スキップしてメイン コンテンツに移動

次期高性能給油・輸送機構想に新興企業がBWBコンセプトで挑戦! 航空業界に新しい風が吹く?

 今回はターミナル1(民間機、新技術)、ターミナル2(軍用機)共通記事です。




ノースロップ・グラマンと組みJetZeroからZ-5が米空軍が求める大型高性能給油機・輸送機実証事業に提案されている。Credit: JetZero


  • ボーイングとエアバスに挑む新興企業が登場

  • Z-5デモ機が飛行テストに向かう

  • ピボットギアコンセプトが、新しいブレンドウィングボディの鍵


主翼胴体一体型機の時代がついに到来したのだろうか。カリフォーニアの新興企業ジェットゼロJetZeroはそう考え、中型の商用および軍用タンカー・輸送市場をターゲットにしたマルチミッションデザインを発表した。


1980年代後半にコンセプトとして登場し研究されてきたブレンデッドウィングボディ(BWB)は、有望な性能予測にもかかわらず、支持を得られなかった。ジェットゼロは、持続可能な中型旅客機を求める市場と、同じサイズの先進的なタンカー・輸送機を求める米空軍に同時対応し、BWBにとってかつてない市場需要ができたと述べている。

BWBコンセプトは、機体構造と空気力学を融合させ、重量と抵抗を減らしながら、胴体を揚力に貢献させる。ハイブリッドウィングボディとも呼ばれ、通常無尾翼で、従来のチューブアンドウィングデザインに比べ、湿潤面積、摩擦抵抗、形状抵抗が小さくなるため、高効率の構成となる。また、BWBは、上面に搭載されたエンジンの騒音のほとんどが機体が遮蔽されるため、現在の旅客機よりも静かな機体となる。

ジェットゼロのZ-5は、Zシリーズ最初の機体で、航続距離5,000nmと乗客最大250に最適化したデザインとなっている。全複合材製機体は、広いシングルデッキと高アスペクト比の主翼を備える。そのため、翼幅はエアバスA330と同じ200フィート近くだが、機体長はボーイング767よりも短い。この大きさにもかかわらず、ジェットゼロはこの中型機について、「767など現行機と比較して、重量は約半分、必要な動力は半分になる」と述べている。



Z-5はボーイング767より短く、エアバスA330に近い翼幅。Credit:JetZero

2030年代の就航を目指すジェットゼロの事業計画で重要となるのは、軽量化と出力要件の低減で、Z-5はCFM Leap 1やPratt & Whitney PW1100Gといった既存の単通路用エンジンの派生型を使用できる設計だ。また、機体には従来型システムが搭載され、開発を簡素化し、コストとリスクを低減できると同社は説明している。

Z-5は、2020年にプロジェクトが棚上げされるまでボーイングが研究していた新中型機(NMA)の市場を狙う。ボーイングは2030年代半ばの就航を目指し、従来型構成でNMAクラス航空機の低レベル研究を復活させたものの、メーカー自身が認めるように、新製品の実現はまだ数年先の話だ。

エアバスも、2030年代半ばにZEROe構想で研究した水素燃料コンセプトの1つで200席のBWBはあるものの、NMAカテゴリーの新型機開発からは何年も離れている。A321XLRは、A321neoの長距離バージョンで、最大220人を乗せ4,700kmを飛行する設計で2024年に就航する予定だ。

しかし、Z-5開発の短期的な足掛かりとなるプログラムは、米国国防総省が計画している、将来型タンカーおよび輸送機として評価を受けるBWB実証機だ。当初目標は、試作機のデジタルデザインを開発し、実証機の初期耐空性および試験計画を行い、最終的に「認証および試験用の大型試作機を製造する」ことだと空軍は述べている。

ジェットゼロは、3月末に245百万ドルの費用負担で提案書を提出しており、NASA支援対象のサブスケール実証機の飛行テストが今年中の予定であることから、同社はコンセプトを公表する時期が来たと判断した。

ジェットゼロの共同創業者であるトム・オリアリーは、「概念設計が完了し、インキュベーション段階から実証段階に移行することがマイルストーンとなる」と語る。「このコンセプト・デザインは、既存の単通路用エンジンと燃料消費量と排出量を50%削減し、タンカーとして実用化でき、市場の中間的なギャップを埋める混合翼体の開発につながりました。

「空軍の目標は、タンカーに転用可能な商用BWBの能力を実証すること」とオリアリーは続けた。「当社は、空軍の提案書と合わせ提出した、製造やミッションシステム含む供給ベース各社から支持の手紙をもらっています」。

Z-5は、燃料効率の高さから、最大距離のミッションでボーイングKC-46タンカーの最大2倍の燃料を運べる、とJetZeroは主張。また、同機は、現行の空港インフラを利用できる設計だ。空軍は今年半ばまでに採択案を選定し、2027年に実証飛行を開始する。

米空軍は昨年、最初の募集を発表時に、BWBは「能力向上と温室効果ガス排出削減の両面で、将来の米空軍機にとって唯一最もインパクトのある技術機会」と述べている。貨物機、タンカー、爆撃機などをBWBに変更すれば、現在の燃料価格で、年間燃料費を10億ドル削減できるという。

Z-5は、業界にとってセレンディピティな時期に登場したと、元エアバス・アメリカおよびインターナショナル・エアロ・エンジンのCEOで、ジェットゼロの諮問委員会メンバーでもあるバリー・エクレストンは言う。「環境、空軍、NASAからの追い風に加え、技術面での追い風もあり、以前は実現不可能だったことが可能になりました。ボーイングやエアバスがこの分野で何も新しいことをやっていない事実と照らし合わせると、『ここで何もしないでいるわけにはいかない』となるんです。業界はそれを必要としている。もし、現行製品より30〜50%良くなるとわかっているのなら、なぜやらないのでしょうか?」と言う。

ジェットゼロは、NASAの持続可能な飛行実証機(SFD)プログラムの初期段階2021年の契約で、翼幅23フィート、12.5%のサブスケールBWB実証機の飛行テストを準備中だ。この機体は、内部容積を最大化し、機体の回転を補助する斬新なランディングギア設計を主要な特徴とするZシリーズの評価に使用される。SFDの主契約は、1月にボーイングが受注した「Transonic Truss-Braced Wing」コンセプトの737サイズのデモンストレーターの開発です。

マクドネル・ダグラス時代のBWB経験者であり、ジェットゼロの共同設立者兼最高技術責任者であるマーク・ペイジが開発した「ピボットギア」コンセプトは、BWB設計が直面する重要課題である低速ピッチ制御と揚力性能を改善する。ジェットゼロの前身であるDzyne Technologies社が提案したBWB旅客機「Ascent 1000」で設計されたもので、ノーズランディングギアを前方に、メインギアを後方に移動し客室後方の未使用の内部容積に収める。

離陸時には、ノーズギアが数フィート伸び迎え角が約6度大きくなり、BWBのボディ自体が揚力を発生させ「エレボンの効果を増幅させる」(JetZero社)という。ポンプやアクチュエーターを不要とするパッシブ制御により、Z-5はピッチ姿勢に早く到達できる。これにより、離陸速度を遅くでき、離陸時の高推力要求を減らせる。また、前縁のハイリフトスラットが不要になり、後縁フラップのサイズも小さくできる。


高アスペクト比の主翼と埋め込み式のトップマウントエンジンに加え、中型機のZ-5はサイドエキジットとスカイライトウィンドウを備える。Credit: JetZero

Z-5は、従来のBWBコンセプトで批判された乗客の出入りや乗り心地、客室一部に窓がないことに対応するため、前方部にサイドウィンドウ、メインと後方部にスカイライトウィンドウを備える。内寸は公表されていませんが、エアバスA380に近い客室幅と乗り心地が期待される。Z-5では、従来型の客室レイアウトに比べ、前方および後方の出口に素早くアクセスできるアセント1000原則を採用する


Z-5のシングルデッキ構成に加え、一次構造の複合材料の進歩により、非円形の胴体内に圧力構造を実現する設計課題が解消されたとジェットゼロは述べている。当初の設計では、持続可能航空燃料に従来型タンクをベースにしていたが、BWB構成では、液体水素燃料タンクを将来的に搭載する内部容積が十分に確保されているという。

ジェットゼロは、産業開発計画の一環として、「民間資金への働きかけと潜在的なプログラムパートナーとの関わりを同時開始する」と述べている。タンカー実証機の提案では、BWB構成に似た全翼機で設計・製造経験を持つ唯一の機体メーカー、ノースロップ・グラマンがこれに含まれる。

電動垂直離着陸機の新興企業ベータ・テクノロジーズBeta TechnologiesのCEOだったオリアリーは、「空軍のBWB実証機プログラムでの採択に当社は有利な立場にあると思っています」と語る。「BWBの開発に、産業パートナー多数に協力を仰いでいます。概念設計をするためには、あらゆる供給源と協力する必要がありました。だから、何でも相談したんです。『それはおかしい、一緒にやらない』と言った会社はありません。サプライベースのトップからボトムまで、全員です」。

「最大の戦いの一つは、もちろん、ボーイングとエアバスがそうならないよう必死に努力することです」とエクレストンは、競争的側面について指摘します。「私たちがボーイングやエアバスを出し抜けるほど賢いとは言いませんが、多くのパートナーを得て、真の信頼を得ています」。■

JetZero Unveils Midmarket Airliner And Air Force Tanker BWB Plan | Aviation Week Network

Guy Norris Graham Warwick April 21, 2023


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

F-15ジャパン・スーパーインターセプター(JSI)プログラムの支援契約をボーイングが獲得(The Aviationist)―68機が米国で改修され、大幅な性能向上が実現する見込み。

AIM-120AMRAAM8機とAGM-158JASSM1機を搭載したF-15ジャパン・スーパーインターセプター。 (画像出典:ボーイング) 総 額4億5,100万ドルの契約は、ジャパン・スーパー・インターセプター・プログラムの一環として、航空自衛隊F-15J68機の改修を支援するもので、現在、米空軍のF-15EXイーグルIIで実戦配備されている機能の一部を導入する。  米国防総省(DoD)は2024年12月10日、空軍ライフサイクル・マネジメント・センターが ボーイング に対し、F-15ジャパン・スーパー・インターセプター・プログラムを支援するため、2024年11月22日の同様の契約(1億2920万ドル)に続き、4億5050万ドル相当の契約を発注したと発表した。この契約にはFMS(対外軍事販売)も含まれ、スーパーインターセプターに装備される新型レーダー、自己防御システム、ミッションコンピューターユニットの取得が含まれる。 F-15ジャパン・スーパーインターセプター計画 アップグレード ジャパン・スーパー・インターセプター(JSI)プログラムは、ボーイングが日本の老朽化した単座F-15J戦闘機68機を近代化するものである。 World Air Forces 2024によると、航空自衛隊は現在、155機の単座F-15Jと44機の複座F-15DJを保有しており、その一部はJ-MSIP(Japan-Multi-Stage Improvement Program)によって改修された。  JSIプログラムは、ボーイングのセントルイス工場(ミズーリ州)とエグリン空軍基地(フロリダ州)で取り組み、2030年2月までに完了する予定である。航空自衛隊のために163機のF-15Jと36機の2人乗りF-15DJをライセンス生産した日本の 三菱重工業 (MHI)は、アップグレードパッケージが終了した後、アップグレード作業を現地で実施する。 2024年5月15日、那覇基地でのサザンビーチ演習で離陸準備をする航空自衛隊第304飛行隊所属のF-15Jイーグル。 (イメージクレジット:USAF/Melany Bermudez) F-15ジャパン・スーパーインターセプター計画 日本の老朽化したF-15イーグル迎撃戦闘機の近代化プログラムでは、既存のF-15J/DJ戦闘機のうち68機がアドバンスド・イ...