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クアッドの戦略的意義を考える。NATOのアジア太平洋版ではないが、対中対応には冷戦時の考えが有効だ。


 

 

 

 

アッドは現時点では軍事同盟ではないものの、軍事外交手段により、

中国の領土主張や対外圧力へ対応できる。

 

インド太平洋地区の民主国家間の有志連合クアッドへ中国は不快感を隠そうとしない。「アジア版NATO」とか「ミニNATO」と呼び中国「封じ込め」に必死だというのだ。

 

中国がクアッドを北大西洋条約機構になぞらえるのは間違いとも言えない。クアッドのインド、オーストラリア、日本、米国は大西洋同盟に類似した行動を見せることがある。たとえば、この四か国の海軍部隊がアラビア海でマラバール演習を実施したところで、中国がインド洋進出を図っても協調して押し戻す姿勢を見せている。NATO加盟国の海軍部隊が共同行動でロシアの大西洋進出をけん制している。

 

だが、一つ違う点がある。クアッドは集団防衛条約にもとづく同盟ではなく、ゆるやかな集合にすぎない。NATOというより、第一次大戦前の英仏協商関係に近い。1904年に英仏両国はそれまでの植民地をめぐる対立を解消する一連の合意事項を取り交わした。両国はは共通脅威である帝政ドイツに対抗することとした。ウィルヘルムII皇帝は腹黒い外交手段を行使し既成秩序を破ろうとしていた。フランスの同盟国ロシアもその後加わり、「三国協商」に発展した。その結果、正式な同盟関係ではなく、連合として帝政ドイツ並びにその同盟国へ対決する1914年の第一次大戦につながった。戦前のヨーロッパの史実から現在の中国は心穏やかでいられないのだろう。圧倒的な戦力を整備すると対抗陣営は共同防衛体制を構築するという史実だ。

 

その結果、勝利をおさめるのはどちらか。

 

米国が1945年以来主導するNATO自体が異例の存在ともいえる。つなり、体制を粉砕した世界規模の戦闘の結果生まれた冷戦と呼ばれる戦略競合状況が長期化したことだ。第二次大戦の戦勝国は終戦後数カ月にして対立するようになった。鉄のカーテンがヨーロッパに広く降ろされ、米国はソ連拡張主義に対抗すべく非共産勢力の結集を目指した。

 

異例な点はこうだ。米軍は戦闘に疲弊した世界各地に展開し、平和の元で各国の復興を助けていた。同盟国が平時に米軍の駐留を認めたことは以前にはなかった。受入国やその国民には受け入れがたかった。米軍は征服者として進駐し、次の侵略を食い止める存在となった。こうした事実から冷戦時の同盟関係は形作られた。となると米国の封じ込め戦略は第二次大戦の産物だったことになる。

 

初代NATO事務局長イスメイ卿が同盟機構の存在意義を短くも正確に表現している。ロシア軍に侵攻させない、米軍は歓迎する、ドイツは抑える。米軍はすでに進駐しており、わざわざ歓迎される必要はなかった。このため各国政府も米軍の存在を要請するのが政治的に容易になった。ソ連を鉄のカーテンの向こうにとどめ、ドイツで軍国主義の再興を抑える。

 

米軍の存在が既成事実になったものの大幅な現状変更にはならなかった。あえて現状をかきまわそうとするより既存体制を守るほうが容易である。

 

類似した考え方がアジアにもあった。イスメイ卿の表現は米主導の各同盟関係の過去、現在、将来の評価に応用できる。これを使えばクアッドは長期にわたる同盟関係ではないことがわかる。米国はクアッドにおいて占領軍の役目ではない。敗戦により日本は米軍の占領下におかれた。日米安全保障同盟は二国間NATOでロシア、中国の侵攻を食い止めるのが主眼だ。

日本国内での米軍プレゼンスは相互に認め合う関係に進化している。日米の関係は互恵の同盟にまで変化しているのだ。

 

オーストラリアが米国に最も親密な友好国であることに疑問の余地はないが、同国が避けたいと考える危険につながりかねない米軍の長期駐留については慎重な姿勢だ。オーストラリア政府は米海兵隊急派部隊に北部ダーウィン港の利用を許し、現在ローテーション配備が続いている。とはいえ、同国での現状は冷戦時のヨーロッパや東アジアとは似てもにつかないものだ。

 

インドはどうか。全く違う。同国は冷戦時に非同盟主義を提唱し、米国とはとげしい関係となり、他方でソ連に親しさを感じつつ、他国との協調は一時的なものに過ぎないと考えてきた国だ。自主独立の気風がインドの戦略方針にも表れている。インドは自国をインド洋の無害覇権勢力とみなす。外部勢力による同盟機構への参加を良しとせず、自国内に外国軍が駐留するなど認められない。インドが戦略自立性を否定するのは極度の脅威が存在する場合に限られる。

 

クアッドはNATOではない。

 

クアッドは選択肢のひとつにすぎない。クアッド加盟国首脳が認めた場合の多国間作戦体制の基盤を敷くものだが、共同作戦への参加は任意である。マラバール演習のような機会を通じ各国の装備、手順、戦術、考え方に理解を深める。「相互運用」あるいは「互換性」も緊密な加盟国間で実現できる。平時だからこそ兵力の蓄積が可能だ。

 

では選択肢とは何か。ここでは中国の「封じ込め」概念が変化していることに留意すべきだ。封じ込めとは冷戦用語で、ジョージ・F・ケナンの有名なソ連体制の解明と共産体制の拡張志向への対応策の提示に源を発する。共産勢力を食い止めないとソ連等の各国に飲み込まれてしまうという恐れが背後にあった。

 

封じ込めとは政策であり戦略だった。政策としては現在の中国に適用できない。中国は巨大かつ野望にあふれ、強硬路線もとることがあるが、NATO結成時の1949年のソ連と異なる。他国政府を屈服させ共産化する意図は北京にないように見える。非共産陣営と経済でつながっており、これはソ連時代にはなかった現象だ。対中政策は別の形になる。

 

戦略としてみれば、特に軍事面さらに海軍戦略では、封じ込めはいかにも適した表現である。東アジアでこれが最も鮮明で、米軍部隊は今や島しょ部分での戦闘展開に備え変貌をとげようとしており、中国海軍空軍が海空で優勢確保するのを妨げようとしている。このアプローチは冷戦時の考え方そのものであり、当時の米国務長官ディーン・アチソンが第一列島線を米国の「太平洋防御の境界線」と呼んでいた。

 

同じアプローチはインド洋にもあてはまる。ただし、集中度は低く、視覚的にも低姿勢となる。インド洋港湾施設へのアクセスを中国に与えないことで中国の軍事進出を打射止めることが可能で、この実施の価値がある。クアッド加盟国は封じ込めの表現をそのまま使うことに慎重だが、それは理解できる。クアッドの存在意義を説明するにあたり、用語の正確な使用が必要だ。対中政策の説明にはリスクがつきものだ。ただしあえて軍事面でリスクをとるべきだ。

 

冷戦時の戦略を見直そう。しかも率直に。イスメイ卿は微笑むはずだ。■

 

Yes, the Quad Should Push Back on Chinese Aggression (Here’s How)

March 31, 2021  Topic: Great Power Competition  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: ChinaXi JinpingStrategyMilitaryNational Security

by James Holmes

 

James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College. His books have been named to the U.S. Navy, Marine Corps, and Indo-Pacific Command Professional Reading Lists. The views voiced here are his alone. This first appeared earlier and is being reposted due to reader interest.

Image: Reuters

 

コメント

  1. ぼたんのちから2021年4月2日 9:29

    QUADは、Holmes先生の言う通りアジア版NATOではない。ただし、今のところは。
    中国がQUADを警戒し、盛んに吠えているのは、将来、実質的な中国包囲網になる可能性があるからだが、そのように進展するのは中国の対外姿勢の攻撃性の深化の程度によるだろう。
    中国、正確には習は、外交政策を誤り続けている。中印紛争や対豪貿易、尖閣問題の嫌がらせは、CCP/PLAの危険性を露わにし、日豪印をQUADに強く押し出す結果になった。現在の台湾やフィリピンに対する軍事的挑発も、紛争を起こしかねない危険な行為である。また、中国は一国二制度下の香港を壊し、怒るイギリスはQUADに関与し始めている。
    中国がこのような行為を続ける限り、QUADはより重要になり、相互安全保障まで深化し、NATOのような機能を持つようになるだろう。また、台湾や東南アジアの国々の参加まで見込まれるかもしれない。
    さらに、QUADは、政治・外交・軍事的性格を持つが、経済面で補完するものとしてCPTPPが対中包囲網としての性格を強めるかもしれない。これで中国は、益々身動きが取れなくなるだろう。
    QUADの現状は記事の通りであるにしても、最大の問題は米国かもしれない。バイデン政権の外交はふらつき、人権問題にのめりこみ、経済・軍事面での対中姿勢はトランプ政権時より停滞、あるいは後退しているように見える。人権問題は分かりやすくCCPの実像を示すが、この問題で互いに叫びあっている間に、中国は息をついているようにも見える。それならば米国外交の人権問題は、実は人権小児病でなかろうか。

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