中国が南シナ海で構築した人工島には一定の軍事的意義があるとはいえ、水路及び海底資源の確保という政治的主張の一部としての意味のほうが大きい。だがいったん戦闘が始まれば、各島の価値は急落する。
南シナ海(SCS)に構築した各島を中国は守り切れるだろうか。
第二次大戦中の日本は各島の支配で戦略的優位性を発見したものの、米国を各島攻略に分散させることには失敗した。時間が経つにつれ、各島は戦略的な負債になり、日本は糧食、燃料、装備等の補給に追われることになった。SCS内の各島は中国に好都合な立地とはいえ、中国軍に真の価値を生む資産になれるだろうか。答えは肯定的だが、実際に戦闘開始となれば価値は急落するだろう。
中国は何を構築したのか
中国はSCS各地に軍事施設を構築し、特にスプラトリー、パラセル両諸島に多い。このうち、スプラトリーではスビ、ミスチーフ、フィアリークロスに滑走路を構築したほか、ミサイル陣地、レーダー、インフラ施設が造成されそうだ。パラセルではウッディー島に大規模施設を構築し、その他の場所にヘリコプター施設、レーダー基地を設けた。中国の建設工事は続いており、将来の軍事プレゼンスが拡大しそうだ。大規模基地のあるスビ、ミスチーフ、フィアリークロス、ウッディクロスには軍用機施設が備わり、戦闘機、大型哨戒機に使える。ミサイル陣地、レーダー、航空機による中国軍事力は南シナ海全域に届く勢いだ。
ミサイルに注目
一部の島はSAM装備の拠点になり、125マイル射程のHQ-9以外にロシア製S-400が導入されそうだ。また地上発射式巡航ミサイル(GLCM)も配備されよう。こうしたミサイルで南シナ海は米艦船、航空機に危険な場所となる。あるいは防空装備の不足を痛感する事態になる。SAMにネットワークやレーダーが接続されれば、敵機は相当の電子戦支援がないと接近できなくなる。GLCMで中国のA2/ADネットワークが強化され、潜水艦、艦艇、航空機からの発射を上回る威力を発揮できる。
だが戦闘となればミサイル拠点が残存できなくなるのは公然の秘密だ。陸上配備ミサイルが航空攻撃から生き残るために丘陵地、森林、他自然条件を使い隠れる。だが人工島にはこうした条件は皆無で、人工島といえども協調攻撃の前には無力となる。さらにミサイル発射装置には燃料、電力、弾薬等の切れ目ない補給活動が必要だが、撃ちあいとなれば中国がこうした補給を確実に実施できるか不明だ。
航空施設は簡単に排除できる
大型拠点があるSCS内四か所に軍用機施設が整備された。だが高性能戦闘機よりも哨戒機、電子戦機、早期警戒機の運用が重要となる。こうした機材を有効に使えば中国のA2/ADバブルは拡大でき、標的データをミサイル陣地や水上艦、さらに中国本土へ送信できる。戦闘機が展開すればSCS上空はさらに危険な場所となり、巡航ミサイルにより米艦艇の接近を阻める。
だが戦闘攻撃を受けた飛行施設の有効性は修理用資材、装備がどこまで使えるかで変わる。中国がSCSで構築した各基地が米軍ミサイル攻撃や爆撃を受けても機能できるか不明だ。大型基地には航空機の退避施設もあるが、こうしたシェルターが米軍の協調攻撃を受けてもそのまま残るかは大いに疑問だ。
レーダーも脆弱な攻撃目標になる
SAM、GLSM、戦闘機材は正確な標的データがあってこそ威力を発揮できる。重要なのはSCS各島のレーダー施設だ。各施設は脆弱とはいえ、中国に正確な戦闘状況を伝える貴重な存在となる。すべて機能すれば中国の防衛体制の有効性が増大する。
だがレーダー施設は米軍攻撃の前に脆弱だ。ミサイル攻撃、電子戦、サイバー攻撃、あるいは特殊部隊の襲撃もありうる。有事になれば中国はいきなりレーダーネットワークにアクセスできなくなりそうだ。それでもレーダーネットワークは比較的低予算で米軍のSCS突入を困難にする存在となる。
補給活動が中国に維持できるか
SCS各島における中国軍事力の発揮は中国本土と安全に通信できることが条件となる。中国が構築した人工島の多くでは補給品備蓄ができないか、攻撃の前に安全に確保できなくなる。各島には燃料、装備、弾薬類の補給が必要なため、中国の伸びきった補給部隊に相当の負担となる。PLAN、PLAAFが戦火にさらされた各島への補給作戦にリスクを押しても実施することにさしたる関心を示さなくなれば、SCS内各島の軍事的価値はマイナスとなる。中国にとって不幸なのは、島嶼戦の本質や補給体制のため各陣地を維持したくても、きわめて短期間しか可能でなくなることだ。
水上艦対要塞の戦いになっても
ネルソン卿が述べている。「要塞に戦いを挑む軍艦は愚かだ」。だが、水上艦が陸上拠点に優位となる状況もある。SCS内の中国の各島は移動できないし、軍事装備品や貯蔵品を隠す場所もない。米国はSCS内の各島の軍事施設を綿密に把握し、各島へ向かう軍事装備品の海上輸送も追尾できるだろう。これで各島は水上艦、潜水艦、航空機からの攻撃に極度なまで脆弱となる。ミサイルにはリアルタイムの標的データは必要でない。
米国に必要なのはズムワルト級駆逐艦に搭載予定だった高性能主砲装備で下した決定を覆すことだ。この主砲用の砲弾があればズムワルト級各艦は長距離から中国の各島を攻撃可能となり、深刻かつ復旧不能な損害を比較的安価に実現できる。これがないままだと各島には本来もっと重要な標的に残すべき巡航ミサイル多数を振り向ける必要がある。
SCS内各島には軍事的な意義も一部あるものの、むしろ水路や海底資源の保有を主張する政治的な道具としての方が重要だ。軍事的には中国のA2/ADシステムの薄い外皮となる。一定の条件があれば、この薄皮で米国の航行の自由を脅かせるが、米国の海軍空軍部隊からすれば排除は容易なことだ。■
この記事は以下を再構成したものです。
Are China's South China Sea Islands More Trouble Than They're Worth?
September 2, 2020 Topic: Security Region: Asia Blog Brand: The Reboot Tags: South China SeaPLAPLANPeople's Liberation ArmyBeijingIslandsMilitaryTechnology
Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is a Visiting Professor at the United States Army War College. The views expressed are those of the author and do not necessarily reflect the official policy or position of the Department of the Army, Department of Defense, or the U.S. Government. This first appeared in 2018.
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