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F-15EXの納入に備える米空軍。一方、日本向けF-15JSIはEXの機能ほぼ全部を搭載する構想と判明。ただし、フライバイワイヤを除く。

 規製造のF-15が納入されるのは2004年以来となるが、米空軍が準備を進めている。来年早々にボーイングF-15EX二機がエグリン空軍基地(フロリダ)に到着し試験用途に投入される。最新鋭のF-15EXは今後15年かけて200機調達が予定されている。

F-15EXにはイーグルドライバーが熱望してきた装備がほぼ全部ついてくる。フライバイワイヤ制御、兵装装着部の追加、電子戦装備を一新し、高性能レーダー、超高速コンピュータ、一体型燃料タンク、さらに強化構造だ。 


ただし同機は第四世代機のままで、ステルス性能は1974年にロールアウトのF-15Aと大差ない。防空圏内作戦では低視認性が必須とされるので、同機は新型といっても敵防空圏の手前に留まり、防空体制が打倒されるまで待つことになる。


空軍予算にF-15EXが登場したのは2018年のことでジェイムズ・マティス国防長官(当時)がペンタゴンの分析結果を受け入れ、攻撃力増強とともにF-35Aを製造するロッキード・マーティンへ競争原理を働かせる意図もあった。


前空軍長官ヘザー・ウィルソンは空軍は実はF-15EXを望んでいなかったと明かしている。2004年以降の米空軍方針は「旧型機の新造機材」は導入せず、第五世代機に集中するとしていた。


空軍は戦闘機部隊の強化につながるとF-15EXを歓迎したものの、予算はきびしいままだった。もともとF-15C/Dの後継機とされたF-22が、予定の381機調達は実現せず、186機で打ち止めとなった。グローバル規模の部隊展開の要求では機齢が若いF-15C200機を当初想定より長く供用する必要がある。


それから11年経過し、F-15C/D各機は摩耗し、空軍関係者は修理しながらの供用は費用対効果が劣ると指摘している。安全性確保のため高負担の点検を続け、構造部品を使用可能に保つ必要がある。 


F-15EX一号機がボーイングのセントルイス工場で最終組み立てに入っている。ボーイングは自社費用でまず2機の製造を始め、想定より早く完成させようとしており、テストは2021年早々に始まりそうだ。空軍契約は今年7月に公布された。 Eric Shindelbower/Boeing


イーグル部隊の維持が予算を食いつぶすとデイヴィッド・S・ネイホム中将(計画担当副参謀長)が悲鳴を上げている。


旧型機運用で空軍には多方面で負担になっているとネイホムは認めている。「単に経費の問題以外にリスクが高いのが問題だ」と経年変化で飛行制限も発生しているという。空軍はすみやかにF-15EXを導入し、F-15C/Dと交代させるべきだという。


ボーイングはF-15EXの機体価格を80百万ドルとしており、F-35Aと大差ないが、運用コストで差が出る。退役したばかりのデイヴィッド・L・ゴールドフェイン大将はF-35の時間当たり飛行経費が35千ドルのまま変わらないことに警戒していたが、F-15は27千ドルだ。空軍はF-35でブロック4仕様を中心にしたいとするが、同型機の生産はまだ始まっていない。


参謀総長チャールズ・Q・ブラウンジュニア大将にとって、どちらかを選択すればよいという問題ではない。「あくまでも性能だ」とDefense One が主催した10月のオンラインイベントで発言していた。参謀総長は「F-35を重要視する」としながらF-15EXは「機会となる」と述べた。海外顧客がこれまでF-15の性能向上に多大な投資をしてくれたおかげで、空軍は自ら開発投資をせずに第四世代機の強力な性能を手に入れることができる、というのがブラウンのいいぶりだ。

 

サウジアラビア、カタールがあわせて50億ドルを負担し、それぞれの仕様のF-15開発が実現したとボーイング副社長プラット・クマールが10月取材で述べており、米空軍はその恩恵を利用しているわけだ。


F-15EXは実はF-15QA(カタール向け)とほぼ同じである。そのQA型はF-15SAサウジアラビア向けが原型で、デジタルフライバイワイヤを初めて導入している。


クマールは空軍がF-15EXを採用したことで今後海外でも同型機の導入にはずみがつくとみており、イスラエル、日本、カタール、韓国、サウジアラビアを想定している。


「世界各国が米空軍の買い物を注視していますよ」とクマールは言い、「世界各地の既存顧客から関心が寄せられています」。イスラエルが新型F-15に関心を寄せているが、日本はEXと同じ機能を導入しようとしている。ただし、フライバイワイヤは除外されているという


ボーイングのテストパイロットはF-15QAの飛行特性はF-15C/DさらにE型とほぼ同じであるが、性能限界にもっと早く到達できるとし、米空軍の旧型イーグルからの機種転換は楽だという。ただしEXの新型「グラスコックイット」表示に慣れる必要がある。C/D型やE型では1980年代物の計器が今も使用されている。


今年8月に航空戦闘軍団司令を退いたジェイムズ・M・ホームズ大将はEX導入を支持したのは議会が予算を付けてくれたことに加え、機体価格が導入可能で初号機が「生産ラインから出てすぐ飛行可能」だからだと発言していた。ただし、敵防空圏に接近できない制約がつくが、EXは本土防空任務や敵の脅威度が高くない場合に有効に投入できると見ていた。


空軍内部でも将来の部隊編成の姿でた結論は出ていない。当面はF-15EXがF-15C/Dの任務を引き継ぐ。ただし、将来はEXがE型の対地攻撃任務の一部をこなすという。E型は2030年代に退役をはじめる。EXは複座構造だが空軍は同機をパイロット一名で運用すると公式に発言している。

new F-15sGraphic: Dash Parham and Mike Tsukamoto/staff

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「EXはストライクイーグルで運用中の兵器すべてを搭載可能。プラス数点を追加できる」とボーイング関係者は述べる。


ボーイングはF-15EX関連で12億ドルをまず今年7月に受領した。契約では固定価格にコストを付加し、コストに応じ報奨金が出る構造で、200機調達の場合の最大費用を228.9億ドルに設定したが、空軍はこれまで144機の購入しか公言していない。これと別にGEエイビエーションは1億ドルでGE-F110-129エンジン19基をEXテスト機材用に製造する。F-15SA、QAでも同じエンジンを使う。レイセオンテクノロジーズ傘下のプラット&ホイットニーにはF-15EX用にエンジンを自社費用で開発し代替策とすることを空軍が許している。


空軍のかかげる防空計画案ではF-15EXを76機必要としているが、議会は空軍から戦闘機調達戦略方針の提出がないとこれ以上の導入は認めないとしている。


共用性によりF-15C/D飛行隊はF-15EXに三か月以内の機種変更が可能となるとゴールドフェイン大将は述べており、既存の地上支援施設がそのまま使え、新規設備の必要はほぼない。これに対し、F-15C/D部隊がF-35に機種変更しようとすると数年間かかる。機種が全く違うと訓練も必要なためだ。米空軍からすれば迅速に導入可能な点がEXの最大の利点だ。


F-15EXでは今後のアップグレードを視野に入れているとクマールは説明している。


「主翼を改良しており、基地での点検さらに補給処での点検を不要にしました」といい、デジタル技術で再設計した主翼はボーイングのセントルイス工場で作業員10名程度がロボットと製造している。対して以前の型式では86名が作業していた。デジタル製造技術により作業エラーや手直しが減っている。


また「オープンミッションシステムとオープンアーキテクチャ」が特徴とクマールは述べており、空軍のアジャイルソフトウェア開発で「先駆者になるという。 DevSecOpsと呼ばれるソフトウェア開発で時間短縮をねらう方法だ。


米空軍の調達トップ、ウィル・ローパーはF-15EXを「初日から進化する設計」と述べ、進展が著しい通信やデータ共有装備に対応していくと説明している。



F-15EXは「将来の新技術をすばやく搭載可能」で「空軍の技術テスト機材」になれるとクマールは説明している。同機に搭載したコンピュータの処理能力が最速であること、光ファイバーネットワークが搭載され、機内に余裕があることが理由だ。


F-15EXの防御手段はイーグル・パッシブ警告残存システム(EPAWSS)と呼ぶ新型電子戦装備だ。EPAWSSの機能は極秘扱いだが、関係者は各種脅威対象を探知、捕捉、識別し、電子攻撃が可能だと述べている。テスト用EXの最初の二機にもEPAWSSが搭載されるが、ボーイングによればその後のテスト用8機でさらに性能向上させたEPAWSSをテストするという。なお、EPAWSSはF-15Eにも搭載される。


F-15EX価格にEPAWSSは含まれているとクマールは述べ、同様にレイセオンのAPG-82(V) 1レーダーもついてくる。同レーダーは空軍がC/D型、E型に導入を始めている。


80百万ドルの機体価格に含まれるものにスイート9共用運用飛行プログラム、MIDS/JTRS(多機能情報分散システム・共用戦術無線交信システム)がある。これはソフトウェアにより設定変更可能な無線装置だ。目標捕捉システムを搭載した共用ヘルメットは政府支給品として搭載する。


価格に含まれていないのはその他のセンサーで、スナイパーやライテニングポッド、リージョン赤外線捜索追跡(IRST)ボッドが例だという。


またボーイングによればF15EXのペイロードはF-15Eより28パーセント増え、兵装装着ポイントが二つ追加されたという。この追加で装着時の柔軟性が増えるというのが同社の説明である。

F-15EXの機体中央パイロンは全長22フィート、重量7千ポンドまでの兵器を搭載できる。この想像図では極超音速ミサイルを発射している。Sherif Wagih/Boeing


地域作戦司令官の一部からは担当地域を考慮した「別の装備品搭載」を求める声が出た。「2千ポンド爆弾7発を搭載する要求があり、EXはこれが可能で大きな効果が生まれる。その他の地点では目標が多数あるため小直径爆弾28発」の運用が意味を持ってくる。EXはこうした兵装を搭載しながら空対空ミサイル4本を搭載可能で、空対地任務もこなす。空軍はEXを当初こそ空対空任務に投入し、F-15Cと交代させる予定で、空対空ミサイル12本を搭載しながら追加兵装ポイントにはAIM-120あるいはAIM-9が搭載できる。


最初の機体はエグリン基地に契約上の予定より9か月早く到着する。ボーイングは自社資金を投入してまで納入が迅速に行えることを空軍に見せつけた。


「最初の二機は契約交付から数か月で納入できることに興奮状態です。空軍はすぐ機体を飛ばせます」とクマール。「この二機でほぼ二年間にわたり飛行させるとロット1の残り機材が納入され、データ収集に利用します」


サウジアラビア政府はF-15SAの飛行テスト経費を米空軍に支払っており、フライバイワイヤ初の採用となった同型機をテスト部隊があらゆる角度から試している。カタール向けの機体はサウジ仕様機とさして変わらないのでテストの規模は小さく、焦点はレーダー、画像ディスプレイ、コンピューターに当てられている。


EXで新趣向となるのがスイート9運用飛行プログラムと新型兵装管制一式でミサイル試射が必要となる。

 

新型シミュレーターもあるが、F-15C/DあるいはE型用のシミュレーターも最小限の手直しで使えるとボーイングは説明している。また新規に建屋等大型出費が不要だという。同様にF-15EXは国防総省の戦闘演習シミュレーションに簡単に統合できる。


F-15EXでは空軍の通常の性能要求設定手続きやその後に続く開発段階を不要としたので、事業でつきものの各段階通過手順は適用されないいとクマールは述べている。「通常と異なる。マイルストーンCの判断」として重要設計審査ではなく統合設計審査と呼ぶベンチマークは使うのだという。


「すぐ本格生産可能な機体ですので」統合運用テスト評価の「直後に生産に移せる」という。


ボーイングはF-15EXを月産4機のペースで生産する。ここに外国向け機体も含む。だがF-15EXの機数が十分そろうまでF-15C/D部隊は供用を続けられるのか。■                 


この記事は以下を再構成したものです。


Joining Up on the F-15EX


By John A. Tirpak

Nov. 1, 2020


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