歴史に残る機体(28)マクダネル・ダグラスF-4
マクダネル・ダグラスF-4ファントムIIは伝説の域に入る機体だ。ヴィエトナム戦争を象徴する機体であり、第三世代ジェット戦闘機の典型となった同機は1960年代に供用開始し、5千機超が生産された大型超音速戦闘機だ。今日でも供用中であり、一部空軍では実戦部隊に配属されている。
ファントムにはヴィエトナム戦でエンジン推力にあぐらをかいた不器用な乱暴者で使う兵装も旧式だったとの定評がある。
これは公正ではない。
ファントムの基本欠陥は1970年までに是正され、最近もエイビオニクス、兵装面で現在の水準まで引き上げられている。近代化改修したファントムはトルコ、ギリシアの両空軍で供用中で、F-15と同程度の性能でありながら、はるかに安価に実現している。
実戦で洗礼を浴びる
1958年に登場したF-4は革命的な設計で数々の航空記録を樹立した。
空虚重量が30千ポンドで大型J79エンジン双発により優秀な推力を実現し、これだけの機体でもマッハ2、時速1,473マイルで飛行できた(できる)。
初期のファントムは18千ポンドの爆弾等を搭載でき、これは第二次大戦時のB-17の三倍に相当した。後席の兵装士官が高性能レーダーや兵装運用システムを担当してパイロットは操縦に専念できた。
さらに、F-4には地上運用型、空母運用型双方があり、米空軍、海軍、海兵隊で供用された。三軍共通機材の例はF-35までなかった。
ただし、軽量のMiG-17やMiG-21と北ヴィエトナムで空戦に臨むと、ファントムに被撃墜機が発生した。朝鮮戦争では米空軍は一機撃墜されるても敵機6機ないし10機を撃墜していたが、ヴィエトナム戦では2対1程度に縮小していた。(ファントム以外の米軍機全体での数字)
F-4の問題は機体に機関砲が搭載されていないことだった。空対空ミサイルに全面的に頼っていたためで、レーダー誘導方式のAIM-7スパロー、熱追尾式AIM-9サイドワインダー、旧式AIM-4ファルコンを搭載した。
初期のミサイル性能がひどいことに空軍は気づいていなかった。
検証したところ、ヴィエトナム時代のAIM-7では45パーセント、AIM-9では37パーセントしか発射に成功あるいはロックオンできず、退避行動をとると撃墜可能性はそれぞれ8パーセント、15パーセントに落ちると判明した。ファルコンに至ってはさらに悪く、その後供用を終了した。
北ヴィエトナムのMiG-21には機関砲、ミサイルがともに搭載されており、重量が大きいF-4に速力、機動性で勝った。米パイロットが至近距離のドッグファイト訓練は行ってなかったのは、空軍が空対空戦は長距離ミサイル攻撃になると想定してきたためだった。
さらにファントムのJ79エンジンは濃い黒煙を発し、機体サイズとあわせ空中で発見は容易で遠距離から標的になった。他方で交戦規則により米パイロットは未確認目標が視認距離外にあれば攻撃を禁じられていた。これでせっかくのミサイル性能も発揮できなくなった。
改良策
だが、F-4の問題点は解決されていった。空対空ミサイル技術は大幅に向上し、後期型のスパロー、サイドワインダーに反映された。F-4EではついにM161ヴァルカン機関砲が搭載された。.
それ以前は外部ガンポッドを搭載して対応するファントムがあったが、大きな振動が発生していた。
1972年、フィル・ハンドレー少佐のF-4がMiG-19を機関砲で撃墜したのが超音速域での銃撃による撃墜事例で唯一のものとなっている。
空軍はF-4E全機に主翼スラットを搭載し、操縦性を大幅に改良した。新型J79エンジンでは黒煙問題の解決を狙った。
対照的に米海軍は航空戦闘機動訓練の欠如が原因ととらえ、トップガン訓練を1968年に開始した。海軍パイロットはキルレシオで優秀な結果を残しており、7機を喪失したが40機を撃墜している。
空軍のファントム全体では107機を撃墜したが、33機を喪失している。海兵隊は3機撃墜したとする。地上砲火で三軍で474機のファントムを喪失したのはファントムに対地攻撃も担当させたためだ。
派生型が二種類生まれた。RF-4写真偵察機とワイルドウィーゼルで、後者は敵の地対空ミサイル防空体制の撃破を専門とした。米軍のファントム実戦投入は砂漠の嵐作戦が最後となり、1996年に用途廃止した。ペンタゴンは一部機材を無人標的機QF-4に改修した。
中東のファントム
ファントムは世界中で供用された。特にイスラエルではエジプト、シリアを相手に116機の撃墜記録を達成した。
1973年のヨムキッパー戦争(第四次中東戦争)ではエジプト空軍のMiG編隊がオフィール航空基地を急襲し、離陸できたのはファントム二機しかなかったが、7機の撃墜に成功した。.
イスラエルのファントムの第一の標的はアラブ側の地対空ミサイル陣地だった。SAMによりイスラエルはファントム36機を喪失している。
イスラエルのファントムで最後の奉公となったはレバノン戦で、新型F-15やF-16のエスコートを受けたファントム編隊は一日でベカー警告内のシリア軍SAM陣地30か所を全部撃破したが一機の喪失もなかった。
イランは革命前に米国より225機のF-4を受領し、イラン戦闘機部隊の中核となり9年にわたり続いたイラクとの戦争に投入した。イランのファントムはイラクMiGに善戦したほか、長距離攻撃も実施した。ただし、空対空ミサイルの成果については疑問の余地がある。
21世紀のファントム
ファントムをF-15イーグルと比較してみよう。
F-15の供用開始は1975年で第四世代戦闘機として今日まで近代空軍力の中心的存在だ。F-15は意図的にF-4とは別の路線の高機動性を誇る機体になっている。
レバノンでF-15、F-16が初の戦闘投入された1982年にイーグルはシリアの第三世代機80機超を撃墜しながら被撃墜機は皆無だった。
第四世代戦闘機の優秀性が実証されたのが湾岸戦争で、イラク戦闘機が撃墜に成功した第四世代戦闘機はF/A-18ホーネット一機に過ぎないが、第三世代機では33機を撃墜している。F-4は新しい環境に対応できるのだろうか。
簡単である。第四世代機で搭載したハードウェアと同じものを搭載すればよいのだ。
トルコ空軍、ギリシア空軍で供用中のファントムには新型パルスドップラーレーダーが搭載され、「ルックダウン、シュートダウン」攻撃がF-4で可能となった。従来は高高度飛行中はレーダーによる低空飛行中の機体探知は困難な仕事だった。レーダー波が地上に反射してクラッターが発生するためだ田。アクティブドップラーレーダーだと地表クラッターの影響を受けない。
近代改修型F-4では各種近代装備を運用でき、AIM-120C AMRAAM空対空ミサイル(射程65マイル)、AGM-65マーベリック精密誘導弾、スパロー後期型、サイドワインダーミサイルがそれぞれ搭載可能だ。
現代の戦闘航空機材はウェポン搭載手段にすぎず、こうした装備を運用できるF-4は第四世代機のF-15、Su-27と同様の攻撃任務をこなせる。
だが電子装備や計器類は陳腐化しているのではないか。必ずしもそうではない。たとえば、近代化改修型のF-4にはヘッズアップディスプレイ(HUDs)がつき、パイロットは視線を落として計器盤をチェックする必要がなくなった。
ドイツは改修型F-4Fを2013年まで運用し、将来のため機材を保管している。韓国にはF-4Eが71機があるが、改修は一部にとどまる。日本もF-4EJ改を同数保有し、パルスドップラーレーダーと対艦ミサイルを搭載する。イスラエルはファントム改装をいち早く1980年代に開始し、ファントム2000クルナス(ハンマー)と呼んだ。イスラエル企業はギリシアのピースイカルスファントム41機にANPG-65パルスドップラーレーダーを搭載し、AMRAAMミサイル運用を可能とした。
イスラエルはトルコにもターミネーター2020事業で協力しており、主翼にストレーカーを追加し操縦性能を向上させている。
同機改修では配線20キロメートル分を交換し重量1,600ポンドの軽量化に成功した。トルコ向け機材ではセンサー、電子装備も一新している。またぺイヴウェイ爆弾、HARM対レーダーミサイルやポパイミサイル(3千ポンド級、射程48マイル)の運用が可能だ。
ターミネーター各機は基本的に対地攻撃が任務だが悪評もある。クルド人組織PKKの戦闘員をトルコ国内、イラクで2015年から2016年にかけ爆撃した。RF-4偵察機がシリアで2012年に撃墜され、F-4三機が2015年に墜落しており、トルコ国内では「空飛ぶ棺」と揶揄されている。
イラン空軍はF-4D、Eの76機とRF-4の6機が作戦投入可能と2009年に述べていた。同国はロシア製中国製の空対地、対艦ミサイルの運用を可能とする改修を実施したようだ。ただし、中古品のAIM-7スパローを今も使っている。イランのF-14トムキャット同様にF-4でも部品入手は密輸に頼っている。
イランのファントムはイラク国内のイスラム国標的を2014年12月に空爆し、ペルシア湾上空で米軍機との追いかけっこをしている。
性能強化されたとはいえ改修版F-4は本当に第四世代機と同等といえるのか。21世紀でも供用中のファントムで空対空戦は一回も発生していないが、ギリシアのF-16と撃墜に至らないドッグファイトは発生している。
また中国のSu-27と2010年の演習で模擬空戦を行い、ネット上の情報ではゼロ対8機と優秀な成績だったという。
主翼スラットを追加したファントムがきつい旋回をこなし、180度方向展開をする様子を映像で見ると、F-15並みの機体操縦が実現しているが、F-4では旋回完了まで7-8秒かかっているのがわかる。F-15が操縦性では一歩上を行く。
だからと言って改修型F-4がその後登場した機体より優れた設計であるとの証明にならないが、第四世代機の機体重量と比べ相当大きな重量の機体の飛行制御が可能とわかる。
ファントムの1958年初飛行時、その60年後にも第一線で活躍している姿を想像できたものは皆無に近かったのではないか。■
この記事は以下を再構成したものです。
America's F-4 Phantom: Taking On the World's Best Fighters (At 60 Years Old)
March 5, 2018 Topic: Security Blog Brand: The Buzz Tags: F-4 PhantomMilitaryTechnologyWorldU.S.Air Force
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