ボーイングB-52は改修に今後10年かけて30年間さらに供用可能とする。機齢60年に近づくB-52は米空軍爆撃機部隊の屋台骨だ。さらに30年間供用すべく航続距離、推進力、センサー、爆弾搭載量に改良を加える。
改修はもうはじまっており、2020年代通じ実施されると、1950年代60年代製造の各機に新しいエンジン、レーダーがつき、機内爆弾搭載量が増え、通信接続性能が向上し、さらに最新鋭ミサイルの運用能力も付与される。また、B-52は核抑止力の中核を担う。
これだけの改良となると型式名称をB-52HからB-52Jにしておかしくない。新型レーダー搭載で機首形状も変わり、スナイパーあるいはライテニング目標捕捉ポッドを主翼に搭載するはずだ。エンジン二基ずつのポッドも形状が変わり、搭乗員5名も4名に減る。
米空軍はすでに14億ドルをB-52改修に投じ、今後5年間でさらに38億ドルを使う。その後も相当の額を投入するはずだが、詳細は不明だ。
「中尉時代に操縦したのと違う機体になる」とアンドリュー・J・ゲバラ少将(グローバル打撃群団戦略立案計画部長)が Air Force Magazine 9月号で述べている。性能改修と並行してB-52では空軍最新鋭のAGM-181長距離スタンドオフ(LRSO)核巡航ミサイル、極超音速AGM-183空中発射式迅速対応兵器 Air-launched Rapid Response Weapon (ARRW)も運用可能となる。
もともとB-52の機体は念入りに製造されており、いまでも驚くほど頑丈で構造寿命は数十年残っている、とゲバラ少将は述べる。戦闘システムは1991年の湾岸戦争以来大幅な変更がないが、出撃稼働率はほぼ80パーセントと空軍でも有数の働きぶりを示しており、スタンドオフミサイルを発射し、自由落下爆弾や精密誘導爆弾を投下し、機雷敷設もしてきた。
このままだとB-52はB-1、B-2よりも長期間供用されそうだ。B-1、B-2は2030年代に第一線を退き、新型ステルス爆撃機B-21が登場する。
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AFGSC司令ティモシー・M・レイ大将は「必須」内容の改修だけの実施にこだわっているとゲバラ少将は説明し、「あったらいいな」の内容は不要だという。実施を見送った内容には大型航空機赤外線抵抗装置( LAIRCM)があり、B-52は近接航空支援任務には投入しないことになったため同装置も不要とされた。LAIRCMは低出力赤外線の脅威から防御する装備で優先順位は低いとゲバラ少将は解説。
エンジン換装
ただし、エンジンは必須だ。新型エンジンがなければ「ただの飾り物になってしまう」(ゲバラ少将)
B-52用民生エンジン交換事業ではB-52のエンジンTF-33の8基を新型ビジネスジェット用エンジンに換装する。目標は航続距離を3割伸ばし、あるいは滞空時間をのばしながら、空中給油の回数を減らし、いったん装着すれば供用期間を通じ交換の必要がない信頼性高いエンジンに換装することだ。
B-52エンジン換装の四候補. Mike Tsukamoto/staff
グローバル打撃軍団では2018年にエンジン換装に220億ドルかかると試算したが、燃料費で100億ドル節約でき、整備工数も減る効果が期待できるとした。実際の費用はエンジンが未選定のため不明だが、主要エンジンメーカー各社が採用を巡りしのぎを削っており、来春の選定を待つ。ロールスロイス、GEエイビエーション、レイセオンテクノロジーズのプラット&ホイットニーが既存のビジネスジェット用エンジンの採用を期待している。B-52製造を担当したボーイングがエンジン統合にあたる。
選定に当たり、実機の運転試験よりもデジタルモデルを多用することになりそうだ。空軍はエンジン換装は5年以内に開始できるとみている。
AFGSC隷下の第八空軍司令マーク・E・ウェザリントン少将は起動に治れば年間30ないし40基のエンジン換装になるとみている。
B-52主翼下にARRWを装着している。ミサイルに書かれたロゴはラテン語でチェラリレスポンシオとあり、迅速対応の意味だ。 Giancarlo Casem/USAF
接続性
エンジン換装は時間がかかりそうだが、その他の面では改修がすでに始まっている。完成度が高いのはCONECT性能改修で戦闘ネットワーク通信技術Combat Network Communications Technologyの略でデータリンク、処理能力、移動地図、フルカラーティスプレイ、飛翔中の兵器目標再設定を含む。
ゲバラ少将によれば8月時点でB-52の76機中69機でCONECT改修が終わっているという。CONECT搭載でラップトップコンピュータ、ケーブル、ポストイットでごちゃごちゃのコックピットがすっきりし、BUFFのあだ名のB-52が21世紀らしくなると、ゲバラ少将は説明。
新型レーダー
B-52搭載のAN/APQ-166レーダーは旧式で交換が必要だ。アナログ・機械式の旧式技術特有の弱点がついて回るとゲバラ少将は言い、空軍入隊した30年前でさえすでに旧式だったという。「B-52操縦を開始した時点で20年前から供用中の装備だった。地上要員にとって整備は悪夢だった」という。
後継装備に制式名称がまだない。2019年7月に選定されたのはレイセオンのAPG-79/APG-82ファミリーで海軍のF/A-18ホーネットに搭載されており、F-15Eストライクイーグルとも共通する。「既製品」で「最小限の費用で最大の有用性」が欲しいとゲバラ少将は述べている。
このレーダーは電子スキャンアレイ(AESA)方式で2024年に低率初期生産が始まる。搭載すれば地図表示機能、標的捕捉範囲が改良さあれ、複数目標に同時対応も可能となる。半導体レーダーであり、可動部品がないため整備も楽になる。また2026年に第一線稼働が始まる(ゲバラ少将)
このレーダー採用でB-52乗員は5名から4名に減る。ただし、正式な方針決定ではないとゲバラ少将は付け加える。「これだけの性能改修を実施するのだから搭乗員も減らしたい」という。
2000年代初頭にはエンジン換装したB-52をスタンドオフジャミング機材にする構想があった。新エンジンでジャミング用電源が確保でき、その範囲を戦域規模に広げられる。こんな構想だがゲバラ少将はジャマーに同機を転用する構想は今はないという。
「急を要する内容ではない」とし、「B-52は2050年ごろまで供用となり、あと数年で今後の方向が見えてくるはず」という。
バークスデイルAFB(ルイジアナ)で共通戦略ロータリー発射装置にAGM-86B巡航ミサイルを装着しB-52Hに搭載を急ぐ地上要員。AGM-86Bは旧式化しており、極秘AGM-181長距離スタンドオフミサイルに交代する。 Senior Airman Lillian Miller
搭載量をさらに増やす
B-52の中心は常に大量のペイロードの搭載だ。今回はさらに拡大する。1760ウェポンベイModにより「スマート」兵器のAGM-158JASSM、GBU-31JDAMを機内に搭載するほか、主翼下にも搭載する。「スマート兵器搭載量は22発分増える」(ゲバラ少将)
このmodを外すと「通常」爆弾、つまりセンサーや衛星誘導のない爆弾を機内に搭載する。
またB-52はAGM-181長距離スタンドオフ(LRSO)ミサイル、AGM-183A空中発射迅速対応兵器(ARRW)を運用可能な唯一の機材だ。
LRSOは用途廃止予定から20年経過したAGM-86 空中発射方式巡航ミサイルの後継装備となる。LRSOの第一線投入は2020年代末の予想だが、きわめて長距離射程のステルス兵器となり、敵防空網からはるか遠距離から発射可能となる。米空軍はこのミサイルの大きさ、性能、威力について口を閉ざしているが、2019年に選定に残ったレイセオンが製造する。
一方でARRWは米軍初の極超音速になりそうだ。ゲバラ少将によればB-52は左右主翼パイロンで二発のARRWを運用するという。ARRWもわかっていることはごくわずかで、ロケットブースターで極調音足へ加速した後滑空して命中するという。
「このミサイルは10分で1千マイル飛び、すごいですよ」(ゲバラ)
ゲバラ少将はCONECTmodでARRWの追加搭載も可能となったと述べている。
CONECTに関しては「目標地点の資料がすべて手に入る」とし、これまでは爆撃手が機体下部で座標をタイプし、正しい情報のはずと期待していたのとは大違いだという。
空軍はスクラムジェットを使う空気吸い込み式極超音速ミサイル「メイヘム」の実用化もめざしており、ARRW同様に戦闘機から爆撃機に搭載可能となる。この原型は極超音速空気取り入れ式兵器構想(HAWC)で空軍は国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)と実現を目指している。
レイ大将はARRWの初期作戦能力獲得は「あと数年先」と述べている。
ただし、B-52の防御装備については改修の方向が見えていない。ゲバラ少将はまだ決まっていないのだと説明している。
とにかくテストだ
これだけ多くの装備品をテストし、しかも時間を意識して展開するため、B-52テスト部隊に8機投入の必要があり、レーダー、エンジン、新型ミサイル、その他に2機ずつあてるとゲバラ少将は説明。「エンジンで二か月遅れても、あるいは未知の問題に直面しても、レーダーその他のテストに影響は出ない」”
レイ大将もグローバル打撃軍団の組んだテスト日程、改修作業予定は効果を上げるはずとみている。「実施能力について心配はない。よく練り上げた計画になっている」
AFGSCはデイヴィス-モンタン空軍基地(アリゾナ州の機体墓場)からB-52を2機再生したが、ゲバラ少将はこれ以上の機体回収は期待できないので現行部隊からテスト用機材を手当てするという。
ARRWにせよLRSOにせよ、B-52からの発射に大きな改修は不要だが、空軍がオープンミッションシステムの構造を全機種に導入するとしているので、B-52も今後の供用期間を通じ絶えず更新を受けることになるという。
「これがB-52のいいところです。iPhoneと似ています。アプリを追加すればいつでも新しくなれるんです。これはすごいことです」(ゲバラ少将)■
この記事は以下を再構成したものです。
BUFF Up
Oct. 1, 2020
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