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グアムを中国ミサイル脅威から守り抜くべく、米軍は懸命の努力を続けている

  • 西太平洋の拠点グアムを中国のミサイル脅威から死守すべく米軍は多額の予算を投じる

  • モデルはイスラエルの多層構造ミサイル防衛だ

  • ただし、異なるシステムの統合が課題

  • 中国は各種ミサイルによる飽和攻撃を狙っているのか



Aviationweek記事からのご紹介です。


アムの人里離れたノースウェスト・フィールド滑走路にあるサイト・アルマジロの朽ち果てた駐機場に、米陸軍の最新鋭ミサイル迎撃砲台が、弾道ミサイル攻撃から米領を守る唯一の存在として、ぽつんと立つ。

2015年に北朝鮮の弾道ミサイル実験に対応し、陸軍が終末高高度地域防衛(THAAD)砲台7隊の1つをマリアナ諸島に永久配備して以来、多くの変化があった。以来、弾道ミサイル能力は拡大したが、西太平洋における米軍の重要な作戦拠点であるグアムにとって、平壌は第二級の脅威と位置づけられている。

今や最大の懸念は中国だ。この8年間で、中国軍は極超音速滑空体(HGV)を搭載するDF-17ミサイル、DF-26中距離弾道ミサイル(IRBM)、空中発射のCJ-20陸上攻撃巡航ミサイル(LACM)など、グアムを標的に多様な新戦力を実戦投入してういる。複数の方向から数十発発射すれば、中国の兵器はTHAADバッテリーのTPY-2レーダーと迎撃ミサイル48発を圧倒できる。

コロンビア特別区の3倍の面積を持つグアム島をミサイル攻撃の前に難攻不落の要塞にするべく、数十億ドルをかけた取り組みが進行中だ。ミサイル防衛庁(MDA)は2024年末までに運用開始する第一層防衛の用地を選定した。MDAは、全方向からあらゆる種類のミサイル攻撃をはねのけることができるようになるまで、グアムで新しい防衛施設を追加していく。

さらに、MDAが選択したアーキテクチャは、陸上と海上のミサイル防衛への米軍アプローチで統一をめざしている。グアム防衛システムは、陸軍、海軍、MDAが数十年にわたり別々に開発してきたセンサー、迎撃ミサイル、コマンド&コントロール・ノードを統合する。その過程で、統合アーキテクチャは、軌道ロケットから発射されるHGV、ステルス巡航ミサイル、高高度気球など、国土に対する多様な新しい脅威に対処する新しいテンプレートを提供する可能性もある。

MDA局長ジョン・ヒル海軍中将は、3月24日に開催された戦略国際問題研究所主催のイベントで、「グアムの位置は戦略的な場所である。インド太平洋で起こるかもしれない小競り合いには欠かせない存在です」と述べた。

将来の防衛は、容量、カバー率、柔軟性など、現在のアーキテクチャの限界を解決する必要がある。アルマジロ施設のTHAAD砲台は、北西からの弾道弾の終末期には効果的な対抗手段となるが、あらゆる方角からやってくる高機動HGVやLACMなどの低空脅威にはほとんど抵抗できない。

大まかに言って、グアムの防衛計画は単純明快だ。海軍のイージス戦闘システムの陸上型が、DF-26や空中発射のDF-21といったIRBMやHGVの撃破に割り当てられる。遠い将来、MDAは、レイセオンSM-6迎撃ミサイルの特殊バリエーションに依存する既存のシーベースターミナル防衛を補強し、より効果的にHGVに対抗するためグライドフェーズインターセプター(GPI)を追加する予定だ。

LACMや長距離滞空弾を迎撃するため、MDAは中距離ペイトリオットミサイルバッテリーと陸軍の短距離間接火器防護能力(IFPC)インクリメント2の組み合わせを選択した。これはダイネティクスのエンデュアリング・シールドランチャーとレイセオンのAIM-9Xサイドワインダーの地上発射バージョンを組み合わせたものだ。

グアムにおけるMDAのビジョンは、イスラエルで展開されている多層アーキテクチャに似ている。イスラエルの国土はグアムの5倍もあり、地域およびローカルなミサイル攻撃という同様の360度脅威に直面している。

イスラエル航空宇宙産業ボーイングのアロー3および4迎撃ミサイルは、IRBM一斉発射に対する最前線の防御で、ラファエル/レイセオンのデイビッズスリングシステムは、短距離弾道ミサイルとLACMを打ち落とすスタナー迎撃ミサイルを装備している。最後に、米軍が2021年にグアムに実験的に配備したアイアンドームシステムは、ロケット弾や迫撃砲、滞空弾による攻撃からイスラエルを防衛している。

一見簡単そうに見えるが、MDAのグアム向けアーキテクチャには、完全解決まで数年かかりそうな統合の課題が多数ある。

グアムの弾道ミサイル防衛ソリューションの進化が課題を物語っている。2021年に米インド太平洋軍司令官を退任したフィル・デビッドソン海軍大将(退役)は、定置型固定サイト・イージス・アショア・システムをグアムに設置する選択肢を提唱していた。

しかし、バイデン政権が2023年度予算でグアム防衛システムの立ち上げを約束したころには、MDAは別のアプローチを選択していた。グアム南西海岸には標高1,000~1,300フィートの山が連なっており、1カ所で水平線まで360度カバーすることは不可能だ。代わりに、グアム政府関係者は、イージス戦闘システムの4つのSPY-6レーダーアレイを島内に分散させようとしている。レーダーはまた、固定プラットフォームから車両で移動され、システム名称をTPY-6に変更する。

イージス艦の迎撃ミサイルでは、長距離のSM-3と短距離のSM-6がIRBMとHGVに用意されているが、TPY-6はLACMの探知と追跡も提供する。LACMはペイトリオットとIFPCに搭載され、海軍のレーダーと陸軍部隊の間に統合が必要となる。

分散型センサーと異なるタイプの発射台の統合は、ミサイル防衛では新しい話題ではない。20年前から、海軍のCEC(Cooperative Engagement Capability)プログラムでは、地表と空中のセンサーをネットワーク化し、戦闘機や巡航ミサイルによる攻撃を撃退するための統合火器管制システムを構築してきた。最近では、陸軍の統合型航空ミサイル防衛戦闘指揮システムにより、THAADバッテリーのXバンドレーダーがペイトリオットバッテリーのCバンド火器管制システムに軌道を渡せるようになった。

グアム防衛システムの場合、MDAは、イージスシステムのSバンドTPY-6 レーダーからペイトリオットバッテリーの Cバンド MPQ-53 火器管制レーダーへ長距離目標追跡をどう引き継ぐかの決定を迫られる。アーキテクチャのレイヤーが増えるにつれ、MDAが提案する Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensor、Space Development AgencyのTracking Layer、Space Systems Command の Missile Track Custody Program など、宇宙ベースのセンサーから導かれる GPI の到着でも同様の統合課題が残る。

MDAは、CECからペイトリオットバッテリーに巡航ミサイルの追跡データを引き渡す能力を実証中だ。2021年7月のJoint Track Management Capability (JTMC) Bridgeのテストでは、MPQ-53レーダーが妨害を受けていても、ペイトリオット部隊がミサイルを撃墜できた。

軌道レベルの情報を融合させることで、別の場所のセンサーが遠隔地のミサイル砲台に発射合図を出す、ローンチオンリモート機能が可能となる。

MDAは最終的に「engage-on-remote」能力の実現を目指しており、遠隔地センサーが発射後に追跡座標の更新を連続的に迎撃ミサイルに供給する。こうした継続的な更新は、弾道ミサイルの予測進路の迎撃には必要ないが、高機動のHGVやLACMの撃墜には必要となることがある。

「これは簡単ではない」とヒルは言う。「イージス艦から飛来する弾道は、ICBSでは見れない。そして、そのトラックとICBSのトラックを関連付けなければならないのです。重複になりかねません」。

2021年7月のJTMCブリッジのデモンストレーションは重要だったが、戦闘能力の証明には至らなかった。

「トラックピクチャーを使えると確信できるようになるには、作業が多数残っている」(ヒル)。

グアムでは、MDAのオプションとして、イージス艦とICBMSの間で直接、JTMCブリッジ機能を通じ間接的に、あるいは弾道ミサイル追跡をサポートする設計のMDAの既存の指揮統制・戦闘管理・通信(C2BMC)システムを通じ間接的に追跡情報を融合する3レベルのいずれかを選択している。

「では、どれがベストなのでしょうか?C2BMC、レーダーへの直接タップ、それともブリッジ経由?」 とヒルは選択肢を並べた。「いろいろと研究しているところです」。

短期的には、予算圧力のためMDAはC2BMに向かうかもしれない。

「我々は[2024年のフィールドスケジュール]を満たすために、今、既知の方法を実行し、その後、継続的に改善していく」「しかし、非常に困難なエンジニアリング作業で、最初のインスタンシエーション(実体化)になりそうもありません」。■

Multibillion-Dollar Guam Defense Poses New Missile Defense Challenges | Aviation Week Network


Steve Trimble March 30, 2023


Steve Trimble

Steve covers military aviation, missiles and space for the Aviation Week Network, based in Washington DC.


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