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イラン核開発の中心人物がテヘラン近郊で暗殺された。
モセン・ファクリザデMohsen Fakhrizadehはイランのトップ核科学者で「イラク核兵器の父」とまで呼ばれていたが、2020年11月27日暗殺され、乗用車で移動中のファクリザデをイスラエル情報機関モサドが襲撃したとのニュースが出ている。この記事の前にトランプ政権が次期大統領ジョー・バイデンの就任前にイラン核施設攻撃を検討しているとの報道があった。バイデン陣営はイラン核開発をめぐる国際体制へ復帰すると表明している。
襲撃場所はテヘランから50マイル東のアブサードAbsard市内で、発砲後に爆発音が聞こえたとの目撃談をてイラン革命防衛隊(IRGC)とつながる準国営ファルス通信が伝えている。
ソーシャルメディアには黒色の日産車の画像映像が流布しており、ファクリザデが乗っていた車両のようだ。銃弾が命中しており、地面には血だまりが見える。その他写真でも爆発の影響を受けた別の車両が視認され、当初の目撃談と合致しており、襲撃犯はまず日産車を無理やり停車させてから射撃したようだ。爆発に使われた車両に特殊爆薬が仕掛けられていたのか、別の爆発装置が道路わきにあったのかは不明だ。
ファルス通信は襲撃で死亡者は三名ないし四名と伝えいており、襲撃犯にも死亡者がいたとするうが、身元や死亡者数の確定は困難だ。当初報道でァクリザデ本人は襲撃後も生存とあったのはこの混乱の反映だ。イラン当局は死亡を確認した。今のところ犯行声明を出した集団はない。
米イスラエル両国の情報機関はファクリザデをイラン核開発のトップ人物ととらえ、1989年に始まったアーマッドプロジェクトと呼ばれる核兵器開発は2003年より公式に一時中止されたという。
ファクリザデ自身もIRGC幹部であり、イランが平和目的と自称する民生分野への応用にあたってきた。米イスラエル両国政府はこうした活動は核兵器開発継続の隠れ蓑と断定している。
ファクリザデは国防技術革新研究機関のトップを務めているといわれ、SPNDと呼ばれる同機関は米国の制裁措置対象になっている。イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は2018年にイスラエル情報工作員がイランから押収した大量の核関連資料を公表した際に本人を核開発責任者として名指していた。
国際原子力エナジー機関(IAEA)はネタニヤフ記者会見はイランが核兵器開発をその後も継続していた証拠にならないと断定。
イラン政府はIAEAによる核施設立ち入りを拒否しており、そのひとつがパルチンParchinで国連査察は2015年以来実現していない。査察時にウラニウム粒子がみつりIAEAは重要な証拠ではないとしたがバラク・オバマ政権は同地で原爆開発が継続していた証拠と断定したといわ。パルチンでの研究開発がいつ始まっていたかは不明だ。
ニューヨークタイムズ記事はイスラエル情報機関モサドがファクリザデ襲撃の実行犯と断定した。2010年から2012年にかけイラン核科学者を相次いで暗殺した事件でもモサドがとりざたされていた。2007年にも別の核科学者をモサドが暗殺していた可能性がある。イランは2015年の暗殺は未遂にできたと主張しているが標的人物は明らかにしていない。米イスラエル共同作戦のスタクスネットコンピュータウィルスでイラン核開発が大きく停滞したのは2010年のことだった。
またアルカイダ幹部アブ・ムハマド・アルマサリAbu Muhammad Al Masriがイラン国内で8月に暗殺された事案でもモサドが関与していた。アルマサリはケニア、タンザニアの米大使館襲撃事件(1998年)の立案に関与した嫌疑があり、イラン政府の保護でイラン国内に潜伏していたが、実は軟禁状態でイランは国際テロ組織へ影響力を行使していた。
イラン各地で今年初めから謎の爆発発表事件が連続発生しており、ナタンツNatanzでは濃縮ウラニウム遠心分離機施設が爆破された。こうした事件はイスラエル工作員の仕業との報道が出ており、背後に米情報機関の支援を疑っていた。
イランは中東の代理勢力とともに暗殺や襲撃事件の標的となっており、多くでイスラエルの関与がとりざたされている。中でも米無人機によるカセム・ソレイマニIRGCクッズ部隊司令の暗殺事例が著名だ。クッズ部隊はイラン国外の活動の中心組織で本人は1月にバグダッド国際空港付近で標的になった。
ファクリザデ暗殺でイランは最も経験豊かな専門家を失ったものの核兵器開発が止まるわけではない。ただし、イランでは最上位の核関連専門家でさえ安全でいられないとメッセージを突き付けられた。
またファクリザデ暗殺でバイデン政権によるイランとの交渉に暗雲がふさがり米国の核合意復帰が困難になるとの観測が出ている。トランプ政権が合意脱退を2018年に実行するやイランは数々の合意違反に踏み切り、ウラニウム濃縮量は合意水準以上に増えた。トランプ政権はヨーロッパにも合意撤廃を求めてきた。
イスラエルが暗殺実行犯なら、それは現在のイスラエル政権が望む秘密工作の実行の一環にすぎず、一方米国はイスラエルの動きを黙認するどころか支援さえしている可能性がある。トランプ政権はとくにイスラエル支援の姿勢が強く、バイデン政権が誕生するとこの姿勢に変化が出てくるのは確実だろう。
今回の暗殺直前にニューヨークタイムズがナタンツ空爆をトランプ政権が検討していたと伝えており、11月21日にB-52の二機が長距離往復飛行ミッションでノースダコタから中東にむけ発進しており、イランが念頭にあったのは確実だ。
IRGCは暗殺実行の裏にいるものへの報復を明らかにしており、「同盟国(トランプ政権)は政治日程上最終段階で、シオニスト(イスラエル)と共謀しイランへの圧力を最大化しており全面開戦を狙っている」と最高指導者アリ・ハメネイの顧問をつとめるホセイン・デーガンHossein Dehgha司令官がファクリザデ暗殺直後にツイート投稿している。
つまるところイラン原爆の父の殺害でイラン核兵器実現の野望に深刻な影響が生まれ、バイデン政権発足までの8週間余りで襲撃事件が今後も発生するのではないか。■
この記事は以下を再構成したものです。
Everything We Know So Far About The Assassination Of 'The Father Of Iran's Nuclear Bomb'
Everything We Know So Far About The Assassination Of 'The Father Of Iran's Nuclear Bomb'
BYJOSEPH TREVITHICKNOVEMBER 27, 2020
ファクリザデが「科学者」であるとメディアが報じることに違和感がある。ファクリザデは、ただの核関係の専門家でなく、イランで最も危険な組織、革命防衛隊(IRGC)の幹部であり、しかもイランの最も危険な行為、核兵器の開発を主導している人物である。
返信削除このように考えると、イスラエルが実行したとの報道に真実性が増すことになる。イランを敵視する米現政権が、その背後にいる可能性も十分あるだろう。
そうなれば、米国とイスラエルは協調し、IRGCと核兵器開発に打撃を与えるために、ソレイマニ暗殺や核兵器製造設備の不審な「事故」等、人的、物的損害を与え続けてきたのかもしれない。
また、今回の暗殺事件で見逃せないのは、そのタイミングである。バイデンは米国の核合意復帰を明言し、イランもそれを望んでいるから、イランは、IRGCが報復を叫んでも、中東で軍事行動やテロを起こし難い状況にある。
そのように考えると、中東はしばらく平穏な時期が来るかもしれないが、イラン国内で次のテロか、暗殺が起きるまでの束の間の間かもしれない。