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F-35ではドッグファイトに勝てないのか


ッグファイトはもう発生しないといわれていた。1967年5月20日、北ベトナム上空で米空軍F-4Cの8機編隊がMiG-17戦闘機15機編隊を見つけた。

霧とMiGの低空飛行のためF-4編隊は接近されるまで敵機を発見できなかった。▶F-4編隊は降下を開始しスパロー、サイドワインダーミサイル24発を発射したが、撃墜できたMiGは4機のみだった。北ベトナム空軍機は鋭い旋回の「ワゴンホィール」で各機が前を飛ぶ僚機を見張る体制に入った。▶F-4は敏捷なMiGに追随しようとしたが、北ベトナムのパイロットはF-4を機関砲で攻撃し、同機は炎上し乗員2名は射出脱出した。▶「MiG-17の旋回性能に驚いた」とF-4乗員が後日回想している。「この目で見るまでは信じられなかった」▶だが米空軍はこの問題を真剣にとらえず、当時最新鋭のF-4は接近距離でのドッグファイトはしないと見ていた。逆に遠距離で敵機をスパロー等空対空ミサイルで撃破する想定だった。▶米機が次々とベトナム上空で撃墜されはじめるとこの想定の欠陥と危険が表面に出た。

2015年1月、空軍はF-35Aと機齢25年のF-16Dで模擬空戦を行った。低速と鈍重なためF-35では旋回中のF-16を撃破するのが困難と公式テスト報告にある。▶だが空軍は心配に及ばないと述べた。「F-35の技術は敵機を長距離で撃破する狙いで開発されており、視野内の『ドッグファイト』は不要だ」

どこかで聞いた言い分だ。▶空軍が長距離航空戦を重視したことがベトナムでの大損害につながった。F-35が待ち構える敵の防空体制に突入すれば同じく大損害を被るのは容易に想像できる。

空中戦の最初の40年間では機関銃が攻撃手段だった。1946年に米海軍が熱追尾式ロケットの開発をはじめ、サイドワインダーとして初の空対空ミサイルが生まれた。▶その12年後に米国は初の実戦用サイドワインダーを台湾空軍のF-86に供与した。台湾海峡上空の空中戦でF-86が共産中国のMiG-17を撃墜し空中戦の様相は決定的な変化を遂げたように見えた。その後、各種新型ミサイルが研究開発され各地に姿を表した。▶空軍、海軍、海兵隊はミサイル時代の到来を信じ、新型機から機関銃を廃止した。F-4Cもそのひとつだ。

新型ミサイル技術に教導原理の変更が加わった。ペンタゴンは将来の戦闘ではジェット戦闘機は高高度、高速度でソ連の長距離爆撃機を標的とし、原爆投下前に敵を掃討するとしていた。▶当時の米戦闘機は強力な推力はあっても機敏な操縦性はなかった。「戦術戦闘機では核爆撃機侵入の阻止が大目的であり、操縦性能は二の次だ」と1968年にブルース・ホロウェイ大将は述べていた。▶だが米国の次の戦闘はソ連との最終対決ではなく、北ベトナム空軍と戦った。

米作戦立案部門は直線翼戦闘機の時代からハイテク戦を想定していた。だが実際に発生したのは低速、低高度でのドッグファイトだった。想定してきた技術、戦術では北ベトナムのMiGに対応できない事に空軍、海軍がともに気づいた。▶1965年から1968年にかけ、ベトナムで米戦闘機はレーダー誘導ミサイル合計321発を発射したが命中したのは8パーセント未満と2005年の空軍分析にある。▶海軍は命中率のあまりの低さに驚いた。「空中戦実績が東南アジアで想定を下回ったのは設計想定が高高度交戦で低操縦性の重爆撃機相手を想定したため」と結論づけた。▶MiG-17は警告装置が皆無に近いのにミサイルを回避し、操縦性の高さを生かして逆に米機の後方にまわった。▶ペンタゴンはスパロー、サイドワインダー両ミサイルの改良とともにF-4ではE型から機関銃を追加した。パイロットは旋回飛行訓練を受け、撃墜被撃墜比率で改善が見られた。だが本当に米国に必要なのは新型戦闘機で高高度、高速度、長距離戦でのみ優位性が発揮できる機体ではなかった。

つまりドッグファイトできる戦闘機が米国に必要だった。

「推力重量比を大きく向上させ、低主翼荷重により高速度と上昇率を向上させつつ加速性と旋回性能を各飛行速度域で発揮できること」をホロウェイは新型戦闘機で必要な性能として1968年に提起した。▶「高性能のエイビオニクスと武装で今後登場する敵機を打ち破る性能が必要だ。手段はミサイルと機関銃双方でよい」(ホロウェイ)

そこから生まれたのが双発のF-15で1972年に登場し、48年後の今も空軍で最多機数を誇る制空戦闘機だ。小型で単発のF-16が続いて登場した。これも高高度、低高度、高速で旋回性能にすぐれミサイル、機関銃ともに備える。▶F-15、F-16の設計では都合のよい空想のシナリオに対応させなかった。両機種は不確実な状況で敵側が優秀な性能を持つ想定、つまり現実の世界を意識して最適化を施した。▶この考え方はロシア戦闘機の進化とともに重要性をました。MiG-17のあとに高速のMiG-21が、さらに操縦性が高いMiG-29、Su-27が登場した。今日のSu-35は速力、旋回性でF-15を上回り兵装搭載量も大きい。

航空戦での米国の優位性は減る一方だ。ペンタゴンには空中戦で勝てる戦闘機が一層必要となってきた。

だが新型F-35はF-15との旋回戦でも「大幅に劣る」と2015年1月の模擬空戦のパイロットが評価している。空軍はF-35はステルスなので敵機が長距離で探知できなず問題ではないとの主張だ。言い換えれば、空軍はF-35の性能で優位に立てると考えている。

部分的には正しい。F-35のステルス性能が一定の効果を示すだろう。ミサイルは常に命中するだろう。ロシアがSu-35を各国に輸出しないかもしれない。F-35の長所を無効にするハイテク技術を有する国家との戦闘を米国は回避できるかもしれない。▶だが米政府の楽観的な想定が少しでも外れたらどうなるか。F-35がドッグファイトを回避できなくなったらどうなるか。さらに相手が高性能のスホイ、MiGあるいは中国機ならどうなるか。相手の旋回性能に追随できない機体を戦闘に送ればどうなるか。

接近戦が想定外の機体を接近戦に投入した実績が空軍にある。F-4乗員は政府の交戦想定の代償を払わされ自由を喪失し、あるいは生命を絶たれたのである。■

この記事は以下を再構成したものです。

Could it still win?
by David Axe 
April 24, 2020  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: F-35Stealth FighterDefenseAmericaU.S. Air ForceMilitary

David Axe is defense editor of The National Interest. He is the author of the graphic novels War Fix, War Is Boring and Machete Squad.
Image: DoD.

コメント

  1. ぼたんのちから2020年5月4日 16:29

    この記事の悪い予想は、近い将来、米空軍が直面することになる問題である。優勢を確保し、将来の戦場空域にどこでも対応できる機体は、約200機のF-22だけになるだろう。将来、2,000機弱の取得を計画するF-35は、無人機の援護無しでは敵戦闘機に接近できず、多くないミサイルを打ち終わった後は基地に帰るしかなく、また、その帰路も速度に勝る敵機に追いかけられることになりかねない。これは悪夢だ。
    ステルス性能は、確かに大きな優位性を与えてくれるが、万能でない。ステルス破りの技術もますます進歩する。
    このように将来の戦闘を予想すると、F-35の価値は大きく減ずることになるかもしれず、F-35を主力とする戦闘機構成にますます不安を感じることになる。
    第6世代機の開発は、ビジョンさえ明確でなく、その要素をF-35に盛り込むことも考えているようだが、後付けでの装備には限界があるだろう。
    このように考えると、日本のF-3開発に注目するのは当然かもしれない。複数の米国のシンクタンクがF-3開発を議論するのは、その先駆けかもしれず、将来的には日米共同開発の提案の可能性もあるだろう。日本の航空機産業の大きな一歩になる可能性を秘めているかもしれない。

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  2. F-35の格闘能力については、未だによくわかりませんねぇ。
    『F-15に大幅に劣る』とか。『F-16に勝る』と言ってみたり。発信者の立場で内容が異なる。
    また、「見ただけで」ロックオンできる短距離ミサイルがある現在、格闘能力が現実の接近戦に及ぼす
    影響の大きさも、よくわからない…
    ステルス同士で一歩も引かずに戦ったら近接戦になるのは自明ですが、問題は、敵側がF-35と同程度の
    ステルス機をいつ、どの程度、配備するかですよね。

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