英国主導の未来型ステルス戦闘機「テンペスト」の開発作業が加速中だ
英国主導のテンペスト未来型ステルス戦闘機の開発作業は、ロケットソリを使ったマーティン・ベーカー射出座席の試験など、加速度的に進んでいる。乗員脱出システムのテストは、これまでのプログラムの進展を具体的かつ劇的に示している。しかし、これは多面的な開発の一要素に過ぎず、計画通り2035年までに新世代有人戦闘機を就航させるため多くの課題に直面することになる。
射出座席試験のビデオと写真は、プログラムリーダーであるBAEシステムズから、このプログラムのその他作業に関する詳細とともに、本日発表された。射出座席は、テンペストのフライング・テクノロジー・デモンストレーターで使用される。超音速の乗員付きデモ機計画は2022年7月に初めて発表され、2027年までに飛行させる目標も発表された。
フライングテクノロジーデモンストレーターのロケットソリ試験の1つで、射出される瞬間。BAE Systems
実証機には、ユーロファイター・タイフーン戦闘機と同じマーティン-ベーカーMk 16A射出座席が採用される。乗員脱出システムに関する作業は、2022年2月、BAEのホーク先進ジェット練習機の技術を取り入れたコックピットキャノピーを評価する静止射出から始まりました。その後、ロケット推進ソリを使った4回のテストが行われ、各種重量の計器付きマネキンが280ノットと450ノットで射出された。
乗員脱出装置の作業は完了した。脱出に使用する胴体部分は、「代表的な前部胴体デザイン」と説明されているように、実証機とほぼ同じで、試験の生産性を高めるため、ある程度の共通性が必要なようだ。
射出試験に使用される「代表的な前方胴体デザイン」とロケットソリとの結合。BAEシステムズ
ハイテクで高度なまで自動化された新しい生産ラインで作られたBAEの「代表的な軍用高速ジェット機胴体」。BAEシステムズ
ただし、デモ機が実際にどの程度テンペストの姿になるかは不明だ。すでに、テンペストを表すコンセプトスタディやモックアップの外観に大きな変化が生じている。
BAEによると、今後4年間で飛行技術実証機を飛ばすため、BAEをはじめとするこのプログラムに携わる事業体(ロールス・ロイス社、レオナルドUK、MBDA、英国国防省など)は、「さまざまな革新的デジタル技術と変革的プロセス」を用いている。
近年、デジタルエンジニアリングは、新型航空機やその他の兵器システムの迅速な開発を可能にする鍵として注目されている。BAEはこのアプローチによりタイムラインを達成できると確信している。
特に、デジタルプロセスには、プログラムコード全体を自動作成するオートコーディングが含まれる。BAEによると、この手法が軍用機設計に使われるのは初で、「セーフティクリティカルなシステムソフトウェアを数週間ではなく、数日で作成する」ため活用されている。このソフトウェアは、シミュレーターで実証され、例えば、複雑な飛行操縦の飛行制御システムの挙動などをテストすることができる。こうして、設計者は飛行技術実証機の操縦性や性能について、実際に飛行する前に多くを知ることができる。
未来の戦闘機「テンペスト」の初期コンセプト。BAEシステムズ
このプロジェクトで特別に開発されたシミュレーターは、ランカシャー州ワートンにあるBAEシステムズの新施設に設置されている。同社によると、BAE、ロールス・ロイス、英国王立空軍(RAF)のパイロット10人のチームによって、デジタル表示の技術実証機がシミュレーターで170時間以上飛行した。
また、実証機用のパワープラントの開発も急ピッチで進められている。ブリストル州フィルトンにあるロールス・ロイス施設で、エンジンテストが行われている。テストに使われたエンジンは、タイフーン戦闘機の標準的なユーロジェットEJ200だが、これが双発の飛行技術実証機にも使われるかは不明だ。同じく双発のテンペストには、完全新設計エンジンが搭載される。
デモ機用のパワープラント・システムには、インテーク用のエンジン・ダクトの製造に「高度な製造プロセス」を用いるなど、斬新な技術も取り入れられている。吸気口は、可動部品を減らし空気を超音速から亜音速に減速させてからエンジンに合流させる設計だ。インテークサーペンタインデザインは、航空機のステルス特性を確保する上で重要なポイントだ。
ブリストルのフィルトンで、実証機用のエンジンダクトと組み合わされたEJ200エンジン。BAEシステムズ
現状では、フライングテクノロジーデモンストレーターが実際にどのようなものになるのか、コンセプトアートや模型を見ることはできない。しかし、エンジンダクトの全長は約33フィート(約3.5メートル)で、大きな機体であることを示唆している。また、乗員脱出システム、エンジン吸気口、低視認性の形状や素材に基づくステルス技術などの機能を具体的にテストすることも分かっている。これらの特徴は、テンペストの設計に反映されるが、デモ機と量産機の間で大きな変更がある可能性も十分にありえる。
これは、テンペストが基本的な部分であり、「忠実なウィングマン」タイプのドローン、新世代の空中発射兵器、センサーなど、他の技術も含む広範なグローバル戦闘航空計画(GCAP)の三国間の性質を反映したものだ。
2022年7月に実証機が発表されてイギリス、イタリア、日本のGCAP協力体制が具体化し、プログラムの成功の中心となっている。
しかし、現時点では、パートナー3カ国がGCAPのワークシェアとコストをどう分担するかは明確ではない。昨年夏、英国国防省が2025年までのGCAPに約25億ドルを出資したと報じられ、イタリアと日本がともにこれに匹敵する出資をしたと言われている。
しかし、イタリアと日本が参加し、コストを分担し、テンペスト機と付属システムの需要を高めることができたとしても、新型戦闘機とそれを支えるアーキテクチャをゼロから作ることの実現性、特に2035年までに就役させれるかには、大きな疑問が残る。
富士山を背景にしたGCAPの公式コンセプト。三菱重工
これまで英国政府は、将来的に他国がGCAPに参加し、パートナーとして契約したり、輸出先としてテンペスト機を購入する可能性を暫定的に示唆してきた。イギリスが不況にあえぐ中、そのような動きは歓迎すべきことだ。しかし、どのような国が参加する可能性があるかは明らかではない。
スウェーデンは以前、GCAPに先立つ英国主導のFCAS(Future Combat Air System)フレームワークに関心を寄せていた。しかし、現在、スウェーデンはGCAPの一部として言及されなくなり、参加に疑問が持たれている。
さらに、欧州で2つの未来型戦闘航空計画を同時に進めることが現実的なのかという疑問も残る。英国主導のFCAS(現在は実質的にGCAPに変身したように見える)だけでなく、フランス、ドイツ、スペインは、ライバルとなる汎欧州FCASを追求している。欧州のFCASは、次世代戦闘機(NGF)と呼ばれる有人戦闘機が目玉だ。
過去にイタリア空軍の長官が、「同等のプログラム2つに莫大な資金を投入することは考えられない」として、2つのFCASプログラムの統合の可能性を提起していた。現時点では、そのような展開はあり得ないと思われるものの、汎欧州FCASで政治的な緊張があるため、完全に否定できない。
BAEシステムズが発表したテンペスト戦闘機の最近のコンセプトアート。BAEシステムズ
一方、有人型戦闘機以外にも各種技術が開発されているため、例えば無人航空機や空中発射兵器など、他の要素で協力する選択肢も少なくない。
このプログラムの政治的・産業的な側面で起こりうる展開は別として、今回の発表で、BAEとパートナーは、2027年までにテンペストのデモ機を飛行させるべく、現在推進していることが明らかになった。
しかし、ステルス戦闘機をゼロから開発するのは非常に複雑な事業であり、長い開発期間と高いコストが最初から織り込まれていることは周知の通りだ。その意味で、このスケジュールが野心的であることは明らかだが、フライング・テクノロジー・デモンストレーターが実際にどのように登場し、どのような技術が盛り込まれるのか、次の展開が楽しみだ。
最終的には、この中間デザインで最終製品への取り組みが加速され、テンペストの野心的なスケジュールが維持されるよう期待される。■
Tempest Fighter Begins To Take Shape With Ejection Seat Tests
BYTHOMAS NEWDICK|PUBLISHED JUN 14, 2023 1:09 PM EDT
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