2機受領で止まっているのは製造問題や生産量の不確実性が理由だという
米国政府の最高監査機関が発表した主要兵器システムに関する進捗報告書から、米空軍がF-15EXイーグルII戦闘機を2機しか受領していない理由が明らかになった。取得総額をめぐる揉め事と、初回バッチ生産で問題が重なり、スケジュールが右往左往している。
F-15EXは、老朽化したF-15C/Dイーグルを置き換えるべく取得されるが、空軍は当初、最低144機を購入すると発表していた。その後、数は変動し現時点で104機に落ち着いている。
米国会計検査院(GAO)の議会委員会報告書最新版では、F-15EXプログラムの現況を詳細分析し、プログラムが2022年9月にMTA(Middle Tier of Acquisition)の状態から主要能力獲得経路に移行したことを指摘している。
MTAとは、国防総省がプログラム開始から5年以内にシステムを開発・提供することを目指すプロセスを指す。主要能力獲得は、新兵器システムを実際に購入するプロセスで次のマイルストーンだ。
フロリダ州エグリン空軍基地の第96試験飛行隊、第40飛行試験飛行隊から、これまでに空軍に納入された2機のF-15EXのうちの1機。米空軍撮影:イーサン・ワグナー
しかし、報告書によると、当初2022年3月にMTAからMajor Capability Acquisitionに移行する予定で、半年遅れたのは2023会計年度の予算検討の結果だった。予算要求では、空軍はF-15EXを144機から80機に削減し、代わりに次世代航空優勢(NGAD)と呼ぶ将来の空戦プログラムなど、もっと重要と考えられるプログラムに資金を割り当てるよう求めていた。
さらに、2022年6月発表のF-15EXプログラムのコスト見積もりは予想以上に高く、調達予定機体をさらに2機減らし、合計78機となった。2024年度予算案では104機まで増加したが、コストと機数をめぐる不確実性がプログラム全体の遅延を招いた。
空軍は、現在のF-15EXの104機は、2024年度予算案に記載された94機と、以前の予算で資金調達された8機、さらに2022年度に基準外再プログラム(ATR)決定により資金調達された2機となると確認している。104機の内数に2025会計年度要求の25機も含まれる。
コンフォーマルフューエルタンクを装着したF-15EXの真正面から見た図。アメリカ空軍 USAF
ボーイング向けの各ロット生産発注については、2022年11月にロット1の生産条件が合意され、2023年5月にはロット2が確定する予定だった。その間、この2つのロットをサポートする未確定発注が、それぞれ2020年7月と2021年11月に行われている。
しかし、このプロセスも遅延に悩まされた。その理由についてGAOは、国防総省で契約管理を担当する国防契約管理局(DCMA)が、ボーイングの業務管理システムのうち2つを「不承認」としたためだと説明している。報告書にはそれ以上の詳細は記載がないが、メーカーは「欠陥に対処する是正措置計画を策定し」、現在、最終承認を得るためDCMAと協力しているとしている。
一方、ハード面では、F-15EXは、既存機から派生したこともあり、GAOは「技術は成熟しており、設計は安定している」と判断し、非常に順調なようだ。これを反映し、2021年5月にシステムレベルおよび生産代表のF-15EXプロトタイプのテストが完了している。
しかし、成熟しているとはいえ、停滞は続いている。空軍はまだ最初のロット1B機引き渡しを待っており、最初の二機が2021年初頭に納入されて以来の機体となる。なお、当初の二機はテストと評価サポートに使用されている。
ロット1Bの納入は2022年12月に開始予定だったが、6カ月間の遅延にも見舞われた。GAOは、これらを「生産関連の問題 」とし、こう説明している:「遅延の主要因は、飛行安全性を確保する前部胴体アセンブリの重要部品に関連するサプライヤーの品質問題だ」。プログラム関係者によると、この品質問題は7号機8号機生産の時点で修正された。
前部胴体のどの部分に欠陥があると判断されたのか不明だが、他の場所でも不具合が発生しているようだ。具体的には、ボーイングが使用した穴あけ工具に「設計ミス」があり、F-15EXの3~6号機のウィンドスクリーン取り付け用の穴が不正確に開けられた問題が発生した。ボーイングはこの問題を修正したが、ロット2生産の開始前に、該当機体の穴を再度開ける必要がある。その影響で、ロット2生産開始は2ヶ月遅れている。
2021年4月7日、フロリダ州エグリン空軍基地で行われた式典で、F-15EXが公開され、イーグルIIと名付けられた。アメリカ空軍写真/Samuel King Jr.
修正後の納入スケジュールでは、2023年の5月から7月にかけ、毎月2機のペースで6機のロット1Bを納入することになっているが、各機体が空軍に引き渡されているかは現段階で不明だ。DCMAとボーイングの分析によると、この目標はおそらく達成されていないようだ。
DCMAは「これまでに発生した生産関連の問題」を懸念し、ロット1B納入が2023年9月まで完了する可能性は低いと結論付けている。一方、ボーイングは、ロット1Bの1機目と2機目が、2023年7月と2023年8月に納入されると予想している。
「2023年7月以降の追加のロット1B機納入の遅延で、2023年の初期運用能力とフルレート生産を含む、プログラムで計画したマイルストーン日付の実現が困難になる」と、報告書は警告している。
GAOは、F-15EXプログラムの「主要リスク」として、サイバーセキュリティを挙げている。その理由に、イーグルIIが輸出用機体から派生したこと、対外軍事販売機は米空軍のサイバーセキュリティ要件に準拠する設計になっていいないことが挙げられる。
F-15EXのサイバーセキュリティ性能の評価は、国防総省の6段階プロセスとして継続されている。これまで分析で最初2点は完了しているが、報告書では、ロット1B機体の納入が完了するまで研究が継続されるという事実以外、詳細な情報は提供されていない。
一方でF-15EXが相当数到着し始めた後、どのように第一線に配置するのがベストか空軍はまだ悩んでいる。
お伝えしたように、オレゴン州クラマスフォールズのキングスレイフィールドにある現在のF-15C/D隊は、今後イーグルをF-15EX機ではなく、F-35Aステルスジェットに置き換える。今後、イーグルの訓練は、F-15EXとF-15Eストライクイーグルあわせノースカロライナ州のシーモア・ジョンソン空軍基地で扱われることになる。
空軍は最近、カリフォルニア州とルイジアナ州の州軍航空隊にF-15EXを常駐させる計画を発表した。各機は、オレゴン州ポートランドにある第142戦闘航空団に加えられる。しかし、それ以上に、空軍全体におけるイーグルIIの配備は不透明なまま、さらに多くの部隊が同型機を受け取るはずだ。
このような事態は、空軍が近代化に注力する中で、予算配分でますます頭を悩ませているさなかに起こっている。最新の予算要求では、F-15EXの計画機数が微増し、より良いニュースとなったが、イーグルIIの配備計画やF-15Eの将来が確定していないため、イーグルIIを支持する向きはこれ以上の遅延は避けたいと望んでいるはずだ。■
This Is Why F-15EX Deliveries Have Been Delayed | The Drive
BYTHOMAS NEWDICK|PUBLISHED JUN 8, 2023 6:19 PM EDT
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