オーストラリアの原潜調達計画が明らかに。米ヴァージニア級をまず取得したあと、オーカス級原潜を国内建造すると言うが....米国にも余裕はないはず。むしろオーストラリアが英米潜水艦の作戦拠点になる方が重要か。
Australian Department of Defense
オーストラリアの国会質疑から、同国の原子力潜水艦導入の詳細が明らかになった
オーストラリア海軍(RAN)の上級司令官は、オーストラリアが米国および英国と行っている三国間原子力潜水艦「AUKUS」取得契約の詳細を明らかにした。国会の国防予算公聴会での激しい質疑で明らかになった詳細は、米海軍の潜水艦能力にも影響を与える。
2021年9月、米国と英国が協力してオーストラリアの次世代原子力潜水艦艦隊取得・配備を支援するという驚きの3国間発表から約2年、5月30日と31日にオーストラリアの首都キャンベラで行われた上院公聴会で、プログラムの主な内容が明らかになった。
オーストラリア海軍の原子力潜水艦タスクフォースの責任者であるジャッキー・ランビ上院議員は、上院の両党議員から激しく、時には敵対的な質問を受け、オーストラリアのAUKUS原子力潜水艦計画について「知られていなかったこと」が多く明らかになった。
2020年3月、西オーストラリアのフリートベースウエストに帰還したコリンズ級潜水艦HMAS Farncombがディアマンティナピアに接岸する際、船員が接岸ラインに身を寄せる。オーストラリア国防総省
まず導入するヴァージニア級攻撃型潜水艦3隻の構成と時期、英国と共同開発で建造される後続のオーカス級原子力攻撃型潜水艦の隻数、オーストラリアの将来の原子力潜水艦艦隊の最終戦力が含まれる。
オーストラリアの原子力潜水艦タスクフォースの責任者ジョナサン・ミード中将は、上院外交・防衛・貿易法制委員会で、ランビ議員から繰り返し具体的な質問を受け、正式な証拠として、「ヴァージニア2隻が我々(オーストラリア海軍)に譲渡され、我々は建造ラインから1隻購入する」と述べた。
「オーストラリアに譲渡される潜水艦の正確な配分は、オーストラリアと米国でまだ決定していない」と、ミード中将は質問に答え述べた。「しかし、我々は各潜水艦が耐用年数20年以上あることを視野に入れている」。
この「耐用年数20年」とは、2023年3月のジョー・バイデン米大統領、リシ・スナック英首相、アンソニー・アルバネーゼ豪首相による共同声明で明らかになった、2032年前後に米海軍からRANに譲渡された後の潜水艦の予想耐用年数を指している。
ミード中将は、最初に譲渡されるヴァージニアの20年の耐用年数、既知の原子炉の耐用年数、米海軍が公表しているヴァージニア級の建造と就役のスケジュールについて説明し、ランビ議員は、オーストラリアが米海軍からどのヴァージニア級を譲渡するたに米軍と交渉しているのか、司令官に質問した。
ミード中将は、「おそらくヴァージニア・ブロックIIIかIVを検討しています」と答えました。ミード中将が、オーストラリア海軍に譲渡される2隻の初期SSNの生産形態としてヴァージニア級ブロックⅢまたはブロックⅣを特定したことは、対象となる米海軍の潜水艦を、SSN-774ブロックⅢ(SSN-791 USS Delaware 2020年4月就役、SSN-790 USS South Dakota 2019年2月就役の可能性は低いが)とブロックⅣ全10艦、うち3艦だけ2020年4月から任務に就く1隻、潜在的には2隻に減らすようだ。さらに7隻のブロックIVヴァージニアが、就役に先立ち、さまざまな生産段階、あるいは米海軍や請負業者の海上試験を受けている。これはあくまで現時点での限られた情報に基づくもので、もちろん変更される可能性がある。
ほぼ完成したブロックIVヴァージニア型USSニュージャージー。ヒル
オーストラリア上院の公聴会では、ミード中将とその上司であるマーク・ハモンド大将は、オーストラリアが直接取得を希望する米国ヴァージニア級SSNがどの艦なのか、それ以上の詳細は明らかにせず、公に知られているヴァージニア級の欠陥について精力的に質問されたが、「生産ラインから購入する」オーストラリア海軍の三隻目のヴァージニアに関する詳細は一切明らかにしなかった。
外交・防衛・通商法制委員会でハモンド海軍大将は、「米海軍が今後しばらく、艦艇名を公表しなくても、驚かない。しかし、彼らがこのパートナーシップに傾倒し、オーストラリア海軍を将来の成功に導くためにこちらと協力することを楽しみにしている」と述べた。
5月31日に行われたオーストラリア海軍高官に対する攻撃的な尋問は、前日の同じ公聴会で、反核グリーンズ党のデビッド・ショブリッジ上院議員がミード中将に持続的に質問を浴びせたのと同様の光景となった。これにより、豪州政府の将来の潜水艦計画が、米国や豪州で広く報道されている認識と異なることが判明した。
ヴァージニア級SSNは、「能力ギャップ」を埋めるための一時的な原子力戦術潜水艦能力という考え方は、完全なものではなかったようだ。このギャップは、オーストラリアで就役中のコリンズ級ディーゼル電気戦術潜水艦の運用効果の低下と、英国との共同プログラムで南オーストラリアで現地建造されるオーカス級戦術SSN8隻との間に存在したもので、今となっては完全な話とは言えなくなった。
ロサンゼルス級潜水艦USSサンタフェは、2019年2月、西オーストラリア演習場において、オーストラリア海軍コリンズ級潜水艦HMASコリンズ、HMASファーンコム、HMASデシェイヌ、HMASシーンと水面上で編隊を組んで通過中。オーストラリア国防省
「政府はオーストラリア向けに8隻の原子力潜水艦を示した」と、リード中将は上院見積もり公聴会での正式証言で慎重に述べた。「我々のモデル化と米国と英国のパートナー協力に基づき、2050年代半ばにSSN8隻を取得し、提供することを検討しています」。
シューブリッジ議員から、現地建造の次世代原子力潜水艦「オーカス級」8隻を意味するのかと具体的に追及された中将は、「いいえ、8隻の原子力潜水艦です」と答えました。その中には3隻のヴァージニア級も含まれます」。
たった一度の返答で、周到に作られたはずのAUKUSのストーリーは事実上「こじつけ」になってしまった。現実には、オーストラリア政府の方針は、2050年代半ばまでに合計8隻の原子力搭載の通常兵器型潜水艦を運用することである。この艦隊は、譲渡された3隻と新造のヴァージニア級攻撃型潜水艦で構成され、残りの艦隊はオーストラリア製の次世代型オーカス級SSNで構成される。
ヴァージニア級SSNを米国から「最大5隻」調達し、さらに予備能力として将来のブロックから2隻のヴァージニアを追加するオプションがあると公表していることを考えると、この予測結果も崩れ去ったように見える。これは、英豪のAUKUS級原子力攻撃型潜水艦計画に遅れが生じた場合、オーカス級 SSNの建造がで3隻程度に減少する可能性がある。
ミード中将によるとオーカス級SSNを追加する場合、おそらく発表された8隻の潜水艦建造計画を満たすために3〜5隻の第2トランシェを意味すると思われるが、「将来の(オーストラリア)政府によって決定される」ものだという。
潜水艦「オーカス」級SSNのコンセプトアート。英国国防省
オーストラリア上院公聴会では、パース近郊にあるRANのHMASスターリングフリートベース・ウェストにおけるAUKUS型潜水艦回転部隊(SURF-West)は、保守・維持のための長期寄港プログラムとは異なり、米海軍のインド洋前方部隊に酷似することも明らかになった。米海軍潜水艦が広範囲に展開する中で、定期的に立ち寄る「ローテーション」地点というだけでなく、攻撃型潜水艦部隊を前方展開する可能性もある。
フリートベース・ウエスト。オーストラリア国防省
オーストラリアは、フリートベース・ウエストのディアマンティナ桟橋にある潜水艦接岸施設の拡張、予備品保管施設、整備工場、技術サポートセンター、追加発電の建設計画への投資を承認ずみだ。そして、最も重要なことは、2027年の予定に先立ち、同基地とともに基地をローテーションする米英豪の海軍兵士向けに、既婚・独身者の宿泊施設、地元の学校と医療施設の拡張が行われていることだ。
2027年以降、最大で米海軍4隻、英海軍1隻のSSNがフリートベース・ウエストを拠点に活動することになり、インド洋作戦への大きな軸となるとともに、中国海軍の侵略に対するオーストラリアの抑止力を本格的に強化することになる。
オーストラリアは数年前から準備を進めており、フリートベース・ウエストでは、オーストラリアの施設と米海軍とオーストラリア海軍の合同チームが米海軍の原子力攻撃型潜水艦の武装装填能力を具体的に「検証・実証」している。これは、2022年にロサンゼルス級SSN USSスプリングフィールドとエメリー・S・ランド級潜水艦補給艦USSフランクケーブルが寄港し先駆的に実施された。
ロサンゼルス級潜水艦USSスプリングフィールド(SSN-761)に所属する水兵は、2022年4月28日、オーストラリアのパース沖にあるガーデン島のオーストラリア海軍基地HMASスターリングで、潜水艦がピアサイドにいる間、ハープーンの不活性訓練形状で武器取り扱い演習に参加する。米海軍写真:マス・コミュニケーション・スペシャリスト・シーマン・ウェンディ・アラウズ撮影
太平洋南西部や戦略に重要な珊瑚海やソロモン海でのAUKUSのSSNを支援をめざし、人口が多いオーストラリア東海岸に2つ目の原子力潜水艦運用基地を設置するために、さらなるオーストラリアの資金が投入されている。
オーストラリア上院公聴会で明らかになった詳細は、AUKUS合意以来、政治的な火種になることは間違いないだろう。また、2021年に米民主党のジャック・リード上院議員と共和党のジェームズ・インホーフェ上院議員(当時上院軍事委員会委員長・委員長)が超党派で介入し、オーストラリアが米国のヴァージニア級攻撃型潜水艦を欲しがるのは、「貴重で高度な米国のSSNを巡るゼロサムゲームになりかねない」と危惧したのを思い起こす必要がある。すでに過剰なまでタスクを課せられている米潜水艦艦隊で、タイムリーにサービスを提供する能力もさることながら、より多くの隻数を必要としていることとも関係する。
いずれにせよ、オーストラリア海軍に原子力潜水艦を提供する事業は、複雑で論争の的になることは分かっている。しかし、オーストラリアにとってインド洋はじめ世界の主要な航路を支配する強力な新能力を手に入れる大きな意味が生まれるはずだ。■
Australia To Get One New Build Virginia Class Submarine, Two From U.S. Navy
BYJOHN HUNTER FARRELL|PUBLISHED JUN 8, 2023 10:19 AM EDT
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