スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナ戦が3年目に突入。これまでの教訓をまとめ、今後の展望を陸海空サイバーさらに地政学で占う

 

ウクライナ戦開始から2年経過、という表現は実は正しくなく、ウクライナはそれ以前からクリミア半島併合や国境地帯の紛争などロシアとの武力衝突は続いていたわけでずっと緊張状態にあるわけです。とはいえ、ロシアがあらゆる国際規範に反し、国境から大規模部隊を侵入させて、よくウクライナが耐えてきましたが、この先はどうなるのか、また各国への教訓はいかなるものなのか、Breaking Defenseがうまくまとめてくれましたのでご紹介しましょう。


ウクライナ紛争開戦から2年を迎えるにあたり、本誌・チームは、紛争の状況、3年目に何が起こるか、そして米国がこの紛争から学んだ教訓についてまとめた。


クライナ時間の2022年2月24日午前5時前、ロシア軍はウクライナ侵攻を開始し、戦車が国境を越え、長距離攻撃がキーウを襲った。ウクライナの防衛軍は力強く立ち向かい、ロシア軍に衝撃を与えた。だがロシア軍は、最も楽観的なNATOの計画者の想定以上に中途半端な軍隊であることが証明された。

 開戦から1カ月が経過するころには、戦争は現代の「衝撃と畏怖」のキャンペーンより、第一次世界大戦を彷彿とさせる泥沼の紛争に落ち着いていた。双方が一進一退し、ともにノックアウトパンチには程遠い。

 しかし、2年間で状況が変わらなかったわけではない。また、米国を含む他国が学んだ教訓を自国の戦闘計画に生かすのを妨げるものでもない。

 2年目の節目に、Breaking Defenseチームは、紛争の状況、3年目に何が起こるか、そして米国がこの紛争から学んだ教訓について、まとめた。



1.海軍領域: ドローン、封鎖、そして沈没船

ウクライナ紛争2年目、海軍領域は引き続き優先度の低い領域だったが、ウクライナは、無人装備を駆使しロシア海軍に大きな打撃を与えている。

 ウクライナは今月初め、まさにこの戦術でロシアの揚陸艦セーサル・クニコフを撃沈したと主張した。これは、ウクライナが海軍ドローンを使用する能力を示す、注目度の高い成功例のひとつだったが、過去2年間、同様の攻撃の動画がソーシャルメディア上で拡散していた。米国防総省高官は先週、記者団に対し、ウクライナ軍は黒海でロシア海軍の中型から大型の艦船少なくとも20隻のとロシア船籍のタンカー1隻を撃沈、破壊、損傷させたというのが国防総省の評価だと語った。

 インディアナポリスに拠点を置くシンクタンク、サガモア・インスティチュートのシニアフェロージェリー・ヘンドリクス元海軍大佐は、海軍ドローンの使用が非常に効果的である理由の一つは、黒海は広大な太平洋と比較して、簡単に監視できるチョークポイントを持つ閉鎖海域であることであるためと述べた。

 ウクライナ戦争は、「海戦の概念に大きな変化をもたらした。ウクライナは、無人機や小型無人船(爆弾を搭載したジェットスキーなど)の使用で非対称的優位性を示した」とヘンドリクスは本誌に語った。「過去に語ってきた水上艦艇の脆弱性は、あまりにも現実的なようだ」。

 ハドソン研究所のフェロー、ブライアン・クラークは、ウクライナがロシア海軍に対し使っているコンセプト、つまり爆発物を満載した安価なボートを自爆させる戦術は、本質的に新しいものではないが、その成功は、無人水上艦船をオペレーターがコントロールできる能力を拡大した最新技術によるものだろうと述べた。

 外洋では通用しそうにないが、ペルシャ湾や黒海、そして米海軍にとって最も興味深い台湾海峡のような環境なら非常に有効な戦術だ、とクラークは言う。この種の一方的な攻撃は、クラークとハドソン研究員のダン・パットが今週発表した報告書の要であり、中国の侵攻から台湾を防衛する必要に迫られた場合、米国がどのように同様の戦術を用いるかを理論化している。

 ウクライナ戦争で浮き彫りになったもうひとつの側面は、海上封鎖の破壊的な威力だ。

 ロシアは、ウクライナがヨーロッパやアフリカに穀物を輸出するのを阻止しようとした。このような海上封鎖はウクライナ経済にダメージを与えるだけでなく、パンの価格が著しく上昇すると内乱を引き起こしかねないアフリカ諸国にとって特に問題だ、とクラークは言う。

 ヘンドリクスは、封鎖が中断されたことで、世界が海への無制限のアクセスにいかに依存しているかに「目覚めた」と述べた。「ウクライナ、そして今回の紅海で、突然、海は自由なものではなくなった。人々は自由貿易や自由な移動という考え方に注目している。それがなくなるとどうなるかを目の当たりにしているからだ」。

 黒海に関して言えば、トルコは1936年締結のモントルー条約によって、誰が移動の自由を持つかについて大きな支配力を持っている。

 ヘンドリクスは、トルコが紛争初期にアメリカと同盟国の海軍の黒海進出を認めていれば、戦争の大部分を先制できたかもしれないと主張した。 しかし、ロシア海軍は黒海に駐留している艦船を撤退させたがらない。


2. 航空領域:キーウの嘆願にもかかわらず、航空装備の拡充は実現していない

上空では、開戦当初とほとんど変わっていない。非常に効果的な統合防空網によって制空権が相互に否定されているため、ロシアとウクライナのジェット機は通常、探知を逃れるため低空飛行し、にらみ合いの距離で作戦を展開しなければならない。

 しかし、戦闘の最初の年とは対照的に、ロシアの潜水艦ロストフ・オン・ドンを破壊し、他の重要な目標を攻撃するために使用されたと報告されている英国のストームシャドウのような、長距離の空中発射ミサイルのおかげで、ウクライナの攻撃範囲は広がっている。米国は地上発射ミサイルATACMSも供給し、さらに射程の長い新型の出荷を検討していると伝えられている。

 戦術も適応している。例えば米政府高官は、ロシアの攻撃を回避するためのウクライナの機敏な戦闘技術を模範として称賛している。ウクライナもロシアも、発見されないように低空飛行するドローンによる攻撃を行うようになってきた。

 ウクライナ戦争では、NATO同盟国はキーウへの支援で重要な機能を果たすようになった。ボーイングのE-7ウェッジテイルのようなプラットフォームが定期的に飛行していると、在ヨーロッパ米空軍のトップであるジェームズ・ヘッカー大将は先日、航空宇宙軍協会主催の戦争シンポジウムで記者懇談会に出席し、同地域で運用されているオーストラリア軍のウェッジテイルは、ドローンやミサイルが頻繁に飛来する「低高度での持続的なISR(情報・監視・偵察)画像」を提供していると明らかにした。

 ヘッカー大将によれば、ISR画像の必要性から、関係者は気球のような解決策を模索しているという。

 戦争初期以来、おそらくキーウからの最大の支援要請は、ウクライナの限られた空軍が運用せざるを得なかったソ連時代の戦闘機に代わる新型ジェット機である。ウクライナと支持者の期待にもかかわらず、これらのジェット機はロシアに対する夏の攻撃計画には間に合わず、せいぜい膠着状態に終わっている。

 しかし、ウクライナがヨーロッパから寄贈されたF-16ファイティング・ファルコンを運用する準備を進めていることから、一つのマイルストーンが見えてきた。AFAシンポジウムでの記者懇談会で、州軍航空隊のマイケル・ロー中将は、州兵の下で訓練を受けているウクライナ軍パイロットは進歩しており、実際「毎日F-16を単独で飛ばしている」と述べた。

 訓練は、単にジェット機を操縦するだけでなく、必要とされる「あらゆる任務をこなす資格」を確実にするものだとローは語った。空軍州兵のスポークスマン、アンバー・シャッツ中佐によると、2024会計年度には合計12名のパイロットが訓練を受けることになっている。彼らは全員「5月から8月の間に」卒業する予定で、さらに多くのパイロットを訓練するため追加資金が必要になるという。

 ウクライナがロッキード・マーチン戦闘機を戦場で使用するためには、まだ数点の要素が揃う必要がある、とローは強調している。例えば、2025年以降、デンマークから19機、オランダから24機、ノルウェーから2機、ベルギーから未公表の数のジェット機が援助国から移転される必要があり、適切な兵站インフラが整備される必要がある。整備士は現在、英語教育のためサンアントニオ統合基地にいるが、整備訓練の場所は「まだ決定していない」とシャッツは言う。

 ヨーロッパでもパイロットと整備士の個別訓練が行われている。デンマークのトロエルス・ルンド・ポウルセン国防相は木曜日の声明で、コペンハーゲンから供給されたウクライナ初のF-16は今年の夏までに到着するだろうと述べた。


3.陸上領域: 教訓から優先順位が変わる

第2次世界大戦以来のヨーロッパで最大の武力紛争が3年目に突入する中、ウクライナ同盟国やパートナー国が、キーウを支援する方法を模索し続ける一方、自国の地上兵器システムや部隊の進化で教訓を得ている。

 米陸軍ヨーロッパ・アフリカ報道官のマーティン・オドネル大佐によると、1月31日時点で、国際社会は世界各地80箇所以上の訓練場で11万8000人以上のウクライナ軍を訓練したという。このうち、ドイツのグラーフェンヴォーアとホーエンフェルスにある米軍基地で訓練を受けた兵士は16,300人で、9,900人が複合武器訓練、5,100人がプラットフォーム訓練、1,300人が幕僚・指導者訓練を修了した。

 しかし、連合軍の活動は訓練にとどまらず、キーウに送る兵器を特定することを目的とした、50カ国による毎月のウクライナ防衛コンタクトグループ(UDCG)会議も含まれている。この作業には、空軍、防空、砲兵、海上警備、装甲、情報技術、除染、無人機という8つの能力連合の設立も含まれている。

 他のヨーロッパ諸国で最も貢献できたと思われるのは陸上分野だ。例えば、ポーランドは最近、新しい装甲連合を率いることになり、今月初めの会議では、加盟国が参加を表明した。

 「水曜(2月14日)のUDCGで議論された装甲連合の目標は、戦車部隊だけでなく、他の種類の装甲車両にも関係し、ウクライナが適切なプラットフォームを確保できるようにすることだが、もっと重要なのは、プラットフォームで使う弾薬と、メンテナンス、維持管理だ」と、米国防高官は記者団に語った。

 今後数週間から数カ月でグループが固まるにつれ、潜在的な発表や変更が行われる可能性がある。

 米陸軍当局者は、何がうまくいっていて何がうまくいっていないかを研究し、近代化計画を微調整する機会として戦争を利用している。

 国防当局者の中には、地上戦線での具体的な「教訓」を挙げることをためらう者もいるが、戦車やその他の装甲車は、依然として適切であることをこの戦争は示していると主張している。

 「戦車や装甲車の戦場での居場所はまだある。 たしかに新たな脅威はあるが、結局のところ、誰かから地面を奪ってそれを維持したいのであれば、武装した軍隊でやるしかないのだ」と、米陸軍の調達責任者ダグ・ブッシュは先月の国際装甲車会議で聴衆に語った。

 質量もやはり重要だ。シンクタンクIISSは最近、ロシアはこれまで3000両の戦車を失っており、「質より量」を犠牲にしていると指摘した。

 ウクライナの火砲依存は今年も変わらず、当面は続くと予想される。現在と将来の課題は、155mm弾の補充だ。NATOは先月、155mm弾数十万発を12億ドルで購入する契約を発表したばかりだが、米陸軍も生産増強を目指している。2025会計年度末までに、毎月10万発の155mm弾を生産できるようにしたいとしている。

 米陸軍の戦術ミサイル・システムATACMSも2年目のウクライナに導入され、来年には長距離バージョンも東欧諸国に送られる可能性があるとの報告もある。

 ドローンは、この紛争の決定的な武器になるかもしれない。この1年で、米国はロシアの装甲を破壊するためスイッチブレード600攻撃ドローンを送り込み、モスクワはランセット3を使用しているようだ。

 陸軍のランディ・ジョージ陸軍大将は特に、ウクライナでの無人偵察機の運用状況を見ての決定だったと述べている。陸軍首脳部は、FARAからの資金を一部、無人機の能力強化に再投資する計画だ。


4.宇宙領域: 商業セクターのステップアップ

ロシアによる侵攻が始まって間もない頃、ウクライナは商業衛星の価値を実感した。億万長者イーロン・マスクが、モスクワによる攻撃前のサイバー攻撃でスターリンクとの衛星通信ネットワークが遮断された隙間に入り込んできた。ロシア軍が国境を越えて1週間も経たないうちに、ウクライナはスターリンクの宇宙ベースのインターネット・サービスにアクセス可能になり、端末が同国に殺到した。

 スターリンクはそれ以来、ウクライナで利用され続けている。市民と政府を外界につなぎ、経済を機能させるためだけでなく、ウクライナ軍の支援にも利用されている。このネットワークは、ウクライナの無人機やミサイルの誘導だけでなく、軍事通信も提供している。スターリンクは、地球低軌道にある何千もの衛星で構成し小型アンテナと暗号化された信号を使うため、これまでのところ、ロシアによる妨害はほぼ失敗している。

 実際、ロシアは現在、スターリンクについて「勝てないなら参加しよう」という態度に変えたようだ。ウォール・ストリート・ジャーナルが最初に報じたように、ロシアが占領したウクライナ領内でスターリンクを入手し使用しているとウクライナが主張している。ロイター通信は2月19日、ウクライナのマイハイロ・フェドロフ副首相が国営テレビで、ロシアによるスターリンク利用を阻止する方法について、政府はスペースXと「協力している」と語ったと報じた。

 スターリンクは最も公然の、そしてマスクの突出した、しばしば常軌を逸した性格からすれば予想通りの、最も物議を醸す例ではあるが、その他のアメリカの商業衛星企業もウクライナで重要な役割を果たしている。

 こうした企業は主に商業的なリモートセンシングに携わっており、その能力によってウクライナの政府や軍は、ロシア軍の動きや自国の軍隊を監視することができた。Planet、Maxar Technologies(Advent Internationalが最近買収)、BlackSky、Capella、Hawkeye360などの企業は、米国や世界中の国民に戦争に関する情報を提供し、ロシアの積極的なプロパガンダ・キャンペーンに対抗し、米国政府による主張の確立に役立っている。

 しかし、スターリンクとは対照的に、ウクライナを支援するために商業リモートセンシング画像とデータの公開に最初に拍車をかけたのは米国の情報機関だ。米国のスパイ機関が契約に基づいて入手したデータは、米国のNATO同盟国やパートナーとも共有され、進行中の戦争に関する情報を提供し続けている。

 宇宙軍作戦本部長のチャンス・サルツマン大将は、ウクライナの宇宙システム利用から国防総省が学ぶべき教訓を宣伝してきた。大将は9月13日の上院公聴会で、ウクライナは商業宇宙システムの有効性を証明したと語った。おそらくさらに重要なことは、この戦争によって、超高性能衛星数機よりも、多数の小型でコストの低い衛星からなるネットワークの方が攻撃されにくいことが立証されたことである。

 それ以来、サルツマン大将は、この2つの重要な教訓を、将来の難題に立ち向かう宇宙軍の努力に統合するよう推進してきた。これまでのところ、その成果はさまざまだが、まだ始まったばかりである。


5.電子スペクトル: 電波上の戦闘が続く

地上戦や海上戦と同様、ロシアは2022年にサイバー/電子戦争で打撃を与えようとしたが、予想外に回復力があり順応性の高いウクライナ人の手によって驚くべき逆転を喫した。しかし昨年は、ロシアが追いつこうと躍起になった結果、シーソーのような一進一退の攻防が繰り広げられ、血みどろの膠着状態に陥った。

 例えば、ウクライナは民間用の小型無人機を偵察機や小型爆撃機として軍事転用することに先鞭をつけた。対照的に、ロシア当局はそのようなシステムを軽視し、より大型の軍用システムに多額の投資を行ってきた。  CNAの専門家サミュエル・ベンデットによれば、2023年、ロシア側は国防省の官僚主義に追いつき、ロシアでは珍しい愛国的で自主的なボランティアに引きずられる形で、精密攻撃に使用される軽快なFPV(ファースト・パーソン・ビュー)「レーシング」ドローンのほとんどを寄贈しているだけでなく、そのパイロットの多くを訓練さえしているという。

 「有志は......国の防衛産業部門がFPVドローン製造に完全に関与していないことにまだ不満を抱いている」とベンデットはBreaking Defenseに語った。

 このような障害にもかかわらず、双方は1000機単位で市販のミニドローンを使い始め、電子戦で数千機を失った。(そのため、人間のコントローラーと常に通信することなくドローンを操作できるAIを導入しようとし、まだ成功していない努力が双方で行われた)。

 ロシアの電子戦部隊も適応した。ハドソン研究所のブライアン・クラークは、最近のAOCのウェビナーで、ロシア地上部隊は戦争を開始するために無線探知機と妨害機を惜しみなく装備していたが、それらの能力はウクライナではなくNATOの敵対国に対して最適化されていたと指摘した。例えば、ロシアはJSTARSレーダー機や静止軌道(GEO)上の軍事通信衛星のような大型で強力なNATOシステムを混乱させることを目的とした大型で強力なジャマーに多額の投資を行った。しかし、ウクライナのまだ駆け出しの空軍は、JSTARSのような妨害機を持っていなかった。

 ウクライナはGEO通信を持っていた: 2022年2月以前は、ヴィアサットが運営する商業衛星ネットワークがウクライナの軍事通信のバックボーンを担っていた。しかし、ロシアのサイバー攻撃が成功し、侵攻前夜にネットワークが機能不全に陥ったため、ウクライナはイーロン・マスクのスターリンクに切り替えることを余儀なくされた。スターリンクは、地球低軌道(LEO)上の小型で低出力の衛星何千機を使用する、根本的に別のアーキテクチャだ。このためトラックに搭載されたKrasukha-4のようなかさばるロシアのジャマーは、ウクライナの新しいアプローチには役に立たないことが判明し、撤退したとクラークは言う。しかし、2023年が近づくにつれ、ロシア軍は適応し、最終的には、衛星ではなく、スターリンク端末や地上の他のウクライナ無線、ドローンの制御リンクをターゲットにした、小型で、機動的で、射程の短いジャマーを大量に配備した。

 米軍はこうした教訓を肝に銘じている。特に陸軍は、ドローンに搭載するMFEWポッドとトラック搭載のTLSで戦術的電子戦を強化している、とクラークは指摘する。全軍がLEO衛星と(米国の基準で)低コストのドローンの普及に関心を寄せており、国防イノベーションユニットが野心的なレプリケーター・イニシアチブを先導している。

 しかし、重要な未解決の問題のひとつは、ウクライナの陸上戦における短距離ドローンやジャマーが、距離がはるかに長く、よりハイテクな敵が待ち構える西太平洋で通用するかどうかだ。


6.地政学 ワシントンの混乱とヨーロッパの推進力

国防総省のファクトシートには、米国がウクライナに送った兵器が、2年間で200万発以上の155mm砲弾、1万発のジャベリン・ミサイル、250台以上のブラッドレー、エイブラムス、ストライカー、榴弾砲車両など、非常に大規模なものであることが示されている。

 しかし、ウクライナ政府が直面している最大の難問は、ワシントンからの支援が揺らいでいることだろう。

 先週、ウクライナの都市アブディフカが陥落し、ホワイトハウスは特にその陥落を議会の不作為に関連づけた。ウクライナ支援の追加予算を推進してきたジョー・バイデン大統領は記者団に対し、「ウクライナの弾薬が尽きたから、こちらは手を引くという考えは馬鹿げている。非倫理的だ」と述べた。

 一方、ドナルド・トランプ前大統領は共和党の指名候補として有望で、議会共和党に対する影響力は強まる一方だ。トランプは最近、ロシアに「やりたい放題」させ、同盟に十分な支出をしていないNATO同盟国を攻撃する脅しをかけて欧州の防衛界を炎上させた。ウクライナへの資金支援への抵抗の多くは、紛争に対する彼のスタンスと結びついている。

 ヨーロッパでは、政府関係者はウクライナが戦争に勝つ最終目標に完全にコミットしたままだが、アメリカの無条件の支援なしにそれが実現することをますます恐れている。

 それでも、ウクライナでの戦争が始まって以来、ヨーロッパ全土で国防支出が明らかに増加し、キーウを支援するための軍事援助パッケージの承認や、装備品の在庫を補充する産業界との新たな兵器契約の着実な積み重ねにつながっている。

 この前例のない資金調達に伴い、NATOは今年、18の加盟国がGDP2%の同盟支出目標を達成することを背景に、ヨーロッパの同盟国防衛支出は合計3800億ドルに達すると見込んでいる。わずか2年でここまで劇的な変化を遂げたことは注目に値するが、それでも対前年比では、戦時経済体制に移行したロシアに遅れをとっている。国際戦略研究所(IISS)のシンクタンクの数字によれば、モスクワの軍事費は間もなく国内総生産(GDP)の7.5%に達する見込みだ。

 この懸念が政治的な議論を支配する傾向があり、キーウにMiG-29戦闘機とレオパルド2主力戦車を供与することへの抵抗に最もよく表れており、イギリスとフランスがストームシャドウとスカルプの長距離兵器を送ったにもかかわらず、ドイツがタウルス巡航ミサイルを送ることを拒否し続けていることは、ベルリンがいまだにエスカレーションを深刻に考えていることを示している。

 軍事援助が重要であるにもかかわらず、新兵器の供給が戦場で決定的な優位性をもたらしていない一方で、ヨーロッパ全域での深刻な弾薬不足がウクライナ政府関係者をいらだたせ続けている。アルジャジーラによれば、ウクライナはロシアの前線で互角の立場を保つため、毎月24万発の砲弾を必要としているが、その弾薬がどこから来るのかは不明だ。

 昨年5月以来初めてロシアに領土を奪われたアヴディフカの陥落は、キーウの軍事戦略家が直面している課題を浮き彫りにした。

 より広範な装備と経済レベルでは、ロシアは甚大な損害を被っている。少なくとも31万5000人のロシア軍兵士が死傷したと、米国の国防高官は先週記者団に語った。また、ウクライナにおけるロシアの作戦を装備、展開、維持、持続させるため、モスクワは直接的に2,110億ドルもの資金を費やした可能性が高い、と米国防当局者は述べた。

 それでもロシアの脅威が収まる兆しはほとんどなく、ヨーロッパの政治・軍事指導者たちは何度もそのことを訴えている。エストニアのカジャ・カラス首相は、モスクワによるNATO加盟国への攻撃は3年後に迫っていると主張し、イギリス陸軍のパトリック・サンダース代表は、侵略に備えイギリスの「市民軍」を立ち上げるよう呼びかけている。この2人の発言は、ロシアが打ち負かされた、あるいは衰退した勢力ではないことを如実に示している。


 紛争が3年目を迎えようとしている今、モスクワの戦略は単純だ。ウクライナをじりじりと削り続け、キーウが世界中の弾丸と政治的支援の両方を使い果たすことを願っている。■


Ukraine war turns 2: Lessons learned and what comes next - Breaking Defense

By   BREAKING DEFENSE STAFF

on February 23, 2024 at 12:22 PM


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

日本の防衛産業が国際市場でプレイヤーになれるか試されている。防衛面の多国間協力を支える産業が真の国際化を迫られている。

  iStock illustration CHIBA, Japan —  インド太平洋地域での中国へのヘッジとして、日米含む多数国が新たな夜明けを迎えており、軍事面で緊密化をめざす防衛協力が進む 言うまでもなく日米両国は第二次世界大戦後、米国が日本に空軍、海軍、海兵隊の基地を設置して以後緊密な関係にある。 しかし、日本は昨年末、自国の防衛でより積極的になることを明記した新文書を発表し、自衛隊予算は今後10年間で10倍になる予想がある。 政府は、新しい軍事技術多数を開発する意向を示し、それを支援するために国内外の請負業者に助けを求める。 日米両国軍はこれまで同盟関係を享受してきたが、両国の防衛産業はそうではない。 在日米国大使館の政治・軍事担当参事官ザッカリー・ハーケンライダーZachary Harkenriderは、最近千葉で開催されたDSEIジャパン展示会で、「国際的防衛企業が日本でパートナーを探すのに適した時期」と述べた。 日本の防衛装備庁の三島茂徳副長官兼最高技術責任者は会議で、日本が米国ならびに「同じ志を持つ同盟国」で協力を模索している分野を挙げた。 防衛省の最優先課題のひとつに、侵略を抑止する防衛システムの開発があり、極超音速機やレイルガンに対抗する統合防空・ミサイル防衛技術があるという。 抑止力に失敗した場合を想定し、日本は攻撃システムのアップグレードを求めており、12式地対艦ミサイルのアップグレード、中距離地対空ミサイル、極超音速兵器、島嶼防衛用の対艦ミサイルなどがある。 また、高エナジーレーザーや高出力マイクロ波放射技術など、ドローン群に対抗する指向性エナジー兵器も求めている。無人システムでは、水中と地上無人装備用のコマンド&コントロール技術を求めている。 新戦略の発表以来、最も注目されている防衛協力プログラムは、第6世代ジェット戦闘機を開発するイギリス、イタリアとの共同作業「グローバル・コンバット・エアー・プログラム」だ。 ハーケンライダー参事官は、日本の新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛予算の増強は、「時代の課題に対応する歴史的な資源と政策の転換」につながると述べた。 しかし、数十年にわたる平和主義的な政策と、安全保障の傘を米国に依存してきた結果、日本の防衛産業はまだ足元を固めらていないと、会議の講演者は述べた。 三菱重工業 、 川崎

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM