ゴーストフリート事業のオーヴァーロード試験艦が9月にフェイズIで最終段階を迎えた。オーヴァーロード事業で既成の民間高速補給艇は無人水上艦(USV)に改装され、海軍にUSVの基本情報を提供する役目を負う。 US Navy photo.
9月4日、米海軍は大型無人水上艦艇(LUSV)のあるべき姿を決める第一歩として合計六社に契約交付した。
契約規模は合計42百万ドルでオーストラルUSA、ハンティントン・インガルス工業、フィンカンティエリ・マリネッタ、ボリンジャー造船、ロッキード・マーティン、ギブス&コックスの六社が7百万ドルずつで作業を開始する。
海軍は各社作業は2021年8月完了を期待するが、2022年5月までの延長も可能とする。
「各社向け契約を通じ大型無人水上艦の性能諸元を絞り込み信頼性研究を行い解決策を把握してからデジタルデザイン・建造契約(DD&C)の交付に向かいます」と海軍広報官ダニー・ヘルナンデス大佐がUSNI Newsに伝えてきた。「研究活動を通じ政府と産業界の間に強い協力関係が生まれ、艦艇性能諸元も洗練されます。また実現可能な技術性能をLUSVのDD&C競作で追及してきます」
今回の契約交付発表はLUSV調達方法を海軍が変更したのを受けたことに対応している。未検証技術の実現が早期すぎると議会が懸念していることが背景にある。
「LUSV検討は要求内容の完成を助け、導入可能で効果のある艦艇開発を円滑にし、性能要求内容の成熟化作業を継続させ、信頼性を向上させながら電気系統、機械系統で信頼性を引き上げ、コスト削減策の把握につながるので、導入を容易にしてくれるはずです」(ヘルナンデス大佐)
もともと海軍はLUSVでも従来通りの調達方法で対応のつもりだった。構想設計を数社に任せ、海軍の要求性能を決定してから詳細設計・建造契約を一社に公布する方法がこれまで行われてきた。
開発計画の見直し
これに対し議会がLUSVで同じ方法をとらないよう要求してきたため、2021年度予算要求ではLUSV関連の調達方法を見直し、LUSV概念設計での契約交付は本年度最終四半期に先送りされた。この遅れにより、海軍は議会の求めに応じた形にLUSVの予算要求を変更できたという。議会は垂直発射装備(VLS))を含む設計をしないよう求めている。
「新しい契約では概念設計(CD)で契約を数社に2020年度内に公布する。CDではLUSVの性能諸元を絞り込み、ここには垂直発射管(VLS)は含まれない」と2021年度予算要求文書に説明がある。
2021年度予算所ではLUSV試作型二隻を調達するとあり、二隻は戦略性能整備室(SCO)が作成したゴーストフリートのオーヴァーロード事業がもとになっている。SCO仕様の試験艦二隻はすでに供用中で来年にも海軍に移管される予定で、海軍は独自に自律運用技術を試験し知見を深めることが可能となる。
LUSVについて海軍は全長200から300フィート規模で一部あるいは全面的に自律運航可能な艦艇として想定している。
議会の反発
議会関係者と国防分析官が昨年に海軍があまりにも早く動きすぎていると無人艦艇整備で警告していた。その主張では海軍にはまだ関連技術で試験を完了していない分野があり、運航コンセプトも決まっていないとあった。これに対し海軍からは試験艦を導入してからテストを実施し、技術の理解を深めて将来の艦艇整備案に組み入れると反論があった。
海軍作成の2020年度予算案で説明があったLUSV案は直ちに批判の的となった。2020年度要求にはLUSV試作艦二隻をSCOのオーヴァーロード事業をもとに調達するとあり、並行してLUSVの設計案を数社に求めるとあった。構想ではLUSV試作艦を2021年度から2024年度まで毎年二隻調達するとある。2020年度予算要求書類によると海軍は研究開発予算から調達予算への切り替え時期を決めかねていた。
これに対し議会はこの方法論を批判し、調達リスクが高いと指摘した。
「当委員会はLUSV設計、技術開発、統合の各段階を並行実施しながらLUSVの運用構想で理解が不足したまま追加LUSVの調達リスクを放置する2020年度要求内容には懸念を示さざるを得ない」と上院軍事委員会が2020年度国防政策法案補足で主張。「また当委員会はLUSV運用方針が不明瞭なままであることにも懸念する。各国の無人水上艦艇について調査が不十分であり、武装あるいは今後武装するLUSVの法的位置も明確になっていない」
2020年度国防支出法案で海軍の試作艦2隻調達に道が開いたが、同時に概念設計ではVLSを含めないよう求められた。無人小型戦闘艦整備事業を統括するケイシー・モートン中将は海軍はVLS搭載のLUSV調達を2021年度から開始すると昨年11月発言している。
米海軍の無人水上艦整備のロードマップNAVSEA Image
今後の見通し
2021年度予算要求で判明した新戦略方針では海軍はLUSV初号艦を複数年度予算案件として購入するとある。
. 議会による2021年度国防政策法案の合議版が未公開のままだが、上下院ともにLUSV開発での監督強化をうたっている。下院軍事委員会は海軍が求めるオーヴァーロード事業の試作艦関連予算を削減したが、シーパワー兵力投射小委員会からは海軍から「技術成熟完了」の証明がない限りLUSV調達を海軍に認めないとの注文がついた。
他方で上院の法案では海軍に具体的な技術達成証明を求めている。例として発電機容量ならびに最短30日間運航が可能なエンジンを取り上げ、LUSVがマイルストンBに移行する前に必要としている。
海軍はくりかえし議会と対話を図り、無人装備の重要性への理解を求めている。
海軍の調達業務を統括するジェイムズ・ギューツ次官補は議会の懸念を認め、海軍は新型装備の取得と無人技術のテストの必要性で「バランス」をとる必要があると7月に述べた。
「無人装備の最大課題は技術ではない」とギューツは語っていた。
「まさしく作戦構想であり、指揮統制であり、投入構想である。また試験艦の実地運用があって初めて海軍第一線部隊も活用方法を理解できるはずだ。バランス感覚も必要だ。実証済みの原則、事業推進方法でもバランスが取れた形にする必要がある」■
この記事は以下を再構成したものです。▲なぜ、米議会筋は無人艦艇をここまで警戒するのか理解に苦しみます。▲人間の統制に反抗する「フランケンシュタイン」を恐れているのでしょうか。
6 Companies Awarded Contracts to Start Work on Large Unmanned Surface Vehicle
September 4, 2020 5:51 PM
米海軍は、あまりに多くの問題に直面している。
返信削除要求されている艦艇数を増やすことや、現有空母を維持するだけでも多くの費用と時間を必要とするから、海軍増強計画の破綻は現実になりそうだ。近年導入した新型艦はいずれも失敗作になるかもしれない。次期戦闘機や給油機、数々の事故の問題もある。これらのことは、海軍の信用を損ねることになるが、長期にわたり対テロ戦争、その後の対イラン、対北朝鮮の警戒等に暇なく駆り出されていたこと等、同情すべき点もある。
この記事のような無人艦の導入は、艦艇数増強問題の解決策であるように見えるが、小型艦や潜水艇ならまだしも利用価値はあると思われるが、大型艦は本当に必要なのか疑問と考える。議会が海軍案に疑問を持つのも当然かもしれない。
最大の問題は、対中露競合戦略に転換した後の将来に、どのように海上優位性を築くか、そのためにどのような装備が必要か明確なビジョンが描けないことだろう。対艦兵器の著しい進歩で、将来予測が難しいとはいえ、何が必要かは明らかになりつつある。
とはいえ、中国は、米艦隊の編成を真似した艦艇を著しく増強しているが、そうである限り米海軍並みになることは未だ無理で、また、米海軍と同じ弱点を持つことになるだろう。また、ロシアは国力低下で大艦隊を持てないのは明らかだ。つまり、幸いにも、まだ米海軍には時間があるということになる。
米海軍にとって今が一番苦しい時期に思える。