ、このショーの第二段階に入ろうと思っているんだ。パンアジアの神経を逆なでするよう計画的に動くんだ。危機的状況に陥ったときに各寺院の信徒が軍事行動できるようにしなければならない。そのためには、より多くの仕事をこなさなければならない。私には無理だ!やれやれ…どこかの誰かが…幹部組織を科学的に解明して、トップが狂うことなく、大きな組織を扱えるようにしなくては。この二百年間、あの忌まわしい科学者たちは研究室から次々とガジェットを運び出してきた。しかし、組織をどう動かすかについては、一言も語らなかった」マッチを激しく焚いた。「合理的じゃない!」

 「隊長、ちょっと待ってくださいよ」 トーマスは眉間に皺を寄せて、必死に思い出そうとした。「たぶん、同じことが前にもありました…以前読んだものを思い出しました。ナポレオンが最後の将軍だったというようなことを読んだような気がします」

 「え?」

 「それは適切なんです。その著者は、ナポレオンが直接指揮を執る最後の将軍と考えたのです。数年後、ドイツ軍が参謀指揮の原理を発明した。将軍は将軍としての役割を終えたということです。こう考えたんです。ナポレオンは参謀が率いる軍隊には歯が立たなかっただろう、と。おそらく、必要なのは幕僚です」

 「頼むよ、スタッフはいるよ!秘書12人とその倍の数の使者や事務員がいる」。

 「本が言っていたのはそういうことではありませんよ。ナポレオンはそういうスタッフを持っていたに違いない、って」

 「では、何を言いたかったんだ?」

 「正確でないけど、近代的な軍隊組織では標準的な考え方だったらしい。あなたは陸軍大学校を卒業していないのですか?」

 「してないよ、知ってるだろう」それは真実だった。トーマスは、アードモアが職業軍人でないことを、付き合いのごく初期から察知していた。ふたりは口を閉ざした。

 「陸軍大学校を卒業した人なら、組織について何かヒントをくれるかもしれませんね」

 「とんでもない。彼らは戦死したか、崩壊後に粛清された。逃げ延びた者がいれば、身を隠して最善を尽くしているはずだ」

 「いや、そうでしょうね。まあ、忘れてください。いいアイディアではなかったようです」。

 「急がないでいい。いい考えだったんだ。いいか、軍隊だけが大きな組織じゃないんだ。大企業がある。

スタンダード・オイルやU.S.スチール、ゼネラル・モーターズのような大企業も、同じ原理で動いていたに違いない」

 「そうかもしれませんね。とにかく、幹部がかなり若いうちに燃え尽きてしまう現象があります。将軍は斧で殺すべきなんですよ」。

 「それでも、何かを知っている者がいるはずだ。探し出してくれないか」。

 15分後、パンチカードセレクターが、組織内すべての男女の人事ファイルを急速に調べた。その結果、数人の経営経験者がシタデルで、大なり小なり事務的な仕事をしていることがわかった。その人たちを呼び寄せ、さらに十数人を呼び寄せる指令が出て、母体寺院に「巡礼」するよう召集された。

 最初のトラブルシューターが面倒をおこした。彼は、高圧的な性格で、アードモアの個人的な監督に近い形でで自分の会社を経営していた。彼の提案は基本原則の変更というよりは、ルーティングやフォーム、省力化に関わるものであった。しかし、やがて、直感的に、実践を通して、教義の原則を知っている、穏やかで慌てない男たちが何人か集まってきた。

 その1人は、以前は通信事業団の本部長を務めていたが、実は近代軍隊の組織の研究者であり、崇拝者であった。アードモアは彼を参謀長に任命した。彼の協力で

シアーズ・ローバックの元人事部長、東部のある州で公共事業省の常任次官を務めていた人物、保険会社の事務局長。そのほかにも、いろいろな人が加わってきた。

うまくいった。アードモアは最初、このやり方に慣れるのに少し苦労した。しかし、やがて、「この人たちなら大丈夫」と思えるようになった。これらの分身が、実は自分のポリシーを適用し、自分ならこうする、という決断を下すことができることに気づいた。

 そうでない者は、参謀長の提案で処分した。しかし、単純だが強力な参謀指揮の科学的原則のもとで、他の人々が自分の仕事を自分のやり方でやっているのを見る時間があるのは、不思議なことだった。

 彼はついに、この方針を完成させることに注意を払い、参謀が時折見せる本当に新しい状況に徹底的に対処する自由を手に入れた。

 時折、本当に新しい状況が発生し、その解決と新たな政策の立案を参謀が照会してきた。

 そして、彼はぐっすり眠ることができるようになった。「もう一つの頭脳」が一つ、あるいはそれ以上が警戒して仕事に取り組んでいると確信でき、彼はぐっすり眠っただった。

 たとえ自分が殺されても、拡張された脳は任務が完了するまで働き続ける。

 パンアジア当局が、この新しい宗教の成長と広がりを満足して見ていたと考えるのは間違いだろう。発展の重要な初期段階において、彼らは危険なものを相手にしていることに気づかなかっただけなのだ。モタ教団と最初に接触した死亡した中尉の経験による警告をパンアジア当局は聞き入れなかった。話の単純な事実が信じられなかったのである。

 旅行と活動の権利を確立した後、アードモアとトーマスは、各伝導師に機転を利かせ、謙虚になり、現地当局と友好的な関係を築くことが重要であると教えた。神官が提供する金品は、アジア人にとって非常にありがたいものだった。そのため、アジア人は、神官たちに対して、他の人たちより寛大な態度で接するようになった。彼らには、無理からぬことであった。帳尻を合わせるのを手伝う奴隷は、いい奴隷に違いない、と。最初はこの言葉がモタ神官を奨励し、国の強化に貢献するように指示された。

 確かに、パンアジア警察や小役人で神官を相手に非常に不愉快な思いをさせられたこともあった。しかし、このような事件はパンアジアの面目を失わせるため、口外しない傾向が強かった。

 モタの神官は皆、厄介な、いや、耐え難い特徴を持っていると、上層部を納得させるのに相当の時間がかかった。彼らは手を触れてはいけないペルソナに包まれているようだった。ボルテックス・ピストルも効かない。逮捕されても受動的に服従するが、なぜか刑務所に留まることはない。最悪なのは、モタ神殿へは、どんなことがあっても、パナアジア人の視察が許されないことだった。

(第8章おわり)