ステルス性能を有する航空戦力チーミングシステム無人機は交換式機首に各種ペイロードを搭載し現場で簡単に交換できる。
これはボーイングのみならず無人航空戦闘全体で大きな一歩となる。無人チーミング機の先行生産3機が完成し、航空戦力チーミングシステム(ATS)と呼ぶ全体システムの中心要素となる。War Zoneは少数の報道機関とATS関係者と懇談し、同システムについて公式発表前に学ぶことができた。
ATSは有人機と同時投入され「忠実なるウィングマン」が驚くほどの低費用で実現する。有人機より大幅に低費用で戦術機の機材数を大幅に増やす効果も期待させる。また全く異なる戦術を実現させる可能性を秘める。有人機の生存性も高める。
ボーイングは人工知能(AI)と自律運行技術の組み合わせが革命的性能のカギと見ており、有人機の戦力を大きく拡張する効果が生まれるという。今回の無人機は遠隔操縦ではない。ポイントアンドクリックで指示を与える。AIにより飛行制御の大部分を自動化して操作員の注意を戦術面に集中させる。操作員は付近を飛ぶ機体に搭乗し、航空戦の様相が一変する。
ボーイング・オーストラリアとオーストラリア空軍(RAAF)の共同作業は早いペースで進展中だ。事業開始発表からわずか14ヶ月でボーイング・オーストラリアは縮小モデルによるソフトウェア、作動原理のテスト実施にこぎつけた。
今回の事業は設計製造がオーストラリア国内で完結する点でも特徴的だ。つまり米国内事業ではないが、成果は米国含む同盟国多数の航空戦に大きな変化をもたらしそうだ。
背景
今回の説明はジェラド・ヘイズ(自律航空技術部長)、シェーン・アーノット博士(航空戦力チーミングシステム部長)の2名が行い、両名は丁寧に対応してくれた。内容には興奮させるものがあった。
同事業は自律運行無人戦闘航空機で新次元を開く歴史的かつ前例のない動きの一部で、米国外での新型機開発はボーイングにも初事例だ。
ボーイング・オーストラリアが製造中の3機は試作機ではなく、自動化製造工程から生まれた実用機材と同様に作動する機体だ。この製造工程自体も量産工程の実証機能を兼ねる。
この3機で実証しながら全体システムの妥当性も検討する。システムは機材以外にユーザーコマンドインターフェイス、モジュラーセンサー装備、整備方法、データリンク、ソフトウェアで構成する。
ボーイングはATSの基本テスト以外も行うため3機を製造した。各機は航空戦への影響も試される。成功すれば生産仕様機材に応用され運用にも反映される。つまり各機で性能実証とともに運動性能を試す。
開発の大部分は仮想空間で行われており、パイロットとの相互連絡、コマンドへのフィードバックや作動状況も精緻な仮想モデルで実証した。
この「デジタルツイン」コンセプトで仮想モデルと関連システムによりテスト、開発、訓練のすべてを実機を使わず可能にした。時間経費を大幅に節約し、ボーイングはATSのデジタルツインで実機完成を加速化する並行開発を実施した。また縮小モデルを飛行させ、テストとリスク低減を実現しつつ実機生産を並行実施できた。
現状通りなら実機の初飛行は2021年2月になる。残る2機も加わりテストは加速する。予定通りならボーイングは革新的な新型機を2年たらずで飛行させることになる。これ自体が驚くべき達成だ。
機首が特徴
ATSの機首はミッションに応じた交換式だ。この部分は8.5フィートの長さで9,000立方インチの空間に各種装備を搭載できる。交換式ペイロードによる任務対応は無人戦闘航空機(UCAVs)のトレンドとなり、同じ機体を各種任務に投入するのが普通となろう。
センサーやペイロードを交換式にすれば多数の機材でそれぞれミッション対応が可能となる。敵戦闘機の排除なら、1機に赤外線捜索追尾装置をつけ、2機にレーダーを、他機に通信ゲイトウェイを、残る各機に電子戦ペイロードや防御用レーザーを搭載すれば良い。このように状況に応じた編成が可能となれば敵に最大の圧力を与えつつ、専用の無人機を都度導入する必要がなくなり費用対効果で有利となる。ボーイングがモジュラー式機首を採用したのはこうした変化を見越したためだろう。
オープンアーキテクチャの採用は各社また各国で独自のミッション用ペイロードを機首に搭載するためだ。統合型エレクトロニクス装置をで既存装備との共存をはかると輸出の際に困難な課題で高価になる。輸出を最初から想定しているATSではペイロード交換式による解決策を模索している。
経済性を重視
事業の大目標は低価格化だ。空軍部隊が機体を一定数購入して戦闘効果を実現する構想だ。喪失しても戦術機材や戦力に大きな損失とならない。ボーイングATSチームは具体的数字を示さなかったが、USAFがテスト中のクレイトスのヴァルキリーに十分対抗できるとの発言があった。
また目標を「損耗受け入れ可能」(場合により処分覚悟)とし、機体価格は2百万ドルとトマホーク巡航ミサイル並にする。同機を投入する環境がハイリスクであることを考慮すれば、戦闘中喪失を最初から織り込む意義がわかる。性能とコストのバランスを考慮している。
このバランスがATS設計に影響を与えた。機体は低視認性(ステルス)を意識しているが、性能とコストを秤にかけステルス水準を決めた。全翼機形状にしなかった理由を問われて、ATSチームは全翼機は製造コストが上がる、また操縦特性を簡素化しつつ強力な動翼4つを使う、そのうち「テイルロン」は大型でYF-23と類似していると回答した。
主翼は大型複合材2枚だけで構成し、787で実用化された高性能技術を応用した。残る部分も高度複合材でコスト削減と製造工程の短縮化を図りながら耐腐食性と軽量化を実現した。
BOEING
ATSは F-15 Strike Eagle派生型と同時に飛行する。
ボーイングは画期的な戦力拡大手段として世界中の空軍部隊が導入できる価格の機体にしたいとする。RAAFのみを顧客に想定せず、ペンタゴンの導入も期待する。同社はATSが空軍の要求内容にどこまで合致するか米空軍へ説明しているという。クレイトスのヴァルキリーがDoDで注目を集めているのを意識し、ボーイング・オーストラリアとRAAFはXQ-58を共同開発中のクレイトスと空軍研究本部(AFRL)のチーム以上の技術成熟度、柔軟性、価格水準を実現しようというのだろう。
ただワイルドカードは別の機材が開発中の場合で、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンも新型機を開発中かもしれない。
ボーイングからATSは既存のボーイング機材との統合運用は不可能と発言が出た。統合化作業は相当の経費あるいは大幅なハードウェア変更が必要になる。ボーイング以外の機材を稼働中の各国に輸出する想定で、障壁を予め排除しておく意図からだろう。
戦闘機以外と機材と組む
ATSは戦闘機部隊支援だけが目標ではない。ボーイングはATS編隊を給油機や海洋哨戒機、早期警戒機に随行させる想定だ。この三型式の機材整備を進めるオーストラリアには納得の行く想定だろう。
最重要ながら最も脆弱な機材の援護ミッションが実現すれば有人戦闘機は前方作戦に専念できる。
画面が大型化したとはいえ戦闘機コックピットからではATSの性能をフル活用できないと考えボーイングは大型機にATS操作員を搭乗させ大画面でATS編隊の制御を細かく行う構想だ。戦闘機一機で3ないし4機の無人機の制御が可能とボーイングは説明しており、E-7ウェッジテイル早期警戒機のような機材なら数倍の機数を一度に統制できる。
有人機による統制なしで無人戦闘航空機(UCAV)として運用する可能性を尋ねたが、チームは回答を避け、あくまでも忠実なるウィングマンとしての投入が中心だと述べた。
背後に規制と役所仕事があるのだろう。AI搭載の高性能航空戦闘無人機の輸出でも同様だ。今後実証が進めばハリウッド映画がイメージを作った信頼度への疑問も減るだろう。ということで当面はATSは自由に運用できない。
未解明の要素
ボーイングは忠実なるウィングマンについて情報開示する姿勢を強くしているが、疑問も多々残る。運動性能、航続距離、G耐性、離着陸性能、稼働期間はどうなのか。もっと重要な疑問はペイロードだ。機首が交換式なのはいいが、どんな兵装や装備を搭載するのか。空中給油に対応するのか。さらに同機が将来投入されるミッションでどこまでの効果を発揮するのだろうか。
こうした疑問が残るが、ボーイングには大きな成果となり、高性能無人機技術での主導的立場を実証した形だ。同社には米海軍向けMQ-25スティングレイ艦載給油機があるが、全く異なるATSを世界の軍用機市場に投入できればボーイングが将来の航空戦で中心となる可能性が出てきた。■
この記事は以下を再構成したものです。
BY TYLER ROGOWAYMAY 4, 2020
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