U.S. Air Force
オーストラリア政府は、空中発射スタンドオフミサイル導入の検討に先立ち、B-21レイダーに注目していた
オーストラリアは、アジア太平洋地域で増大する中国の軍事力への対抗策を模索し、次世代ステルス爆撃機B-21レイダーを調達する可能性に注目している。B-21がオーストラリアで活躍する可能性は、以前から防衛アナリストが検討し、昨夏にはオーストラリアのリチャード・マールズ国防大臣もB-21購入を「検討中」とほのめかしていた。しかし、オーストラリアの国防政策文書でステルス爆撃機が議論されたのは今回が初めてだ。
結局、オーストラリア政府は、意外にもB-21購入に反対し、その代わりにF-35AステルスジェットやF/A-18Fスーパーホーネット戦闘機など長距離攻撃能力にさらなる投資をする選択とした。少なくとも現時点では、RAAFによるB-21購入の提案は全くないとは言い切れないが、不明なままだ。
本日発表のオーストラリア政府による国防戦略レビューには、将来の国防の優先順位に関する分析の一環で、この決定に関する言及が含まれている。提言に基づき、合計で130億ドル近くが同国の国防予算に割り当てられる。
レビューでは、オーストラリアに潜在的な能力オプションとなるB-21レイダーに関して、オーストラリアと米国間で詳細な議論がかわされたことが紹介されている。
「わが国の戦略的状況、本レビューで概説した国防戦略および能力開発へのアプローチに照らし、B-21は取得を検討するのに適した選択肢とは考えていない」。
ノースロップグラマンが公開したB-21の最初の写真の1枚。Northrop Grumman
B-21は、航続距離と(少なくとも有人爆撃機としては)比類なきステルス性能から、中国が力をつけているアジア太平洋地域の軍事バランスの調整上で、大きな役割を果たすことができる。
レイダーは、飛行距離、搭載できる武器(センサーも含む)の数、そして総合的な生存能力において、オーストラリア空軍(RAAF)の現行航空戦力と明らかに異なるレベルを提供します。
有事にオーストラリア空軍がオーストラリア領土から遠く離れた場所で強力な火力を投射できることを考えれば、オーストラリアが運用するB-21は、北京の軍拡に対する強力な抑止力になると考えたくなる。
しかし、この構想は現実にはほとんど根拠がない。
まず、B-21をユニークな提案にしている最先端能力は、非常に厳しい輸出規制の対象となり、オーストラリアのような親密な米国の同盟国でさえも手が届かない。
B-21は、高度で極秘の技術を独自にブレンドしているだけでなく、アメリカの戦略核抑止力の爆撃機部門の要だ。そのため、同機へのアクセスは決して容易ではない。
同時に、もしB-21のオーストラリア売却すが承認された場合、アメリカ政府は、ステルス爆撃機を地政学的に非常に重要な地域の他国の手に渡す戦略的影響を考慮しなければならない。中国が対抗策をとらないとは考えにくいからだ。
同じことは、ステルス戦闘機F-22ラプターをめぐる輸出政策にも見られた。F-22の機密性の高い技術のため、オーストラリアなど他国へ売却ができなかった。
B-21輸出を承認できれば、膨大な費用がかかるプログラムのコストを下げることができるのは事実だが、爆撃機を喪失し多くの機密を失う可能性や危険にさらされるリスクには到底かなわない。
コストは、オーストラリアがB-21を購入する際に乗り越えられない障壁となる。レイダーの単価は、最近の計画では約7億ドルだが、インフラ、武器、訓練、メンテナンス、予備品など必要な投資が別にかかる。仮にキャンベラが国防予算(増加傾向にある)の中でB-21を購入枠を確保できたとしても、機体数は非常に小さくなり、効果的な部隊を編成する意味で、投資に対する適切なリターンを得ることは不可能だ。アメリカ空軍のステルス爆撃機B-2スピリットは、B-21より一世代劣るが、2020年現在、飛行時間あたり費用は約13万ドルだ。さらに、高度なオーダーメイド訓練や独自の持続性要件にかかる費用も考慮する必要がある。B-21は、より少ない費用でより確実に飛行できる設計だが、それでも運用コストの安い機体とは言えない。
オーストラリアは、国防に関し浪費家ではない。2022-23会計年度でキャンベラは防衛に約337億ドルを割り当てたが、2021-22会計年度には約315億ドルだった。この数字は大きいですが、アメリカ空軍の2023会計年度予算要求額は1695億ドルだった。
B-21のコストはオーストラリアの手の届かないところにあるだけでなく、B-21が提供するハイエンドで幅広いスペクトルの能力は、RAAFが必要とする内容を超えている。B-21は、高空を飛ぶマルチロールプラットフォームとして開発され、従来の定義の爆撃機ではないことは間違いない。
2022年12月2日、カリフォルニア州パームデールで行われた式典で、B-21レイダーが一般に公開された。 (U.S. Air Force photo)
オーストラリア政府がどのような考えでB-21をRAAFの導入する可能性を排除したかは定かではないが、これらすべての要素が念頭にあったのはほぼ間違いない。そして、B-21購入が浮上して以来、キャンベラには非常に高価な防衛調達プログラムとなる原子力潜水艦の導入という野心的な計画があり、今後30年間で最大2450億ドルの費用がかかると見られている。B-21購入の可能性は、その点を考慮すれば、さらに現実性がない。
2019年、オーストラリアでB-21購入構想がシンクタンクで出回り始めたとき、The War Zoneは、長距離ミサイルを実戦投入することの方がはるかに理にかなっていると主張した。これらのミサイルは、B-21の支持者がRAAFにもたらすと考えたものとほぼ同様の能力を、受け入れやすい価格で提供できる。
そこでキャンベラは、B-21を追いかける代わりに、コングスバーグ/レイセオンの統合打撃ミサイル(JSM)と、ロッキード・マーチンの長距離対艦ミサイル(LRASM)AGM-158Cへの投資を決定しました。すでに供用中のAGM-158B Joint Air-to-Surface Standoff Missile-Extended Range (JASSM-ER) に加え、三種類のステルス兵器はRAAFの戦闘力を大幅に向上し、コストを大幅に削減できる。
JSMはF-35Aの機内兵装庫から発射ができ、低視認性を保てる。また、将来的にはRAAFのP-8Aポセイドン海上哨戒機にも搭載される可能性がある。P-8のマルチロール「爆撃機バージョン」構想は、以前から長々と議論されており、オーストラリアにとって非常に理にかなう。
また、オーストラリアは米国と共同で、RAAFの航空機に搭載可能な空気取り入れ式の長距離ミサイルの開発に南十字星統合飛行研究実験(SCIFiRE)プログラムとして取り組んでいる。高速かつ長距離兵器は、能力をさらに飛躍させる。
しかし、オーストラリアがB-21の事業全体から永遠に締め出されたままだというわけではない。過去に、フランク・ケンドール空軍長官は、米国がオーストラリアとB-21に関する取引について「喜んで話す」と示唆していた。
完全な購入が不可能でも、他の選択肢が考えられる。
過去に議論したように、B-21プログラムでもB-1BやB-52H爆撃機と同様に、オーストラリアへの輪番配備を確立できる。これは、AUKUS(オーストラリア、イギリス、アメリカ)の三国間安全保障条約の延長線上にあり、アジア太平洋地域における米国の戦略的利益を促進する可能性があるため、米国議会の一部が支持している構想だ。AUKUSとそれに伴う機密核技術の共有により、オーストラリアのB-21購入がより現実的な提案になったとの議論もあるものの、コストと能力の大きな障壁が残っているのは事実だ。
B-21を常時駐留させれば、購入した場合の利点の多くを提供することになるが、そのために必要な費用はなく、将来どの時点でもこの協定を中止するオプションもある。
最新の国防戦略見直しの初期分析では、B-21の議論が見出しの多くを占めると思われるが、手の届かないステルス爆撃機よりも長距離ミサイルを優先する決定は、一つの側面に過ぎない。
政策文書は、アジア太平洋地域における中国の影響力に対抗する必要性と、オーストラリアの地理的優位性が軍事技術の進歩によって着実に損なわれているとの理解の高まりにより大きな変化が示されている。
「現代の戦略時代には、地理や警告時間には頼れない。より多くの国が、海上、陸上、航空、宇宙、サイバーの5つの領域すべてで、広範囲に戦闘力を発揮できるようになっている」と文書にある。
したがって、オーストラリアがJSMやLRASMのような兵器を優先的に採用し、スタンドオフレンジで新たな脅威に対抗する能力を高めようとしていることは驚くことではない。原子力潜水艦計画も、新しい考え方の根幹をなすものだ。
国防戦略レビューでは、水上と水中の両方で活動する海上監視ドローン、統合標的能力の強化、水陸両用戦と遠征航空作戦への重点化、統合航空・ミサイル防衛システムの強化など、その他の投資分野も強調している。
空中発射型のスタンドオフ兵器以外に、オーストラリアは陸上からの長距離攻撃する能力を拡大し、米国製のM142高機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)を購入し、精密打撃ミサイル(PrSM)を共同開発・調達する。
一方、海軍の分野では、米国務省が先月、ホバート級駆逐艦の武装用として、トマホーク・ブロックVを最大200発、トマホーク・ブロックIVを最大20発、オーストラリアに売却する8億9500万ドルの契約を承認したばかりだ。トマホークは、オーストラリア海軍がAUKUSで開発中の原子力潜水艦の武装にも使用される予定で、紛争地域で前方から活動できる生存可能なスタンドオフ攻撃プラットフォームをオーストラリアに提供する。
オーストラリア空軍に関しては、ボーイングがATS(Airpower Teaming System)の「忠実なウィングマン」ドローン・プログラムでオーストラリアで開発したMQ-28 Ghost Bat戦闘ドローンなど、すでに多額投資が行われている。これは「第5世代空軍」を目指す動きの一部で、その他の主要プログラムには電子戦や情報・監視・偵察(ISR)能力への投資も含まれる。
一方、今回の見直しで敗退したのは、オーストラリア陸軍のランド400フェーズ3プログラム新型追跡式歩兵戦闘車で調達が450台から129台に減らされる。
基本的に、新しい国防戦略レビューは、オーストラリア国防軍を再均衡させつつ範囲を広げることを目的としており、RAAFも例外ではない。そして、B-21は確かにこの野望を達成するのに役立つが、オーストラリアが獲得する可能性は決して高くない。結局のところ、より長距離で脅威を打ち負かすという広範な転換の一環としてスタンドオフ兵器に焦点を当てることで、RAAFは少ない費用で多くを達成できる。■
Australia Held Talks About Buying B-21 Raider Stealth Bombers
BYTHOMAS NEWDICK|PUBLISHED APR 24, 2023 3:11 PM EDT
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